外伝その246『パンツァーフォー!』


――このダイ・アナザー・デイは言わば、Gウィッチがウィッチの支配層に君臨するまでの過渡期であった。その過程で、人格の主体を元から変える者が続出していており、ミーナは西住まほ、ルッキーニはクロエ・フォン・アインツベルン、サーニャはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン、リーネは美遊・エーデルフェルトであり、元の容姿を維持したのはミーナ/まほのみである。使い分けは可能だが、まほの場合は時間軸の都合で元の容姿のままのほうが都合がいいため、まほそのものの容姿はテスト以外には変身していない。まほ当人とは別の存在とカウントされているためだ。――

――戦車道世界――

「これ、お姉ちゃんには言えないなぁ。当分。いくら生まれ変わりと言っても、時間軸が違うわけだし」

西住みほはまさか姉が死後に別世界に転生して、その記憶が蘇っていた事に困惑していた。今いる姉とは別の存在とカウントされているため、同じ世界にいても全く大丈夫だが、(違う世界の住人なら、同一人物同士の邂逅も可能だが)西住流の柵が無くなった場合はかなりはっちゃける事がわかったので、姉の体面のために秘密にしておこうと考えている。ミーナも前世の自我の覚醒後は黒森峰女学園の制服を改造したものが普段着なので、ロンメルに大喜びされている。また、グデーリアンの言葉を引用する訓示もするので、グデーリアンは狂喜し、視察と言い訳してやってきたほどだ。そのため、みほに『ロンメルとグデーリアンを極秘に呼んで連れてきてもいいが?』と言ったが、みほは丁重に断っている。

「でも、まさか、グデーリアンとロンメルを電話一本で呼びつけられるなんて。お姉ちゃん、向こうだと装甲師団に顔効くのかな?」

みほは疑問に思った。姉は転生後に空軍に入隊しているという。軍が違うのに、軍司令官を電話一本で呼びつけられる権限を持つのかと。これについては二人のフットワークの軽さが原因である。ロンメルはシュトルヒですぐにやってくる上、ケイのパシリも同然である。グデーリアンも『韋駄天ハインツ』の渾名通りのフットワークであると聞かされ、秋山優花里が大喜びすると答えている。みほの仲間達は芳佳/杏から『超極秘事項だよ〜』として、彼らのいる時代にまほと自分(杏)が転生している事を知らされている。そのため、奇しくも、ミーナと芳佳は共通世界の前世を持つとなっている。みほがいる時間軸では、ちょうど大学選抜チームとの試合が決まるよりは前、『まほ』自身がチームから退いて間もない時期である。時期的に比較的手空きの状態のみほは(廃校が知らされていない時間軸)別世界で従軍するもう一人の姉に懇願され、事実上の参謀にされていた。しかも、『電話は私持ちだから、頼む。立案を手づだってくれ』と電話口越しに駆り出されている。いくらみほでも、実際の戦闘の作戦立案には不安があり、秋山優花里に応援を頼んでいた。

「西住殿〜。なんとか本を借りてきました〜」

「ありがとう〜」

「西住殿もなんだか大変な事に巻き込まれましたね」

「お姉ちゃんと会長に言いくるめられた感じだけど、引き受けちゃったから」

みほに頼まれ、秋山優花里が借りてきたのは、アメリカ戦車部隊の解説本であった。かなり濃い内容である。

「優花里さん、これ、どこから借りてきたの?」

「サンダースの図書館から借りて来ました〜、ケイさんにお願いして」

「ありがとう。お姉ちゃんと会長が戦ってる敵ってアメリカの同位国だから、同じような戦車があるはずだよね?」

「アメリカ系の国はだいたい、陸軍管理局がシャーマン至上主義に陥るはずですから、大半はシャーマンのはず」

「みほ、私だ。敵はM26を少数だが、前線に送ってきたと報告された。主戦場はイベリア半島だから、あまり使わんと思うが…」

「M26はアンダーパワーのはずだよ。ティーガーよりは強いけど、機動力は追いついてない」

「まほさん。秋山優花里です。M26はイベリア半島で使うにはアンダーパワーのはずなので、改良型のM46では?」

「うーむ。その兵の言うところによれば、エンジングリルを見たわけでは無いというから、判断材料が足りないんだ。外見上は同じだからな、あの二種。ケーニッヒティーガーで対応できる範囲ではあるが」

「ケーニッヒティーガーはほぼ砲台代わりにしたほうが…。センチュリオンを押し立てたほうが足回り的意味で正解では」

「そうだな…。あれは足回りが悪いからな。センチュリオンだが、実はイギリスが最終型相当で生産させてな。105ミリ砲型なんだ」

「え、17ポンド砲や20ポンド砲でも無くて、いきなりL7を!?」

「イギリスがせっかくだからということで、ベースとして、最終型の個体を与えたらしい」

「それじゃ、コンカラーはいらない子ですよ?」

「国策で造られた」

「……国策?」

「センチュリオンに開発リソースをつぎ込むのに反対する派閥がいるんだ。あれは巡航戦車だからな」

なんとも政治的決定であったが、センチュリオンは当時のブリタニアのカテゴリで巡航戦車であり、重戦車ではない。日本がMBTとそれを補助する戦車以外の戦車開発をストップさせたのと対照的に、『試作車が組み立て寸前』という名目でコンカラーを造らせていたのだ。当時の技術水準で造られたに過ぎないため、旧態依然とした重戦車ではあった。だが、一応、史実完成時期が戦後であるが故の利点もあり、当時の同時代の戦車よりは強力であった。

「イギリスと日本の戦後式戦車は虎の子だから、当面は時代相応の戦車で持ち堪えるしか無いが、君の言う通りなら、シャーマン相手なら問題ないな?」

「高速徹甲弾使っても、M4じゃコンカラーの前面は抜けませんよ。チトにも撃破されるくらいの装甲なんですよ、M4」

優花里の言う通り、M4はチトの砲で貫通できると見込まれていたため、コンカラーであれば、おつりは来る。攻防性能ならば。また、第二次世界大戦の戦車の装甲についても触れる優花里。

「思い出した。そちらの時代の戦車は鋳造の装甲のはず!HESHで割れるはず!」

「そうか、失念していた!たしかにトレンドが鋳造だ!」

「そちらの工廠でラインに乗せれば、コンカラーやチトに使えるはずです」

「手配させよう」

「そっか、溶接装甲が普及するのは戦後だっけ」

「言っとくが、みほ。自衛隊の74式は側面を取られれば死だし、10式でも撃破される危険があるからな?」

自衛隊も『74式は側面を取られれば終わりだ。10式でも90ミリ砲を側面に撃たれると大損害』と判定している。みほは現代戦車の特徴は意外に知らないらしい。

「そうだっけ?」

「自衛隊は時代が進んでも待ち伏せ戦法が主体なんです。61式の頃からの伝統芸と言おうか」

「自衛隊は機動戦をするというより、待ち伏せからの防衛戦で威力を発揮するからな」

自衛隊は基本的に待ち伏せで戦果を挙げている。その分野での戦果は群を抜いており、より未来であるはずの地球連邦軍すらも上回る。もっとも、地球連邦軍は61式戦車やガンタンク、陸戦用MSの180ミリキャノンを火力投射に使うので、目立っているからであるが。(M粒子散布状況下であるが、第二次世界大戦の視点で言えば、ガンタンクやMSで目立ちまくりである)

「そういう再軍備でしたしね。オフレコですけど、これ」

日本の再軍備の内、陸は戦後、対ソ連戦を想定してきた。これは旧軍が存続できた世界、早期に再軍備できた世界を問わず、同じだ。日本連邦が成立したドラえもんの世界では、学園都市のおかげでその後継者のロシア連邦が力を失ったため、主な仮想敵は中国に変化を見せている。やることは変わらないが、中国と大陸で国境を接するようになってしまったため、一定の物量も必要となった。これは陸海空の全てのジャンルに当てはまる。日本国民は大陸に新領土などは欲しくはなかったが、国連に統治を押し付けられたため、疎んじていたはずの扶桑陸軍の数を活用することで解決しようとした。実際、扶桑陸軍の総人数は陸上自衛隊の数倍以上であり、自分達の基準で機械化すれば活用できると試算していたからだが、扶桑は1940年代の水準でだが、機械化は進展していた。装備を自分達の現用水準に入れ替えさせる事を強引に初めたが、それが現地の扶桑軍に混乱をもたらしたのは皮肉なことであった。現地メーカーにしてみれば、いきなり注文が断ち切られるからで、雇用問題にもなる。例として挙げると、日本は川滝航空機の三式戦闘機を酷評し、強引に生産の主体を五式戦闘機に切り替えさせたが、三式にも一定の需要はあった。戦線に残置していた個体の保守サービスの問題もあり、結局、細々と液冷エンジンのラインが維持された問題、四式戦闘機の性能を酷評する事件など、枚挙に暇がない。彼らにしてみれば、彗星のごとく現れたF-86やF-104などが生産の主体に収まるのは屈辱であったろう。また、生産ラインをジェット戦闘機に全面的に切り替えるのは情勢的に不可能でもあった。これが扶桑が抱えた問題の氷山の一角であった。日本連邦が抱えた問題を一言で言うなら、『70年ほどの時代の格差で、片方が自分達の水準にさせたがる』というもので、これは機甲装備でも同じだ。インフラ整備を同時に進行させなければ、戦後水準の重さの戦車の運用など、本土、外地共に不可能である。しかも、当時、主力戦車の運用限界を『75ミリ砲搭載』と見込んでいたため、その水準が飛躍してしまう事自体が想定外であった上、砲戦車を予算の無駄とさえ宣られてしまうのは心外であったが、カールスラントのケーニッヒティーガー、リベリオンのM26の登場が彼らを狼狽させた。特にミッドチルダ動乱では、パンターを凌ぐE-50中戦車にさんざ苦しめられた経験があった事も事実である。そのため、史実でいうところの戦車開発シーソーゲームは日本連邦とリベリオンの間で発生していくことになる。(とはいうものの、開発の方向はどっちみち同じなので、どちらが次世代車を早く作れるかに焦点が絞られる)

「でも、不思議ですね。そちらではティーガーもケーニッヒも予備部品や燃料が豊富にあるのに、リベリオンはシャーマンに固執するなんて」

「向こうの陸軍管理本部の効率重視も困ったものだ。如何に時代遅れの重戦車とは言え、ティーガー系統は熟練の砲手や車長に恵まれば、シャーマン相手なら1対20のキルレートも可能だ。あたら多くの人命を失うという点で、向こうの管理本部はクソだよ」

と、リベリオン陸軍管理本部に辛辣な感想を優花里にいうまほ/ミーナ。実際、ティーガーに遭遇すれば、『全力で逃げる』のが有力な選択肢とされる点で、リベリオンの効率重視の機甲部隊運用ドクトリンの盲点が見え隠れする。特に制空権を確保できない場合、リベリオンの機甲部隊は『最後の華』と言わんばかりに活動するティーガー系に容易く屠られる役目でしか無い。それも凌ぐコンカラーやセンチュリオン相手では、より悲惨な戦闘となった。そのため、戦車駆逐大隊そのものの『時代遅れ感』を加速させてしまった。消耗率も高く、陸自に捕捉された部隊に至っては、圧倒的どころか絶望必至の火力で部隊が全滅していた。そのため、唯一、陸自の戦闘車両を側面攻撃で撃破し得るのがM36ジャクソン戦車駆逐車であり、リベリオンに重宝されたのだが、空自や米軍、更には地球連邦軍によって優先的に破壊されるのもお約束であり、戦車駆逐大隊は存在意義こそ果たしたが、同時に存在そのものの陳腐化を証明する結果ともなった。(対戦車ミサイルなどが使われたので)

「陸自や米軍、イギリス軍がパンツァーファウストとか撃ちまくるのもあって、向こうの戦車駆逐大隊はたぶん、もう数週間もあれば立ち直れないだろう。既に部隊の尽くは壊滅しているからな」

「あれ、ジャベリンじゃないんですか」

「ドイツ軍が大量に送りつけてきたから、第二次世界大戦中のパンツァーシュレックを代替する勢いで使われててな」

「バズーカでいいんじゃ?戦中の戦車はだいたいあれで間に合うはずですよ?」

「上の判断だから、私にはなんとも言えんよ。パンツァーシュレックはカールスラントでもそんなに出回ってなかったしな」

実際、陸自はカールグスタフを使用しているため、意外にそのあたりは統一されていない。優花里のいうバズーカはリベリオン製兵器であるため、分裂でそもそも入手不能である。

「なんと世知辛い」

「仕方があるまい。上はまさか、戦車を撃破し得る火力を歩兵が持てるということは考えてなかったのだ。それに今いる世界では、陸戦ウィッチや空戦ウィッチに優先配備だったんだ」

歩兵が主力と見なされていない世界特有の事情は理解されず、大量に各国から供与され、困惑した連合軍。その有用性を知るGウィッチが進んで使用し、戦果を挙げている。圭子は基地に帰る際、行き掛けの駄賃にと、M4を血祭りにあげている。その際に使用したのがカールグスタフだ。圭子はレイブンズで一番の銃のエキスパートを豪語するので、カール・グスタフの有用性を知っていたのだ。

「まほさん。あの、そちらは暇なんですか?」

「いや、今は出発前でな。もうじき、イベリア半島に飛ぶ事になった。陸自のC-2に便乗させてもらう」

「あれ?イタリア南部からイベリア半島まで飛べましたっけ?」

「カタログスペックだと行けるらしいが?」

「荷物運びながらだと、航続距離落ちるはずですよ。量によりますが」

正確には空自の機体だが、空自は表向き『戦闘機部隊しか送っていない』事になっているため、ここでも政治的事情が見え隠れする自衛隊。当時、コストパフォマンスの悪さが指摘され、早くも『次の機種を用意したら?』と圧力がかかっているC-2に活躍の場を設ける必要が空自にはあった。しかし、C-2の部隊使用承認からは間もなく、C-1の代替目的にはまったく足りていない。また、セールスとしては不調であるため、扶桑に買わせたい思惑もあり、業務輸送を大義名分に派遣されている。

「あ、これはそちらの自衛隊には気まずいが、そちらの世界のC-2改良型の設計図をハッキングして空自に送ったそうだ」

「それ、いいんですか?」

「仮面ライダーさん達が君たちを助けた時にくすねたらしい」

「別世界とは言え、同じ自衛隊が作るから…問題ないか…な?」

「それはわからん」

「でも、一〇〇式輸送機とかを使わなくていいんですか?暇を持て余してそうですし」

「ドイツ軍系の機材だったから、Ju52だよ。人員輸送に使っていたが、回収されて博物館行きにされたからな」

「悪い機体じゃないんですけどね」

「うむ。まぁ、ギャラクシーやC-2、もっと後の時代のミデアが使われればなぁ」

「第二次世界大戦でギャラクシーって…滑走路どうするんですか」

「米軍がちゃっちゃと設営していった」

「C-17使ってるのかと」

「これ見よがしに二機くらい飛来してきてな。若い連中が口をあんぐりと開けっぱなしだ」

「現代の一個機械化部隊一個を機材ごと輸送できるペイロードですよ?第二次世界大戦から見れば、超輸送機ですよ」

「まあ、ボロいから、自慢に使う目的で飛来させた以外はC-17だよ。それに重い物はミデアに任せればいいしな」

ミデアはMSを二機から三機運べるため、だいたいはそれで輸送が済む。ガルダによる輸送は大規模作戦中などに絞られている。501と64もミデアやガルダの補給で弾薬などを賄っている。また、ミデアは垂直離着陸が野戦飛行場でも可能であるため、戦線で最も重宝されている輸送機である。

「おっと、部下が迎えに来たから、また連絡する」

「逸見さんに言わなくていいの、お姉ちゃん」

「どう説明すればいいんだ?」

逸見エリカは確かに、黒森峰女学園のチームをまとめる後継としては期待しているが、転生のことまで言う必要があるのかと悩んでいるようだ。だが、遅かれ早かれ、西住家にドイツ人の縁戚がいないことに気づかれるのは時間の問題である。それを勘案したのか、みほは告白を促しているようだ。

「でも、遅かれ早かれ、エリカさんには感づかれるよ。それに、私の知るお姉ちゃん自身に知られたら、それこそ大事だよ?」

「だーー!そうだったぁ!」

「なんか、コミカルですね、まほさん」

「お姉ちゃん、素はこんな感じなんだ。公には寡黙で冷静沈着で通してるけど」

西住流の柵が無くなり、人物像を取り繕う必要がない上、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケのメンタルも反映されているため、転生前の人格よりだいぶコミカルさが出ている。まさか『まほ自身』も生まれ変わったら、シスコンでコミカルな側面を前面に押し出すようになっているとは思うまい。

「バレたらバレたで良いや、もう」

「あ、投げた」

「西住流かしらぬ姿ですね」

まほの自我意識が覚醒したミーナはGウィッチでは意外なことに、コメディリリーフ的役目を担っている。そのため、まほが取り繕っていたキャラを考えると、爆笑必至である。

「多分バレる、バレない様にする事よりバレた後の事を考える方が戦略優先度高いわ」

「頼むよ、お姉ちゃん。お母さんにバレた場合も」

「うぉ、そうだ、母様がいたんだった。父様に頼むかな…」

と、意外に母親が苦手らしいところがある西住姉妹。だが、その母親のしほもスキンシップの不足で娘たちとのコミュニケーションが上手く行かず、みほに避けられている事を夫に厳しく糾弾され、夫の前では弱さを見せている。しほはみほ達が戦闘に巻き込まれていた事を知らされており、圭子(レヴィ)にかなり、コミュニケーション不足の事で釘を刺されてもいた。また、自身の学生時代に瓜二つの容貌を持つ智子にもそこを指摘され、おそらく若年期以来の狼狽えを見せている。(智子はみほが驚いた事で、しほの青年期以前の容貌と瓜二つであると知らされ、一時、落ち込んだことがある)

「智子さんに頼もうよ。お母さんに精神ダメージが一番入ってたし」

「お前、何気にエグいぞ…」

しほとしても、レヴィの姿には狼狽えないが、智子が若き日の自分に瓜二つだった事には大いに狼狽えたらしい。(みほ曰く、智子さんが黒森峰女学園の制服着れば、完璧とのこと)智子としても、自分が15歳ほど歳を重ねたような姿のしほがみほに厳しく当たる事は我慢できず、殴り込みに行ったらしい。さすがのしほも、日本陸軍少佐(来訪当時)の権威と、自分の祖母と言えるほどの年の差(外見はともかく)には下手に出、みほを驚かせた。陸自ではなく、旧帝国陸軍の少佐という事もあり、しほも智子へは敬語で接した。二次大戦の現役将校という肩書きはたとえ、西住流師範であっても効くらしい。もっとも、まほもミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの立場を持ったため、その肩書は得ているが、空軍であることや、『娘』であるため、効果が薄いと見込んでいる。

「ゲーリングの師団に研修しにいくかなぁ。母様を納得させる箔付け」

「そこまでしなくとも」

「今の私は空軍のエースパイロットだぞ。母様を納得させるには装甲師団に行った経験がないと……、いや、手っ取り早く、降下猟兵の資格でも…」

「お姉ちゃん。お母さんがたぶん、落ち込むよ、そこまでやると」

と、如何にまほ/ミーナが用意周到に事を運ぶのを好む性格になっているかの表れであった証だが、しほとて、長女が死後にパラレルワールドのドイツ人として転生し、ルフトバッフェのトップエースに数えられるまでに成長していた事など想像だもできないだろう。まほは公には西住流の『顔』として活動していたためか、しほを必要以上に警戒するのも無理ないが、そこまで(降下猟兵資格の取得)やると、母が可哀想になる。みほがストップをかけ、なだめた。むしろ、空戦でも一流になれた事を褒めるだろうという。それはしほが娘たちにかけてしまった『期待に添えるように頑張らせる強迫観念』の発露であり、優花里には同情され、智子の憤激を買う理由であり、しほの不器用さが後で大事になり、隠居間近だった家元である、自身の母(みほとまほの祖母)が動くことになる理由であった。



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