外伝その154『eyes glazing over』


――響は調までもが加わっての攻撃に戸惑い、さらに頼みの攻撃手段である拳を封じられた(篭手を粉砕されたり、斬られた)事で、普段は常用しない蹴りに頼らざるを得なくなった。その事も動きを鈍らせていた。一方の三人は遠近双方の攻撃を織り交ぜて攻撃し、響を確実に追い詰めてゆく。しかも、原初にして最強の剣を持つことをガイちゃんが示した事で、響への心理的効果が大きかった。それはガイちゃんの功績だ――


「なんで、どうしてですか!?ガングニールは、ガングニールは私の大切な……」

「お前はその力に振り回されているんだよ。天羽奏が自分を助けるために死に、その力がお前に残された。そこまではいい。が、お前は小日向未来が自分の体の中の破片を消した後に譲られた別個体のガングニールにまで、自分のモノと思っているだろう?」

なのはは強い口調で響に問う。ガングニールは何のために譲られたのかを。響が今使うガングニールは、元々はマリアが纏っていた別個体で、黒江が天空剣でマリアとの繋がりを断ち切り、響に渡したものだ。そのため、厳密に言えば、今のガングニールは当初のものとは別個体にあたる。

「ガイちゃんも言ったろう?力に溺れず、力を知り、力を練る、そして力を正しく借りるって。お前はガングニールを自分の居場所を守るためのツールって思ってないか?」

響は自分の『居場所』を守るため、心理的にガングニールに大きく依存している。かつての事件の結果、家庭が崩壊した経緯があるため、自分の居場所や『誰かを守る事、傷つけない事』に執着している。それは黒江が小日向未来を米軍から守った際に、早合点して襲いかかり、クリムゾンスマッシュでノックアウトされた経緯で証明されている。響は元々、ドジっ子だったのか、それとも天然なのか、その純粋さが仇となるケースも多い。黒江が成り代わっていた頃に、対話を幾度か試み、いずれも痛いしっぺ返しを食らっている。調も初対面当時、人の踏み込まれたくない所をピンポイントで踏んでくる事に不快感を顕にし、『そんな綺麗事をッ!』と罵った過去がある。それもあり、黒江の指示に従ったのだ(そういうところは黒江に似たらしい)。黒江も自分が小日向未来を助けたのに、拉致と勘違いされたのは、この時点でも根に持っており、今回の事を指示する際、響の写真放り出して首切りポーズで指示を出している。

「まっつぁんからもお墨付きが出た。奴のギアを潰してこい」

これである。つまり、響のギアを壊すことは赤松の最終決定であり、黒江一派はそれに従ったというわけだ。

「お前は手を取りたいと言いつつ、力に訴える、滑稽じゃないか?」

なのはが更に追い打ちをかける。自分にブーメランが帰っている気がするので、心の中では苦笑いしているが、仕事はきっちり行う。響の表情に動揺がはっきりと表れる。今はダインスレイフの引き出す破壊衝動を精神力で押さえ込んでいる状態なので、なのは達の行為はそのバランスを壊しに行く大胆不敵極まりない行為だ。響はなんとか正気を踏みとどまり、イグナイトのリミッターを一段階解除して、能力値を更に引き上げる。が、相手はそれであろうと、問題なく戦える力がある。調は響の繰り出した破損した右での拳の一撃を受け止めた。こともなげに。

「……恐怖も痛みもない……、『退屈な』怒りだよ、響さん」

響の渾身の一撃を調は手のひらで受け止める形で受けた。破損した状態とは言え、ガングニールのイグナイトの一段階リミッター解除状態の一撃である。ヒットした瞬間、破裂音のような音があたりに響いた。が、今では響以上の体躯に成長した調は微動だにしなかった。表情すら変えていない。

「良い音、ちゃんと打ち込めて居ない証拠だね」

「なっ!?」

「拳っていうのはこう撃つんですよ。ライトニングプラズマ!!」

調はライトニングプラズマを放ち、響を光速拳の光の軌跡で弄び、稲妻のエネルギーを浴びせた。響はこの時、目の前に光が広がるようにしか認識できなかっただろう。最後の一撃をくらい、地面に叩きつけられ、道路に穴を開けるほどの衝撃に顔を顰めつつも、パニック状態に陥っている。

「正しい一撃は音すらしないうちにダメージが入るんだよ」

能面のような表情で言う。調は今や、正式な聖衣がないだけで、黄金聖闘士に比肩するほどの実力を持つのだ。黒江との同調の結果、一気に響のいる領域を飛び越え、神の闘士となったのだ。

「あんまり遊んでもいられないから、そろそろ終わらせるとするよ」


ガイちゃんがフォトンブラッドを足に最大にまでチャージしたアイドリングの状態の立膝の態勢を見せた。黒江も使ったクリムゾンスマッシュである。ただし、技の習熟度はガイちゃんのほうが上であり、アクセルクリムゾンスマッシュ以上のブラスタークリムゾンスマッシュを放つ事ができる。黒江が宙返りからポインターを放つのに対し、ガイちゃんやディケイドは相手に足を向けてポインターを放つ動作を行うのが常態だ。蹴りを入れると見せかけてポインターをセットし、響を拘束する。通常よりも遥かに強力な拘束力で。響はまるで杭を打たれたかのように磔にされ、身動きを封じられる。響は尚も抵抗を試み、腕と背中のバーニアを最大パワーで振りほどこうとするが、徒労に終わる。そして、ポインターめがけ、ガイちゃんが綺麗な飛び蹴りを放つ。同時に、なのはと調が一斉にラケーテン・ハンマーをぶちこむ。この時にぶちこまれた破壊力は単純に言えば、W号戦車F2型の前面装甲と同じ厚みの超合金Zも粉微塵にできるほどだったという。その破壊力がコンバーターを粉砕するが、更に調はコンバーターの確実な破壊のため、ビームラムのような形でプラズマパイルを突き刺していた。

「プラズマパイル!ブースト!!」

それがトドメとなり、ガングニールのギアは霧散していく。響はその瞬間、泣いていた。『誰かを助けるために使う力……私がもらった、私のガングニールが……』と。それはマリアにとっては複雑な一言であり、響の異常なまでのガングニールへの執着の表れだった。そこでガイちゃんやなのはは更に追い打ちをかける。空中元素固定能力を使い、ガングニールのペンダントを手から溢れさす。ガングニールに異常に執着する響にとって、これ以上の仕打ちは無かった。

「この通り、私たちにとってガングニールなんて、いくらでも替えの効くアクセサリーみたいな物なんだよ」

「返してよぉぉ!私の、私のガングニール!」

取り乱し、泣きじゃくる響。なのはは最後の一撃をスマッシュした。

「ガングニールを失ったのは貴女の責任、何故、修復出来るうちに降参しなかったの?こちらはギアを壊しても貴女自身にはダメージを入れない様に戦っていたの解る?」

なのはは教導官としての毅然とした態度で響へ痛烈な一言を浴びせる。こういう時はなのはの教導官としてのスキルが役に立つ。


「貴女は限界を見極めること、限界を超えるためのビジョン、己をあえて曲げる柔軟さが足りない。そのためにも、少し……頭冷やそうか」

なのははフィンガースナップ1つで全て消してみせた。響はこの光景のショックで精神に破綻を来したのか、獣のような絶叫をあげて卒倒する。これはあまりに残酷過ぎたので、切歌がなのはに抗議するほどだった。


「どうして、どうして、ここまでする必要があったんデス!?これじゃただの、只のねちっこいイジメじゃないデスか!!」

「この子は無理、無茶、無策で突っ込む。あたしも子供の頃は無茶したものだけど、それでも策は弄してたもんだ。だけど、この子はガングニールと自分の拳技に頼り切りだ。そこがまずおかしいんだ」

「イジメぇ?模擬戦で肉体にはダメージ無いって最初に言ったけど、ギアが壊れてもサレンダーしないコイツがバカなだけだろう?」

「道具が壊れたからって卒倒しちゃうとかないわー」

「意図が理解できない鳥頭には体で覚えさせないとダメだわー」

三人は溜息つきつつも死体蹴りな発言を返す。調もなのはやガイちゃん側にいるので、切歌には衝撃だった。その事は調も既に、自分のシンフォギアであるシャルシャガナへ依存していない証であった。

「古代ベルカでデバイスが壊されて、新型のデバイスもらった事も何回かあるし、一つの道具に依存していたら戦っていられないし、戦争で生き残れないよ」

「戦争……」

「10年はいたしね。その間にデバイスがやられたり、魔力に対応できなくなるとかで取っ替えた事が何回かあった」

「調ちゃん、確か最後の辺りはベルカ王家から拝領した特注品の剣型だったね」

「はい。私は『エクスキャリバー』って呼んでました」

「愛着があるならその限界も把握しとかないと、自分の命に関わるからね」

なのはは過去にゲッター號によって、限界を思い知らされたので、その辺りはシビアになっていた。また、調が古代ベルカで剣型デバイスを段々とグレードアップしてゆき、最後はシグナムのレヴァンティンと同クラスの実力を持っているとされる、古代ベルカ最高叡智の結晶の一つ『エクスキャリバー』を愛機としていた事を明言する。その形状はアルトリアが聖剣の媒介にしているものとほぼ同一だが、レプリカにはない機構も多く、そこが長年の間の失伝と言える。また、起動してみたら、コアがほぼ無傷だった事でマスター登録が当時のままだったので、調は武子の計らいで、後の太平洋戦争時に64Fに登録され、時空管理局特務六課に出向扱いになり、騎士としてのキャリアを再開するのだった。

「だから、特注品にしてからはメンテとチェックは念入りにしてましたよ」

「確か、エクスキャリバーだっけ?アルトリアさんがエクスカリバーの媒介に使ったのはレプリカだっけ?」

「ええ。本物はあの時代に置いてきましたから。発掘されたんですか?」

「ユーノ君がこの間、古代ベルカの遺跡の中で安置されてた、それっぽいの見つけたとか言ってたような。その時は教導隊の付き合いで飲み会の帰りで、強めの酒をグビッと入れてたから、よく聞いてなかったんだ」

「なのはさぁ〜ん?」

「スマンスマン。ユーノ君に今度、電話で聞いてみるからさ。今の技術で修復できれば、貴女の手に戻るかもしれないよ」

「お願いします」

なのはは古代ベルカで調が使用した最後のデバイスがユーノ・スクライアの率いる調査チームの手で発掘された事を伝える。ユーノ・スクライアは時空管理局の分裂後は機動〜課が行っていた『古代遺物管理』業務の管理もなんのかんので引き受ける羽目となり、ますます多忙を極めていた。黒江や智子曰く、『なのはの旦那さん候補(?)』だが、お互いに多忙な事、なのはがフェイトと世帯を持った事もあり、なのはの少女期の頃の関係には戻りきれていない。だが、なのははユーノの事は意識はしているようで、黒江曰く、『多分、そのうちくっつくだろーよ』とのこと。ユーノは智子が時空管理局に依頼した、黒江の行方の調査にも古代ベルカの記録調査などで尽力し、調が元の容姿を取り戻し、黒江とお互いに帰還ができたのは、彼が記録の調査を直接指揮し、無限書庫の古代ベルカ関連の記録を徹底的に洗い直した事で転移した場所の特定が成ったからで、黒江と調にとっては恩人になる。調は彼を『ユーノさん』と呼んでいる。その彼がかつての愛機を見つけたというのは嬉しいようだ。

「調は……魔法少女してたんデス!?」

「うん。10年いたしね。今は聖闘士候補だけど、魔法少女もジョブに入れていいかも」

「ぐぬぬ……。あ、なのはさん。響さんをどうしますか?」

「このまますっぴんで放置するわけにもいかないだろー?マリア、お前が近いところのロマーニャ軍の野戦病院に運べ。あたしらはヒーロー達を待たせてあるしな」

「それがいいな。マリア、後は頼む。ドラえもん君のところで体内洗浄はしてもらえ」



ガイちゃんが指示を飛ばし、マリアはそれに従った。なのはもガイちゃんに同意する。マリアは響を野戦病院に置き、LINKERの体内洗浄と再投与に必要なタイムラグを経て、戦線に復帰する。ガイちゃんはマリアに指示を飛ばしたように、黒江とタメ口が許されているポジションなので、かなりの高待遇を受けている。ロボットガールズを事実上束ねる立場なので、確実に佐官級の待遇を受けており、一番高給取りである。会話を終えようとした一同の上空を通り過ぎる一つの空中要塞の姿があった。孔雀のように羽を広げた姿が印象的な『秘密戦隊ゴレンジャー』のバリドリーンだ。

「な、何デスか!?あの孔雀みたいな飛行機は!?」

「あれはバリドリーンか。アオレンジャーさんが引っ張ってきたな」

秘密戦隊ゴレンジャーの誇る空中要塞『バリドリーン』。現役時代に敵と相打ちになった一号機、後にイーグルがコンピュータに命じて一から設計をし直して造らせた二号機が存在する。ダイ・アナザー・デイに参陣した機体は、もちろん二号機である。その勇姿は正に空中要塞の異名に相応しい。群がる第二次世界大戦型戦闘機の数々を蹴散らしつつ、悠然と大空の王者の風格を見せつける。

「バリドリーン?」

「初代スーパー戦隊の秘密戦隊ゴレンジャーが誇る孔雀型空中要塞さ」

バリドリーンは大型でありながらも、前任機をすべての点で上回る。そのため登場時、バリブルーンの再建造よりもバリドリーンの装備のほうが良いとイーグル上層部が判断したほどの価値がある。輸送機、爆撃機、戦闘機の全てを一機で兼任する万能機で、中にバリタンク、スターマシーンなどを積む輸送機としての能力、重武装による戦闘爆撃機としての機能を持つ。全長は大戦当時では、『超大型機』に分類される50m。これはB-36や富嶽よりも長い。攻撃力はこの時点では破格のB-52相当。富嶽よりは劣るが、これは富嶽が搭載量を重視した設計だからだ。そのため、富嶽は21世紀日本から『オーパーツ』と渾名されている。それは当時の機体にしては異常な高性能であり、B-36以上の飛行性能とB-52と同等以上の搭載量を持っているからだ。これはレシプロモデルの時点でも、計画には及ばないものの、B-36の3500馬力も目じゃない5000馬力エンジンが二重反転プロペラで搭載されていたためだ。また、扶桑は空力性能研究では当時世界最高峰の一つであり、元々、パワー不足で想定した空力性能を持つ機体で設計されたため、パワーが相応以上になり、強度も上がったため、曲芸飛行も可能な強度を持ったのも重なり、オーパーツとされたのだ。扶桑航空技術の結晶が富嶽であり、そのジェット化である飛天がこの時期に無敵を誇ったのも当然だった。ただし、雷撃は計画当初は研究されたが、戦略爆撃機のジャンル確立で立ち消えとなり、1945年に配備されている機種は爆撃特化である。飛天は自衛隊のP-1用エンジンを持つので、当時のレシプロ戦闘機を寄せ付けない高度での巡航が可能なため、M動乱で活躍し、現在ではレシプロ型を置き換えつつある。バリドリーンはその飛天の進路確保の意味合いも兼ねた制空任務を遂行していた。

「富嶽の進路確保だな。あれ一機でゼロ戦20機分の働きするし」

なのははそうバリドリーンを分析する。バリドリーンの能力なら、エースの乗るゼロ戦一個中隊分以上の価値があると。実際、ジェット機が出ている70年代に超兵器と謳われたのだから、当時の自衛隊主力機F-4Eで考えても、六機分以上の働きができる。後発の戦隊のメカに比べると、現実の兵器の延長線上から抜けきれてないが、当時の水準からすれば『頭オカシイ』超兵器なのだ。

「うーん。ゼロ戦と言っても、ピンと来ないデスよ」

「仕方がないだろ、この時代の日本製の戦闘機で一番知名度あるんだから」

なのはは切歌に切り返す。戦争終結後の日本ではゼロ戦が戦中の戦闘機ではほぼ唯一、高い知名度を誇るからで、この時代での知名度で上だった隼は完全に忘れ去られている。そのため、キ43が隼である事を理解できる日本側の人間は、自衛隊員以外では殆どいない有様だったという。陸軍はその事に激しいショックを受け、マスコミ向けの愛称で呼ぶようにしたが、肝心の最新鋭機たる、四式戦闘機がウィッチ支援に特化した設計だったため、テコ入れ後に設計され、史実よりも強力化した紫電改/烈風より使いにくいとされ、一時は紫電改/雷電/烈風の三本で空軍を担わせる案まであったのだ。陸軍飛行戦隊の現場がこれに反対し、百舌鳥を川滝に造らせ、見事採用されたので、キ99とのコンペは出来レースだった事になる。しかし、キ99の性能そのものは紫電改/烈風すら超えるモノであったのはクーデターで確かに証明され、台場大尉の意地が成した奇跡と後世に語り継がれる。彼の散華を目撃した黒江はこの事を引き合いに出して、教え子や自らの子孫達を教育するので、台場大尉の散華は黒江の心に何かを残したのだろう。黒江はそういう点で言えば、ウィッチとパイロットの境界線上を渡り歩く貴重な存在であった。レイブンズがこの時期(1945年)から再びプロパガンダされ、事変直後のように、英雄扱いが再開されていくのも、ウィッチとパイロットの双方の気持ちが理解でき、整備兵とも良好な関係を持てるからでもあった。


「ん、見てよ、ガイちゃん。このプロパガンダ」

「うっわ、すんげー露骨。智子が怒るの無理ないなー、節操ねぇ」

なのはの持つタブレットにニュース速報が入ったので、なのはとガイちゃん、次いで調の三人がそれを一緒に見るが、不快感を顕にする。それは智子が怒っているように、露骨にレイブンズを祭り上げる内容だった。上げて落とされた経験のある智子にしてみれば、怒り心頭モノで、智子が憤慨する理由がわかり、三人は一斉に頷く。智子は上げて落とされた事を未だに根に持っており、復帰後に広報に冷淡な態度なのは、43年から44年上半期までの冷遇が理由なのだ。広報がすがろうとした黒江は黒江で、日本での訴訟以来、マスコミ嫌いになったと公言しており、広報は困惑している。

「ん、今度はマジンエンペラーGと真ゲッター。鉄也さんと二代目ゲッターチームか」

「あの、あれは味方デスよね?」

「あれのどこが悪のロボだよ。どっからどうみても正義のスーパーロボットだろー!」

憤慨するガイちゃんだが、真ゲッターは蝙蝠のようなウイングなので、悪役に見えなくもない。しかし、凄まじい速度で、しかも慣性の法則全く無視の飛行を二機ともしているので、切歌は目がぐるぐる巻きになってしまう。

「お前、来る前にGカイザー見てるのに、その反応なのかー?」

「あの時はサポート主体だったんデス!それにカイザーとかエンペラーとか、もうワケガワカラナイデス…」

「この馬鹿、オーバーヒートしやがった!」

「うーん。あの飛行は刺激強すぎたかも」

「ゴッドマーズの不動明王に比べりゃマシだろ、調?」

「あれはあれで衝撃だよ、ガイちゃん」

「お、真ゲッターがやってるぜ。號の奴はサイトを使うのか?」

「號さん、トマホークは竜馬さんの専売特許だぜ?とか言ってたし」

一文字號は鎌使いである。そのため、切歌にはいい見本になりそうなものだが、號の鎌の扱いは竜馬に似て荒々しいので、参考になるかは分からないが。

「うーん。切ちゃんにいい見本になりそうなもんだけどなぁ」

「そいつも鎌使いだったっけ。だけど、それはイガリマの本質じゃないだろ?」

「それを言うなら、イガリマは千山斬り拓く翠の地平、私のシャルシャガナは万海灼き祓う暁の水平だけど、私達のは変質してるからね。だから、ガングニールよりヘボい扱いなんだよ」

調は自身の持つ宝具の本当の意味合いを知っていた。万海灼き祓う暁の水平と。炎の剣であるシャルシャガナの本質を。『鋸』は後世の人々や自分のイメージが生み出した虚像であると。その本質を知った故か、調のエクスカリバーは炎を纏う属性が付加されている。シャルシャガナの本質を知った事で、エクスカリバーに独自性が付加されたという点では、聖域での聖剣の特性がシャルシャガナの本質の片鱗を呼び覚ましたのだろう。

「炎のエクスカリバーになったんなら、エクスカリバーの後ろにかっこいい単語つけたら?」

「うーん……師匠は雷属性だから、色々とネタあるけど、私は炎だしねぇ」

「ドイツ語で『エクスカリバー・フランベルク』は?」

『それだー!!』

こうして、シャルシャガナの本質に至った調は自身のエクスカリバーを独自の姿へ変化させる。自身の愛機であった古代ベルカのデバイス『エクスキャリバー』へ思いを馳せつつ、聖剣をなのはに『エクスカリバー・フランベルク』と名付けてもらい、以後はそう称する事になる。切歌が真ゲッターの翼の形状と飛行でオーバーヒートしているのを尻目に、調はこの頃から、古代ベルカの騎士であった頃の誇りを徐々に取り戻し始めるのだった。



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