外伝その223『勇壮10』


――ウィッチ世界に訪れた変革は異世界の同位国らによって始まった。それぞれの国民が手前勝手に動くため、結局は大半が連合を組んでの後始末を行う事となり、日本政府はそのモデルケースと見られた。ウィッチの取扱いは最も難儀であり、ジュネーブ条約を批准している日本政府には、これが一番の悩みどころであった。そのため、教育制度そのものを変革させ、育成費用回収の意味も込めて、ウィッチの最低就業期間を七年としたのだ。(なお、Gウィッチ達はそれぞれの国で将来的な元帥昇進が決定し、一応は生涯現役扱いとなる)戦場ではヒロイックな活躍を黒江達がし、日本と扶桑双方のニュースを飾る。映像中継付きで死闘が伝えられると、中堅は嫉妬の感情が先行した。レイブンズの絶頂期を知らず、見ていても『衰えた』頃であったりした世代は『自分たちの世代が怪異戦線を支えてきたのに』という、勘違いに近い自負があり、その自負が同位国の介入を招いたのが『罪』であった。中堅世代はウィッチ界隈では、15歳から17歳までを指していたため、レイブンズの絶頂期を知らず、海軍がレイブンズへの対抗心を煽って、その代を育てた事もあり、レイブンズを範としていた陸軍より血気に逸る割合が多かった。この報を本国で聞いた艦娘長門は憤怒して、こう吐き捨てた。

『バカ者共が!!長く働けば恩給だって多く付くし、ウィッチとして戦うしか出来ない様なタイプでも食いっぱぐれが無くなるというのがなぜわからんのだ!』

長門が憤怒するほど、海軍中堅ウィッチ達は血気に逸り、それが日本の介入の口実に使われるのだと理解しない。その点が長門、加賀、榛名などの艦娘をして、あからさまに憤慨する理由であった。



――戦場――

『ターボスマッシャーパーンチ!!』

唸りをあげ、炸裂するターボスマッシャーパンチ。マジンガーZEROにも通用する拳であるので、それ以外のモノにとっては無慈悲な拳による破壊を齎す。改修され、グレートマジンガーまでと同様のカラーリングになり、胸の金の装飾が取り払われたという外見的違いのみならず、『因果を超える』ためのゲッター線を副動力にしているため、そのポテンシャルはZEROをも超える。肝心のZERO討伐には間に合わなかったが、ZEROが否定した『自分以外の可能性』を肯定するために、異次元の自分の今際の願いを叶える道に身を投じた兜甲児。『科学者になりきるな』というZの願いのもと、マジンカイザーを駆る甲児。

「やれやれ。別の自分にまさかZの意思を代弁されちまうたぁ、ついてないぜ」

「代弁?」

「ああ。ZEROに取り込まれてた俺は今際に『ZEROを倒してくれ』、『Zの願いを叶えてくれ』と俺自身に願いを託したんだが、Zは俺にパイロットのままでいろって言うんだ。面倒な事になったぜ」

「パイロットと科学者を両立させればいいんじゃね」

「やっぱ、それしかないか?」

「だな。でもよ。ドラえもんがZEROに取り込まれてたZの躯を回収したんだろ?何体あったんだ?」

「おおそそ100体は超えるそうだぜ。その内の一つのZに乗ってた俺がパイルダーに積んでたカプセルから生まれたのがZちゃんだ。戦闘記録を再生できた個体から察するに、Zはグレートマジンガーやグレンダイザーに人々の関心がいって、自分が忘れ去られる恐怖を抱いて、それが肥大化したのがアイツだ」

「だからって、自分が存在しない世界まで『ZEROに還されちゃ』たまんねぇよ。その点はアイツがマジンガーのマガイモノって言える点だぜ」

シャーリーは自分で作った(空中元素固定)紅蓮聖天八極式越しに、『やれやれ』といったアクションを見せる。妙に人間臭いアクションだ。カイザーは28m、紅蓮聖天八極式はミドルモビルスーツとプチモビの中間程度の小ささなので、双方のサイズ差が顕著だが、妙に絵になる。機動力が実に高く、また、サイズの割に高い攻撃力を持つ。また、バックパック部がコックピットなので、そこの強度は特に高くしてある。バックパックがコックピットなところまで再現しなくともいいが、コックピット内蔵式では、どうしてもサイズが一回り大きくなり、ナイトメアフレームの特徴が多少なりともスポイルされるため、アニメ同様のサイズと姿で落ち着いた。動力については、シャーリーがオリジナルの動力から敢えて換え、未来世界の技術で整備しやすい動力源で代用しているので、その点は止むを得ない変更点だが、少なくとも熱核バーストタービンレベルのものではあるので、稼働時間の確保には役立っている。その他の機構は再現しているが、輻射波動機構については原理は同じだが、補給の関係で、動力源からのエネルギー供給式に変えられている他、シャーリーは構成材を合成鋼G(ゲッタードラゴン以後のゲッターロボの素材)に変えてあるため、右腕も必要に応じてモーフィング変形で通常マニュピレーターに変えられる(作業性のためだろう)機能があるなど、オリジナルとの違いも多いため、『ゲッターロボの特徴を持つナイトメアフレーム』と言えよう。通常時の外観はオリジナルと同じだ。この後、オリジナルの紅蓮聖天八極式と機能的差異が大きい事もあり、のび太から知らされた、JAXAに就職していた出木杉英才青年が新たに『紅蓮聖雷牙鴉(ぐれんせいらいがー)』という名前を思いつき、シャーリーの作った個体はそう登録される事となる。エナジーウイングの基部の形状は同じだが、塗装が透明な赤だったりするため、外見的にも差異が多少なりともあるし、接近戦用のMVSも日本の中巻と同様の形状になっているため、そこはシャーリーなりの最適化だろう。

「確かに。そっちはサイズが小さいから、捕まんないようになー」

「前みたいなヘマはしないよ!操縦のコツは掴んだしな」

「二人共、話はそこまでだ。第三陣が来たようだ」

「へっ、機械獣、妖機械獣、それに円盤銃とベガ獣もいるぜ」

「ベガ星連合軍め。バダンと手を組んだな」

「返り討ちにしてやるしかないな。地上は俺がやる。甲児君とシャーリーちゃんは空を頼む」

『OK!』

グレンダイザー、マジンカイザーと轡を並べる紅蓮聖天八極式(紅蓮聖雷牙鴉(ぐれんせいらいがー))というのも、中々に平行世界の可能性を妙実に表す光景と言える。特に最強クラスと名高い二体の護衛を務めるあたり、同機の基礎ポテンシャルの高さを示すものであった。同時に、人型機動兵器の将来性を日本に確信させるものであったが、ウィッチの一部の劣等感を加速させてしまったのも事実だ。シンフォギア装者、スーパーロボット、超英雄、英霊。それらが花形として君臨する戦場では、通常の平均的ウィッチは通常兵器とほぼ変わらない扱いであるため、その扱いを屈辱と考えたのだが、Gウィッチのウィッチ全体の守護のためという目的は理解されず、それが軍部をその後、長らく悩まし続けるのであった。







――扶桑連合艦隊・空母機動部隊。その搭乗員の多くは元日本軍の義勇パイロット達であり、当時の日本の事務的対応のミスが有事で不味い方向に働いた好例であった。義勇兵は基本的にポツダム昇進後の階級で遇されたため、士官教育などが取り急ぎ行われた。元自衛官でありつつ、青年時の軍歴を優先し、日本帝国軍人として遇される事を選んだ層が教官とされ、この時の搭乗員のおおよそ八割は旧日本海軍出身の義勇兵で賄われていた。扶桑生え抜きパイロットのM動乱経験者は多くが教官に回されていたためと、空軍へ移籍内定のため、その内の二割しか動員できなかった。その早急な穴埋めとして、日本にパニックの埋め合わせを迫り、日本は元・日本海軍の空母機動部隊経験者を義勇兵として送り出したのである。機材については、史実では試作か計画のみの機種が実現していた(烈風/紫電改艦戦型)ため、史実に比すれば遥かに恵まれている扶桑。だが、時期が1945年であり、『アンチゼロファイター』と名高いF8Fベアキャットの実用化が懸念され、日本側からは『性能不足ではないか?』との指摘があった。しかし、史実での紫電改や烈風第二期試作機の性能値は悪化する戦局で測定されたものであり、史実より高馬力のエンジンを積み、最適な整備環境、最高品質の燃料と潤滑油が提供される扶桑製の同機は紫電改で594kmの史実が嘘のような当時の艦上戦闘機/局地戦闘機として一線級水準の性能値(紫電改で690km、烈風で680km前後)を叩き出し、日本の専門家を唖然とさせた。反応は『癒着で生まれたギリギリ設計の誉エンジンにこんな性能が出せるはすない!』とする辛辣なものが多かった。実際には誉より大型ながら200馬力(2200HP)以上の高出力と高トルクのハ43エンジンが排気タービンなどを積んだ上で装備されていた事、連合軍が安定供給できる燃料は『97オクタン価』ガソリンで、史実で90オクタン価がせいぜいの日本軍に比して遥かにいいものである。更に未来の前々からの援助で基礎工業力がアップしていたため、史実が嘘のような水準の性能を出せたのだ。

――富士の艦内――

「統括官、マスコミ向けとはいえ、龍鶴(プロメテウス)に第4世代機を積んだのは何故の事で?」

「マスコミ連中は戦中の自国機をガラクタというからな。連中の見慣れた戦闘機を載せておけば、自然に批判は収まる」

「大変ですな。陸軍出身の貴方が海で参謀をする羽目になるとは」

「仕方あるまい。軍令部の参謀の多くは心療内科にかかって、勤務に耐えうる状態ではない。私は宇宙軍で艦艇勤務に慣れているからな、連合艦隊もそれで呼んだんだろう」

「宇宙戦艦って、船ですかね?」

「地球連邦軍の宇宙戦艦は着水機能あるから、予算からして艦艇なんだ」


黒江は『連邦軍の宇宙艦艇は大型航空機ではなく、艦艇として扱われている』事を連絡担当の自衛官に言う。そして、扶桑の新憲法素案で国家緊急権が明記されたのは、扶桑軍人のみならず、扶桑の国民がそれを望んだゆえのことだと教える。

「扶桑は国家緊急権がモノを言った歴史がある。だから、天皇に国家緊急権を与えることを良しとするんだ。事変でそうなったからな。国内法規まで全部を日本に合わせる必要もないが、3月10日の陸軍記念日だけは廃止させられたがな」

日本は扶桑の陸軍記念日を廃止させた。扶桑では起こっていない出来事を(東京大空襲)理由に廃止は外聞的に不味いので、表向きは海軍記念日との統合を理由にした。日本は日露戦争の勝利の立役者である東郷平八郎は英雄視するが、乃木希典については悲劇の軍人はあっても、英雄と扱う事は戦後は少ないという事情、扶桑が陸軍記念日を祝うのを潰そうとした左翼勢力のテロも懸念したためだ。元々、武士や軍人を尊ぶ風潮のある扶桑は海軍記念日、陸軍記念日を決めていた。だが日本の一部勢力の内政干渉に近い要請はなんとか撤回されたが、陸軍記念日は廃止する(その変わりの祝日を増やす羽目となったとか)流れとなったのは事実だ。特に日露戦争が『似た流れの怪異襲来があった』だけというのが決め手となるが、乃木希典が奉天会戦などに至る戦闘で多くの犠牲を出したのは変わりないことが責めどころとなり、海軍記念日だけが『軍隊記念日』として残された。乃木希典は扶桑では英雄だが、日本にとっては『明治天皇に殉死した、10万人ほど戦死させた悲劇の軍人』である事、東郷平八郎は扶桑では海援隊の後援者として余生を送ったが、日本にとっては日本海軍英雄である差でもあった。記念日は良いことを記録に残すのではないとする反論もあったが、日本の今上天皇が『扶桑の陸軍記念日と大空襲が重なったのは不運であるが、ここは大空襲の被害者と遺族の顔を立てて欲しい…』という内容の談話を出したことで確定した。その代り、扶桑で記念式典をすることは咎めないということで妥協され、軍隊記念日ということで海軍記念日のみが存続した。最も、これは日本連邦としての祝日であり、扶桑は国民世論を後ろ盾に、単独での祝日としては残った。空軍は設立議案議決日を創設記念日にする方向になるが、新参者である事から祝日化は見送られた。

「海軍ですが、空母機動部隊がウチの国の義勇兵な時点で哀れな気が」

「財務省も防衛省も顔面蒼白だよ。花形の空母機動部隊が張子の虎なんだからな」

「どうして、地球連邦宇宙軍が援助を?」

「位置づけの明確化もあるらしい。だってよぉ、もう一つの地球、ガイアだと“コスモネイビー”ってまんま海軍なんたぜ?だから、空自の宇宙部隊が前身だけど、海軍化を進めてるわけ。その兼ね合いだ」

「ガイアへの対抗、ですか」

「そうだ。例えば、ガイアの前衛武装宇宙艦の設計がアースのアンドロメダとほぼ瓜二つだけど、こっちのアンドロメダは着水機能あった。アースの工廠、ガイアにパテント料請求したらしい」

前衛武装宇宙艦という名で設計されたガイアの次世代型艦艇はどう見てもアンドロメダであり、激怒したアースの工廠の技術陣はパテント料請求をガイアに送りつけたという。

「ソ連みたいな言い訳で返して来るかと…」

「向こうの芹沢虎徹軍務局長がまんまソ連みたいな言い訳してきたそうな…」

ガイアの芹沢軍務局長は『アースのアンドロメダと同じ姿なのは偶然の一致である』と突っぱねたが、激怒したアースの藤堂平九郎軍令部総長が『タイムレーダーでフルスキャンかければ解るか…』と発言したことで平謝りである。結局、ガイアの理論による波動エネルギー制御装置『重力子スプレッドの技術開示』を行う羽目となったほか、この時にガイアヤマトの借用件を取得したという。

「ガイアヤマトはリメイクバージョンに相当するけど、水惑星アクエリアスが来た時の人柱にする予定だって」

「オリジナルヤマトの身代わりの生贄ですね」

「ぶっちゃけるとな。オリジナルヤマトは地球のシンボルだ。失うわけにはいかんという判断だ」

「いいんですか」

「こっちのムサシ、まほろば、ラ號、シナノと同じように、向こうには銀河ってのが控えてるそうだし、生贄にはちょうどいいそうだぞ」


ヤマトの同型艦。オリジナルヤマトの同型艦は同系統の新造艦が二隻、大和型戦艦の血統を持つモノの改装での準姉妹艦扱いが二隻と多い。ガイアのそれは船体は同一だが、上部は新規設計のモノを載っけた新造戦艦であるため、神の加護的意味ではアースの比ではない。アースのものは過半数が日本海軍の遺産を改造して宇宙戦艦にしたものなので、ガイアの芹沢虎徹は『19世紀の帆船をスペースシャトルにするようなものだ』と一笑に付したという。しかし、それがどういうわけか、ガルマン・ガミラスのデスラーは『ヤマトは宇宙の良心だ!』と太鼓判を押し、デザリアムは『ヤマトを倒せ!!』がスローガンだとする地球のシンボルである。ガイアと違い、アースでは戦艦大和の悲劇がいつしか日本人の戦艦への郷愁と誇りに繋がり、その日本人が蘇らせたのが宇宙戦艦ヤマトだ。そのヤマトが特攻に走りかけたという点で白色彗星帝国は『ヤマト最強の敵』とされている。その入れ込みはガイアから奇異に見られるほどだが、ともかくも、黒江が生贄にガイアヤマトを使うことを公然と口にする程にマクロス以上にシンボリックに見られていると言えよう。ガイアはアースによるこの通達へかなり不満を持ったが、考案していたアイデアの多くが既にアースで実用化されていた事にショックを受けたため、アースとの規格統一に動いた。しかし、機動兵器に関してはスーパーロボットは違いが、機動兵器の互いの輸出は盛んになり、戦闘機の規格統一などに留まったという。

「それで、空母機動部隊はどう運用を?」

「うむ。第4世代機は温存して、レシプロでレシプロは迎撃させる。紫電改にしても、烈風にしても、敵の主力のヘルキャットとコルセアくらいは抑え込めるし、ベアキャットはF-8に対応させればいい。それにVT信管はまだ向こうにはない。熟練者の乗る流星と天山でお釣りがくる。エセックスは酸素魚雷が三発でも当たれば転覆するしな」

通路で黒江は空母機動部隊の運用法を話す。実際、扶桑の数少ない生え抜きパイロット達は南雲機動部隊当時の手練であるため、1942年以前の水準の対空砲火で相応の防弾装備を持つ流星を落とす事は難しい。いくらスカイレーダーへの機種変更が予定されていても、流星攻撃機は扶桑にとっては最新鋭であったので、国内メーカーの雇用確保のためにラインは維持されていた。(スカイレーダーが異常な搭載量であるが、第二次大戦のレベルでは、流星も天山より搭載量は多い)日本の政治家や防衛官僚は旧軍機を『数合わせ』としか見ていないが、流星も天山もTBFよりは運動性能はいいという点があり、義勇兵らの操縦でその真価が発揮されると、皆、手のひらを返した。紫電改も烈風も、速度が上がっている分、零戦より横方面の機動性は落ちるが、高速での旋回力や縦方面の旋回力は圧倒的に優位であり、そこも往時の南雲機動部隊の無敵ぶりを再現できた理由だった。(義勇兵らは多くが太平洋戦争の地獄を見てきた者達に対し、敵はこの戦が初陣という若者も多かったため、経験で大きな差があった)そのため、敵は性能的な優位を持とうと、ジェットであるF-80を輸送空母で運んでいるが、当然、潜水艦隊による猛攻で上手くいっていない。リベリオン大陸から欧州まではティターンズの高高度なり、深々度輸送のみが安全・確実な輸送方法と言えるリベリオン側。

「攻撃ウィッチはこれまで無用の長物扱いだったから、確実性がわからん。酸素魚雷を果たして、去年までの友軍相手に運べるか」

「旧来の攻撃機で運ぶよりは生き残れましょう。バスターウィッチは考案されたばかり。ここで最後の華を咲かせてやりましょう」

「腐ってる連中に最後の華を持たせてやるか。各空母に通達。護衛にはウチの若い連中をつかせる」

「はっ」

黒江は富士に乗艦すると、連合艦隊航空主席参謀の職に任ぜられ、そのまま連合艦隊参謀も兼務する事となった。陸軍出身ながら、地球連邦宇宙軍に軍籍がある点が決め手となった。当時、恩賜組などの軍令部参謀、参謀本部参謀の大半は日本から『いったん作られた計画にどこまでも固執して、状況が変化しても自発性や想像力を発揮できない』事を理由に遠ざけられ、また、左翼勢力に残虐非道のレッテルで罵倒されるのに耐えかえ、勤務に耐えうる状態では無くなっていたため、黒江達にその代わりが求められた。日本には『前線を知っていないと参謀の資格なし』とも断する世論もあるため、一戦士としても高い戦闘力を持ち、なおかつ参謀の任務に耐えられるGウィッチへ負担がのしかかった。軍令部・参謀本部から参謀が送れない以上、前史で幕僚経験も持つ黒江達に全てを託すしか無かった。これは防衛省のみならず、国会で問題となった。特定個人に一戦士から前線指揮、作戦立案まで担わせるのは、近代軍隊では前代未聞の事態であるからだ。日本の一般人の軍人への認識はよくて日露戦争で止まっているので、そこも黒江達の悲運であった。また、織田信長、伊達政宗しかりの戦国武将たちよろしく、指揮官は先頭に立つべきという伝統が日本と扶桑にはあり、武子もその伝統を守っているように、指揮官先頭は日本の一般人の持つ戦争への考えの表れであった。その弊害は参謀たちへの罵りに顕著に表れ、幼年学校卒だと『幼年上がりの馬鹿』と言われる若手参謀も多かった。また、幼年学校出身であると、日本の政治家に軍国主義の権化と見なされ、中枢からかなりが排除されたが、ウィッチはこの幼年学校卒が多かった。黒田とて、陸幼上がりである。特に黒田は『侯爵家の分家出身であり、ウィッチである』ので丁重に扱われ、黒江が直々に指名して陸幼を繰り上げ卒業させ、航士へ推薦している。黒田は黒江のバディを務め、更に紅海戦線の撃墜王かつ、Gウィッチという箔があるので、日本連邦下でも元帥位が約束されている。黒田は幼年学校では平凡な成績であったが、前史から引き継いだ技能の開花もあり、実戦で活躍。お飾りと揶揄される華族ウィッチの中でも珍しい実戦派かつ、二代目斬艦刀使いの異名を誇った。華族は男女問わず、軍歴を持つのが不文律だが、黒田家は風香にウィッチの才能がないことが遠因となったお家騒動になり、結局、邦佳が天皇陛下の勅で継ぐことになるのである。黒田は不本意ながら、結局は家を切り盛りする羽目になるのだ。そのため、ノーブルウィッチーズの崩壊は黒田家に多大な影響を及ぼしたのであると言えよう。(ノーブルウィッチーズ崩壊の直接要因はペリーヌの辞退が日本、アメリカなどの介入を招いた事でもあるが)

「扶桑は華族や旧皇族が身分を維持してるからな。その嫉妬が左翼勢力に多い。旧皇族はともかくも、旧華族は扶桑華族の義務にげんなりしてるしな」

扶桑では特権は昭和期にかなり無くなり、軍役などの義務が課せられている分、日本の旧華族から同情されている。特に、女でも軍役を課せられるため、扶桑は英国流の華族社会になっている。扶桑華族は日本の旧華族より社会的責任が重いと言える。

「黒田なんて、黒田長成公の跡継ぎになるんだぞ。おかげで日本の黒田家から苦情来たそうだ」

黒田は出身が本家と一番遠い傍流である。日本の黒田家がこの時点の当主『黒田長礼』にお家騒動の苦情を入れた程である。史実で言うところの彼の嫡男が日本での『黒田長礼』と似ても似つかない、傲慢と偏見に溢れた人物であったのが長成に知れ渡り、その憤激を買い、廃嫡され、邦佳が当主を継承する。扶桑の黒田家のお家騒動が天皇陛下の裁可で早期に解決させられたのは、日本の野党に華族廃止の口実を与えないためでもある。野党は2010年代に戦国三英傑の末裔たちに諌められても、まだ諦めてはいなかったため、天皇陛下が自ら介入するしかなく、黒田家も顔面蒼白であった。また、同位の家からの苦情が邦佳の継承の助けになり、本人の意思とは関係なしに当主の座が転がり込んできてしまった。当人は『家柄?何それ、おいしいの?』を地でいくが、黒江の腹心である事変からの地位から、天皇陛下のお気に入りの一人である。

「統括官の懐刀なのは驚きですよ。漫画や小説では世代が違うでしょ」

「ああ。アイツは漫画だと坂本の二期下にあたるしな」

「ここでは違うと」

「私が引き抜いたから、坂本より一期先輩になった。今だったら問題になったかもな。あいつ、あの頃は10歳にもなってなかったし」

黒田は44年で15歳と、七勇士最年少である。事変当時は幼年学校生にすぎなかったが、黒江が指名して配属させたことで事変を戦い、事変後に航士に推薦入学し、少尉に任官されている。そのため、現在では坂本と竹井を顎で使える立場にある。

「そこから軍歴が?」

「漫画と違って、事変の激戦期に参戦済みだから、坂本と竹井より目上だぞ、あいつ」

坂本はこの時期の最古参の年齢層だが、その坂本が年下に目下として接するのは、黒田くらいなものである。そのため、後に現れた坂本Bがやりにくいとボヤくのである。黒田は事変時に覚醒済みで、黒江を先輩と呼んだために覚醒を確信、以後は黒江の懐刀として仕えてきた。また、圭子が1942年ごろにアフリカに呼び寄せたのも、覚醒した事を知らせる意図と、自分の護衛を欲しがったためでもある。漫画では二人とは接点がないが、この世界では黒江と圭子に仕え、なおかつ仮面ライダー555こと、乾巧を思わせる台詞回しをするというので、漫画とは違うキャラで人気である。

「どことなく、乾巧を思わせる台詞回ししません、大尉は」

「巧さんの影響受けたからな、アイツ。クリムゾンスマッシュとか私より多用するしな」

「アクセルフォームより速いじゃないですか、彼女」

「あいつも黄金聖闘士の端くれだ。光速移動はお手の物だ。だから、B部隊には畏れられたとか」

「そりゃ、杭打ちキックをかましたらビビりますよ。しかも、斬艦刀使えるんでしょ?」

「アルトリアがエクスカリバー使えるから、Bが戦力的に霞んじゃってな」

「確かに」

旧ノーブルウィッチーズは、アルトリアの覚醒で戦力に偏りが生まれてしまい、さらに黒田が斬艦刀を披露したりしたこともあり、人間関係は意外に纏まっていない。黒田が戦闘になると守銭奴よりも戦闘狂の面が強まる上、ガリア王党派の「教授」とマリアン・E・カールへ、乾巧を連想させる啖呵を切った事で、一気に周りに畏れられた面も大きい。

「あいつ、ガリア王党派残党に『人相手に戦うのが罪なら……私が背負ってやる!』って啖呵切ったそうだ。どっかで聞いたような台詞回しだけど、マリアンには堪えたらしい」

「なんか『Justiφ's』でも流れそうな台詞回しですねぇ」

「だろ?マリアンの奴、それで悩んだらしいんだ。黒田が事変の英雄で、自分より軍歴が長くて、しかもお上のお気に入り。それでありながら、ウィッチの摂理を超えてでも、戦う意思を持つから、自分のあり方に悩んだらしい」

マリアンは信条的にMATにいく道も薦められたが、黒田の強い意志に触れたことで、軍部に残った。友人のジェニファーの『戦死』(実際は別人になったが)で考えを変え、ジェニファーの無念を晴らすといい、そのまま軍部に残ったのである。

「あいつ、シャーリーに憧れててな。今の紅月カレンな風貌見たらおったまげるぞぉ」

マリアンも声が艦娘赤城や成長したミネバ・ラオ・ザビにそっくりなので、IS『ユニコーン』の候補者であったりする。

「紅蓮に乗るのもあって、我が海自は大笑いですよ」

「美雲さんにも変身できるぞ、アイツ。今回の作戦、ワルキューレご本人達を呼ぶ予定だったんだが、如何せん遠くてな」

「えーと、どこでしたっけ」

「銀河の先端の球状星団。長距離ワープしにくいところだし、フォールドだと断層の都合で迂回コースだから時間がかかるんだよ。それに迂回がボラー連邦の領土でなぁ」

「ボラー連邦のあのドクロベエ声の首相さえいなければ、地球圏初ライブになるところだったんですか」

「あ、ああ。FIRE BOMBERはバサラさんがアレだし、シェリルとランカはシェリルが昏睡状態でなぁ。ワルキューレが有力候補だったんだ」

「ランカちゃんだけでも…」

「馬鹿、誰がシェリルに輸血すんだ」

「うーん、残念!」

23世紀の事情でワルキューレが来れなくなったのを残念がる海自の連絡員。美雲もカナメも意欲を示していたと黒江はいい、21世紀の人間に自分の生の声を聞かせたいと、美雲が特に乗り気だったと伝えられたと教える。

「だから、シャーリーを鍛え上げた。私もグレイス・オコナーに頼んで、ボイストレーニングは受けてるからな」

「あの人、ギャラクシーの人でしょ」

「歌には真摯だったよ、あいつ。恩師の孫娘だから、シェリルには愛情を持ってたのは本当だ。シェリルの祖母はマオだぞ」

「だから、それ信じらんないですよ。マオというより、姉のサラの方に顔立ち似てますよ」

海自の彼はマクロスシリーズのファンらしく、シェリル・ノームの顔立ちはマオ・ノームというよりは、サラ・ノームを思わせると指摘する。シェリル当人が聞いたら憤慨は間違いなしだ。

「シェリルが聞いたら怒るぞ」

「だってシェリル、じゃじゃ馬じゃないですか」

「アルトも手こずってたし、そこは勘弁してやれ。アルト、たぶん、そのうち戻ってくるさ」

「そこは一条輝とは違いますね」

「彼、別の宇宙か銀河に行った説有力だからな」

一条輝はフォッカーの愛弟子であり、かつてのスカル隊の隊員であるが、メガロード01ごと行方不明になったとされる。ただし、別の星に飛ばされたともされ、そこは詳細不明だ。

「どうして、マックス艦長老けないんですか、統括官」

「天才だからだよ、彼。奥さんとの仲も再燃したし」

「ミレーヌちゃんはどうなんですか」

「あとで本人の録音のアルバム聞かせてやるよ」

ミレーヌはガムリン木崎曰く、よく知られている姿との事なので、マクロス7船団ではバローダ戦役から時間がそれほど経っていないが、姉のミランダがミラージュを生んでいるのは確実だ。

「ただ、ミラージュがもう10代後半だから、ミレーヌ、あの外見のままで叔母さんに」

「デカルチャーと言いたいですよ、私は」

「これも宇宙の不思議だ」

ミレーヌは直近の姉であるミランダとも5歳以上離れている。姪のミラージュが長じたら、外見に年齢差がでなくなったというのは本当である。

「あれ?一番上のコミリア、ミラージュがいる頃にはもう彼女に子供どころか孫が…」

「そうなってそうで怖いのが、ジーナス家だよ。それにミレーヌは地球基準の高齢出産での子供だし、年上の姪や甥がいたって不思議じゃない」

23世紀ではエリートの家系のジーナス家。それ故に、一家では凡人に近いミランダの子供であるが故の偉大な祖父母、伯母と叔母達へのコンプレックスがあったのがミラージュである。

「こうしてみると不思議なことですね」

「ウラシマ効果が出るのがフォールドだしな。だからワープが実用化されたんだ」

波動エンジンを用いたワープであるなら、ウラシマ効果は出ない。以前のワープはウラシマ効果の生ずるモノだったため、現在のワープは従来のワープと理論の違うものであるのが分かる。

「ウラシマ効果ですか」

「宇宙と地球は体感時間が違ったりするから、あまり長距離だとヤマトのワープを使うんだ」

「波動エンジンって何百年くらい主力で」

「モノポールエンジンの実用化までの期間は最高のエンジンであり続ける。数百年だな。それ以降は波動モノポール機関に切り替わるし」

未来では、波動エンジンは波動エンジンより良質のエネルギーを引き出せるモノポールエンジンが実用化されるまで地球の主動力として君臨する。そのさらなる究極が大ヤマトなのだ。

「そのさらなる究極を私は見たからな。そのヤマトに比べりゃ超巨大戦艦も雑魚だ」

そう言って、黒江はCICに入っていく。グレートヤマトと大ヤマトの存在を彼に示唆して。少なくともアースは最強の戦艦にヤマトの名を受け継がせる慣わしになるのである。その究極のヤマトが初代の正統進化系なのは、代を重ねるごとにヤマトとかけ離れてきた後継たちへの皮肉ともいえた。



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