外伝その250『対立と可能性3』


――日本では、新領土獲得で自衛隊の規模を大きくしなくてはならなくなったという事実を認めない左派勢力による抵抗が続いた他、扶桑軍より自衛隊を『上位』にするローカルルールを作ることをゴリ押しするなど、露骨さが顕になった。これは三自衛隊の数倍の人数がいる扶桑陸海軍に飲み込まれるという強迫観念によるものでもあり、『階級による上下は認めるが組織上端での権威は同格、さらに上位の連邦軍によって統制され、扶桑単独の暴走は許されないし、翻って自衛隊の優位もあり得ない』という見解に納得しない者も多かった。しかし、実際にそれをして倒されたのがティターンズなのだ。それを知る扶桑軍高官から皮肉られる状況であった。また、ダイ・アナザー・デイの開始寸前にMATがウィッチを大量に持っていった事、国内が不穏な事から、ウィッチ兵科は虫の息であった。特に扶桑では、科学至上主義気味な日本により、ウィッチへの疑義が呈され、更に10代半ば以下を戦線から下げる決定もあり、ウィッチ部隊の数は見る見るうちに低下した。怪異対策が少なくなっていたのも拍車をかけた形であり、必然的に既に最低でも17歳以上であるGウィッチやRウィッチで戦線の維持を図るしかなく、特に強力なGウィッチには『特権』が次々と授与されていった――



――ダイ・アナザー・デイ中には、戦線の中核を担うGウィッチ達には特権が授与された。ひとえにウィッチ兵科存続のためだ。たとえ、国内で内紛が起きようと、日本がウィッチの居場所を消すような事は阻止せねばならないというのが山本五十六、ひいては当時には死期が迫りつつある米内光政の意志であった。ウィッチ兵科は米内の先輩にあたる、竹井退役少将が現役中に尽力して生まれた兵科だ。いくら近代兵器に比べての費用対効果に優れる言っても、元々、定期的に練度のリセットがかかる上に、全体的な質の均一性は低い兵科なのだ。また、当時は世代交代が進んでいた時代であったので、日本は部隊の人員が一気に高齢化してしまうリスクを犯してしまったと言える。若手を下げた後、残された部隊の人員は最低でも、あと一年半で衰えが始まる17歳以上。国内情勢の悪化は施策の失敗も大いに絡んでいる。しかし、日本は15歳以下は前線に出さないというのを軍紀に明記したため、窮した扶桑軍はその中でも特異と見なされたレイブンズと、それに深く関係する同類と見なされた者たちに縋るしか方法がなかった。当時、現役当時と変わらぬ力を行使できるウィッチは彼女達が代表例であり、扶桑では異端視され、迫害さえされていた。だが、ダイ・アナザー・デイでその立場が変わり、ウィッチの権益の守護神と掌返しを初めたのだ――


――ダイ・アナザー・デイは奇しくも、Gウィッチが政治的にウィッチの立場保全に役に立つ事が連合軍全体に知れ渡った。Gウィッチは転生者でもあり、レイブンズのように、その特異性が迫害のもとになった事を受け、カールスラントに出現していたGウィッチはそれを隠してきた。徐々に数が増えていったGウィッチはそのリーダー格であるレイブンズが覚醒しきった後に公然と活動を開始。ミーナが覚醒の遅れを後悔したのは、人事的失点が一回の大きな戦闘程度では挽回しきれないほどであったからだ。ダイ・アナザー・デイ時点では、お互いの出身国を超えたコミュニティが成立しており、表向きは『ガランド学校』という連合軍内部の軍閥を装っている。基本的にGウィッチとRウィッチの相互幇助組織であるが、ダイ・アナザー・デイの時期になると、ガランド派とほぼ同義に見られた。黒江達はその一号生という事になっているが、事実上は派閥の領袖に等しい。その黒江達に仕える事実上のナンバー2は黒田である。ナンバー3がハルトマンであるあたり、折衝能力でGウィッチ内での地位も変わることの証明である。これは特別顧問枠の二大扶桑最古参を除くと、軍隊内階級と年功はあまり関係ないのが分かる。孝美が青二才扱いなのは、Gウィッチとしての活動日数と、転生前に生きた歳月によるものであり、絶対魔眼の多用の後遺症で比較的短命だった(黒江によれば、60代後半で死去とのこと)からだろう。また、前史で一騒動を起こしたのも大きいだろう。ドラえもんとクロの確認作業も次の段階に入り、事務作業の映像に入っていた――

「さて、事情聴取に入らせてもらうぞ、雁斑大尉」

「あの、西沢さん。これはどういう事ですか?それに貴方は飛曹長では?」

「馬鹿、それはお前が知ってるあたしだ。このあたしは特務少佐だ」

「し、失礼しましたぁ!?」

声が上ずる孝美B。扶桑海軍では特務士官は兵隊の元帥のように見られ、ウィッチでも古株の証とされたからで、西沢はB世界での自由奔放な性格と打って変わって、A世界では同位体の影響も受ける形で特務士官に任官後は同輩には『貴様』、『俺』なども普通に使うようになっている。また、A世界では、それまで不文律的な慣例であった『特務士官はとにかく偉い』が明文化されたので、特務佐官は下手な兵学校卒の佐官より上に位置づけられている。西沢は空軍に移籍しても、海軍出身であるためと、元々、海軍兵学校卒ではないため、個人的に特務士官と名乗り続けているのだ。

「ここは貴様の知る世界とは別の世界だ。従って、ここにはお前自身がいることになる。遺伝子学的には『同じ姿の別人』だから、会う分には構わん」

「西沢さん。あの、何故、貴方はこの時代でも現役なのですか?」

「あたしはもう普通のウィッチと違うカテゴリのウィッチになったからな。それに、貴様も聞かされたと思うが、この世界じゃ、ウィッチの摂理はもう昔の話になり初めたし、海軍の不文律も多くが変わったからな」

西沢が言及したのは、海上保安庁が問題にしたので、特務士官と士官の関係が殆ど逆転した事(特務士官に頭が上がらない兵科士官の構図が当たり前になった)、また、海上保安庁からの外圧で扶桑海軍にあった不文律の多くが消えていき、士官が下士官以下の揉め事の仲裁をすることが義務付けられた事から、その気苦労を嫌い、士官のなり手が減った事(そのため、空軍士官が海軍の揉め事を仲裁することも当たり前となった)、粛清人事で佐官や尉官級の士官の層が空洞化したのも、海軍空母機動部隊の再建の熱意に日本側が冷淡だった理由でもあった。

「西沢さん。それじゃ、私自身も?」

「今は古参ウィッチは陸に降りるどころの話じゃない。お国の一大事だ。そんな時に郷里で芋作れるか?」

「た、確かに」

「この世界は銃後の人間達がその気になれば、内閣の一個や二個は潰れるし、軍のお偉方のクビが即座に飛ぶ時代を迎えてる。言っておくが、影武者になる仕事を引き受けるからには、とにかく愛嬌を振りまけ。ここのお前自身の査定にも関わるからな」

黒江達が正式な現役復帰から心を砕いている事項が『一般国民に愛嬌を振りまく事』で、ブルーインパルス在籍経験者の黒江は、それをいやというほど知っている。クーデター軍は『一にも二にも訓練!銃後になど一切媚びるな』な時代錯誤な思考だった者達の集まりだったので、徹底的に解体されたのだ。また、日本は過去のトラウマで、将校に政治よりも戦闘面の優秀さを求めてしまったため、官僚タイプの軍人が出現し難くなってしまったりする。(自衛隊の幹部自衛官と背広組達がその代行を務める事が多くなる)。そのため、扶桑で45年から出世するタイプの軍人は『戦国武将』タイプのオールマイティーな才能を持つか、戦闘面で優秀か、であった。古賀峯一などは『部下に冷たい』などという理由で嫌がらせを受ける始末だった。そのため、正規士官という身分が特別視された海軍の風習は強い外圧で葬り去られていく。また、正規将校も同位体の振る舞いと比較され、それに苦しむ者も多かった。傲慢な人物という評があった小沢治三郎、戦術的に無能な浮気野郎とされた山本五十六、学者でしかないとされた井上成美など、『良識派』であった人物でも例外ではない。井上成美などは極端な航空主兵論が原因で移籍を勧められて、海軍を不本意な形で去ることになるなど、人事的弊害も生じた。また、この弊害は各国ウィッチも苦しめた。メタ情報で事前に回避が成功した坂本はともかく、フーベルタ・フォン・ボニンは自らの『空では撃墜数が正義だ』とする発言を邪推された挙句の果てに、真意をマスコミの目の前で説明する羽目となったし、武子とて、小説では智子を左遷させた張本人とされた事からの誹りを受ける羽目になり、戦隊長としての最初の試練に直面していた。武子は覚醒後は覚醒前の行動を後悔している節があり、覚醒前は意に介さなかった個人戦績も、現在はできる範囲で懸命に伸ばすなどの行動を取っている。また、皇室に取り入って出世し、レイブンズを激戦地に追いやった一人という陰口に心を痛めていたため、『できるなら』と但し置きをしつつ、政治的な昇進でなく、自分の実力での昇進を望むなど、その実直さに磨きがかかった。このようにマスメディアの攻勢に嫌気が指し、Gウィッチに大手マスメディア嫌いとなる者が続出し、広報戦略に支障を来すことになる各国軍の広報部を悩ませた。そのため、人当たりのいいハルトマンがスポークスマンとなる必要があったのだ。

「今の時代、マスコミ連中に下手なこと言ったら、コネが無い限りは王室の身内だろうが、破滅だ。黒江の姐さんのコネのおかげで加藤の姐さんを助けられたように、口は災いの元ってのを覚えておけ」

西沢もハルトマンや黒江を通して、当たり障りのない広報向けコメントを発表することがある。また、天真爛漫なBと違い、年齢相応の振る舞いも見られる。実際に、そのマスメディアの攻勢で精神バランスを崩した一番の大物がマウントバッテン伯爵(ヴィクトリア女王の曾孫で、史実では戦後、帝国の失墜に一枚噛む形であった日本に恨みを抱いていた)であり、彼は史実と異なる情勢である故に、扶桑(日本)への悪感情は抱いていなかったが、同位体の悲劇的な結末と、日本への個人的な恨みをくだらない人種差別と批判された。もちろん、それは彼個人には関係ないのだが、彼には打つ手がほぼなかった。しかし、友人が扶桑の山下大将であった幸運による、彼からの擁護で療養に追い込まれた程度で済んだ。この時に、従兄弟であるニコライ二世の三女「マリア」との関係を深めた事から、同位体の願いを叶えたと言える。(孫たちと共にテロで爆死するよりはマシか)また、ブリタニア王室も民衆の反感を買えば、ニコライ二世一家やマウントバッテンが多くの世界で味わう悲劇を自分達が味わうことになるという恐怖を懐き、イメージ戦略を第一にしだすなど、大きな影響を残し、扶桑の昭和天皇が嫡男への譲位を考えだすきっかけにもなる。孝美Bはこれ以後、元の世界で自分が妹に向けた言葉を気に病むようになり、滞在中の期間、自分自身を含めたGウィッチ達の背中を追っていくことになる。



「――で、他に、ナオはどうなの?」

「菅野大尉は…あれだね。ちょっと大尉の名誉に関わるね。いつものパターンだよ」

「ああ、どーせ、アヤカにライトニングプラズマ食らわせられたんでしょ」

「いや、ライトニングフレイム」

「ブフォ!!あの馬鹿、何したのよ!」

クロが呆れたのは、菅野の同位体である管野直枝が黒江を怒らせ、ライトニングプラズマの最終形態『ライトニングフレイム』を浴びたらしいことだ。菅野はどの世界でも基本的に口が悪いので、ロートル、とっくに引退したご隠居などと宣っただろうとは想像がつく。B世界では基本的に世代を超えての先輩後輩関係は希薄であったため、仕方がないが、相手が悪すぎた。その瞬間の映像は赤い雷が焔を伴って空間を照らし、ロスマンBが顔面蒼白で『やめてください!殺すつもりですか!?』と悲鳴をあげて取り乱している。シールドをフルパワーにしても防ぎきれなかった管野は圧倒的な恐怖に打ちのめされ、泣いていた。

「やめてください!殺すつもりですか!?」

「精神的にはな。肉体的には殺さねぇよ。年長者をバカにしちゃいけねぇな。相手の実力も読み取れねぇ、タマゴ野郎がナマ言うんじゃねぇよ…ってか?」

「おい、生意気なヤツは『はい』か『イエス』か『ウィ』か『シ』か『ヤー』か『ダー』しか言えない様にしてやろうぜ」

黒江が放ったライトニングフレイムはまさに神の所業のような現象であり、黄金聖闘士としての実力の裏付けである。同席していた圭子もこのセリフだ。

「アーク放電(電弧放電)を使って、雷撃と同時にそこから巻き起こる超高電の焔を打ち込む技だ。本気で撃ったら、一瞬でロンドンくらいは塵にできる」

アーク放電を操り、管野を完全にノックアウトした黒江。管野はうわ言で『かほる姉さま、助けて…!』と言っており、A世界よりシスコンである事を垣間見せていた。

「どういうつもりなんですか!ナオちゃんの心を折るつもりですか!」

「そう熱り立つなよ、伯爵」

「何故、それを!」

「ここにはお前自身もいるからだ。ナマ言ったガキにお灸を据えただけだよ、お灸を。お前、空戦で俺とやり会える自信があるのかね?」

「あたしにやらせろ。ハルトマンから調教してくれって頼まれてたんだ」

「ボクはあなた達に相当する三羽烏の噂を聞いてた世代です。なので、手加減できませんよ」

「ハン、良ければべットの上で相手してやろうか?戻れなくなるぜ?」

「ケイはテクニシャンだからな」

これである。アブノーマルな匂いプンプンな挑発だ。模擬戦がすぐに開始されたが、ベテランである伯爵も、マルセイユが頼りにするほどの手練である圭子が相手では、Bf109Gの性能を熟知されていたのと、五式戦闘脚の機動力に翻弄され、劣勢になっていた。

「ボクの動きが読まれる……!?ねちっこく性能限界までついてくる…!」

「わりぃな。あたしはティナの面倒を見てるし、それは使った経験があるんでな」

「なっ!?ハンナを知ってるの!?」

「ここじゃ付き合いが長い部下なんでな」

圭子は伯爵の視界からふっと消え、背後を取る。そして、『テクニシャンの一端』を垣間見せるボディタッチを敢行し、伯爵は恍惚状態に達する。圭子は裏稼業のため、新宿にある中野学校御用達の風俗店でバイト絵し、わざわざ変身して特訓した。当然、その方面の相手もし、そこでイロハを身に着けた。そのテクニックは迫水ハルカが太鼓判を押すほどの精度であり、伯爵はあられもない声を発し、恍惚状態に入る。模擬戦にかこつけてのいたずらであるが、周囲に気づかれないようにやるのも、テクニックの内だ。

「どうだ、伯爵?」

「お、おぉう……さ、最高…じゃなくて!マジックブースト!」

伯爵は固有魔法のマジックブーストでストライカーを瞬間的に加速させて拘束を振り払い、反転して圭子に一発当てようとしたが。その一撃離脱も音速を遥かに超える世界にいる圭子には『ウスノロ』であった。

「へえ。中々のスピードだ。だけど、おせぇよ。0コンマの世界を見せてやるぜ!」

ストライカーを自分から外し、本気モードである『ゲッター線』モードに入る圭子。巻いていたマントが拡大し、リベリオンのスーパーヒーローのような状態になる。目つきも瞳が渦巻き模様になり、周囲のゲッターエネルギーに干渉し、薄緑色のオーラを発する。そして、見ていたウィッチ達を驚天動地に追い込んだのが、下腕部を何かの膜で覆ったと思えば、それが一瞬で実体の金属製ドリルに早変わりしたというところだろう。ゲッター線の使者化しているのが圭子の特徴でもあるので、ゲッターロボの技を空中元素固定無しに、自前で使えるのだ。

『ドリルロックバスター!』

この時はプラズマドリルハリケーンとの併用で使用したドリルロックバスター。伯爵はハリケーンとドリルで攻めかかられる予想外に反応できず、直撃を食らう。最後にドリルでどつかれるのであるが、あまりの痛さで意識が飛びそうになる。

『さて、決めるぜ!暗黒乱舞ぅ!』

回し蹴り二発を決め、左腕のアームビームガンを接射し、最後に拳による乱打で締めるブラックゲッターの敷島博士案の個体の技である。格闘を重視しないカールスラントのウィッチである伯爵はこの予想外の連続に対応できずにノックアウトされる。ロスマンBは完全に茫然自失であり、サーシャBに至っては腰を抜かしている。

「やれやれ。これくらいでブルっちまうたぁ、情けねぇ。もうちょい根性見せたらどうだ、えぇ?」

圭子は体のあちらこちらをゲッター化しているため、左腕にはアームビームガンがついていたり、マントがゲッターウイングになっている。完全にウィッチではなく、人間サイズのゲッターロボと言える状態だ。ゲッちゃんと違う方向性での。ゲッちゃんが泣きそうなくらいのゲッター化である。

「ケイ、ブラゲ以外のゲッターの力もできんだろ?」

「ネオと號以外はな」

そう言って、ウイングをマッハウイングに変形させ、肩をゲッターロボGと同型の装甲で覆う。得物の見本に、真ゲッターロボのトマホークランサーを構える。完全にハルバードだが。

「それはドラゴンには合わねーんじゃね?」

「ダブルトマホークだとインパクトに欠けんだろ」

真ゲッターロボタイプのトマホークランサーはハルバードと言っていい形なので、ハルバードですか?とツッコまれる。圭子がこの力を使ったのは数える程度だが、決定打を持つため、割に真ゲッターロボやゲッターロボGの力を好む。シャインスパークやストナーサンシャインなどの決定打を持つ兵器が扱えるからだ。

「よく言うぜ。いざとなればストナーかシャインスパークで半径20キロくらい消し飛ばせるくせに」

「お前がいうか?」

「あ、あのぉ、なんですか、その会話」

「おねーさん方の可愛い会話だ、ニパ」

「どう考えても違いますよね!?」

ツッコむニパB。しかし、実際にA世界の今回における事変最終決戦ではゲッター線の使者としての本分を見せつけ、存分に暴れている。この時の様子が血塗れの処刑人の名の由来の一つであり、モンティは知っていたのだ。智子が光子力、黒江が双方の間、圭子はゲッター線の使者としての側面を持った今回は前史以上に極端な戦果が出ている。特に圭子は元来はガンファイト派であったので、肉体がゲッター線の求める水準についていけず、かなり無理を強いた状態であり、それが肉体保護のための封印がかかった理由である。黒江達も同様であり、肉体が相応に成熟し、頑丈になるというのも、三人の覚醒条件だった。また、強大なゲッターエネルギーに一気に慣らすことは自殺行為であり、武蔵の自爆の寸前、肉体が溶け始めていたのがその証明である。これは人間の肉体の耐久限界を超えた変容が起こってしまうからで、人の精神力の強さもねじ伏せる条件である。

「あたしはウィッチとは別の力を持つ。その証明をしただけだ。これが上が隠したがったあたしの本当の力さ」

「強すぎる!伯爵を一瞬で…!」

「おっと、だからって、異端視か、ロスマン?お前だって、平時の基準だと弾かれてるはずだが?」

「そういうわけではありません。ウィッチとしての力のあり方は人それぞれのはずです。あなた方はあまりに強すぎるからこそ、周囲が妬んだと、私は考えます。通常は3、4人の連携で倒すのがやっとな大型も、貴方方の力であれば、一撃ですよね。それに基礎的な火力が違いすぎる」

ロスマンBは冷静に分析した。それはA世界では珍しい光景であった。A世界では、強大すぎる力が反発を呼び、ついには政治抗争に発展してしまい、軍部とMATで別管轄扱いになった経緯があり、軍ウィッチは日本による粛清人事の影響もあり、戦線の主力が古参、Gウィッチ、Rウィッチに変貌してしまった。本来はあくまで現役世代を主力に、かつてのエースであった者を最後の切り札として使うのが軍部の目的であったが、その目論見は儚くも崩れ、ウィッチ同士の政治抗争の果てに、そのエース達を主力として用いるしかなくなったのがA世界の状況なのだ。

「それがそうならなかったのが、この世界だ。二年前(45年)に俺たちは正式に復帰した。力が完全に戻ったし、上も俺たちの威光でどうにか組織を維持したい意向だったしな。だが、2年前に中堅以下だった世代が猛烈に反発してな。連合軍全体を揺るがした。で、一大防衛作戦で俺たちがトンデモ戦果を挙げたら、うちの国で内乱になっちまって、いくつかの平行世界に大恥を晒しちまった」

A世界では、扶桑の内乱が結果的に日本の政治勢力の非公然な介入を招き、軍ウィッチは本来なら高年齢になる年頃に初陣になるというサイクルに変わってしまい、前線の人手不足が顕著になった。本来、先輩後輩関係が希薄気味のウィッチ界隈では、GウィッチとRウィッチには明確にある年功序列の関係は異端視されたのである。管野は元々、孝美を崇拝するため、孝美より先任のエースに大して興味がなかったのが不幸であった。(智子のことは一目置いていたが、黒江の事はご隠居のテスパイさんと小馬鹿にしたため、ライトニングフレイムを食らったのだ)

「管野さんは?」

「半日は起きねぇな。言っとけ。年上には敬意を払えってな」

「管野さんは元々、雁斑中尉を強く慕っていたんです。だから、中尉を『青二才』というのに我慢できなかったと思います」

「西沢に後で叱ってもらう。こっちの西沢は中々の曲者だからな」

黒江から見れば、孝美は青二才である。孝美もA世界では前史の事もあり、黒江に従順であるため、管野(A世界での菅野)からすれば、『ご隠居にへーこらするな』と言いたかったと代弁するロスマン。だが、A世界のレイブンズは人知を超えたレベルに達しており、後で菅野は同位体である菅野(この時点では空軍大尉)に『馬鹿だろ、お前』と突き放されたという。

「ロスマン、お前ン所の俺だって、シールド張れなくても、このガキに遅れをとる様な腕じゃねーよ。魔のクロエって言えば、坂本の代はブルったもんだがな」

「ああ、思い出した。一時、505にいた古参の…!貴方の事だったのですね」

「ここじゃ他に、『ミスティ』、『大物食いの綾香』でも通ってるけど、魔のクロエが欧米で一番通りがいい」

黒江は記憶が封印されていても、元からエース級である。覚醒後はミスティという異名が自衛隊/米軍経由で有名になり始めているが、魔のクロエが同位体との関連的にも国内では通りがいい。そのため、21世紀で付き合いがあった戦友会の老人たちは黒江の誘いで、皆が義勇兵になっている。その名の通りがいいのもそうだが、A世界では押しも押されもせぬウィッチ界隈の大物であるため、B世界の一テストパイロットに過ぎない立場とは真逆の『ウィッチ界を牽引するエースパイロット』である。B世界ではもはや戦線には立たないというのが再雇用の条件だが、A世界では強大な力であるが故の辻褄を合わせるために、『事変から一貫して現役である』と人事書類が書き換えられており、黒江達が一度引退した事実は闇に葬られた。しかし、それはミーナが覚醒前に冷遇した事を受けての策であり、些か遅きに失したと言わざるを得ないが、源田実がそれを主導している。45年8月、山本五十六の指示でレイブンズの人事記録は改変され、黒江と智子を中心に書き換えが行われた。因みに、ミーナが覚醒前に最後に確認した記録は改変後のものである。それがミーナを覚醒に至らしめるトリガーの一つである『ストレス』の原因であったりする。

「人事記録そのものも書き換えないと、辻褄が合わないからよ、当事者でないとわからないようになった。ガキ共との抗争を避けるためだったが、結果としちゃ、却って煽っちまった」

現役世代とレイブンズとその直近世代の対立は抗争となり、後者の勝利となった。MATはあくまで『日本国の害獣駆除組織』であるため、扶桑で起こる災害には出動しないという規則があり、それに失望した者が任期満了と共に軍にUターン、あるいは新規志願するケースが更に数年後からであるが、次第に増大する。これは二代目レイブンズの時代におけるMATの衰退理由にも繋がる事である。

「だから、あたしの力の源になるエネルギーを使う別世界のスーパーロボットとかが出張る必要が出てきた。その内の一体に来てもらった」

「その内の一体?」

「ああ。あたしらの友人達が乗る機種だ」

それからややあって、真イーグル号、真ジャガー号、真ベアー号が飛来する。二代目ゲッターチームの駆る真ゲッターロボである。ウィッチ世界が47年を迎える頃には、真ゲッターロボは二代目ゲッターチームが乗っているのである。初代ゲッターチームもその頃になると、真ゲッタードラゴンの復活で再結成に成功したので、真ゲッターロボは割に自由に呼び出せるようになったのである。

『チェーンジ!真!!ゲッタァアアワン!!』

三機の戦闘機が物理的にどうなの?という合体をし、身長60mほどの巨大ロボへ変貌する。コウモリのような翼をバサッと広げ、大柄のハルバードを持つその姿は悪魔を思わせる。

「アレな、粘土みたいに変形しただろ?外装は一枚板じゃなくてナノマシンって分子単位の可動部を持つ粒子の集まりをエネルギーでコントロールしているから必要な時に必要な大きさと形状に展開できる便利な代物なのさ」

「すごいものですね…」


「上出来だぞ、號」

『んなもんでいいか?幾何学的機動でも見せっか?』

「あんま刺激がつえーと、ガキ共が泡吹くかんな。そんくらいでいい」

60mはあるスーパーロボット。未来世界ではこれでもまだ通常サイズに入る。(量産型ではラインの再建途上にあるシズラーシリーズが最大)真ゲッターロボはドラゴンまでと違い、量産は元より意図しないワンオフモデルであり、更に自己進化も重ねるトンデモなスーパーロボットである。破壊力からして、平時には嫌われ者になるスーパーロボットの筆頭だが、有事には頼りにされる。

「これがゲッターロボ、初代はともかく、G以降は戦うために産み出された飛びっきりの悪魔のマシンさ、人の心が乗っているから人の愛の為に戦えるのさ」

「こんなものが使われるくらいにウィッチの立場は弱くなったってことですか?」

「お前らの世界とは関係ないが、この世界だと、そうでないと闘いにならない敵が現れた。次元を超えてな。それで人同士の戦争に立ち還ってしまったから、ウィッチとして本来は必要な若さよりも、経験と年齢が尊ばれるようになった。つまり、あまり若すぎても困る時代になったから、前線に出られるのは17歳以上になった。だから、異次元の超科学で肉体を若返らせて、軍務につけさせるのがベターになり始めたんだ、ひかり」

「私のこと知ってるんですか?」

「知ってるも何も、部下だよ、お前」

「えぇ!?」

「どういう事ですか、准将閣下」

「つまりだ。うちの隊は特殊な経緯で編成されたが、孝美が前世の記憶に目覚めたんで、いじめとかも考えられてな。若手も必要だからという事で配属させたが、接触魔眼の活用法も確立できたから、偵察分隊に回してる」

『で、いざという時のために俺たちが来てるわけだ。真ゲッターなら、どんな怪異も敵じゃねぇしな』

「真…ゲッター……」

『真ゲッターロボ。ゲッターロボでも特に強力な機体だ。数あるスーパーロボットの中でも高位に位置する機体だ。これ一機で怪異くらいの巣なら一撃で吹き飛ばせる』

橘翔がいう。真ゲッターロボは惑星を破壊できるゲッターである。100%のパワーなら、敵を取り込むことすら可能であり、たとえ、マジンガーZEROが再臨しようと立ち向かえるスペックがある。そんな力を持つマシーンが使われるため、GウィッチやRウィッチなどの経験豊富な者でも無ければ、戦場で存在感を出せなくなったというのは本当である。黒江と他数人の持つエクスカリバーはまさにウィッチを守護する『光』なのだ。

「私達、いえ、この世界の……ウィッチはこんなすごいロボットとかに囲まれて、戦場にいる意味はあるんですか?ウィッチがいる意味なんて…」

「意味など、自分で見出すものですよ、ヒカリ」

「貴方は……?」

「私はアルトリア・H・T・ツーザイン・ウィトゲンシュタイン。そちらでのハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタインに当たる者です」

「まさか、ハインリーケ少佐!?」

「ええ。ロスマン曹長」

「アルトリア、わざわざ甲冑姿でご挨拶か?」

「同じ国のよしみという奴です、アヤカ」

「ハインリーケ少佐、アルトリアというのは?」

「私のこちらでのファーストネームですよ。それに、こちらでの私は特殊な事情もあるので」

「あの、なんで甲冑姿なんですか?」

「私特有の事情も絡んでいるのですよ、ヒカリ。これを見れば、お分かりになると思います」

アルトリアはそう言って、鞘であるアヴァロンから、エクスカリバーを抜く。黄金の輝きを放つ聖剣。A世界では、ウィッチの立場を守護する意味合いも込められた約束された勝利の剣。凄まじいインパクトである。

「約束された勝利の剣……!?そんな、ブリタニアの言い伝えられている聖剣をどうして、少佐が!?」

「どういう事だ、少佐?」

「一言でいうなら、この剣は私のものです。私はかのアーサー王の生まれ変わり…、と言えばいいでしょうか、ラル中佐、ロスマン曹長」

「なんだと!?それでは、君はブリタニアの王位の証を…」

「それはカーテナですよ。それに前世が王と言っても、今となっては意味はありませんよ、中佐」

「考えてみれば、ブリタニアは何回も王朝が変わっているからな……」

「そういうことです」

虚実入り交じる話をしてみせるアルトリア。流石にかつては一国の主であっただけあり、真実と嘘が入り交じる話を構築し、ラルの出方を窺う。まさか、そのアーサー王そのものが二度目の生を得て、完全に蘇ったと言っても信じないだろう事は分かっていたため、無難と思われる『転生』と説明したのだ。黒江と圭子は真ゲッターロボにより、『平行世界に来ている実感』を与え、アルトリアを来させる事で、A世界の特徴を手っ取り早く示す二段構えの作戦を映像で確認するドラえもん、クロ、それに竜馬の三者は数年後の出来事とは言え、黒江と圭子の考えついた二段作戦に関心するのだった。



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