外伝その262『イベリア半島攻防戦11』


――マジンガーZEROという強大な敵がともかくも提示され、その打倒を目指すという事がプリキュア出身者を含めたGウィッチの目標と決まった。戦いそのものは様々な混乱と情勢変化と、扶桑での不穏な情勢もあり、長期化の様相を強めた。特に、機甲戦力の近代化を名目に、現存する旧軍式装甲戦闘車両の回収を行った事は『良かれ』と思っても、現地インフラとの兼ね合いで大問題となったため、自衛隊と政府は扶桑からの外交的要請を軽視出来なくなり、世論の反論を押し切り、自衛隊の増派を決定した。これは史実ほど装甲戦闘車両の運用ドクトリンが成熟しておらず、数の暴力が史実より単純な方法で表れた事、迎え撃つ連合軍の機甲戦力が殆ど、精鋭部隊頼りの練度でしか無いことや、近代化を進めた弊害で、必要数がそもそも確保できないと言った問題が絡んでいた――






――扶桑軍の機甲戦力は精鋭部隊を全投入していたが、本国から既存車両の補給が絶えてしまい、仕方がなく、ブリタニア連邦からセンチュリオンを現地で買い受け、その場しのぎの戦力とする状況になっていた。そのため、扶桑は保守サービスの観点から、まだラインが稼働状態にありつつ、比較的に高性能だったチトとチリを統合する案を提示し、日本側もMBTを補う数を揃えるための『時代相応の中戦車』案を承認し、認めさせた。これが後に、太平洋戦争を通して『実質的主力』となる『四式中戦車改』の起源にあたる。なぜ、チトベースかというと、当時のインフラ整備の状況と扶桑が自前で開発中の超大発動艇での上陸戦が可能なサイズであった事、チリの副砲を取っ払った『自動装填装置付き』の車両の開発では、必要時間の割に費用対効果が望めないとされたからだ。そのようなわけで、チリの車体の特徴をチトに落とし込むことでの改良が始められた。車両の改良は比較的早期に終わっていたが、敵戦車の想定が定まらないため、主砲口径も決まらず、開発は停滞した。しかし、開発チームは当時の新鋭戦車とされた『M26パーシング』を想定したため、備蓄した75ミリ砲弾の再利用を前提にしていた扶桑の思惑から外れ、90ミリ砲搭載で開発される。黒江がこれを知ったのは、作戦途中であり、開発チームとしては『75ミリ砲では早晩に陳腐化するから』という判断であった。しかし、扶桑の思惑からは完全に外れていたため、備蓄品の消費を目的に、攻撃/爆撃ウィッチ用の手持ち武器としての75ミリ砲を開発させる。かなりの重量が予測されたが、大馬力のA-1ストライカーとジェットストライカーを前提にするために問題なしとし、開発をさせている――



――その先行試作車両はチトを自衛隊初期の頃の技術で再構成したもので、五式改と総合性能では大差がないものではあった。しかし、新規設計の利点で車体装甲厚そのものは改善されており、その点では上回っていた。また、史実自衛隊で使用されていた90ミリ砲は1945年当時の技術での100ミリ砲を凌駕する威力であり、攻撃力は向上していた。黒江も74式のライセンス生産までの場繋ぎの観点からすれば、必要十分であると判定。旧式車両の生産中止で浮いた製造ラインを充てることで先行生産が始まり、その内の60号車からを前線に送り込んだ。本国の防衛用に50両は本国待機の戦車師団に宛てられていたからだ。作戦の大勢に影響を与えるような数は揃えられないとされたものの、作戦の長期化のため、そこそこの数(200両)は空輸で前線に配備され、車体規模と外観も性能も似る五式改と混ぜて使用された。また、砲戦車の代替に、自衛隊61式のライセンス生産も開始されていたので、ともかくも防衛省の思惑は一応の成功を収めた。そのため、新旧の自衛隊装甲戦闘車両が顔を揃えたと言っても過言ではなく、ティターンズがMSを温存しているためもあり、リベリオン軍への優位になっていた――





――と、言うわけで、戦線の要請もあり、プリキュアチームはレイブンズ配下の分隊扱いで編成され、早速ながら投入された。キュアピーチを除く三人は職業軍人としての訓練を受けている状態であるため、火器を携帯している。駐屯地近くに進出してきた数個師団に打撃を与えるため、のび太と圭子の引率で投入された――

「あのさ、三人共……、何、その銃」

「無いよりはあったほうがいいでしょ?世界大戦ん時の古いもんとは言え、戦車とやり合うわけだし、技の連発はそう出来ないしさ」

「いくらあたしらがプリキュアと言っても、十字砲火を突っ切るのは難しいだろ?念には念を入れてさ」

「使えないわけじゃないし、一応ね」

「う〜ん…。子供の夢壊すよ、見られたら」

「見るもんでもないっしょ、戦争の映像なんて」

「ハッピー〜…」

如何にも、と言った感じの実銃を持ってきた三人に多少引いているピーチ。三人の言うことは確かに当たっているため、反論はしないものの、プリキュアの姿で銃を持つのは、些かよい子の夢を壊すようなので、不満があるらしい。

『さーて、ガキども。耳ん穴かっぽじて、よーく聞きやがれ。あたしらの目的は敵の機甲師団を後退させる事だ。叩ければだが、その側面援護の砲兵連中もやる。今回は市街戦だ、隠れる場所はいくらでもある。側面から攻めろ。援護射撃はしてやる』

『りょーかい』

この時、ピーチは扶桑での志願兵扱いであるのと、ウィッチ扱いのため、軍隊階級は軍曹である。他の三人は士官であるので、佐官(メロディはシャーリーとしての戦功で少佐になった)と尉官(ハッピー/芳佳は中尉、ドリーム/錦は大尉)である。この時、圭子は AW50を英国軍から借用し、魔力による威力強化で20ミリ弾相当の威力を実現しており、兵士と軽車両の狙撃を担当している。のび太はデイブ・マッカートニーが改造し、弾の威力を引き上げた『NTW-20』で高所から戦車の天蓋装甲とエンジングリルをぶち抜く役目である。4人はその露払いであった。

「仕方ない、入っちゃったものは入っちゃったんだし、やるしかないな」

まさか、第二次世界大戦の米兵と戦う羽目になるとは思わなかったので、嘆息のキュアピーチ。マジンガーZEROという脅威を突きつけられた事もあり、割り切ったようだ。

「はぁっ!」

ピーチは意外にも、歴代の中では技巧派に近く、本人に使っている意識はないが、中国拳法の技術を使っている。敵兵を投げ飛ばした後に意識を飛ばすために腕で決めるなど、意外に素養はある。それを錦としての知識を得た状態で見たドリームは唸る。

「ピーチ、それさ、中国拳法の技法だよ?どこで覚えたの?」

「え、そなの?自然に覚えちゃってて、そういう意識なかったよ」

「自然って…っっと!」

ドリームも敵兵が銃剣突撃をかましてきたので、銃剣の切っ先を避け、相手の小銃を掴み、それを軸にする形で投げ飛ばし、腹に、追い打ちのパンチを決める。

「ひゃあ、撃ってきたよ〜!」

「大丈夫、銃弾は私達に見えない速さじゃないし、連中の銃はこの時代でも進んでる分類の半自動小銃だけど、弱点があるんだ」

「弱点?」

「ま、見てれば分かるよ」

何秒間かの射撃の直後、甲高い金属音が響く。この時期のリベリオンが配備を進めている半自動小銃のM1ガーランドの不評な点の一つが、エンブロック・クリップ装弾方式という過渡的な装弾システムである。クリップを使って弾を装填するのだが、撃ち尽くすと甲高い金属音とともにクリップが排出される。この後の世代の自動小銃の様な箱型マガジンのような利便性はない。『一人がわざと弾を撃ちきって、それに油断して飛び出てきた敵兵を仲間が撃つという頭脳プレーにも使われた』史実のような実戦経験があるわけでもないリベリオンの兵士達にそんな芸当は不可能であったし、プリキュアにとっては、ライフルの銃弾は避けられるものだ。音が響き、射撃が止んだ瞬間を見計らって二人は飛び出し、兵士達を鎮圧する。

「なるほど〜、こんなクリップで弾込めてたわけだね?」

「まー、日本軍の三八式よりは圧倒的に新しいけど、戦後の弾倉取っ替え式に比べれば不便なものだよ。この時代、まだ一般的じゃないしね、よくTVの映画で見るような方式は」

正確に言えば、ドラムマガジンなどは普及していたが、航空兵(ウィッチ)や機関銃兵などのものである上、StG44は当時の最新式であり、MP40も短機関銃であった都合上、生産数の割に戦線で見ない。そのため、ドリームの表現は一応は間違っていない。

「どうするの、この銃」

「あとでのび太君に回収してもらうよ。ちょっと不便だけど、三八式よりよっほどマシだし。狙撃銃としちゃ、軽くていいんだけどね、アレ」

その時、大口径銃特有の発砲音が響き、エンジングリルを撃ち抜かれて大破、炎上するM4中戦車が遠目に確認できた。のび太が仕事をしているのだ。一撃必殺なあたり、さすがはのび太である。

「すご〜い。一発で本当に戦車のエンジンを…」

『なーに、どんな戦車も上から狙えば一発さ。僕は狙撃地点を特定される前に移動するから、君達は兵士達と砲兵を頼む』

「了解」

「砲兵?」

「この時代、自分で動ける大砲はアメリカでも珍しくてね。たいていがトラックで引いて、運んでたんだ。だから、そうやすやすとは動けないんだ」

砲兵陣地転換訓練もそれほど積んでいないリベリオン砲兵は熟練したプリキュアにとっては、単なる的である。駐屯地へのハラスメント攻撃のために発砲しているのを見つけ、後の二人と分かれての制圧を行う。キュアピーチは建物の屋根伝いに砲兵の虚を突き、奇襲をかける形で、必殺技のプリキュア・ラブサンシャインで砲をいくつか破壊し、着地。兵士達をとりあえずはなぎ倒す。それに気づいて、対空用の高射砲を平射しようとした者はドリームのシューティングスターでぶっ飛ばす。その間、ものの数分。黄金聖闘士やサムライトルーパーには劣るものの、プリキュアもかなりの戦力になる証明であった。

「よーし!これでこの一派は制圧っと。せんぱーい、敵の砲兵を一個潰しました〜」

「よくやった。あとはメロディとハッピーからの報告待ちだな」

「先輩、今回は割に大人しいですね」

「アホ、あたしは元々、狙撃手だ」

「うっそぉ、わたしの教官達はみーんな『トチ狂ってる二丁拳銃野郎』とか言ってましたよ」

「…後で脳天ぶち抜いてやろうか、あのタコ共。だいたい想像つく。それに、Mr.東郷を見ろ。スニーキングと近接戦闘にも長けてるだろーが」

「先輩がMrと言うのは珍しいですね」

「彼は、Mr.ゴルゴ13は特別だよ。彼に会ったら敬意払えよ?のび太が友人だから、会うの許されるんだし」

さすがの圭子も、デューク東郷には敬意を払う。それは自分達が彼の協力者である事もあるが、のび太とゴルゴの関係がかつてのヒューム卿のような間柄になっているからこそ、彼の愛称を口に出せるのだ。のび太は商売敵であるものの、命の恩人であるらしく、基本的にかつてのヒューム卿のような関係を保っている。Gウィッチとの休戦後、ある依頼で彼の窮地を救ったから、らしい。また、ゴルゴにG機関経由で情報を彼に流し、協力と誘導に精を出しているので、その依頼以降は『友人関係』であるらしい。特定のクライアントを持たない東郷にしては珍しいことだ。また、異能生存体は基本的に因果律すらも味方するものであり、マジンガーZEROであろうとも、天命までは干渉不可能である。圭子は『Mr.ゴルゴとのび太は、異能生存体だから、単純に身体スペックでいくら勝てても、命懸けの勝負だと何故か生き残られるから、意味がねぇ』と明言している。また、これは黒江が二人にゲイ・ボルグを使っても外れることで証明されており、オリンポス十二神もびっくりである。

「ゲイ・ボルグが外れるんでしたっけ」

『ああ。綾香が腰抜かすレベルだぞ?S級宝具でも外れるし、直撃がないんだし』

『いや、僕は当たるけど、致命傷にならない程度です。彼は武器に当たる程度で…」

のび太はそう明言し、致命傷にならないが、ゲイ・ボルグは当たると。しかし、それでも因果律操作を受け付けない事になるため、異能生存体というのは、『どんな事を如何な存在がしようと、必ず生き残る』事ができるのだから。




――プリキュアの活躍は同時に、501に戦力を提供する64F隊長の武子に、『昔の上官に、自分が引っ被るはずの責任を押し付けた』という罪悪感を意識させた。そもそも、スオムスの情勢を安定させるため、本来は智子に編隊空戦を覚えさせるつもりで、武子が上層部に進言したのだ。それが巡り巡って、まさかスオムスと扶桑で智子のことが国際問題になるとは考えてなかったし、Gへの覚醒がM動乱中では、いくらなんでも遅すぎた。『本来、咎めを受けるべきは自分であるのに、江藤に全てを押し付けてしまった』。その罪悪感が武子を突き動かす要因である。『まさか、転生者とは思ってなかった』。覚醒した後でそう述懐したものの、上層部が日本との小競り合いでシッチャカメッチャカになっている時勢となっては、もう言えなくなってしまった事実。皇室でさえも、『見えない檻』と誹りを受けるようになり、華族や皇室の廃止論の噴出を抑えるためには、江藤の世代の者達(1945年の大佐〜少将であるウィッチ世代)に泥を被ってもらうしかなかった。それが内紛の火種となってしまった。武子は気に病むあまり、反乱の事前の抑止を説いたが、智子を含めてレイブンズは誰も同調してくれず、竹井のみが同調した。だが、事態はレイブンズの予想通りに進んでいる。武子は本来、自分が引っ被るはずの責任が江藤に行った事、無知な自分の進言がスオムスと列強の関係を悪化させる遠因になった事、武子が本来、否定したかった『一騎当千の個人への礼賛』が世界大戦では、逆に士気高揚のために必要とされる事、別世界での共産主義国の崩壊の原因は何であるか?それらに思い悩んだ事が武子が64F隊長を引き受けた真の理由であり、黒江が堅物と評する理由なのだ。これは本来、個人戦果を二の次と公言していたはずの武子にとっては、『皮肉な運命』そのものであった(部隊戦果重視の人間が、その対極とも言える『精鋭部隊』を率いる)。そのため、実力=スコアの風潮を煽った張本人のフーベルタは、先輩の武子への配慮か、事実上の前言撤回を行う羽目に陥っている。その配慮が扶桑の内乱を却って煽った。武子は自分に何もかも不利に働いていた事の身代わりを江藤にさせたという負い目、大局のためとは言え、内乱を上手く利用して、自分達の立場を固めようとするレイブンズとの考えの違い(武子は現役との共存共栄を志向していたが、黒江達は抗争を前提条件とし、不満分子の排除も辞さない構え)に悩む一方で、前史で、黒江を自分の心臓発作による突然死で悲しませた事への強い罪悪感が覚醒後の行動の根底にあるなど、傍から見れば、矛盾する行動を取ると見られる。これは彼女の板挟みな立場の表れであった。自分にできるのは、荒くれ者達をまとめることくらい。武子はそう自嘲しつつ、気がつけば、実質的にG内では、黒江と圭子に次ぐナンバー2の地位にあった。――


――ミーナの執務室――


「…いかがなされましたか、閣下」

「なんでもないわ。昔の事を思い出していただけよ。昔の、ね。まだ私が青二才だった頃の事を」

「ああ、穴拭閣下との?」

「ええ。あの子の問題は私の無知が発端だもの。分かってれば、スオムス行きを進言はしなかったわ。あの子は許してくれたけど、私は裏切った…それが私の心残りなのよ」

武子はいくら知らなかったとは言え、有頂天になっていると思い、編隊空戦を覚えてもらうためもあり、智子をスオムスに派遣するように言ったが、それが今になって内乱の火種になっている。つまり、智子の真の実力と、機密事項が日本のおかげで一般に知れ渡ったために、軍隊への批判が起こり、江藤に責任を押し付ける動きがある事に心を痛めていたのだ。天皇陛下が『どういう事か?』と高官達を問いただすに至り、事を知ったキングス・ユニオン政府がモントゴメリーの元帥任命を取り消すなど、外交的パニックにもなっている。

「江藤隊長が受けてる咎は……本当は私が受けるべきものなの。皇室まで巻き込んでしまったから、今更名乗るわけにもいかなくなって…」

「どういう事です?」

「若い頃の話よ……懺悔って言っていいかしら。聞いてくれる?」

武子は智子の所属部隊であった旧いらん子中隊の事も絡む事を前置きし、懺悔する。それは色々な部署の存続にも関わるため(黒江の一軒がほじくり返された事も、武子が言い出せなくなった要因である)、名乗り出れなくなったと嘆く。江藤の世代が泥を被れば、全ては丸く収まるとする圭子の言葉に納得できないともいい、武子はこの点ではピュアであり、実直な性格であった。激怒した若松が江藤を半殺しにした事も聞いていたため、今更、『自分の進言が原因です』とは言えなくなった。ましてや日本と英国も政治的に介入してきたために、スオムスが大混乱に陥る政治問題になってしまい、家族にもそれを言えずに苦悩していた。(時代的に、一家心中しかねないので)

「……あの時は、それがあの子にとっての最善と信じたわ。だけど、それは結果論で言えば、間違っていた。私は国家を混乱させた元凶なのよ…。ひいては国家を2つに割りかねない要素まで残した。本当はワンスタージェネラルになるべき人間じゃない…。だけど、そうなってしまった。どうすればいいの?」

「なら、自分の罪と向き合うことじゃ、加藤よ」

「大先輩…」

「人間、誰しもミスをしないなど有り得ん。儂も、ボウズも、お嬢も、お前もだ。罪を犯した自覚があるのなら、それを受け入れろ。過去を振り返るのはいいが、前を見ろ。ボウズもあれこれした末にそれを選んだ。それにお前が悩んどる問題は、もはやお前の手を離れとる。もはや、お上の裁きが下るのみじゃ。」

「お上が何を…?」

「日本の介入を避けるため、当時の管理職級の人員に適当な理由をつけての責任を負わせるのだ。そういう時のための事務方の首じゃよ」

「それでいいのですか?」」

「うむ。この場合、転生者と知らなかったことで、お前は裁きの対象ではない。ましてや、当時は少尉だ。ドイツのように、人員をただ排除していくけばいいというものでもないからな」

ドイツ領邦連邦の場合、武装親衛隊に史実で属していた者、親ナチだった者を有無を言わさずに排除していった結果、人手不足が顕著になってしまう。そしてそれに不満を持った層がバダンに内通するという悪循環に陥ってしまうのであるので、扶桑のやり方は人材温存にはうってつけであった。扶桑のように、管理職に当時の全ての責任を負わせるという文化に違和感を感じるあたり、武子は外国暮らしが長かったからだろう。

「当時に少尉だったお前に責任を取らせるわけにはいかんという事もあり、江藤の代の連中には泥を被ってもらう。お前にできることは、子供らをまとめるのがお前の役目だ。お前は士官学校を出とる。わしゃ特務出身じゃからのぉ」

赤松は兵学校は出ていないため、士官学校(旧・陸士/海兵)卒をまとめるには士官学校卒がいいと具申していた。そのため、武子が選ばれたのだ。江藤の愛弟子であり、旧64の結成時の分隊長であったという経歴は充分であり、新64F隊長に相応しいと判断されたのである。

「それに、日本側からツッコまれとる問題のほうが重要じゃわい。扶桑とブリタニアの国民が『知恵がある』のに、事実上の地球連邦とティターンズの代理戦争に疑問を持たない理由も、皆が戦争の形態に疑問を持たなくなっているからじゃ。生存競争が戦争の形態になってるから、向こうの歴史じゃ実現不可能な規模の海軍が維持できるんじゃぞ。扶桑にしても、大和型5隻、超大和型が6隻など、普通は財務が首を縦に振らん。つか、日本のほうが目を回しとった。大和型5隻とそれを超えるのがあるんじゃからな」

「それはそうですが……」

「日本の言うとおりにしておったら、まともにリベリオンとの戦争はできん。この世界は宇宙怪獣やゼントラーディのような『存在そのものを脅かす』敵に、まだ出くわしておらんからな。それに比べれば、リベリオンとの戦争なんぞは軽いマラソンじゃ」


「そういう問題じゃ」

「そういう問題じゃ、加藤。日本は南洋島を委任統治領と勘違いしておったが、固有の領土と言ったら向こうのお役所が目を回しとった」

「南洋島は資源の貯蔵量がとんでもないから、古代アケーリアスの資源基地の残り説までありますからね。地質学的にあり得ないほど、全ての資源がある」

「え?」

「ご存知ないので?南洋島の資源は八八艦隊が八八八艦隊になっても余裕で養えるし、日本と違って、対外政策の充実で高等教育層が多いから、大和型五隻の乗組員を充足できるんですよ?」


ミーナ(まほ)の言う通り、南洋島を得たことは扶桑の海上覇権を資源的に約束させたが、日本は高等教育層の徴兵のしすぎによる社会バランスの崩れを懸念するあまり、海軍の軍縮を志向していた。だが、実際には史実より高等教育を受けた人口が遥かに多く、更に軍隊が高等教育の普及の一翼を担う面もあるため、むしろ、高等教育を受ける場に軍隊が利用されていると言えよう。

「レイブンズの事はお上の裁可がどうにかすると思うので心配はいりません。閣下にはむしろ、対日本マスコミ対策に身を入れて頂きたい」

「連中のことは嫌いなのよ、そちらに委任するわ。好きにやって頂戴」

「こら、加藤。投げやりな事をいうな」

「どうしろというんです?」

「愛想笑いくらいしてみせろ。ボウズを見ろ、ボウズを」

黒江は日本での経験で自分からの宣伝の大事さを学んだため、広報は嫌いと言う割には、気合を入れて仕事をしている。また、広報戦略の半分は黒江が指揮を取っているので、プリキュアに覚醒した者は直ちに駆り出されている。その事も、黒江が『訓練どーした』と謗られる要因である。

「綾香のことを言われても……。それに、若い子達が…」

「子供の戯言だ。今の時代、政治家に愛想よくせんと、飛行機の一機も作れんぞ」

「ええ。役人に媚を売らないと、予算もらえませんからな、今は。閣下の言うような月月火水木金金の時代ではないのですよ、そちらの連邦というのは」

「それに、戦後日本というのは基本的に反戦なのですよ?それを考えてください。向こうの財務省やマスコミは扶桑の軍事予算の半減、いや、それ以上を煽っているのですからな」

ミーナは前世の戦車道で実力以上の成果と、マスメディアの過剰な期待を背負わされていた故に、マスメディアそのものには好意的ではないものの、宣伝で人員を確保することには肯定的である。それ故、この時代の扶桑軍人にありがちな思考回路の武子を諌める。

「だからって、転生したばかりの子供達まで駆り出すの?」

「いいですか、銃後の支持がなければ、軍隊は政治的に撤退させられるのがオチなのですよ?ベトナム戦争をご覧になられたらいかがです?」

「ミーナのいう通りじゃぞ。加藤。お前は実直すぎる。少しは愛想よくしろ。そんなだから、お嬢に真意が伝わらんのだ」

赤松の言葉は図星であり、反論できなくなる。智子が理解しなければ、智子から絶縁された可能性があった。実際、智子は基本世界に連なる世界では、武子に対し、ヒステリックに喚き散らしている。それが智子のこの世界における一度目の転生時の黒江への悪意に繋がった面があるからか、赤松は武子には割合、厳しく叱るのだ。

「うぅ。大先輩、その事は重ね重ね、お詫びを申し上げましたはずです……」

「お嬢の悪意の要因になる事をしたのだ。責任は取ってもらう。ボウズの問題がややこしくなった原因は、お前がお嬢に説明を怠ったからだぞ」

「綾香がまさか、ああなるとは思ってもみなかったし、智子が心の奥底でそのような願望を抱いていて、綾香の願いを利用していたとは考えつきませんよぉ!」

武子はその純粋さ故に、智子が黒江を利用するような悪意を懐くなど、考えつかなかった。黒江が人格の再構築であまりにもピュアになってしまったので、智子も精神の再崩壊を恐れ、とうとう言えなくなった事を抱えていることなど、想像だもしなかった。ケイが智子に今回の転生直後に強く釘を刺したように、黒江は知らないままなのだ。のび太とドラえもんの美しい友情の理想を見慣れてしまったり、仕事で散々に人の裏を見てきたため、自分が抱く友情にはとても純粋無垢である。その事が坂本に強い罪悪感を抱かせた原因であり、智子が転生を重ねるうちに、『妹』のように思えてきた理由なのだ。

「でも、なんで綾香は末っ子ポジションを望むように?あの子のほうが智子より二歳も上なのに」

「ボウズは家では末っ子での。母親の愛を受けられなかった上、上が全員男でな。姉が欲しかったとか言っとってのぉ。上のお兄さんが結婚した理由もそれだそうじゃ」

黒江は母性に飢えているという事情を抱えていた。更に、滅多に長兄や父に遊んでもらえなかった事にコンプレックスがあるなど、意外に家庭的コンプレックスが多い。金銭的には裕福だったが、家族愛が薄い環境だったのも、無意識に温かい家庭に情景を抱く理由である。野比家に居着いたのも、そのコンプレックスが大きく作用しており、ケイは智子の背信行為を厳しく咎めている。

「ボウズは一度、心を開いた者にはとことん尽くすからな。それ故に坂本が罪悪感に苛まれ、前史の死に際で初めて懺悔するに至ったのだからな」

黒江は人たらしだが、コンプレックスが大きい故か、自分の大事なモノを守ろうとする事にはものすごく敏感であり、失われる事にひどく怯える面が元からあったが、黒江の心に刻まれた悪夢の光景(最古の記憶は小学校時代の友人の鉄道事故死。505の壊滅と仮面ライダー三号への無残な敗北もトラウマである)が黒江の人格再構築に影響を及ぼしたのだ。

「ボウズには審査部への再招聘の話があったが、儂が連中を追い返した。その本当の理由は防衛本能じゃ。ボウズは防衛本能を満たさないと、情緒不安定に陥る面が出来ているからだ。新見カウンセラーも言っとったろ?」

「そんな理由が…」

「そうだ。儂に言える事は『友情は大事にしろ、マスコミには愛想よくしろ』。それだけだ。近頃は大型優秀船建造助成施設で作った貨客船の空母転用が理不尽に叩かれて、日本郵船にいくつか買い叩かれるようなニュースが流れるからな」

大型優秀船建造助成施設。本来は有事に空母転用可能な船を確保する目的だったが、日本の野党が『矛盾した造船振興政策』と批判した上、日本郵船やその他造船会社が歴史的資料として買い取ると名乗り出、混乱を引き起こしていた。飛鷹型航空母艦はもはや空母でいたほうが安上がりであるため、軍が保有し続けられたが、その他の船は空母転用工事準備中に強引に買い叩かれたもの、完成し、空母として任務につこうと回航中に軍艦籍を解かれ、その知らせが間に合わず、欧州に来てしまった船も存在した。その損害補填のため、扶桑が45000トン空母を新規建造するのは、当然の権利である。しかし、それは作戦に間に合うはずもないので、プロメテウス級を更に買う羽目に陥ったのである。日本の軍事的無知と正義感からの横槍が現地を大いに混乱させた、いい例だ。

「おかげで、時代に不釣り合いなウルトラキャリアが5隻も海上を跋扈しちょるのだぞ。512mだ。米軍も腰抜かしとるぞ、ここからでも停泊中の一隻が見えとるじゃろ?」

「あれを五隻も、ですか」

「軽空母を売却する事になった腹いせも兼ねた決定じゃ」

1940年代では完全にどこにも入れないと思われる、超弩級空母。それがプロメテウスである。殆どは扶桑の所有であり、軽空母の代替や、今すぐに確保出来ないジェット戦闘機空母を確保する意味合いで保有したが、一隻はキングス・ユニオンが購入したものだ。地球連邦軍は宇宙軍を維持するため、本星海軍は縮小していた事、もっと運用効率化された新鋭空母の登場で、過去の国連軍にも武器を売るというなんとも言えない方法で外貨を稼いでいた。

「一隻はキングス・ユニオンが買ったそうだ。あそこ、イギリスは特に、まともな艦上戦闘機部隊もないくせに、あんな空母持ってもなぁ」

「赤松さん、それは禁句です。そもそもクイーン・エリザベス級空母でさえ持て余し気味だったんですから、英国」

プロメテウス級は可変戦闘機が150機、21世紀現用機でも100機を超える運用を可能にする搭載量がある。その割に運用費は意外に低い。自動化が進んだ時代のものだからだ。可変戦闘機や可変MS対応なので、21世紀の戦闘機の運用は余裕で可能であり、米軍垂涎の的である。扶桑はそのうちの一隻を精鋭部隊の専用母艦&64の洋上補給拠点として運用しており、時代を超えた光景が展開されている。

「儂らの母艦じゃが、ボウズはあそこでクラスターガンダムの慣らし運転をしておるはずだ」

「クラスターガンダム?」

「F90系の最終型で、Yタイプに分類される。ちょっと型は古いが、第一線級の性能じゃそうだ」

一説によれば、Vガンダム系の祖になったともされるクラスターガンダム。F97(クロスボーンガンダム)のロールアウト後は型落ちとされているが、その性能ポテンシャルはF91と同レベルである。火力は高く、ビームバルカン搭載というビームだらけな武装である。黒江が操縦しての慣らし運転を行っているが、サナリィ系のFシリーズは基本的に、アナハイムのRX系より小型だが、ハイパワーエンジンを小型のものに積む傾向が見られ、Z系を好む黒江好みだと、担当者は説明している。

「綾香にしては珍しいですね」

「ああ、サナリィにV2よこせと詰め寄ったら、代わりに送られたそうだ。曰く、リガ・ミリティアからの権利移行が間に合っていないから、らしいがの」

黒江はV2アサルトバスターに乗りたかったらしく、再建造を迫ったが、さすがのサナリィも、アナハイムの工場を使っていた都合でそう用意できないとし、保管してあったクラスターガンダムを送ったのだ。なお、キュアメロディ(シャーリー)は『軽い機体に大パワーとか、ホットロッドじゃん!あたしにもおくれよぉ〜』と黒江にねだっており、『Vダッシュで我慢しとけ』と言われている。ミノフスキー・ドライブユニットは高価で、デンドロビウムなみのコストともされる。そのため、V2の動力をチューンした熱核エンジンに差戻し、Vセカンドの計画に一部差し戻したplus化が予定されているともいう。

「V2を?」

「ああ、子供らへ自慢したいから、光の翼持ちのアサルトバスターを欲しがったらしいのよな、ボウズ」

「あれ、ハンガーとブーツは安いとか聞きましたよ?」

「エンジンじゃ。ミノフスキー・ドライブは製造コストがたしか、ジャベリンが一機造れるくらいらしいのじゃ」

黒江はプリキュア覚醒者に自慢したいという遊び心たっぷりな所有欲でV2アサルトバスターをサナリィにねだったが、却下され、その代わりにクラスターガンダムと量産型F91の納入で手打ちにした。量産型F91と言っても、ロンド・ベル仕様であり、他部隊と違い、試作機の機能が一部再現されている。第二期生産ロットにはエース部隊を満足させるため、MEPEの発生可能な仕様があるのをロンド・ベルが採用したのだ。なお、廉価版のバイオコンピュータを積んだとされるが、ロンド・ベル仕様はフル規格のバイオコンピュータである。そのため、通常量産型より割高だが、その分、ニュータイプを満足させる追従性能を持つ。

「で、僚機に量産型のF91を」

「うむ。チェイサー機も兼ねているらしい」

空母の上空を飛行するMS小隊。連邦軍が積極的に小型機を運用するのに対し、ジオンは小型機を『一時の流行』とみなし、自らの規格に絶対の自信がある。また、アナハイム社経由でビームシールド技術も入っているはずだが、ジオンはステルス性重視であるのと、アナハイム社のビームシールド技術がその時は未熟であったため、採用していない。また、地上でのゲリラで生き残る残党兵の手に余るとしたのだろう。ビームシールドの登場で性能差は確実にまた大きくなってきている。それにジオンは気がついているはずだが。Fシリーズの台頭を新世代の台頭と見るのか、それとも、かつてのジオニズムが時代遅れになり始めたのと同様、ジオン脅威のメカニズムがジオンの手から離れた事を意味するのだろうか。その答えはまだ出ていない。



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