外伝その249『露の衰退と日の中興3』


――日本の国会でダイ・アナザー・デイ直前期に問題にされたのはいくつかある。金鵄勲章と従軍記章問題(一番穏便と目されたのが、防衛記念章との統合論で、野党中心にあった)、日本郵船が要望した徴用船(既に空母改装済みも含めて)の再買い取り問題、海保がやらかした問題、また、空軍設立に伴う人事問題、黒江の労働時間問題である。その多くが日本側のやらかしに由来するが、空軍は扶桑海軍の方が研究に一日の長があったが、海軍という軍隊の本分を忘れていると批判され、戦略航空を海軍から『全て』取り上げる事で最終的な決着がついた。だが、この際の事務的手違いで空母航空団部隊の601空も取り上げられ、大パニックになっており、ダイ・アナザー・デイ中は事務手続きが停止される事で場しのぎが取られた。ダイ・アナザー・デイ開始秒読み段階の国家安全保障会議では、連邦化に伴い、扶桑軍の司令官級将校も参加しており、それに合わせて、統合幕僚長が正式に参加しており、扶桑での不穏な内部情勢が分析されていた――

――2019年 国会での説明がなされる前の日――

「困りますな、井上大将。扶桑国内の軍紀はどうなっているのです」

「ハッ…。1938年頃に在籍しておりました高官連中の決定でありまして。小官といたしましても、その頃の立場はそちらもご存知でありましょう」

会議に参加していた扶桑皇国軍関係者で大物である井上成美。当時は大将になっており、官僚的立場として、空軍移籍が内定していたが、この頃はまだ海軍大将として出席していた。井上は45年では大将だが、問題にされた時期はまだ軍務局長の少将であり、レイブンズは陸軍出身であったので、管轄外もいいところであった。

「それに、レイブンズは元々は陸軍軍人です。確かに当時から源田君と懇意にしていたのは知っていたが…」

「左様。本職も38年ではな」

山下奉文大将。元・大陸方面軍高官であり、陸軍軍人では『比較的まとも』とされる高官であった。ウィッチ世界ではレイブンズに目をかけていることで有名である。彼は航空総監経験者であり、レイブンズの軍事的価値を40年代初頭の時点では最も良く知っていた。だが、航空総監の要職にありながら、レイブンズのプロパガンダ政策に異を唱えなかった事が問題視されてもいた。

「プロパガンダは大本営陸軍部の管轄であり、本職の権限ではどうにもできんよ」

「しかし、プロパガンダ政策の誤りの責任は誰かに取らせませんと、示しがつきません。今後の戒めも兼ねての処分を当時の上官、それと関係部署の現在の長たちに下して構いませんな?」

「仕方あるまい。評議会で正式に決めてくれ」

現在にプロパガンダを掌る部署の責任者の給与自主返納が行われた他、関係部署の現在の長たちが続々と懲戒処分を受ける事になった。その大本と見なされつつも、報告はしていた江藤は『部下のスコアを操作して申告した』点が処分相当とされ、訓告処分と数ヶ月の減俸が最終的に国家安全保障会議で下された。もちろん、当時は若手の教育の一環として、全部隊の慣例であったため、今後の戒めと、その代表という形で江藤に代表される、当時の現地に展開され、なおかつ軍に留まっていた航空部隊の隊長経験者が処分を受ける事になった。(江藤の場合は詳細な個人戦果の未公表も査定でマイナスとなった。当人も激怒した若松に半殺しにされかかったために猛省し、自分が後年に空軍の要職についた後は、それまでが嘘のように宣伝に力を入れたとも。また、退役者も年金のマイナス査定がなされた)迅速に決定されたのは、野党が財務省に根回しして、財務省が予算をわざと削減させる事を避けたかったからである。このように、政治的統合も同時に進められたため、近代設備がある日本で重要会議が行われる事が多い。その過程でY委員会が扶桑で台頭し始めるのである。

「次の議題は海援隊の事についてですが……」

海援隊の装備の入れ替えに政府が介入したのは、海援隊の事実上の第二海軍化が決まったからで、海保の前長官の喚き散らしが海援隊の運命を変えたと言える。また、ウィッチ世界では、海援隊の象徴として長らく君臨した三笠(初代)を稼働状態にあるという理由で日本の世論が『買い上げ』を煽り、記念艦として買い取る事になり、海援隊の反発があった。既に三笠はオリジナルの状態で無くなっていたからだが、しかし、航空時代に前弩級戦艦と准弩級はもはや使い物にならない事も事実であり、その代替艦を用意する事で手打ちになる。(型式が巡視船であるので、それはそれで太平洋共和国が不安を顕にして問題になるが……)また、この時に扶桑ウィッチ出身参謀から出されていた信濃型航空母艦の誕生(結局は111号艦こと、甲斐も戦艦になったため)の見送りに対する設問への正式な回答文書もこの時に作成される。世論に負けたとは言え、大型正規空母の必要性は航空母艦戦力増強には必須とは認識されていた。その観点から、信濃に代わる大型正規空母をどうやって用意するのかという事になったが、基準排水量で45000トンから50000トンの正規空母を数隻、その上位艦を早期に自主建造という方向性を示すことで海軍を納得させるしかなかった。しかし、日本側の一部には空軍の増強での航空母艦無用論もあり、議論が伸び伸びになり、扶桑用空母の建艦は予定より遅れるのだった。結局、これはパイロット達や空軍高官達の『空中給油繰り返して長時間飛行後に戦闘とか勘弁だから空母で前線を押し上げてくれると助かるんだが』の一言で日本の無用論者と財務省が折れる形で決着する。その時点で1947年。もう戦は始まっていたのだ。

『奇襲攻撃とか特殊作戦なら我慢もするが、毎日、毎出撃ごとに空中給油とか神経持たんわ!』

この提言が顧みられたのが、太平洋戦争開戦寸前という時点で日本的組織のグダグダが表れていた。走路の長さや丈夫な舗装も必要だからコスパで空母、って場合も有るわけだが、日本はそれを理解しないものも多く、その辺は史実朝鮮戦争前夜のアメリカ海軍と空軍の勢力争いに似ていた。そのため、米軍も自分達の辿った歴史を日本がたどる様子を苦々しく思い、扶桑を助けていく。アメリカは統合戦争前の時間軸であれば、日本との蜜月を大事にするからであった。



――こうして、順番に重要議題が決められていく中、前線では、ドラえもんとクロによる映像の確認が続いていた。次元震パニックの事前確認のためだが、その中でこんな一幕が見られた――


――時間軸で言えば、レイブンズのBの全員が全員確認された後の事――

「〜〜……」

智子Bは悶々としていた。Bは引退から二年前後が経過し、年齢も21歳になっていた。当然、かつての技量は鈍りで半ば失い、剣を持つ機会も大きく減っていた。Aに比べると、若干ながら外見上の加齢が分かる風貌でもあり、14歳当時とさほど変わらぬ若々しさを保つAに驚くと同時に、事変での活躍が自分の比では無いこと、固有魔法が自分と全く違う事に驚いていた。また、若干怖がってる様子も見られる。それは温厚な桂子と真逆の気質になり、口調も荒々しい圭子との接触によるものだ。

「貴方、本当に桂子なの?」

「こっちじゃ名前の漢字が違うけどな。実質、名前が似てる別人みたいなもんだと思え。お前、新兵のタマゴ野郎どもみてーに何をブルってんだよ、アホ。飛ばねぇとヘタレなのは変わんねーな」

「貴方、煙草を?」

「バカ、喉の薬だ」

圭子は煙草型の喉の薬を愛用しており、智子Bの前にも、口に咥えて現れた。智子Bは桂子とキャラが全く違い、アウトロー臭全開で、ホットパンツとタンクトップ姿の圭子に圧倒されている。タトゥーも効果抜群であった。Gウィッチであるので、圭子は式典以外では服装は自由にできる特権を与えられている。そのため、とても将官とは思えない服装である。(ただし、この時は軍服を羽織ってはいる。服装を大胆に崩すため、生真面目な親と兄弟の大半からはウケが悪い)

「こ、怖がってなんか無いわよッ!それに貴方、まだ現役なの?」

「一時は広報に行ってたが、軍籍は手放してねぇよ。事変ん時に200以上落としたから、上が慰留してな。今は体の鈍りも消えたから、あん時と変わんねぇポテンシャルだ。それにそっちじゃ、電光であたしは有名だろ?」

「え、ええ」

「こっちは斧とか機関銃とか拳銃だから、ついた異名の一つは血塗れの処刑人さ」

「何よそれぇ!…待って、200って、どうやって落としたのよ」

「あん?斧とか機関銃とか、後は時々、ビームとか、ドリルとか」

「待って、なんか変なのが混じってたわよ」

「あん?どこがだよ」

「ビームやドリルよ!」

「あん?要するにだな、こういうこった」

ライガ様が使用しているのとほぼ同型のドリルアーム(と言う名の槍)、ゲッタービームランチャーを召喚し、構えてみせる圭子。この時代の技術では明らかに不可能なビームを撃てる装備である。Gウィッチとしての空中元素固定能力で用意したもので、事変では最終決戦や非常時などに活用している。

「な、何よそれぇ!?」

「ゴチャゴチャ騒ぐんじゃねぇ。実物だぞ、実物」

「ん!?…待って、い、今、空中で光ったと思ったら、デーンと!」

「あたしらはそういう能力持ってんだよ。事変ん時にも使った。当時は100式機関短銃もねぇから、火力がな」

「確かにそうだけど……」

ウィッチは基本的に、事変の頃には小銃、接近戦用の刀を持つ事が多かった。火力不足を補うためだ。ウィッチの人材と言う意味での黄金期であるレイブンズ〜クロウズ時代は火力と使い勝手の都合のせめぎあいであり、坂本が示した懸念が45年以降に現実となり、40年代後半に兵站の混乱が起こっている。40年代後半はまだ、精鋭部隊にしか重装備が行き渡っておらず、ジェットストライカーもMATとのバランスのために調達優先順位が低くなり、生産数が伸び悩んでいた。扶桑では優先的に一部の精鋭部隊に行き渡せる事でどうにか外聞を整えていたものの、大半は旧型が現役であったりする。

「ジェットの時代に入ったが、ストライカーの更新は実のところは上手く行ってねぇ。501にゃ見栄を張ったが、実のところはウチとあといくつかの部隊にしか行き渡ってねぇしな」

「どうして、そんな見栄を張ったのよ?」

「あたしらが個人単位で戦場を支えてた、なんて、先方が信じるか?世界最高と公称されてる集団でも、お前らの世界じゃ、巣を何個か吹き飛ばしただけだからな」

――A世界はウィッチ同士の内紛が勃発し、事実上、ウィッチの職分が分裂した。その結果、Gウィッチが軍ウィッチ組織の屋台骨にならざるを得なくなり、扶桑では事実上のウィッチ組織の支配層として君臨しだしている。これは数年間で吹き荒れた粛清人事と開戦劈頭の大量戦死と部隊ごとの移籍で軍ウィッチの頭数が大きく目減りし、第一線任務に耐えうる現役世代が軍から殆どいなくなったので、Gウィッチの部隊にあらゆる特権を与えて、太平洋戦争を戦っているのが現状なのだ。この時代(45年から太平洋戦争まで)はMATの勃興期であり、軍ウィッチ冬の時代であると後世に評されるように、軍ウィッチはGウィッチとその関係者達の血を吐くような努力で成り立ち、その外聞を保っていたに過ぎない時代であった――

「個人単位で戦場を支えるって……」

「あたしらはそれができた。上がそれを好意的に認識してくれたのは最近のことだけどな」

「どうしてそんなたいそれた事を…」

「輪廻転生って分かるか?」

「何よ突然」

「知ってるかって聞いてるんだ」

「仏教のあれでしょ?」

「あたしや綾香、それとここのお前自身はそれを掌れる存在になってな。そのおかげでウィッチとしての力に制限が無くなった。二度の死と生き返りを経て、不死身になった。言うなら、神様になったと思え」

「か、神ぃ!?」

「そうだ。お前にゃわりぃが、その時点で完全に別の存在になってるぜ」

圭子は口が悪い。B側の桂子が温厚な性格であるのに対し、圭子は数度の転生ですっかり初期のキャラをかなぐり捨てて、荒くれ者になっており、普段の勤務態度も良くはない。将官であるが、同期からは『あの兵隊ヤクザが将官?』と怪訝そうに見られている。しかし、元来の優秀な指揮官ぶりは健在であり、そのギャップも人気の理由であった。変わったのは、あくまで振る舞いと性格であるからだ。

「あのね、ネウロイのコアとか分かってるの?」

「有無を言わさない火力でぶち抜けば、問題はねぇよ。怪異のパターンは把握してるからな。二重以上のコアで生存率上げたのも出てきたから、中堅でも撃破が混乱になってきてるんだよ」

「二重コア……」

「ああ。欧州の激戦地には現れてる。そういう時には時代を超えた火力で当たるしか選択はねぇよ」

「時代を超えた火力って」

「ビームに誘導弾とかだ。誰しも剣や槍、斧で戦えるとは限らねぇしな」

当時、格闘用の武器は時代遅れとされ、扶桑ウィッチでも持たないものが多数派であった。だが、レイブンズがダイ・アナザー・デイからクーデターまでの流れで大暴れすると、一気に流れが変わった。この流れは後のミサイル万能論の一時の繁栄まで継続する。集団戦から一騎当千の個人の時代に逆戻りさせたという、集団戦重視の者たちからは復帰に否定的な見解もあった。だが、レイブンズの圧倒的な強さは幾度かの戦乱でウィッチに求められし理想像そのものであった。対人戦争が行われる時代になると、格闘用武器は一種の必要最低限の道具と見なされ、ダガーナイフなどが制式採用される。また、45年以降は増員で剣道経験者などの比率は下がっており、刀を扱えるウィッチは希少化した。その事もあり、サバイバルナイフなどが一気に普及する。ある意味、日本刀を使うウィッチは47年にもなると古風かつ、『古参の証』と見なされていた。45年に採用された軍刀はMATとの取り合いもあり、ほぼGウィッチとRウィッチが個人的趣向で使う以外には殆ど需要がなかった。古参の証とされるのは、剣としての性能は未来技術の使用で飛躍していたが、人員の倫理観や戦闘教義の変化で若手は軍刀を携行しないのを当たり前としていたからでもあり、注文をしたのは事変経験のある者が儀礼用としてだったり、事変を戦ったRウィッチやGウィッチが接近戦用武器として調達すると言ったもので、どうにも生産数は伸び悩んでいる。

「それもそうよ。若い子たちは私達の時代みたいに、剣を使って戦うわけでもないんだし」

「この世界じゃ、人同士の戦争がまた始まったから、そういうわけにもいかなくなった。いざという時のために、ナイフくらいは持たせてある。お前らを広報用の影武者に立てる案が出てるのは、負担軽減のためだ。あたしらの、な」

「は?影武者ぁ?」

「人同士の戦争で戦えるほど、お前らは肝っ玉がでかくねぇだろ。それに、元の世界に帰っても飛ばしてくれる立場でもねぇだろ、なぁ、智子?」

「何よその言い方。確かに軍籍はあるけど、空中勤務者からは外されてるもの。貴方達みたいに、年齢が20超えても維持してるのは物好きよ。でも、シールドの問題が解決できれば……」

「仕方ねぇよ。それが解決できても、ガキ共と政治抗争になっちまったのがこの世界なんだ。影武者になれるだけいいと思え」

A世界でG化した者は、45年から政治抗争に明け暮れているため、Bに比べると、シニカルな面が多い。それは芳佳であろうとも例外ではない。圭子はそれが顕著であり、レヴィとしての汚れ仕事もしてきているための冷酷さも見せる。目つきは完全に裏世界を生きてきた者特有のものになっており、そこも桂子との大きな違いであり、智子Bが怯える理由である。

「政治抗争って…」

「皮肉な事だけどよ、44年の終わりに、また別の世界の未来人達が介入してから、ウィッチの立場は危うくなってな。保身に走ったガキ共が多かったんだよ」

「未来人?」

「言うなれば、マッハ5でかっ飛ぶジェットや巨大ロボットが普通に使われ、宇宙戦艦が普通に飛んでる『23世紀』の世界だよ。そんな技術が使われてみろ。ガキ共にしてみれば、存在意義を奪われると早合点しちまうさ」

「き、巨大ロボ?」

「そこの窓を見てみろ。外に歩哨代わりにおっ立ってるロボが見えるぜ」

64の南洋島基地には、地球連邦軍提供のRGM-89Rが歩哨代わりに配置されている。64はこうした機動兵器の運用も任されているため、ジェガン程度はこうした使用法なのである。

「な、何よあれ!?」

「その世界で普及してるモビルスーツっていう機動兵器だ。下手な警戒装置の設置よりMSのセンサーでオートスキャンかける方が手間が掛からんし、コストもたいして変わらん」

ジェガンは23世紀では後継機や上位機種に押されて徐々に減っているが、まだまだ多くが稼働状態である。64も使用しており、Gウィッチを集めたのは、その目的も含まれている。

「航空基地なら、2〜4機で周回すれば良いし、乗ってる人間は警報が鳴るまで寝てても良い、管制担当に筒抜けだけどな。あれは型落ちしかけの旧型だが、戦闘用には第一線級の機種を使ってるし、その世界から取り寄せてる」

「パイロットはどうしてんのよ」

「あたしら古参が搭乗資格得て対応してる。ガキ共にはあういうのは荷が重いしな」

「古参ねぇ」

「お前がいる45年の中堅も、この時期じゃ立派に古参だからな?」

「そっか、ここは二年後なのよね」

「ああ。それに、ここだと人間関係も違うからな。特に三羽烏のメンバーだが、武子はメンバーじゃねぇぞ」

「それは聞いたわ。綾香とはこっちじゃ、大して付き合いもないのに…」

「いいか。あいつの前で粗雑に扱うようなところ見せんなよ。あいつ、頭に血が上る質で、切れたらビルの一個や二個は倒壊させんから」

「な、何よそれー!」

「説明するとなげぇんだよ、これが。あいつ、こっちだとトラウマで二重人格になってたくらいにショック受けた事があるんだ。その名残りで、『切れたら半径500mに近づくな』ってガキ共には裏で言われてる。それに、姉御の悪口をそっちの501とかのガキ共に言わせるなよ。そうなったら、お前たちじゃ手がつけられくなる」

黒江は基本的には天真爛漫さと冷静さが同居した性格だが、身内などを侮辱されると、ブチ切れる。圭子は智子Bが前史でゲドゲドにされたのを覚えているため、警告しておいたのだ。

「いいか、あいつは『メガトン級の爆弾抱えた万能戦艦』みたいな野郎だ。ガキ共に徹底させておけ」

「でも、502の子たちはどうするのよ」

「管野は孝美か西沢に押しつけろ。孝美自身は坂本をつかせる」

502の面々は最終決戦で転移に巻き込まれたので、雁斑姉妹含めての全員が転移してきている。その監視は西沢、孝美A、坂本が担当している。

「でも、他国の連中は?」

「エーリカとイリヤスフィール・フォン・アインツベルンに任せてある。ただ、サーシャの事は伏せてある」

「なんで?」

「サーニャ中尉の事は知ってるな?」

「え、ええ。坂本から聞かされたから」

「彼女と問題起こしてな。あたしが処理を担当したんだが、姉御の最終判断で、隊から追放されてる」

「追放?」

「こっちじゃ、オラーシャで革命が起こってな。失敗したが、彼女の両親は扶桑に逃れていて、その関係で彼女も亡命したんだがな…揉めたんだよ」

「揉めた?」

「ああ。詳しくは言えないけど、それであたしが仲裁したが、隊の火種になるからと、姉御が動いた。ジューコフ元帥を説得して、数週間の隔離の後に送還だ」

「あのイリヤスフィール・フォン・アインツベルンって子は?」

「カールスラントの古い伯爵家の名跡を受け継いだガキだ。まだ14くらいだが、才能あるウィッチだ。綾香が目をかけてるくらいの俊英だぞ」

嘘も方便だ。サーニャとイリヤは同一人物であるが、嘘のプロフィールを通告しておくのも諜報のテクニックだ。実際、サーニャとしての才覚にイリヤとしての思い切りの良さが加わっているため、以前よりスコアも増している。全てを明かす必要も無いので、『別人』として通告した。イリヤ自身もそういう風に振る舞っているが、一部の隊員には通告されてはいるので、箝口令が敷かれている。また、サーシャ自身の消息も伏せられている。ラルは自分がカールスラント空軍総監になった事は流石に信じず、笑い飛ばしたが、自分自身が元帥としてやってきたら、流石に顔面蒼白になったという。当時、カールスラントでは、シナプスの声明にも関わらず、イスラエル人などによる『ナチ狩り』が横行しており、反ガランド派が政治的謀略で軍籍を剥奪される事も少なくなく、最も人的損害が大きかった。カールスラントは第二帝政のままであるが、イスラエルや独の一部の人々は復讐心と贖罪と称しての無理な粛清を断行、結果的にカールスラント軍からバダン行きのコースをたどる軍人崩れが続出し、逆に彼らが現地から非難される事になる本末転倒な話になってしまった。因みに、ラルAは南洋島に滞在し、その『尻拭い』をしていて太平洋戦争の開戦に遭遇し、帰国できなくなったのである。因みに日本連邦は、『事後』にある種の予防措置だったと国内向けの声明を出し、思想面で問題無しとされた者たちには公職追放を解除している。ドイツ領邦連邦がその方向性を決めたのは、日本からの非難があっての事で、その辺はイスラエルも同罪と言えた。イスラエルはバダンの事はダヤンの時代から追っていたが、ノウハウ継承の失敗が政治的痛手となった。同位体でもいいから、存在意義を示す事。それが年老いたナチハンターの復讐心と功名心の原動力であり、イスラエル国家が政治的に痛手を被る理由である。ラルAは45年から47年にはこうした失態の尻拭いも仕事の内であり、二年間に装甲ウィッチから航空ウィッチに転科した者も多い。


「そう言えば、47年って、リベリオンのエース連中も」

「未来人の科学で若返ったり、、あたしらと同じ現象に遭ったりして、ある程度は現役に留まってるさ」

「どうして?」

「エースはそう簡単に出ないし、リベリオンは分裂してな。一部はこっちに逃げて来てるんだよ。その関係で」

シャーリーなどを例にしてもそうだが、引退しない者も多くなり、必然的に軍隊に骨を埋める者も増えていく。特にシャーリーは紅月カレンの姿にもなれるようになった影響か、気性の荒さも持つようになっており、黒江以上に二面性が目立ち初めている。キレると殺人も辞さない麦野沈利ほどではないが、シャーリーは美雲・ギンヌメールの優雅さ、紅月カレンの気性の激しさを併せ持つようになり、黒江からも「お前、俺より極端だぜ」とツッコまれている。実際、美雲・ギンヌメールの姿では落ち着き払った優雅さを見せ、紅月カレンの容姿になると、激しさを表に出すようになるため、黒江以上に分かりやすく変化する。ダイ・アナザー・デイ中に変身能力が増強した例として挙げるなら、この例だろう。




――これらの映像を見ているドラえもんとクロは、シャーリーがこれから、紅月カレンの姿になれる事を確信すると同時に、ドラえもんはシャーリーの深層心理を推理する――



「クロちゃん。シャーリー大尉はね。ボンネビル・ソルトフラッツに帰りたいんだろう。前、僕に『引退したら、ボンネビル・ソルトフラッツをかっ飛ばして余生送りたい』とか言った事があるんだ。それをパーにしたわけだろ、ティターンズの連中」

「でも、それだけで紅月カレンの記憶とかの覚醒のトリガーになるかしら?」

「おそらく、これから大尉は亡命先でなにかかしらの屈辱に遭うんだろう。それがきっかけでもう一個の自我が目覚めるんだろうな」

「屈辱?」

「多分、亡命者ってんで、なにかかしらの差別に遭い、日本のアナーキスト連中に目の敵にされたんだろうな。紅月カレンの経歴に一致しそうな出来事でありそうなのは、そんくらいだろう」

ドラえもんはそう推理したが、実際はもっと単純な理由で完全に覚醒する。ダイ・アナザー・デイ時は部分的な覚醒であったが、南洋を回避し、扶桑本土への侵攻作戦が行われる時に覚醒を遂げる。その時は負傷した状態であったが、雪崩込んだ記憶と意識の渦で自然と涙を流していたという。また、その際は負傷を押して侵攻の阻止をしようとし、『このまま扶桑が蹂躙されるのを黙ってみろっていうの!?』と叫んで、止める同僚らを振り切り、紅蓮聖天八極式のコピー機で出撃を敢行。しかし負傷で追い込まれ、東京に空襲に向かうB-36の機影に絶望し、泣き叫ぶが、初代ゲッターチームが颯爽登場し、助けてくれたとか。

「でも、シャーリーってゲッターロボとも縁がなかった?」

「何回か乗ってるし、隼人さんにも認められているからね。竜馬さんも可愛がってるみたいだし」

「ミチルさんは?」

「隼人さんが可能性を知覚したらしく、今回は光子力研究所に避難させとくってさ」

「博士は?」

「死ぬつもりだそうだ。いや、一つになるんだな、ゲッター線と」

「だから、『アーク』を?」

「あれが最後の遺産だそうだしね」

早乙女博士は自らの運命を知覚し、ゲッターロボアークの製造に心血を注ぐようになった。早乙女博士曰く、『お行儀のいいゲッター』らしいが、アークは真ゲッターロボ級の戦闘力とドラゴンの安定性を兼ね備えている。ダイ・アナザー・デイ時点では早乙女博士は既に死亡しているが、パーツは輸送済みであった。神隼人はその組み立て作業に入っており、実質的に最後の早乙女博士純正の新造ゲッターロボはゲッターロボアークということになる。

「でも、早乙女博士の意思は健在だそうで、隼人さんにドラゴンの覚醒を促したり、ゲッちゃんを竜馬さん寄りにしてるらしいよ」

「うへぇ。早乙女博士って、ある世界だと気狂いを装ってたりしてるくらいの策士だけど、橘博士とはどういう関係?」

「同じ大学の先輩後輩だって」

「ふーん」

橘博士とは、早乙女博士の後輩で、橘翔の実父である。隼人は彼の助手兼戦闘指揮官というポジションだ。因みに、敷島博士は兵器開発責任者であり、最近は自分を改造したと噂だ。

「でも、真ドラゴンの覚醒、早まってない?」

「仕方がないよ。ゲッター真ドラゴンが悪用されるんだ。それに強く弁慶さんと武蔵さんの意志が怒ってるんだろう」

「あのウザーラみたいなゲッターよね?」

「ああ。あれは数千から万の別世界のドラゴンが合体して成り立ってる個体だ。意外に繊細だから、ハッタリは効くんだけど、炉心の構造的に長期戦は向かない」

「どうして?」

「機能維持に膨大なエネルギーが要る上、複雑な変形だ。中でゲットマシンが数万以上変形するんだよ?炉心に負担がかかる構造なんだ」

ゲッター真ドラゴン最終形態は成り立ちを考えると、リソース容量的な意味ではあまり余裕がないと言える。万単位のGの集合体であるので、内部にある多数の炉心の同調などのリソースがいるため、意外に長期戦は向かない。オリジナルのドラゴンがそのまま進化した個体は大きさが通常サイズ+真ゲッターロボをも超越する基礎パワーという利点がある。隼人はオリジナルが進化する真ドラゴンを『決戦型真ドラゴン』と呼ぶが、対外的には『真ゲッターロボG』としている。

「パイロットはどうするのよ、鹵獲したら」

「號さん達が予定されてるそうだよ。それまでに機能不全に陥らせる必要ががあるけどね」

『ゲッターも某太陽炉と同じで束ねりゃ良いってモンじゃねぇよ』

「わお、竜馬さん。ブラゲで来たんですか」

『イタリアの敵は殺ったしな。あのウザーラもどきは解析して、隼人は一旦バラしてぇとか言ってる』

「どうやって?」

『オープンゲット機能はあるだろうから、元のドラゴンに戻すんだろうよ。中には損傷あるとか、機数が足りないところもあるだろうしな』

『万単位になるんじゃ』

『こっちのドラゴンに置き換えて、改良もできるだろうから、というのは隼人の言い分だ。実際に余剰の一機をとっ捕まえたが、スペックを落としてるところがあったらしいからな』

「どの辺が?」

『俺はチラッと聞いただけだが、装甲や炉心の規格をケチってるらしい。マスプロダクト化するには、増幅炉はいらねぇらしいぜ。隼人はよ、いい参考になった、回線を置き換えて、テストに回すとか言ってたぜ』

隼人は別世界のドラゴンの一機を鹵獲、改造して、自身の立案した量産機の参考にしたらしいと竜馬は述べた。それに着手する直前、強いゲッターエネルギーに反応した人工知能のスイッチが入ったが、既にオープンゲット機能や武器機能は封じていたため、拘束を引きちぎろうともがく珍しい姿が撮影されていた。なんとも言えない構図だが、最終的には拘束をなんとか引きちぎって逃走を図った。しかし、有人のネオゲッターロボに鎮圧された。AIをプラズマサンダーで焼ききったのである。その際に、ゲッター合金製の拘束を引きちぎったことから、拘束もより強度もある合成鋼Gに切り替えられたという。

「大変ねぇ」

『敵のゲッターを使うってのは大変らしーぜ。操縦系統も違うからよ。そこから解析したらしいしな』

隼人は竜馬には知らせていないが、そのドラゴンはゲッターエネルギーでAIが起動し、逃亡を図ったが、予め機能にプロテクトをかけたのが幸いし、ネオゲッターが捕縛したというハプニングもあった。

「あ、竜馬さん。よく空中でブラゲにそんなポーズ取らせられるわねぇ」

『ゲッターウイングは大気圏内だと反重力作用があるからな。空中であぐらかけるぜ』

「でも、その姿、ずいぶんワイルドねぇ」

『ガキ共には怖いって言われるけどな』

「基本の素案が竜馬さんなんですよね、それ」

『敷島のジジイにゲッター1の再利用法のアイデアは前に出してたからな。隼人が俺に用意していたんだよ。変形は外したから、頑丈だしな』

「一人乗りでなんでそんな強いのよ」

『隼人曰く、俺はゲッターに愛されているから、だそうだ。炉心のパワーもドラゴンのレベルになってるはずはないらしいしな』

「新のほうのゲッターが似合うわよ、貴方」

『シャレにならねぇぞ、それは』

「テーマ曲、HEATSってより、DEEPREDか、DRAGONがあいそうですしね」

何気に竜馬の可能性に触れるクロとドラえもん。竜馬は個人的にテーマ曲は『STORMだぜ』と言っているが、それらのほうがお似合いと言われるあたり、流竜馬の性格の表れと言えた。

『いや、ここは今がその時だ!!な気分だな…もう学生ん時みてぇに『ゲッターロボ!』で戦うような年でもねぇし』

この時、竜馬は成人を迎えていたので、僧兵姿でブラックゲッターを動かしている。学生時代のように正規パイロットスーツで戦ってるわけではないのもあるのか、多少は加齢を意識しているようだ。

「そう言えば、貴方、パイロットスーツ着てないって隼人さんから言付けあったけど?」

『呼ばれてそのまま来たしな。実家で使ってる服装で来た。ガキ共はブルるだろうよ』

「なんで僧兵なのよ」

「俺の実家、古い道場でな。親父が死んで受け継いだんだよ。妹ももう死んだからな」

竜馬には妹が一人いたが、竜馬が中学進学間もない時期に事故死しているため、それで父親が狂気に奔り、殺人空手を仕込む様になったという。

「妹さんがいたの?」

『俺が中坊になるかなんないかの頃に、俺の目の前で車に轢かれて死んじまったがな。親父がそれで狂っちまった。俺が空手を仕込まれたのはそこからだ』

竜馬は可愛がっていた妹を事故という不可抗力で失い、それが家庭の不和のもとになったという不幸を味わった事を赤裸々に告白する。後に恐竜帝国のスパイが竜馬を狙って起こそうとした事が判明し、竜馬は激昂した。その怒りこそが学生時代の爽やか好青年という雰囲気をかなぐり捨てるきっかけとなったりする。竜馬の妹はジュンといい、母親似の心優しい少女だったが、間接的に恐竜帝国に殺害されたとわかり、竜馬は少しづつ性格の基本が変わっていった。現在の荒武者的な性格は青年時の父親そっくりとのこと。

『お前らを見てると妹を思い出すんだよな。クロ、特にお前だ。ちょうどお前よりちょっとちいさいくらいで、親父も可愛がっていたからな…』

竜馬も心のどこかでは亡き妹の事で傷を負った事を吐露したいという人間性がある。一種のセンチメンタリズムだが、戦闘狂とされる竜馬がトラウマにしている、家庭崩壊のきっかけである実の妹の理不尽な死。妹の面影をウィッチ達に重ねているらしい事を示唆する。竜馬は戦闘狂とされるが、意外に繊細な面がある。家庭崩壊から逃げるように浅間学園に入り、サッカー部に入ったのも、妹の死を意識しないようにしたいという理由であり、意外な学生時代であった。また、クロに似ていたというあたり、生前の妹はクロのような性格だったのが分かる。無敵と称される竜馬が唯一、守れなかった者が実の妹であったのは竜馬の運命を考えると、皮肉であった。逆に言えば、妹の存在が竜馬の良心であるとも言え、死と引き換えに、ゲッターに愛されし者である竜馬のその後の人生に影響を残したと言える。他世界よりもゲッターエンペラーの思考に『人間性』があるのは、彼女が願っていたモノを守るという行動原理がゲッターエンペラーの意志に大きく作用しているからかもしれなかった。また、竜馬は妹の生きた地球を愛し、守るという事を次第に自覚し、また、ウィッチ達に妹の面影を見た事で輪廻転生を信じるようになり、武蔵に続いて、弁慶が行方不明になり、追い打ちをかけての両親の死で一時は荒れていた性格も徐々にだが、落ち着き初めるのだった。



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