外伝その267『イベリア半島攻防戦16』
――ドリームは系内遊撃艦隊所属のVF-17に救出された。廉価版より乗りにくいが、高性能は担保されており、RFシリーズのザクとグフを撃ち抜くガンポッド、当時のジム系より素早い反応系など、特務用の利点を見せた。RFシリーズは同じく、没落したブッホ・コンツェルンの技術で製造されており、ジオン系の外観を持つブッホ・コンツェルン系MSに等しいが、それでも最先端ではない。オールズモビルはジオン残党であるが、途中からスポンサーがブッホ・コンツェルンになっており、その関係で当時の通常型ジェガンより強力なMSを手に入れることが叶った。しかし、ザンスカール帝国と連邦の技術開発競争でブッホ・コンツェルンの技術も旧式化し、この時点ではアクシズ初期のMSよりはマシ程度という評価である。(それでも、一年戦争時のMSを使うよりは戦闘になる)ただし、元々、オールズモビルは各時代のジオン兵の生き残りが集まったものであるので、練度そのものは高い。そのため、遅れてやってきたスタークジェガン隊が散開して飛来すると、すぐに対応していく。
「大丈夫か、ドリーム」
「ごめん、油断しちゃって」
「今度から気をつけろ?ああいう武器、MSには多いしな」
「うん。…あれは?」
「スタークジェガンだ。連邦軍、ジェガンのバリエーションを山のように作ったかんなー」
スタークジェガンはプロトタイプを経て、簡易型が生産された。基本的な姿は変わらないが、内蔵武器が廃され、ジェネレーターが通常のままであるし、核ミサイル運用装備もない。ただし、通常型のジェガンより強力な機体であり、パイロットによるが、リゲルグやドーベン・ウルフも苦にしない。プロトタイプを簡易化したが、スタビライザー付きの高機動型スラスターをつけるというアイデアは成功であり、ジェガン自体、かつての百式より総合性能は上の次元であるため、パイロットの腕次第では、かつての百式クラスの働きは可能だ。
――そのスタークジェガンは一機がハイパーバズーカを散弾で放ち、ザクとグフにダメージを与えつつ、その背後にいた高性能機『RFドム』に向けて突進する。ドムもヒート・サーベルを模した『ビームセイバー』を抜き、スタークジェガンとドッグファイトに移る。高機動戦闘のいい見本になるような戦闘である。ドムのビームバズーカを牽制にしてのセイバーのすれ違いざまの斬撃をビームサーベルで受け止め、辺りに火花を散らし、閃光が奔る。AMBACで瞬時に反転し、スタークジェガンはミサイルを一斉に放ち、ドムはそれを原型機の拡散ビーム砲を模した『ビームシャワー』で迎撃してみせる。 しかし、ドムにはいささかの難点がある。ドライセンと違い、脚部に一定の自由度が与えられていない原型の設計(リック・ドムUか)が色濃いRFドムは徒手格闘には弱いのだ。スタークジェガンは足で相手を蹴って、バランスを崩させた一瞬を突く形で、ビームサーベルを突き入れ、撃墜する。こういう動作では、ジェガンは特筆すべき速さを誇る。歴代ジム系の集大成であるのは伊達ではないのだ――
「すごい、あんな大きなロボットが人間みたいになめらかに動いてる〜!」
「マグネットコーティングされてるからな、あの世代になると。一年戦争の頃が嘘みたいななめらかさだぜ」
「技術の進歩だね。ムーバブルフレームで動いてるから、関節の自由度も高いし、人間くさいんだよね」
「さすが、お前だな。そのへんは調べてるみたいだな、ハッピー」
「そりゃ、アナハイムや連邦軍と交渉してれば嫌でも覚えますよ、工学生くらいの知識は」
ハッピー/芳佳は黒江の使いという形で機材の調達交渉を担当する事も多いため、工学科の学生程度の工学知識は得たらしい。ちなみにアナハイムの運営する工学学校はアナハイムへの就職率100%、良質な教育もあり、人気の学校である。
「えーと、つまり?」
「お前、それでも元先生かよ」
「こういうのは専門外ですよおぉ〜!」
キョトンとするドリームにため息のメロディ。元々が文系であるので、こういう理系説明は駄目らしい。
「扶桑陸軍、いや空軍か?の連中が聞いたら怒るぞー。パイロットも機体の整備に参画する伝統だろ」
「そ、そんな事言われても」
「ボーッと生きてんじゃねーよ!帰ったら黒江さんの即席講座聞いとけ!!天姫にバレたらどーすんだ!」
「す、すみません〜!」
元々、錦はテストパイロットではあるが、主に実戦担当であったし、工学知識は無いよりはマシな程度であるので、それを引き継いだのぞみも同じようなものだ。北条響(シャーリー)は紅月カレン時代から今に至るまで、メカ好きに変化がないので、自分で整備している。その差である。北条響はのぞみにこう続けた。多少、紅月カレン風味で。
「ったく、せめて聞いた事の、自分に関係有る無しくらい嗅ぎ分けて注意を払うくらいの事は覚えときなさいよね。天姫にすぐにバレるわけにはいかないんだから」
「うぅ…〜…」
「黒江さんから伝言です。ここから約25000ほど行ったところにムサイとチベ改がいるそうです」
「沈めろって事か?」
「いえ、鹵獲しろと」
「鹵獲だぁ?珍しいな」
「チベ改を共和国が欲しがってるそうな」
「直掩戦力は?」
「コスモタイガーとZplusが引きつけたんで、後はオンボロのガトルしかいないとのことで」
「っしゃ!雑魚しかいねぇなら楽な仕事だぜ」
「艦砲射撃は?」
「懐に潜り込んじまえば、同士討ちを恐れて、うてやしねーよ。続け!」
コスモタイガーの小隊がエスコートする形で、三人は身を隠していた敵艦に肉薄した。チベが主に対空砲火を担当し、ガトルが突進してくるが、コスモタイガーの敵ではなく、正面からのパルスレーザーに蜂の巣にされて塵になる。チベの対空砲火は確かに脅威だが、逆に言えば、対空砲火を片側でも一掃すれば、無力に等しくなる。メロディはドリームに必殺技を撃てと指示し、ドリームもそれに従い、シャイニング形態の必殺技を放つ。
『プリキュア!!スターライト・ソリューション!』
スターライトフルーレを構えて、猛烈に火を噴くチベの片側の対空砲を一掃するべく、シャイニングドリームとしての必殺技を放つ。要するに無数の閃光を放つ技であるが、その威力は歴代随一である。チベは右側の対空砲を一掃され、更に船体に大穴が穿たれ、哀れにも外へ吸い出されていくジオン兵の姿もある。
『よし、侵入口は開いた!!お嬢ちゃん達、突っ込め!!』
「はいっ!」
「なっ、食っといて正解だろ、あれ」
「は、はい。ちょっと同情しちゃいますけど」
「こいつらは自業自得だ。第一、国際法違反やらかしてるんだからな。ましてや、ネオ・ジオンも今んとこは敵対を避けてるんだから」
哀れにも、外に吸い出されたジオン兵の死体(ノーマルスーツのヘルメットをつけ忘れたもの、間に合わなかったものなど)を一瞥し、三人はチベを制圧しにかかった。
「間抜けめ、ノーマルスーツもつけずに、宇宙空間で戦闘する馬鹿がどこにいるってんだ」
メロディは艦内に侵入するなり、ジオン出身の彼らをそう侮蔑する発言をし、立ち塞がるジオン兵(ノーマルスーツ着用)を蹴散らす。スーパープリキュアにとって、いくら訓練されていようと、常人の域を出ない彼らの鎮圧など容易かった。瞬く間に艦橋に到達する。戦闘艦橋など無い時代の構造であるため、一年戦争時の艦艇は鹵獲しやすい。
「たのも―――!」
「どこの道場破り?」
と、ハッピーにツッコまれつつ、クレッシェンドメロディ、プリンセスハッピー、シャイニングドリームの三名はチベの艦橋部に侵入した。ジオン将校たちは呆気にとられた。場違い感ありありなプリキュア達が道場破りの如く、ドアを蹴破ってきたのだから。
「艦長さん、私達は貴方が瞬きしてる間に、この場の全員を倒せる。無駄な抵抗はやめて」
ドリームが代表して宣言する。フルーレを突きつけながら。
「悪いねー。あたしらに銃弾は当たんないから、あしからず。窓割って窒息死は嫌だろ?」
抵抗した将校を取り押さえつつ、真面目にハッピーが決めた。宮藤芳佳や星空みゆきとしての言葉づかいではなく、角谷杏としての真面目な口調で。
「降伏しな。そうすれば、南極条約通りの扱いは保証してやる」
ジオン残党に効くワードは南極条約である。メロディが艦長に問う。地球圏で戦時の慣例という形で生きている『南極条約』。元はジオンがルウム戦役の大戦果を武器に停戦協定という形で提案した降伏勧告である。レビルの救出で戦時協定に変わったが、協定違反は現地部隊で続出し、ティターンズの実戦部隊指揮官『バスク・オム』は『ジオンの凄惨な拷問』で取り返しがつかないレベルの地球至上主義、スペースノイド弾圧に完全に染まったように、完全に遵守はされていない(連邦では、ベルナルド・モンシアの過去の行為が有名)。
(メロディ、ハッピー!技を撃てばよかったんじゃ)
(チャージなどさせるか!って具合で群がって来られても面倒だよ。それにノンチャージで撃てる技持ってないんだよなぁ、あたしら)
(そ、そうだっけ)
(それに、機械に影響出ても面倒じゃねぇか。ここは普通に行ったんだよ)
キュアメロディはノンチャージで放つ技を有していないし、キュアハッピーもそうであるし、ドリームは初代と世代が近いこともあり、戦闘向けのプリキュアである。そのために後発組のような浄化技はない。意外に世知辛い事情もあり、セオリー通りの制圧を行ったのだ。
「おっと、拳銃自殺は御免だよ。これだから、ジオンの将校は悲観的で困る」
プリンセスハッピーが艦長の拳銃自殺を止める。角谷杏の落ち着いて、なおかつ飄々とした声色は雰囲気を壊さないのに役立っている。
「貴方達、僚艦に戦闘停止命令を出しなさい、早く!」
旗艦を制圧すれば、残党軍は統制を容易く失う。ドリームが通信兵に戦闘停止命令を出させるように急かす。なんともすごい絵面である。天使の羽を背中に生やしている変身ヒロインが軍艦を制圧しているのだ。なんともヒーローもの的な雰囲気を醸しているが、ジオン軍人達にはこの世のものとは思えないだろう。また、プリキュアの中で前世の成人後は教諭だった立場のドリームは、なんとも言えない感覚を覚えていた。戦後日本の教諭として、『戦いは良くない事』と教えざるを得なかったし、新任時代の古株達がラジカセのように喚いていた『教え子を戦場に送るな』の標語もプリキュアであったものとしては冷めた視線で見ていたが、表立っては言えない環境にあった(学校によっては『バリバリ』であるため)。それが今、自分はプリキュアに戻ったと同時に、彼らが目の敵にしていた職業軍人である。軍人としての視線で考えると、銃後の人間たちはすぐにコロコロ考えを変え、勝てば官軍、負ければ、自分達を弾圧しにかかる厄介な存在だと考えたくなる。特に日本は勝てば官軍、負ければ賊軍というべき風潮のため、敗者に冷酷である。のぞみは職業軍人の目で見ることで、ジオンという敗者に同情したくなるものの、完全にテロリストに堕ちた者には慈悲は必要ないのだ。そう割り切ることにしたのだ。特にジオンはかつての枢軸軍の特徴を併せ持つため、『天佑』、『ジーク・ジオン』というジオン軍人の常套句に嫌悪感を覚える。
「何が…ジーク・ジオンよ、何が天佑よ!あんたたちがやってる事はただの海賊、テロリストじゃない!あんたらに戦って死ねって命令した連中に真実も大義名分もありはしないわ!何の罪のない人達を危険に晒して…寝言を言うなぁ!」
憤りから発した、ドリームの一言はメロディとハッピーも唖然とさせた。台詞の調子からして、プリキュアとしての現役時代には用いない強い調子の言い回しであったからだ。ドリームは21世紀前半期の民族紛争や宗教戦争を見てきた世代であるため、元は正規軍であった者が海賊まがいの行為を働くことを元から嫌っていた。特に残留日本兵のように、ちゃんとした理由もないのに、ジオン公国のためといって残党化し、テロリストまがいの行為を働くジオン軍人達への憤りは大きかったのだ。
「お、お前…」
唖然とするメロディ。夢原のぞみの若年期からすれば考えられないほどの明確なジオンへの憤りだったからだ。
「…若い頃、考えてたんです。なんで、世界は戦争が溢れてるのかって。二度の世界大戦をしても、人間は戦争をやめない。わたしもプリキュアとして戦ったから、守る仕事の人達の気持ちは分かってます。だけど…」
「ドリーム…」
「この人達のやることは21世紀の過激派とちっとも変わりない。国が無くなって、軍隊の大義名分も消え失せたのに、こいつらは単に飯のタネに国家への忠節を掲げてるだけ。そう思うと…!」
ジオン残党の行為は21世紀前半期を生きていた経験がある者には馬鹿らしいの一言であるが、23世紀の反連邦分子は称賛する。地球からの呪縛を断つ勇士だと。
「ドリーム、抑えろ!」
「でも、メロディ!」
「こいつらは考えようによっちゃ哀れだ。国に帰れば犯罪者、青春を費やした戦を否定されたんだからな」
「そうだ。我々にはもはや帰る場所など無い。戦って、あの戦争で散った同胞達のもとへいくのが…」
「飯のタネにもならないジーク・ジオンを信じて何になる?若い頃の自己肯定か?」
「そう見えるか。だが、あの時は……本当にジオンの理想に燃えていた。ここにいるもの全員が、だ」
「若いあたしらでも知ってるぜ?あんたらがやった事」
「あの時はそれが正義と信じた。君ら若者にはわかるまい。ジオンの息吹、ギレン総帥のあの力を間近に感じた時の――」
チベ艦長は青年期にジオン・ダイクンに惹かれ、軍が健在であった時はギレン・ザビに心酔していたと思われる発言をした。彼はジオン・ダイクンの息吹と評したが、実際のジオン・ダイクンは狂的な男という噂もある。実子のシャア・アズナブルからして、相当に歪んだ性格(優しさと冷酷非道な面、母性を求める面など、矛盾し合う要素を持つ)なのはもはや有名だ。
「ギレン・ザビ、典型的扇動家、詐欺師の物言いね!」
ドリームは吐き捨てる。ギレン・ザビは扇動家であるが、所詮はアドルフ・ヒトラーの二番煎じ。特に、二次大戦から100年以内の人間である彼女からすれば、ギレン・ザビはどう考えても、『本で知識があるが、心情を顧みない、アドルフ・ヒトラー的人物』である。特に、ギレンは戦後のビジョンを考えてもおらず、妹が御家騒動間違いなしと踏んで、キマイラ隊を手元においていた事も歯牙にもかけなかった。評価できる事はドズルの死を悼まない父に明確に憤慨したことだが、末弟のガルマの死を政治利用した事は恥すべき事だと考えるドリーム。ギレンを21世紀人としてのフラットな目でみると、『アジテーターで、詐欺師』という評価に落ち着く。無知な面が目立ったヒトラーと違い、ギレンには豊富な知識があり、天才級の頭脳があった。だが、それ故に誰にでも愛情が薄く、政略結婚の妻とも仲は悪かった。それが彼には仇となり、妹に射殺される結末を迎えたギレン。因果応報だが、それが今日までのジオン残党の離散集合を繰り返す理由になっているため、ギレンのカリスマ性はヒトラーと異なり、軍を束ねる人物としては最適で、ヒトラーには無い才能を持っていたと言える。
「フフ、後世からすれば、そうかもしれんな。だが、あの戦争の時代は…ジオン国民の誰もそうとは思わなかった。ザビ家の内紛、キシリアの謀略で死んだとあの戦の直後、エギーユ・デラーズは言っておったがな」
――エギーユ・デラーズ。アナベル・ガトーが心酔していた、元・ジオン公国軍の統帥府直属艦隊司令兼、総帥親衛隊隊長。当時は大佐である。ギレンの信奉者である事は当時から知られており、艦長はデラーズと同期だったらしい。
「エギーユ・デラーズ?」
「デラーズ紛争の首謀者だ。おっさんは奴とどういう関係だ」
「士官学校の同期だ。最も、今となっては、あの時に故郷の大佐級以上の連中の大半はいい老人になったがな」
ジオン公国は佐官の人数が異常に多かった。ザビ家の信任を勝ち得たとしても、キシリアが将官の数を増やさなかったからだとする説が有力視されている。地球連邦も戦乱続きで、尉官が増え過ぎたので、アムロなどの功ある者を佐官に上げることでバランス是正を図ったように。(扶桑も日本の介入で、有能な将官を生み出すため、有能な若手を将官にすることが進められたりしている)
「よし、MS隊も戦闘行動を止めたみたいです」
ハッピーが言う。
「国に帰ったら懲役刑は覚悟しておけ。ただし、指揮系統の混乱で終戦を知らなかったとシラをきっとけ。そうすれば、死刑は免れるだろうさ」
「そうさせてもらうよ、そこのお嬢ちゃんのためにもな。国に置いてきた子供達を思い出してな。タバコを吸わせてもらう。ジオン軍人として最後のあがき、さ」
どこか憑き物が落ちたような表情の彼。ドリームの表情を見て、自身の子供達を思い出したようだった。
――こうして、オールズモビルの一部隊を投降させたプリキュア達はその戦功で系内遊撃艦隊から感状を授与された。乗っていた観光船の損傷が思ったより重傷なため、レキシントンでエデンまで運ばれる事になった。(火星観光はさせてくれた)そのため、予定より遥かに早くエデンに着いたため、ロンド・ベルに納入予定のVF-31『ジークフリート』のテストをやらされる事になり、ニューエドワーズ空軍基地に赴いた。黒江と北条響(シャーリー)がそれを担当した。――
「なーるほど。これが最新鋭機ねぇ。VF-25より大気圏内じゃ小回り効くな」
「一応、あれと同祖だが、直接はYF-30だぞ」
「嘘ぉ!?原型無くね」
「あれと翼の形が違うから、別の機体に見えるだけだ。ウチのはジークフリートの前進翼をカイロスにつけた特別仕様だぞ」
「つまりハイブリッド?」
「そうだ。カイロスの戦闘機能をジークフリートに持たせるだけじゃ、ウチには対応出来ないからな。予算上はジークフリートの武装強化で通してる」
「まさか、北条響の姿でバルキリー乗るたぁ思わなかったぜ。ま、今となっちゃ、この方がしっくりくるけどよ」
「お前らしーな」
「もし、奏と会ったら、なんとか言い訳考えるよ。ケイさんの事も気になるんだけど。まさか、『エレン』の転生じゃ」
「ああ、黒川エレン、キュアビートか」
「そうだとしてみろ。あたしにとっちゃ色々不味い〜!それに、今のケイさん、キュアビートに変身してもガンクレイジーやらかすだろーし」
「読んでるな」
「ああ。今の性格なら、浄化より、脳天に弾をぶち込むのが好みそうだし…」
「あいつ、今は音楽センスはそれほどないが、『踊るぜ』とは言ったり、歌ったりはできるから、黒川エレンの名残りかもな」
「うおぉ〜!あの性格でキュアビートになったら、大惨事だぜー!」
「言い過ぎだ」
「だってよ、プリキュアの姿でシャインスパークとストナーサンシャイン撃てそうやん!」
「あ、ああ…。ま、そうなるなぁ」
黒江は想像したようだが、今の圭子はもし、黒川エレンを経由して転生したとしても、レベッカ・リー要素のほうが遥かに強いため、『浄化だぁ?そんなまどろっこしいことより、こいつの脳天に弾をぶち込む方が早いぜ』と言いかねないため、シャーリーのため息に対して吹き出す。
「ハッハッハ…笑わすなよ」
「笑い事じゃねーって!もし、最後の属性がプリキュアだったら、全国のよい子が泣くぞー!」
「あのなぁ。紅蓮聖天八極式に乗って、大きい友達を興奮させてるお前に言えたことじゃねーし」
「あー!!そだったぁ!」
「ま、お前は北条響の要素が薄くて、紅月カレンのほうが強いんだ。ケイも同じようなタイプなのは考えつくよ」
「黒江さん、いいんっすか」
「俺も聖闘士でサムライトルーパーだ。コレはコレ、ソレはソレ!って考えろ。速さにこだわるんなら、どこかのアニメみたいに『俺が遅い!?俺がslowly!!?』とか言ってみたらどーだ」
「そのキャラ、最後で死ぬやん!」
「再編集版だと生きてるぞ。余命ないけど」
と、いいつつも、きっちりテストは進める二人。もし、圭子が転生と融合の過程で黒川エレン/キュアビートを経由したのなら、それはそれで面白いと考える黒江。ただし、前世と相当に違うキャラで通し、アブナイ武器を使うのは想像つく。(得物がゲッタートマホークだったり、ソードカトラス)宮藤芳佳が星空みゆき/キュアハッピーを経由し、更に角谷杏を経由していたからだろう。
「宮藤がキュアハッピーだったんだ。しおいも素でプリキュアになれそうなんだよなぁ」
「ああっ、伊号400潜型の艦娘」
「そうだ。声の感じからして、素だとキュアレモネードっぽいんだよな」
「なにー!?」
「今はイオナになってるから、キュアダイヤモンドになるかも…」
「おいー!それ、2つを掛け持ちだぞ!」
「わからんが、なれるかもしれんぞ。艦娘だから、2つは使えそうだし。それに、まほの元部下の逸見エリカだが、キュアハートの因子持ってそうだし」
「おいおいおい!なんだよそれぇ!多すぎぃ!」
「ただ、まだ確証はない。のぞみには言うなよ?それに、もし本当にレモネードになれたら、元アイドルだから、歌わせるつもりだ、俺は」
「そう言えば、プリキュアの現役期間中にゃ芸能人だったな、うらら」
「必要なら、小宇宙ぶつけてやりゃ覚醒すんだろ?」
「なんだよ、その聖闘士脳!ったく、あいつが知ったらツッコまれるぞ」
「あいつだって、生前は歴代有数にアホの子だろーが」
確かに、夢原のぞみは普段は素でアホの子であったが、それは現役期間中で、成人後は緩和されている。それ故に、錦との乖離がそれほどなく、黒江も気づかなかったのだ。
「あいつの声きーてると、なんかサーフボードでカットバックドロップターンかましそうな気がするんだ、あたし」
「お前だって、しそうな声だろーに」
「それは勘弁。あいつ、アイキャンフライ言いそうで、リーネと相性良さそうな」
「エウレカセ○ン的意味で、だな」
高度を上げつつ、言う。黒江とシャーリーは高度20000を超え、数秒で衛星軌道に出る。そこから、キャピタル・シティ付近に降下する。そこは夏木りんが、良く言えば風来坊、悪く言えば、ホームレスとして暮らしている街とされる場所である。20世紀におけるサンフランシスコを参考にして、街が作られたこの地。開発が進み、かつてのサンフランシスコや大阪級の大都市も出現し始めた活気あふれる移民惑星の大都市のいい見本である。月が二個あるので、21世紀の人間である夏木りんでも、ここが地球では無いことは把握しているだろう。また、街並みが地球をモデルにしているものの、21世紀以前とは異なり、計画的なことは分かるだろう。
「キャピタル・シティか。サンフランシスコみたいに、ゴールデン・ゲート・ブリッジみたいなもあるんだな」
「この街はサンフランシスコ出身の連中が中心になって作ったらしいからな」
キャピタル・シティはサンフランシスコをモデルに建設された街で、地球で荒廃したサンフランシスコの事実上の末裔に位置する。アメリカ系が比較的、発見した船団に多かった事もあり、かつてのアメリカに近い街並みが再現されつつあるエデン。23世紀以降では、デフォルメされたネオアメリカコロニーと並び、アメリカ文化の名残りを感じさせる地と言える。
「なんでアメリカみたいな街並みに?」
「統合戦争と一年戦争で荒れちまったしな、北米大陸。所謂、郷愁だろうな」
統合戦争と一年戦争で荒廃し、更に穀倉地帯がデラーズ紛争で吹き飛んだ北米大陸は23世紀初頭時には『人が住めるような治安ではない』とされる、スラム街と化していた。ニューヤークでさえ、自由の女神像がボロボロで放置されている有様で、アメリカの繁栄を物語るモノは消え失せている。黒江も、Zプルトニウスの受領で訪れたが、旧アメリカ東海岸には出向くなと釘を刺されているほどだ。
「元・東海岸は旧ロシアとジオンが壊し、ティターンズとエゥーゴの戦争で更に荒れ果ててな。ニューヤークでさえ廃墟同然の状態のままだ。ワシントンのホワイトハウスなんて、ボロボロのジオン国旗が翻ったままの幽霊屋敷だ」
アメリカ東海岸は23世紀初頭には統合戦争からの傷が癒えぬまま没落し、西海岸が日本の影響下に入っていた事、キャルフォニアベースにアナハイム・エレクトロニクス社が組み込まれていたため、比較的に往年の面影に近くなったという明暗がある。西海岸は統合戦争で軍事的要所と化していた事、また、比較的に復興資金を注ぎ込める政治的理由があるため、復興が進みつつある。キャピタル・シティは在りし日の『超大国・アメリカ合衆国』への郷愁から生まれた街なのだ。そのため、まだ繁栄していた時代のサンフランシスコの面影が随所に見られる。
「うへぇ。自由リベリオンの連中が見たら、目回して泡吹くぜ」
「それと、米軍の連中もだ。21世紀には七つの海を我が物にしてるのが、あと100年とちょっとで没落なんて、心臓発作起きるぜ」
黒江達がジークフリートで市街地を一周している、まさにその時。黒江達の目標である、夏木りんは市街地の西部にある公園のサッカー場の草試合に助っ人として出場し、その日暮らしのための金を稼いでいたのである。元々、スポーツが得意だったため、草試合の助っ人はその日暮らしの金を稼ぐにはうってつけであり、巨○の星の星飛雄馬の空白期のような暮らしぶりである。だから、門矢士も見つけやすかったのである。この世界に適応している風なりんだが、内心はどうであろうか。のぞみと違い、フレッシュプリキュア!組と同じタイプの転生か、それとも、のぞみとは別の世界から来たのだろうか。それはまだ、門矢士も掴んではいなかった。ただし、士がこの日、黒江に寄越したEメールによると、のぞみの記憶とりんが記憶している出来事に微妙なズレが生じている事、また、のぞみは教師を中途退職し、愛する人のいるパルミエ王国に行ったはずという発言があったという…。その事から、士は『死を挟んだ上で、お前の知る子の可能性と交わった特殊な転生だと、タイムマシンでは遡る事はできないぞ?』と黒江に追加でメールを送り、黒江はここから数日内に、その事をのぞみへ教える事になる。のぞみは『友人であるが、正確には、別の自分の友人である』という夏木りんの事実を知らされ、強いショックを受け、ニューエドワーズ空軍基地で寝込む羽目になったという。ただし、『現役期間中は同様の道を辿った』事を拠り所にし、りんとの面会を選択する。当のりんは意外な事に、『どこの世界でも、のぞみはのぞみでしょ?』とポジティブに回答し、ニューエドワーズ空軍基地に案内され、のぞみと『再会』。お互いの全てを受け入れる意思を示し、のぞみの『願い』を叶える事を選んだという。お互いに違和感はあるが、プリキュアとしての魂は同じであるため、改めて関係を築き直していくと同意したという。
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