外伝その111『行間〜あ号作戦〜』


――1945年。連合軍は急激に装備・戦略をそれまでの埋め合わせをするかのように、急速に戦後レベルにまで高めていた。それと比例するように、ウィッチ閥の衰退が起こっていた。ウィッチは元々、怪異に特化して育っていた兵科であり、スリーレイブンズのように、常識はずれな力を持つのは、ほんの一握りの者達。他は『効率よく人を殺すために』発達した兵器たちに押されていった。空戦ウィッチは空戦魔導師にあらゆる点で劣り、なのはやフェイトのように、戦略レベルに影響を及ぼすウィッチはスリーレイブンズのみ。それもウィッチとしての力だけで達成してはいない。それがマイナス点となり、戦後の兵器群に押され、居場所を無くしつつあった。元々、空戦ウィッチは戦闘機以上の戦術柔軟性と小回りの良さ、防御力が売りだったが、ジェット戦闘機の速度と火力、打ちっぱなし能力などがその長所を帳消しにしていった。これは日本などが未来の兵器を続々と持ち込んだがための軍事的革命であった。当時に於けるウィッチ世界本来の技術レベルはジェットエンジンが軍事利用され始めた頃のもので、黒江たちのような例外を除けば、ジェット戦闘機を制空戦闘に使うなど考えにない。そのため、ジェット戦闘機同士の戦闘になれば、殆どの軍隊は無力に等しく、辛うじて扶桑が対等に戦えている程度だった――


――501 基地――


「何しているの?宮藤さん」

「あ、竹井さん。上からの要請で、次の戦でティターンズと一戦交えるのは確実だから、面倒くさそうな兵器のリストアップをしているんです」

ティターンズが今後、欧州に海軍を出してくるのは確実だが、パナマを失った以上、モンタナの改装やリバティーの建艦に血眼になって取り掛かるだろうが、これについては年単位の話なので、問題はない。問題は、パナマでの損失すら容易に回復可能なリベリオンの生産力だ。それでいて、ラ級を二隻同時に建艦できる余力を残している。戦闘機だけで500機、空母を15隻動員できる力は、他国の全てにはない。一回の海戦に大勝利しても、数ヶ月で損害を埋めてしまうほどの回復力。そのため、一戦で最低、600機落とさないと。半年間も動かないダメージは与えられないという試算に、軍上層部は顔を青くした。更に、扶桑軍の必勝法とされた『アウトレンジ戦法』が机上の空論と論破されてしまった以上、とり得る最善法は、当時の防空システムが処理出来ない多数機での航空攻撃と、砲戦を同時進行させる23世紀流の戦法である。これは如何な多数機であっても、当時世界最高の防空システムを持つリベリオン艦隊に航空攻撃を仕掛けるのは容易ではない事が判明したからで、乱戦に持ち込んでの撃破(損害は度外視)が求められている事との兼ね合いだ。この次期作戦は日本海軍の雪辱を果たすという意味合いから『あ号作戦』と呼称されることとなったのだ。

「これは?」

「敵のパナマックス超えの戦艦の諸元です。未来世界での設計データを取り寄せたんです」

「なぜ設計なの?」

「未来世界じゃ造られなかったからですよ。仕様は決まってたけど、空母が優先されて造られなかった。所謂、未完成兵器なんですよ。信濃だって、未来世界じゃ空母だったんですから」

「そうか、向こうだと、戦艦の存在意義自体がなくなっていたのね」

「はい。当時は空母のほうが安上がりで、攻撃力もありましたから」

空母は原子力空母ができた時代は運用経費・維持費が高額だが、この時代に於いては、飛行機の換えが効くため、運用費用は後の世よりも遥かに安価であった。当時に兵器として袋小路に入り、進化の打ち止めと言える域になっていた戦艦より扱いやすい兵器だった空母だが、高額化はジェット戦闘機の普及と空母の大型化が顕著になるにつれて進み、400m級空母ともなれば、一隻で大和型戦艦二隻分の維持費がかかる。陸軍師団が三個は食わせられるだけの金がいるため、陸軍師団の削減と旧式空母の処分は必至だ。旧式戦艦は大和型戦艦以上への更新で処分はできたが、問題は戦艦よりも空母と通常航空隊の増強を望む勢力だ。

「黒江さんが言ってますけど、今、ウチが15隻作った雲龍型。ありゃ、博物館船にするつもりの一部を覗いたら、消耗品扱いで使い潰すしか、使い道ないですよ。当時の中型なんて、今の時点じゃ軽空母ですよ」

「ミッドウェイ級やキティホークが大きすぎるのよ。本当ならミッドウェイが『超大型空母』なのよ?この時代なら」

「ええ。なんで雲龍型を15隻も作ったかなー。ウィッチが使うんなら、多くて4隻でいい。空母不足に喘いでた末期の日本海軍でないのにさ」

「宮藤さん、サバサバとしてきたわね……」

「大洗の生徒会長が前世だったもんで」

「あなた、あの子に転生していたの!?」

「一回ですけどね」

芳佳はこれまでと違い、角谷杏であった頃のサバサバとした面を見せるようになっており、芳佳として持ってなかったはずの知識を竹井に披露できるまでになっていた。角谷杏と宮藤芳佳の境界線が曖昧になりつつある証拠だった。




――雲龍型は、ジェット戦闘機の時代には攻撃空母としては無用の長物となる大きさで、ヘリ空母か対潜空母にするべき大きさだ。翔鶴や大鳳が量産できる国力があるのなら、建艦の意義が見いだせない空母となる。もっとも、艦政本部に言わせれば、『翔鶴や大鳳は工期が長くて、戦時量産には向かないから、飛龍の図面を小改良したまでである』であるが、大西瀧治郎が実際に『単純な構造の空母を新規設計しろ』と言っていたのが艦政本部の不幸であり、雲龍型はジェット戦闘機化の始まりという時代の節目に翻弄され、翌年のジェット戦闘機の配備開始と同時に、ウィッチ用強襲揚陸艦、防空空母(コアファイターの搭載など)に変更された艦、航空輸送艦とされたり、対潜空母に転向するなど、多種多様な道を辿り、呉で失われた『天城』と他一隻を除いた全艦は史実よりは幸福な道、『軍艦としての艦歴を1950年代に終え、最も武功を立てた葛城は記念艦になった』のだった――

「翔鶴と大鳳も、なぜ改装されたの?」

「ジェット戦闘機の運用にゃ耐熱甲板が必要だからですよ。斜め飛行甲板とカタパルトがジェット空母にゃ必須ですから。信濃が戦艦な以上、直近の二艦級を無理にでもジェット戦闘機空母にしないといかんですから。それにゃウィッチ運用装備は邪魔なんですよ。かさばる割には、エレベーター一機で数人くらいしか同時に発艦出来ないですし。空母ウィッチには悪いけど、完全装備のジェット戦闘機を落とせる力は今の一般ウィッチにはないですし」



――当時は空母にはウィッチが必ずおり、そのための運用装備がついていた。彼らはそれを取っ払い、純粋な空母としての能力向上のため、彼女らを空母から追い出した。扶桑の空母はウィッチ発進促進のため、魔術処理が施されていたのだが、空母の近代化の際に、それらを考慮しないでアングルド・デッキとカタパルトを持つ甲板に取っ替えたため、問題が発生した。ウィッチの発進が、却って困難になったのだ。着艦はどうにでもなるが、発艦が困難になったのは由々しき事態だが、ジェット戦闘機の運用前提の改装であるため、ウィッチの発艦問題は余っている雲龍型を転用することで急場をしのぐことになった。元々、ウィッチは少数精鋭の兵科で、空母で20人近くの運用をする事すら珍しいので、同時発艦数は度外視されている。部隊定数も、ウィッチ一人当たりに10機の護衛戦闘機だったため、4人もいれば、正規空母でもカツカツの編成である。ウィッチを複数運用した例は、扶桑海事変とリバウ攻防戦だけだ。黒江はそれを憂慮し、戦闘機乗りの資格を取ったが、それはこのあたりの問題もあった――


――例えば、空母天城(赤城型)はレシプロ機なら、烈風や彗星でも60機はを積めるため、ウィッチが独占して使用するにはもったいない。黒江も『ウィッチ専用艦なら、雲龍型でいいだろ』と公言するのにはこのような根拠があった。まず、雲龍型は飛龍の少改造の設計なため、ジェット戦闘機には艦体が小さすぎる事(21世紀のヘリコプター護衛艦のいずもより小さい)、次に、大戦後期の大型艦上機の『烈風』、爆撃機の『彗星』、艦攻の『流星』の三機種を同時発艦させられる数が少なすぎる、そもそも戦時量産型なので、将来の発展性に乏しいの3つだ。雲龍型がどの道、短命なのはジェット戦闘機が艦上機になる時代を迎え1935年設計の飛龍の小改良にすぎない設計そのものの陳腐化が原因だった――


「相手の空母はエセックスですからね。翔鶴より大型で艦載数も上、それが今の時点で17隻くらい。未成艦が完成した場合は30隻近くですよ。雲龍型は見るべきものはないんですよねぇ」

「貴方、随分詳しいわね……」

「21世紀以降じゃ、こんな情報、子どものおこづかいでも買えちゃう本に載ってますよ。今の時点の軍事機密も、未来から見れば、過去の伝説ですからね。むしろ、竹井さんほどの人でも、詳しくないのは問題ですよ?」

「堪えるわねぇ。兵学校は一応出てはいるけど、戦時カリキュラムだったから……。本当なら、これでも美緒よりはマシよ?」

「前史じゃ黒江さんに呆れられるの多かったですからね、坂本さん。今回は記憶があるから、空母運用の専門家になってますけど。空母艦長の経験もあるし」

「それ、いつのこと?」

「ベトナムの頃だから、20年は先だったような。坂本さん、引退した後は一般兵科に移りましたから」

「あの子らしいわね。黒江さんは?」

「元からパイロットと兼務してましたから、将官になっても飛んでました。今回もそのつもりですね。黒江さんが先駆者ですね、パイロットと兼務してたのは。元から機械関係は詳しかったから、すぐに操作法を覚えて、MSやスーパーロボットまで乗ってるんですから」

「凄いわね。昔から思ってたけど、プライベートでもバイクを乗り回してるんでしょ?実は今回、になるのかしら?新人だった頃ね、こんな事があったの」

それは黒江が扶桑海で二度目のやり直しをしている最中での事。若本と喧嘩し、基地を飛び出した竹井。基地から数キロ先の草むらで落ち込んでいると、陸王に乗った黒江が見つけ、自分を基地まで送り届けてくれ(その時は旧64の結成前)、慰めてくれた。喧嘩の仲裁もしてくれた。そのエピソードを話す。11歳当時の竹井にとって、当時の時点で16歳の黒江は大人に見えたものだが、その黒江が505壊滅のショックで精神崩壊を起こし、今の精神はその後に再構築されて出来上がったものと言うのは、現在、グランウィッチ候補ではあるが、黒江との接点が薄いため、それに至っていない竹井にはショックであった。そのため、黒江がその状態で二度もやり直しをしているのも衝撃的だった。その再構築された精神は坂本曰く、『遙か以前になったが、あいつが持っていた以前の人格よりも遥かに付き合いやすくて良い』との事で、坂本は現在の黒江こそ『親友』であると明言している。どの道、黒江は優しい性格なのは同じだが、以前の大人びた人格より、現在の子供っぽさのある人格のほうが遥かに気安く接せるためか、現在の人格を好いているのがわかる。三人は、竹井は『遅れてるだけだ』といい、竹井は近々、覚醒すると見込んでいるようだ。

「坂本さんが言ってました。元々の人格はとっつきにくくかったから、今の人格のほうが好きだって。それは私も同じです。今の黒江さんは可愛いですから」

「か、可愛い……」

黒江は元々、大人びた容姿であるため、竹井には『大人』のイメージが強いらしく、転生しているグランウィッチの持つ見方に戸惑っていた。坂本も芳佳も『スリーレイブンズ』としての黒江の人格を好いている。当人の素は現在の性格であるという事実もあるため、今の姿こそが黒江本来の姿であると言える。

「そりゃ悪いことしたな、竹井」

「あ、お帰りなさい。黒江さん」

「おう。連邦軍の駆逐艦に送ってもらったぜ」

「ど、どうしたんですか、その姿」

「別人の姿と力を借りてるんだよ。私は有名人だから、本当の姿だと隠密行動ができないし、普段の時の行動も支障が出るしな」

黒江は竹井にそう見られていた事に苦笑混じりな顔を見せ、基地に帰ってきた。変身しているが、纏う雰囲気でわかるため、芳佳は普通に応対している。竹井向けに説明する黒江。そのいたずらっ子的雰囲気は、竹井が初めて、デジャヴ(覚醒の兆候)を覚えるきっかけだった。

――実際、彼女は人生のやり直しを繰り返す内に、国内で最も知られた有名ウィッチの一人になったので、普段の姿では、扶桑国内での行動にさえ、色々と支障をきたすこととなった。その兼ね合いで、シンフォギア世界で得た『月詠調の姿と声、その能力』を活用するようになり、竹井の前にも、シュルシャガナを纏った調の姿で現れた。調との違いは、この状態でも背丈が160cm以上で、本来の体格(173cm)よりは小柄だが、調当人より10cm近くも大柄である事だけだ。

「そのパワードスーツのようなのが、美緒の言っていた?」

「そうだ。最も、聖衣あるから、普段着と変わらない感覚だけどな。伝説上の武器とかの欠片をベースに、21世紀の科学者が力を再構築した現在版の聖衣に近いものだ。普段使いには丁度いい。私が本気出したら街の一個や二個、パンチや手刀で消しちまうしな」

「リミッターのような感覚なんですか?」

「平たく言えばな。ツインテールを包んでる装甲から小型鋸を飛ばせるから、牽制に使える。こいつはシュメール神話の鋸をベースにしてるからな」

「なるほど…」

「ん?モンタナの図面なんか机に引いて、何してたんだよ、宮藤?」

「ああ、リストアップですよ。海軍のおっちゃんたちに頼まれて」

「一隻はラ級になるし、このスペックが宛になんのは、最低でも二番艦からだぜ。それでも、この当時としちゃ最有力だけど。確か最厚部は大和に匹敵する厚さだ」

「それでどうして、16インチのままなんですか?」

「そっか、竹井。お前は知らねーか。モンタナの計画策定の段階でもバレてなかったんだよ、大和が18インチ砲積んでたの。バレたの、扶桑海の戦後処理が一段落して、全部の発注が終わった段階の時のプロパガンダでだよ。噂は流れてたけど、キング長官とかが合理主義の観点から信じなかったとかで」

「リベリオンは平均性重視で、一点の能力を突出させた兵器を嫌うというけど、大和のあの砲見ても?」

「新式41cm三連装砲の公式発表を鵜呑みにしたんだよ、キングのジイさんは」

大和の正確なスペックが今回の歴史において、バレたのはモンタナの一番艦が竣工した1942年頃の事。大和がリバウ撤退作戦に使われ、その火力を存分に見せつけた。その結果、大和が18インチ砲艦であると判明し、リベリオン海軍をパニックに陥れた。リベリオン海軍は分裂前、大和のスペックが判明したのを受けて、モンタナの主砲を18インチ連装砲に換装した強化プランを俎上に載せ始めていた。それはやがて本国側で『改モンタナ』、『超モンタナ』として具現化してゆく事になる。また、扶桑もヒンデンブルクやフリードリヒ・デア・グロッセとの交戦の戦訓により、攻撃力増強を進め、播磨型では51cm砲を採用している。扶桑は攻撃力を重視する傾向をミッド動乱で強め、播磨以後の新造戦艦は20インチ砲を標準としている。

「うちの海軍はミッド動乱で苦しんだから、播磨以降は20インチが標準だろ。三笠型を例外にしても、火力はウチのほうが上だが、かなり頑丈だ。アイオワのほうが楽に倒せる」

「なぜですか?」

「ありゃ実質は巡洋戦艦で、自分の砲に耐えられないんだよ。いくらダメコンに優れてると言っても、当たりどころによっては、数発で破壊できる。速度はカタログスペックでの神話だしな」

「速度性能は目安と?」

「ああ。近代化すると、どうしても重くなるから、換装しないと速度が落ちるんだ。確か、90年代の時点だと、速度は30ノットが過負荷なくらいに落ち込んでた。それより状態が良いこの時点だと、せいぜい32を過負荷で出せる程度だろう」

近代化で重くなったアイオワは巡洋戦艦でしかなく、艦隊決戦用の究極を極めた大和型ファミリーの敵ではない。それは21世紀での最強戦艦論争を終わらせた要因でもあるが、ティターンズにアメリカのネオコン勢力が援助しているとの噂もある。

「問題は、近代化がどの程度にもよる。アメリカのネオコンの連中がバレない程度に援助してるって噂も来てるから、1980年代の頃と同等程度にはなってるだろう。そうだったらロマーニャの未改修艦じゃダメだ。相手にもならん」

「それくらいの戦力差が?」

「誘導ミサイルを積んだのは確実だ。欠陥の水雷防御しかないローマやリットリオじゃ、数発で轟沈だ」

黒江はリットリオやローマをまったく宛にしておらず、誘導ミサイルで沈められるとまで言い切る。ローマは史実でフリッツXを食らって轟沈しており、打ち合いに持ち込む以前の問題だとも言う。リットリオ級はそもそも、地中海世界の覇者になるための軍艦で、太平洋で雌雄を決するための軍艦とは比較にならない。更に純粋な第二次大戦型戦艦では、戦後装備の軍艦には勝てない。大和などが電探やミサイルなどを23世紀の水準で積んだのも、そのためである。対ミサイルなどへの電子戦能力が必要だからだ。

「どうしてそうと?」

「フリッツXでローマがボカチンしてる記録があるからだ。それに、向こうには優れたレーダーがある。この時代のそれより遥かに良いのが。それに立ち向かうにゃ、それと同等がそれ以上の能力の電子戦能力が必要だ。下手すると、タラント空襲されるから、ロマーニャ軍は出せん。最低、ブリタニア主力の近代化改修が完了するまではな」

「近代化?」

「ああ。旧式艦がやってたあれだよ。あれを21世紀以降の技術レベルでやるんだよ。そうなると、今の雷撃機や爆撃機じゃ攻撃すら出来なくなる。それを敵味方共にやろうとしてんのさ。砲撃戦にゃあまり関係ない要素だけどな」

「確かに。飛行機対策は砲撃にはあまり関係ないですからね」

「レーダー射撃で多少は命中率が上がる程度だしな。大口径砲を20キロで撃ち合うから、艦隊決戦は確率論がかなり入るが、21世紀の連中は戦を知らんしな」

「何故です?」

「日本の場合になるが、平和が70年も続いたんで、認識が化石になってる上、軍事への一般常識が日露戦争の頃より悪化してるんだ。自衛隊員じゃない限り、映画とか小説の中でしか戦争を知らん。後学の知識でモノを言うが、当時の事情は考えん。だから、戦艦が大艦巨砲に突き進んだ理由も、本当にゃ理解しとらん」

黒江は3つの時代を見てきたため、21世紀日本の軍事への一般常識の欠如ぶりに呆れ返っている。それは牧野茂造船少佐などの大和型戦艦の設計陣の『嘆き』ぶりを知ったからでもあった。そして、大和が宇宙戦艦ヤマトと生まれ変わった後の戦いを知ったからか、大艦巨砲主義に理解を示す。

「モンタナと大和は互角だろうが、火力で勝つ。戦艦の戦に電子戦の能力は関係ない。ステゴロで殴り合うようなもんだ。空母みたいに、艦載機の能力が戦を左右するわけじゃないからな」

「次の次は艦隊決戦になるからな。モンタナ級はまず要注意だ。空母は艦載機さえ落とせば無力になるからな」

――そこでに警報が鳴り響く。放送で『マッハの超高速で基地に特攻を仕掛けた怪異が近づいており、退避を呼びかける。だが、黒江のもとにフェイトから連絡が入る。

『彼が動いてくれました!六神がそちらに向かってます!』

『六神、六神合体ゴッドマーズが来てくれたんだな!?よっしゃあ!これで逃げる必要が無くなったぜ!』

「六神合体ゴッドマーズ!?」

「次元世界でも五本の指に入る無敵の合体型スーパーロボットだ!逃げる必要はないぜ。30秒でケリがつく」

――黒江はフェイトからの連絡に安堵する。全次元世界でも五本の指に入る無敵のスーパーロボットが動いてくれたのだと。医務室では、のび太がそのことをミーナに伝えていた。智子と赤松もそれを補足する。

「全次元世界でも五本の指に入るスーパーロボット!?」

「地球を一発で粉々にできるエネルギーで動いて、神に準じる力を持つ存在でも倒せないほどのスーパーロボットです。だから寝てて大丈夫ですよ」

「そのスーパーロボットの名前は?」

のび太は言った。次元世界でも五本の指に入る戦闘能力を誇り、神の名を冠するスーパーロボットの名を。そして高次の存在すら倒したその機神の名を。

「六神合体ゴッドマーズ。僕たちはそう呼んでいます」

「六神合体ゴッドマーズ……」

――警報を聞き、その使命感と自己犠牲精神から、迎撃に出ようとしたリーネ(外にいた)の頭上を六体の巨大ロボットが飛んで行く。ややあって、叫び声が辺りに木霊する。それは機神が戦闘に入るための合図でもあった。――

『六神合体――ッ!!』

六機のロボが一つに合体し、一機のスーパーロボットとなってていく。そして、合体が完了し、反陽子エネルギーの余剰エネルギーが稲妻のように辺りに散りながら、その機神はその姿を表した。六神合体ゴッドマーズ。無敵のスーパーロボットを体現した存在。ゴッドマーズの登場は、グランウィッチらを大喜びさせ、連邦軍も安堵する。ゴッドマーズが来たら、おおよそ30秒でケリがつくからだ。手順は簡単。大パワーのパンチで怪異を吹き飛ばし、臍にあたる刻印のGの部分からG字のビームを発射して敵に刻印を刻む『ゴッドファイヤー』で装甲を貫通して動きを止め……。

『マァァズフラァァシュ!!』

ゴッドマーズの腹部の刻印のMの部分から現れる主武器の剣。先端がM字状になっていたりするが、斬れ味はまさしく『聖剣レベル』。出身世界では投擲で突き刺し、ズール皇帝にトドメを刺している。マーズフラッシュを振りかざしたゴッドマーズは決め技に入る。


『ファイナルゴッドマ―――ズッ!』

ゴッドマーズ最強の一撃『ファイナルゴッドマーズ』。それは因果律をも操るほど、勝利を約束されし一撃で、エクスカリバーすらも上回る因果律操作力を誇る。敵メカを一刀両断する必殺剣技と言え、モーションは振りかぶり、そこから唐竹割りを繰り出す、横薙ぎで斬り裂くなどのバリエーションがあるが、技が一撃必殺なので、バリエーションはそれほど多くはない。リーネ、サーニャ、下原の三人が見ている前で、ゴッドマーズはファイナルゴッドマーズを繰り出し、怪異に再生すらさせない速さで一刀両断し、粉微塵に屠った。

「あのロボット……味方なんですか……」

「ええ。六神合体ゴッドマーズ……。スーパーロボットの中でも五本の指に入る強力な機体らしいわ」

「六神合体ゴッドマーズ……。通りで先輩方が動かなかったはずだ……。しかも30秒で落としてますよ…」

「強すぎる……。これがこのロボットの……!?」

リーネは、ゴッドマーズのあまりの強さに恐怖を感じる。怪異も抵抗したはずだが、傷一つついておらず、逆に一刀両断する圧倒的な強さ。黒江達が大喜びし、当てにするその強さに『恐怖』を感ずるあたりは、リーネの使命感が強く、また、スーパーロボットに対し、懐疑心と恐怖がある証拠だった。これがリーネと芳佳とに生じた『距離』であり、芳佳が感じる寂しさの要因であった。ゴッドマーズを見るリーネの目はそんな憂いを含んでおり、下原とサーニャが、ただただ驚愕していただけに対し、リーネの眼差しは、超科学兵器に自分達の役割や居場所を奪われる恐怖に囚われる現役世代ウィッチの恐怖の象徴のようだった。



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