外伝その157『ティターンズの残光とネオ・ジオンの中興』
――地球連邦軍はZZ系統の発展機と量産機を諦めてはおらず、あの手この手でねじ込もうとし、ZZのPlus化までも実行していた。TMSが未来世界では『華やかりし』世界であるため、ジム系MSの迷走と打って変わって、TMSは傑作機が次々と生まれていった。ロンド・ベルが任務の必要上、TMSを求めるためである。アナハイムの歴代可変ガンダムをベースにすればいいので、比較的良好な機体がバシバシ造られていった。ロンド・ベルは特権を利用し、優先配備をされているため、武子が持ち込んだラー・カイラムの格納庫はその試作機の宝庫であり、アストナージがメカニックリーダーとして派遣されていた。非可変機ながら、Zをベースにした『ライトニングZ』もあるので、Z系の見本市のような様相であるが、量産型νガンダムもある――
――ライトニングゼータは武子用に指揮官機としての調整が施されているが、黒江と黒田が使う事も多く、黒江が怪人軍団を抑えている間は黒田が使用していた。そのため、ティターンズ本隊との交戦では事実上、ウィッチ兼任のパイロットとしての代表格になっていた――
『邦佳ちゃん、ここは任せろ!サンダーボルトブレーカー!!』
援護に駆けつけたマジンエンペラーGがサンダーボルトブレーカーでティターンズ本隊のモビルドール化された一年戦争中の機体らを蹴散らす。ライトニングZはカミーユの乗るオリジナルと火器は共通のものを使っているが、Zガンダム用のEパックはシールドに二個しか携行出来ないので、スーパーロボットが戦地に補充を届ける事もままあった。(昨今はビームシールドの量産型も普及しているので、ジェガンなどのビームライフルでは火力不足が指摘されているため、ビームバズーカをオプション化する機種も増えてきている)マジンエンペラーが届けたパックをシールドに取り付け、モビルドール化された陸戦用ジムに発砲する。陸戦用ジムは一年戦争中は重装甲で鳴らしたが、現在ではジェガンと大差ない程度の強度であり、ロングライフルならば一撃で貫ける。あくまで実体弾想定の装甲であるからだ。
「ええい!」
陸戦用ジムはビームに制御中枢であるコックピットを貫かれ、沈黙する。陸戦であるので、黒田は立膝撃ちの体勢で放っている。無人とは言え、山間の市街地での戦闘なので、Z系にしては泥臭い戦に用いている。陸戦では、機体強度と整備性の関係もあり、ジェガンが多数稼働している。180ミリキャノンを用いる支援部隊のもの、ジム・ライフルを使う部隊、ツイン・ビーム・スピアを持つ玄人の部隊など、多種多様な武装のジェガンが見られる。これは一年戦争以来のノウハウと、武器の管制OSの規格が一年戦争から細かいアップデートはあれど、基本は共通しているので可能な芸当だ。小型機はV系以外は綿密なメンテナンスを必要とする事や、各部強度がステゴロも好むパイロットの要求には届いていなかったりしたので、地球連邦軍でさえも嫌われる傾向がある。
「ふう。敵はモビルドールを使ってきましたね、鉄也さん」
『こっちもビルゴ系を在庫処分も兼ねて使ってるから、お相子だな』
スーパーロボットはステゴロでのMSの始末も任務の内だ。ダイモスが持ち前の空手で倒していったりするのも、MFからのスピンオフの導入の方向性を定める上では、重要なデータである。ジオンとの基礎技術の差がここにきて顕著になり始めたのは、地球連邦軍は最新技術をアナハイムからドンドン得られるのに、ジオンはグラナダが非公式に協力したり、ブッホ・コンツェルンの生き残りがビームシールドをもたらした程度である。しかし、ジオンはパイロット技量の平均が高いため、ビームシールドをシャア専用機でも使わない。ジオンはMSを考案した軍隊であるので、ビームシールドをステルス性の観点などから使用しない傾向があった。それとビームトマホークをシールド代わりに使用している事もあり、ビームシールドは顧みられない。これは一年戦争時のMSすら現役機であったためだ。(そのため、火星に逃げていた一派がギラ・ドーガのフレームを使い、外見を一年戦争のMSに似せた『RFシリーズ』を使用しているのに目をつけた本隊も採用するという、泥縄式の機材更新となったとか)その首魁であるシャアは、アルトリアのエクスカリバーを弾いた後、ダイ・アナザー・デイの様子を確認すべく、かつて、自らが叩く側であったはずのティターンズ側を利用し、サブフライトシステムにシナンジュを載せて偵察していた。鉄也たちは気づいていないが、シャアは彼らの上空を飛んでいたのだ。
「ほう。あれが剣鉄也の新型マジンガーか……。マジンカイザーの系列機のようだが、派手だな」
かつての自らがド派手で鳴らした百式に乗っていた事は棚に上げているシャア。アムロが聞いたら呆れるだろう。シャアは一年戦争の頃の目的がいつしか自己顕示欲に転じたか、リックディアスが赤で統一されたからって、金色の百式に乗るほどであると、地球連邦軍では噂が立っていた。噂の出処は旧エゥーゴ系の部隊だ。最も、百式は当時の未熟な対ビームコーティング技術の被膜の関係で金色になったのも考慮しなければならないが、シャアは百式を赤く塗りたかったともいうし、アムロは『奴は百式の性能にはケチはつけていなかったが、色に大いに不満気だった』とも証言している。シナンジュは本来、彼を模した強化人間を乗せる計画があったが、地球連邦軍がデューク東郷にその強化人間をプラントごと始末させたので、帰還した当人に回ってきた経緯がある。ガンダムタイプの特性が残るシナンジュを嫌うシャアは、ナイチンゲールが使用できない局面での代打としか考えておらず、アムロのνガンダムの後継機とは、サザビーとアルパ・アジールの折衷的発展機『ナイチンゲール』で雌雄を決したいという本音がある。だが、いくら自分の機体の質が高くとも、それ以外のMSのグレードがせいぜいギラ・ズールでは、軍隊の能力が頭打ちになるのは目に見えている。シャアの悩みはそこだった。かつての高機動型ザクとゲルググ相当のエース専用高級機を求めているのがネオ・ジオンなのだ。ローゼン・ズール、ヤクト・ドーガなどの機体は貴重だし、当時にアナハイムの協力で搬入されたクシャトリヤはクイン・マンサ後継に相応しいが、パイロットがプルのクローンという点で、シャアは不安視している。そのため、シナンジュの慣らし運転を名目に、自分で偵察に出ていたのである。
「連邦軍もジェガンを稼働率の都合で退役させておらんか。こちらのギラ・ドーガと事情は同じだな」
シャアはシナンジュの高性能メインモニターで解析しながら、戦場を偵察する。基本的に連邦軍の組織同士の戦であるので、戦場のMSの多くはガンダムタイプ、その派生タイプとジム系である。モビルドールを省けば、である。それ以外の兵器は基本的に時代相応の兵器と21世紀水準の兵器が入り乱れる様であり、ティターンズも兵力を確保するため、時代相応の装備を相当数用意したのが窺える。また、戦場では、時代相応と言っても、大戦後期相当のレシプロ機(F6FやF4U)やP-80にウィッチが翻弄される様子も映る。
「ふむ。あれはF-80…だったか。士官学校時代の教習で見て以来か。あれでも、この当時であれば第一線任務に耐え得たのだな」
シャアが見たのは、この当時としては最新技術の塊であった『F-80』ジェット戦闘機である。直線翼という、当時としては至極当然の構造を持つ飛行機であるが、ジェット機であるので、時速960キロ台を誇る当時のリベリオン本国側の実用化した機体では最高性能機であった。当時の自由リベリオンは既にF-86を配備仕出しており、F-80は既に旧態依然としていたが、当時の平均的ストライカーを使用する平均的技量のウィッチを圧倒するには充分な性能があった。加えて、ウィッチが陥りがちな個人技での空戦を編隊空戦で封じ込め、圧殺する様子をシャアは目撃する。
「編隊空戦のセオリーをよく守っている。ティターンズも戦技教育には力を入れているようだな。機体設計技術で連邦の肩入れしている側に劣る事はよく分かっている。さて、ティターンズにこれは貸しにしておこう」
かつて自らが叩きに叩いたはずの組織を利用し、連邦軍が自分達を狩る戦力を削ぎ落とす事を実行しているシャア・アズナブル。彼はアムロに『貴様とあろうものが、なんと器量の小さい!』と罵られたほど、意外に人間臭い面があるが、組織運営は水準以上の才能がある。ネオ・ジオンの規模を建て直すのに、かつての仇敵をまんまと利用する強かさを見せるシャア。ティターンズの残光はネオ・ジオンの露払い。これはどこかの世界で『旧きジオンの生き残りはクロスボーン・バンガードの露払い』としかブッホ・コンツェルン側に考えられていなかった事を考えると、実に皮肉な構図でもある。ティターンズは元は地球連邦軍でありながら、賊軍のレッテル貼りを受けた。それを認めない者達の最たる者がネオ・ジオンに尻尾を振った連中であるが、ニューディサイズのように、ティターンズではないが、ティターンズの大義に散っていった高潔な者もいた。シャアは曲がりなりにも元はエゥーゴを率いていた人間だが、ウィッチ世界で戦うティターンズは自分らに媚びてきた下衆な連中とは違い、ニューディサイズに近い高潔さを感じさせ、軍人としては尊敬に値したので、援助していたのだろう。その証拠に、彼らはネオ・ジオンの高性能MSがもらえていたりする。連邦に切り捨てられた者、宇宙時代で連邦へ最初に立ち向かった者の奇妙な友情とも言うべきか。
――ティターンズとて、自らがジオン化している事に気づいている幹部は多いが、もはや後戻りは出来ない。手段が目的化した今となっては、この世界で一旗揚げて死んでいこう。それがティターンズの源構成員の行動原理になっていた。ウィッチ世界としては大迷惑な行動原理である。滅んだ軍隊の生き残りにより、世界が細分化され、他世界での歴史の流れが引き起こされていく。太平洋戦争、東西冷戦、それにより引き起こされる特定国家の分断とある国の超大国化。リベリオンがティターンズに制圧され、『東西ドイツ』、21世紀世界のあれこれの介入でオラーシャが革命時のロシアの混沌の役回りとなってしまった以上、超大国の役目は日本連邦が担うしかないのだ。キングス・ユニオンは20世紀後半の超大国たり得ない。ブリタニアが概ね、連邦を維持できても、イギリスの方はもはや大英帝国の面影なき老大国であるからだ。日本連邦は政治的・軍事的に一体化が進められた恩恵もあり、日本にも多大な恩恵をもたらす。それが表れるにつれ、日本はウィッチ世界で製品や技術を売りさばく一方、平時になれば、双方の行き交いや交易が活発になる事に気づき、戦争を終わらすためにも、自分達の最新技術をどんどんウィッチ世界に流していく。ダイ・アナザー・デイで自衛隊が参戦したのは、防衛省や防衛産業にとってのセールスデモンストレーションでもあった。旧軍兵器に比しての高性能と安定性をアピールするつもりだったが、実際は異なっていたのは周知の事実だが、自衛隊にとっては。調達する装備の単価を下げる目的が多分にあったのだ。特に、戦車や小銃などの単価を下げたいし、旧式化した74式の処理費用に困っている陸自が一番乗り気である。空自は比較的優遇されているが、将来の連携を見据えて。海自は戦術や戦略面での統一を目論んで。特に海自は、扶桑が独自の戦略ネットワークを用意している事を羨ましがっており、戦艦や重巡洋艦、空母も組み込んだ近代戦システムを欲しがった。当時、扶桑のCIC導入の進み具合は、M動乱で改修された艦に限られており、特定の部隊に負担がかかっている。特に海自から見れば、いくら相手に同規模の戦艦がいるからって、わざわざ連合艦隊旗艦が自ら戦場で戦っているのは情報処理能力の無駄使いと考えていた。三笠型の情報処理能力は21世紀のいずも型護衛艦をも凌ぐので、それなのに、なんで砲撃戦をかましてゆくのか、と。扶桑の大和型以降は改装で23世紀の光速でかっ飛ぶ宇宙戦艦の機能を持ったので、アウトレンジ攻撃が真に可能である事、その能力ならば、艦隊統制と戦闘を同時に処理できるので、ある意味では地上で宇宙戦艦を使うに等しい。そのため、大和型の本来の『アウトレンジ攻撃』の目的は23世紀技術でようやく、真に実現可能になったと言うべきだろう。日本の一般人向けのリップ・サービスも多分に含まれていると扶桑は説明している――
「君たちの国のマスメディア向けの宣伝だよ。君らの国は指揮官先頭の伝統が妙な解釈をされているからな」
「小沢長官、どういう事ですか」
「君らの国の指揮官への見方が東郷平八郎閣下が存命であられた時代のままということだよ」
「それは……」
「一般人の戦争への認識が日露戦争から進歩しておらん、いや、むしろ退化しておるよ」
小沢は戦争から遠のき、すっかり戦場の進歩に無関心な日本を揶揄する。小沢や山口もそうだが、空でも黒江や智子ほどの地位ある人間でも前線で戦うことを余儀なくされているからである。戦線で将軍や元帥が前線で指揮を取っているのは、日本の軍隊へのネガティブなイメージの流布を覆すためでもあると。
「君らの国のマスメディアが悪評を流布するものだから、こちらはウィッチの志願数が落ち込み、将校も前線でヒーヒー言って、作戦会議どころではない。前線の兵隊の労苦と言うが、後ろでモノを考える者がいなければ、軍隊は行動もままならないんだがね」
小沢は言う。ウィッチ志願者の数はもはや見る影もないほど落ち込み、将校であろうがなんだろうが、前線の労苦を味わえと言わんばかりの報復人事をされ、肝心の作戦会議は殆ど開けていないと。
「それと、今村さんや山下さん、本間さん、宮崎さんの方面から『作戦参謀がうつ病状態になるから、マスコミを黙らせてくれ』と伝言がある」
ダイ・アナザー・デイに従軍した陸軍高官達が頭を抱えているのが、日本マスメディアの誹りである。恩賜組の参謀が『ペーパーテストしか優秀でない頭でっかちの無能』、『戦う戦場をまったく知らない秀才が、点数稼ぎの上手いだけの参謀が、机の上だけで考えた必勝の策なんてロクなものじゃない!』と罵られ、うつ病状態に陥るケースが多くなり、仕方がないので、黒江達が臨時で参謀任務まで駆り出される始末である。そのため、作戦参謀が代々の恩賜組であった扶桑陸軍は大パニックであった。実戦経験がない参謀達は無能だから排斥しろと言われたも同然なのだ。この時期の軍病院の心療内科の病棟は参謀畑を歩んできた軍人たちで六割が埋まるとまで言われている。黒江達が多忙を極めたのは、戦うだけでなく、戦いながら参謀の任務を通信で勤めているからで、金鵄勲章が功一級に跳ね上がり、慰労金が特に高額になった背景はこれである。作戦会議に常にレイブンズの誰かかしらがいる理由は、日本の誹りで参謀達が尽く、うつ病に罹患していたせいであった。代表的なのは、エリートコースを歩んでいた晴気誠少佐だろう。陸軍大学校卒業(53期、恩賜)の経歴ながら、サイパンを守れなかった事を誹られ、うつ病を発症。黒江達が急遽、本間中将と山下大将の要請で臨時参謀になったのは、彼がうつ病を発症して、作戦直前に入院してしまったためだ。その時、黒江は『おっちゃん、私達ゃ航空畑だよ』と嫌がったが、山下大将が『参謀連中が尽く入院しておって、大本営はなり手がおらんのだ!自衛隊で幕僚課程取った君ならできる!』と懇願したのを見かねて引き受けたのだ。実際、生え抜き自衛官が旧軍将官の参謀を引き受ける事は、設立間もない日本連邦では控えられる傾向にあり、ダイ・アナザー・デイで黒江が参謀を任せられたのには、止むに止まれぬ事情もあった。日本では空将だが、扶桑では、作戦中であるので、大佐待遇のままだ。少将にしようとしたら陸士/兵学校の教官らが文句をつけてきて、扶桑の皇居で昭和天皇が『私が約束した事を実行して、何故悪いのか?』と質問しているところだろう。
「今、本土では聖上が兵学校や陸士の教官連中を呼びつけて叱責している最中だ。黒江くん達を将官にするかどうかで反対論が出たから、聖上は意思を押し通すつもりだ」
小沢の言う通り、扶桑の皇居では、陸士/兵学校の教官らがまとめて皇居に呼びつけられ、天皇陛下に質問されている。皆、軍服の背中に冷や汗をかきまくっている事だろう。黒江達、扶桑海三羽烏を天皇陛下は『娘』のように可愛がっており、黒江がいじめられた事件の際は航空審査部の存廃にまで触れ、かの部署を震え上がらせている過去があるからだ。
「おそらく、反対論の連中は職の解任ですめばいいほうだ。下手すれば大佐に降格もあり得る。聖上はいたく入れ込んでおいでだからな」
「なぜ、お上はそこまで?」
「1930年代の末の事だ。当時、若手だったあの三人は当時の事変の終結に中心的な役目を果たした。その頃に海軍強硬派が最初のクーデターを起こしたが、三人と、三人に親しいものたちが鎮圧した。私はそれ以来の付き合いでね。あの三人は近来でまれに見る忠臣だよ」
小沢はレイブンズとはそれ以来の仲である事を告げ、推薦状も書いていたと告げる。昭和天皇に出されていた推薦状は小沢、山本、井上、山口と、4人の海軍高官、陸軍は宮崎、栗林、本間、山下、今村といった高官らが推薦状を出しており、鈴木貫太郎や岡田啓介も推薦しているのだ。なのに何故反対論が噴出するのか、と。陸軍側の推薦者が改革派に属していた者達であり、陸軍で疎んじる声がある者達であったことも反対論の理由の一つであったが、当時の生存する海軍兵学校卒の最長老たる鈴木貫太郎、岡田啓介(鈴木貫太郎はこの当時、江田島に兵学校が移る前の記憶を有する最後の海軍軍人でもあった)が推薦状を書いていた事が反対論者には命取りだった。
「ああ、そうか。聖上は多少、彼らに配慮したか」
通信が入り、小沢は返事を返す。本土での皇居での拝謁の結果、准将を置くことを決意したと通達があったからだ。彼らの懇願と、少将に任ずるには若すぎるという扶桑軍の最もな渋る理由、仲裁に入った陸自のウルトラCなアイデアが絡み合った結果が准将なのだ。参謀本部は自分たちのメンツの問題で、日本側に問題の責任を押し付ける文面の記録を残したが、実際はこの通りである。准将は『功績ある若手軍人の押し込め先』という官僚組織の都合で造られた階級だが、自衛官にとっては一佐(一)が将官になれる大義名分を与えてくれたので、バカ受けだった。日本側の人事院に記録が残ることを知らなかった参謀本部は二代目レイブンズの時代に恥を晒しているが、それは二代目レイブンズらが知っているだろう。
「准将が置かれる事になった。参謀本部が納得せず、自衛隊が仲裁した結果、准将を置くことになった。そちらで空将になった黒江君の事で揉めたらしいよ」
黒江は自衛隊で将に昇任していたので、参謀本部も流石に佐官待遇のままにはできなくなったのがわかる。作戦終了後に叙爵もセットであるので、准将昇進時に功績があれば、叙爵も夢ではない』という不文律ができたのも、黒江の功績だ。自衛隊での統括官という職責に見合う勤務階級という事で、実際の勤務階級と待遇は中将相当であり、階級章も中将のそれである。そのため、准将というのは、人事院の記録でのみとなった。給金も中将のそれになったので、一気に跳ね上がる事になった。黒江がこの年を境に、金欠から抜け出したのは叙爵などで金回りが良くなり、資産運用を黒田が引き受けていたからだ。(戦争中からは軍人の給金が一律でウィッチで無くても高級取りになるように改定された上、危険手当などで富裕層になる軍人も増えた事で、軍人の志願数は安定した。これは以前の状態では、軍人の給金が大正期以後のインフレに追いついていなかったためである。日本が給金基準を定め、扶桑側もそれに従ったので、扶桑から見れば超高級取りになった)これは太平洋戦争の敗因の一つが薄給が原因だと指摘されたためだが、扶桑としては財政的な問題があり、日本連邦になっていなければ、実現は困難であったとされる。特に、黒江たちなどの統合戦闘航空団在籍経験者は通常ウィッチよりも高級取りだったからだ。貨幣価値の違いもあり、黒江達に必要な給金は日本側の貨幣価値で換算すると、120万(危険手当がつくと増加する)を超える。それを扶桑での貨幣価値に換算すると……。
「君らの国は軍人の給金を上げることで士気を上げたいらしいが、こちらの大蔵省がぶーたれておる」
「仕方ありません。こちらでは女性が権利を高らかに主張するので、女性受けも考えなくてはなりませんから」
「女受けか。我々の世界では、元から女性の権利は森蘭丸のおかげで、相当に持っているののだがね」
ウィッチ世界は近世に森蘭丸が織田信長の死を防いだ影響で、元から女性が史実よりだいぶ強い。その歴史を顧みない日本側にも非はある。また、生え抜き女性自衛官が扶桑軍人の自衛官に比べ、少ない故の競争意識も問題になっていた。この当時、扶桑軍人の自衛官は戦功も立てて普通の自衛官では考えられない速さで昇任できる。人数は黒江が潜り込んだ当時と比べると格段に増えていたが、戦功で昇任が可能な扶桑軍人に比べ、昇任が年功序列気味の生え抜き自衛官は不利だった。そのため、野党からは2016年前後から攻撃材料にされだした。また、ダイ・アナザー・デイが行われている2018年前後では、防大にストライカー同好会が出来ており、ウィッチの素養がある者はそこでストライカーを動かす経験を積み、その同好会在籍経験者は扶桑に優先的に送られるのが不文律だった。だが、どこにでも問題視する者はおり、フェミニスト団体などから叩かれており、日本は内輪での問題処理に追われていた。また、女性団体からは『逆差別だ』と、ウィッチの優遇を叩かれており、扶桑は日本国民の身勝手に振り回されていた。そのため、ウィッチの佐官以上の士官は『勤務階級で、実際は大尉です』で押し通したが、それが今度はクーデターに繋がり、日本側の要請での大規模なウィッチへの粛清人事(アリューシャンへの島流しか、網走刑務所の奥深くに投獄)に繋がり、その埋め合わせに、再結成された64Fが異常に豪華になるのだ。つまり、日本はウィッチという存在への懐疑心と、日本での二大クーデター事件の教訓から、『叛逆には情けをかけるな』と言わんばかりに軍法会議後の投獄、あるいはアリューシャンへの島流しに血道を上げたが、太平洋戦争でそのツケと言わんばかりに海軍航空が弱体化、64Fが戦線をあの手この手で支える羽目に陥る伏線となる。
「この戦が終われば、太平洋戦争だ。それが終わっても、まだまだ終わらん。それは皮肉なことだが、君たちの世界が証明している。そのためにも、レイブンズの存在を誇示せねばならんし、この艦が戦線に立つ必要があるのだよ」
小沢はそう言うが、実際には更なる巨大戦艦が始動し、既にプロジェクトが動いている状態なのは隠していた。『敷島』。ヒンデンブルク号をも超えるだろうドイツの超巨大戦艦に対抗するための『レヴァイアサン』。それが三笠型すら超える真の最大最強の超巨大戦艦として産声を上げつつあった…。そして、富士のCICのモニターに映るヒンデンブルク号は、そんなレヴァイアサン同士のぶつかり合う『あり得ないははずの大海獣の死闘』の時代の到来を予感させていた。
「あの艦は?」
「ヒンデンブルク号。我が播磨型と三笠型のライバルを目されているナチス残党の軍艦だ」
「ナチス!?」
「正確にはショッカーの系譜の組織が運用しているがね。48cm砲を積むドイツの生み出した大海獣だ」
あしがらから派遣された自衛官はモニターに映し出される、ヒンデンブルク号の威容に息を呑む。ドイツにこのような戦闘艦が作れるのか、と。大和を全ての点で凌ぐ戦艦が存在した事を自衛官は信じられないようだ。そして、富士はそれと戦うために造られし存在であると。そして、大和などを率いて戦う事が存在意義の発露であると言わんばかりに、富士は56cm速射砲を指向させる…。
――1946年度『不埒事件顛末』――
海軍ウィッチ、待遇の変化や扶桑海三羽烏ら前世代ウィッチ優遇に大いに不満、決起。鎮圧後、その巣窟と見做された海軍ウィッチ隊は幹部の殆どは網走刑務所に収監(比較的階級が低い尉官で、若めの要員は司法取引をした)されるか、アリューシャンに島流しされ、海軍航空ウィッチ隊は存亡の危機に陥る。首謀者は天皇陛下への申し開きとして、『何故、訓練もせず、市民に愛想をふりまく連中に発言権があるのです!』と述べたが、その場で憤った山下大将に全力で殴られ、収監以前に入院を余儀なくされたという。軍はクーデターの原因がエクスウィッチと見做されていたレイブンズの優遇にある事から、レイブンズが往年に誇った神通力は完全に復活しており、現役ウィッチに待遇を戻している事を全軍に布告し、彼女らの超絶的ハードトレーニングをプロパガンダする事で、現役ウィッチ達の不満を抑えにかかる。その際に智子が『私達の空への夢に賭けた血潮、真っ赤な限り、レイブンズは蘇る』という、どこかで聞いたような趣旨のコラムを新聞に出したという。(そもそもGウィッチがRウィッチから進化した存在である以上、世界的には奇跡と言っていい確率の産物であるが)――
――智子は事件を振り返る記事を締めくくるコラムの文面が書けずに悩んでいたところ、某スポ根野球アニメの続編のEDテーマから閃いたという、黒江が爆笑ものの経緯がある。黒江はネタにしてからかい、『智子にコラムは無理だナ』と、わざとエイラ風で述べ、智子にオーロラエクスキューションを食らわされたとか。黒江も智子の次の番の時、地球連邦軍などが撃墜王の文化を持つ以上、エースパイロットの存在の誇示は組織的な拮抗と対抗上、どうしても必要になるというコラムを新聞に寄稿し、エースの存在を認めるように煽動するのだった。これは奇しくも、敵機撃墜を共同撃墜としてきた海軍の文化の衰退を起こさせ、対外的には撃墜王をアピールして統合戦闘航空団への派遣枠を確保してきた海軍航空隊の矛盾を突いていた。また、航空エースだけでなく陸戦でも勇敢に戦い、戦功を挙げた者もまた評価されるべきだろうとも言及し、これが後に功労章創設の大義名分に使用される。黒江は自身の自衛隊勤務経験から、『戦功章貰ったヤツは官報に大文字で載せたり新聞に情報流せ』と遠回しに言ったわけで、自身が昭和天皇のお気に入りである事も最大限利用している。黒江は事変、ダイ・アナザー・デイで戦功を立てた事で、扶桑史上最年少の将官の地位を手に入れるが、政治的事情で少将ではなく、准将となる。これに不満気な昭和天皇だったが、周りは『いくらなんでも、20代で少将は…』と止めたのだが、天皇陛下の言葉が嘘だと不味いという政治的事情から、准将を置いた。つまり准将は扶桑の出る杭は打たれるの諺と黒江の戦功とで悩んだ末に陸自の提言が採用されたわけである。(旅団長クラスの少将で提言した者はもれなく准将に再規定された。(あくまで任務に適した階級の再規定で有って降格ではないとか言う言い訳)これにより、レイブンズは全員が准将と爵位、高位の金鵄勲章、作戦の従軍記章を得たわけだ。また、坂本は金鵄勲章を受賞する際に第一線から退く旨を天皇陛下に伝えている。クロウズでは最初の引退表明というわけだ。海軍はこれがクーデター後初の誤算とされる。クロウズがレイブンズのカウンターとして機能することを期待していたからだ。しかし、その目論見は井上成美が空軍へ移籍する際に、クロウズの残りを空軍へ引っ張っていった事で脆くも崩れ去る。だが、この時に坂本が教官/空母エアボス(出向で64の飛行長兼任)になった事で、そう遠くない未来、芳佳の子『剴子』が二代目として、クロウズの衣鉢を継ぐ事になるのだ。そこまでにレイブンズはウィッチを、前史でもいた怪物『三輪』からウィッチをどう守るか思案し、第二次扶桑海事変にあたる1957年から1958年までの戦いの終了後に数年間は日本で雌伏の時を過ごす事になる――
――今回は太平洋戦争の期間が伸びた事で、全体的に歴史の流れが遅くなり、三輪の権勢も数年間のみとなる。そのため、前史より全体的にウィッチにとっては良好な流れのままであり、本格的に弱体化する前に江藤/北郷世代が中枢に登り詰めていく中興の時代を迎える事になる。太平洋戦争が黒江達の予想以上に長期化するせいである。それは日本が太平洋戦争の復讐と言わんばかりに、リベリオン大陸の打通作戦を目指したせいでもある。また、ニューヨークやワシントンなどに戦略爆撃機をバンバン飛ばし、作戦に動員された戦略爆撃機はのべ3000機を数えたという。そして、この時に死闘を繰り返した64Fもかなり消耗し、終戦時までの離脱者は15人を超えたという(武子の療養時の代理で送り込まれた代理の隊長代理を複数含む)。そのため、後期に送り込まれた隊長代理で激戦を無傷で生き延びたのは、武子の復帰後に智子の配下になった広瀬吉子大佐、黒江の配下になった宮辺英子大佐などだけだった。戦隊長経験者が前任者の復帰で降格人事になるのは64F特有の現象だった。部隊の通称は代理者の着任中も「加藤隼戦闘隊」、「軍神部隊」が維持された。隊長代理を勤めた者達で、戦後も在籍した者は『レイブンズの配下になったほうが気が楽でいい』と述べている。武子は激戦で負傷し、療養のために隊を離れた事が何度かあり、戦後に定年になった江藤の後を継ぎ、空軍司令官になるまで、同隊隊長の任を続ける。その後は黒江、智子が順番にその任を受け継いでいく事になる。二代目レイブンズの時代には、武子の孫『美奈子』がその衣鉢を継いでいる事からも、隊の隊長の地位はレイブンズの血縁者か、その友だった者の子孫に約束されし地位として、レイブンズの在籍時の慣習が残ったらしい――
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