外伝その185『大空中戦7』


――空中では、義勇兵の乗る紫電改、烈風、零式二二型/五二型などが戦いを行い、それぞれ分担された敵機を邀撃していた――


―上空――

「こちらA空域。敵戦闘機多数確認、これより交戦に入る」

「こちらB空域、B公を視認。落としにかかる」

扶桑本土に置かれた連合軍参謀本部では、コンピュータのモニタに現地部隊の様子が映し出されていた。前線配置の航空隊は殆どが兵力に余裕がある扶桑軍と元日本軍将兵中心の義勇兵達で賄っており、連合国軍の疲弊度の高さを窺える。特に本土が近いはずのブリタニア空軍がスピットファイアは愚か、ハリケーン戦闘機すら出せないあたり、リベリオン軍の侵攻を恐れている証であった。その一方で海軍は虎の子のシービクセン改(機銃追加型)を投入するなどの気合が入っていた。シーフューリーも投入されており、空軍の及び腰に比較すると、予算獲得のチャンスと言わんばかりに贅沢に兵器を投入している。実際、ブリタニア海軍は空母は史実ほど整備されていないが、その分、当時としては大型とされる『オーディシャス級航空母艦』がコロッサス級を生贄にする形で前倒しされており、それにシービクセン改は搭載されていた。イギリスの技術供与で実現した『オーディシャス級航空母艦』の前倒しだが、艦容は史実改装後のものであり、戦艦を重視した代償としての意味合いが強い。イギリスの専門家はランカスター爆撃機を削減して、空母に回したほうがいいと提言しているが、ブリタニアにオラーシャから分離独立した国々の富がもたらされた福音もあり、無事に両立させた。また、アブロ社はランカスターの後継機にあたる『バルカン』の製造をブリタニアで担当する事になり、ランカスターからの置き換えを目論む空軍の思惑が透けて見えた。また、戦艦が結果として増えたため、戦略爆撃機の定数が削減される事になったのも、バルカンを欲しがった理由である。これはランカスターの一機当たりの調達費は1945年当時の金額で『駆逐艦と同等以上』であるため、ブリタニアは調達数の削減を質で補おうとし、史実の3Vボマーを前倒しすることを選び、飛天を生産し始めた日本連邦への対抗軸とした。結果としては空軍のジェット機である『ジャベリン』、『ライトニング』の調達に時間が取られた都合もあり、ブリタニア空軍に余裕がなかったというのが実情である。ブリタニア空軍も、相応に犠牲は払っており、ブリタニアでランカスターの性能向上型として用意中の『リンカーン』の中止と3Vボマーへの転換、工具の更新も入ったからだ。

「ブリタニアは3Vボマーを買うそうだが、工具まで更新せねばならんから、本格配備は数年後だそうだそうだ」

「そりゃそうだ。あの三機種に対応するインフラ整備も必要だからな」

「おかげで作戦はこちらが受け持つ事になったが」

「ガリアは?」

「トマホークミサイルの着弾でなけなしの稼働機が失われて、組織的行動が不可能になった。あそこの疲弊度からすれば、手を引くよりはマシか」

ガリア空軍は集結していた基地が運悪くトマホークミサイルの標的にされ、多くの稼働機が失われた事から、組織的行動は不可能となり、以後は有志の参加がある程度であり、それもド・ゴールの基地選定ミスであった。

「戦況は?」

「統括官からの報告によれば、敵の空軍は一回あたりの空襲に150機は出してくるから、未来兵器でやっとトントンだそうだ」

自衛隊から出向している幕僚達の言うように、敵は物量作戦で攻めるので、未来兵器の使用は公然と行われている。また、ブリタニアや扶桑も先行配備された戦後世代の戦闘機の運用テストを行っているので、質では敵を上回っているのは確かだ。

「扶桑がわざわざ翔鶴や大鳳にF-8を積んだのは、質で物量の劣位を補うってアレか」

「仕方ないさ。ジェット化した場合、旧軍式空母では、数が積めなくなる。コア・ファイターでも無いかぎりな」

「元々、旧軍式は天井が低いからな。野党連中が予算の無駄と喚いたのは、ジェット前提の空母じゃないからだろう」

扶桑は自前でジェット空母を造れるだけの技術はこの時点ではまだで、未来世界の住民たちの手で改造されたモノを与えられるに留まっていた。これはそれだけの余裕がある既存空母がないからでもあった。信濃型航空母艦が存在しないため、扶桑で最も大型の正規空母は大鳳型であるが、装甲空母であるので、内部容積が若干翔鶴より狭い難点があり、大鳳型はほぼ作り変えに等しい手間がかかるため、地球連邦軍も改装に難色を示すほどだった。しかし、扶桑が『金に糸目はつけない』とした事もあり、結果としては作り変えに等しい大改装が行われ、ジェット機を30機台積む空母になったが、未来基準では能力の高い空母ではないため、プロメテウス級が購入され、使用されている。日本側は『500mの空母を買っても、1940年代のインフラでは使えない』とし、『張子の虎』と嘲笑の対象と見ている。実際は扶桑は23世紀のバックアップで運用しており、それだけのパイロットを確保できるよう、23世紀で訓練させたウィッチを確保し、パイロットと兼任させている。そのウィッチ達は太平洋戦争のウィッチ部隊の屋台骨となるRウィッチ達であるので、後に、現役世代の肩身が狭くなるとぼやかれることになるが、若年での出世を好ましく見ていない日本にとっては理に適う現象ではある。『功ある若手の放り込み先』を兼ねて、准将の地位を扶桑に用意させたというのが、日本のホンネであった。准将は最下位とは言え、将官であるし、自衛隊の旅団/師団長の一佐の対外的な階級区分を覚える必要が無くなるという利点から、扶桑の天皇陛下に上奏し、裁可してもらった。ちょうど黒江の少将任官に反対が出ていたところにつけ込んだ形だ。つまり、扶桑の天皇陛下は黒江に『少将にしてあげる』と約束していたので、反対する陸士/海兵教官の任にある将官たちに不快感を顕にしていた。『国家元首である私が嘘をついたとしたいのかね、君らは』と不快感を顕にした事は、当時の陸軍の侍従武官の小池龍二少将、海軍の野田六郎大佐を顔面蒼白にさせた。事変のクーデター事件以来、レイブンズがお気に入りであるのもあり、国家元首としての意思を全面に押し出されては陸海軍は何も言えない。本来、レイブンズの所属していた陸軍も『当面の間は大佐で据え置いて、30代で少将にする』と考えていたので、天皇陛下がそのような言葉をかけていたのは、全くの予想外だったのだ。そのため、陸軍は天皇陛下の怒りを買ってしまったことに泡を食った上、自衛隊から『黒江は空将補にした』という通達も伝えられたのがトドメとなった。日本側も一佐(一)の対外的な説明のややこしさから、准将位を欲しがっていた事もあり、准将を設ける案は裁可された。また、裁可後に黒江が空将になった事から『中将勤務の准将』というややこしい地位とはなったものの、扶桑軍准将第一号になった。(そのため、黒江は中将として扱われており、正式な階級の准将とは呼ばれない)こうした勤務階級と実階級の乖離は、日本連邦結成前後では珍しくなかった。指揮幕僚能力認定試験の不合格者は実階級が下がっても、現場の混乱防止のため、勤務階級はそのままであったからだ。(佐官勤務大尉の比率が多かったのは、ロジスティックスに無知なウィッチ出身佐官が多かったからでもある)黒江の場合は、『知らない間に自衛隊の最高位に上り詰めてしまったので、准将でも釣り合わない』というものであるので、一番理由がわかりやすい。だが、指揮幕僚能力認定試験の不合格者は実階級の二、三階級降格のペナルティーが課された事を屈辱と捉えたのも、試験を推進させた日本防衛省背広組の誤算であった。

「誰が考えたんだ?そんな馬鹿げたペナルティー」

「若いウィッチが大佐とかにいるのが気に入らない出向組のお偉方だろうな」

自衛隊の扶桑出向の幕僚達は、扶桑軍の大佐などに若年者が多い事を気に入らない出向組の官僚が齎した混乱をそう評し、呆れ返った。大佐になると、戦後の警察では警視正/警視長に相当するとされるため、ウィッチでそこまで出世した者は警察系官僚の嫉妬を買いやすかった。そのため、試験を行うにあたり提案された当初の案はウィッチの中枢からの排除の考えが露骨に表れていたのは、部内では有名だ。官僚達は『現場で働く尉官を選別する』意図があったが、実際は佐官も相当数がいたため、混乱を助長した結果となった。そのため、佐官勤務尉官が大量に発生してしまったが、Rウィッチの普遍化で階級規定の再構築が必要になったため、あながち間違ってもいない。そのため、扶桑ではウィッチ社会が再構築され、Gウィッチを最高位にしたピラミッド型の階層社会となり、以後定着する。後の世(二代目レイブンズの頃)に、『この時の現役世代のせいで、現役ウィッチの肩身が狭くなった』と恨み節があるのは、太平洋戦争からの流れの国難でGウィッチやRウィッチが屋台骨になったという実績、GウィッチがY委員会評議員でもあるために、扶桑社会で絶大な影響力を奮ったためである。エクスウィッチとして『お局様』扱いでやっかみを受けていた意趣返しとも言えるが、この時の現役世代は口の割に仕事をしない者が多かったため、後の世代に『国難に立ち向かわなかった臆病者』とやっかみを受ける羽目に陥る。それはとうに引退したはずのレイブンズが率先して前線に立っていた事を軍部が『ウィッチの模範』とした事に反対した事で、後の時代で厄介者扱いされてしまう事であり、彼女らは中国で言うところの紅衛兵のような不幸を味わうことになる。(わかりやすくいうと、前の世代と後の世代に侮蔑され、自分達が順調に行けば得れたはずの地位を後の世代が掻っ攫っていく光景をこの世代は見る羽目になる。)

「現役世代はなんで、レイブンズが無双するのが気に入らない。予算獲得のいい口実なのに」

「統括官は通常ならお局様だそうだ」

「あの年齢で?」

「ウィッチは10代のうちが華、だったそうだ」

「我々にしてみれば、10代も20代も変わらんがな」

「政治家が予算削減したがるわけだよ。それにジュネーブ条約追加議定違反という責め文句が使える。だから、扶桑は統括官を重宝しだしたんだ」


黒江や智子などの45年当時に20代を迎えた世代のGウィッチは、日本連邦体制下では重宝された。10代ではないと言う点で『経験と若さの両立』の良いアピールになるからだ。そのため、調も扶桑の正式な軍籍の取得は『16歳』と説明のできる46年になる。

「確かに。統括官はウィッチとしては高齢だが、一般の軍人なら『士官学校出たて』で通じる年齢だからな」

「だから、自衛隊としての勤続年数と、ここでの金鵄勲章、武功章の受賞歴、恩賜の軍刀の拝領歴が考慮されて、空将になれたんだ」

黒江は自衛隊では任官から十数年で空将になった。旧軍の俊英で、源田実の子飼いという経歴が明らかになった防大在籍中に『あと数人は受け入れるけど、今度から現役者は送ってこないで』と源田がぼやかれた逸話もある。その栄えある叙勲歴に、防大教官達が目を回したからだと、黒江のシンパは明かしている。防大在籍中の頃、すでに特旨で高位の金鵄勲章を叙勲し、武功章も持ち、軍刀の拝領も受けていたからで、周りの学生と同列に扱えない事を意味する。源田実はこのような会話を黒江の身分をバラした際に行ったという。


――2000年の防衛大学校――

「源田幕僚長、いえ、源田大佐。困りますな。こちらの元空将補の同位体かつ、しかも金鵄勲章も武功章も軍刀も拝領済みの佐官を送り込むなど……」

「こちらとしては、小泉又次郎議員のお孫さんの助言もあって、まだ公に出来んのだよ。それに、陸海空が仲良くやれる秘訣を知るために送り込んだのだ。あいつは切れ者だしな」

「だからって、我が校は士官学校課程に相当する学校なのですよ?陸士を卒業済みの佐官級将校に教えられることはあまりありません」

「50年分進んだ軍事学は教えられるだろう?」

「それはそうですが…」

源田に防衛大学校の校長は言う。校長は黒江の経歴に慄いているようである。他の教官達も『普通の若者と違う』と雰囲気で悟っていたが、旧軍の佐官と分かった途端に校長に助けを求める有様だった。『どう教えていいものか』。黒江は元々、航士を優秀な成績で出ている(平時のカリキュラムなので、三年間在籍)ため、基礎的なところは完璧だからだ。

「他国の軍人の視察と思って、普通に授業してくれ給え。それと学生間のシゴキも体感させても構わないが…」

「それは出来ません。加藤隼戦闘隊の先任中隊長経験者に、そんな恐れ多い…」

当時、黒江は防大二年生を迎えていた。しかし、シゴキが通じないことから、上級生も手出しを控えている。独特の殺気を感じさせる鋭い雰囲気があることなどから、上級生が萎縮しているのも事実だ。

「既に実務に出ている将校相手にシゴキをしろなど、学生が萎縮して、とてもとても…」

黒江の真の身分の通達は既に黒江の進路を決定する段階で通達されたため、空自に決定している。陸自は空挺団に欲しがっていたので、抵抗したが、陸軍飛行戦隊の軍人と知らされた段階で手を引いている。また、黒江は持ち前の仕切りで、上級生も逆にしごいており、その振る舞いから、当時の上級生達が黒江の告白時に『ああ、やっぱり…』と薄々、気づいていたとするコメントを出している。黒江の行動の端々が只者ではない事を示すものだった事、上級生がしごいてやろうとしたら、自分がしごかれていたなどの光景が一年生当時からあったからだ。二年生になると、教官達には旧軍人である事は知らされ、空自に引っ張る事が決定していた事、科目で優を取りまくるなど、当時の防大としては久方ぶりに俊英と評価されていた。

「黒江少佐(当時)はおそらく、卒業式で総代をやれるほどの成績を残すでしょう。任官の暁には広告塔になると思いますが、どうなさるのです。女性は自衛隊の戦闘機パイロットには」

「小泉議員のお孫さんが首相就任の暁には、女性自衛官にパイロットへの道を開くと約束された」

「彼が次期総理大臣になる?どういうことです?」

「2001年を迎えれば分かる」

「2001年?」

源田は小泉ジュンイチローが2001年からしばらく、総理大臣を勤め上げる事を示唆した。実際、小泉又次郎を通して、ジュンイチローは密約を結んでいたのだ。日本連邦結成という。黒江が任官と同時に空自で初の女性戦闘機パイロットの名誉を得たのは、ジュンイチローが日本連邦のための種を巻く政策を実行したからだ。ジュンイチローは祖父の同位体の密命を受け、日本連邦結成に向けて、在任中、奮闘した。その最中に『黒江が公安警察にマークされている』という事を知るなど、苦労も絶えなかったが。(2003年頃の出来事で、公安警察はこれで黒江に弱みを握られた)黒江の防大在籍中、教官たちはやりにくいとぼやいており、それも黒江の三期後からの『扶桑軍人の受け入れは士官教育前の下士官に限る』と、防大への受け入れ方針を現場の要請で変えることに繋がる。その代わりに、士官は幹部学校への留学、あるいは現場への出向とされた。(黒江とその直近の潜り込みの数人が防大卒の経歴を持つ事となった)そのため、日本での年月の経過で、扶桑軍人出身者が生え抜きより早い速度で昇任していく事が防衛省の警察出向組(旧内務省閥残党)に危険視され、黒江の空幕就任は潰えた。だが、日本連邦構想が公にされ、それが具体化してくると、日本連邦軍としての制度作りが防衛省の命題となると、今度は日本側にとっての都合が扶桑を振り回す。理由は、扶桑にはあって、日本にはない『元帥』の制度である。





――時代は変わり、日本連邦構想が具体化してきた2012年の政権再交代後の防衛省――

「連邦は具体化してきたが、扶桑にはいて、我が国にはないものがある。元帥だ」

「元帥ですか?時代遅れの制度と思うのですが」

「向こうには大将がゴロゴロいるのだぞ。統合幕僚長でも釣り合うと思うか?それを束ねるためにも、階級としての元帥の復活はやむを得ん」

当時、日本連邦軍の構想が練り上げられていく過程で、どうしても日本側が困った事が、扶桑には称号としての元帥位を持つ大将がいる上、大将がゴロゴロいるのだ。自衛隊は平時の軍事組織であるが故に、将官が扶桑より少ない上、大将と釣り合う職責を持つ将官は各自衛隊の幕僚長と統合幕僚長の4人のみ。しかし、統合幕僚長でさえ、元帥位を持つ陸海軍大将に比べるとインパクト的に見劣りするため、統合幕僚長に元帥相当の職責を与え、扶桑に『階級としての元帥の復活』をねじ込まければ釣り合いが取れない。(その過程で、扶桑軍で功ある軍人、あるいは戦死者の二階級特進制度が将官にまで拡大された)彼らは統合幕僚長に扶桑の天皇陛下に上奏させ、准将の創設、明治期に廃止されていた元帥の階級を復活させるように取り計らった(元帥府はその兼ね合いと、元帥府そのものが形骸化したという理由で廃止される)。この時に元帥に昇進したのは、海軍では、大臣としての功績で山本五十六、長老としての名誉的意味合いで岡田啓介、連合艦隊司令長官としての戦功で小沢治三郎(後、空軍)、空母機動部隊への尽力で山口多聞、教育者/官僚としての功で井上成美(後、空軍)、シーレーン防衛の提唱で、新見政一であった。陸軍は太平洋戦争の経過で日本側に疎まれている者が多いが、比較的有能とされる者が元帥に列せられた。栗林忠道、千田貞季、中川州男、宮崎繁三郎などがそれだ。その一方で、山下奉文は史実の2.26事件への共感を理由に、元帥への昇進は見送られたりしている。本間雅晴は大将への昇進のみで済ませられたり、日本側の評価が元帥昇進への壁になった者もいる。また、史実で関東軍に属していた参謀達は懲罰的に最前線送りにされる、幼年学校卒の青年将校たちは中枢から遠ざけられ、代わりに一般大学→陸士コースの者達が中枢につくなど、日本側の横槍はかなりのものだった。そのため、日本での2012年の段階で、クーデター事件は確定コースであった。

「背広組は扶桑の幼年学校卒の連中を前線で死なせ、その代わりに一般大学から陸士のコースの連中を中枢につかせたいそうだ」

「馬鹿な、それでは傲慢ではないか」

「背広組やあっちよりの連中は幼年学校卒の軍人を『軍隊馬鹿』、『戦争屋』と侮蔑しているのさ。呆れるよ、沖縄戦の参謀は幼年学校卒の連中なんだがな」

制服組は史実の功績を知るため、幼年学校卒の軍人も有能な者は有能と知っているが、背広組や左翼勢力は目の敵にし、『前線で死なせろ』という始末である。また、黒江へのいじめを蒸し返し、扶桑ウィッチ社会を混乱させた自覚がない。扶桑のウィッチ社会はGウィッチとRウィッチの台頭でそれまでの枠組みが大きく崩れ始めており、黒江へのいじめを社会問題にされた事は、結果としては、現役世代の反発を強めた。1945年当時の現役世代は、ちょうどレイブンズの往時の威光を知らず、レイブンズに仕えていた最年少世代が最古参になった時代の者たちであるため、『ロートルを何故優遇する!』という声があちらこちらで生じていた。日本側の蒸し返しは、レイブンズが1930年代末から1940年代初期までが絶頂期とされる世代のウィッチだった事による時代の流れをレイブンズ自身に実感させた。現役世代はとうに引退したはずのレイブンズが何故、機材の優先使用権や高度な人事裁量権を行使できる『特権』を持ち、空軍で幹部に抜擢されたのか?その優遇への反発が逆に自分達の首を締めた。クーデター事件が起きるまでの期間、レイブンズは扶桑本土のドサ回りを命じられたが、発令された当時には、既に真501に着任していた。そこで重宝されたのがどこでもドアだ。黒江が未来デパートから購入したもので、ドラえもんのものよりは多少新しいものの、未来デパートでは『ディスカウント品』扱いされていた。未来デパートの広告曰く、『あっちでもドアの三世代前の大安売り品!』で、価格はなんと1000円だ。ドラえもんの持つモデルよりは多少年式が新しいので、宇宙で行ける範囲が12光年(惑星エデンなら行ける)から拡大しており、銀河系内なら行ける程度に向上している。未来デパートの販売員曰く、『ドラえもん様のどこでもドアは発明されて間もない頃の初期モデルです』とのこと。ドラえもんはタイムパトロールに何度も表彰されているため、小遣いが500円ながら、なんと未来デパートのVIPカードの保有者である。黒江はドラえもんの紹介でカードを作り、2012年の段階では、職場にどこでもドアを持ち込んで、気ままに勤務していた。空将補になり、統括準備室室長に任じられた後はダイ・アナザー・デイまで、自衛官としては暇であるため、統括準備室室長の任についた時に得た自由行動権を使い、勤務時間であっても、どこかに外出している事が多かった。また、政権再交代後の2012年には統括官就任が内定していたため、制服組は統括官と黒江を呼んでいた。また、この段階では、のび太の大学卒業と結婚が控えていたため、ブルーインパルスに自分が作った『ウィッチ部門』をのび太の披露宴に飛ばすつもりであったりする。

「統括官、友人の結婚式にブルーインパルス飛ばせないか、と言ってるぞ」

「国交省に聞いてみよう。ウィッチ部門ならなんとかなるだろう」

この時点ではまだ公表されていないが、かつて東條英機が終戦間際に集め、終戦で消えた幻の部隊『零部隊』の構成員の末裔達がウィッチとして覚醒していた。その一部は既に自衛隊に入隊済みで、防大卒間もない三尉であった。そのため、自衛隊ウィッチの第一世代は零部隊の末裔(曾孫から玄孫)達であった。また、黒江はその段階に至り、東條英機がのび太の世界で『本土決戦の切り札』としてのウィッチを研究していたという事実をひょんなことから知った。ウィッチ部門にスカウトしたある幹部自衛官の曾祖母が曾孫のウィッチ姿を見た瞬間にボケが寛解し、自分は大日本帝国陸軍初の女性将校だったと語りだしたのが黒江が零部隊を調べだす要因だった。そこから数年の時間をかけ、存命していた元隊員を集め、義勇兵にスカウトしていったのである。そのため、ダイ・アナザー・デイに義勇兵として参加したウィッチの少なからずは元零部隊の隊員である。また、調査の結果、零部隊は天皇にも詳細を知らせなかったのが仇になり、本土決戦という死に場所を失った事、女性軍人がいた事そのものを歴史から抹消してしまったことを悔いた終戦後の首脳陣が東條英機の真の遺言に従い、表向きは遺族年金という形で恩給を出すように取り計らった事が判明した。(零部隊の隊員は未婚者も多く、ある者は軍人になった直近の親類がいないはずなのに、遺族年金、あるいは障害年金を受け取っている事を不審に思った子孫達の申告でその事が判明した)そのため、軍部の残務処理を担当していた部署の後身である厚生労働省は『当時の書類に、軍部が零と評していた本土決戦用部隊の隊員の恩給は遺族年金として処理せよ』という内容の書類があったと公表した。厚生労働省は当然の如く、野党に責められたが、『東條英機の真の遺言』の存在が明らかになり、東條英機肝いりで設立されていた部隊があると分かると、左翼勢力は『東條は武装SSを作ろうとした!私兵であるからして…』と攻撃していたが、戦争最末期の設立であり、東條英機は既に失脚した後であると公表すると、彼らは赤っ恥をかいた。日本が戦争最末期に縋ったのがウィッチによる戦闘団であることが突きつけられ、東條は総理大臣を辞しても、軍人としては現役であった当たり前の事実がそこにはあった。そのため、東條は死して70年経った後にも関わず、『女性を戦争に利用しようとした悪漢』と罵られたものの、女性軍人の雇用をウィッチという特殊技能限定でだが、行おうとした点から評価する層に分かれた。日本は最前線に投入しようとしていたため、当時としては先進的と言えるし、追い詰められた末の狂気と断ずる声もあった。ともあれ、日本はこれでウィッチを無意味に冷遇する大義名分を失ったことになる。

「統括官が言っていたが、この国は島国根性が強すぎる。扶桑は織田政権下で傭兵でガッポガッポ儲けて、南洋を手に入れたんだ。そこから理解せんとな」

扶桑は近世の歴史が大きく異なり、覇権国家に結果としてならざるを得なかった。扶桑への理解をしようと努めなかった革新政党への侮蔑意識が、前政権下で苦杯をなめさせられたせいか、制服組にはあった。織田政権と徳川政権の違いは近世にあり、日本は明治維新後は『遅れてきた帝国』でしかなく、緒戦の優位を何ら生かせぬままにアメリカに叩きのめされた。扶桑は日本が近代で悩んだ資源不足が無いため、近世には大国と化した。日本の一部勢力からすれば、『敗北』の味を叩き込む対象にしか見えないだろう。


「扶桑は結果として戦闘国家にならざるを得なかった。我々は太平洋戦争で嵌められた枷に甘んじている。左翼勢力のやることは『全ての扶桑人を見下す』ことでしかないよ」

「だな。扶桑は日本の同位国ではあるが、織田政権が生き永らえ、その結果、円滑に近代化を成し遂げた。革新政党の連中は扶桑軍をどうしたいんだ」

「外征装備の撤廃が目標、金鵄勲章の全廃が目標だったらしい。国際的圧力で外征装備は持つことになったし、金鵄勲章は年金の試算で財務省が目を回したから、維持される」

「金鵄勲章の年金は末端の兵士でももらえるはずだから、試算額が兆でも追いつかんぞ」

「そうなんだよ。扶桑の全叙勲対象者は数百万。インフレを加味すると、下手したら垓に達しかねん」

日本の革新政党は昭和40年代に一時金を出した事を例に、金鵄勲章は瑞宝章に統合し、一時金で利益を埋めるべきとし、政権の座にあった頃、財務省に扶桑の叙勲対象者を調べさせた。ところが、判明した人数は有に数百万人。年金が停止されておらず、現在進行系で運用中である事、21世紀の資産価値に換算した場合、必要金額が軽く見積もってでさえ『兆』、最大で垓に到達しかねない試算が出され、時の総理であった『管チョクト』は目を回したという。結果、金鵄勲章は維持されたものの、戦役中の授与は取りやめられ、終戦後に処理するものとされたため、武功章がなかった海軍を大慌てにさせるのだ。空軍は基本的に陸軍航空の制度を引き継ぐため、設立と同時に大量に武功章を作ればいい話だが、恩賜の軍刀の授与も取りやめにされることが検討されたため、海軍は武功章を作るしかなかったのだ。しかし、空軍設立直後の頃には、技能特優章をつけられる資格のウィッチは二人だけ、武功章も対象者が坂本、北郷、若本の三人しかいない有様であった。海軍は『移籍した出身者に授与できないか』と日本連邦評議会に打診したが、日本側の野党から失笑を買う始末だった。しかし、海軍としては『メンツをかなぐり捨てなければ、空母機動部隊の再建は叶わない』と自刃覚悟であった。ダイ・アナザー・デイの最中に行われた第五回評議会はその議題で持ちきりであった。

――2019年 日本 第5回連邦評議会――

連邦評議会は扶桑が戦時になりそうなので、短い間隔で開かれており、海軍の褒章問題がこの回の議題であった。海軍が提案した『空軍の正式設立までに、移籍内定者に海軍として、最後の労いをしたい』という議題は日本野党連合代表に失笑された。

「海軍航空隊に英雄はいないと吹いていたのはどこの誰ですかな、閣下?」

野党連合の代表は比較的中道右派の者が選ばれていたので、海軍の提案に冷淡であった。海軍代表は山本五十六の代理で出席した、前連合艦隊司令長官の豊田副武だ。

「我々の航空隊は君らの人事案が実行されれば、空母機動部隊を自前で動かすこともままならなくなる。現場の反発を抑え、空軍への劣等感を持たせるのを避けるためだ」

「劣等感、ですか。国家総力戦に縄張り意識など無意味ですよ。そんなだから、国民に飢餓を味わせることになるのですよ」

日本帝国軍が縄張り意識の強さ故に、国家組織としての統一戦略すら持てなかった事は、扶桑軍人の上層部に強い恐怖を抱かせた。その事も褒章の統一に海軍が乗り出した理由だ。航空分野では『特攻をやりだした軍隊』という色眼鏡で見られる事もあり、兵器開発に至るまで、『日本連邦国防省』の統制の対象とされていた。そのために横空関係者の暴走を招き、それがダイ・アナザー・デイ後の『張子の虎』に繋がる。

「貴方の同位体は日吉にこもっておられたが、貴方程度の人材、いくらでもいるのです。今度は突っ込まれるべきですな」

警察庁長官はこの口ぶりだ。豊田副武は連合艦隊司令長官としての戦功がない事、レイテ沖海戦の際の連合艦隊司令長官だった不幸により、『大和で敵軍港に突っ込んで、華々しく散華しろ』という野次は当たり前であった。豊田自身、こうした野次を気にしており、小沢治三郎、後に山口多聞に『儂を一将として使い、大和で汚名返上の機会を与えてくれんか』と懇願している。これは戦争中に日本側が死なせるつもりで発令した作戦の指揮官にされる形で叶い、大和の超高性能化という幸運もあり、史実の東郷平八郎元帥並の燦然と輝く大戦果を彼にもたらすのだが。

「これは耳が痛いですな。今度は東郷平八郎閣下に負けない戦果をご期待ください」

警察庁長官の嫌味にお返しをしつつ、彼は議題を提起する。流石に前連合艦隊司令長官である。

「我々はアメリカからF-14/F/A-18E/Fの生産ライセンスを得ております。評議会の皆様には、それを載せるための空母の調達を許可して頂きたい」

「信濃型は?」

「こちらでは大和型であるため、大鳳が最新のものですが、大鳳ではキャパシティが足りないのです」

扶桑は雲龍型でコンパクトな空母を志向していた事もあり、そのコンセプト自体がジェット艦上機の登場で破綻するとは夢にも思わなかった。しかも、ジェット艦上機は高性能化と比例して大型化している。

「既存空母でどうにかできないのかね」

「13号型の余っていた竜骨を使い、新造する方向でいかなければ、F/A-18シリーズもまともに運用不可能です」

実際はその空母はもう建造開始段階であり、設計も内定していた。アメリカの助言でキティホークの設計を使用するからだ。そのため、余っていた竜骨は13号型の流用を全て使用し、三隻分は確保している。これは元々、13号型の設計が史実よりだいぶ大型であった事、巡洋戦艦の量産化を目論んだか、史実より4隻分は多かったから可能だった。そのため、これは大義名分を得るためのパフォーマンスであった。

「許可しよう。旧式の雲龍はもはや防空空母や輸送艦、練習艦にしか使えないからね」

評議会議長である安倍シンゾーは裁可を下した。これにより空母調達の許可はなされた。実際、雲龍型の防空空母化にも費用がかかるので、葛城までが限度であった。烈風や紫電改の運用でさえ、カタパルトなしには難儀する大きさでしかない大きさである故、ダイ・アナザー・デイ時点では第一線空母とは見なされていなかった。コア・ファイターを載せて防空空母化すると、そもそもの目的だった『ウィッチとの共有艦』の意義が失われると、ウィッチ閥の妨害もあり、笠置以降の改装は白紙になっていた事もあり、ジェット専用空母を得ようとするのは理に適っている。この時の妨害工作への報復も、海軍ウィッチ組織を死に体に追い込む理由の一つだ。これは怪異との遭遇時、自分達がいないと右往左往するだけであるという、怪異との交戦前提の考えからの妨害工作でもあったが、リベリオンとの交戦を第一に考え、怪異は未来兵器に任せる方針であった軍部には邪魔者と見られていた。その事から、ウィッチ閥はGウィッチ閥から『既得権益を貪る前に、新しい概念に適応しろ』と揶揄されている。

「ありがとうございます」

正式に裁可が下った空母は13号型巡洋戦艦の改装という説明だが、実際は保存されていた竜骨流用の新造に等しい。キティホーク設計の流用での新造なので、航空艤装その他はアメリカの協力で施された。自分達も使うつもりだったからだ。全艦の完成は早くて、1948年夏から1949年を見込んでいる。オートメーション化は21世紀最新のフォード級と同程度にされたため、内部はフォード級と同様だが、原子炉はない。また、日本連邦にはレシプロ時代の空母運用ノウハウはあっても、ジェット時代の空母の運用ノウハウがないため、扶桑海軍の空母機動部隊関係者各位は21世紀アメリカ海軍の指導を仰いでいる。そのため、空母機動部隊は再編成の必要が生じ、プロメテウス級を旗艦に、その空母達を使いつつ、改善型を量産する事で決着した






――戦場――

戦場では、英傑達が邪悪と死闘を展開していた。怪人軍団との死闘は一段落ついたものの、今度は機械獣軍団が本格的に現れ、ヒーロー達は巨大戦力を投入した。サンバルカンロボ、ダイナロボ、ライブロボ、ギャラクシーロボなどの錚々たるメンツが機械獣に立ち向かった。機械獣は全長20mから30mほどだが、スーパー戦隊のメカは合体ロボであったり、変形ロボなので、軽く40mに達する巨躯を誇る。多くがゲッターロボGと同等の体躯なので、機械獣は大きさ的に見劣りした。そのため、機械獣も体躯の差により、パンチ一発で大きく吹き飛ばされる事例が頻発した。特に、ギャラクシーロボ(光戦隊マスクマン)は元祖徒手格闘が必殺技のロボかつ、ロボそのものがオーラパワーを持つため、五人同時に搭乗しないとパワーが出ないグレートファイブより運用上の利点が大きいというメリットがあった。そのため、レッドマスク単独での操縦でもフルポテンシャルを出せるため、彼はギャラクシーロボを呼び出したわけだ。黒江はレッドマスクがターボランジャーからランドギャラクシーを発進させたことにちょっとがっかりしたようで、『ファイブクロスが見たかった』とぶーたれた。ギャラクシーロボはトラクターが変形してロボになるため、どうにもハッタリが効かないのもあるが、グレートファイブは五体合体なので、見栄えがいいのも理由だろう。(ギャラクシーロボはトラクターが立ち上がる形で変形が行われるため、いささか変形プロセスが簡素なのだ)全長40mはあろうかという巨大ロボの拳が唸りを上げ、機械獣の装甲を貫く。ある意味、古代ミケーネ文明の遺産とデンジ星の齎したテクノロジーのぶつかり合いである。

「すげえ。機械獣が潤滑油を血みてぇに流してやがる」

黒江は乗機がリアルロボ寄りであるため、潤滑油を血のように流したり吹き出したりする『スーパーロボの戦い』にはあまり縁がない。そのため、感想が珍しくしまらない。

「珍しいですね、師匠にしてはしまらない感想」

「だって、乗ってるのリアルロボだもーん」

黒江はパイロットとしては、リアルロボ寄りなので、どうにも感想がピントのずれたものになっている。珍しい光景である。

『超獣剣!』

レッドファルコンのライブロボが腕にエネルギーを収束させ、超獣剣を形成する。それまでのロボがシールドから取り出したり、母艦からの射出であったのに比べると格段の進歩である。次の瞬間、胸のライオンが吠え、超獣剣を黄金色に輝かせ、X文字に斬り裂く『ストロングクラッシュダウン』を披露する。

「ほへー……。かっけー…」

「ばーちゃん、珍しく、言うことに事欠いてんな」

「スーパーロボにはあまり縁がねぇもん。たまにゲッターに乗るくらいで」

雪音クリスはいつも翻弄されている黒江がポカーンとしているのを良いことに、ご機嫌である。スーパーロボは土煙や地響きを立てての派手な戦闘を得意とする。これを指して、ロボットプロレスと揶揄する声もある。だが、リアルロボとは比較にならないパワーやトルクを誇るのがスーパーロボであるため、技一つで大地を揺るがす。それはスーパー戦隊のロボも同じだ。

『地球剣!』

ゴーグルロボが地球剣を天に掲げ、宇宙から降り注いだ銀河のエネルギーを充填する。そして、そこから袈裟懸けに敵を斬り裂く。

『電子銀河斬り!!』

機械獣アブドラU6がその餌食となった。アブドラU6の胴体が薄紙のように、青白いエネルギーに刀身が包まれた地球剣に切り裂かれる。頭部の大まかな形状が戦闘機の機種のままなので、おもちゃのようにも見えるゴーグルロボだが、そのパワーは本物だ。技を出し惜しみしないのは、機械獣の超鋼鉄はドクターヘルの精錬技術により、超鋼スチール合金以上の頑丈さを誇るからだ。逆に言うと、マジンガーの攻撃力の凄さが分かるのだ。Zの初期スペックでも、往時の米軍空母機動部隊がもたらす破壊を一機で起こせるからだ。

「決め技を出し惜しみしないから、機械獣はサイズの割に頑丈よね」

「マジンガーが一撃で倒してるから、雑魚と思うけど、ジェガンの攻撃くらいじゃビクともしないんだよな、あいつら」

智子もそうとしか言えない。機械獣はマジンガーやゲッターからすれば雑魚だが、並の量産MSでは傷をつけられない硬度を持つ。そのため、機械獣に太刀打ちできる上位機種が求められ、グスタフ・カールやジェスタが作られたのだ。(グスタフ・カールとジェスタがνガンダムに近い性能となっているのは、用兵上は機械獣の鎮圧用という話もある)

「あんなロボット、ばーちゃんなら軽いもんだろ」

「そりゃそうなんだが、本気でやると、地形変えちまうしな。だから、ロボにはロボだ。能力は保険だよ」

ロボにはロボのセオリーを律儀に守るのが軍人らしい思考回路と言える。それに調も同意する。実際はビームサーベルであれば通じるが、贅を尽くした頑健なフレーム構造と、格闘戦を行える強度があるガンダムタイプの特権のようなものであった。ジェガンが機械獣の滑らかな動きに対抗できる初期のMSモデルとなったが、装甲強度やアクチュエータの負荷の限界が足りないとされ、推奨されていない。最終型では改善されたため、このR型は連邦軍MSのある種のスタンダードとなったが、元々が指揮官用だったので、新規生産機は意外に少ない。その事もジェスタとグスタフ・カールの開発の理由である。

「あのグレートマジンカイザーに比べりゃ、大人しいな、この人達のは」

「あれと比べんな。あれはマジンガーの上位機種だ。お前の時代の日本なら一発で消滅だ」

「カイザーだのエンペラーだの、強そうな名つけりゃいいってもんじゃねぇぞ?」

「クリス先輩、カイザーやエンペラーは同じ意味ですからね?」

「それくらい分かってらぁ!」

「神を超え、悪魔をも滅ぼす。それが魔神皇帝に課せられた使命であり、私達の座右の銘です」


調ははっきりと『神を超え、悪魔をも滅ぼす』事が座右の銘だと、クリスに告げる。甲児に感化されているようだ。

「なぁ、なんであんたらは自分たちとかんけーねぇ時代の戦いに手を貸す気になったんだ?あんたらは一度死んだんだろう?」

「誰かの命を救うのに、約束はいらない。ましてや、理由なんて必要ですか、雪音クリス」

ジャンヌは言う。クリスは英傑達が生前の生まれや身分を超えて、一つの戦場に集うという、おとぎ話のような光景に疑問があるようだった。

「たしかにそうだけど、生き返った上に、自分が生きた時代から何百年も離れた時代に居場所を得るためって……」

「我々は確かに、一度は死した人間です。ですが、事を成したからこそ、必要とされ、再び現界したのです」

「生まれ変わり、新しい縁を得た今は昔の事など意味は無いのですよ」

ジャンヌとアルトリアはそう言い、微笑む。更に続く者が現れる。

「それに、こうは考えられないの?大事な人達も世界も両方救うって」

「お前は……サーニ…もとい、イリヤ!」

黒江も驚きの人物の登場だった。サーニャ・V・リトヴャク改め、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンだ。クラスカード・セイバーを夢幻召喚しているが、イリヤの場合は今のアルトリア同様に『白い騎士服姿』で、美遊と違い、可憐な印象を与える。

「お前は……?」

「私は、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。ドイツ空軍の中尉で、黒江さんの部下だよ」

「何ぃ!?」

ここでイリヤははっきりと自分をドイツ軍の将校だと告げる。ロンメルとグデーリアンの計らいで本当に公認の軍籍が与えられたからだ。圭子がロンメルとグデーリアンに知らせたのだが、事を聞いた二人は『イヤッッホォォォオオォオウ!最高だぜぇ!』と叫び、圭子の頭に閑古鳥が鳴いたほど狂喜した。話を聞いたカールスラント皇帝により、途絶えていたアインツベルン伯爵家の跡を継いで良いとした事から、サーニャは本当にイリヤスフィール・フォン・アインツベルンの名を名乗れるようになった。元々、ユンカーだったようで、フォンと名がつくのは新興貴族の証である。これは貴族の名前において、フォンがついた場合、新参者と貴族社会で軽んじられていたからだが、貴族社会が形骸化した後の時代では高貴な生まれと見なされやすい。アインツベルン家はカールスラントでは南部の地豪から爵位を得た新興貴族であり、第一次世界大戦までに子孫が絶え、1945年では過去の貴族扱いであった。サーニャに名乗らせる偽名を圭子が探している事と、サーニャの希望もあり、軍籍も欲しがっている事を知ったグデーリアン(グデーリアンはウィッチ世界ではウィッチ出身の女性将軍だった)は、圭子の要請を皇帝に直接伝え、サーニャの隠れファンの皇帝は鼻息荒く、『ちょうど貴族の名跡があるよ!』と圭子に言い、それが偶然にもアインツベルン家で、圭子もびっくりであった。そのため、ちょうど良いとばかりにルッキーニも巻き込んで、黒田の行為を結果として公認した。

「世界も友達も両方救う。それが私が選んだ選択。私が見るのは前しかないっ!」

イリヤはエクスカリバーを構えてみせた。サーニャとしては言えなかった思い。イリヤとしてなら、このような事も言える。黒江はイリヤのこの発言に、自分の年を意識したのか、苦笑した。

「若いっていいなぁ」

「師匠も充分若いじゃないですか」

「だって、イリヤは見かけが12くらいだぞー」

イリヤの青臭い発言を意識したようで、苦笑混じりだ。黒江は大人になる過程で、本当に少女だった時に持っていた何かを捨て去った。それを取り戻したい深層心理があるが、イリヤは真にそう思っている。クリスは過去、元の世界で両親の友人の弟の命は救ったが、サッカー選手になるための足を犠牲にせざるを得ない選択に迫られた事があるので、イリヤの青臭さに呆然としつつも、羨望を抱いた。

「青い所が無きゃ転生とか考えねーわな」

自爆発言だが、Gウィッチはイリヤのような青臭さを持っていられたからこそ、転生できたのである。そのため、イリヤはその青臭さを自然に出せる外見年齢なので、黒江は羨ましがったのだろう。

「ああ、調。ルーデルさんに連絡を取ってくれ。後でクリスが気にしてた事のわだかまりを無くすわ」

「了解」

クリスに対し、こうした配慮を見せる辺り、素で面倒見がいい黒江。しかし、ルーデルというのも、変にネジが外れそうなチョイスであるのに不安を持った調はガランドに報告し、ドロレス・バーター少将を紹介してもらうのだった。ルーデルはこの時期、既にバネ式の義足でランニングし、神経接続式義足で登山を楽しむウィッチとなっており、義足つながりで、バーター少将と知り合いであった。そのため、クリスが両親の友人の弟のことで気に病んでいた事をどうにか楽にさせるため、ルーデルとバーターという義足の撃墜王に出張ってもらうのだった。ある意味、義足になってもウォーモンガーな連中であるが、その事を気にするクリスにはいい薬だろうと、調も考え、ガランドに連絡を入れるのだった。



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