外伝その258『イベリア半島攻防戦7』


――扶桑皇国は日本国の島国根性と、日露戦争で止まった戦争への認識に振り回わされ、海軍は連合艦隊旗艦を矢面に立たせ、航空部隊は一部のトップエースに陸戦までやらせ、陸戦部隊は本来は大陸奪還要員にする予定の部隊を全て投入させる羽目に陥った。その結果、本来の予定とは異なるが、その分、確かな戦果は出した。その過程でどうしても、戦果が特定の部隊と人員に偏るのは仕方のないことであった。特に、64F出身者が幹部の人員の半数を占めるに至った501は、隊員にGウィッチが続出した事もあり、実質的には扶桑皇国(日本連邦)がカールスラントと共にキャスティング・ボートを握った。ブリタニアはこれまでに失態が多かったがため、今の段階ではキャスティング・ボートを失っていた。501設立に尽力した将官は退役済みかつ、トレヴァー・マロニーの失脚が決定打となった。また、リーネが変身した美遊・エーデルフェルトは英国貴族系の家名を持つが、エーデルフェルト家はウィッチ世界で断絶する前は、フィンランド(スオムス)に居を構えていたため、ネームバリューを用いることもできず、かつては厄介者として扱っていたビューリングに頼るしかないという情けなさであった。マロニーの失態で、扶桑に空母の代替艦用の賠償金を払ったことで、501への発言権も低下。今や、501はカールスラント皇帝と扶桑皇室の意向が強く作用する双方のお抱え部隊になっていた――




――実際、ブリタニアは英国の介入で本国に配置されたエースを全員、最前線に送られている上、初期からのベテランの引退期と大戦の時代が重なってしまった不幸で、ダイ・アナザー・デイではイギリス発の義勇兵のほうが活躍度が高いという状態であった。そのため、戦闘の主導権は日本連邦の手にあると言って良かった。また、海軍力のシンボルのはずの戦艦部隊は『時代遅れの老朽艦の巣窟』と物笑いの種にされてしまうなど、散々であった。しかし、無理してでも揃えた最新鋭戦艦『クイーン・エリザベスU』号はミサイル戦を戦う都合上と、艦橋へのクリーンヒットへの防御のため、司令塔の防御力が復活しており、そのあたりからして、従来型英国戦艦と違い、日本海軍が志向したような艦隊決戦を重視した作りになっている。これは大和型戦艦に兎も角も並び立つ事が造られた目的であったためで、ブリタニアとしてはかなりの巨額をつぎ込んでいる。その代償にいくつもの軽空母が計画だけに終わり、実質的に65000トン級空母5隻に集約された。これはチャーチルが扶桑のような空母機動部隊の効果を疑問視していたこともあるが、空母は殆どウィッチ・コマンド母艦として使われていたからだが、日本連邦が艦隊決戦のために空母機動部隊を衣替えしたため、大慌てであるのが今の状況であった。日本連邦海軍は史実の艦隊運用ノウハウがあるがために、空母決戦ドクトリンであり、その認識の差がブリタニアを慌てさせた。特に、エースを前線に供出させられた上、501への影響力がほぼ失われた事による軍事的打撃は計り知れないものだった。扶桑は扶桑で、雲龍型の物量作戦が否定され、65000トン級と80000トン級数隻によるジェット空母部隊の編成に舵が切られたので、雲龍型の建艦を23番艦で打ち止めにしたのであるが。その場繋ぎに、地球連邦軍から空母を買いまくったのである。それに費やされた予算は大和型戦艦が二隻造れるほどであったとされる。これはレシプロ機の空母5隻をジェット機空母数隻で代替するにしても、高性能だが、数の確保が難しいジェット機の運用に疑問を持つ守旧派への示威も含まれていた。扶桑は空母分野、ブリタニアは戦艦分野で苦労していたので、ブリタニアの最新鋭戦艦たるクイーン・エリザベスU号の存在意義は『帝国の威信を示すため』と言ってもよく、それがブリタニアができる最良の選択であった。扶桑も軽空母に種別変更し、三隻をコア・ファイター運用改修、もう二隻は烈風世代への対応改修を済ませるなど、予算との相談の上での次善策が取られた。――





――ダイ・アナザー・デイでは、扶桑とカールスラント出身のGウィッチとその支援者たちが様々な形で獅子奮迅の活躍をしていた。更にリベリオン出身者ではほぼ唯一と言えるGウィッチのシャーリーがキュアメロディの記憶持ちかつ、変身能力を得ていたことは自由リベリオンにはこれ以上ないプロパガンダであった。本来、スイートプリキュアは単独での『変身』はできないが、シャーリーはそれを可能とした。ただし、北条響の記憶はあれど、シャーロット・E・イェーガーとその他の強い自我を有する関係で、その要素は薄めである事は芳佳と共通している。そのため、プリキュアとしての先輩にあたる、夢原のぞみの人格そのものが維持されて転生したことはシャーリーや芳佳も驚きだった。また、そののぞみが青年のび太の優しさに、彼女自身がかつて愛した人物の面影を見たらしいらしい事を悟っており、のび太を『罪な男だねぇ』と口を揃えている。のび太はその無垢な優しさが彼の特徴であり、接した者は彼をけして、裏切らない。それはジャイアン達と出木杉英才、調が証明している。また、成人し、世帯を持った後に真価を見せる『包容力』の効果もあり、のぞみは芳佳とシャーリーが悟るより早く、かつての調と同様に、のび太を慕うようになっていた――


「おいおい、マジかよ…、見たか、ハッピー?」

「うん。ドリームのあの顔。間違いなく、のび太くんのスケコマシにやられたね〜。あの時間軸だと、もう世帯持ってるはずなんだけどねぇ」

「あいつの天然スケコマシはすげぇな…」

「しずかちゃんが強い人だし、のび太くんも誠実だから、家庭の不和もない。いいよねぇ」

「のび太くんは子供時代から、割合、惚れられるケース多いんだよね。満月美夜子さんのケースを思い出してみても」

のび太はその内の強さや優しさを発露した場合には、キー坊やピー助のケースも鑑みるに、神と崇められるほど慕われるなど、似たような性質を持つのぞみとの共通点も意外に多い。のび太に何らかのシンパシーを感じて惚れるケースは、これで調に次ぐ二例目になる。また、のび太はガンアクションでは『無敵』であり、前科百犯の凶悪犯が殺すつもりで構える実銃に動じず、クイックドロウで鎮圧した事もある。また、長じてからは二丁拳銃でガン=カタやガンフーをやらかすため、28歳前後の時期にはゴルゴと総合的に同等とさえ謳われた。そのポテンシャルは終生衰えはさほどなく、60代後半になっても、ガン=カタをやれるほどの能力は維持していたという。

「あの制圧力、ケイさんが追いかけてたほどだし、あいつ、見かけによらず、バトルで主戦張れるんだよな…」

「で、黒江さんは車両を破壊しまくってるんだよねぇ」

「くぅ。この姿でも輻射波動使おうかなぁ……ここまでいくと埋没してるし…」

「まぁ、阿頼耶識超えの聖闘士って滅多に出ませんしねぇ。先代は阿頼耶識に達していた者はシャカだけだったし」

「だから!その時点でおかしいっつーのぉ!」

黒江と智子は転生を重ねた末の努力とは言え、阿頼耶識をも超えた領域に達した。黒江は元々の気質的に求道者であるためにナインセンシズに到達し、単純なスペックでは、歴代プリキュアの最強フォームや歴代平成仮面ライダー大半のそれを凌駕する。フルパワーでは神殺しを達成するに足るだけの事はあり、聖衣を着てない状態でも平均的な昭和仮面ライダーとタメを張る攻防速を誇る。そのため、通常フォームの歴代プリキュアを普段着や通常戦闘服を着ているにすぎない状態でも凌駕しているのだ。

「そりゃアタシ達の力は第六感の延長線上だけど、黒江さん達は第九感で、阿頼耶識も超えちゃってるんだよ?たぶん、Tシャツ姿で通常フォームのアタシ達は倒せると思うね」

「か〜!なんだよそれぇ!ずるくね!?」

「まー、ブラックやホワイトみたいに、肉弾戦で強いほうじゃないしねぇ、あたしら。それに、基礎能力値は上げられるけど、基本ベースのスペックは変わんないしね、アタシ達のパワーアップ」

「まー、歴代のパワーアップを考えても、次の感覚の扉を開くわけじゃないからなぁ。光速の動きは視認できたかは記憶曖昧だし」

「まあ、シャイニングドリームにしても、クレッシェンドプリキュアにしても、プリンセスフォームにしても、敷居が高い割にパワー加算は低いからね。」

「ま、この姿はよいこにゃ見せられないぜ?お前はMG42、あたしはキャリバー50使ってるし、ドリームなんて、ホ5だぞ、ホ5」

「今は軍人に転生してるんだし、当たり前といっちゃ当たり前だよ。まぁ、プリキュアに不釣り合いな武器だけど」

3人が持っている武器は何気に航空機関砲クラスの重火器であり、些かオーバーキルの毛がある。まだキュアハッピーの持つMG42など可愛いほうで、キュアドリームなど、大口径砲好きな錦としての嗜好か、20ミリ機関砲を使っているのだ。これにはキュアハッピーも若干引いている。

「『プリキュアの様な何か』で良いじゃない!記憶と姿形が同じだって、この世界に別の生を受けたんだからやれる事をやるしかないよ!バルクホルン中佐も確か、MG151使ってるじゃんー!」

「どうせならホ401(史実で試作された57ミリ砲)にしたらどうだ?」

「あれって試作されてないような?ミサイル作った方が速いとかで」

「メロディ、30ミリまでならもう量産体制に入り始めてるけど、ウチの中堅の反対で本格的に生産されてないとかいうよ」

「なんでだよ。昔みたいに、怪異だけが相手じゃないんだぜ?」

「それがね、空中戦での携行弾数を増やしたいから、口径は小さくていいとか言ってるんだよ。弾を増やしても、12.7ミリじゃ、驚異のP-47にゃ無意味なんだけどねぇ」

「当たり前だ、あれは空飛ぶ装甲板製ババスタブだぞ?MG151/20が200発当たってもピンピンしてるんだ。カールスラントだって、その煽りでリボルバーカノン研究してたんだぞ」

「その煽りでマルセイユに批判が行ったらしくて、あの子、最近はあんまり寝てないとか」

「マルセイユ、この世界だと、アフリカでF-4とか、コア・ファイターとストライカーでドンパチしたから、今はビームライフル好きなんだけどねぇ」

ドリームが言う。影響力の高いカールスラントウィッチが言うことは欧州各国が追従する傾向がある。マルセイユは本来、格闘でやってきていたので、大口径砲は重くなるから、と好まなかったが、後世のジェット戦闘機に翻弄される屈辱と、ティターンズのタックネーム『クルセイダー』に子供扱いされたこと、圭子の本来の実力に惚れたため、ビームライフルを持ち出す事が増えている。





――この時期、リウィッチになった緒戦の生還者が次々とこのような証言をして、現場の中堅と対立していた。

『未来人の機動兵器とか言う巨人って、そんじょそこらの鉄砲じゃ傷も付かないのよ?こちらの身軽さ活かして至近距離から顔面に大砲でもぶち込まないと倒せないわ、アレは』

『扶桑の秘奥義で装甲が切れるか否かだし、場合によれば、得体の知れないオーラで弾かれて、こっちのユニットを分解させられるのよ』

中堅世代はこのように、生還後に大きく株を落とすくらいなら良い方で、中にはMSのバルカンを直接食らって影も形も残らず、ユニット履いていた脚だけ回収された様な例も発生し、扶桑の秘奥義すら通じる可能性が高くないという事で、レイブンズ時代に新兵であった古参世代との対立が表面化した。特に扶桑海軍で顕著だった。陸軍はレイブンズの功績は讃えていたためと、当時の新兵かつ、腹心とされた黒田が実質的に後輩達を統制しているため、意外に味方が多い。事変世代が海軍より多めであった事もあるだろう。対する海軍は坂本、竹井がレイブンズの現役復帰に伴う世代間対立の可能性を楽観的に見ていたこと、1943年以来、海軍航空隊は撃墜王を公式には認めていないという見解だったので、敵が多いのだ。これには理由があり、海軍航空隊は山本が現場を離れていたり、源田が軍令部に缶詰めになっていた時期、反レイブンズ的思想を持つ士官が旗振り役であったのも関係している。坂本と竹井はその時期、自身のスコアのこと、ミーナの事にかまけており、後輩達の統制をする余裕がなかった。最も、坂本は『バカにはやらせてからじゃなきゃ理解出来ん(実体験から)と』監視するも放置、竹井は切り崩しに奔走、上の古参と同じ様な事を言って新人を教育するので手一杯だったという事情であった。坂本はこうした事から、些か、退役後の時代での評価が別れている。全体的に前史より高評価であるが、クーデターを切り崩す事をしなかったことは、ある層からは批判を浴びている。坂本は武子に負担を強いたことは気まずさはあるが、この時点で『こうするに道はない』と、圭子寄りの考えであったという裏事情がある。前世でウィッチ至上主義気味だったのが自分の人生を暗転させた反省からか、今回はあまり政治的影響力を持つようなことは避けており、政治的働きかけは竹井に丸投げしている。今回の坂本で、ミーナの覚醒を促せというケイの指令にも忠実だったのは、そういうことだ。その分、その際にミーナに恨めしそうな視線を向けられて、内心で怖がったりもしていた。そのため、一回目の査問終了直後は仮病を使って、執務をハルトマンに丸投げしたのであるが。

「でもさ、良かったよな、今回はあまり黒江さん達の着任で混乱がなくて。むしろ、今のほうが別の意味でパニックだけど」

「隊長のヒステリー食らうより、自衛隊連中相手の握手会を仕切った方が平和でいいよ」

「自衛隊の『大きなお友だち』は聞き分けも良いしね」

「だよなぁ。今でも覚えてるぜ?少佐が黒江さんと親しく話してるのを見て、コソコソと隠れてジェラシーしてるの」

「今は西住ちゃんのお姉ちゃんの自我が出たから良かったわ、本当。前史は本当、あれで苦労したし」

「だなぁ。今はシスコンだけど、武人って感じで、口数は少ないけど、クールビューティーだし、温和なんだよな」

「そのほうがこっちとしちゃやりやすいよ。前史はとかく、ヒステリックになるとさ、すぐワルサー持ち出すし」

キュアハッピーはミーナ本来の人格を『温和を装う割に、ある一線を越えた途端にヒステリックになって喚き散らす人』とし、否定的であった。特に、ヒステリックになると前後の見境が薄れ、ワルサーPPKを持ち出していた負の面は嫌っている事を示唆した。

「あの人、沸点が低いから、坂本少佐が愚痴ることあったぜ?だから、前世であまり頼られなくなったんだよな」

キュアメロディもこの評価である。なんとも辛辣だが、ミーナは人格の変化で評価が一変した人物と言えるだろう。変化後はシスコンを表に出し、バルクホルンに『命令だ、うちの妹へ送るものを日本で買ってこい』といい、ハルトマンを爆笑させたほどのシスコンぶりを見せ、隊員をほのぼのさせている。また、武子に色々と根に持たれた事への償いとし、二日前からメイド服で出歩いている。これは武子のメイドを個人的にやることで罪を償うためだ。

「でも、武子さんへの罪を償うとか言って、メイド服で勤務ってどーよ」

「うーん。少佐が軍服を羽織れとか怒ってたな、昨日」

「隊長に言われたんだよなー。黒いパンツァージャケットにフリル襟のブラウスインナーとタイトスカートにエプロンとブリムを用意しろって。ありゃ本気だよ」



と、ミーナの変化には肯定的な二人。前世の要素は薄めなため、口調が前世のものではないのもドリームとの差だろう。後日、キュアハッピー(芳佳)はミーナ特注の服を仕上け、坂本に見てもらうのだが、「エプロンとブリムを取れ!せめてブリムはやめろ!!」と怒られるも、「側仕えらしくしただけじゃないですか、規定には合わせてますよ?」と返して押し切ったという。


――戦場はすっかり彼女たちの独壇場になりつつあった。黒江は体術でも強いため、ここ最近は珍しい、扶桑軍制式戦闘服(ただし、下着の色は華族への叙爵で紫になった)姿で暴れていた。ただし、相変わらず、容姿は変化させたままであり、自分の娘との見分けを重視しているのがわかる。そのため、後世の黒江のスコアの一部はこの時の娘の戦果が混じっていたりする。また、弟子の調と同じ顔になっているため、髪型をポニーテールにして区別しやすくしていた。そのくせ、やることはエゲツなかった。

「喰らえ!ライトニングファング!!」

辺りの地面一帯に何億ボルトもの電圧の電流を流し、敵を感電死させる。その数、数千人規模だ。黒江は山羊座であるが、獅子座へも高い適正があったらしく、獅子座の闘技も使う。追撃でライトニングフレイムを放ち、戦車駆逐大隊を丸ごと炎の雷で薙ぎ払ってみせた。

「うわわっ!?ほ、炎の…雷…!?」

「わりぃな、ドリーム。これがナインセンシズの力だ。神殺しもできるほどのな。ただ、これは超電子にゃ到底及ばないけどな」

「超電子…?」

「電気エネルギーを超える電気エネルギーだ」

「なんですか、それぇ!」

「安心しろ、俺もよくわからん!」

「ナインセンシズの時点でわかりませ〜ん!」

「俺もよくわからんが、聖域の先代教皇(牡羊座のシオン)から聞いたんだが、想いが八の意識を破壊する事で、ナインセンシズに覚醒する。その時点で存在が神へ昇華するそうだ。俺と智子はそこに至った」

黒江と智子は阿頼耶識をも想いが凌駕した事でナインセンシズに到達した。その時点で聖闘士としての力は歴代随一に成長、アイオロスと星矢以来の逸材であるとシオンに評価されるに至った。黒江一人でおおよそ、一個師団を軽く料理可能である。たとえ、機甲師団だろうと、だ。

「お、そうだ。調にも覚えさせたが、お前がプリキュアに復帰した事の祝いだ。技を一つ見て覚えろ」

「は、はいぃ――っ!?」

『俺の怒りは爆発寸前ッ!』

そこから黒江は空中元素固定でレーザーブレードを召喚し、ツインブレードモードを使う。片方の切っ先を、破れかぶれで突っ込んできた敵の大隊長に突き立て、ぶっ刺す。刃を引き抜いて構え直したところからX文字に両方の刃で斬り裂く。

『アーク・インッパルス!!』

黒江の得意技であり、時空戦士スピルバンの決め技。比較的に覚える難易度は低いほうである。決めポーズの決め方もスピルバン直伝のこだわりがあり、敵を背にして構えるというもので、爆発を背にすると、実に映えるのだ。これは伊賀電が新たなコードネームを得た後に開眼した極意である。

「か、かっこいい……って!あ〜、また先輩においしい場面持ってかれたぁ〜!これじゃ立つ瀬がなーい!」

「へへん、どーだ!」

精神年齢が似たようなものなためか、ドリームとのやりとりも黒江の戸籍上の年齢(23歳)よりかなり若い。この幼さが黒江の二面性の象徴だと攻撃される材料になっているが、人物像としてはあどけなさも残すこともあり、部下からの人望が厚い理由にもなっていた。こうした戦士としての強さと同居する子供っぽさも黒江の人気の理由である。

「ずるいです!剣も普通に強くて、諸刃の剣をカッコよく使えるなんてー!前世じゃフルーレしか持ったことなかったんですよ、こっちはぁ〜!」

「そんなの、俺が知るかぁ〜!」


「はいはい、お二人さん、そこまでだよー」

ハッピーがやりとりを中断させる。この強引な中断のさせかたは角谷杏の要素が色濃く出ている表れである。

「うるせぇ、覚えりゃ良いじゃねぇか、教えてやるからよ、帰ったら」

「ほ、本当ですか、先輩」

「あ、ハッピーは普通にできるからな」

「えー!?ま、まぁ、元々、今回は二刀流上手いし、ハッピーは……」

普通に芳佳が二刀流の巧者として名を馳せている事を思い出し、しょげるドリーム。それに大笑いのメロディ。

「あ、師匠。そこに破棄されたジープ、使えそうなんで、三人にはそれに乗ってもらいましょ」

「おいおい、燃料は大丈夫かー、調?」

「今、擱座した別のジープから燃料を移してまーす」

メロディが調に言う。調は黒江の整備技能を受け継いでいるので、車載工具でジープ一台の整備をその場で行った。黒江の整備技能を持ったため、軍入隊後に整備士資格を得たという調、ジープを一台、使用可能に直した。

「エンジンもかかりましたー。ジープはこれだから楽なんだよね―」

「くろがねとかは工場でボルトが違うのも当たり前だしなー」

ジープの凄さは共通規格により、異なるメーカーのものでも使える点にある。日本連邦も使用推奨の車種だが、くろがねも国内メーカーの育成のために生産は続いている。第二次大戦で最も成功した四輪駆動車として有名なジープは前線でも盛んに破棄車両が鹵獲されている。これはその一例だ。調が車載工具で使用可能にすぐに復帰させられるほどの整備性もあり、他国製四輪駆動車を駆逐する勢いである。ちなみにこの時の鹵獲車は『ウイリスMB』で、1943年製であった。幌がないものだが、夏のヒスパニア仕様だろう。

「んじゃ、司令部には僕が打電しておくから、この場は引き上げよう。ヤーボに来られても嫌だし」

「ヤーボねぇ。久しぶりに聞いたなぁ、それ」

「ヤーボ知ってる連中は空軍をせっつくよ?特にP-47」

のび太が口に出した『ヤーボ』とは、ドイツとカールスラントで使われる『戦闘爆撃機』を意味する単語である。戦闘爆撃機が軽爆撃機の任務を代替したこの時代、対地掃射も行うヤーボは恐れられた。どんな機甲兵器も空からの爆撃には弱い。MSだろうと同じだ。そのため、空と対空部隊の優先目標に数えられ、この作戦中にそれを狩るためのジェット戦闘機部隊まで編成されたほどだ。この時期の標準的な機銃に耐えるP-47は、それを狩るために対空ミサイルが使用されるほどに恐れられていた。

「ゼロ戦の20ミリじゃびくともしないんだっけ?」

「ドイツのマウザーを200発でも落ちねぇよ。だから、M61バルカンやM39リボルバーカノンが羨望の的なんだよ。弾を使うけど」

「あ、それ天姫から聞いたなぁ。中堅が弾がもったいないとか言ってるって」

「マジ?…連中、わかってねーな。機銃弾の100発や200発…」

この時期、問題になっていた論争の一つが航空機関砲の今以上の強化であり、Gウィッチはジェット化を見越して、自分からM61(米軍提供の試作品)やM39を使用している。ただし、従来型では反動で機体に負荷がかかりすぎるという。速度が高くなると、旧来式の機銃では敵機に当たらないというジェット時代特有の問題にぶち当たっている。そのため、米軍は試しに、Gウィッチの要請でM197機関砲を提供している。リボルバーカノンではジェットストライカーでないと携行が困難である。試しに、天姫が本国で試験として、キ43でやってみたが、ホバリングがせいぜいであり、エンジンが焼け付く有様であった。それを踏まえ、従来型でも携行が比較的に可能とされるM197が米軍ルートで提供されたのだ。そのため、Gウィッチが空中勤務につく場合に対ジェット機装備として用意される火器はM197に定まりつつある。しかし、片腕が火器で塞がる、鈍器としての使用が推奨されないなどの従来からの変化に戸惑う声がテスト部隊から出されている。最もこれは、ジェットストライカーの進化で時代ごとに試行錯誤され、解決が図られていく事になる(機銃装備のバックパック直結武装化など)。第3世代宮藤理論はその問題解決レイアウトにガンダムF91を参考にしたという。しかし、そこまでいくのに数十年かかったのも事実で、第二世代宮藤理論末期は『船型ユニットに内蔵して、脚部ユニットにアーム接続させて使用する』方式が取られた。F-4Eはその面倒くさい方式ではあるが、武器の安定保持が可能という利点から、大戦世代には受けたという。その苦労を経て確立された第三世代宮藤理論はまさにコロンブスの卵的発想であり、手持ち武装を別に用意できる利点から早くに普及した。黒江たちが娘たちに持ってこさせた機材はその時代のものであり、パワードスーツ的体裁が強まった時代のユニットである。そのため、ストライカーの遠い発展型という事を、本国でサンプル品をテストさせられた天姫は当初、理解出来なかったという。黒江たちは前史での現役時代の後期から最末期に使用経験があるため、問題なく使用可能である。特にF-15は黒江たちが前史で纏っていたモデルをFRAMした改修タイプであり、21世紀で現役使用されているモデルであるので、装甲部がスタイリッシュなデザインの新式に換装されている。(電子工学の進歩でアクチュエータなどが小型高性能化したためもあり、装甲部が小型軽量化された。)なお、ISやVFのように足の自由が効くようになったため、ウィッチそのものの能力が大きく向上、陸戦ウィッチとの垣根が薄くなり、重装ウィッチというのが、陸戦ウィッチを指す単語となりつつあるのがウィッチ世界での21世紀だ。

「うーん。あれ?よく考えると、私達、戦うために転生したから……」

「そうだ。今回は全員がそのために存在してる。お前らも同じだ。それに、ヒロインが寿命で死ぬなんざ、笑い話にもならないぞ」

「え〜!?」

「仕方ねぇだろ。仮面ライダーがそうであるように、戦うために俺たちは甦ったんだ。それくらいはあれだ。割り切れ。元の世界は平行世界として存在するから、お前らは転生でその流れとは分離したし、基本世界が別にあるし」

「基本世界?」

「こっちから介入出来ないし、見ることしか出来ないが、物事が本来想定されている通りに事が全部運ぶ世界のことだ。俺たちはそこから派生していった世界の存在だから、どんな流れも起き得るってこった」

「これもですか」

「そういうこった。お前、前世の仲間と会える可能性は多分……、万に一つあるかないか、だろう。プリキュアの作品跨ぎでやっと、だしな」

「そう言えば……」

「それにお前自身、今の家を支えんといかんだろ。姉貴の小鷹は俺たちとタメだが、前線に出てなかったから、恩給は安いし、妹はまだ訓練生だし」

「うぅ。現実に戻されるなぁ」

「給料上がる分、楽にはなる。それに、元プリキュアなら、広報にも引っ張りだこになるし、Gとしての特権も付与されるから、勤務は自由になる」

「先輩達みたいに?」

「まぁ、戦死する心配がないから、ガンガン前線で酷使されるが、その分、書類仕事はてぇぬけるぞ」

「なんか、嬉しいような、嬉しくないような…」

「その代わりに、戦いじゃ一騎当千が常に求められるようになる。お前も、パワーアップフォームを自己制御するなりして、上を目指せ。別の世界に軍人として転生した以上は、戦うしかないしな。それに、バダンやマジンガーZEROがのさばってみろ。たちまちに別のお前が連中に蹂躙される事になる」

「そ、そんな!?」

「仮面ライダーディケイドの話じゃ、作品ごとに独立した派生世界がお前たち歴代のプリキュアにも存在する。そいつらが奴らに襲われてみろ。その世界の全ては終わる」

「な、なんでなんですか!?」

「因果律兵器。それをぶち破るには、何らかの偉大な存在の加護が必要だ。お前らだと、多分、『初代プリキュア』だろう。キュアブラック、キュアホワイトの存在の加護がなければ、ZEROに負ける因果を紡がれる。たとえ別のお前がシャイニングドリームになろうとも、だ。それはお前が愛していた人が、奴らの手にかかる事でもあるんだ」

「まさか、まさか、『ココ』が殺されちゃうって事ですか!?」

「そういう事が起きるようにされる。それが奴の…因果律兵器だ。マジンガーZEROの肉体は滅ぼしたが、意思はまだ死んでいない気がするからな…」

ここで、ドリームはかつて愛した人物の(妖精か)名前を口にして大きく動揺した。顔色を変え、表情も青ざめた。ドリーム/のぞみにとって、あってはならないはずの光景を想像したのだろう。

「そんな!!言ったんですよ、遠い昔……。『どんな所にいたってココを見つけることが出来る』って!」

「そんな事、ZEROの因果律兵器の前には何の足しにもならん。お前がプリキュアである事実すら書き換えてしまうような力だぞ」

「……嘘……」

ドリームはここで、黒江が敵視する悪の魔神の存在を知った。『終焉の魔神』と渾名されしマジンガー。それに抗うには唯一つ。因果を超える。つまるところ、『神を超え、悪魔も滅ぼす』ことだ。

「先輩、勝つ手はないんですか、手は!?」

「一つある。神を超え、悪魔を滅ぼすことだ。それだけが因果を超える方法だ。魔神が魔神の皇帝になるようにな」

「魔神皇帝……」

「そうだ。マジンガーZがマジンカイザーになり、グレートマジンガーも、マジンエンペラーGになった。自分の勝手な考えを実現するためだけに世界を焼き払うマジンガーから逸脱した悪魔を滅ぼすためにな。俺たちはその偉大な皇帝達に肖るのさ」

「偉大な皇帝…」

「それに、科学の力で『獣を超え人を超え神の力持ちし戦士』となった奴ら(バカ)もいる。俺たちが目指すべき目標は『愛の心にて、悪しき空間を断つ事』だよ、ドリーム」

「愛は奇跡(ミラクル)だってことだよ、ドリーム」

「メロディ…!」

調が再生したジープで一同が基地に戻る車内で交わされた会話。その車から、ドリームはブリタニアへ向かう一体のスーパーロボットの機影を目撃する。ダンクーガである。その機影を僅かながら目撃し、何かの踏ん切りをつける。これ以後、キュアメロディやキュアハッピーとかつてプリキュアであった者として、改めて親友(戦友)になっていき、また、青年のび太を兄のように慕うようになっていく。錦として中島家の家計(家が長島飛行機と深い関係であるが、それだけでは食っていけないし、事変に従軍しなかった姉の恩給は僅かだ)を支えながら、それから離れると、夢原のぞみとして生きるようになる。つまり、中島家への恩返しの意味で錦として生活しつつ、戦友の前では、かつての『プリキュア5』のリーダーであった夢原のぞみとして振る舞うのである。また、シャーリーもプリキュアとしてののぞみの後輩であった北条響の記憶を有し、なおかつ、内に眠る紅月カレンとしての人格の持つ面倒見の良さが重なり、のぞみを支える選択を取る。ほぼ前世の人格が維持されたのぞみと違い、シャーリーは複数の人格が入り混じった状態であるため、完全にはプリキュアとして振る舞えない事への自嘲がある。これは芳佳も同じだ。錦としての人格を逆に上書きしたほど、のぞみは本来、揺るぎない意志を持っている。その意志への憧れがシャーリーと芳佳にはある。扶桑やリベリオンのウィッチに転生したプリキュアはパーソナリティが混じり合いやすいのだろう。また、のぞみは一人称が「わたし」なので、錦本来の一人称である「俺」を使うのを嫌がっていたりするが、黒江に慣れろ!と怒られている。その違いでの苦労を青年のび太がフォローしていくため、ますますスケコマシとの評判を得るのび太。『今は妻帯者だから困るんだけどなぁ』とは本人の談。なお、23世紀の中堅軍事産業のネルガル重工の会長が『大関スケコマシ』の異名を自慢しているという事に肖ったか、部内で『横綱ヒトタラシ』とつけられたという。のび太の人誑しは人間のみならず、木や恐竜にまで及ぶから、らしい。名付け親は青年ジャイアンとか。なお、少年期の時点でのび太は『マール星』という惑星の宇宙人『チンプイ』と面識があるため、宇宙人にも及ぶといえる。ついにその人誑しがプリキュアにも及んだのだ。のび太は少年時代と青年時代とでお互いに連絡しあっており、のぞみに惚れられたことを少年時代の自分に笑い飛ばされている。少年時代はのぞみに近いドジな人物像であるのも好印象だったようで、のび太は青年時代は『カミさんにどう説明しよう』と悩み、少年時代は妹(生年月日の都合で、のび太が生年月日上は上になる)をまた得たと考え、一念発起することになる。また、異なる時系列の自分同士で会話し合うのも、ドラえもんの存在による恩恵である。最も、のび太は両親が兄弟を多く抱える都合上、従兄弟がやたら多く、2000年代初頭には当時の青年層だった従兄弟の結婚ラッシュが起こったりしている。(のび太に多額のお年玉をくれる北海道の叔母は、のび助の末の妹で、2001年時点で31歳前後である。なお、少年時代に時々、のび太の家に顔を出していた大学生の五郎さんは玉子の兄の長男だ)2000年代前半以降、両親がのび太の従兄弟の結婚式に出るために家を空ける事が増えたのも、調やのぞみが常駐なことに文句が出なかった理由だ。

「のび太君。これから、のび太くんの家に泊まっていいかな?その、今の家には居づらくなっちゃったし、その…」

「子供の時の僕の家に泊まるかい?連絡は取り合ってるから、いつでもOKだよ」

「え!いいの!?ぇ、ちょっと待って。子供の頃のって?」

「僕は野比のび太だよ?」

「え、本当に本物!?お、大人だから、その、わかんなかったっていうかぁ…そのぉ…」

「大人になって住んでるマンションでもいいけど、僕という人間を知りたいなら、子供の頃の僕に会うといい。あとで調ちゃんに用意させとくから」

「あ、あとでドラえもんに会わせてくれるかな…?子供の頃、アニメ見てたんだ…」

「お安い御用さ」

「基地の酒保でどら焼き作ってもらうぞ〜!絶対にそうしてもらうもん!けってーい!」

思わぬ出来事に感激のドリーム。青年のび太はそんなのぞみを微笑ましく思いつつ、ジープ(ミニは調が運転)を運転するのだった。

「あ、分かってると思うけど、ドラえもんは…」

「知ってるよ。アニメ見てたもん。ノーマルのどら焼きでしょ?ラー油とかマスタードかけないよね」

「そりゃ、ドラえもんズだよ」

先程と一転して、鼻息鳴らして興奮状態のドリーム。子供の頃に見ていたアニメのキャラクターに会えるという嬉しさが、ドリームから先程の憂いを吹き飛ばしてくれたようだった。ドラえもんの事を子供の頃に夢中になって見ていたアニメのキャラクターと認識していたためもあり、のび太のぶっちゃけトークに食いつく意外な一面を覗かせ、キュアハッピーとメロディに微笑ましい視線を向けられていた。



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