外伝その242『大艦巨砲主義の甦り』
――一連の海戦で放たれた砲弾は意外に少ない。未来世界の技術が入っていない砲身は40cm砲で300発ほどで砲身命数が尽きる。そのため、むやみな使用は控えられているのである。ミサイル装備が用いられる事が少なく、また、砲身の内筒の交換の手間から、非効率ともされる艦隊決戦。特に大口径砲は砲身命数の少なさから、意外と戦闘継続可能時間は少なく、本当に撃ち合えるのは、二、三時間ほどとなる。これはブリタニア艦の大半に当てはまる交戦可能時間でもある。そのため、一回の海戦では決着がつかず、鹵獲も近代で稀に見るほど発生した。戦艦だけで二回の海戦で五隻は鹵獲している。その内、状態が良好なものは回航、修理して亡命リベリオンやカールスラントへ提供されている。また、空母機動部隊は虎の子の空母の温存を図る意図から、史実の戦艦同様に温存策が取られるという皮肉な事も起こっていた。これは日本側がM1作戦の悪夢を恐れたからで、黒江の提言が上位の機関によって退けられた例であろう。そのため、航空作戦はこの頃から空軍(空自含む)が担い始めていたと言える。空母はM1作戦で示されたように、失った後のリスクが高いという点が懸念されており、それは皮肉にも、空母が主役の座を奪ったはずの戦艦が辿った道そのものであった。しかし、戦略爆撃機も高額化することは把握されていたため、扶桑の富嶽後継計画に日本があまり乗り気でないなどの問題も発生した。それと対照的に、戦艦の整備には興味を示し、基本ベースを大和型と策定するなど関与を強めた。これは原子力潜水艦などが作れない都合上、分かりやすい抑止力としての戦艦が脚光を浴びた政治的理由もあった――
――実際、戦艦は見栄えがいい事から、日本は保有に比較的乗り気であったが、戦後日本では事実上作れないので、扶桑の戦艦整備に口出しするという形になり、日本連邦結成後初の軍備計画策定会議では、超甲巡が事実上、巡洋戦艦枠になり、建造数が減らされる見込みのために甲巡の計画が継続されるなどの混乱も生じた。その一方で、大和型の系譜である『中速の重戦艦』(実際は高速に入るが)とは別に、金剛型の系譜にある『高速戦艦』が重視されるようになった。これはアイオワへの対抗意識であり、大和型の設計を調整したものが採用される。これは戦艦の設計は大和型で完成されたとされるからで、扶桑の大和型は完成時、最大速度29ノットと知らされても、日本側は30ノット台に拘った。大和型ベースでは、200000馬力の機関で29ノット台なので、30ノット台の速力は『贅沢』と言える。日本戦艦の完成形であると自負する大和型であるが、基本的に殴り合い用に設計された戦艦である。扶桑は紀伊型戦艦をベースにしての巡洋戦艦を元々、構想していた。しかし、アイオワの性能を知る日本側がその設計を没にして、『アイオワを圧倒できる性能』を求めたため、大和型を調整するしかなかったのだ。結局、主砲の新規製造や装甲厚の変更の弊害で元の大和型とさして変わらぬコストがかかってしまったという。これはアイオワを上回る程度の装甲を持たせると、大和型を増産したほうが安上がりだったが、日本の一部に過度の大口径砲への疑義があったため、60口径41cm三連装砲が採用されたためである。そのラインを設ける経費がかかったためだ。そのため、大和型の系譜である『殴り合い用』戦艦とは別個のラインで整備されるため、配属艦隊も第三艦隊(空母機動部隊)などが予定されたという――
――扶桑本土では、空母が大型化と希少性が大きく増すことから、温存策を取ったのと引き換えに、戦艦を惜しげもなく前線に投入する策が取られた。しかし、当時は大和型の第三次改装の途中であり、現地で主砲換装を行う必要まで生じた。浮きドックでそれが行われた大和ともう一隻は攻撃力が強化されたものの、数が上位艦の播磨型と合わせても4隻、三笠型が一隻では門数の不足が問題にされた。仕方がないが、ダイ・アナザー・デイと大和型の改装が重なったのが不運であった。
――浮きドック――
「敵が意外に頑丈で数がいるから、もう三隻はほしいな」
「作業は急がせているが、間に合うかどうか」
「播磨型の進捗状況は?」
「美濃が完成間近、能登は造船所の都合もあって、当てにできん」
「連邦軍のバトルキャリアとアンドロメダ級を呼び寄せるしかないな。ネメシスが動員できたはずだ」
この頃、ガイアと共同戦線を組んだり、規格統一が図られたので、当面の主力はドレッドノート級をアースの規格で統一するすることで決議された。ガイアの波動砲は増産が実質的にガイアヤマトクルーに反対されたので、アースのタキオン波動収束砲であれば問題に成らないので、ガイアも喜々として導入した。そのため、サレザー・イスカンダルが規制した『次元波動爆縮放射機』に代わる形で、サンザー・イスカンダルの遺産『タキオン波動収束砲』が波動砲として定着するに至る。これはサレザー・イスカンダルには予想外の出来事でもあった。次元波動爆縮放射機よりも安全でありつつ、それ以上の破壊力を持つ兵器がアースに存在し、それを平行世界の自分達が託した。それは正にサレザー・イスカンダルの誤算であった。また、この頃にはアースはキャプテンハーロックのもたらしたテクノロジーでの『プラズマ波動エンジン』の実用化に一定の目処も経っていたため、ガイアへの軍事的優位を隠し持つ。これは将来、イルミダスが圧倒的軍事力で攻めかかるため、文明をブーストするためにハーロックがもたらした23世紀から見てのオーバーテクノロジーであった。また、MS関連テクノロジーもマン・マシーンになった後の技術が流されている。その恩恵で既に連邦軍の兵器は総合力で長足の進歩を遂げており、廉価版と揶揄されがちなドレッドノート級でも、竣工時のヤマト以上の性能を持つに至っている。
「こういう時にアンドロメダ級が動員しやすくなって良かったよ。もうじき、ミューズ級に改められ、パトロール組織に払い下げの予定になったから」
「しかし、黒江くん。その次を作っていると聞いたが?」
「ガイアとの政治的理由で早められてるんだよ、ブルーノア」
それは転生前では、ヤマト戦没後に新造された戦闘空母『ブルーノア』のことである。今回の歴史においては技術加速とアンドロメダ級の政治問題で予定が早められている艦だ。なお、2520年に活動するブルーノアは同一艦ではなく、12代目とのこと。また、初代ブルーノアは後の時代のようなSFチックな姿ではなく、この時代の連邦艦艇で用いられる水上艦の延長線のような設計である。船体色も軍艦色であるなど、後の後継艦と違い、ミリタリーテイストたっぷりである。
「あれが早められた分、しわ寄せがアンドロメダに来た感じだな。性能は23世紀型としちゃいいほうなんだがね」
黒江は転生する前にその後の時代の戦闘艦も見たため、アンドロメダ級を『23世紀型では』と評する。アンドロメダは原設計が22世紀終わりなので、デザリアム戦の前では比較的新しい部類に入る。アンドロメダはいつしかその名は消えるが、凌駕という名の末裔が30世紀で確認されている。船体設計そのものは高レベルで纏められていた事は評価されていたし、ガイアがパクった疑惑もあったからだ。また、政治的理由で数年で払い下げには現場から反対が根強く、結局は運用され続けることになる。しかし、その後もアンドロメダの名は薄命で名が通るようになってしまう事例がガイアの前衛武装宇宙艦含めても続出し、ついには止め名になってしまったという。しかし、同型艦であっても、しゅんらん、メネシス、ガイアのように殊勲艦も輩出してはいいる。
「ガイアの予行演習もあるし、ネメシスを呼び出してもらう。あの艦の連中、アンドロメダ級の生き残りってんで、最近は冷や飯食いだし」
黒江が連絡を取り、追加で64へ提供されたネメシス。アンドロメダ級の一隻だが、しゅんらん型の二番艦ともされる。操舵系統や艦長席の操作レイアウトはしゅんらんと同一のものであるので、ガイアを動かすための予行演習として、黒江が呼び寄せた。波動砲の装備数は各艦でバラバラであるが、これはしゅんらん型自体がリサイクルした部品を用いて造られた経緯があり、それが由来である。
――その日の夕刻、ネメシスが数隻のバトルキャリアを率いて合流。武子はネメシスに移乗して、艦を掌握した。同艦は前衛武装宇宙艦でいう『アキレス』、『アルデバラン』と同じような理由で戦隊旗艦仕様とされる。しゅんらんとガイアは艦隊旗艦としての設備を備えるが、ネメシスは戦隊旗艦用として調整されている。アンドロメダ級の運用思想は元々の設計陣がアメリカ系(そこが前衛武装宇宙艦とは違う)の人間で、モンタナ級戦艦と似た運用を想定していた名残りであろう。波動砲が収束波動砲なのが姉妹艦との違いとも言える――
「綾香、よく呼べたわね。ネメシス」
「この艦、前史だとあまり活躍しないうちに退役だし、俺らの手で花道を飾ってやろうって話。どーせ、次んときの予行演習はやんないといかんし」
「基本は同じだけど、どうして波動砲が収束なの?」
「拡大波動砲のデータ取りに使われてた事があるそうな」
黒江は武子にそう答える。地球連邦軍は収束波動砲と拡散波動砲のマルチモードの開発がデザリアム戦役前の段階では難航しており、その代替物も拡大波動砲は兼ねていた。マルチモードの開発そのものは成功するが、予想外に強力な破壊力を拡大波動砲は秘めていたので、次世代の決戦兵器に祭り上げられる。それを超えるプラズマ波動砲の登場まで、同波動砲は決戦兵器として用いられることになる。(もっとも、用兵側には拡散波動砲は不評だったが)
「で、これを貴方はどう使うの?」
「当面は抑止力だ。ティターンズの宇宙艦は大半がオンボロのサラミス改だぞ?ドレッドノートで圧倒できる」
「ドゴス・ギアはないわよね」
「あったら連邦の艦政本部の怠慢だぞ。ゼネラル・レビルが二番目だし」
ティターンズはドゴス・ギアを最終的に四隻作ろうとしたが、意外に敢え無い最期だったり、建造費が高額なことで中断されたままであったが、内惑星巡航艦隊の旗艦に抜擢されて再建造され始めている。だが、彼女たちが考えていない可能性が一つあった。そのベースになったバーミンガム級である。一般には、バーミンガムの設計を直し、建造し直したのがドゴス・ギアとされているが、実はバーミンガム級二番艦は、ドゴス・ギアのベースにする都合もあって、ティターンズが『コンコルド錯誤だな』と自嘲しつつも造らせていたのである。つまりはテストベッド艦として造らせたのである。黒江の言葉はその通りではあったが、ティターンズの絶頂期に建造された艦の少なからずは正規の連邦軍に報告せずに独自ラインで調達された艦でもある。バーミンガム二番艦は一番艦の蒸発時には工程60%を超えていた。そこをジャミトフ・ハイマンが接収して、ティターンズができた後にドゴス・ギアのテストに使用していた。正規軍の担当者がその後にグリプス戦役で死んだ事もあり、事実上忘れ去られていた。だが、ティターンズ残党はそれを艦隊戦の切り札と目していた。持ち込んだ艦艇では最大のものであるからだ。それをティターンズ派失脚後の連邦軍は一切把握していない。ティターンズは当時、宇宙艦隊から退役間近のマゼラン改を改二型としてかなり保有してはいた。マゼランはデラーズ紛争後から急激に退役し始めたが、砲力は評価されており、その後継艦がラー・カイラム級である。ティターンズはアレクサンドリア級やハリオ級などの巡洋艦級の艦艇は多数保有していたが、戦艦と言える船はドゴス・ギアの他にはマゼラン改級のみであった。もちろん、正規軍には多数が現存していたのもあり、ドレッドノート級の大半が撃沈された後の白色彗星帝国との本土決戦で使用され、ラー・カイラムへ置き換えられていく予定であった。マゼランは長距離砲戦を想定していたので、装甲が脆い部類である。一年戦争ではそれで多数の人材が失われた事もあり、建造されなくなっていたが、多数が現存していたこともあり、正規軍では一部が残るのみだ。もっとも、事実上の後継になったドレッドノートも極初期型は衝撃砲一発でお釈迦になる艦が続出し、以後は装甲が強化されている。
「真田さんに聞いた事あるんだ。マゼランやドレッドノートがよく一撃で死ぬ映像が記録映像であるから。そうしたら、どれも構造の脆弱性の露呈だそうだ」
「あれら、ダンボールって揶揄されてたけど、想定外の攻撃のせいなのよね」
「ペガサス級だって、核攻撃に弱いってんで、グレイファントムタイプの新造が止まって、アルビオンタイプになったしな」
「グレイファントムタイプ、何隻あったの?」
「デラーズ紛争やグリプス戦役の混乱でかなり亡失したらしいから、正確な数がわからんそうな。その内の一隻ははやてにやったが…」
「連邦軍、かなり死蔵品多くない?」
「派閥抗争が激しい分、そのおかげで資料が残されない軍隊だったしな。本当にまとまったのはガミラスとかゼントラーディのおかげだってこった。かなりゴップのじいさんが脅して、資料出させてるらしいが」
「でも、グレイファントム級って撃沈率あるわよ」
「核攻撃で2隻は焼かれたし、残党に撃沈されたのもいる話だしな。純正のホワイトベース級は一隻しかもうないそうだ」
「消耗してるわね」
「ペガサスはいつしか解体されたようだし、ホワイトベースJrは記念艦だそうだしな」
地球連邦軍は艦艇の消耗も激しいため、盛んに新造艦が造られる。ペガサス級の残存艦は機関の老朽化が激しいペガサスは解体されていた。また、サラブレッドは准同型艦であり、二線級ながら現役、ブランリヴァルのみが純正ペガサス級の最後の生き残りという始末だ。
「なぜ?」
「ホワイトベースJr、名前の割に大した戦歴もないから持て余されて、ネオ・ジオン戦争が終わった時に記念艦になったそうな。中でレプリカのG3ガンダムとガンキャノンUの展示がされてると聞いた」
「なるほど。一般大衆のご機嫌取りね」
「そういうこった。こいつもそうなりそうだったから、ヤマトを記念艦にする案があったのを考えりゃ、大いなる皮肉だよ」
「ああ、アンドロメダの竣工でヤマトを退役させる案でしょ」
「ドレッドノートの量産が遅れたから、お流れになったそうだがな」
アンドロメダはネームシップの不幸があった後、一般大衆からは失望の眼差しで見られるようになり、ヤマトが祭り上げられた。つまりこの時点で一般大衆に地球連邦軍最強の戦艦はヤマト級宇宙戦艦と認識されているのだ。その認識がヤマト級の流れを汲む宇宙戦艦が連邦軍のシンボルとされていく流れを作っていくのだ。
「アンドロメダは可哀想な船だ。噛ませ犬の汚名を引っ被り、ついにはヤマトの前座扱いで、ガイアのヤマトクルーにケチつけられたしな」
アンドロメダは止め名になるほどの不幸が重なる事、ネームシップのソフト的問題点が叩かれた結果、『見掛け倒し』の汚名さえひっかぶる。更にガイアからの抗議である。ブルーノアが早められたのは彼らのせいである。(しかし、同時に名将・土方竜の指揮でバルゼー艦隊は蹴散らした武勲もある)ガイアとの軋轢を避けたい連邦政府の方針で退役が予定されたが、用兵側の抗議で延期されるのがアンドロメダ級の状況であった。本来はアースフリートの戦隊旗艦、艦隊旗艦運用が前提だったのに、だ。前衛武装宇宙艦が同じ姿なのは偶然の一致らしいが、ガイアも規格統一を目論んだのは事実だ。アンドロメダ級の退役にガイアの地球連邦防衛軍も待ったをかけたと言える。そのため、艦艇の規格統一は図らずも実行され、ガイアのアンドロメダの武装は40cm砲から51cm砲に変更されている。また、ガイアのヤマトクルーの少なからずは勘違いからの混乱を起こした責任を問われ、訓告処分を受けたらしい。
「ああ、記事になってたわね。勘違いってわかったら、青ざめてたってヤツ」
「うむ。こっちのはタキオン波動収束砲で、向こうのとは原理が違うからな。そりゃ先史時代のアケーリアスが撃ちまくって銀河を四散させたって失敗はあれど、勘違いで叩いちゃいかんよ」
「訓告がついたら当分は出世できないでしょうね」
「こっちの古代さんたちも、平和には馴染めなさそうと自嘲してるし、変なとこ似てるんだよな」
古代進は気質が有事の軍人であるので、平時には疎んじられるタイプである。これはアースにおいては特に顕著である。また、ヤマトに青春を懸けたと公言するように、『沖田十三の子ども』らしい血気盛んな面も持つ。黒江はアースの古代とは真田を介しての知り合いであるので、比較的肩を持つ。
「さて、戦況はどうだ?」
「航空戦はこっちが優勢だけど、陸は練度不足もあって、一進一退よ。それと機甲兵器が全体的に足りないわ」
「チヘやチハでも数合わせになるっつーに、官僚連中は」
「陸の連中にそっちへ機甲兵器のデータを送ってもらったが、どうだ?」」
「チトが稼働数60両位、チリ改で120両、チヌ改が300両くらい官僚に無通告で使用されてるわね」
「無通告か。現地で改造したな」
「現地にあるチヌがもったいないんで、チトの砲塔を現地で載っけたんでしょうね。まあ、M4相手なら、待ち伏せ前提なら、いい感じになる話よ」
「あれなぁ。チハの最終進化とは言え、車体装甲がペラペラだしな。砲を強化しても、車体がヘボじゃ、機動戦闘は無理だな」
「仕方がないわよ。チトとチリの間を埋める場繋ぎで、そもそもM4とガチンコは考えられていない戦車よ」
チトも例外なく、砲塔バスケット未採用を理由に整理対象になったが、宮菱が砲塔バスケット装備型砲塔を作ると説得して、製造ラインを維持させた経緯を持つ。この説得がもとでチト改が採用されて造られ始めるのも皮肉なものだ。
「それに日本の連中、うちの戦車が砲塔バスケットやトーションバーじゃないのを笑ってるけど、それを全部持ってるのはカールスラントの戦車くらいよ」
「あいつら、カタログスペック信仰強すぎだ。戦車の武器は最低で90ミリ砲だぁ?スターリン重戦車は影も形もないし、パーシングやパットンの生産は低調なんだぞ」
「M4だって、生産に異議が出たくらいなのにね」
「本当、ヨシフおじさんの幻を追ってやがる」
しかし、これは後に、大型化する陸上怪異の前に、アハトアハトでさえ陳腐化した後に評価され、ウィッチに好評となる。結果論だが、ウィッチ世界で戦車を電撃的に機動運用したのは、日本連邦軍が初であり、カールスラントは理論を提唱しながら、先を越された形になった。しかも、かつてなら間違いなく重戦車に入る重量の戦車で、ある。機甲部隊全体で行ったのは日本連邦軍が初であり、皮肉にも、破城槌のような運用を大々的に行った最初の事例を日本に取られた形のカールスラントはレーヴェ戦車の開発を急ぐのである。また、戦車の直掩戦力にウィッチを活用した初の事例も日本連邦であった。特に第三世代宮藤理論型航空ストライカーは陸戦もある程度こなせるため、この時代の下手な陸戦ストライカーより柔軟な運用ができた。特に陸戦ストライカーは鈍足という難点があったが、それより遥かに高速で動け、ジェットをホバーモードで駆動させることで、ドム的運用すら可能であった。
「あ、連邦軍はビックトレーを持ち出したわよ」
「やはり。陸軍が持ち出したな。ヘビーフォークも一緒だろ?」
「カールスラントが腰抜かしてるわよ」
ビックトレーとヘビーフォーク陸上戦艦も駆り出されたが、サイズ的に鈍重である(ビックトレーは特に顕著)ため、カールスラントが開発を進めていた次期重戦車『レーヴェ』に疑問符をつけてしまった。これがレオパルト戦車に開発がシフトしていくきっかけとなる。陸上戦艦は基本、『動くトーチカ』であり、機動戦闘は考えられていない。それと、大きすぎると運用効率が悪化するため、レオパルト戦車の開発にプロジェクトそのものがシフトしていったという。
「でも、あれはトーチカだぞ?レオパルト戦車を素直に作れよ」
「装甲が薄いとかで、上層部に受けが悪いそうなのよね」
「はぁ?」
「多分、ドイツが開示したのが旧式のアインスのほうだからない?」
「レオ2の新ユーザーになり得るんだし、ツヴァイの方を開示しろって」
レオパルト2戦車はドイツが帝政であるカールスラントへの輸出を渋っており、左派がレオパルト1戦車の技術開示で我慢しろと言い、右派と揉めている。また、カールスラントは頼りの航空技術が米国の技術開示の大盤振る舞いで一夜にして陳腐化しており、陸戦技術だけでも他国への優位を維持したかったのだ。(ドイツの技術を独自に発展させた事が戦後米国とソ連邦の圧倒的優位を生んだのも事実である)ドイツもカールスラントに少なからず混乱をもたらした責任があるのは自覚しており、レオパルト2戦車の現地生産を許す形で禊を行う事となる。
「カールスラントも大変よ。向こうでの武装SS系は貴族だろうが、軍籍剥奪も辞さないそうだから」
「おいおい、ヴィットマンは武装SS系だったろ?」
「それは除外ということだけど、荒れるわね」
「ドイツの戦車エース、多くが装備の良かったSSの部隊だろ?どすんだ?」
「思想調査して、問題なければそのまま、危ない系なら追放らしいわ。爵位も剥奪だとか。皮肉な事にグレーテ・ゴロプはその第一号よ」
「あいつはどこかの世界一喚いてるナチスの大佐みてーな性格だし、危険思想の持ち主だ。そうなったのは当然さ」
グレーテ・ゴロプはこの頃には軍籍を剥奪され、家族も国外追放の果てに日本連邦に流れ着くなど、自分以外の家族さえ顧みない性格を露呈し、バダンに鞍替えしていた。元はオストマルク系であった上、ガランドと対立していた事、ガランド派の少なからずをバダンに差し出していたという狂気をむき出しにしつつ、神闘士になっているという矛盾も存在する。黒江は自身のアーリア人至上主義に反する存在であるので、排除すべき対象と見ている。元・部下への情など欠片もない冷血漢と化していた。黒江はそれを悟っている故に、ゴロプを倒すべき対象として見ている。それが上層部がひた隠す505の真実だ。
「それが上がひた隠しにする不都合な真実ね」
「たりめーだ。隊長格が世界を滅ぼすことを目的に動いてる悪の組織の一員になってたんだぞ。おまけに人種差別主義者だ。不都合な真実すぎるだろうが」
奇しくもこの日、505の不都合な真実は山本五十六の強い提言で多少の加工はあれど、事実に即した形で公表される。ゴロプの家族はこの公表以前に社会的地位を喪失していたが、公表が追い打ちをかける形になる。政治的には、カールスラント連合帝国の内部でオストマルク系軍人が長年に渡り辛酸を嘗めるきっかけになり、反ガランド勢力が一気に衰退することにもなる。また、44戦闘団に彼女の同位体が反対していたことやナチスの信仰者と見なされたことも、ゴロプの家族には不幸として降り掛かった。カールスラントにはいられなくなり、比較的に亡命者に寛容と見込んでいた日本連邦に駆け込んできたのだ。だが、日本連邦にも断われたため、キングス・ユニオン経由で23世紀地球連邦に亡命していった。
「あの人の家族はどうなるの?」
「日本連邦は受け入れねぇだろうし、キングズ・ユニオンも優しくねぇ。23世紀に行って、全てを捨てるしかねぇだろうよ」
「日本経由になるわね、どの道」
「妹は地球連邦軍に入ると言ってきてる。ガランド閣下の養子に出されるって話だ。多分、その子だけでも入れたいんだろうさ」
ゴロプは家族の中で唯一無二、愛情を持っていたはずの妹に憎まれる、因果応報を地でいく結果を自分の行いで起こしてしまった。しかも政敵のはずのガランドに養子に出されるという最悪の形で。それが彼女を完全にバダンへ染ませる事になり、黒江との決闘に繋がっていく。
「貴方、今回は」
「魂を消し去る積尸気の奥義『積尸気魂葬破』を使いてぇが、あいつも妹だけは愛していたから、それに免じて、肉体の破壊だけにしとくさ」
そう述べた黒江だが、ゴロプの妹がガランド家に養子に入った後、『姉が残した恥辱が有っては国軍に志願もママなりません。祖国が恩義を感じ一族の渡った先でもある地球連邦で軍人として姉の残した恥辱を濯ぎ新しい祖国のため、ルーツたる故国のために粉骨砕身努めたいと思います。願わくば姉をこの手で捉えられる機会のあらんことを願いますが、それは贅沢というものでしょう』と述べたことで、方針を転換することになる。
「さて、この艦で敵超重爆を落としに行くわよ」
「B公の連中、腰抜かすぞ」
「機関、増速。発進!」
「ドラえもんのムードもりあげ楽団にあのテーマ流してもらうべきだな」
「ああ、アンドロメダのテーマ」
「レーダーに反応。方位右50度上にB29の編隊です」
「主砲のテストに丁度いいわね。発射!」
そこまでにかかった時間はおおよそ数分。波動エンジン艦にとっては欧州大陸は庭の散歩以下の感覚だ。アンドロメダ級に取って、B29を落とすなどは、おもちゃを壊すのと同じ程度の行為だ。威嚇で主砲を各方向に向け、進撃するネメシス。B29は慌てて、爆弾を落とし始めるが、陸上目標用の爆弾では船は落とせない。
「波動防壁を念のために展開!そのまま奴らのど真ん中を突っ切る。ラ號もやる手よ!」
「お、おい、この艦、加速してるぞ!やりすぎだ!B公にはオーバーだぞ!操舵を誰がしてんだ!」
「私だけど」
「艦長席から操舵すんなよ。本当はバックアップ用だぜ」
「操舵席に誰も座ってないし、こっちから制御したんだけど、スロットルは直結してないから、どうもねぇ」
「なぁ!?しゃーねー!俺が操舵席に座る。宇宙船免許、今回は取ったからな!」
黒江はすぐに操舵席に座り、艦の細かな制御を行う。部下の一人である機関士に命じ、エンジン出力を徐々に落とさせる。
「現在、高度17000。B公はほとんどソニックブームで消し飛んでます」
「だろうな。このまま下降してヒスパニアに寄港するぞ」
アンドロメダ級はティターンズにとっては危険な艦艇である。宇宙戦艦と言っても、恒星間航行を前提に造られたので、強度がサラミスとは桁違いなのだ。伝統的に砲力を重視する連邦軍艦艇であるが、世代も火力も違いすぎる。
「ティターンズが狙ってこないですね」
「そりゃそうだ。亜光速以上を引き出せる戦艦だぞ。サラミスやアレキサンドリアがいくら来ても怖かねぇよ」
「マゼランは?」
「似たようなもんだ。ティターンズのマゼランは砲塔が減らされてるからな」
檜少尉の懸念を払拭させる黒江。実際、地球連邦軍でも最有力の部類に入るアンドロメダと砲撃で渡り合える艦は少ない。内惑星巡航艦隊系の艦艇ではほぼ皆無と言っていい。特にサラミスはえいゆう型(ガイアでの金剛型に相当)にも劣るので、下手すればそれでも圧倒される。アンドロメダとなると、もはや第二次大戦の新世代艦と弩級戦艦が戦うようなものだ。
「艦隊戦をやろうってんなら、ラ級でないと対等にもならねーよ。こいつはバルゼーを撃破したアンドロメダの妹で、本当はその後継ぎになるはずだったんだからな」
「ヒスパニアです」
「よーし。適当な港を見つけて着水するぞ」
ヒスパニアでアンドロメダほどの大きさの戦艦が港に接岸する事は実は難しい。水上艦より大きいからだ。ヒスパニア最大級のバルセロナの港でも、アンドロメダは入れない。そのため、無難に沖に停泊という事になった。また、存在していることだけでも、日本連邦の軍事力誇示に繋がる。これは21世紀日本にも『ヤマトとアンドロメダの共闘』という形でプロパガンダされた。即刻。また、元々、ヤマトを越えようとして失敗したという悲劇性が知られているアンドロメダはその優美なデザインで人気があるため、21世紀でプラモの売れ行きが好調になったという。だが、意外な事に、デザインは美しくとも、実用上はいささか着水時にトップヘビーが否めないのもアンドロメダの難点である。空母化が失敗した理由もそこにある。ガイアの前衛武装宇宙艦は艦橋部を拡大する航空戦艦化で対処したが、飛行甲板を備える本格空母を求めたアース特有の事情が生んだ失敗作であった。
「ふう。相変わらず、トップヘビーだな。着水で気を使うぜ」
「ヤマト型のほうがいいのには同意だわ」
「あれのほうが楽だよ。元は船だし」
「デザインの都合でしょうがないわよ、アンドロメダの安定性悪いの」
「全く、メリケンの連中は着水時の安定性を考えてんのかと思うよ。錨を下ろすぜ」
地球連邦軍の宇宙戦艦の内、恒星間航行可能な波動エンジン艦は探査任務などの都合もあり、錨を備える。
「スタビライザーのおかげで安定するから、そこは救いだなっと。停泊完了、降りるぞ。揺れるが、我慢しろよ、お前ら」
アンドロメダの難点は停泊時に揺れるという点で、それも嫌われた要因である。ヤマト型が揺れないのは、大和型の安定バランスを崩していない設計だからである。
「准将、揺れます」
「船酔いなら、出たら風下で吐けよ」
顔色が悪い陸軍出身の連中(Gウィッチで、前史でもガイアで各セクションに配置されていた者)にそう声を掛ける黒江。自分は移動用のモーターボートにさっさと乗り、一足先に陸地へ向かうのであった。(船舶免許すら持っている)これも黒江の特権で、船の嗜好そのものは大艦巨砲主義らしく、この日に注文したプラモがそれを物語っていた。アンドロメダは21世紀世界ではグレーの船体色のものしか知られていないため、ネメシスの戦隊旗艦仕様カラーは注目を浴びた。ある意味、アンドロメダファンには新境地と言える塗装に唸るファンが続出したという。(そもそも戦隊旗艦に割り振れるほど完成させられなかったが、予定はあったとの事。塗装バリエーションは初の波動エンジン艦での旗艦運用想定の戦艦なため、張り切って策定されていた。)
――日本連邦の黎明期にあたる2019年前後は、どうしても払拭しきれない扶桑軍への軍縮への圧力と懸念が存在した。これは2000年の接触時から防衛省関係者を中心に存在した左派世論への懸念を意味する。革新勢力が政権を握る時代に特に先鋭化したのは扶桑でも有名だ。黒江が政治的理由で辛酸を嘗めた時期もその時代の前後である。実際には保守政権も軍縮傾向にあったが、扶桑軍との『統合』に備え、一定の発言力確保に方針を切り替えようとした。2006年のことだ。丁度、黒江が出自のカミングアウトをした翌年にあたる。これは軍縮傾向にあった自衛隊は全自衛隊を合わせても、30万人もいないが、扶桑は陸海軍で1000万近くの大所帯である事に当時の背広組の一部と制服組が懸念を持ったためだ。また、統合された場合、軍隊の人数があまりにも多くなることに警察関係者が異常に怯えたことや、扶桑軍の暴走を抑えるという使命感からの暴走もあり、革新勢力は黒江を退職に追い込もうとした。だが、自衛隊や警察関係者のOBの少なからずは軍隊から復員した後に再入隊や再就職した経緯を持つためと、黒江の肉体年齢と扶桑での戸籍年齢が若いことで諦めた。また、黒江の騒動で一般大衆に改めて知られたのが、『自衛隊は警察関係者、後に旧軍人を集めることで組織が形になった』という経緯であった。現に、三自衛隊の初期の高官や士官達は旧軍の高官や経験者達が担っていたという歴史がある。それが知られたことで、自衛隊と旧軍との関係性を否定する動きにとどめが刺された。(第1世代の生え抜き自衛隊員たちには少なからずその傾向があった)黒江はカミングアウトにより、『旧軍人の軍歴を有する』点での久しぶりの自衛官となった。異例の超特急昇任もそれによって明確な理由付けになった。防大はカミングアウト以前に人員が何人も送り込まれていたが、黒江が在籍中の時点で『現役将校を送ってこられても困る』と源田実へ抗議している。これは防大最上級生も怖気づいて、しごけないという問題が原因で、現役将校と知られたことで、黒江は事実上、お客様扱いにされた経緯がある。源田は『覆面調査として送った人員だから許してくれ、以後は若手の有望株送るから』と謝罪したが、黒江の後の何期かの人員は244Fや50F、47Fなどの精鋭部隊に在籍している将校(若手ではある)だったので、防大は源田に泣きついている。その数期に潜り込んだ人員が事実上、自衛隊での出世コースに乗っかっていた。2000年代後半に問題にされたのは、組織乗っ取りを警戒されたからである。黒江の幕僚長就任の根を摘む内規が設けられたのは2009年のことだが、黒江が戦功でどんどん出世していくので、階級を上げなければならない事には変わりはない。そして、扶桑海事変の英雄である事、昭和天皇の寵愛を受けている事が2010年頃に知られ、革新勢力への痛烈な痛手となった。2000年当時の閣僚の協議では『お客さん』扱いだったが、総理や閣僚の交代が激しかったのが原因で伝わらずに「任官」されたのはミスではあった。しかし、2003年時の政権の長は小泉ジュンイチローであり、日本連邦への礎とすべく、そのまま任官扱いにしたのである。また、女性自衛官で戦闘機パイロット一号と報道されていた事もあり、広告塔代わりの意図もあり、そのままにしたのだ。しかし、実際の勤務ぶりは若手時代には『機体潰し』で知られ、教導群も当初は興味は持たなかった。だが、カミングアウトで旧軍トップエースの一人と知られたことで、教導群の勧誘が激しくなった。革新政権時代には教導群の実戦部隊への模擬戦闘訓練での敗北から始まるボイコット騒動にも繋がった。(教導群は黒江個人に負けた事が2003年からあり、赤松が入ってきた後は手がつけられないようになり、ますます勝率が低下した)また、2010年代には扶桑軍出身者達が米軍との合同訓練でトップガン出身者達をゲドゲドにのした事がセンセーショナルに報じられ、当時の防衛大臣の首が飛んだこともある。革新政権末期の頃の出来事だったが、ボイコット騒動の発端に防衛大臣の現役航空自衛官へのなじりがあり、それを左派マスメディアが空自への批判に利用した事が騒動が無駄に大きくなった要因である。学園都市の戦争前夜であった事も彼らの不幸であった。そもそも現役の生え抜き自衛隊員は実戦経験がないとは言え、平均練度は黒江/赤松ペアも高く評価する水準だった。扶桑軍でも指折りのトップエースの二人が異常なのであって、権勢の絶頂期にあった学園都市の部隊のパイロットたちも口を揃えて、空自に一目おいていたのだ。また、黒江と赤松は聖闘士である。当然ながら、他の自衛官とは比較にならない身体スペックなので、マシンの限界を引き出せる。そこも自衛官が勝てない理由である。米軍も当然ながら、マシンの限界まで引っ張れる耐G特性を持つパイロットは減少していたので、合同訓練の際には『精鋭部隊を連れて来るな』と忠告したほどだ。(持ち回りの部隊と知ると、『オーマイガー!』と嘆いたという)実際、赤松と黒江が組むと、ウィッチとしても最強の布陣であるため、カールスラントの二強も『あの人たちとは遣り合いたくない』と口を揃える。公にカールスラントが世界四強を独占しているとされていた45年では暗黙の了解的なものであった。特にGウィッチが公表されだしたダイ・アナザー・デイ当時の段階では、カールスラントの面子への配慮が働いたからである。カールスラントが撃墜王世界トップランクを独占している状態は21世紀の各国からの撃墜スコアの厳密な精査が要請されたことで次第に解消され始める。ネウロイ撃墜スコアそのものはカールスラント四強が最高であり続けたが、怪異撃退が軍の手からほとんど離れることになるため、名誉記録、参考記録程度の扱いになった。45年を境に、評価基準も改定されたため、必然的にGウィッチ達がトップエースの座を占める事となる。艦艇エース、爆撃機撃墜エース、戦闘機撃墜エースと分野が細分化された事もあり、地球連邦軍の闘いでスコアを記録した者ほど有利であった。評価基準そのものの改定には、現場の士気との兼ね合いで反対意見が根強い。対人戦では、普段のポテンシャルを出せない者が多かったからだが、扶桑でMATが設立され、多くが流れたために、軍組織がウィッチを雇用し続けるための方便が必要であるのも理解されていた。特に、日本左派の干渉が予てより政治問題化していた扶桑では絶対に必要なものとされ、一度は疎んじたレイブンズとその流れを汲む者達を重宝する道を選んだ。レイブンズは大衆の人心掌握を重視しているため、弟子を含めてメディアに進んで露出する(圭子の父や兄弟など、家族から快く思われない事もある。黒江の家族は理解がある方だ)。それが反対派のクーデターの動機でもあり、海軍のクーデターを主導した佐官の申し開きが全く理解されずに断罪される見通しなのは、ある意味では日本人の社会の宿命である。志賀が戦後に傭兵になった理由の一つも、海軍航空隊内の美風とされた事が大衆に悪癖とまで断じられた事への衝撃であった。黒江達が何故、独自に広報をするのか。それは軍の広報プロパガンダ政策の失敗が原因であり、扶桑では『江藤が悪い』とする空気があった。クーデター事件の直後まで江藤は自身の選択の誤りを公然と責められ続けることになる。正確には、江藤の報告を握りつぶした当時の参謀本部の参謀たちが諸悪の根源だが、その多くは年月の内に退官しており、当時の生き証人である江藤をスケープゴートにしなくては、参謀本部全体が気まずい空気に包まれるからだった。現に、レイブンズとレイブンズを信仰する世代と戦後世代のウィッチとの対立が顕現し始めていたため、当時に既に佐官の地位にあった江藤は『スケープゴート』にされるうってつけの人材であった。その対立の表れがクーデター事件であり、江藤は自分の選択の誤りで自分の前途に影がさした事を悔み、それがきっかけでダイ・アナザー・デイ中に完全にG化する。黒江とケイは、Gへ覚醒した江藤へのせめての気づかいを考えており、その事を仕事しながら考えるのだった。デューク東郷の登場、大艦巨砲主義の蘇りを示す大海獣の宴が行われている裏では、ウィッチの摂理を超えた者ばかりが持て囃される風潮に疑念を持つ通常ウィッチの不満、その強大さ故に迫害を受け、体制側が有用性に気づいて、重宝するに当たり、過去の贖罪をしようとするという立場に置かれたGウィッチ。その対立がダイ・アナザー・デイで顕現するというのは必然であり、通常ウィッチの不満が暴発した時、扶桑の施政者達は長期的視野からGウィッチと判明した者を見なかった軍を責めた。軍部としても『まさか転生者が強大な力を持つ状態でいるなんて!それに、お前らだって、あの時は同意したじゃないか!』と責任のなすりつけ合いに発展する。Gウィッチの分布が連合軍の主要国に程よく散らばっているために連合国全体の問題と扱われた事で扶桑軍部の参謀たちは胸を撫で下ろしたが、日本によるクーデター事件を理由にしての懲罰人事の嵐が吹き荒れることで、結局は参謀の多くが中央から追放される。それがGウィッチとその支援者達が作った組織『Y委員会』が日本連邦を牽引するきっかけとなるのである――
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