外伝その232『フューチャーヒーロー3』
――扶桑のクーデターの要因の一つは日本側が海軍良識派を中心にした扶桑の改革派を重宝し、扶桑を強引に改革しようとした事が主流派の反発を招いたことであり、また、それまで主戦を張っていたウィッチがマジンカイザーや真ゲッターロボといった超兵器に押され、日陰者の扱いになるのが我慢できなかった論調もあっただろう。それを少しでも払拭するため、Gウィッチの強さは求められた――
「綾香も大変よね、参謀なんて」
「あたしやお前はお世辞にも参謀向きじゃねぇしな。それに、あいつにゃ政治的に扶桑全体を支配できんだろっていう陰口がある。立場上、それはご法度だがな」
「あんたら、外見と中身が一致しねぇぞ」
「だって、中身は何回か転生してる年寄りだもの。外見はいくらでも変えられるけど、心は老成したつもりよ」
「その割に遊びが過ぎんぞ」
雪音クリスは、智子と圭子の外見と内面が一致しないと言われる、その精神面に些か翻弄されている。黒江達は経験は数百年分あるのにも関わず、メンタリティは10代のままである事は敵対派閥から攻撃の対象になってもいるが、三人は意に介さない。数度の転生の度に道を切り開いてきたからだろう。
「いいじゃない。何回か転生すれば、ギャーギャー騒いだって何にもならないことくらいわかるもの。それにこの戦いは複雑よ。ティターンズ、ナチス・ドイツ、ジオン。この三つがこの世界のアメリカを煽ってる。ティターンズは一部の生き残りだけだけど、ジオンはシャアが動いてるし、ナチス残党はもっと大規模だもの」
「みんな、なにかかしらの戦争に負けた連中じゃねぇか!」
「そうよ。第二次世界大戦、貴方がアニメで知ってる、一年戦争やグリプス戦役の敗者達がこの世界の世界大戦の糸を引いてるのよ」
「なんで、別の世界に来てまで戦争したがるんだよ!?」
「それが連中の存在意義だからよ。特にナチスの連中は戦後、その存在の全てを否定され、日本軍以上にタブー視されている。その復権を狙っている面もあるけれど、第二次世界大戦の野望成就のためが第一よ」
「だからって、ずっと後の時代の連中まで、それに乗っかるのかよ!?」
「思惑は違っても、利害は一致したのよ。自分達を負かした相手や、かつては同盟国であったけど、敵国の手に落ちた国への復讐を、ね」
智子は数回の転生から、バダンが元々はナチス残党であり、アドルフ・ヒトラーを裏で操っていた存在の配下になっている以外は往年の規律を保っており、行方不明扱いになっていた25万のドイツ人(軍隊除き)が当初の構成員であった事を突き止めていた。そこから増加し、現在はシンパと歴代下部組織残党も加えているのを考えると、1000万はくだらないと見ている。また、平行時空のナチスも協力しているため、往年のドイツ国防軍とドイツ帝国海軍(プロイセン時代の海軍)が丸ごと敵になったも同然だ。人工兵士込みで考えたほうがいいが、船は『第二次世界大戦に勝った』世界で作ったモノを受領したというのが大半だ。例えば、バダンの有したビスマルク級は史実と変わり映えしない能力であったが、それも理由だ。
「自給自足できるナチスはともかく、ジオンなんて、残党の残党って感じよ。今じゃ、シャア・アズナブル個人のカリスマ性におんぶにだっこだもの」
「残党の残党ぉ?」
「ジオンって国は、軍隊が徹底抗戦派のほうが多めだったから、終戦時の残存兵力の六割から七割が残党として地下に潜って、テロリストになった。終戦議決が共和国政府に決められたのに、それに軍隊の七割が反したのよね。共和国が連邦の傀儡にならざるを得なかったのも当然だし、何よりも資源よ。自給自足できないのよ、サイド3だけじゃ。公国の残党が離合集散を繰り返した末の最後の残党がネオ・ジオン。便宜上、新・ネオ・ジオンと呼ばれているわ。シャア・アズナブル、赤い彗星。彼が国家元首の形態だから、事実上は彼個人に依存する国よ」
ネオ・ジオンも残党の離散集合の繰り返しで成立した組織で、明確な階級制度が存在しなかったが故に、第一次ネオ・ジオン戦争でグレミー・トトがクーデターを起こした事を悔いていたので、シャアの復帰後は一年戦争時の階級制度を復活させている。シャア個人に大きく依存する形態なのは、シャア個人が優秀な人物であったのもあるが、ジオン残党はそもそも軍隊の残党が主構成員なので、文官が確保できないという切実な事情もある。そのため、他の連邦に破れた組織の残党を取り込むことで確保する有様である。
「だから、ナチスに乗っかったのよね。一石二鳥ってやつ。元々、23世紀世界の地球連邦は日本とイギリスが国連の主導権を握って作ったのが始まりだし、国連も元はと言えば、第二次世界大戦の戦勝国が世界を思うがままにしようとして作った組織だったし」
21世紀アメリカは知らないが、自らの覇権は永劫のものではなく、力をつけた日本に破れたことで、国としては零落する未来は残酷である。だが、諸方面でその残滓は色濃いし、文化的にはアメリカが築き上げた文化は、30世紀の未来までずっと健在である。23世紀時点の歴史家は言う。『アメリカ合衆国はその役目を終えただけだ』と。
「この世界って、インベーダーやノイズみてぇな化物がいる以外は似た歴史たどってんだろ?気になってたけど、この世界に中国あるのか?」
「昔はあったぜ。安土桃山時代に入って数十年後に滅んだから。だから、この世界に入ってきてる中国の文化の多くは日本発だ」
圭子が解説する。ウィッチ世界に伝わっている中華料理や中国拳法などの中華文化の大半はここ数年で日本(ひいては地球連邦)ルートから入ってきたものであると。もちろん、明代までに伝わったモノも多いが、日本でよく知られている形の文化としては、日本から入ってきたものが大半だ。(そのため、中国の孫子の兵法もあまり伝わっておらず、ウィッチ世界欧州の軍人の大半は日本のマスメディアに『兵法の何たるかも知らない』と嘲笑される有様だったりする)
「ラーメンも原型らしいのは元々あったけど、お前が食ってそうな形のが食えるようになったのはここ数年の話だ。あたしらは別世界に行けるからいいが、一般の連中はな」
「あんたら、めっちゃ勝ち組ってことか?」
「軍隊の、それもエースパイロットの経歴の高級将校にもなりゃ優遇されるからな。異世界に行けるのは基本、士官級以上。自衛隊で言う幹部自衛官だぞ?」
「つーと、あんたらエリートなんだな」
「最初から士官学校出てるのは綾香と圭子だけ。あたしは兵上がりだけどね」
智子は今回の転生では、少年飛行兵制度のウィッチ枠で志願したので、最初から士官学校に行ったわけではない。そのため、一定の期間の下士官の勤務経験を持つ。陸軍というと、硬直した人事を連想させるが、航空部隊は若年である事も人事の条件に入るため、海軍のガチガチの学歴社会よりよほど開明的である。今回は個人で戦略兵器級の強さを持つのが危険視される理由付けにされたが、現在、再訓練無しに、P-47やP-51Hという高性能機の編隊と渡り合えるウィッチは通常ウィッチのエース級以上であるが、オラーシャ革命(未遂)、東二号作戦の頓挫でそのエース級が決定的に不足しており、更にモビルドール『ビルゴ』シリーズやゴースト無人戦闘機も戦場に飛来してきており、その掃討に地球連邦軍もエースパイロットを続々と駆り出している。特に後者はウィッチには猛威そのものであり、ゴーストは可変戦闘機乗りにとっても脅威であり、エースパイロットに最高級機を充てがってようやく撃退可能な代物である。赤ズボン隊は早々にゴーストと遭遇し、後送という結果に終わっており、『赤ズボン隊は噛ませ犬』という、ある意味では哀れなポジションが板についてしまった感は否めない。レイブンズは確かに、その点では往時と同様の神通力を如何な相手でも示せるため、上層部受けするのである。
「あたしらは相手がゴルゴ13でもない限りは休戦しねぇから、上も重宝するんだよ」
「ゴルゴってそんなに強いのかよ」
「人の究極に近い存在だし、いくら光速で動けると言っても、あの人なら隙を突ける。だから、あたしらも一回、否応なしに戦ってから休戦してるんだよ」
ゴルゴは総合的ポテンシャルは人としての究極に近い。本人曰く、ウサギのように臆病とのことだが、レイブンズも一回交戦して、肝を冷やしたので、デューク東郷との敵対をなるべく避けている。固定顧客を持たない(かつてのMI6部長のヒューム卿が強いて言うならの顧客であったが)彼だが、幸運にもナチスとは敵対する運命にあるため、その点では利害は一致している。
「ふーん…。あんたらにも苦手なのはいるんだな」
「裏世界ナンバーワンの座を何十年も欲しいままにするS級のプロだぞ?いくらあたしらが強いって言っても、あの人は臆病だからこその大胆不敵なんだ」
銃撃狂の圭子もデューク東郷へ敬意を払っているのがわかる。また、レイブンズを『青二才』扱いできる数少ない人物でもあるため、その点は裏世界に(肉体の代替わりという裏事情があるにしろ)君臨し続けるプロである所以だ。
「やけに肩持つな?」
「昔、彼とやり合って、狙撃距離で負けた事あってな」
ゴルゴの狙撃は圭子が超視力使用でギリギリできるか怪しい距離を余裕でやってのける。その時に圭子は肝を冷やしたため、彼との敵対を避けるようになった。しかもアサルトライフルの高精度な個体で。前史で狙撃への自信を無くしたのは、超視力無しに、のび太とゴルゴが700m級の狙撃をしあったからであり、以後は近接戦闘にベクトルが変わった。前史でのことだ。
「狙撃向けの魔法持ってた身としちゃ、打ちのめされてな。空戦でもせいぜい2、300mくらいからの狙撃だしな」
圭子の時代は150から200mでの援護射撃が普通で、38式歩兵銃では100m台であった。後輩で、対物ライフルを使うリーネでも、200から300m。ゴルゴの狙撃が並外れているかの証明だ。
「そうか、ばーちゃんの時代は三八式だっけ。あの前時代的な」
「あのなぁ。あたしらの若い頃はみんなボルトアクション式だったんだぜ?」
レイブンズの第一次現役時代、扶桑軍の主力小銃は三八式歩兵銃。自動小銃など、当時はどこも実験段階だった。ボルトアクション式はレバーアクションライフルの次の世代のライフルであったので、1920年代までは最新式であった。それに当時は機関銃のような連射を歩兵にさせる思想が無かったので、前時代的というのは的外れである。ボルトアクション式は構造が自動小銃より単純であるので、精密射撃では30世紀でも現役だ。
「それにだな、ボルトアクション式小銃は自動小銃より射撃精度が基本的にいいんだぞ?」
実際に、バダンの兵士もボルトアクション式である『Gew98』や『Kar98k』を現役使用しており、ある意味では地球連邦軍最新のレーザーライフル(精鋭部隊から先行配備中)に至るまでの古今東西の銃器の見本市の様相を呈する。
「いいか、三八式実包は3800m飛ばせる能力はある。その気になれば、米軍のこの時期普及してる装甲車くらい貫通できるんだがな」
「そう言えば、徴兵から帰って来た従兄弟がそんな事言ってたわねぇ。演習で狙撃してやったとか」
「お前、従兄弟っていたのか」
「父さんの弟の子供。交流あまりないから忘れてたわ」
「徴兵ねぇ。兵隊に若い男を引っ張るって奴だろ?かなりいい加減だって聞いたぜ?」
「あんた、それは戦後の色眼鏡よ。戦争が終わりかけた頃の根こそぎ動員じゃない限りは職能検査あったわよ」
「たとえば、料理上手い奴は炊事兵にするにかぎるしな。ウチの部隊でも、炊事の監督は実家がレストラン経営だとか、家で炊事してる連中に任せてる」
海軍はコックを雇っていたことで有名だが、陸軍もそれほどでないにしろ、炊事は専門訓練を受ける。圭子は基本的に真美と下原、それと芳佳(前史でヤマト亭で修行済み)に炊事を一任している。そこも64が遊撃部隊として各地に展開するが故であり、レイブンズでは、黒江のみが専門訓練を受けている。
「あんたら、しなさそうだよな」
「ま、まーね。あ、綾香だけは訓練受けたんじゃなかったっけ?」
「あいつ、釣りで自炊するからってんで、料理学校に通ったらしい」
「あのばーちゃん、なんでもやるのな?」
「別の世界の自衛隊に潜り込んでたし、クビにされないようにしたかったそうだ。実年齢バレたら、肩たたきされそうだったしな」
「えーと、90年代で70超えてるんだっけ?あんたら」
「実際、鳩山のお坊っちゃまはさせようと圧力かけたとかいうしな」
レイブンズは最年少の智子でも、1921年前後の生まれ。黒江が任官された2003年時点でも80歳を超えている。鳩山ユキヲの総理在任中に『定年退職した扱いで…』と防衛省に圧力がかかったのも本当だ。
「肉体年齢は10代そのものだし、こっちの戸籍だと20代前半で新米士官相当の年齢だから、あのお坊っちゃまも諦めたらしいがな」
「ここの世界がおかしいんだよ、それ」
「まー、少年兵なんて、戦後の正規軍隊にはいないしな」
ウィッチはその特性上、子供であろうが雇用する。そうでないとなり手が確保出来なかったからだ。いくら黒江がウィッチ兵科の対立する派閥に『ロートル』と揶揄されようが、普通の軍隊では新米と言える年齢である。日本側の取り決めが叩かれたのも、その常識にある。扶桑ウィッチの実動部隊での平均年齢が一気に上がったのは、この時、実働部隊の15歳以下のウィッチが前線から引き上げられたからである。日本はハーグ条約違反を恐れたため、強引に引き上げさせた。実際にはほとんど影響は無かったが、これまでのエースが軒並み18歳以上に達していた時代だった不幸もあり、世代交代を進めようとする勢力もいたのは事実だ。実際、事変時に新兵だったクロウズ世代が20代に片足を突っ込んでいるため、MATに流れた層には『上がいると、出世できない』と嘆くあまりに移籍した者も多い。45年当時の佐官や尉官の多くは事変経験者であり、下の世代はポストが埋まるという危惧を抱いていたが、実際には事変経験者だけで士官の定数は満たせるわけがないのだ。特に、これまで、国としての推奨もあって、事変経験者の割合は45年時点で直後の頃の四割程度、あくまで、レイブンズやクロウズは特別な存在である。特に、ウィッチ中隊を束められる中佐レベルの不足は深刻であり、64でも、黒田を特進させて充てがう始末だ。
「今更、佐官がいないのが問題になってな。大尉に留められてた連中を特進させて充てがう始末だぜ」
扶桑ウィッチの多くは大尉で軍歴が終わる者が多かった。佐官に出世できた坂本と竹井は特異なケースである。同様に佐官に留められていた黒江達の処遇も問題になり、准将が創設されたわけである。この問題の8割は黒江のせいである。空将補、次いで空将になったことで、これ以上、佐官に留めなくなった上、天皇陛下が少将の地位を約束していたからだ。黒江は将補まででいいと言っていたが、統括官になるがため、空将になる必要があったからで、平成の天皇陛下まで説得しに来たので観念したわけだ。その人事が参謀本部を大いに震撼せしめ、陸上幕僚長の上奏で准将が創設された。扶桑陸軍参謀本部は参謀の少なからずを罷免、あるいは島流しされており、黒江達のことでこれ以上の制裁がされれば、カールスラントやオラーシャへのパイプを少なからず潰された外務省のようになると危惧していた。日本は市民団体からのクレームを野党に利用される事を恐れている。扶桑皇国陸軍参謀本部を骨抜きにし、自衛隊出身の参謀で固めようとする勢力もいた上、自衛隊内部では、英国に『職責が将官で、実階級は佐官という階級がある』ことなど、理解してもらえないだろうとする諦めが蔓延していた。某有名少女漫画の事もあり、准将の創設で日本国内向けに手打ちとしたかったのだ。代将への理解が足りないという批判もあったが、代将は歴史上、貴族制度と大いに関係があり、他国貴族への悪影響を自衛隊が恐れたのだ。既にオラーシャ革命が未遂に終わったものの、自国のアナーキストが国家を四散させた事はオラーシャとの関係悪化になりかねない。それと、アメリカのグレナダ侵攻を引き合いに出し、陸上幕僚長が熱弁を奮い、畑俊六元帥らを説き伏せ、自ら上奏してのけた。ただし、黒江は既に空将であるので、実質的に中将勤務であり、勤務階級も中将である。そのため、本来は連合艦隊参謀につくような階級でもないが、軍令部の参謀はなり手が減り、自衛隊の幕僚では戦艦部隊を含めた戦略は訓練の必要があるからだ。
「綾香のやつはあたしらに輪をかけてブラックだぞ。ここ数日、まともに寝てねぇはずだ」
「スネ夫にCSの『独眼竜政宗』の録画頼んでたわよ、あの子」
「あいつ、DVD買えよな」
「今月は支払いでオケラよ」
「なんか、一気に気が抜けるぜ。普通にDVDくらいわけねーだろ?」
「それがね、あの子、今はバイクの分割支払でオケラでね。のび太の家に上がりこんでるのよ」
黒江は本当にほぼ金欠であり、野比家で小遣い稼ぎをする始末である。自衛隊では、指揮所の仮眠所でレーションを食って食いつないでいるのである。
「あの子、道楽者でね。バイクとかに大金つぎ込むのよ」
「それで先輩が対抗心持ってたのか。つか、元の姿に戻っていいはずだぜ」
「あの子の養子が動いてるからよ。あの子、実の子供作んなかったから、兄の孫を養子にもらってね。そっくりなのよ」
黒江は自分にそっくりな大姪を養子にもらった事をクリスに教える智子。黒江翼は転生前の綾香にほぼ瓜二つであり、違うのは髪形のみだ。
「同質な能力者が後継者に居ることを示すのに便利だから、って理由も謳ってたっけ。あの子」
「仕方ねぇさ。60か70で隠居しねぇと陰口叩かれるしな」
「あんたらにもいるんだろ?」
「気質は似てねぇが、顔は瓜二つだぜ。ただ、ウチは兄貴が全員早死でな。90年代以降はあたしの系統しか無くなったがな」
圭子も三人の兄がいたが、全員がそう遠くないうちに夭折している。澪はそのうちの次兄の息子の娘であり、甥夫婦の死後に引き取った。
「あんた、意外に辛い経験してるな…」
「兄貴達はあまり体が頑丈でも無かったしな」
「あたしが一番平穏だけど、姪が大きくなった時に不満ぶつけられてね。その子供を引き取ることで家の名跡守らせたわ」
いずれも、子供世代に才能が遺伝せず、孫世代では発現したのだ。なんとも言えないことだが、ウィッチの発現間隔は家によっても違う。ビショップ家や秋本家(芳佳の母方の家系)のように、コンスタントに発現する家系、黒江家のように、基本的に三代ごとに素養が発現する家柄もある。そのため、いずれ隠居する時の事も考えておく必要があるのである。時に勲功華族になると、色々と体面などもあるからだ。
「なんか妙にドロドロしてね?」
「一代貴族ってのが基本的にないから、爵位が永続なのよ。だから、家の体裁を整えないとねぇ」
黒田のように、本家を継いでしまったがためにシングルマザーにならざるを得なかったもの、婿の貰い手が無かったレイブンズ、その問題も意外に扶桑を悩ます。また、不老不死であるが故に、一代華族では処理が面倒である。そのため、華族としての爵位は世襲となった。もし、子孫に戦功を立てた者がいて、いちいち爵位を与える必要が生ずる面倒を嫌がったのだ。
「貴族って、金持ちってわけでもないんだな」
「先祖代々じゃないところはそんなもんよ。名誉は得るけど、財政がよくなるとは限らないしね。裕福な資産家の子を養子縁組する方法もあるけど、大抵は家が揉めるのよね。だから、大姪を引き取ったのよ」
黒江家と穴拭家はこれ以後、皇室の軍事顧問としての家柄になり、姪がその地位を継がなかったため、いよいよ智子の戸籍上の年齢の都合での隠居が見え始めると、麗子を養子としている。
「ドロドロしてるから、やめにしてくれ。2時間ドラマでも見てる気分だ」
「んだな。これ以上は愚痴になりそうだしな。ところでお前、シンフォギアのバリアで守られてるから弾丸を気にしねぇだろうが、絶対じゃねぇからな?」
「ばーちゃん達の攻撃で身にしみてるから安心しなって。光速で、銀河破壊級の攻撃されちゃなぁ」
シンフォギアの防御力は聖遺物の力を引き出すために、現代兵器へは絶対性を持つ。だが、聖闘士の闘技や宝具(概念武装)の奇跡は手に負えなくなる。響が自分の力でエクスカリバーやゲイボルグの力を御せなかった事が結果的にその証明となった。ガングニールの絶対性はシンフォギア世界でのみ発揮できるが、それとて、因果を書き換えられる神々には絶対とはならない。響がガングニールの力に不安を抱くようになったのも、邪神エリスの力と、それに対抗するグレートマジンカイザーの強大さ、概念武装という哲学兵装の上位兵装の存在を知ったからで、そこが響と調の不和のもとになってしまったのだ。
「あいつ、どうしてあんなに固執したんだろうな。冷静になって考えりゃ、元になった聖遺物そのものを持ってるばーちゃんたちには…」
「あいつは居場所に固執したんだろう。よく考えてみろ。ラ號やGカイザーは純粋な科学兵器だろ?居場所を奪われるって邪な考えが過ったんだろうよ」
Gマジンカイザーはいくら『神を超え、悪魔を倒せる』と言っても、現代科学が生み出した兵器。その事実が響のトラウマを刺激してしまった感はある。また、神殺しの哲学兵装になったガングニールなら、神格に対抗できる。その思いが結果としては、なのはやガイちゃんの行為に繋がった感は否めない。
「しゃーねー。この姿で最後のフォローに行くしかねぇか。ま、あいつには圭子さんって呼ばれるだろうがな」
「すまねぇ、苦労かける」
「なーに、ウチのガキ共が馬鹿した詫びとおもっとけ。智子、お守り頼むぜ」
圭子はレヴィの姿になり、その場からいなくなった。智子は『子供のお守り、苦手なのよね』と愚痴る。
「いいじゃないですか。私なんて、伝承によっては脳筋扱いなんですから」
ジャンヌは甲冑姿のままだが、獲物が旗ではなく、日本刀になっていた。
「貴方、その刀」
「打ったんですよ、自分で」
「西洋の剣の才能ないからって、日本刀に走る?」
ジャンヌはバーサーカー適性もあるにはある。ストレスが溜まっているらしく、通常属性のままであるが、言動はオルタ寄りの荒さが出始めている。
「いいじゃないですかー、得物くらい!聖女、聖女って、どいつもこいつも…」
「オルタ入ってるわよ、貴方」
ジャンヌは生前のイメージが伝承によっては狂信者だったり、脳筋殺戮者だったりとバラバラである。それにルナマリアから引き継いだ部分も作用し、復活後は意外に荒さを持つ。
「そう言えば、あたしが見た漫画だと、トチ狂ってる系だったぜ、あんた」
「だ・れ・がト・チ・狂ってるって?」
「うお、なんか怖い!」
「あー…。誰よ、脳筋って伝えたの…」
生前なら超然とした態度で受け流しているが、復活後は意外に人間臭さを見せるジャンヌ。生前と違い、『世俗的』であるが、こうした人間臭さこそ、生前とは違う生の証であった。
「あんた、生前の称号が気に入らねぇのか?」
「称号に縛られるのが嫌なだけです。前世は持ち上げられた挙げ句に処刑でしたし、幸い日本だと神格として通用するみたいですし、もう、神様の使途なんて御免です」
ジャンヌはルナマリアとの融合で現界したため、前世の顛末に怒りがある。生前の気質であれば、神の意志と受け入れていたが、転生後は信仰を裏切られたという負の思いもあり、こうした言葉を発する。言わば、精神的に神を殺したと言える。また、生前は剣を抜かなかったとも言われるジャンヌだが、一方で殺しを楽しむキ○ガイという伝承もあるので、ジャンヌは剣の技能がある。言わば、生前の行いは英霊化にあまり関係ないのも窺える。ジャンヌはルナマリアとの融合でセイバー適正が強くなった。しかし、バーサーカー適性もあるため、こうした荒さがあり、生前の聖女としての面は薄れていたと言える。
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