外伝その261『イベリア半島攻防戦10』


――501のヒスパニア駐留に伴い、前線は完全にヒスパニアへ移行したと見なされ、武子もキュアピーチを直接、ヒスパニアへ移送した。いや、変身は解除していたので、桃園ラブと言うべきか。のぞみの必死の擁護と黒江の説得で彼女を自部隊へ入隊させた武子は、駐屯地にコスモタイガー複座型で飛来。彼女を送り届けた――

「ラブちゃん!」

「の、のぞみちゃん〜!訳がわからないよぉ〜!気がついたら教科書で見たみたいな昭和初期だか大正だかの頃の東京にいるし、死んだはずなのに、あの頃の姿に戻ってるし、警察と思ったらさ、旧日本軍の基地に連れてかれるし〜!」

「とりあえず落ち着こう。……先輩、書類は?」

「とりあえず、入隊届にはサインさせたわ。貴方のウチの部隊への引き抜きも済ませてあるわ」

「ありがとうございます」

この時には、のぞみも変身を解除した上で、軍服を着用していたので、現役時の天然系な少女な姿とは打って変わっての振る舞いを見せていた。ラブは前世での死去から間を置かずに現役当時の姿に戻って転移したらしいのだが、肉体が往時の姿に戻ったためか、言葉づかいや精神状態その他も、フレッシュプリキュアであった当時に戻っている。服装も現役当時に着ていた私服姿であり、変身アイテムも持っている状態であった。

「も〜!ついていけないよぉ〜!」

「落ち着いて、ラブちゃん。状況をわたしの部屋で説明するから」

「説明って〜!?」

「私はミーナに説明してくるから、その子の面倒は頼んだわよ〜」

「わかりました〜!」

自室に連れて行った後、のぞみは全てを教える。この世界は第二次世界大戦が本来であれば起こっていた年代の別の世界の地球であり、ラブはそこに転生したこと、自分と先輩(黒江)の計らいで現地の日本軍に入隊したという事になっていることを伝える。生前には成人後に芸能界にいたため、プリキュアとして戦っていた経験があるとはいえ、戸惑うラブ。

「な、なんであたしが軍隊に入る事になるの!?」

「そのほうが『居場所』が得られるんだよ、ラブちゃん。この世界は、私達が昔に戦ってきた敵みたいなのが昔からウヨウヨ出てきてるんだ。力を持つ者には戦うことが運命づけられてる世界なんだ。それに、わたしはラブちゃんみたいな生き返り方じゃなかったんだ。この世界にいた子の体を乗っ取る形で生き返ったの。だから、気がついたら、軍人だったんだ。だから、自然に戦争に参加することになってたんだ」

軍服を着ているのは、当たり前だが、軍人であるからで、この世界の人間の体を自分が乗っ取る形で生き返ったので、軍人をしているのだと説明する。体の持ち主である中島錦に事実上成り代わる形で生き返り、錦の記憶を受け継いだため、中島錦が死んだわけではないという事になるのだという。しかし、乗っ取る形で人格を上書きしてしまった事には変わりはないため、その償いのため、錦が持っていた全てを背負って、二度目の生を生きると告げる。

「その子の持ってたものを背負うの!?」

「だって、わたしの今の肉体は、元はその子のものだよ?その子が生きてたところに、わたしが割り込む形でその子の体を乗っ取っちゃったも同然なんだ。だから、その子のためにも、できるだけの事はしたいんだ。元…ううん、プリキュアとして、ね。それにラブちゃん。元の世界に戻っても、戻る先はね。状況からして、わたしたちの孫の時代なんだよ?その姿じゃ、家族にも家族って分かってもらえずに病院送りがオチだよ」

「それじゃ、この世界で生きろっていうの!?」

「それしかないよ。それに、わたし達はプリキュアだよ?色々なことがあったけど、わたしたちを必要としてる世界があるのなら、世界の意志が、死んだわたしたちを昔の姿に戻したのなら、また戦うだけだよ。プリキュアとしてね」

一度は天寿を全うしつつも、プリキュア本来の力の根源が直接、肉体に作用する形で(ゲッター線の意志も働いたのだろう)プリキュアへの変身能力を取り戻した自覚があるらしいのぞみ。成人後に築いたパーソナリティが多少なりとも現役当時の姿に戻っても残存したためか、現役当時より大人びた発言を見せた。素体の錦の要素も含まれているのかも知れないが、とにかく、その場は決めたわけである。

「どうして、また変身できるようになったの?ここは……」

「わからない。だけど、『プリズムフラワー』とかそういう次元じゃない、もっとすごい、世界の根源的な何かがわたし達にまた力をくれた。それがわたし達をこの世界に転生させたんだよ、ラブちゃん。たとえ、わたし達が現役の頃には想像も出来ないような敵と戦うような事態になっても、やるしかないんだよ。あの時の約束を守るためもに、ね」

「のぞみちゃん……『あの時』の事を?」

「うん。友情はいつか壊れるって、前世で大人になって、先生してる時に生徒の親御さんに言われたんだ。子供の時の友情は大人になれば壊れやすくなるし、利用されるだけだって。だけど、私は違うって言ったんだ。みんなとの思い出があったから、わたしは先生になれた。否定されたくなかったんだ。大人になって、他のみんなと離れ離れになっても、あの時の約束は」

のぞみは成人後に教諭となった後も、ある戦いでの約束を拠り所に、自らのアイデンティティを守り通した。その事と、黒江から聞かされた異世界(彼女らの故郷からすれば)の戦士たる、九人の仮面ライダー達の事も効いていた。ある時は『弔いの鐘がよく似合う、九人の戦鬼』とさえ恐れられた彼ら九人ライダーの激闘。その事も、のぞみが現時点では最古参のプリキュアでありつつ、生前に教諭であったが故の責任感の強さをみせた。

「それに、私の上官で、士官学校の先輩が私達と別の世界にいる戦士達の事を教えてくれたんだ。なんだかよくわからないくらいのテクノロジーで体を機械に置き換えられて、化け物同然の体にされても、その体で戦い続けたって人たちのことを」

「待って、のぞみちゃん、それって……仮面ライダーのこと?」

「ふぇ!?な、なんで知ってるのぉ!?」

「いやぁ、子供の頃にTVのヒーロー見てて……平行世界の概念があの時にハッキリ分かったんだし、前々から……いや、あの時から思ってたんだ。そういう世界があるかも知れないって」

「なんだぁ〜…」

「それに、のぞみちゃん。プリキュア5で、ここにいるのってさ、のぞみちゃん一人だよね」

「そうなんだよぉ〜…。他のプリキュアは今のところ、メロディとハッピーだし、しかも、色々な別の人の記憶や経験も引き継いでるんだ、あの二人。私は…純粋に前世の記憶しかないから、意気込んでも、どこか引け目が…」

「なら、一人で他の四人の技を使えるようになったらいいんじゃないかな?」

「えー!?ファイヤーストライクとか、サファイアアローとか!?」

「シューティングスターだけじゃ、ジリ貧だよ?仮面ライダーがいる世界なら、こういう展開だと、特訓はお約束だし」

「うぅ、この体の記憶はあるから、ある程度は弓道やサッカーできるけど……。なんか、りんちゃんやかれんさんに悪いなぁ」

「仕方ないよ。他のみんながいない上、仮面ライダーだって、定期的に新技考案して勝ってきてるしさ」

「ラブちゃん…、もしかして、特撮好き…?」

「いやあ、いい年して、ヒーローもの見るのはどうだろうって思ってたし、気がついたら自分が変身ヒロインになっちゃったし、芸能界いったしさ…。大人になってから、何度かゲストで出たから、知識あるんだよね」

「うららちゃんも芸能人でプリキュアだったから、その心配ないってー!」

「それもそうか〜!」

「そうか、じゃないって〜!こっちは二連続で技を弾かれてるんだよー!」

「技が効かないんならさ、ステゴロでやればいいんじゃ」

「それだー!技を技で封じられるなら、ステゴロで!」

「その発想、やっぱ初代の後輩だなー」

「あ、先輩!」

「のぞみちゃん、この人は?」

「さっき話した、仮面ライダーの事を教えてくれた先輩で、黒江綾香さん」

「君が桃園ラブか。なるほど、こいつよりは頭は回るようだな。発想はいいが、今の君達じゃ、俺の髪一つ、そよがす事も怪しいぞ」

「プリキュアになれば…!」

「ううん。先輩の言うことは本当だよ。先輩はオリンポス十二神の守護戦士でもあるんだ。今の私達じゃ、技を使っても、ステゴロでやっても引き分けることも…!」

「嘘ぉ!?で、でも、見かけ、あたし達とそんな変わらないよね!?」

「こう見えても、22だよ。先輩は」

「えー!キュアムーンライトとかでも、せいぜい高校生くらいだよー!?見た目詐欺だよ、それー!」

「よく言われる。ステゴロで君らが勝てる可能性は殆ど無い。君らがプリキュアになったところで、一秒間に繰り出せるパンチはせいぜい100発程度だが、俺は億に達する。基礎スピードが違うんだよ」

「お、億ぅ!?」

「それに色々な拳法も身に着けてるから、生前、プリキュアの一線を退いた後は戦闘経験がそれほどない上、プリキュアの能力頼りだった君らと差ができてるんだよ、ラブ君」

「先輩、この世界で『強すぎ』って、昔から鳴らしてたからなぁ…。プリキュアになっても勝てないんだよねぇ。たぶん」

「嘘ぉ!?」

「そりゃ、お前。俺は11人ライダーから手ほどき受けてるし、聖闘士でもあるから、自分であれこれ鍛錬しまくってんだ。プリキュアの最強フォームだろうが、指先一つでダウンできるぜ」

「そんな、漫画みたいな…」

「お前らだって、自衛隊からみりゃそーだろ」

「う、直球だー!この人ぉ!」

「先輩、この時代の人なのに、私達が生きてた頃の人たちみたいにノリいいんだよなー」

「つか、何処の世紀末救世主ですか!?」

「お前らが生きてた21世紀でも、俺は仕事してんだから、当たり前だろ。それにスーパーヒーローとスーパーロボが普通にいる世界にも行ってるしな。話、終わったぞー、甲児」

「ふう。待つのも疲れるぜ」

「あれ、まだいたんですか?」

「ダチからの差し入れを貯蔵庫に運んでたしね。それに俺のマジンガーは、君らにこの世界の状況をわからす一番の手段だしな」

「あー!!あなたはもしかして…マジンガーZの!」

「ご名答。如何にも俺は兜甲児。昔、マジンガーZのパイロットだった男さ」

ラブは甲児を見るなり、すぐにマジンガーZの主人公かつパイロットだった兜甲児であるとわかったようで、ニヤリとする甲児。その上で、今はZのパイロットではないと断りを入れた。

「俺はZを昔の戦いで失った歴史を辿った場合の俺自身さ。ミケーネとの最初の戦で将軍級とやりあって失った。一時はグレートマジンガーに戦いを託していたが、おじいちゃんの最後の遺産である『第三のマジンガー』が見つかって、パイロットに戻った」

「だ、第三の…」

「マジンガー…?」

「おじいちゃんが俺に遺した、『神を超え、悪魔も倒す』第三の魔神。皇帝の異名を持つデビルマシン、マジンカイザー」

魔神皇帝(マジンカイザー)……』

「そう。マジンカイザー。Zもグレートも超える最強のマジンガーだ。百聞は一見に如かず。君達に見せよう」

甲児は格納庫で整備を受けるカイザーを見せる。格納庫に入ると、カイザーパイルダーとカイザー本体が別個に整備を受けていた。改良型のマジンカイザーはスクランダーを内蔵した都合上、30mを超えており、体格も大きくなっている。(以前は28m)胸の金色のモールドを無くし、その代わりに、放熱板を大型化し、ギガントミサイルが小型化している(炸薬量は増えている)また、頭部も改修されおり、従来のマジンガーに比較的近い顔立ちになっている。

「うわぁ……、これがマジンカイザー……」

「Zとグレートより圧倒的に強いマジンガーさ。もちろん、こことは別の世界で造られてるけどな」

「何せ、ガンダムとマクロスが同時に存在して、宇宙戦艦ヤマトもいる世界だもんな。で、ドラえもんもその過去に存在していたっていうカオスってる世界だ。おまけに、その世界、日本軍が普通に海底軍艦作ってたし…」

「なんですかー、それぇー!」

「とにかく。言えるのは、その世界の因果に巻き込まれてるわけだ、お前らは」

「とびっきりの最強のマシーン同士がガチンコするのは当たり前、ニュータイプのパワーが神代の奇跡すら超えると来てる。おまけに、この綾ちゃん、宝物庫から宝具出せるからな」

「ほ、宝具ぅ!?」

「エクスカリバーとエアの霊格を腕に宿してるし、王の財宝の力を行使するから、ある程度のもんは出せるぜ。グラムとか、ゲイ・ジャルグとか」

「つーか、おかしーですってぇ!なんですか、そのエクスカリバーってぇ!」

「ステレオで喚くな!後で見せたる」

「元気な子達だ。大介さんからの伝言だよ、綾ちゃん」

「大介さんから?」

「ベガ星がぶっ飛んだみたいだ」

「ファ?ベガ星自体が?」

「奴らの星の方角で、極めて大きいベガトロン放射線が観測された。星を吹き飛ばすほどの爆発を起こしたらしい」

「んなアホな。地球型惑星を吹き飛ばすほどの爆発って」

「ベガトロン鉱石のエネルギー管理に失敗したんだろう、鉱山が誘爆し、これが惑星そのものを吹き飛ばしたんだろう」

「と、言うことは」

「奴らにはもう帰る場所はない。だから、ティターンズに手を貸しているんだろう。旧式の円盤獣まで出してるからな」

「糞、百鬼の連中は無傷だってのに」

「ミケーネ残党もいるからな。おまけに地獄大元帥は他の世界と違って、デビルマジンガーに体を変えやがったしな」

「地獄大元帥なぁ。あんにゃろ、お前のおじいちゃんに意中の女を取られたからって……」

兜十蔵、その妻とドクターヘルは23世紀世界では、大学時代は同期であり、青年期は親友の間柄であった。十蔵の妻『弓子』(兜剣造の母)は若き日のドクターヘルが片思いしていた、という関係だ。ちなみにドクターヘル、日頃からあしゅら男爵が連敗しまくっていたので、『部下が血相を変えて報告に来る=機械獣(戦闘獣)が負けた』という、なんとも哀れな図式が出来上がっていたりするので、闇の帝王に同情されていたりする。

「あいつ、世界征服をロマンっていい切る割に、世界を書き換えたいっていう野望を闇の帝王に気に入られて蘇生されたからな。ZEROも奴を利用するだろう」

「ミケーネの遺産、えーと、マジンガーに酷似した『インフィニティ』はお前の世界にあったっけ」

「俺の世界にはないな。アレが見つかっていれば、インフィニティで一発逆転狙ってるさ」

「んじゃ、闇の帝王は何で皇帝に対抗を?」

「別世界のグレンダイザーだろうな」

「ナヌ?」

「闇の帝王はアラストル体だ。肉体になるのは何でもいいが、グレートマジンガーより強いグレンダイザーは俺達へのお返しにはうっってつけだ。別世界の大介さんの子供か孫の代の操縦者を倒せばいい話だ」

「そうか、グレンダイザーのセキュリティはアラストル体には無意味だ!」

「ああ。おまけに闇の帝王の生命エネルギーを光量子の増幅器にすりゃいいから、補給無しで動ける」

「グレンダイザーの別個体を鹵獲かぁ。おりゃてっきりガッタイガーでも使ってるかと」

「ガッタイガーは存在してる世界線が希少だしな。その点、グレンダイザーは比較的見つけやすいからな」

「ZはZEROになり得るから、避けたのか?」

「たぶんな。グレートはロボット博物館のクソ甘いセキュリティだから、容易に奪えると踏んでるし…、ガッタイガーは宇門博士がアイアンZ用パワーアップとして作ってる」

「アイアンZをガッタイガーに?」

「まあ、ZEROも予期してないだろうし。Gカイザーは予期されたから、エンペラーになったんだし」

「別のZに魂を宿して変異させるのか?」

「ああ。それが奴の輪廻転生だ。ただ、素体の性能差で奴のパワーも差が出るが」

「さやかさんはなんて?」

「アルテミスAを作りたいというが、パイロットからもう退いてるし、ビューナスとかはお呼びでないぜ」

「カイザーや真ゲッターが戦う時勢だしなぁ。マジンガーエンジェル計画は?」

「鉄也さんは冗談だろ?とまともに取り合ってないから、さやかさんに怒られてたよ。ま、カイザーやエンペラーが主役の戦場で許されるのは、ボロットくらいなもんだぜ」

「あれ?ボスさん、高校出たとか言ってなかった?」

「ああ。ボス達はラーメン屋開いたよ。みさとさんのツテで開業した。今は新科学要塞研究所の近くで店を切り盛りしてる」

ボス、ムケ、ムチャは高校を出た後、三人でラーメン屋を開業し、デザリアム戦役前の頃には落ち着いていた。場所は光子力研究所の周りの地価が光子力民需研究の頓挫で下落し始めていたが、とても手が出ないので、兜剣造に頼み込んで、新科学要塞研究所の保有していた土地を譲渡してもらい、そこに店を建てたのだ。陽子エネルギーに研究用途が切り替わった事、ジャパニウムをエネルギーとして大規模に利用するには、富士山の掘削工事が必要であり、どうしても住民を説得できなかったことで新研究所建設が頓挫した光子力研究所は博物館にする計画をさやかが立てている。マジンガーの拠点としての機能はゴッドの砦に移行させていたからだ。

「本当は今頃にヘリウム3に代わる地球本土の発電エネルギーとしての運用拠点としての新光子力研究所ができてるはずだったんだが、富士山の掘削工事にノーが突きつけられて、結果はご破算。新科学要塞研究所の陽子エネルギーと光量子エネルギーの研究が俺たちのメインになった。さやかさんは怒ってたよ」

「しかたあるめぇ。富士山の掘削工事なんて、歴史上の風景がいくつも消えてるのを見たアースノイドが認めるかってんだ。陽子エネルギーの研究所にするしかないだろうなぁ」

「それと、ZEROがグレートとカイザー絶許がアイデンティティだろ?さやかさんは『理解できない』と言ってたぜ。それも光子力が見捨てられた原因の一つだし」

「ZEROは光子力を使うマジンガーはZだけでいいんだ!って思考回路だしなぁ。んなんだから、ゲッター線に嫌われて、マジンエンペラーGに負けるんだよな」

「お、お前がいるんだ。このガキどもにZEROのことを教えてやってくれ。元はと言えば、別世界のお前自身のせいだしな」

「それを言われるとなぁ。ま、俺の生み出しちまった怪物だし、君がある程度教えてるんだろ?なら、てっとり早い」

黒江は、のぞみとラブ向けに本格的なマジンガーZEROについての講義を甲児にさせた。ZEROが持つ、歪んだ兜甲児への愛がいくつもの世界を災厄に陥れたからだ。甲児は自分の責任に言及しつつ、因果律兵器で、のぞみやラブの大切な全てを奪う可能性がある事をハッキリと告げた。のぞみは因果律兵器の威力を兜甲児に明言されたショックで泣き出し、ラブも顔面蒼白になっていた。

「そんな……私達が生まれてきた事実も書き換えられるの……!?みんなとの思い出もみんな、そのマジンガーがNOと言えば…」

「そんな、そんな化け物、私達プリキュアが結集したって……」

「大丈夫だ。そんな事はさせない。俺と鉄也さんが命を燃やしてでも止める。明日を掴むためのデビルマシン、それが二大魔神皇帝だ」

「二大……」

「魔神皇帝…?」

「マジンカイザーとマジンエンペラーG。二大皇帝が並び立つ時、奇跡は起こる。俺が生み出しちまったようなもんの始末をつける。君達が守った世界を壊させないためにも、ね」

「ニクい台詞だねぇ、えぇ、甲児さんよぉ」

「茶化すなよ〜、せっかく子どもたちの前でバシッと決めてんだからよ。神になるか悪魔になるか、デビルマシンつったって力の善悪なんざ使う奴の胸先三寸、世にいう悪魔の有名どころだって大抵は元々神様だったんだ、自分の正義を信じて成すべき、自分に出来る全力で駆け抜けるしかできねぇんだけどな」

「そうだ。俺たちマジンガー乗りにできることは燃える友情を信じ、悪を討つことだ」

「鉄也さん、来たのか」

「今さっきだが、綾ちゃんが子供をまた拾ったって聞いてな」

剣鉄也もやってきた。のぞみとラブは転生者でもある甲児と鉄也からすれば、本当に子供である。

「リョウ君は?」

「リョウなら、今頃、ブラックゲッターでバイオレンスアクション中さ」

「こいつらがそうだが、中身はオバハンかもしれんけどな!」

『ひっどーい!』

オバハンという言葉に反応するあたり、やはり精神状態が強く反映されている二人。意を決し、二人はそれぞれプリキュアに変身を行う。マジンエンペラーGから発せられる高濃度ゲッター線の影響か、変身アイテムを介さずとも、変身時の掛け声で変身が出来た。

『プリキュア・メタモルフォーゼ!』

『チェインジ・プリキュア・ビートアップ!』

ゲッター線の影響か、無意識のうちに同調しての変身であった。変身アイテムを介さずとも変身した。これは黒江も驚嘆の光景である。

『大いなる希望の力、キュアドリーム!』

『ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!』

名乗りは無意識のうちに行うが、その直後に我に返り、キュアドリームがアイテムを介さずに変身した事に、ピーチも驚く。

「え!?ドリーム、今…アイテム使わないで、メタモルフォーゼしたよね!?」

「嘘ぉっ!?ど、どーいう事ぉ!?」

「ゲッター線の影響だな」

「わーお。さすがゲッター線。ドワォだな」

黒江は鉄也の言葉にそう言う事しか出来なかった。歴代プリキュアは代によって、変身アイテムがあるかないかがあるが、この場合、キュアドリームへの自然変身をゲッター線が促したと鉄也が見ている証だろう。

「ふむ。これが芳佳ちゃんとシャーリーちゃんも覚醒したという、プリキュアか。14歳ほどの少女が覚醒する場合が多いと聞いたが、ボスが見たらハッスルするな」

「あー、それありそ」

「君達に尋ねる。再び得たプリキュアの力を何のために使うのか?」

「私達は…、みんなの笑顔を守るために戦ってきました。私達は初代から派生したプリキュアでしかないかもしれないけど……」

「でも、守りたいと思った心は……ブラックとホワイトには負けてないつもりです!」

「その意気だよ、二人共!」

「その声は!?」

「あたしだよ、二人共!キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

「ハッピー!?ハッピーもこの世界に来てたんだー!」

「今、ピーチが来たって聞いて、変身してかっ飛んできたよ」

「わー!これでプリキュアが三人だねー!」

「積もる話は山ほどあるけど、あたしは完全には星空みゆきじゃないんだよね。ピーチには、後で教えるよ」

生前が完全に所謂、『アホの子』状態だったキュアハッピーだが、今回は角谷杏としての人格が主人格であるが故か、飄々とした雰囲気を見せる。そのためか、若干ながら、自嘲が入っている。だが、ノリはいいため、名乗りは完全に生前と変わりなかった。

「あ、もう一人さ、記憶と能力を受け継いだ別人のプリキュアが居るよ、ピーチ。メロディさ、キュアメロディ」

「えー!?説明してよー、ハッピー!」

「後で本人に聞いてよ。メロディはあたしより荒っぽいし、複雑な状態だし、ガサツだし」

「最後、どー言うこと?」

「言葉通りさ。おまけに、紅蓮聖天八極式に乗るわ、歌で士気高揚できるくらいうまくなってるし…」

「え、え、え!?」

「うむ。あいつを表すなら、星の歌い手で、ナイトメアフレームのトップエースで、プリキュアなんだよなぁ。しかもふつーに魔女としてもエースだしさ」

シャーリー当人も自我の混じり合いで困っているが、北条響(キュアメロディ)としてのスポーツ万能さと責任感、紅月カレンとしてのガサツさと機動兵器操縦への天賦の才能、美雲・ギンヌメールとしての歌い手としての才能、元からのシャーリーとしてのウィッチとしての才能が混じり合ってきているのだ。主体は好戦的かつ攻撃的な紅月カレンのそれになりつつあるものの、優しさは北条響とシャーリーのそれを維持している。また、それらが混じり合ってきていることで、自分が誰だか分からなくなっていると苦悩もしている。シャーリーは多種多様な人物の記憶を有するが故に、自我の境界線が薄れているとも言え、それものび太と黒江に、弱音ともとれる事を漏らした理由なのだろう。

「でも、ピーチ。お前が来てくれたことで、あいつも精神的に安定するだろう。後で会ってくれるか?」

「は、はい」

こうして、少なくとも四人のプリキュアが揃ったことで、プリキュアチームを組める様になった。自我の混合で自分が誰だか分からなくなってきたと嘆くキュアメロディを精神的に救える存在が求められたのは本当である。新し目のプリキュアである二人が自我の混じり合いが起こっている状態、比較的に古参の二人が生前の自我を保っているという状態という違いになっているのは、なんとも不思議であった。



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