外伝その236『フューチャーヒーロー7』
――流竜馬の戦線参加で沸き立つ地球連邦軍(元エゥーゴ/カラバ系)。戦線の主戦場は北ロマーニャからの戦略的撤退(日本の政治的事情からの要請でロマーニャ軍の攻勢構想が頓挫したので、戦略的撤退しかなかった)により、一気にヒスパニアが主戦場になりつつあった。イベリア半島を制圧されれば、一気に欧州大陸が落ちる(ガリア軍は形骸化し、カールスラント本土は怪異の勢力圏内)ため、全力で連合軍と連邦軍はティターンズ、ひいてはそれを利用せんとする幾多の侵略者から守護するべく、陸と空で防戦に打って出た。そして、奇しくもそのシンボルとなる宇宙戦艦は30世紀世界より援護に駆けつけた『宇宙戦艦グレートヤマト』。23世紀に存在する宇宙戦艦ヤマトの最終到達点であり、30世紀地球連邦軍の総旗艦である。その能力は30世紀最強の戦艦であるため、23世紀のアンドロメダ級5隻分以上の戦略指揮処理能力を誇る。彼らが技術を流したため、地球連邦軍のMSは前史でマン・マシーンと呼ばれるまで進化しなければ得られないはずの簡易的な飛行能力を得ている。そこもティターンズのMSへの軍事的アドバンテージとなっていた。もっとも、負担軽減のため、相変わらずサブフライトシステムは使われている。また、可変MSの主機の負担軽減にも用いられ、相対的にコストが下がり、生産数が伸びる要因ともなった――
「扶桑艦隊より入電。ワレ、敵艦隊に打撃を与えるも、友軍に大打撃、追撃を断念スと」
「そうか。深追いはさせるな。次の戦に備えるように通達しろ」
「ハッ」
グレートヤマトの艦長はなんと、23世紀の沖田十三その人であった。23世紀の戦いが終わった後に意識を新たに培養された健康体の肉体に転送され、30世紀でも健在であった。そのため、23世紀の地球連邦軍を率いるのに不都合は生じない。この時、功績で沖田は土方竜が本来約束された『元帥』に就任しており、この場の全軍の指揮官である。アースフリート初代司令かつ、宇宙戦艦ヤマト初代艦長という箔もあり、絶大なカリスマを発揮している。
「ラ號に打電。ガスコーニュの反応をキャッチ、警戒されたし、と」
「了解」
彼らが表に出てきた時を以て、連合軍と連邦軍、自衛隊、米軍は既にグレートヤマトの指揮下に入っていた。最強の戦艦が指揮を担当するというのは古めかしいドクトリンだが、奇しくも、かつての日本連合艦隊らの慣例と同様である。最大最強の戦艦が旗艦なのは、21世紀日本向けのパフォーマンスも大いに含まれる。沖田は日本人なので、自国の一般大衆が艦隊旗艦に求めるイメージが何であるかを理解している。幸いにもGヤマトは元から30世紀の地球連邦軍総旗艦の任にあったので、楽な任務ではある。Gヤマトが事実上の移動司令部となっていた。
――その頃、扶桑陸軍機甲本部は日本連邦軍化に伴う、自国製機甲兵器が最新型含めてが整理対象となっていたのを抗議する立場にあった。しかし、日本防衛省の背広組は『もうじきM48も出てくるから、あんたらの兵器はポンコツになる』と一蹴するばかりだった。だが、ウィッチ世界では通常兵器の発達度は低く、45年になってもT-34は初期型すら現れておらず、ブーストをかけられたリベリオンがM46の初期生産にこぎつけた段階でしかない。日本はロシアにIS-3重戦車やT-34-85があるとの前提であったため、お互いの前提条件が食い違っていた。また、扶桑機甲本部はナチ残党と相対した経験があるので、新式戦車をむしろ急いでいたほうである。しかし、その新式戦車を『能力不足』だと言われるのも心外である。『七式中戦車』の開発を急いでいるのも、その対策が大きい。日本としても、現地の機甲兵器が史実より進歩が遅れている国のほうが多い事は想定外であった。そのため、ラインを政治的事情で完全には閉じれなくなった車両も比較的新式に多い。四式中戦車はチリ改の実用化後も少数が出回っていたので、保守整備用にラインが生き続け、後にチリとの統合型としての改良型が量産される。これはチリの改造が限界に達していた事、チトの車体に90ミリ砲が載る試算が三菱重工業から出されたことも大きい。チリはティーガー並の大きさであったので、扶桑陸軍としては不評で、チトの改良型にチリ要素をぶっこむ方向に向けたかったのである。史実61式戦車もチトの後継のようなものなので、収斂進化が起こったわけだ。これは現地が戦時で、本土にある車両は『ゲート』で日本側が回収できても、前線の車両は不可能という問題の産物でもある。また、自衛隊式戦車は21世紀では、大量生産できる値段の代物でもないことが表面化すると、これまた政治問題になりかけた。16式機動戦闘車は戦車の代替にはなりえない自走砲の上、生産数が伸び悩んでいる。かと言って74式は経年劣化が激しく、再利用などできない。90式や10式は自衛隊にとっても虎の子。しかたがないため、時の防衛大臣は扶桑が試みている74式のコピーをライセンス契約に切り替え、テコ入れを図った。その際に予算の都合で見送られていた改修を扶桑の豊富な予算で適応した結果、太平洋戦争の開戦後に制式採用にこぎつける。だが、その都合上、どうしても高価になるため、短期間で量産可能な廉価な戦車が必要となり、チト改が採用されたという。――
――扶桑本土――
扶桑本土では、南洋に次いで、インフラ整備が1948年に見込まれていた東京五輪(開催権を放棄していなかった)用という名目で行われていた。オリンピックへの認識も違ったため、結局、陸海軍の高官の首が飛びかけたという騒動も起こっていた。この時に軍部高官に史実の『民族の祭典&美の祭典』、『東京五輪』を休憩入れて見させることも実行され、軍部が折れたのである。扶桑皇国では反対運動も起こったが、結局、戦争中であろうと五輪は強行される。(扶桑の代表選手の女性陣の少なからずはGウィッチが競技掛け持ちで行い、ぶっちぎりでゴールドメダルになった者が続出したという)それに向けて、街の姿は一気に1960年代に相当する町並みへ変わろうとしており、扶桑新幹線も弾丸列車計画を改編して工事が行われている。東京は20年分の変化を数年で成し遂げようとしていた。(自家用車の普及は扶桑国民の意識変革を待つ必要があるため、戦時中にもつれ込む)既に戦時経済に入っていた扶桑だが、財務関係者は軍部の装備の廃棄を進めさせ、財政的に余裕を持たせたい思惑があった。それ故に日本財務省の誘いに乗っかったのだが、結果は国家が却って混乱することになり、Y委員会が裏で実権を握り始めることになる――
――扶桑皇国本土――
「やれやれ。我々がこうして動きを探ることになるとはな」
「日本の公安も私達の存在には驚いてるし、却って日本への牽制にはなるわよ、長門」
長門と陸奥は艦娘という存在そのものが各軍の上層部とロンド・ベル、Gウィッチ以外には極秘扱いである恩恵で、Y委員会のスパイの任務も担っていた。比較的に外見年齢が高い二人は、最近に海軍御用達の経産新聞の若手記者という風に偽装した身分を持つ。彼女たちが集めていた情報はGに反抗心を持つウィッチの意識調査で、不満分子の炙り出しだ。
「やはり、海軍が主体になるな。しかも今の19から17までの高年齢層だ。あの年代は扶桑海を知らん層も多いが、ここまでとはな」
「仕方がないわね。レイブンズの起こした奇跡がみんな機密になっていた頃に入った世代だもの。今更解除しても世代間対立が確定するだけなんだけどね」
「やれやれ。提督にも言ったんだがな。今更、機密を解除しても、クーデターを止められはせんと」
世代間対立。この当時のウィッチ界を大きく揺るがせた問題だ。これは扶桑軍のプロパガンダ政策の完全な失敗劇でもあった。これは如何にGウィッチが奇跡的な存在であるかの証明であり、扶桑/日本の『出る杭は打たれる』の理論が完全に通じなくなった事例である。
『むしろ起こさせてしまった方が後腐れ無いだろうな。計画を誘導して直後に潰せる算段をしよう』
山本五十六はこう陸奥に返し、計画を誘導させろと指令した。軍部は日本からの『ウィッチ予算を減らせ』という圧力に屈しないため、Gウィッチの強さを使う方針に変わり、江藤の上奏を契機に、矢継ぎ早にGウィッチに纏わる機密を解除し、ニュース映画として公開した。それに黒江と智子の能力は最も都合が良かった。圭子に関しては『二丁拳銃』、『銃撃狂』である事から、議論を読んでいる。黒江の『約束された勝利の剣』はその最たるもので、その継承者である事を戦中とうってかわって宣伝した。坂本が額に薄い傷を持つ事になった発動の映像はパットンが所蔵していたフィルムが使われ、日本側にも配信された。黒江のそれは美遊/リーネ、イリヤ/サーニャの使う『夢幻召喚』ではなく、アテナから与えられた聖剣を『約束された勝利の剣』として発動しているため、若者でないと理解すらできない概念と化しており、首をかしげる教授が続出。さらに、国会の場での当人達の実演で首を傾げる国会議員も続出。日本の若者には人気爆発であったが、扶桑の後輩達はこれを『銃後に媚びてる』と取っていた。元々、クロウズの時代が終わりに向かう頃、クロウズがレイブンズを超えられなかった事に腹を立てた、当時に退役寸前のある大将の働きかけで個人戦果記録を破棄させていた海軍航空隊に芽生えた反レイブンズ風潮がそのように取らせたのだ。統合戦闘航空団に人員を送り込むために、欧州派遣組には自己申告を容認するという二枚舌とも取られる組織方針が問題となった。日本が改めて調査しようとしたら、公な記録がないのでスコアを認められないと述べたので、隊員の士気に関わると、扶桑海軍は戦闘詳報を防衛省に出すことでなんとか体裁を整えた。陸軍と異なる方針が招いた混乱であり、公認スコアで元陸軍出身者のほうが多めになったのは、部隊によってはそれの提出すら渋ったからである。
『誰がどのように行動し、どう戦果を上げ、どう被害を被ったのか記録を行い後々の戦訓として役立てるのに必要な物が無いとかお笑い種にもならん』
この言葉は防衛族議員の言葉だが、扶桑海軍航空隊はクーデター後の再編という名目の粛清人事後、まともなエースパイロットが若本しかいなくなってしまう。また、技能特優章もつけられる者が若本と坂本のみという窮状に陥っていく。再建に目処が立つのが、日本による懲罰的な措置も重なって、太平洋戦争も末期頃になるのだ。
「奴らは組織が空軍に飲み込まれることも有り得たと知るべきだぞ、陸奥。航空幕僚長が言わなければ、空母航空団も空軍の仕事だ」
「空母航空団の部隊を引き抜いたのは失敗だけどね。64に負担が行くから、その分組織を肥大化させないとならないし」
601空の引き抜きで空母航空団がパニックに陥っている事がわかる一幕だ。64の極天隊が今後に加速度的に肥大化するであろう理由に『空母航空団の人員育成』も担わされたことが理由に入ると。元々、扶桑は事変の戦訓で陸軍であっても洋上航法と空母発着艦訓練は受けていたので、『航空を空軍に一本化して、予算を減らす』財務省の思惑も的外れではない。だが、空自としては騒音対策などの観点から、空母発着艦訓練も仕事に入ることはなんとしても避けたかった。航空幕僚長が国会で提言したおかげでそれは避けられたが、その前提で動いていた組織は混乱し、粛清人事が過剰だったところに戦時状況とそれが重なり、扶桑海軍は自前の洋上作戦遂行能力を大きく削がれたのだ。
「おそらく、我々が表に出て、しばらく動けんだろう艦隊の代わりを勤めなくてはならんだろう。64を載せることにも反対論が出るだろうし」
「大和に指揮を?」
「いや、奴は根本的に青い。武蔵に頼んだほうがまだいい」
連合艦隊(艦娘)の指揮はこの時、基本的に旗艦経験者が担当する事になっており、長門と陸奥の次席は大和型姉妹だった。実際、大淀と並び、連合艦隊指揮の期間が長いのが武蔵だったからだ。
「独立戦隊組ませて経験積ませたら?提督も武蔵や貴方の負担を気にしておられたし」
「うーむ…。帰ったら金剛に相談してみる」
金剛は若々しい姿と裏腹に、日本海軍/扶桑海軍のオールドネイビージャック(東郷平八郎と対面している記憶がある)という、年功的にものすごく偉い地位にあったため、相談役になっていた。また、自身も最新鋭とされた時代に連合艦隊旗艦の任についていた時期もあるため、言わば、戦間期連合艦隊の生き証人であった。また、メンタルモデルモードで潜入捜査も容易であるため、意外に二面性を持つ。また、連合艦隊旗艦経験者は基本的に大将待遇であるため、その気になれば、自分で実艦の艦隊を率いることができる地位にある。それは長門と陸奥も同じだが。(これは当初は連合艦隊旗艦経験者を少将とする規定であったのが全面的に改定された結果)
「さて、赤城の奴になんか買ってやるか」
長門は自分とほぼ同時期に完成した赤城とは同期という感覚であった。また、元々、自分達と同じ計画で生まれる戦艦であった赤城と加賀とは仲がいい。艦娘としては空母の加賀だが、ウィッチ世界ではそのまま戦艦として完成している。第一次近代化が事変と被ったために参陣していない。また、30年代以降は加速度的に戦艦の性能が向上したため、1920年代後半竣工の加賀型は旧式扱いであった。しかし、事変に参陣しなかったなどの理由で船体の状態は概ね良好であった。230m級と護衛艦より巨大な船体を再利用する案が浮上、火力を持つ揚陸指揮艦に転用する案が海自との合議で決定されていた。つまり、観艦式が扶桑戦艦としての最後のご奉公だったと言える。また、元来、加賀型は41cm連装砲五基10門を誇ったが、揚陸艇の格納スペース確保のため、第五砲塔を取り払う案が出ている。一基とっても、長門型戦艦と同程度の火力があるという判断からである。結局、これは前方の二基を維持し、後方は揚陸艇などの搭載スペース確保に充てる案に決まり、長門型と同時期の砲塔であるので、砲塔は各地の博物館に飾られたという。また、『戦艦』は大和ファミリーに統一されるからでもあった。
「あれは?」
「加賀よ。改造される回航の途中で立ち寄ったんでしょう」
「これで見納めか。本当なら、アーカンソーやコロラドを圧倒していただろうに」
加賀の戦艦としての姿はこれで見納めになるため、多くのファンやマニアが写真を取っている。日本からの観光客だ。長門は日本へ回航されて記念艦になるため、陸奥が解体された今、往時の八八艦隊の面影を偲ぶことができるのは加賀と土佐のみだ。土佐が映画撮影に駆り出されたため、起工は遅れるという。第一線戦艦が大和型の系譜で代替された世界など、珍しい部類に入るためだろう。
「ある意味じゃ幸せよ。ビキニ環礁で原爆の標的にならずに船として使われ続けるなんて。私なんて、自国領内で事故だもの」
陸奥は多くの世界で戦わずに事故死したに等しい悲劇的結末を迎える。このウィッチ世界では急降下爆撃機に後部をめちゃくちゃに破壊されて再生不能とされて廃棄という屈辱的な艦歴となった。艦娘としても日頃から運が悪いため、ある意味では陸奥というフネの悲劇と言える。
「だな。ある意味、大和の一族に襷を渡せた世界があって良かったよ…」
長門は戦艦の時代が終わり、大和型が悲劇的結末を迎えた記憶から、自分達の実艦を引退させられた事にほっとしていた。それが軍艦長門としての本音だったのだろう。
――一方、欧州では、ドラえもんとクロの映像確認が続いていた。その中には黒江が成り代わりの際にどれほど好き勝手していたか、も映っていた。ある時の戦闘では、クリスと翼が二人かかりで攻めかかったが、当然ながら二人は翻弄され通しであった――
「結構、好き勝手してたのね、綾香って」
「うーん、ツインテール姿になってるからって、刀と銃を同時に使うかなー。緋弾のア○アじゃあるまいし」
調の姿になっていた黒江はノリノリで、刀と銃を同時に使う戦闘法を試していた。しかも、シンフォギアの機能に全く頼らず、自身の戦闘経験値だけで圧倒している。しかも、それぞれの分野で二人を圧倒していた。空中元素固定で作った銃と刀をアームドギアとぶつけ合っている。
「たしか、綾香の早打ちって、レヴィに遅れること零コンマ秒だったわね?」
「うん。クリスちゃんは早撃ちを鍛えてないから、だいぶ遅いよ。いくらシンフォギアを着てても、反応速度までは強化されないしね」
黒江はその姿に似合わない重厚な外観の実銃(ベレッタM92)でクリスの拳銃型アームドギアを弾き飛ばす。反応速度の差で抜き打ちに勝ったのだ。
「嘘だろ……?あ、あたしが遅れたってのか…!?」
「わりぃな。こっちも商売柄、早くなったんだよ」
黒江も銃の抜き打ちはかなり早いほうだが、専門家であるレヴィ(圭子)らには一歩及ばない。生きるか死ぬかを左右する場にいれば、自然と早くなる。のび太が如何に稀有な才能を持つか、がわかる。翼が刀で斬りかかるが、片腕だけで対応し、しかも翼の刀を見事に弾き飛ばす。10年以上の修行を積んできた翼に取って、まともに相手してもらえないというのは屈辱的であった。しかし、基礎戦闘能力が既に黄金聖闘士の中でもかなり上位に位置する黒江に相対するには『若すぎた』。
「悪いな、青髪のお嬢ちゃん。オレとしても、遊んでる余裕は無いんでな。早々に終わらせてもらうぜ。……ライトニングプラズマ!!」
その瞬間、光が迸ったかと思えば、翼は意識を失った状態で大きく吹き飛ばされる。当然ながら、ライトニングプラズマは一瞬で一億発のパンチを当てる技。それを受けて意識を保っていられるはずはない。しかも光速の攻撃なので、ビルを三個はぶち抜いてぶっ飛ぶ。
「なっ!?」
「さあて、お前、私になんか撃ってみろ。なんでも良い」
「ふ、ふざけやがって!これでどうだ!」
クリスは挑発にまんまと乗ってしまい、ギアの各部からミサイルを撃つ。だが、黒江は目の前に本らしいものを召喚する。
「ドミネーションランゲージ!……止まれ」
その言葉が発せられた途端、クリスの放ったミサイルは空中でピタリと停止する。噴射炎は吹き出ているが、まったく微動だにしないし、爆発もしない。
「なっ!?」
「ドミネーションランゲージ。手間がかかるから、あんまり使えねぇ技なんだが、どうやら効いたようだな。ほれ、動けなくなれ」
「!?」
クリスは技をかけられ、シンフォギアごと動きを封じられる。自由が効くのは口だけだ。
「何だ、体が動かねぇ!?」
「お前の肉体は既にオレの手中にある。言葉一つでどんなことでもさせられる。例えば、そうだな……古いネタだが、シェーをしろ」
「!?」
クリスは体がかってにシェーをしていく事に驚愕する。命令を自分の意思で拒絶できない。まったく自分で抵抗できないのだ。
「なんだよこれぇ!昭和のレトロなネタやらせやがって!早く解きやがれぇ!」
「アイ〜ンしろ」
「く、くぅう〜。覚えてろ〜!」
黒江が持つ技でエグさを持つのがドミネーションランゲージ。山羊座の中でもかなり古い技で、ここ数代には継承されておらず、数代前の聖戦で失伝した技である。平行世界を行き交える黒江が前史の最晩年に復活させ、そのまま転生して使用した。言葉で相手の自由を奪う技であり、姑息ではある。手間もかかるため、あまり使用しない。
「ドミネーションランゲージねぇ。姑息だから、あまり使わないとか言ってたっけ。確かにエグいわね」
しかし、響へは力の差を見せるために使用したというので、響のタフネスぶりに手を焼いたのは確実であろう。
「確かにね。それとやっぱり君、驚かれてるよ」
「まーね。変身するとルッキー二じゃ無いし、実質の意識も別人だし。それはシャーリーも同じよね」
クロは『ルッキーニが変身している』のだが、すっかりなりきるためか、ルッキーニと実質は別人と言い切る。シャーリーも少なくとも二人以上の人物に変身できるようになったので、自衛隊からは『もうプ○キュアになっちゃえ』と投げやりな感想が返ってきている。
「綾香もわりかし容姿変えるけど、ツインテール姿の割合多いわねぇ」
「まっ、調ちゃんの姿になってたのが長かったしね」
ルッキーニはクロとしての姿、サーニャはイリヤ/九条しのぶの姿を用いるようになっていく。サーニャは祖国を捨てたため、本籍は扶桑であるが、アインツベルン家の名跡も継いだため、その切り盛りはクロに任せることになる。ドラえもんは野比家を離れた後はそうした裏方の仕事を食い扶持の一つにしていくのである。
「ドラえもん、アンタって、こういう裏方仕事も増えたわね」
「まー、正面切って戦うだけが花形じゃないさ。のび太くんも成人すると裏世界に行ったしね」
「でも、裏世界って『未熟者には次はない』って言われるくらいの世界なんでしょ?よくナンバー2くらいにまで上り詰めたわね」
「戦闘面の才能がずば抜けてたのさ。聖闘士とか抜きに、射撃戦じゃ天性の才能があるんだよ。レヴィさんも舌を巻くくらいのね。のび太君は精神的に脆いと思われてるけどネガティブな事に対しての諦めが早いって柔軟な思考が有るから絶望的な状況からでも生還できる強さが有るんだ」
「ふーん……」
圭子はレヴィとしてのほうが色々とリミッター解除されるため、腕前の基準はそちらとなっている。それでも早撃ちではのび太のほうが上であり、のび太は成人後は『銃の腕がいいロジャー・○ーアのボンド』と冗談交じりに例えられる。元々、喧嘩に弱いが、成人後は見切りを強化することで、格闘でもある程度腕を上げた。
「僕も裏稼業じゃジ○ン・レノの着ぐるみ使ってるからね」
「レオンのオマージュのつもり?」
「そう取ってくれていいさ。君だって属性がアーチャーだろ?」
「接近戦できないわけじゃないけどね。でも、響って子が一番、精神的にはキテると思うわよ。ガングニールは元の世界での絶対性は発揮できない上、更に上位の概念武装がゴロゴロしてる」
「だと思うよ。綾香さんがエクスカリバー撃った時、自分の力で吸収して発散させようとしたら、エネルギーの制御ができなかったことが信じられなかったようだし、エクスカリバーやら、バルムンクがポンポン撃たれるのはショックだろうさ。しかもそれをやっても大勢に影響ないんだしさ」
「ロンギヌスと同一という伝承はたいていの世界にないもの。ゲイ・ボルグとかち合って勝てないのは当然よ」
「ガングニール自体もかなり上位の武装のはずだけど、エクスカリバーやゲイ・ボルグには勝てないわよねー」
「それと、Gカイザーの破壊力に怖さを抱いたとか言ってたそうな」
「ああ、魔神皇帝」
「あれ、マジンガーZEROには及ばなくても、Zやグレートよりは圧倒的に強いわけじゃん?」
「確かに。ZEROには勝てなくても、魔神皇帝には変わりないし」
グレートマジンカイザーはどこかの世界でZEROに敗れたため、その事実上の代替物がマジンエンペラーGである。しかし、強さそのものは魔神皇帝に相応しいので、ZEROに相対する時以外で用いられる予備機扱いで稼働しており、シンフォギア世界でその強さを示した。その威力はシンフォギア世界の摂理を真っ向から打ち砕くほどのものであったので、響が心のどこかで恐怖を抱くのも無理からぬ事である。可能性の光である『光子力』。その可能性を引き出した魔神皇帝は『ノイズ』ごときに侵されるものではない。そのため、シンフォギア世界で暴れたことはある意味、シンフォギアの存在意義を揺るがす事態であった。その援護に来ていた空中戦艦もシンフォギア世界で問題となっていた。ラ號だ。『日本海軍最後の遺産』という点で、シンフォギア世界の日本は苦しい立ち回りを強いられてもいた。モロに大和型の上部構造物を有するラ號はシンフォギア世界でも議論を呼んだ。シンフォギア世界の産物では無いにしろ、日本海軍が作ったとは思えないオーバーテクノロジー満載で、SONGでさえも信じられない存在なのだ。無論、別の世界のものなので、関係ないのだが、日本海軍の秘密兵器を秘匿していたのかと議論を呼んでしまい、シンフォギア世界の日本は辛酸を嘗めたという。
――日本海軍は当時に最新最強の戦艦であった大和型をベースに、世界によってはオーバーテクノロジーをつぎ込む。その産物の一つが『大和型五番艦・海底軍艦ラ號』であった。ラ號はのび太とドラえもんの世界においては『民間企業に委託して建造が計画され、30年代最終盤から45年(実際の建造は44年から)まで計画が進められた超大和型戦艦の二番艦である。しかし、51cm砲の製造が間に合わず、戦後に神宮寺大佐らが信濃用の砲身を運び出して完成させた。その時の姿で投入されたのは二度である。戦後の情報での大和型四番艦は紀伊と内定していたとされるが、実際は早い段階で切り替えられており、欺瞞であった。まほろばとラ號はそれぞれ別ラインで製造され、もし、坊ノ岬沖海戦に同時に投入できれば、起死回生成っただろうともされる。実際、まほろばにしろ、ラ號にしろ、その全力を発揮できれば当時の太平洋艦隊の一個艦隊を一隻でなぎ倒せたとされるほどの戦闘力を発揮し得た。その内のラ號は23世紀の宇宙時代に宇宙戦艦ヤマトの准同型艦として改造され、地球連邦軍・太陽系連合艦隊第二戦隊旗艦の任にある。大和型の面影を色濃く残す(中身はヤマトと同型にされているが、外観は大和型のまま)外見もあり、ヤマトファミリーの中では元来の大和型の面影を色濃く残す。最も、シンフォギア世界に飛来した時点では主砲が四連装三基12門であり、大和型とは容易に見分けられる。それが主砲を撃ちまくった上、艦首に菊花紋章があったため、誤解を招いたのも事実である。実際、現地の政府関係者は『日本海軍の亡霊か!?』と戦々恐々だったという。更に邪神の攻撃すら防ぐバリアを有するなど、オーバーテクノロジー満載ぶりを発揮、シンフォギア世界の常識を覆したラ號。響が自分たちの存在意義を奪われる恐怖を感じるのも当然のことだった。そして、全てを知らされ、参戦したのだが…。
「で、この世界だと戦力価値が落ちることには変わりないんだよね。特に呼んだ時間軸的に」
「仕方がないわね。一部の子は力を使える時間が有限だもの。あのマリアって子、箒の魂の姉妹っぽいんでしょ?箒が使ってることは言った?」
「言ったよ。そうしたら落ち込まれたけどね」
箒とマリアは元々の魂が2つの世界に分かれて転生した存在であり、共通の前世を持つ。黒江がからかいのネタにしていたことも、けして冗談とは言えなくなったのである。
「で、切歌は修行を終えた時間軸のと連絡ついた?」
「今、聖衣の継承の承認儀式中で、しばらく来れないそうな」
切歌は二つの時間軸から呼ばれている。一つは響らと同じ時間軸、もう一つは修行を終え、聖闘士としての身分を得た後の時間軸から。これは聖闘士の修行を終えていなければ、調の足手まといに成ってしまうというドラえもんとのび太(青年)の判断だ。実際、響と同じ時間軸の切歌は戦闘力に差が生じすぎて実質的にバディとしては戦えないため、別の時間軸の切歌が必要だったのだ。聖闘士世界で五年の修行を終え、小山羊座の聖闘士となった切歌は外見は調整を受けているが、精神面は大きく成長しており、声色も若干大人びたものになっている。調に馭者座の聖衣を届ける役目もドラえもんは頼んでいる。
「そうなると、もうしばらくはあたしやイリヤが頑張る必要があるわね」
「だね。まー、サーシャ大尉には気の毒な事になったけどね。僻地送りで勲章剥奪だって」
「あれ、勤務階級じゃなかったの?」
「いや、隊の正式な階級を簡易法廷で下げたのが一発アウト。自分が降格されて僻地に飛ばされた挙句に、暴漢に襲われて片目失明だってさ」
当人としての言い訳もあったが、結局は自分が降格され、しかも暴漢に襲撃され、片目を失う(後に再生)という報いを受けたサーシャ。隊から追放されたことで皇帝の怒りも買い、結局は不遇の時代を迎える。最終的には元帥になれたものの、この時の事が深いトラウマとなったのは言うまでもない。また、オラーシャは同位国のロシアがものすごく狡猾であったが故に、日本人の少なからずにとんだ敵対心を持たれている事に顔面蒼白となり、ジューコフ元帥が緊急声明を出す羽目となったという。(同位国でありながら、ロシアはオラーシャに救いの手をほとんど差し伸べなかった)このロシアの冷淡さが分裂を余儀なくされたオラーシャの憤激を買い、ロシアが今度は慌てる羽目に陥り、結局、その怒りの矛先を日本へ向け、統合戦争へ繋がっていく。また、ロシア側についたイスラエルはその後、統合戦争で日本に無残に敗北したものの、アナハイム・エレクトロニクス社の会長一族を通して、地球連邦軍に君臨する事になり、一応のリベンジは果たしたという。
「やれやれ。その代替人員がカールスラントの撃墜王ね。JG52の粉飾疑惑の汚名返上の機会を与えたいんでしょう?」
「うん。あの部隊の戦果には粉飾計算の疑惑があるからね」
粉飾計算の疑惑が持ち上がった旧JG52。その汚名返上の機会を与えるため、その分隊長級を送り込んだのである。そのため、501幹部は扶桑とカールスラントがほとんどを占めるに至った。また、扶桑も343空/64Fとエース部隊出身で占められ、カールスラントもほとんどがJG52/JV44所属者であったため、余計に戦果が求められたのだ。そのため、リーネもリネット・ビショップの姿を捨てる必要が生じたのである。
「で、リーネも美遊になったけど、美遊としてのほうが落ち着いててるから、やりやすいわ」
「元々の自己犠牲精神が陽の方で発露してるし、美遊ちゃんとしてのほうが割り切れてるしね」
リーネは転生していたものの、元々が引っ込み思案であったので、未だに割り切れていなかった。それでありながら、芳佳への強い罪悪感から、ビショップの家名をかなぐり捨て、美遊・エーデルフェルトの記憶と感情に身を託し、完全になりきった。ビショップ家のウィッチの地位は実妹のキャサリンに託し、自分は美遊・エーデルフェルトとして生きていく決意を固めたのだ。(皮肉な事にそれが母親のミニーがブリタリア空軍に復帰するきっかけともなり、ガランドとミーナが菓子折り持っていって、事情説明を行う羽目になった)妹のキャサリンは長姉の後継を目されていた真ん中の姉が家名のプレッシャーに潰されたことで母親と折り合いが悪くなったが、美遊の説得で軍に入隊、姉の代わりに活躍。彼女のすぐ下の妹と共に名を馳せたという。
「で、今はイリヤと一緒にマリア達の引率してるはずよ。あの子にリンカーを持たせた。時限式のシンフォギアってそこが面倒だわ」
「仕方がない。天羽奏さんより元は適合係数が低かったのを引き上げてるから。だから、のび太くんが勧めてるんだよ、修行」
「綾香や調、箒の修行の様子の写真でも見させたら?」
「先方で翼さんが文句垂れたそうな」
「あー、あの武士かぶれのフェイト似の声の子。聞いたわよー、調に食ってかかって、磁光真空剣・真っ向両断されたとか」
「それされて負けた時、ショックで落ち込んだそうだよ」
「かーー!面倒くさい性格なこと」
調は実家の血筋が磁光真空剣を発動できる条件が揃う家系だったのか、磁雷矢に届けるために持っていた磁光真空剣をレーザー刀にし、戸隠流の修行の成果を見せつけた。その理由が報告のために一時帰還した時、翼が修行の様子に食ってかかってきたのにむかっ腹が立ったからというのも些かギャグ漫画じみている。黒江のもとに磁光真空剣が飛来し、それを託され、二人の忍術の師である山地闘破に渡す使命を負っていた時期のことだ。仮にも10年修行を積んだ自分が黒江の技能を受け継いだとは言え、若い調に剣で遅れを取ったことが信じられず、茫然自失状態であり、調も翼がフェイトと声が似ていることから、気まずさを感じたという。
「これで君が夫婦剣で勝ってみ。翼さん、また落ち込むよ」
「ああいう入れ込んでる性格ってやりにくいのよねー。自分を防人だが、剣って言ってるのは傍から見ると引くし…。アルトリアに頼んで叩きのめしてもらうか、それとも、イリヤにやらせようかしら」
「君がやればいいのに」
「あたしはアーチャー属性強いし、やったら落ち込むでしょ」
クロはアーチャー属性であるが、接近戦にも強い。そのため、剣として研鑽をしてきた翼を自分が倒すのは失礼だとし、アルトリアかイリヤにやらせるつもりらしい。
『おまえ、アーチャーよりアサシン寄りじゃね?』
「あら、綾香。念話で参加?」
『参謀っても、オレは航空参謀で、砲撃戦だと用無しだしな』
「確かにね。で、話は聞いてたんでしょ?」
『ああ。なんならウチのガキにアロンダイトを打ち込んでもらうか、翼によ』
「貴方の子供、アロンダイトとクサナギ持ってたっけ」
『セイバー属性強いしな、ウチのガキ。まだ青二才だが、翼の相手くらいは余裕だ」
「昨日、孫娘にこの姿見られて大笑いされたわ」
『ご愁傷様』
「綾香の普段のトレーニングルーチン動画で見せたら黙るでしょ」
『あれは刺激強いからなー。なにせシンフォギア姿で寝そべってせんべい食ってるのもあるし。剣は一万回くらい素振りしてるけどさ』
「あたしは孫に知られて赤っ恥よ。でも、貴方だって色々姿変えてるじゃない?トリエラに言ってやったわ」
『あいつはお前の若い頃あんま知らねーんだっけ?』
「娘があまり教えなかったのよ」
クロ(ルッキーニ)も自身の娘はあまり祖母の武勇伝を教えない教育方針だったらしく、後で自分が苦労したらしいことが分かる。
『お前といい、坂本といい、武子といい、親の心子知らずってか?ため息でちゃうぜ』
「甥とか姪が騒ぎ起こしてた貴方も大概じゃ」
『ありゃ兄貴の教育方針が悪いんだ』
黒江も少なからず甥や姪に振り回される事が待ち受けているように、クロ(ルッキーニ)も娘が反発して軍隊に行かず、孫のトリエラが名跡を継いでいる。
「貴方の上のお兄さんだっけ」
『家庭あまり顧みねぇモーレツタイプなんだよ、上の兄貴。全く、倅の不始末の後始末をオレにやらせるんだからな』
黒江は長兄の子供達にはあまり良い印象がない。前史で散々に不始末を起こしたからだろう。
『上の兄貴、今の時点で40行ってるから、あまり話す機会もないし、離れすぎてるから、下手すると父親に間違えられるし』
「全員が生まれたら子供の内から説教したら?小学校や中学校は嫌われても、高校以降に好かれるかもよ」
『どーせ今回は年くわねーから、長期戦でいくかなぁ』
「それにお兄さんをデレさせなさいよ。どうせなら。15も離れてるなら…。ん、まだ今は30の終わりよ?貴方、今年で23でしょ?15足してみなさいよ」
『あ』
「やれやれ。会ってないから、感覚わからなくなるの分かるんだけど」
『兄貴、老け顔なんだもーん』
黒江は長兄が老け顔なことから、40代と思いきや、意外にまだ若めであった事に気付かされた。むしろ、表向き、童顔で通してる綾香のほうがおかしいのだが。
「ったく、お兄さんの誕生日になったら、スイスの時計かジッポーライターだかを送るのよ?」
『未来と違って、ウォークマンも8ミリビデオすらねぇのが面倒だよ』
「仕方無いわよ。カメラはお兄さんの趣味じゃないんでしょ」
『もうちょい時代が遅けりゃプラモで済ませられたのに。兄貴、好きなんだけど、運動がだめでオートバイどころか自転車にも乗れなくてな』
「自動車は?」
『ガンが治った親父が決めそうだから、兄貴が好きそうな車種は買えなさそうだと』
「なら、TVでも買って送ったら?」
『兄貴はともかく、義姉さんが贅沢品と思っててな。説得してみる。あの人、明治の終わりの生まれで古風だしなー』
長兄へのプレゼントを迷いに迷った黒江だが、結局、テレビと軽スポーツカーを送る事になり、黒田に協力させたという。長兄の妻(黒江の義姉)は恐縮したが、綾香はどうにか説得に成功。義姉を好きだという歌劇団の舞台に招待してあげたという。また、長兄は綾香が長じるのを期に、家の習わし通りに家督を譲る事を決めており、黒江はそう遠くないうちに当主の座が転がり込むのであった。
『ウチさ、習わしがあるんだよな。ウィッチが出たら、そいつに当主を譲るっていう。ひーばーさんの代からの習わしでよ』
『冥界でアドバイスもらってきたら』
『行ってきた。しっかりやりなさいってお言葉もらってきたよ、は、はは…』
曾祖母は武士時代の人間であるので、言葉づかいが固く、やってきたひ孫を『綾香さん』と呼ぶ。フランクな祖母と違い、武士時代の雰囲気を残す。日清戦争相当の動乱に従軍した後に引退した世代のウィッチであり、最後の武士世代教育のウィッチである。割に若くして亡くなった(祖母いわく、戦傷が悪化した)からか、若々しい姿であり、自分とアホ毛の生え方と髪の分け方が逆なだけだ。自分の容姿は隔世遺伝で曾祖母と祖母のそれを色濃く受け継いだ事をその出来事で確認し、途中で祖母が『お母様、綾香を緊張させてどうするんですか』と助け舟を出し、祖母は自分が生前に残したヘソクリの場所を教えてくれた。(祖母は生前、孫娘を可愛がっており、事変の途中まで存命だった。小さい頃、母親から守ってくれたため、綾香は意外な事におばあちゃん子であった)
『ひーばーさん、こえー人でさ。ばーちゃんが仲介入ってくれて助かったよ、マジ』
綾香は冥界に行けるようになったため、祖母に会えるようになったが、曾祖母が思ったより厳格だったので、祖母がなんでフランクな性格だったのか考え込んでいるらしい。
『そう言えば、ひーばーさんに聞いたけど、山東半島に有ったネウロイの巣を攻略した時になんか今はいなさそうな怪異がいて、そいつにやられたひーばーさんは数年後に死んだとか言ってた』
「内部侵食系かしらね」
「話を聞くと、肉体をガンみたいに侵して、崩れ去るように殺す怪異だったらしい。だから、ひーばーさんの遺体は墓にないそうな」
「扶桑の記録にないの?」
『東郷平八郎元帥の手記にわずかばかりの記述がある。次の戦役で徹底的に駆除されたそうな』
40年代には見なくなった種類の怪異。それに曾祖母は討ち取られた。そのため、10年後に長じた祖母は獅子奮迅の働きをしたのだろう。黒江家が地元でウィッチの名門と評判なのも、二人の戦功によるものだったのである。
『ひーばーさんに勲功華族になったと報告したら、天晴と褒められたよ。武士時代の人間は堅苦しくて面倒だぜ』
黒江は曾祖母はジェネレーションギャップの大きさから、付きあうのに気苦労すると思っているようだ。その一方で祖母とは生前同様の関係に落ち着いているため、曾祖母は若くして亡くなったのと、子供時代が幕府時代だった故の硬さがあるのだと考えている。
「ひーばーさんになると、生まれた時代がまるで違うもの。のび太にとってののび吉おじいさんのようなもんよ」
のび太の曾祖父『のび吉』は明治末期の生まれであり、ハレー彗星飛来時に小学生であった。それを引き合いにだし、ジェネレーションギャップを説明するクロ。意外にこういう分野に詳しいのも、変身と転生のおかげであった。
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