外伝その257『イベリア半島攻防戦6』
――プリキュア出身者がGウィッチとして転生していることが判明し、現在でもその力を維持していることは、前線の連合軍にとって士気高揚となった。黒江はここのところ、立花響のメンタルケアに心を砕いていた。自分の力が元の世界での万能性を喪失したも同然の状態である事にショックを受けたので、それを割り切らせるために療養させていた。(口で割り切ったと言っても、精神的に戦える状態ではなかったため)その響は自分達より基礎能力が高く、なおかつリスク無しで力をフルに奮えるプリキュアに妬みを抱くなど、普段ではあり得ない精神状態に陥っていた。つまり、響は自分が精神的支柱としていた力に『代わりがいくらでもある』、『ガングニールはグングニルの変質したもの』という事で頭が混乱した&自分の力は異世界ではフルには発揮できないという2つのパンチが効いており、黒江と和解した時間軸の切歌も悩む問題と化していた。
「あー、もう!ややこしいデスよ」
「俺もだ。あいつのメンタルは強いんだか弱いんだかわからんよ」
黒江と和解した後の時間軸の切歌は聖闘士に叙任済みの時間軸からの来訪なので、見分けをつける意味もあり、普段着がシンフォギアであった。また、イガリマの本質にたどり着いており、斬山剣に得物が変化している。
「どうするの、切ちゃん」
「会ってはきたけど、その帰りにそっちのアタシ自身にパニクられたから、流星拳で眠らせて、マリアに預けたんデス。響さんの方は、今はプリキュアを妬んでるみたいデス」
「はぁ?どういう事?」
「ほら、いくら適合率が高くても、絶唱には一定のリスクが付きまとうシンフォギアと違って、プリキュアの力はそれがないどころか、想いが強ければ、パワーアップできるじゃないデスか」
「…本当、難儀な人なんだから」
「それに、宝具そのものを行使できるアタシ達と違って、響さんのガングニールは真名を喪失した何かとこの世界では捉えられて、本来のポテンシャルは引き出せないし」
「いいところ、60パーだな。ロンギヌスの槍の力が強制的に分離させられている以上、完全な神殺しの宝具にはなりえない。せいぜい、神に抵抗できる程度の加護だな」
「あの人は自分の持つ力が誰かに使われる事を嫌うし、ガングニールは自分が天羽奏から受け継いだ力って事に固執するけど、今の個体は師匠がマリアから譲られて、そこから行った個体だってのにな」
調は響の複雑怪奇すぎる心情をそう評し、ため息をついた。元々、黒江の事で折り合いが悪かったためか、悪態をつくのも珍しいことではない。あの西住みほも母親に悪態をついた事がある(無論、影でだが)ので、それほどに響の精神状態は読めないという証である。また、黒江との感応の影響と、自分自身は響と深く関わる事が実質的になかった故か、ガングニールへの強い依存になった要因である、天羽奏の戦死、家庭が崩壊状態にあった事へは同情してはいるが、師を一年間振り回したことへの反感が根底にあるため、どことなく辛辣であった。ただし、全く別の世界では自分達の認識や常識は通じない事が理解しきれなかったのが響の悲劇であると言えよう。
「そう言ってやるな。あいつも向き合おうとはしてるとこだ。お前が別の世界で騎士として戦ってた事を理解しようとしたり、自分と異質の聖闘士やプリキュアの力を錬金術と同じようなものという形で割り切ろうとしてる。俺に一年間、お前の代わりをさせたことは謝られたところだ」
精神教育において、なのはの手法が全く合わなかった事もあるだろうが、響のガングニールへの依存が激しいことは連合軍をも振り回していたと言える。それと対照的に、転生先が『職業軍人』であった元プリキュア勢は記憶の覚醒で、聖闘士である黒江や智子に引けは取らなくなったとし、積極的に戦線の矢面に立つようになり、英霊組にも引けを取らぬ活躍を見せるようになっている。2つの事変を自分たちと関連のない、なおかつ自分たち以上の強大な力が解決してしまったことが『力を必要とされなくなる』という恐怖を煽ったのは事実である。最も、黒江は響にも英霊化の因子があることを見抜いていた。彼女もある英霊の人格がある可能性がある。その人物とは、新選組最強とされた沖田総司である。近代の人物だが、英霊になる要素はばっちりあるし、その剣技は土方歳三、斎藤一を上回るとされた。緋村剣心も夭折してなければ、新選組で最高だろうと評する。また、意外にも、新選組で最も残虐性を秘めており、笑顔で敵を殺せるという一種の人格破綻者に近い面もあるが、普段は優しい人物ではあったという。
「あいつ、多分だが、英霊化がそのうち起こるぞ。多分、俺が垣間見たビジョンからするに、沖田総司だ。新選組の」
「し、新選組ぃ!?」
「ああ。そうなれば、剣心さんとガチで戦えたほどの剣士だから、かなりの戦力になる。問題は生前は人格破綻者に近かったって話もあることだ」
「確かに。嘘か真か、三浦啓之助が若かった頃、後ろから斬ったとかで激昂して、彼を襟首を引っつかんで頭を畳に押し付け引きずり回したとかって話も言い伝えられてますし、暗殺に精出してたからか、岡田以蔵と同列視されてたとか」
「うへぇ、おっそろしい」
「斎藤さんからして、悪・即・斬だし、あの人達、日本の武士の歴史の掉尾を飾るに相応しい強さはあったのは確かだ。沖田総司の因子が覚醒すれば、翼は不満がるだろうが、幕末は武士道云々の時代でもないしな」
「確かに。でも、覚醒したら、アルトリアさんに顔がそっくりになる気が…」
「ああ、そうなるかもしれんが、アルトリアは他人の空似ですとか言いそうだ。だが、今のややこしい性格よりは扱いやすくなるだろうさ。それはそれとして、ペリーヌのやつ、シャーリーみたいによ、キュアスカーレットの記憶あるのかね」
「それはご都合主義ですよ、師匠。ま、のび太君がツキの月を験担ぎに飲んでるから、否定は出来ませんね。モードレッドさんの人格に難儀してるみたいだけど」
「あいつ、ガリアのプロパガンダに担ぎ上げられてるのを自嘲してたから、あの国の貴族の出にしちゃ謙虚だよな。上の兄貴が仕事でガリアの貴族の出の連中に馬鹿にされてたのをガキん時に見てさ、反感抱いたもんだが」
「あそこ、人種差別してますから。Mr.東郷も苦言を呈していますよ。でも、そうなったら、ペリーヌさん、恥ずかしさで悶絶しそうですよ。今でさえ、モードレッドさんに振り回されてるし」
黒江は長兄が仕事で苦労してきたのを見てきたためか、黒田と似たような考えであるのがわかる。ペリーヌは家族を全て失った事もあり、モードレッドの人格に統合されないほどのアイデンティティを持つに至った。それ故か、覚醒後の芳佳がペリーヌに何かを感じ取ったので、頭ごなしに否定はできない。
「元々、そこそこ名が知られていた錦が古参のプリキュアのキュアドリームだったから、ペリーヌがプリキュアの因子もってるかも知れねぇのは、単純にご都合主義ともいえねーぞ。芳佳のいう通りかもしれん。ペリーヌの引き出しが増えるのか、モードレッドの人格の能力になるのかはわからんが、あとで芳佳に聞いとこうぜー」
その場を締めくくる黒江。
――戦線は比較的に小康状態にあったとは言え、小競り合いは続いており、プリキュア勢の肩慣らし+ヒーローの側面援護も兼ねての出撃が赤松の指示で行われていた。その光景も中継されていたので、現場の士気高揚にものすごく役に立った。その先頭に立っていたのが、現在のところ確認された中で最古参のプリキュアとなるキュアドリーム/夢原のぞみ/中島錦である。自分が元々は少年期のび太に似た傾向があった自覚があり、『学生時代は優等生でなかったし、平均より落ちることのほうが多かった』事から、似たような学生時代であったのび太にシンパシーを感じ、青年のび太から可愛がられている。彼女はプリキュアとしての力を取り戻したためか、前世での『意思の強さ』が完全に蘇っており、キュアハッピーの記憶を持つ芳佳との共通点を得ている。その点でプリキュア5のリーダーだった片鱗を垣間見せている。『後輩』二人を率いて、戦線に立つ姿は自衛隊の士気を大幅に高め、黒江も予想外のキルレートを叩き出す部隊が陸海空を問わず続出した。陸自の第一空挺団から抽出された空挺部隊など、三人の援護のために、危険極まりない『対空砲火が上がる中での降下』を実行し、敵中突破をやってのけちゃったほどである。(ちなみに、のび太は青年期以降の人生で人物評価が少年期と逆転し、普段は昼行灯を装いつつ、裏でデューク東郷と渡り合うと言った生活を40代まで続けていた。絶頂期にあたる10代から30代までのスナイプ能力はデューク東郷に比肩し、その後も早撃ちでは彼を上回っている。青年のび太はその最中の28歳前後の時間軸ののび太である)
「僕も色々大変ですよ。子供の頃の人物像と見てくれだけで判断されるんだから、それに僕は自分の存在の永続性は望んでませんよ。僕はカミさんと一緒に死にたいんですよ。その上で魂は神々が好きにすればいいって言ってるんですけどねぇ」
「お、のび太」
「貴方達宛ての誹謗中傷、多いですよ。それと僕が死ぬのが分かってて、なんで貴方達と付き合うのか?なんてのもあるけど、僕は30世紀のトチローさんみたいなもんですよ。存在の永続性は望まないけど、意思は共にありたいだけです。精神は永久不滅だけど、肉体は滅ぶ。子孫の誰かとして生まれ変わって会えるかもしれないだけで、僕としては満足ですけどねぇ」
のび太は自分は英霊になれる資格を有している事は分かっている上で、伴侶であるしずかと共に死を迎える事を敢えて選んでいる。元々のジャイ子と結婚し、借金まみれの哀れな一生より、よほど幸せで有意義な一生を得れたことだけで、人生に満足しているとも言う。その一方で、色々と世界を救った(アトランティスの鬼角弾、コーヤコーヤの爆破、魔界の侵攻、ギガゾンビの歴史改変など)功績で魂の転生が運命の女神から約束されているのも事実だ。Gウィッチの派手な能力に隠れがちであるが、28歳前後当時ののび太はその能力において、まさに絶頂期にあった。子供を得た事で身体能力と精神力が調和し、気力が最も充実していた時期であり、クイックドロウ(早撃ち)も生涯でもっとも好タイムを引き出しており、Gウィッチの感知をも上回る速度を誇った。(老いても、あまりクイックドロウの速度は変わらず、身体能力は落ちた老年期でも、クイックドロウでは無敵を誇り続けたという)
「お前、俺たちの感知より早く銃を撃てるだろ?Mr.東郷より早いってどういうこった!」
「プリキュアになった皆さんの感知も上回ると思いますよ、多分。ささ、僕の仕事車に乗ってください。あの子達の援護に向かいますよ」
のび太は28歳当時には仕事用の車として、偽装も兼ねて、まだイギリス車であった時代のミニを購入していた。子供の頃、リバイバル上映で見た『ミニミニ大作戦』に触発されてのものである。(ミニ自体、図体が小さい割にパワフルで小回りが効くという点は後年も評価されている)のび太の映画好きの好事家の側面がよく表れている。
「おい、のび太。よく手に入ったな?イギリス車時代の元祖ミニなんて」
「タイムマシンで、当時に若かったのび五郎おじさんの名前使って買ったんですよ。おじさん、しょっちゅうイギリス行ってたから」
大叔父の名を出すのび太。祖父の兄弟で最年少で、戦後生まれの祖父の四番目の弟(五男)は21世紀でも存命で、のび太にお小遣いをくれる好々爺である。祖父の兄弟では、大甥ののび太が30代間近の時代まで生きた唯一の人物で、長兄ののびるの長男であるのび助、その子であったのび太親子を可愛がった。彼はミニが売られていた1960年代で20代そこそこだったが、彼は父ののび吉(のび太の曽祖父)が戦前に成した財の運用に成功しており、裕福であった。その彼が保管していたモノをレストアしたという体裁で登記した車だ。
「ま、こいつはラリーでも優勝経験のある奴だけど、好事家くらいなもんだと思うぞ。21世紀まで60年代の形式を動態保存してたの」
のび太が大叔父から引き取った体裁でレストアしたミニは基本ベースがエンジン排気量が1275CCに改良された仕様のクーパーSであり、かつて、ラリー・モンテカルロで優勝経験を持つモデルである。切歌(聖闘士)は基地に残ったため、黒江と調が同乗した。マドリードの市街地を1940年代という時代の都合上、1930年代以前の古めかしいスタイルの車を時たま見かけるが、殆どは軍用車両だ。そのため、1940年代から20年後にあたる60年代のスタイルのクーパーSは端的に言えば、『スタイリッシュ』な印象を与えた。ミニは小さく纏められた割に、大排気量エンジンを積んでおり、日本の大衆車であったスバル360よりよほどパワフルに走った。青年になり、自分用のスポーツカーを乗り回す身となったためか、スネ夫ほどではないが、ドライビングテクニックも上手くなっている。
「腕、上げたな」
「仕事用って言ったでしょ。小型で小回り効くほうが逃走にはいいんですよ、実際」
「のび太くん、そっちの道が近いよ」
「OK!」
マドリードの道路は政情がめちゃくちゃなためもあり、自家用車は殆ど通っておらず、避難したため、市民の姿も殆どない。時たま軍用車両が通るだけだ。青年のび太は車を飛ばす。クーパーSは小回りが効くため、青年のび太の運転によく応えた後の時代のようなビルはなく、交通網もまだ郊外まで整備されきっていないため、クーパーSの見かけによらない走破力は役にたった。のび太のイメージカラーである黄色に彩られしミニクーパーがヒスパニアを疾駆する。
「武器はあるのか?」
「用意してありますよ。スペアポケットを借りて着たんで、トランクに入れてあります」
「まーた、ショックガンと空気砲かよ」
「今回はジャンボガンですって。子供の頃の冒険じゃないのは承知してます。弾もたんまり用意してあります」
「あれ、反動キツイからなぁ。拳銃で戦車砲撃つようなもんだし」
「貴方達からすりゃ、屁でもないでしょ」
「そりゃそうだが」
一応、ぶーたれる黒江。反動がキツイ(黒江でも発砲時は象を吹き飛ばすライフル弾を拳銃で撃つような反動がかかる)ので、ジャンボガンは好んではいないらしい。
「のび太くん、裏で苦情処理もしてるんですよ。東條英機が父親の東條英教が大将になれなかったのを押し付けられて軍人になったとかで、この世界の東條英機はウィッチに優しいとかで、ウィッチの多くから慕われているのを史実の罪で国外追放にしたがってる野党連中に押されて、与党もバード星への移住を勧めてるそうで」
「あの人は敵対者には身内であろうと容赦しねぇが、それ故に日本から敵にされてるからな。嫡流の子孫が21世紀になっても日陰で生きてるのがその証明さ。戦争指導を誤った当人は責任を負うべきだが、その子孫には責任無いだろ。そこが日本の嫌なとこだぜ」
確かに、東條英機当人には日本と扶桑双方で指導を誤った責任があるが、その縁筋には責任はないはずである。日本には東條英機の嫡流を英機から数えて四代後まで迫害してきた事の趣旨を正当化したい者たちが大勢いる。もちろん、東條英機本人は史実でもそうだが、国民の統制に憲兵も使った事は糾弾されるべきだが、東條は生粋の政治家ではなく、あくまでも『軍人』であったため、彼個人の思想としては正しいつもりだった。しかし、それが実質的に彼の扶桑での政治生命にとどめを刺したのだから、皮肉なものだ。日本は軍人へのマイナスイメージが根強く、野党が扶桑軍を自衛隊の下に置きたがったり、自衛隊に取り込み、無理矢理に人員削減をしようと目論んだり、アナーキストによる扶桑軍人や指導層へのテロリズムが後を絶たない。そのため、扶桑ウィッチの立場を追い込みかねないクーデターの抑止に武子は心血を注いでいたのだが…。
「日本が徒に、こっちの軍隊を締めつければ、それへの反発が起こるのは当たり前だ。別に外国の統治が及んでたとこに土足で入り込んだ事は近代はしてねぇよ。最後にやったのも、傭兵で外貨を稼いでた安土時代くらいなもんだ。それに、安土時代に海外に出たから、扶桑の今の立場があるってのに。ケイが言ってたが、抑え込むより少しは爆発させちまった方が後々纏まるぜ?」
「それを分かんないのがアナーキスト、それと時代遅れのコミュニスト共なんですよ。平和主義者の顔をかぶってるくせに、総括と言う名のリンチをする」
「連中は自分たちなら、スターリン、毛沢東、ポル・ポトが犯したポカをやらないと思ってるからねぇ。彼らが犯した過ちが積もりに積もったから、中国も経済的に行き詰まってきたし、ソ連は滅びたのに」
「連中は日本人は北海道を捨てて、本州に引きこもって餓死しろって言いたいのかね、まったく…」
「お、そだ。ケイはゲッターの使者になったろ?それで、武子のやつが先回りして押さえようとしたら、地下化して軍部が割れるほどの内乱になって、日本の介入で軍が機能不全にされちまう場合の未来をみたそうだ。だから、ある程度暴発させたほうがいいんだよ」
日本は戦後、右派的思想が激しく衰退し、共産主義が栄えそうになり、慌てて右派の論客や政治家、元軍人の公職追放がGHQに解除された経緯があるため、21世紀になっても、ナショナリズムに冷淡である。そのため、扶桑軍を危険視し、欧州の動乱に関わりたくないがために軍縮を進めようとしたら、扶桑が国際連盟(後、国際連合)の常任理事国であるが故にそうもいかなくなったという状況が現在なのだ。
「うん、あれは?」
「飛天の飛行機雲だ。敵本土を爆撃しに行くとこさ。この時代に高度12000超えの超重爆撃機は迎撃が困難だしな」
「富嶽のジェット化でしたっけ」
「ああ。日本側がうるさいんで、調達数は減らされたから、既存の富嶽と並行運用になっちまったが」
「戦略爆撃機は維持費が高額だからってことだけど、F-15Eがない日本は戦術爆撃効果が不十分な機体が多い。F-2は陸攻に近いしな。だから、俺が員数外のバルキリーを揃えないと作戦での航空支援も満足な効果が出ないんだよな。もってこれた数が少ないし」
黒江の配下の自衛隊の作戦機は20機にも満たない。そのため、バルキリーやセイバーフィッシュなどの未来の機種を老朽化した機種の代わりに調達せざるを得ない始末だ。また、地球連邦軍も無人戦闘機の運用を本星では縮小していたので、旧式化したVF-11以前の機種も動員している。しかし、VF-4とVF-5000世代は少数派で、しかも前者は数が少ない。現存する数が少ないからだ。軍縮時代にかなりの数が処分され、更にガトランティスとの本土決戦で多くが失われ、それ以降の時代では現存数は希少である。そのため、当時に決戦兵器とされていたVF-11が星の数ほど多いため、敵味方ともに使用している。地球連邦軍は軍管区ごとに主流の機種が異なるという問題を抱えており、本星は侵略が絶えない時期であり、熟練パイロットを多く抱えている事もあり、俗に言うAVF(次世代全領域可変戦闘機の意味だが、軍の主導で完成した最後の高性能機を指す意味合いも持つようになった)が主流に戻りつつあるが、他はVF-171やVF-11である。
「F-4はもう目に見えないとこで老朽化してるし、たとえVF-1でも、21世紀からすれば、高性能機ですよ。自衛隊の連中でも辛うじて整備ができるし」
「そうなんだよ。基本的に21世紀の現用機の延長線上の技術でVF-1の根本は成り立ってるしな」
車内で三者は話をする。黒江は現場でシワ寄せが来る立場であるため、防衛省が処分のつもりで送ってきたF-4EJ改を持て余していた。脚部が折れる、エンジンノズルが外れるといった経年劣化が表れ、苦情を入れたら、流石に慌てたか、米軍の強い圧力によるものか、『F-35を代替機にしていい』としたが、最新機を出すことを渋る野党が提案を問題化させて潰したので、これまた政治問題になり、現場の裁量という事で、セイバーフィッシュやVF-1EXの使用が黙認された。F-35より遥かに高性能な機体が黒江の裁量で与えられたことになるが、この時の運用が可変戦闘機の可能性に日本が着目するきっかけになり、基礎理論の確立に貢献する事になる。
――この派遣部隊機材の問題は、黒江が『長門の記念艦としての置き場所』とともに苦労させられた話題でもある。そのため、航空自衛隊の一部パイロットのみがこの恩恵に預かり、23世紀の第一線機種に搭乗できた事になる。
「VFの他は、コスモタイガーは流石に無理だから、セイバーフィッシュに留めた。良かったかな?」
「あれでも21世紀の戦闘機よりよほど性能いいはずなんで、良いチョイスですよ。ワイバーンとかは数ないし」
「マスコミ連中に見せたいぜ。俺がどんなに苦労してるの。ガキどもにゃ疎んじられ、日本のブンヤや政治家は旧軍出身ってんで敵視する。味方はお前やドラえもんとかしかいねぇと来てる。ほんと、疲れちまうよ」
愚痴る黒江。日本で苦労続きであるため、日本の政治に、自分がさんざ振り回されてきたためだろう。その一方で、のび太が裏で黒江への誹謗中傷に対応している。のび太は青年期以降は懐柔も巧みになったため、G派の裏工作にも手を貸している。特にマウントを取るというのは、のび太が成人し、アニメも声優が代替わりし、作風も変化した後の時代である、21世紀の者達に見られる批判である。愚痴っている間に戦場へ到着する。戦場では、三人のプリキュア(イメージカラーがピンクなので、ピンクチームと言うべきか)が戦闘を繰り広げていた。
――転生後は航空ウィッチとして存在していた事もあり、スタミナ節約も兼ねているのか、技をできるだけ使わず、ウィッチ本来の銃火器と近接戦闘用の刀剣類という組み合わせで戦闘しており、キュアメロディなどはスタミナ節約と称し、身体能力が強化されているのを良いことに、Caliber.50と通称される12.7ミリ重機関銃を撃ちまくっていた。転生後の好みが出たところと言える。また、キュアドリームは、元々が中島錦として大口径砲を好んでいたためか、二式20ミリ機関砲(陸軍の20ミリ砲)を撃ちまくっているなど、意外に過激である。比較的に使い勝手を重視するキュアハッピーでも『MG42』であるなど、持ち出した火器は中々に過激であった。転生前と違い、皆が現在は職業軍人であり、ウィッチである事がそうさせたのか、キュアドリームは専ら、車両の天蓋装甲やキャタピラを破壊する役、キュアメロディとキュアハッピーは兵士の担当だった。――
「まさか、プリキュアとしての姿で、銃火器を使って戦うことになるとは思ってもなかった!」
「まー、技を連発すれば、それだけ体力使うし、アタシ達の技は本来は浄化技なのも多いんだよ?ある意味、的は居てるって」
「全国の良い子に見せられない姿だよ、これ」
「仮面ライダーやスーパー戦隊みたいに、技を乱発できる体力がアタシ達にはないかんな。それに、前世に縛られる必要は本当はないんだぜ、ドリーム?」
「私はちょっと抵抗あるけど、どうせなら、大口径砲を撃ちたいもの。他のみんなには見せたく無いなぁ、これ」
「20ミリ砲持ち出しといて言うことか?それ。プリキュアに変身したところで、スタミナが飛躍的に上がるわけじゃないから、合理的に考えりゃ合ってるけどよ、なんかこう、なぁ」
「メロディ、地が出てるよ、地」
「記憶はあるけど、前世と同じ振る舞いは難しーぞ?あたしなんて、相方いなくても変身できてるしさ」
「それもそうだよねぇ」
「こらそこ!納得すんじゃなーい!」
頷くキュアハッピーと、納得のキュアドリームに怒りながらツッコむキュアメロディ。全てが前世と同じではないのを自覚する二人と、概ねは前世の人格を維持できたキュアドリームの違いが際立つ。ドリームも大口径砲を好む、中島錦としての嗜好が反映されているが、口調は前世とほぼ同じなままだ。物陰に隠れつつ銃撃戦を戦っていると、のび太たちのミニクーパーが到着する。青年のび太が運転しつつ、SMGを開けた窓越しに連射し、兵士をなぎ倒す。同時に、後部座席のドアが開き、黒江と調の師弟が飛び出し、瞬時に手刀のエクスカリバーを放ち、三人に迫る装甲戦闘車両と兵士を蹴散らす。
「おまたせ、みんな」
「のび太!(君!)」
「さて、偶にはかっこいいところ見せないとね」
青年のび太は車を降りると、アーマライトAR-15を瞬時に構え、連射。兵士達を次々と行動不能に陥らせる。手刀で何でもかんでも斬り裂く二人に比べれば、まだ慈悲がある。
「先輩!ズルいですよ、それー!」
「こちとら、聖闘士だぞー。こういう一対多の局面に使わないでどーする!それに、のび太の持ってきた武器を節約せんといかんし」
「む〜!なら、私も!パワーアップ前の技の改良版!『真・プリキュア・ドリームアタァ〜ック』!!」
トレーニングに参加してから、独自に持ち技の改良に努めていたのか、パワーアップ前の必殺技の改良も行ったようである。(また、『真〜』と名付けたのは、ゲッターロボの必殺技がパワーアップすると『真〜』とつく事、ウィッチとしてのもう一人の先輩である圭子に肖ったという二通りの理由があるらしい)真・プリキュア・ドリームアタックだが、その様子は以前と異なり、蝶の形を象った高密度エネルギーを射線の大きいビームとして、拳を突き出しながら撃ち出すというもので、圭子が生身で空間に満ちるゲッターエネルギーを制御し、ゲッタービームとして撃つ様子に多大な影響を受けたらしいのがわかる。また、放つ際のポーズは圭子へのリスペクトもあるが、大まかにはプリキュアとしての後輩の一人であった『ハピネスチャージプリキュア』のキュアラブリーのビームとの差別化の意図もあるらしく、片手に機関砲を持ちながらでも撃てるように試行錯誤したらしい。
「あ、のび太君!」
「心配いらない」
のび太は元々、二丁拳銃も得意とする強者である。キュアドリームの呼びかけに応じたと思うと、AR-15を右腕に持ち、左腕で拳銃であるスーパーレッドホークを取り出し、撃つ。銃剣を使うつもりで不用意に接近してきた兵士を撃ち抜く。その間、零コンマ数秒。
「言ったろ。クイックドロウに関しては、Mr.東郷よりも早いって。弾は少なめ、狙いは正確に、ね」
のび太はマグナム弾装填済みのスーパーレッドホークを連射し、ドリームを援護しつつ、走りながら、リロードまでに6人を無力化してみせるなど、自分のテクニックを一同に見せつける。銃撃テクニックのデモンストレーションを兼ねてのものだろう。銃を撃たれる前に、横にバク転しながら横並びの5人の兵士を瞬時になぎ倒すなど、少年期から銃撃戦で用いる高等テクニックを見せる。この意外とも思えるアクロバティックさが、西部開拓時代で特異と見られつつも、一対六などの決闘での不利な態勢を覆してきたのである。また、リロードの瞬間を狙われても、二丁拳銃を得意とするが故に、左腕の銃で相手を正確に撃ち抜く。『やろうとしてもできるはずがない』二丁拳銃をのび太はやってのける。そこが西部開拓時代から、アメリカで二丁拳銃の謎のガンマン伝説として、『ノビータ』という名のガンマンの伝説が言い伝えられてきた理由であり、クイックドロウ(早撃ち)は、あのデューク東郷も『俺を上回る』と認めたのである。二丁拳銃がアメリカで一種の伝説になった理由を『自分が西部開拓時代に行ったからだ』と自負するに相応しいガンファイト能力を見せ、3人のプリキュアを唸らせる。殊更、銃撃戦では思考にブーストがかかるのび太の性質もあり、スナイパーの狙撃にすら反応して避けるなど、超人じみた活躍である。オートマチック拳銃を持たせれば、ガン=カタをおっ始めるなど、その才は天性のものなのがわかると同時に、青年期に至るまで、相応に鍛錬をした事が窺える。
――彼はドリームからはのび太君と呼ばれているが、青年のび太の風貌はギャグ漫画のような丸縁のメガネをかけている(30代半ば以降は視力が何らかの手段で改善した)以外は顔立ちの整っている好青年のものであることもさることながら、既に世帯を持つが故の包容力を持つ事、その無垢な優しさが、ドリームのかつて愛した『誰か』を思わせる雰囲気を醸し出している、などの理由で慕われるようになっている。のび太が青年期(20代から30代頃)にスケコマシと同僚に噂された理由は、晩婚化の叫ばれた21世紀では、意外と言えるほど早くに、しずかと籍を入れているのにも関わず、本人の精神的イケメンぶりから、調やのぞみなどと浮き名を流したからでもあり、環境省の同僚から『両手に花だと!?チクショウ!』と嫉妬を買っていたからでもあった――
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