外伝その219『勇壮6』
――扶桑が振り回され、クーデターの直接要因になったのは、頭ごなしの航空行政決定であった。横須賀航空隊を『雷電の軽視』という名目で活動凍結、陸軍航空審査部もほぼ同時期に活動凍結とされたからだ。これは日本がトラウマを持つ『B-29』を迎撃することなど、扶桑航空隊の殆どが想定していないし、訓練も積んでいないことでの反発を力で押さえつけたという点での失策であった。B-29の最大飛行高度を強調し、更に史実の被害を喚き立てて、航空参謀達を次々と心療内科送りにするのははっきり言って、怨念返しといえる。その怨念返しが行き過ぎた結果、ダイ・アナザー・デイでは参謀が目に見えて不足しており、黒江など、連合艦隊航空参謀と空軍派遣部隊参謀などを兼任している有様である。本来は空軍(当時はまだ陸軍航空戦隊)軍人の黒江が連合艦隊の航空参謀をも兼務せねばならぬほど、参謀級軍人の現場勤務数が目減りしていたのだ。特に航空参謀が粛清人事と怨念返しによるノイローゼで陸海問わず、殆ど勤務に耐えうる状態ではない事により、参謀として勤務経験が前史であるGウィッチたちに負担がかかった。黒江も圭子も戦闘中に関わらず、ハンズフリーで電話が手放せなくなっていた――
――F-15Jで飛んでいる三人――
「日本にも困ったもんだ。パイロットをこき使うような言動するだけで、軍法会議とか騒ぐんだから。あれじゃ航空本部も航空総監部も萎縮するよ」
下原が愚痴る。下原は海軍の出であり、新人時代は坂本の直接配下である。坂本曰く『かなりシゴいた』が、モノになったケースである。現在の原隊は343空に変わっており、64F初期メンバーになる見込みである。坂本共々、翔鶴に乗艦した経験があり、気質的にシゴキは見慣れている。
「日本は労働効率を私らに迫る割に、自分達は残業やらかす国だしね。日本は今、ブラック企業とかが問題になってるから、定子の言うような考えが通じる時代でもないよ」
「真美先輩」
稲垣真美は12歳で軍歴を始めており、まだ16歳だが、1942年の志願である下原定子からすれば先輩である。あの圭子に信を置かれているという点で、真美は定子より立場が上であるので、珍しいが、年長として定子に接した。こうした『年下の上司』は扶桑海事変での黒田を先駆者とし、扶桑には結構な割合で生じている。その黒田も一桁で事変の最前線を戦い、七勇士に数えられているため、現在ではレイブンズに次ぐポジションとなっており、隊では孝美、菅野、クロウズを顎で使える立場である。
「ケイ姐様も大変だよ。ハンズフリーで参謀の任務しながら戦ってるんだから」
「圭子先輩、器用な事しますね」
「今回の作戦、日本の横槍で東二号は頓挫するし、江藤参謀を泣かせるし、本当、踏んだり蹴ったりだよ」
東二号作戦の頓挫は古参と中堅との対立を決定づけてしまった。日本はジュネーブ条約の少年兵の事項の接触を恐れる一方で、教官を前線に出さないというポリシーを押し付ける意見があり、その意見が東二号の頓挫を招いた。東二号は武子がクーデター抑止の最終手段として期待していた施策だった。日本側が講じた手段とは、『遡って、作戦実施を無かったことにする』ものであり、日本側としては『教育要員は教育に専念して、次世代の礎を築くべき』というのが名目であったが、陸軍の学校、官衙の戦力化兼士気高揚策であったため、あきつ丸では暴動が起こった。実は学校と作戦要員は予め分離してあり、111戦隊ということで手空きの教官たちを技能維持のためもあり、実戦に送り込んでいたのだ。その111戦隊は真501の交代要員を兼ねてもおり、黒江達の負担軽減のための要員だった。しかし、日本側の思い込みと独走で結局、二交替可能なほどには人数は現地につかず、地球連邦軍が送り返した数を入れて、当初の6割は直接従軍したものの、黒江達の交代要員になれたのは十数人のみであった。幸い、その十数人は新人一人を除き、旧64F時代のレイブンズの配下であった者たちであり、練度としては問題はない。
「交代要員で来れた人達はほぼ全員が姐様達の元部下だから、練度は問題ないんだけど、ウチの隊員が増えたから、姐様達の交代要員にはなれなくてね」
「だから、ウィッチになったばかりの私も動員したんですね、師匠は」
「連邦軍に言って、ISのバンシィの増産も依頼したし、黒江さんは大忙しだよ。連合艦隊にお呼ばれされたそうだし」
交代要員は現在の真501全員が三交代可能な人数となるはずが、一個航空団相当の人数しか到達せず、更に黒江達は参謀任務が加わり、却って激務になっている。これは日本国防衛省背広組の誤算であり、前線から苦情が出まくった。ブラック企業もかくやの労働時間になっていたため、防衛省は結局、激務である黒江、智子、圭子、武子の四人に当時の元帥の給金の更に倍の金額の慰労金と特別功労章と叙爵、准将昇進をセットで与える事を日本の国会に納得させるのに全力を費やす羽目となる。慰労金が異例の高額なのは、参謀役まで背負わせて超激務であり、普通の人間なら過労死間違い無しの労働時間であり、事後に労働基準法などの問題にされるのを背広組が恐れた事もある。また、叙爵は扶桑の法律基準である。日本には華族制度が現存しないため、扶桑の法律と天皇陛下の要望頼りである。准将の階級になるのは、自衛隊で将になった黒江を基準に、他の三人にも自衛官籍が与えられたからである。この時の騒動で野党が推していた『金鵄勲章を廃止し、とりあえず銀杯と一時金で凌いで、然るべき時に瑞宝章を軍人に対象を広げる』案にとどめがなされたと言えよう。軍人の戦時での名誉であるという海軍の反対(この時にエースパイロットへの感状や部内で誇らないことを戒めた文化が某襟立て議員に責められたのを期に、野党が問題化したため、海軍航空は功労章と武功章を部内のすり合わせ無しで作ることになる)、財務省からの『人数が多すぎて財政圧迫しちゃうよぉ』という報告と、金鵄勲章は若年の一兵卒でも頑張ればもらえるものであり、受賞の対象である軍人は当時で有に700万人に達する(横浜市の21世紀の人口の2倍を超える)統計が評議会で明らかになり、財務大臣兼副総理の麻生タローが『一時金で財政圧迫しちゃうぜ』と言い、野党側の代表をノックアウトしたことでとどめがさされた。野党はこれにも関わらず、激しく抵抗。結局、戦争が一段落する段階での一斉授与で手打ちになり、戦中では、武功章の等級制定、分野の細分化などで対処されたという。(陸軍武功徽章の全軍適応化による再編、分野の細分化など)また、この泥縄式の創設は現場の海軍軍人、特に航空隊のウィッチ界隈の反発を招き、中堅層の海軍軍人(志賀など)とモデルにされたレイブンズを慕う古参軍人との対立を生み出してしまう。この対立により、中堅層はMATへ次々と移籍。窮した軍部は64Fにこの時に交代要員として、直接向かった古参たち全員を64Fに配属させたのを期に、部隊ごとの移籍を阻止するため、古参を64Fへ一点集中させる。実際、ダイ・アナザー・デイ中に稼働状態の陸軍飛行戦隊は64、50、244、47と戦闘ウィッチ専門かつ、精鋭とされた部隊のみとなるほど減少していたため、海軍基地航空の取り込みは理に叶う決定であった。源田の誤算は黒江と志賀の対立であり、志賀が横須賀へ戻ってしまい、坂本の人的補償で呼び寄せていたのに、と海軍航空中央に猛抗議するほど困った。当時、横須賀航空隊は近い内の解散が囁かれていた(後日、本当に解散になる)ため、中央からの叱責に窮し、坂本を出向という形で戻すことになった。志賀がクーデター事件で事を阻止できなかったのは『出戻り』と部内で揶揄された事による求心力の低下もあるが、何より事件当日は烈風改の普及モデルのテストで不在だったからだ。芳佳とは元同僚であり、芳佳に期待をかけていた。保存されていた震電ストライカーを烈風改に代わる機体として与えたい思惑があったため、不在を叱責した小園大佐へ必死に釈明している。志賀はこの時の不在を悔恨とし、黒江との和解を考え始める。奇しくも志賀は前史での坂本の負の面の役目を負わされた形であり、源田や小園はそれに後に気づくことになる。坂本が変わった分、歴史的に割を食った形である。つまり、坂本は前史で黒江と対立し、和解する役目を担ったが、その役目がさらなる後輩の志賀にお鉢が回ってきたと言える。源田は前史の記憶を持っていたため、志賀が世界に坂本の前史での負の面の役目を負わされてしまったことに気づけたのだ。和解を薦めたのは、坂本が前史で味わった運命を志賀が辿る事を危惧したからだった。これが今回での金鵄勲章関連の想像の顛末だった。
――話は戻って――
「そう言えば、ラ級が後ろに控えてるとか?」
「ガスコーニュとソビエツキー・ソユーズ。ガスコーニュとは前史で戦ってないからね。それで呼ばれたんだよ。フランス艦は意外に強いし」
「陸軍のせいで海軍が真価発揮できなかったとか?」
「ああ、あれはペタンがヘタレだったり、ガムランが無能だったりのコンボで起こったからね」
「梅毒患者説がありますね。ガムラン」
「若い頃は有能で鳴らしてたはずだから、女とヤッタ時にかかったんだろうなぁ」
「フランスはこの時代、無能な軍人多いような」
「ド・ゴールとその取り巻きが一番マトモだってんだから、フランスの人口不足のせいもあるんだよな。前の大戦で人死んでるしね」
真美はケイの影響を受けているため、ド・ゴールとその取り巻き達には手厳しい。マジノ線の張り子の虎ぶりを見抜き、ウィッチ世界でも機甲戦力活用論をぶちまけたシャルル・ド・ゴールは当時の腐敗したフランス(ガリア)軍の中では傑出していたと言える。しかし、ガリアもフランスも敗れた。
「ド・ゴールが後で挽回できた仏やガリアと違って、うちら日本は矢尽き、刀折れて負けたから、横槍を跳ね返せないんだよね。陸軍はM動乱に行ってた最精鋭部隊を大した休み無しで投入せざるを得なかったし、装甲師団全体の質の向上がねぇ」
「確か、本当は第三戦車師団が行くはずでしたもんね」
「それが向こうが相手が物量のアメリカ軍だからって、第一と第二戦車師団を休養繰り上げで出す羽目になったんだよねぇ」
アメリカ系の軍隊に中途半端な質は通じない。それを史実太平洋戦争で思い知った日本は機甲戦力、航空戦力の双方で精鋭部隊の存在を望んだ。その航空戦力での産物がレイブンズと懇意にしている源田実の実行力で実現しつつある64F、陸軍の機甲戦力が『近衛戦車師団』ともされる第一戦車師団である。そして、陸軍に求めたものは圧倒的な砲火力によるアウトレンジ攻撃である。地球連邦陸軍が一年戦争前に志向していたドクトリンであるが、高度な情報管制が前提であるので、一年戦争であっけなく崩壊している。そのため、扶桑軍は航空戦力による事前攻撃を志向しており、調達はヒスパニアで戦う同戦車師団の支援ということで駆り出されており、F-15Jの装備は爆撃任務の時のものだ。日本と違い、F-15の対地攻撃能力は高い水準である。これは扶桑では対地支援も任務に入っているからで、そこは日本と軍事思想が違う点だ。かつては爆弾をウィッチが自分で抱えていたり、専用の投下装置が開発されてきていたが、ダイ・アナザー・デイで近代装備がそれらを陳腐化させた後に登場し、普及したのが魔導誘導弾である。通常誘導弾ではM粒子の影響を受けてしまうので、魔導技術を根幹にすることでM粒子の影響を避けようとしたのだ。しかし、魔導技術を入れても、基本アーキテクチャは普通の誘導弾であるので、チャフの欺瞞を受け付ける。基本的にM粒子で命中率が変化しないだけのミサイルと言っていいだろう。だが、それでも扶桑の航空軍事力を飛躍させた武器には間違いなく、ウィッチ世界での軍事史に革命を齎した。二代目レイブンズの時代のそれはその第三世代型であり、命中率は半世紀余りで21世紀日本の誘導弾に並んだ。
「その支援、ですか?」
「そうだよ。今回はメタルアーマーのスピンオフでのハンドレールガン持ってきたのは、敵の中戦車の天蓋を撃ち抜くためさ。戦車は重戦車でも、天蓋は薄いしね」
「真美先輩、もうじきヒスパニアです」
「アルハンブラ宮殿を見ながら潜入するよ。イスラム教はこの世界だと、アッバース朝が滅んだ時に一緒に消えたけど、遺跡は残った。一応、その名残りで残されてるし、21世紀の横槍入ってからは、ヒスパニアが壊せなくなったとかでぶーたれたけど、スペインに睨まれても、ヒスパニアが困るから、近代要塞構築を放棄したそうな」
ウィッチ世界では文化遺産への執着がそれほど無かったが、エディタ・ノイマンがドイツ、ギリシャ、ユネスコからの強烈な圧力で現職を罷免され、降格処分と左遷がなされたことが見せしめになり、過去の遺産を壊す、あるいは現代人が再使用するために手を加える事が国際条約で規制されたため、かつてのブレイブウィッチーズが使用していた基地は基地使用が廃止され、ヒスパニアが近代的設備の設営予定場所にしていたアルハンブラ宮殿は恒久保存になり、保存目的以外に手がつけられなくなった。それを保有していながら、文化遺産を維持できる財力がない国の大国依存は深まり、史実と違う世界史となる。ヒスパニアはこの時代、けして裕福ではない国家なのと、当時の施政者の判断でイスラム教の遺産であるアルハンブラ宮殿は取り壊しが予定されていたが、その施政者が介入で失脚し、更に軍部高官も粛清されたためになし崩し的に保存される事になり、その代替措置が財政援助とヒスパニアへの大兵力の駐屯であった。ノイマンの失脚は結果的に文化遺産の保護の機運となったが、『現代に生きる人間より過去の遺産のほうが大事なのか』とウィッチ出身の参謀や高級軍人から抗議があったのも事実だ。だが、軍籍抹消も含めた懲罰がノイマンに検討されたことが見せしめになり、ダイ・アナザー・デイまでにはいなくなっている。功あるウィッチであるノイマンが罷免されて降格、左遷のコンボはウィッチ出身の高級軍人に恐怖となった。山本五十六は『残せるものをしっかり残さないと半島南側の連中みたいに、言葉の意味すら失った遺すべき何かしらを持たない連中みたいになりかねん』と訓示し、受け入れさせた。そのため、各国は同位国との軋轢を恐れ、文化遺産に怪異が出現した際の対処をGウィッチに丸投げするようになる。Gウィッチなら、一瞬で倒せるからであるのと同時に、デロス島への艦砲射撃に参加予定であった戦艦の艦長たちが解任されそうになったからでもある。こうした横槍は連合軍全体にかなりのレベルで発生しており、現場の萎縮と反発を招いたのは歴然たる事実である。その横槍への対処として、ダイ・アナザー・デイの作戦指揮は地球連邦軍が扶桑に作戦任務軍集団本部を設営し、それを扶桑国防省に置いている。つまり、ダイ・アナザー・デイでの連合軍は地球連邦軍の指揮下にあり、ウィッチ世界の国際連合は地球連邦政府の出先機関として機能していると言っていい。連合軍の統制が対人戦できちんと取れているのは、『地球連邦軍が手綱を握っている』という裏事情も絡んでいたからだ。元々、ウィッチはかつての芳佳やリーネがそうであるように、『命令よりも自己の意志を優先する』者が多く、対人戦では致命的になりかねない行為をする事が危惧されており、組織運営では、地球連邦軍の指揮下に入る事は理にかなっている。また、ウィッチはそれで罷免したくはないほどに軍部への在籍人数は減っている。その兼ね合いでRウィッチが奨励され、Gウィッチが特権を持つのだ。Gウィッチの特権が強大なのは、ウィッチ組織の維持のために『通常兵器より強力な者もいる』事で予算を保つためのプロパガンダもあった。ミーナは自分がそうなることで、その立場を初めて理解したが、この時代に入ってきた近代装備は、いらん子中隊以来のウィッチの努力を凌駕しており、また、兵器の進歩がストライカーの進歩速度を一気に追い抜いてしまった結果が今の状態であるのだが、それを理解しないものが多数というのもGウィッチの辛さである。何事も光と影があるように、Gウィッチの栄光はこうした、『血の献身』による成果でもあった。
「私達、今回は未来永劫、このままなんですよね?」
「後悔してるの?」
「そういう事じゃありません。家族のことを考えて…」
「子や孫たちは同じ状態になる。親や兄弟は仕方ないよ。生きてる内に親孝行した方がいい。親孝行したいときには親はなしって言うしね」
下原は子や孫たちと違い、自身の存在の昇華の恩恵が受けられない親や兄弟達の事が割り切れないようであった。それはGウィッチ共通の悩みだが、黒江達はある種の割り切りに近い感情を抱いている。時を超えられるドラえもん達は別として。下原はそういうところは青二才であると言える。
「真美先輩はそういうところ落ち着いてますね」
「家が先祖の功績で子爵だったから、兄弟たちともあまり交流が無かったんだ。特に私は小さい内に志願したから、兄弟達とあまり遊んだ記憶もないの」
真美は森蘭丸の末裔の家柄である。そのため、兄弟達との交流はあまり記憶がない。優秀な成績であったが、背丈が小さいのがネック(ただし、幼少期はのび太のように、人より遅れていたとのこと)で、入隊基準にクリアもギリギリセーフであった。現在はアフリカでの最終測定時の140cm前半に固定されている。ウィッチとしての覚醒で英才教育が施されたために兄弟姉妹とは離されており、そこがケイを慕う一因であろう。元が130cm台だったため、21世紀の基準では小学生並みであるのには変わりないが。そのため、真美は外見では最年少クラスで、外見年齢が13歳である。外見年齢が実年齢より若いのがGウィッチの常で、圭子も素では25歳の実年齢から−10歳は若々しい。しかし、家庭環境はどうにもならないので、黒江は母親との確執、真美は子爵家であるが故の孤独などの要素は起こるので、そこはどうしようがない。
「先輩もお母様との確執があるし、そこはどうにもできない点かもしれない。まぁ、それを乗り越えるかが、私達の与えられた道かも知れない」
真美は小柄であるが、大火力の武器を扱えるので、もっぱら大火力の武器担当だ。この時はなんと、光子バズーカ携行だ。
「先輩、光子バズーカ持って言う台詞ですかね?」
「第1世代型じゃ高射砲持ってたけど、コイツだと、光子バズーカやヴェスバーとか撃てるしね」
「調ちゃんは刀だね」
「邦佳さんから借りて来ました。これでも真っ向両断は使えるんで」
調は黒江の技能が引き継がれたのと、戸隠流忍法の修行もしたため、磁雷矢の真っ向両断などの闘技を放つことができる。そのため、武器は刀がサブウェポンである。坂本の弟子筋の下原はちょっと羨ましいようだ。
「私、学者の家系で、弓ならできるんだけど、刀とか槍はねぇ」
なんでもそつなくこなす下原だが、近接戦闘武器だけは実家が学者の家系である故に、使えないらしい。そこは苦手なジャンルだと言える。
「タリホー。敵のM4の車列を見つけたよ。みんな、天蓋を撃ったり、履帯切って行動不能にして」
「了解」
三人はアルハンブラ宮殿からそう遠くない地でM4中戦車の車列を発見し、攻撃した。リベリオン本国軍は基本的に本国のラインを使用しているため、中期型である。これはAGF(陸軍地上軍管理本部)にティターンズが介入し、M26を配備し、M4に換える方針であったからで、湿式弾薬庫への改良も施されていない。M4中戦車は自由リベリオンが最終型にアップデートしたのに比して性能が劣ると言える。
「戦車は空からの攻撃に弱い、みんな、幸運を祈るよ!アタック!!」
最先任の真美が指揮を取り、三人は一斉に攻撃をかける。M4中戦車は対空攻撃は基本的に即応弾を運良く打ち込めるか、くらいしか対処法がなく、随伴の歩兵は対空兵器を持ち合わせていない。この当時、携帯式対空兵器などは一般歩兵に出回るほど量産されていないからで、対空戦車も、対空火力も無に等しい彼等は第4世代型ジェットストライカーかつ、第三世代宮藤理論式ストライカーの洗礼を受けた。魔導誘導弾による車列前列と後列への爆撃に始まり、ハンドレールガンによる天蓋装甲への攻撃やラジエーターへの上からの攻撃。
「いけぇ!!」
魔導誘導弾が甲冑形態のF-15Jの主翼から発射され、最前列のM4を爆破する。マッハ3を超える速度のミサイルなど、この当時の人々からすれば、何が何だか分からない内に爆発し、ロケットのような金切り音が後から響いてくる感覚だろう。戦略は『前と後ろを爆破して、道を塞いだ後に各個撃破する』という単純なものだが、20両ほどの戦車部隊は比較的小規模である。アメリカ式の機甲師団なら、通常は様々な兵種が付随しているはずだが団なら、通常は様々な兵種が付随しているはずだが、随伴の自走砲と装甲車が確認される程度だ。偵察部隊か、それとも、港から陸揚げして陸路で合流を目指している増援の中隊か。真美、下原、調の三名はM4中戦車20両を蹂躙する。
「もらったぁ!」
調はハンドレールガンを連射し、薄い天蓋装甲を打ち抜き、一両を炎上させる。戦車は上からの攻撃に弱い。それを利用し、乗員を殺傷、あるいは履帯を切ったりして擱座させる。
「そんな小銃の射撃なんてっ!」
シールドを使うまでもなく、随伴歩兵の小銃の対空攻撃を跳ね返す。そして、威嚇も兼ねて、拳銃である『サムライエッジ』を撃ち、戦意を阻喪させる。この『サムライエッジ』とは、20世紀最末期から21世紀にかけて人気のサバイバルホラーゲームに登場した架空の拳銃のことだが、圭子の愛銃である『ソードカトラス』の携行を航空自衛隊上層部が『ならず者の使うような改造銃を、軍で使うのはちょっと…』と難色を示したことで、その代わりとして、青年のび太がデイブ・マッカートニーに依頼して制作させたカスタム銃の名につけられた。また、のび太の依頼は一定数の納入であったため、デイブの信頼する、あるいは弟子達に制作させ、ある程度の数が納入された。これはスタンダードタイプであり、カスタムタイプはデイブ本人が各人の要望でカスタマイズする。これがスペシャルタイプだ。圭子はこれで二種類の銃を使い分けることになったが、いずれもベレッタベースである。ソードカトラスは現場の隊員には『姉御の銃はクールだぜ』と人気だが、ならず者が使いそうな改造なためか、上層部からはウケが悪い。サムライエッジを作ることになった背景は扶桑と違い、古参の財務/防衛官僚に『カスタマイズ銃は認められない』という古い考えがあったからだ。扶桑軍は帝国陸海軍と同じく、拳銃は私物購入が一種のステイタスシンボルであったため、圭子のソードカトラスはその代表であり、欧州受けもいい。しかし、財務省や防衛省背広組の一部にとっては『拳銃は自衛隊と一括で、日本連邦軍として購入して、規格統一すべき』という過度の統一思想があった。それは他国からすれば過激で、しかもソードカトラスは私物である。それを諌めるべく、圭子に助け舟を出したのが、英国海軍、米海軍に海兵隊、アメリカ特殊作戦軍、英海軍といった錚々たる面々であった。
『確かに駄作機だけどウチで戦闘機として使った名前なんだが、それに士官私物の拳銃にガタガタ言っても仕方ないだろう?』(米海軍)
『カスタムガンがダメってウチのM45ピストルの立場がねぇじゃねぇか!』(米海兵隊)
『ウチでも同等品入れようか検討してるがな』(アメリカ特殊作戦軍)
『カトラスの何が悪い?我が海軍の伝統的装備品の名前だぞ?(英国海軍)』
『カスタム銃がって言ったらSが使ってるHk-416もアウトって判断されたと考えるか』(陸自)
これら面々の擁護に顔面蒼白の財務省、防衛省の一部官僚は面子を守るため、『ウチで勤務する時は別の銃使ってよ…』と震え声で言う始末だった。その関係でサムライエッジが制作される運びになった。ソードカトラスが圭子専用に対し、サムライエッジはGウィッチ用にデイブ・マッカートニーと、その弟子達に製作依頼が出されており、レイブンズが信を置くGウィッチへの護身用として渡された。黒江の直弟子であるなのは、フェイト、調の三人も受け取っている。それを初使用したわけだ。
「ん、いい感じ。ケイさんへのソードカトラスの代わりとしてデイブ・マッカートニーに作らせたとかいうけど、流石にいい仕事する」
ベレッタM92はオートマチック拳銃としてはスタンダードであり、圭子がソードカトラスの基本イメージに用いるなど、素性が良い。デイブ・マッカートニーも『ワシの知る、一番無理難題を言ってくる男よりは良心的な依頼だよ』と言っており、のび太の依頼はデューク東郷の依頼よりは良心的であると述べている。サムライエッジは扶桑軍の特殊作戦群創設という名目で採用されたという風にこぎつけており、Y委員会の活動としては初期の例になる。(なお、デイブ・マッカートニーが国公認で仕事をしたのは、米軍が東西冷戦下の時代に人工衛星を処分するために初代デューク東郷に依頼した『軌道上狙撃』に次ぐ)
――デイブ・マッカートニーはデューク東郷御用達ということで、裏世界で超一流で通っている。無理難題も多いため、デューク東郷には毎度、文句を言うが、彼に面と向かって文句が言えるのは、21世紀まで存命している人間では、腐れ縁のデイブくらいなものだ。(初代デューク東郷にとってのヒューム卿も相当するが、ヒューム卿は1979年に高齢と病のために没している。東西冷戦下の各国諜報部のベスト4がゴルゴを用いた例が多いが、これは各人が第二次世界大戦を生き延びたからである。)――
「随伴の兵士はどうします?」
「追い散らせばいいよ。さっきので力の差は分かったろうし、航空ウィッチに小銃で対空射撃なんて、不意打ちでもないと通らないから」
「わかりました」
調は魔導誘導弾を戦車部隊へ全弾を撃ち、ハンドレールガンで随伴のハーフトラックやM8装甲車を破壊する。まさか歩兵の火器に装甲車が破壊されるとは夢にも思わないだろうが、ハンドレールガンの破壊力はM8装甲車程度なら、正面装甲を一発で撃ち抜ける。ある意味、大戦型兵器を同じ世界の異なる時間軸の兵器で蹂躙する。これも中々、反則な光景だ。
「調ちゃん、ホワイト666と968トラックのいくつかに食料品が積荷で載ってる。放棄したの見たら」
「真美さん、どうします?」
「降伏した連中は連絡取れた機械化部隊に運ばせよう。食料はいくつか空中で食べよう。レーションの缶切りも回収しとこ」
「了解」
真美が食料品のいくつかを回収し、缶切りとセットで二人に渡す。戦闘中ながら、調は缶切りを使って器用に開ける。史実で言う『Cレーション』なため、チーズバーやチューインガムなどが入っており、アメリカ系国家らしい特徴が出ている。調は『フィーネ』に拉致され、古代ベルカに飛ばされるまでの10年ほどを米国で過ごしていたため、こういったものに抵抗感はない。むしろ、日本的な食べ物を食う時は黒江の記憶に頼っている面があるので、調は日米独の三つの国の食習慣を持つと言えよう。
「敵戦車の残りは?」
「あと六両。他は装甲車や自走砲。これで敵への増援の一つは潰せた事になる」
「真美さん、お腹へったんで、レーション食べてますけど、いいですか?」
「腹が減っては戦は出来ぬ。腹ごしらえはしておこう。救援が来る前に立ち去るのは忘れずに」
真美は魔導誘導弾を側面から打ち込むなど、意外に対地攻撃の巧者ぶりを見せつつ、調がレーションを早速食べているのを容認する。まさしく、対空火力がない機甲部隊の末路のいい見本とのいうべき様相の敵部隊。局地的な勝利であるが、敵航空ウィッチと陸戦ウィッチにに『謎の新型ストライカー、現る!』との恐怖を抱かせるに充分な戦果であり、三人はこの戦功でハインツ・グデーリアンからカールスラント大十字章(ドイツ十字章相当)の授与の名誉に預かる事になり、調が後に、地球連邦軍で少尉任官されるに一助となったとか。なお、リベリオンは当時、分裂前にCレーションを制定しており、それが現状、連合軍中でもっとも簡便なレーションになる。当時、Cレーションは一番簡便で、Kレーションが他にあるが、Kレーションはルッキーニ(クロ)が『単調で飽きるわよ』と文句を言っており、Cレーションは当時最新のレーションだった。対する扶桑は自衛隊の戦闘糧食が供給され、戦闘糧食事情が一気に近代化した。野外炊飯具も採用されているため、芳佳が主に使用している。しかし、黒江達などはそれにありつける機会がここ最近はなく、調達も同様だ。外で雑魚寝は当たり前であり、この経験が調の地球連邦軍への志願が円滑に認められる一助となる。(日本で、幹部自衛官でもある黒江がすごい寝相で雑魚寝しているのは絵面的にインパクトがあり、また、黒江が調の容姿を使っている事は暗黙の了解で日本国会も知っていたので、少年仮面ライダー隊出身の防衛族議員が問題提起し、その結果、仮面ライダーやスーパー戦隊達に雑魚寝はどうかという話になったのは言うまでもない)
―黒江が前線で物凄い寝相で雑魚寝しているのを見た茂が、自分が着ている上着をかけてやる。仮面ライダーとスーパー戦隊は何人かが宇宙刑事と共同で見張り番になっており、その間に休憩を取るのがここ二週間のレイブンズの習慣であった。黒江は寝ている間に連合艦隊からお呼びがかかっていたりする。智子は黒江の寝相が悪いため、隣で寝ている。茂はすっかり二人の保護者のようである。アルトリアとジャンヌはこの日はいる場所の警護班であり、圭子、それと本郷や一文字と話している。
「アヤカが起きたら、連合艦隊司令部からメールが来ていると言ってください、ケイ」
「へいへい。これで日本の連中に伝わるか、一文字さん。」
「俺たちが雑魚寝というのはインパクトあるからな。俺と本郷はインターポールやFBIに顔が効くから、そこの線からの外交ルートで改善の圧力かけてもらうよ」
一文字や本郷はかつての戦いでインターポールなどにツテができており、21世紀でも裏で大きな影響力を持つ。その頃になると、少年仮面ライダー隊の隊員であった子供達が成人し、政治の世界に入っているくらいの時間経過があるため、その線で国会で問題提起されたのだ。また、意外にも、少年仮面ライダー隊隊員だった子供も、21世紀までに自衛隊に入り、2010年代末だと多くが部隊管理職になっている事も多い。本郷や一文字が改造人間のために往時の姿を概ね保っている(本郷は再改造で外見を多少加齢させたが)との対比となっている。
「あ、日本でさっそく問題提起されてらぁ。若手議員が問題提起してまっせ」
「本郷、この子は…」
「ゲルショッカーと戦っていた頃の少年仮面ライダー隊にいたな。俺たちも老けたものだな」
「年はやめい。21世紀の時点で俺たち、60くらいだしな」
本郷と一文字は改造された年代が最も古いため、圭子がタブレットで見せた国会中継に映る議員(50代ほどか)が子供の頃の『大人』である。自衛隊から議員に転じた防衛族で、白髪交じりの風貌の議員から見て『兄ちゃん』であった二人は、2010年代では下手すると70代に手が届く。映像では、二人と子供の頃に縁があった議員が、防衛省から託された『歴代仮面ライダー達のみならず、スーパー戦隊、宇宙刑事、幹部自衛官の黒江までもが前線の、しかも屋外で雑魚寝』の写真を掲示して力弁を奮う。栄光の7人ライダーに雑魚寝をさせているというショッキングな光景は、栄光の7人ライダーが活躍していた時代を生きたの議員にどよめきを齎す。また、過去の裏で起こりしテロ事件などの鎮圧に貢献した仮面ライダー達は、日本では崇拝の対象にされているが、栄光の7人はその中でも特に神聖視されていると言っていい。アマゾン(山本大介)はともかく、裕福な資産家の令息であった本郷や一文字、スポーツ界で伝説を残していた風見のインパクトは大きい。風見は人間だった頃は体操選手として将来を嘱望されており、オリンピック代表にも選考されかけていたほどで、それから年月が経った21世紀でも、体操界では往時を知る層に才能を惜しまれている。城南大学の体操部の記録によれば、在学中は『マットの白い豹』と謳われたほどの選手であった。改造人間になった後は立花藤兵衛の意向もあり、オートレーサーに転向したので、当時は不思議がられたが、仮面ライダーV3になったから、V3としての実益も兼ねていたとわかったのは、彼が卒業し、スカイライダーの時代が来た後だ。ただし、体操に未練はあったのか、スーパー1からZXの時代までのある時期、大学の同期での悪友がある大会での日本代表のコーチになった時に、ふらっと現れて後輩をコーチングし、その大会の日本代表を優勝に導いている。そのため、風見志郎は体操選手の間では『仮面ライダーV3にならなければ、日本体操界の栄光の持続時間を伸ばしてくれただろう』と言われている。彼が仮面ライダーV3であることを知った上で、協力者になった大学の同期の一人曰く、『風見の体はパワー寄りのテクニック型の改造だから、本格的なパワータイプに弱い』とのこと。
「あ、痛快な事に、襟立て議員も何も言えねぇでやんの」
「そりゃ、21世紀のある世代より上は俺たちの戦い知ってるし、野党の票が減る要因になり得るからなー」
「俺たちと風見はゲドンやGODより長い期間戦ったからな。その分、野党に効くんだ」
「ショッカーからデストロンが一番持ったんだっけ」
「ゲドンやGODは比較的短い期間で潰せたしな。ガランダーはやること派手だったが、零細組織だし、デルザー軍団の連中とは死闘だったがね」
本郷の言う通り、ナチ残党のネットワークと資材などを直接受け継いでいた(バダンの麾下組織として)ショッカーから二代後のデストロンまでが組織的には大規模で、GODは米ソのシンパが潰され、呪博士の私物化したし、ゲドンとガランダー帝国は規模が小さく、ブラックサタンはブラックサタン首領がジュドの統制から外れようとし、デルザー軍団が粛清した。ジュドはショッカーの名のネームヴァリューを使い、平行世界で仮面ライダー型改造人間の研究を継続させ、その集大成が仮面ライダー三号や四号などの『アナザー・ホッパータイプ』(これはあくまで組織の中での型式名)だろう。また、雑兵としてのショッカーライダーも平行世界で完成しており、それを経て、組織の改造人間として完成した場合の『仮面ライダーV3』(もちろん、その最初の被験者は平行世界の風見志郎)も完成していた。ある意味、仮面ライダーは改造人間の長になるべき改造人間を組織は想定している。ゴルゴムの世紀王/創世王を模したのかは不明だが、少なくとも、緑川博士にプロトタイプを作らせた時期も、バダンがゴルゴムの世代交代の周期が近づいている事を察知した60年代末である。当時の技術では本郷、一文字、風見クラスの身体能力と頑健さがないと仮面ライダーのボディに適さないため、プロトタイプは二週間ほどで生命維持装置などに異常を来たし、死亡している。緑川博士が撮影した、そのプロトタイプの躯は俗に言う漫画版仮面ライダーを連想させる風貌であり、それを経て完全体として完成したのが旧一号、そこから発達したのが二号、新一号である。
「あ、ケイちゃん。君に見せるのは初めてだったな。ルリ子さんの遺品から出てきた、俺の恩師の緑川博士が組織にいた時に撮影した俺の前の仮面ライダーになりえた男だ」
「漫画版そのままっスね」
その男は漫画で描かれた仮面ライダー一号と同じ姿を持っていた。二週間しか生存しなかったが、大まかな姿は完成されている。その期間で仮面ライダーの全機能のテストはされていたようである。違いは触覚型アンテナが一号より大型であり、まだ小型化されていない様子である。その男の死亡原因は生命維持装置のマッチングが不良であった事、生体部分の想定外の拒絶反応であった。緑川博士が直接参画して、自身の義肢制作技術の応用で克服してみせたが、プロジェクト責任者に抜擢されてはいたので、責任を追求された。その良心の呵責が彼を愛弟子の本郷を推薦してしまうことになったが、緑川博士は戦争経験者であり、傷痍軍人や戦災孤児を見てきた事が彼を生化学・義肢研究へ進めたのは確かだ。組織の技術は当時の水準からは抜きん出ていたのは事実である。その技術の出自が欧州を焼いたナチスの産物であろうと、科学者はそれを使い、自分の理想を実現させようとする。緑川博士は自分の理想をナチスの超技術に託したと言える。組織が有した科学は、世の中が戦中と大差なく、日本が新幹線に喜んでいる時代に、21世紀以上の技術を誇っていたのだ。当時からは有用とは看破されないような技術も多数持っており、壊滅後に『新技術』として世に流れた者も多い。PCの電子回路はショッカーが使用していた組織内端末の解析から得られた成果をまとめ上げた結果の産物と言えよう。また、ショッカーの使用していた端末装置は2000年代初頭時のPCと同程度の性能であり、当時からすればオーバーテクノロジーだ。
「組織は改造人間を少しづつ作っていたが、その量産が確立されたのは、俺と本郷の時代だ。既存技術が応用できるラ級と違って、改造人間は高度な技術の塊だからな」
一文字の言う通り、改造人間は再生怪人にされるケースが多いが、製造費用がかかるからで、仮面ライダータイプは贅を尽くしているので、複数作られる場合もある。仮面ライダー二号タイプは少なくとも6体製造され、一文字を残して倒されている。一文字が本郷を倒せるやも知れぬ逸材であった以外は、格闘技や射撃に秀でる以外は凡人に等しく、万能超人の本郷や一文字の敵では無かった。だが、仮面ライダータイプの適合者ではあった。彼等、一文字の『兄弟』達が残したサイクロンが予備に確保され、後に改造サイクロンの部品にされている。この時に本郷は一文字と同型のライダーとの単純なスペック差を鍛えた技で覆しており、この時の戦闘を見た死神博士から『技の一号』と渾名されたとも。本郷はネオ一号までの改造まで、パワーを使うタイプではなかったため、ネオ一号がパワータイプであるのは驚かれている。また、ネオ一号は隠し玉であり、新一号からの二段変身を想定しているともいう。
「なんでまた再改造を?」
「三号に俺たちがやられる世界を知って、綾香ちゃんが落ちこんでな。俺としても困ってな。新一号としての俺は解析されきってるだろうから、思い切って手を入れたのさ」
本郷は黒江が自分を父親のように慕っている事は周知の事実であると断りつつ、三号というイレギュラーな仮面ライダーに自分や一文字が為す術もなく倒される世界の存在を前史で知って以来、本郷は黒江を気遣っているところがある。特に三号は自分を聖闘士の世界に導くきっかけであり、半死半生にされた因縁がある事から、黒江はその悪夢が起きてしまうことに怯えている節がある。特に、本郷の敗北はショックが大きく、茂から話を聞かされた本郷としても、なんとなくバツの悪い思いがあった。そこで悩んだ末に再改造に踏み切った。
「綾ちゃんに泣かれると、バツが悪いとか言って、自分で再改造したんだからな、コイツ」
「アイツ、智子と同レベルに子供っぽいとこあるしなぁ。それに前史の名残りで、弱気なとこ見せることも多くなったしなぁ」
黒江も人の子、自分が憧れている存在が更に圧倒されたりする光景を見てしまうと、幼少の頃のトラウマとの相乗効果で弱気のままの一面が出てしまう。今回は前史の坂本の事が自覚のないトラウマになっているようで、寝てる時は智子にべったりだったりする。黒江はそういう点では自分がかくありたいとする理想像として、仮面ライダー達に心酔していると言え、恩師も戦友も亡き時代で本郷が奮起する理由でもある。
「トラブルってのは本当に予想した最悪の斜め向こうから来るんだなぁ、参った」
「嬉しいトラブルだろ?綾ちゃん、前史からお前のこと、父親みたいに見てるし」
「あいつ、家庭内に不和抱えてたからなぁ。だから、本郷さん。あんたの背中に憧れたんだろうな」
圭子が言う。黒江は幼少の頃から弱気を吐けない環境にあった。前史の坂本とのトラブルであーやがぶり返したのは、深層心理で坂本が黒江の『坂本は自分に辛く当たらない』とする認識を打ち砕いてしまったショックが原因で、坂本も転生後はそれに気づき、謝罪している。黒江は強いようで、精神的に弱いところが見え隠れしている。それが本郷や智子、坂本などの奮起を促し、ドラえもんやのび太が気遣う理由でもある。黒江が容姿を頻繁に変えるのは、実のところ、少女らしい自分を出したい反面、素の容姿では不可能という事も理由に入っている。そのため、幼少の頃の自分と酷似した声であり、容姿もその頃の自分と似ている調の容姿を一番多く使っている。
「あ、見る?一文字さん。作戦前、アイツが遊びで取った綾波レイの容姿でのくつろぎブロマイド」
「お。そう言えば、小遣い稼ぎとか言ってたっけ」
「2010年代になると、コスプレで通るようになったから、半径10キロ圏内はそれで出歩くようになったぜ」
「マニア垂涎の的だな、こりゃ」
黒江は小遣い稼ぎをすると、それからしばらくは綾波レイの容姿を維持する。プラグスーツが快適だからで、コスプレの大衆化を喜んでいる。作戦直前まで2018年前後にいたので、野比家周辺は様変わりしており、裏山にもマンションが立つ様子にちょっと寂しそうな顔をしており、その時のものだ。プラグスーツの上にフライトジャケットをチャックは閉めないで羽織っており、そこが黒江の趣味を感じさせる。黒江が雪音クリスに言う通り、綾波レイの容姿はあまり冗談が通じないため、プライベートや通勤中の遊び以外には使えないとのことだが、自衛隊の同僚達は多くがブロマイドの購入者であり、黒江が容姿を変えられる事は暗黙の了解であった。
「綾ちゃん、容姿変えられるのバレてるんだし、大っぴらに能力使えばいいのにな」
「いや、仕事中は調の容姿以外は使わないとか?基地祭で使ってるから周知されてるーとかで」
黒江が容姿を変えられるのは部内の暗黙の了解である事は有名だが、それが具体的にどんなものかは知られていない。ただし、ル○ン三世以上のものだとは有名である。正確にはキューティーハニーと同じ現象で肉体を作り変えているのだ。元の身体能力を維持しつつ、容姿を変えるため、綾波レイの容姿であろうと、戦闘力は変わらないとは本人の言だが、イメージに合わないとはしている。また、この能力の使用にはある一定の精神集中が必要であり、機動兵器の製造などは聖闘士レベルの精神力でないと、体力的意味で制限がある。シャーリーは変身に使う事は多いが、機動兵器はあまり作らないのは体力消耗が黒江より高いからだ。『正直、人間サイズのエヴァンゲリオンとか言われても否定出来ねぇよ、オレ』と、綾波レイの姿で言っているが、実際、空中元素固定を最も使いこなしているのは黒江で、シャーリーは体力・精神トレーニングに励んでいるため、そこが二人の差かもしれない。また、シャーリーは美雲・ギンヌメール、『コードギ○ス』の紅月カレンの容姿がレパートリーであり、素に近いのが後者である。後者だと、『弾けろぉぉぉ!』がキメ台詞であり、素より荒っぽいため、『歌は神秘!』な美雲を使うことも多い。彼女の影武者もアルバイトでするようになったから、らしい。特に美雲・ギンヌメールの姿は他人を驚かすにも都合がいいらしく、素の容姿の時でも、『歌は神秘!』という事も増えた。カレンの姿だと、態度が普段より攻撃的かつガサツになっているが、本質的には変化していない。そのため、紅蓮聖天八極式に乗っていて、いつの間にか紅月カレンの姿になるなど、気分が乗るタイプなのがわかる。シャーリーはそのため、自衛隊から『輻射波動のねーちん』と渾名されている。また、美雲の容姿で歌うと、『銀河から御本人呼べねぇしな』と言われている。実際、ワルキューレは銀河の辺境におり、本星へおいそれ呼べない。ただし、艦娘・狭霧がフレイア・ヴィオンと同じような声色ということなので、黒江はすぐに呼び出し、作戦に歌要員として加えた。擬似的なワルキューレはより完全になったと言え、後はカナメ・バッカニアと似た声を出せる者がいればいいのに!とは、アイゼンハワーの嘆き。なお、アイゼンハワーは美雲の隠れファンだったらしく、圭子はシャーリーを使い、上手くアイゼンハワーを操るのであった。また、その事(ドワイト・アイゼンハワーがファン)は黒江↓S.M.S.↓イサム・ダイソン↓ケイオスのルートでワルキューレ本人達にも知らされ、美雲は地球行きに意欲を示し、ケイオス越しにシャーリーの容姿使用を容認したという。また、美雲は歌声を軍事利用されそうなため、その影武者が必要になっている事、地球ではファイヤーボンバーやシェリル、ランカの影に隠れ、ワルキューレは知名度に劣るため、カナメと美雲は『営業してくれるのなら』という条件で承諾した。ドラえもんの道具は愚か、あの宇宙戦艦ヤマトのタキオン波動エンジンのワープ航法でも往路に一ヶ月くらいかかるのが球状星団である。そのため、連邦軍もワルキューレの招聘を泣く泣く諦めた(美雲、フレイアは乗り気だったらしいが、フォールドでは時間がかかりすぎる)経緯がある。意外にシャーリーは大変な役目を背負ったため、ボイストレーニングと歌唱力の特訓をし、なんとか黒江が完コピと認める水準に高めた。シャーリーの血と汗の結晶である。その成果は黒江の同僚のオタク達が太鼓判を押すレベルであるが、どのような特訓がなされたかは言及を避けたい。そのため、ミーナは覚醒前にシャーリーが歌唱力特訓のためにシフトを外れたのを訝しんでいた。黒江はかなりシャーリーをしごき、シャーリーはそのしごきに耐え、美雲当人も驚く完コピ級の歌声となった。その意味で黒江はシャーリーに影武者を求め、シャーリーは見事に成功したのだ。これが美雲の運命をいい方向に傾かせ、ウィンダミア王国を困惑させる。地球本星(ヴァールシンドロームに強い耐性を持つ)の軍事介入を彼等が恐れた事から、球状星団は戦場化をしばし避けられたという。これは一説によると、ロイド・ブレームがゲッターエンペラーという、時間すら超えて介入してくるデウスマキナの存在とその力を原始し、地球の侵略者への苛烈さを幻視したとも、国王『グラミア・ネーリッヒ・ウィンダミア』が『ゲッターの皇帝』の介入を招けば、本星を物理的に潰されると、臣下を戒めたとも。
――その遺跡でゲッターエンペラーの宇宙制覇のビジョンを見ていたからこそ、地球本星を激昂させ、一度ゲッターエンペラーが出撃すれば、プロトカルチャーのどんな遺跡の力でも、ウィンダミアのどんな兵器でも傷つけられず、物理的に惑星を潰される悪夢が現実になると、彼は恐れた。実際、そのエンペラーでさえ、彼等が見たのは進化の途中であり、その全力はわからない。ゲッターの力を得たことはどういう意味か。地球を激昂させた場合、民族殲滅戦争にも躊躇を無くすほどの勢いで襲いかかる。あのガトランティスがあと一歩まで追い詰めながらも逆に滅亡させられたのだ。その苛烈さをグラミアは理解していた。ロイドは地球連邦打倒をスローガンにしても、地球人の打倒は望んでいない。だが、それがゲッターエンペラーの琴線に触れないか。時すらエンペラーの前には無意味である。地球に仇なすと分れば、情け容赦なく星どころか星団単位で粉砕する。グラミアはそれを恐れているが、死期の近い自分は無力に近いと嘆いている。地球がなぜ数多の侵略を防ぎ得たのか?彼は若き日にプロトカルチャーの遺跡が見せてくれた地球の力たる『ゲッターの皇帝』の凄まじさに身震いしたが、理解者が得られぬまま、国の行末を案ずるのである。その憂いは的中するのか。?ゲッターの庇護を得た地球の怒りを招いた場合の殲滅戦への強迫観念が彼を狂気へ向かわせていた。
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