外伝その153『Dead or alive3』
――ドラえもんも『手こずるぞー』と溜息である、立花響のガンニグールへの重依存。味方にも敬遠されるのは、そ第三者であるドラえもんでさえ、『手こずるぞー』とげんなり気味なほどであるのが原因だった――
「ガイちゃんのエアと、あたしの持ってきたストライクカノンでガングニールぶち壊してみる?」
「ガイちゃんに連絡取ってみよう」
ガイちゃん・ザ・グレートと自分の全力でガンニグールを一回壊し、響の目を覚まさせようと画策するなのは。響はイグナイトモジュールで抵抗してくるだろうが、ガイちゃんは調と黒江よりも威力があるクリムゾンスマッシュを撃てる。555で言うところのブラスタークリムゾンスマッシュだ。
「あ、ガイちゃん?あたしだけど、ちょっと手伝ってもらえるかな?」
「あ、もしかして響って子の事?いいよー」
ガイちゃんは黒江の友人であるので、事の詳細をすぐに理解し、なのは達のもとに数秒で駆けつける。Gウイングで急いだらしい。
「翼の最大パワーでぶっ飛んできたよー。要は響って子のガングニールへの重依存を断ち切らせるための荒療治ってわけじゃん?」
「うん。ガングニールと言っても、今、あの子が使ってるのはあの子が最初に得たガンニグールじゃない。そこも理解させないと」
「だからって、ヴィータのウォーハンマーを借りてくる?」
「綾香さんが言ってたけど、この先面倒な事になるの目に見えてるから、一回壊したほうがいい。あたしらの能力なら、原子単位ですぐに代わりを作れるしね。あ、これは特務六課にストックしてある同型機を借りただけだから」
「なるほど〜、来たよ」
「あー、マリア。綾香さんからのご達しだ。響のことなんだけど、ガングニールへの依存が手がつけられないくらいになってるから、一回、ぶち壊しておこうと思って」
「なっ!?ち、ちょっと!?いきなり強引すぎない!?」
「すまないけど、あーやが愚痴ってたんでね。その子のガンニグールへの依存は危ない領域なのは知ってるな?荒療治をさせてもらうよ」
「なんですかいきなり!?どうしてですか!?」
「お前、天羽奏さんからガングニールを受け継いだとか言ったろう?それに依存してんから、マリアが一時的に使った時、凄い拒否反応見せたんだろー?」
「あ、あの時はギアが纏えなくて……。で、でも、このガングニールの力は!!」
「今持ってるのは、マリアから譲渡された個体だろ?ガングニールとは、どの程度のものか思い知ってもらおう、限界を味わう事になるが、現実を見てもらうよ、響」
ガイちゃんは黒江の友人代表として、わざと響を煽っていく。ガングニールはグンニグルの変異体である。ロンギヌスの槍としても有名なのがシンフォギア世界でのガングニールだが、他世界ではそれらは別の槍であるので、それぞれの持つ神殺しの属性が相殺され、効果は無きに等しい。それはアストルフォが既に解説しているが、響はガンニグールの絶対性に依存しているので、それを信じていない。いや、心理的に耳に入らないか、心理的に信じたくないのだろう。
「アストルフォから教えてもらったでしょ?ここはお前がいる世界とは全く別の位相の世界。グングニルはグングニル。それ以外の何物でもないし、十字教のあの人の死を確かめるのに使われたのはあくまでロンギヌスの槍。ガングニールじゃない」
なのはも煽る。ガングニールの絶対性を強く否定する体の言葉を並べ立てて。グングニルはあくまで北欧神話のオーディーンが使った神槍。神殺しの逸話はあるが、ロンギヌスほど印象づけられてはいない。それが多くの世界での存在価値である。
「さーて、これ以上の話はいいな。響、お前に意地があるんなら、このあたしに見せてみろ。このガイキング・ザ・グレートに」
ミラクルドリルランスを腕に持ち、戦闘態勢に入るガイちゃん。強大な炎のオーラを纏い、強大さを目に見えてアピールする。ザ・グレート状態であると、トリプルガイキング時の実に40倍のパワーを発揮できるが、前史では危うく殺されかけた事もある。その際に、ガイちゃんはかの英雄王に対面し、エアの使用権を黒江に次いで得たのだ。
「貴方達がそのつもりならっ!」
響はガングニールを守ろうと、二人に立ち向かう。ギアは解いていなかったので、そのまま応戦し、篭手のギミックである推進器を全開にし、ガイちゃんに拳をぶつける。が、ガイちゃんは指一本で止めてみせる。
「なるほどね。これがお前のパンチか。真っ直ぐだけど、あーやが言っただろ?相手の技量をよく見定めてから攻撃しろって」
ガイちゃんは響の拳を受け止め、そこから自身の拳をぶつける。炎の力を持つ自分の鉄拳。
『ギガパンチャー・グラインド!!』
所謂、ロケットパンチ。通常時のカウンターパンチの二段階強化型の技だ。響の脇腹にガイちゃん・ザ・グレートの手袋がターボスマッシャーパンチに勝るとも劣らない威力で撃ち出され、吹き飛ばす。
『ボルトォォパラァイザー!!!』
両角から発せられる電撃。威力はグレートマジンガーのサンダーブレークやグレンダイザーのスペースサンダー以上。これだけでも、連邦軍のジム系MSの大半は電子回路を焼き切られる。響はそのボルトパライザーを耐えきり、足のパワージャッジで空中で姿勢を制御し、反撃に出る。この時点で、聖遺物と融合していた時の名残りを多分に残している事をガイちゃんに感じさせる。
「ち、ちょっと貴方!!立花響の脳味噌を沸騰させる気!?」
外野でマリアがガイちゃんに言う。黒江のサンダーブレークを食らった身だからだ。
「お前だって、あーやのサンダーブレーク食らって生きてんから大丈夫っしょ」
「そ、そういう問題じゃ無くて……」
響は中国拳法の手解きを、DVDの見よう見真似で拳法を身に着けた風鳴弦十郎から受け、徒手空拳で戦えるまでに短期間で成長しているが、黒江やガイちゃんは本式の格闘術の数々を数多のヒーロー達から習っていた。その効果もあり、響は自分の拳を受け流せる技能がガイちゃんにあるのを理解した。
「よっ!」
ガイちゃんを、自分と似たようなタイプと見ていた響だが、ガイちゃんはここで赤心少林拳・梅花の型を使い、響のエネルギーを凝縮した拳を受け流す。赤心少林拳の型もきちんと決めて。
「赤心少林拳・梅花の型……!仮面ライダースーパー1、いや、沖一也さんの受け売りだけど、お前に貫き通したい正義があるように、こっちにも譲れない矜持ってのがあるんでね。『守りたいという気持ちは暴虐の力になど屈しない』って、一也さんの教えさ」
赤心少林拳の心得を持つ事を示すガイちゃん。構えも赤心少林拳のそれになる。拳法家には相応の礼儀を以て相対すべきと考えたのだろう。
「力に溺れず、力を知り、力を練る、そして力を正しく借りる、それを揃えられなければ力の本質や限界には至れない。あたしやあーやはそれに長い時間をかけた。気が遠くなるような時間を。お前はガングニールの力に溺れるというよりは、ガングニールの本質を知らないゆえに、力を変質させた。それがお前の強みであって、弱みだよ」
「!」
「赤心少林拳・諸手打ち!」
相手の首を挟みこむように両手でチョップし、そこから両手を振り上げ、吹き飛ばすのが諸手打ちの手順だ。並の怪人ならこれで致命傷である。響は「その手に何を持たないからこそ、他人と手を取り合える」と考える故に徒手空拳で戦うのだが、それはグングニルの本来の力からは変質させてしまっている事の証でもある。それは強みであると同時に、宝具本来の能力を変質させてしまった故の弱みともなる。それは『聖剣』として極限まで練り上げられた存在であるエクスカリバーのエネルギーを受け流せずにギアが損傷した事で証明されている。エルフナインはシンフォギアの限界を黒江の存在のおかげで知ることが出来たということだ。乖離剣エアを『アガートラームとガングニールの双方の特性を以ても御する事は無理』と断じたのも、シンフォギアは所詮、欠片から得られる力。聖遺物そのものである宝具の力にはねじ伏せられてしまうだけと結論づけたためだ。
「お前の信念は別に否定しないよ。話し合えれば、それはそれでいいからね。だけど、どうしても無理な時もある。そういう時は戦うしかないんだ。だから、あーやはお前たちに協力した。だけど、お前のしたことは脅しだよ?調になりきれって、いきなり不躾に頼むかー?」
「あ、あの時はつい勢いで言っちゃったんだ。切歌ちゃんがあんまり可哀想だったから……。ショックだったんだよ?別人が姿を借りてるだけな上、調ちゃんを玉突きで追い出してたなんて」
「まー、マリアはすぐに分かってたみたいだけど」
「外見は同じだったけれど、色々な差異が目に見えてあったもの。アトミックサンダーボルトは痛かったけれど」
「後から考えてみれば分かったけど、私達は調ちゃんをよく知らないうちに入れ替わってたから、全然分からなかった。むしろ、ああいう性格なのかなーって思ってました」
調当人が帰還後すぐにのび太のもとへ出奔した理由は、黒江の自由奔放な学園生活の帳尻合わせに疲れたのも理由の一つである。入れ替わっていた時間が長期に渡ったため、調に帳尻合わせが負担となったのである。黒江は陸士や防大を優秀な成績で卒業できる頭脳でありながら、元々がガキ大将気質だったので、高校のクラスを束めるのは容易にできる。素行が悪い(授業中に寝ていたりしていた)のに成績はとびっきり優秀と、思いっきり目立っていた。調はまともな教育は受けていなかったはずなので、そこが切歌を正気に戻すきっかけの一つともなっている。黒江曰く、21世紀の高校は私らからみれば、旧制中学の最初らへんくらいの感覚なんだよ』との事である。黒江は少女期がちょうど芳佳らの世代のような女子に中学校が門戸を開放するちょっと前の頃に相当したため、自ずと高等教育を受けるには師範学校、高等女学校、軍学校などに限られ、黒江は魔力の発現で士官学校を選んだのである。(智子や武子はちょうど質のいいウィッチ軍人を確保するためと、海援隊に人材を定期的に回す意図の下、学制改革が行われ、女子中学が開設された第一世代で、黒江は小学校卒業がそれより一年早かった)智子は家が中流士族の一族なので、もし、魔力が発現しなければ、女子中学に進学していただろうとよく言っている。ただし、転生以前は陸士に志願して最初から士官だが、今回や前史は陸軍少年飛行兵制度に応募し、合格。伍長として一定期間の軍務を経験後に武子達と明野で出会ったということになっている。つまり智子は、前史と今回の経歴は『陸士には後から推薦で入った』叩き上げ将校となる。それもレイブンズ伝説が風化しかけていた時期における飼い殺しにも繋がったというのが玉に瑕だ。
「あーやはあたしと似たような性格なんだよ、素は。世渡り上手で、ガキ大将気質だから、そう見えないだけで」
ガイちゃんは黒江にとって、智子たちに次いで親友ポジにちゃっかりと収まっている。似たような性格だったため、波長が合ったのだ。あーや呼びが許されている数少ない人物である事がそのポジションを表している。
「綾香さんをそう呼んでるんですか?、貴方」
「本当に心を許してる友達にだけ認めてる呼び方さ。小学校ん時のあだ名だったんだと。あーやはああ見えて、陸軍士官学校卒の俊英で、21世紀の下手な大学生より頭いいんだよー?」
「えーと……つまりどういうことですか?」
「つまり、黒江綾香は生え抜きの将校って事よ。指揮官としての教育を高度に受けた職業軍人ってことよ。道理で……」
マリアがその事の意味を響に教える。黒江は兵隊ではなく、指揮官として教育された職業軍人であると。その割には前線で戦うことを好んでいるのはどうしてかと聞いてみると。
「あーやはパイロットだからね、ヒコーキの。だから、どんなに出世しても飛んでるんだよ。陸軍はそういう伝統があったし」
黒江は元々、陸軍航空科の将校であり、空軍の設立の暁には移籍予定、空自ではウィッチ総監と対外任務統括官を兼任する大物になっている。空自に入る過程では、防大で要員振り分けの際、陸自がレンジャーに欲しがり、防大も陸自に行かせようかという方向に傾いていたのが、源田実の訪問で『陸軍航空科のパイロットだから』とタネ明かしされた事で、陸自は泣く泣く黒江を諦めたという逸話がある。その時の陸自の落胆は相当なもので、源田の目的が『空自の戦術を覚えてもらうために送り込んだ事の説明』と判明すると、類稀な頑強さを持ち、女性自衛官として初の実戦型にしようと目論んでいたのがパーになったので、目に見えて落ち込んでいたという。未来世界での自衛隊は黒江達が入り込んでいた事もあり、女性自衛官の職種制限は他世界よりも10年単位で早い時期に撤廃している。ちょうど黒江が任官される2003年あたりで戦闘機パイロットの制限が撤廃されている。これは扶桑との国交開始が極秘だったのと、黒江やそれに続いて送りこまれてきたウィッチ達が合法的にパイロットにつけるように規則を改正する必要があったからだ。なお、黒江が任官された翌年の2004年からは陸戦ウィッチも送り込まれてきたので、陸自も制限を撤廃している。海自は国交開始後に『艦娘』が研修にくる程度ではあるが、海援隊の研修に合わせて撤廃している。海援隊は殆ど軍隊なので、研修先が海自なのは当然の事なのだが、これに海保が反発したのが、後の不祥事を招くのである。海援隊が戦争中に財政難に陥るのは、事件で罷免された海保長官の罵りを才谷美佐子が気に病んだために、自衛隊の古い型の汎用護衛艦や新規建造の汎用護衛艦の購入を打診し、その費用が如何に坂本商会と言えど、大きな負担になったからだ。日本政府は『海援隊の財政難は海保が招いた』と断じ、救済を実施。公益性が大きいことから、海援隊を公益法人化させ、実務部隊を正式に日本連邦の第二海軍に位置づける事で救う。その結果、海保は現場単位では海援隊を援助しているのに、上層部の派閥抗争で自分達の予算が懲罰的に削られてしまったという悲劇に直面し、太平洋戦争中は苦難の時代を味わう事になる。なお、海援隊も艦隊型駆逐艦が日本側の都合で殆どが博物館として引き取られるか、護衛艦世代艦艇の新造によりスクラップ行きになっていた事に抗議し、その折衷案が海援隊の公益法人化による財政負担の援助、海自型汎用護衛艦の旧型の有償供与であったのだ。扶桑軍もM動乱での駆逐艦の損耗率の高さから、護衛艦型を主力にしだしたのだが、日本側に適切に説明できなかった事が失点だった。防衛省は残存する艦隊型駆逐艦を一律で退役させる予定であったが、山本五十六が『一気に無くしたら、人の行き場なくなるよ?
それに艦隊型駆逐艦の後期型は年式が比較的新しいんだよ?』と諌めた事で、改修による延命措置を選択し、一部は海援隊に回されたという。
――ガイちゃんが響と喋りながら戦っている頃の南洋島のとある別荘地――
「あら、この子、貴方の小学校の頃のクラスメートじゃないかしら」
「はい、お母様。久しぶりに彼女の顔を拝見しました」
海援隊の責任者であり、当代当主の才谷美沙子(美佐子とも)は隠居していた先代当主であり、実母の『才谷美紀』に面会していた。美紀は先代の海援隊総責任者であり、坂本龍馬の子である。1945年当時では老境に入りつつあったが、若かりし頃にウィッチだった名残りで、青年期の面影を残す風貌を保っている。彼女の容貌は実子の美沙子が色濃く受け継いでおり、レイブンズの加東圭子にそっくりと今では評判である。そのことも圭子が素の容姿での活動を控え、レベッカ・リーの容貌で活動するようになった要因である。これは圭子と美紀/美沙子親子の容貌があまりにもそっくりだったため、海援隊との交流を行うであろう時に、お互いの見分けがつきにくいことを小沢治三郎が指摘したためだ。(指摘した当時、小沢は連合艦隊司令長官であった)
「確か、黒江綾香と言ったわね、この子」
「はい。小学校の頃は大人しめの印象でしたが、軍隊では豪傑で通っているようです」
新聞記事を読んでいる美紀。黒江の活躍を報じる経産新聞の記事だ。新聞に出される記事は誇張されている事も多いが、レイブンズに関しては、事実をそのまま書いても許される戦果の裏付けがある。更に黒江は作戦中に航空自衛隊の空将に任じられた俊英であるので、真実を書くほうが日本側への航空部隊の人材の質の高さの証明にもなるからだ。これは日本側の防衛省の制服組以外の多くが1945年の航空部隊について、『烏合の衆』と認識していたのと、扶桑陸海軍航空部隊の人員の実態の認識に激しい乖離があるためだ。その乖離が最悪の形で表れたのが『東二号事件』である。この当時の書類では『H事件』と呼称されている。H事件は501、引いてはレイブンズの交代要員を送り込もうと、明野の教官級を引き抜き、明野を実戦態勢にして供出させた扶桑陸軍航空部隊の説明に日本防衛省背広組の官僚達が信用せず、『特攻に使わせない!』とヒステリックに担当者を怒鳴りつけた挙句、あきつ丸に帰港命令を出した事に纏わるパニックの総称で、あの黒江が『だから、遅すぎたと言ってるんだッ!!』とヒステリックに怒鳴るほどの事案だった。結局、黒江は立場上、その尻ぬぐいに追われ、その憂さ晴らしにバダン相手に暴れているのだ。扶桑軍は45年当時、『出戻り』から間もないレイブンズの戦果のあまりの突出による現役世代の反発を(GウィッチやRウィッチの区分は当時、連合軍全体の第一級の軍機に分類されていた)防ぐ意図の下に東二号作戦を発令したのだが、日本防衛省の背広組に『教官の供出は特攻だ!』と誤解された事が、全ての誤解と行き違いの発端であった。黒江は自衛隊の現場責任者として、尻ぬぐいを行う事になったので、実のところ精神的には疲労が限界に来ているが、憂さ晴らしと言わんばかりに暴れている事で誤魔化している。これはもちろん、日本政府も顔面蒼白であり、廃止が検討段階だった金鵄勲章や従軍記章の継続をなし崩し的に野党に認めさせる事になる。これは戦後日本の自衛官に与えられる勲章である瑞宝章は『官僚向けの勲章である』扶桑側の認識と、軍人へは金鵄勲章や武功章や感状が適応されている実態への配慮であるというのが、政府与党の説明だった。これは主に軍関連の栄典へ無知な野党向けのスピークだった。また、防衛族のある議員が自分の現役当時の防衛記念章を持ち出して説明した事、旧軍経験者がいた当時は外国への赴任などでは、自分が旧軍時代に得た勲章や記章の略綬を着用して見栄えの均衡を取っていた事も説明する。その際に金鵄勲章を『時代にそぐわない戦前の軍国主義の遺物』と国会の場で言ってしまった野党議員は遺族会や戦友会からの抗議と『金鵄勲章は1986年に受賞経験者であれば、公の場でつけることが解禁された』という答弁で政治生命を事実上絶たれたという。(金鵄勲章は受賞者が戦後の長い年月の内に減少し、生存者も80年代には既に老い先短くなっていた事での救済措置も兼ねていたのだろう。この金鵄勲章が扶桑側の勲章という形で再び日の目を見、自衛官から受賞者が出た事で、日本連邦の軍関係者の勲章として復活を遂げる。既に隣国の韓国は扶桑の軍事制裁で政治的にも死に体であり、中国も様子見を決め込んだり、ロシアはもはや極東への興味を喪失した事が決定的に復活の機運とされ、復活が決定された)
「日本側は金鵄勲章や従軍記章についてケチを付けたようね?」
「はい。ですが、生存していた元軍人の受賞者や防衛記念章のことを指摘され、しどろもどろになって発言を濁して逃げたようですよ、あちらの野党」
「日本の政治屋は人気取りしか能がないのね、呆れるわ」
日本連邦が結成されると、扶桑側に合わせるとし、日本でも自衛隊の正式な合憲化による防衛組織の位置づけの明確化と日本連邦軍の固有部隊化の決定などの方向性が押し進められた。これは領土がなし崩し的に北方四島、更には学園都市の軍事行動の結果、ウラジオストクが転がり込んできてしまったため、現有の自衛隊だけでは防衛が困難だからである。その任務にうってつけと言える、扶桑の大陸方面軍経験者がここで注目を浴びた。史実関東軍と同一視され、冷遇されてきた彼らだが、日本がウラジオストクまでを得た段階で利用価値を見出され、扶桑側の派遣軍として、再教育の後に守備隊として送り込まれた。ウラジオストクが日本に取り込まれたのは、学園都市の軍事行動で現地ロシア軍が根こそぎ殲滅させられ、警察も駆逐されたり、逃亡した事による、統治行政府や治安維持機関の不在と、ロシアが学園都市に脅され、統治権を放棄したため、形の上での戦勝国の日本が得たという経緯がある。その為、日本は学園都市のおかげで、大日本帝国時代にはなし得なかった旧ロシア領を合法的に統治することになった。日本としては棚からぼた餅のような結果となったが、国民はこの結果に賛否両論だった。だが、『ロシアが放棄してしまった地域の統治を国連から託された』と、アメリカが演出してくれた事もあり、1945年次の扶桑に領土・領海・領空の大きさが近づいた。日本は国連を『錦の御旗』の如く信仰している事をアメリカは45年から52年までの占領期で知っていたのだ。(後に、日本が地球連邦を樹立させる際も、国連の権威をイギリスが呆れるほど重視しており、23世紀地球連邦の内部でも『日本人は権威に弱い』という認識である)この21世紀までが米国が日本に明確に協力的であった最後の時代になる。旨みがウィッチ世界に存在しているため、という裏の理由もあったが、米国は自分達の先祖が嵌めた枷を自らの手で外した事になる。また、日本連邦軍の設立に助言したのも、米軍内部の親日派、知日派などである。自衛隊と扶桑軍とでは、軍としての本質が違いすぎる上、東西ドイツ軍のように一方に強引に統合すると、兵器の取扱や人員整理が問題となり、一方の軍人が不利益を蒙り、裏社会の伸張という好ましくない影響が生じると助言したのだ。その結果、人数が圧倒的に多い扶桑皇国軍と自衛隊は個別にそれぞれが管理し、上部組織を通して統合運用するとされた。防衛省背広組が目論んだ『自衛隊式の装備への統合』は潰える事になったが、その影響は太平洋戦争でも尾を引く問題になり、結局、太平洋戦争の長期化に繋がっていく。これは「規格統一がなされていない」旧軍兵器への侮蔑意識からの認識であったが、扶桑は45年には連合軍規格で兵器の部品の共通化を進めていたので、その認識の相違が悲劇となったが、逆に言えば、連合軍規格のエンジンを扶桑が製造できる証となったので、これは現地企業保護のための旧式兵器の生産再開で決着がついたが、日本側が厚意でスペックアップさせていたので、混乱が起こったが、それはまた別の話。
――また、扶桑が困ったのが五輪への認識の相違による混乱であった。扶桑は40年大会の開催ができなかったが、権利はまだ有しており、形式上は二度の順延で48年に順延していた。扶桑の国民は五輪を『金をかけた運動会』としか考えておらず、軍部や政治家や国民などには『運動会にかまけている暇があったら戦備の充実を!』という論調が主流であった。が、日本側の五輪の認識はプロ化と商業化が定着した後の時代のそれであり、それで混乱が起こった。反対派のある政治家は日本からの激しい非難に耐えかねて投身自殺を図り、反対していた高級軍人が誹謗中傷されて、郷里に引きこもるなどの被害が生じた。これは現地での五輪への認識は商業化前の『若者たちのスポーツ精神の発露たる大会』であったため、21世紀日本が五輪に膨大な資金をつぎ込む理由が理解できなかったのだ。また、選手の質も21世紀の日本選手は1945年からみれば『プロ選手』と言える質であるため、そこで衝突が起こったのだ。扶桑側のスポーツ選手の質は21世紀の水準からすれば『素人よりはマシ』程度のものであるのも問題になった。(これはスポーツの心得があった軍人たちを動員する事で解決が図られ、レイブンズも複数の競技を掛け持ちしたという)そのため、今回におけるウィッチ世界の東京オリンピックは世界が戦時であるのに関わらず、開催される。競技場の建設計画などは日本側主導で計画され、開催は吉田茂の嫡孫にあたる麻生タローの『戦時なら士気高揚って前例が有るだろ、あそこまで政党色出したら不味いがな』と、史実ベルリン大会を示唆する一言で扶桑側も最終的に折れた。そのため、規模は1940年に予定されていた『紀元2600年記念扶桑万国博覧会』の代替も兼ねて、史実戦後の大会と同等以上になった。地球連邦がインフラ整備を大規模に行うと約束し、五輪の際の安全を保証した(マジンカイザーが動員されたのもそのためである)のが、扶桑側の五輪への意欲を掻き立てた理由である。この工事はニューレインボープラン用の地下ドックの整備の隠れ蓑にも使用された。この時に地下ドックが整備されたおかげで、急ピッチでラ級戦艦が用意されていくのである。地下都市の整備完了は再登板吉田内閣の二年目である1949年の事であるので、地下都市の整備のほうが手間がかかった事になる。五輪は南洋島地下空間の開拓の大義名分にも使用されたわけで、かなりの予算が注ぎ込まれたのは言うまでもないが、内部はドラえもん監修で、妙に凝っていた。新京やその周辺の都市がドラえもんのこだわりで再現されており、1949年以降の有事の避難場所とされていく。また、本土都市の地下空間の開拓は地下鉄が増設されていく都合で予定より遅延し、東京付近の地下都市が出来たのは1952年にずれ込む。また、東京そのものの再開発が行われていたのもあり、町並みの基準策定に手間取ったからだ――
「母様。今後、我々はリベリオン本国軍と対峙を余儀なくされます。日本側は我々に21世紀基準の船を買えと言ってきております。ですので、今後数年ほどは財政難になるかと」
「やれやれ。船の中身が変わってるだけで、器は以前のとそれほど変わっていないでしょうに。海保は何を考えているのか」
「おそらく、向こう側の太平洋戦争で商船学校出身の予備士官が大量に戦死している事を未だに恨んでいるのでしょう。後で山本大臣に『おめーら30年同じ設計の船、増備してきたのにそんなこと言うのか?』と言ってもらう予定です。その時が来れば、ですが」
海援隊は海保の古い世代の高官や高官OBから勝手に同類と見なされていた。勝手に自分達の同志認定しておいて、準海軍であると分かった途端に鬼の首を取ったように騒ぐのは、海保の高官らの神経を窺う。現場同士は良好な関係なのだが、高官やOBが敵視して来るのでは、現場が浮かばれない。そのため、海自が海援隊の再訓練を引き受けた経緯がある。また、あくまで海保は警察、海援隊は殆ど軍隊であるという組織としての差もあった。そのため、後に、美沙子から愚痴られた黒江が麻生タローに海援隊の窮状を伝え、彼が動き、高官らを前にして、『いったい何がしたいんだ?海保はよ』と言ってもらう事になるのである。
「やれやれ。海保は我々の組織というものを理解していないのよ。私たちはリベリオンのコーストガードに近い性格の組織。海保はあくまで大きくなった水上警察でしょ?」
「ええ。しかし彼らは準海軍だと言うのなら、どうして古い船ばかりなのかと言うのです、母様」
「民間軍事会社に何を求めているの?我々は準海軍的扱いではあるけど、あくまで民間軍事会社よ?」
「彼らは公的組織でなければ、領海警備の資格はないと」
「信じられないわね。こうなれば、東郷平八郎元帥閣下が存命中から構想していた事の用意を初めるしかないわ」
「どういうことです、母様」
「商会を公益法人に移行させるのよ。今は日本連邦が出来た以上、それなりに体裁を整えないと、今後の運営も覚束ない。既に山本五十六大臣や吉田茂総理には打診してあるわ。美沙子はなんとしても、レイブンズのその子に接触して」
「分かりました」
美沙子は商会のために、黒江と接触しようとするも、黒江は予定が満杯な上、47年まで未来世界でデザリアム戦役を戦っていたりと多忙を極めており、それを実現したのは1947年のことだった。美沙子は黒江とは確かに、小学六年当時のクラスメートだが、それ以上でもそれ以下でも無かった。黒江と再会したのはクラス会での事で、黒江の持つとされる豊富な人脈を利用するために近づいたが、黒江が予想以上の好人物だったため、真に友情を持つようになった。ある意味では、逆に黒江側のコネにされたと言うべきだろう。黒江は人誑しとして天性のものを持つので、自然と周りにシンパが集まる。これは親しい後輩達も大半が持たない才能である。例えば、坂本が前史での軍生活の後半から人生の後半生に敵を作ってしまったのは、坂本の認識と次世代のウィッチ達とでは使命感などにズレが生じていたからでもある。それを考えると、黒江の人誑しの才能は英霊級である。いや、英霊の座に座していて不思議でないが、それを飛び越えて神へ至ったので、英霊としての資格を得たが、それを飛び越えて神になった存在だろう。そのため、黒江はこの時期の本来の年齢より遥かに若々しい容姿を保っている。Rウィッチに初めてなった時は13歳、現在は15歳から16歳程度の肉体を保っている。これはGへの覚醒後に空中元素固定能力を得たので、ある程度は自前で調整がつくようになったためだ。精神状態もある程度反映されるため、やはり圭子が一番年長だが、黒江と智子は見かけの年齢が逆転しているのは、面白い現状である。そのため、響達も智子のほうが黒江より年下であることには驚いている。それが彼女のGとしての姿なのである。
――話は戻り、響とガイちゃんらの戦いは――
『ザウゥゥルガイザーー!!』
響はガングニールに依存しているため、遠近双方に強いガイちゃんの猛攻は流石に避けたりするので精一杯だった。黒江は自分の得意レンジに飛びこんできたが、ガイちゃんはなのはの援護もあり、遠距離からも攻撃を仕掛けてくる。更に、Gウイングでの機動力は響の普段の状態での突進力で追いつけるものではなく、劣勢に追い込まれていく。スピードが違いすぎるのだ。ガイちゃんのスピードはマジンカイザーに追従可能なほどの高速だが、響は青銅聖闘士の動体視力で追える程度の速度。その差は通常状態では如何ともしがたかった。
『デスパーサイト!!』
デスパーサイトはグレート状態では、手刀から放たれる斬撃エネルギーであり、黒江の手刀からのエクスカリバーに酷似していた。更に、響が拠り所とする『言の葉の力』が織りなす『神殺し』の力も、全く関連性がない別世界ではロンギヌスの特性とガングニールの特性とが相殺しあい、哲学兵装とは成り得ない。その事実のショックに打ちのめされつつも、響は時間制限を承知の上でイグナイトモジュール(装者が黒江と接触した世界線では、天秤座の童虎がパヴァリア光明結社幹部を初戦で全て殲滅したため、イグナイトモジュールは維持されている。黒江は成り代わり時には使っていないが、調のためにと、一応搭載はされた)を抜剣し、ザ・グレート状態のガイちゃんに対抗せんとする
「魔剣ダインスレイフの力で、貴方を貫き通すっ!」
「ハッハッハ…ハハハッ!ダインスレイフか。そんな剣、この逸品の前じゃ、タダのなまくらさ。この原初の剣の前じゃあね」
イグナイトモジュールは確かに魔剣ダインスレイフの力を媒介にし、シンフォギアの能力値を時間制限ありで引き上げる。だが、その力もガイちゃんの持つ切り札の前では意味をなさない。ガイちゃんの左腕にミラクルドリルランスが出現、それを更に天に掲げる。すると、とんでもない現象が巻き起こる。世界そのものが悲鳴を挙げているような。
「原初の剣……!?」
「そうだ。エクスカリバー、デュランダル、草薙。そういうの全部の原典になった天地開く神剣。その名も『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』。あーやが封印していた切り札だよ」
ミラクルドリルランスの形状はそれに相応しい形状となり、ガイちゃんの口調も凄みを増す。その宝具は、自分と黒江のみが二次的な使用を、とある英霊から許されし代物。低出力であれ、エクスカリバーを真っ向から打ち消し、相手に大ダメージを与えるだけの力を誇る。響はイグナイトのパワーと自分の特性を信じ、特攻する。ガイちゃんが自己の意志でエアを放ったのは、厳密に言えば、これが最初になる。その後はガイちゃんの性格もあり、エアをうまく制御出来ず、デザリアム戦役であしゅら男爵へ放つのが完全制御の始まりとなる。この時はガイちゃんの集中力が戦いで高まっていたのもあったが、明確な目的があったからだろう。
「受けてみる?天地開く神剣を――!」
「響さん、アレはヤバイデス!!避けるデスよ!!」
直感的に切歌が警告し、響はそれに従い、回避行動を取る。だが、引き起こされた現象は切歌と響の想像を絶するものだった。
『天地開く神剣――天地乖離す開闢の星――!!』
現象はもはやシンフォギアがイグナイト状態でもどうにもできぬほどの規模だった。エルフナインは古代バビロニアのメソポタミア神話の創世叙事詩を知っていたのだ。それ故、エアを『いくら頑張っても調律すら不可能』と言ったのだ。その力の片鱗を見せた。見せ技として低出力のそれを放ったが、掠めただけで響のイグナイト状態の篭手の左を半分、綺麗サッパリ消滅せしめる。響はその威力に驚愕する。今までどんな敵にぶつかろうと、シンフォギアが目に見える形で破損することは無かったからだ。しかも今は強化されているはずの状態のバリアごと篭手を破損させたのだから、驚きも当然だった。
「そ、そんな……!?ガングニールを物理的な力で破損させた……!?」
「言ったろう?天地を拓いた原初の剣だって。今のは小手調べだけど、エクスカリバーよりも格段に強力だよ?シンフォギアのバリアに感謝するんだね」
エアの依代となったミラクルドリルランスを地面に突き立てて、ガイちゃんは正に風格たっぷりに立つ。吹き飛ばされ、篭手が破損した状態で倒れ伏している響と、互いに対照的な構図となっていた。
「エヌマ・エリシュ……古代バビロニアの創世神話を指す単語だと聞いたけれど、まさかその神話の力が剣になっていたなんて……。それも聖遺物の霊格として……。だとしたら……立花響には……!」
冷や汗をかき、心配そうに戦いを見つめるマリア。それを今は空中で傍観するなのは。あまりに凄まじい光景に、開いた口が塞がらない切歌。乖離剣エア。その強大無比な力の片鱗に圧倒される一同だった。そして、切歌達の様子を見に来た調がいきなり、小宇宙を滾らせた状態で『ウォーハンマー』を使用し、思いっきりぶん殴る。しかも黄金聖衣を纏った状態で。これには一同は呆然としてしまう。篭手のもう片方もこの攻撃で破壊される。唯でさえ魔術的な装甲目標を破壊するために造られた兵装を黄金聖闘士級のパワーで使用すれば、その打撃力でシンフォギアを破壊できるのだ。
「悪いんですけど、響さん。師匠の命で、ガングニールを砕かせてもらいますよ。異世界の一般的魔法技術の一端でこうですから、もう一撃行きますよ?」
「え!?ち、ちょっと待って!なんで調ちゃんまで!?」
「荒療治って奴ですよ。完全に物理的にかち割れば、シンフォギアも砕ける。砕けないのは、スーパーロボットの物理的限界を超えた装甲だけですよ」
ウォーハンマーは時空管理局が物理攻撃の必要性を悟った事で軍需産業に開発させた兵装の一つで、超合金Zまでであれば、かち割る事が可能な強度がある。ニューZ以降は流石にハンマーのほうが参るので、マジンガーZと初代ゲッターロボであれば撃破も可能である。
「これなら痛いだけで、体に傷は付かないからおもいっきりいきますよー!」
「ま、待ってぇ〜!なんでそうなるの〜!?」
「問答無用ぉ〜!」
調も何気に、初対面だった黒江との入れ替わりの起こる前の時に『人の触れられたくないところを踏み抜かれた』事を根に持っていたらしく、ガイちゃんとなのは側に回った。切歌はパニックになり、止めるどころではなく、マリアも先程のエアの一撃で介入を諦めたので、響は大義名分を得た三人の全力全壊の攻撃を受けるという災難に見舞われる。『ウォーハンマー』の実戦テストも兼ねていたらしく、強度限界に挑むかのように、調はハンマーを振り回しまくる。なのはが指示して。更に、ガイちゃんのエアが襲いかかるため、イグナイト化していた状態であると言うのに、防戦一方に陥る。傍からみれば、ただのいじめにしか見えないが、三人の力を切歌やマリアに思い知らせるのに充分な効果を発揮した。響はなんとか、イグナイトの効果が続いている内に一矢報いたいのだが、先程のエアの一撃で恐怖心を抱いたのか、動きが僅かに鈍っている。そんな状況下でも、ガングニールに依存している心理なのが、立花響の抱える心の闇であり、歪みであった。
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