外伝その266『イベリア半島攻防戦15』


――空中戦は小康状態になっていたとは言え、散発的に発生し続けた。日本軍機で米軍の最新鋭機に対抗できるものかと言われたが、史実後期のレシプロ機はどれも扶桑の工業力で史実より高能力値である事、百戦錬磨の義勇兵の搭乗なこともあり、1942年前半までの圧倒的制空権を実現した。これは当の日本側を困惑させた。また、腕にもよるが、キ43-VでP-80の撃墜記録も生じ、正に日本軍の大戦初期の無敵ぶりの証明であった。――





――黒江と知り合いの戦友会の老人たちは義勇兵の第一陣で参陣しており、黒江に頼まれ、B-29の撃墜法を伝授していた――


――501 講堂――

「B公の対処法は至って単純である。誰かが防御機銃を引きつけ、その間に機首に一発ドカンとかますか、下から撃つか、である」

黒江の知り合いの戦友会の老人達は偶然にも、対B-29戦闘で鳴らした部隊出身者が多数在籍しており、その関係で、黒江に講義を頼まれていた。黒江が用意した模型と、シミュレーター映像を駆使し、彼らは対B-29戦闘のノウハウを叩き込む。

「このように、B公は斜め上面から突っ込むか、下から撃つと与圧の関係で風船のように脆い。エンジンは撃っても、すぐ消火するので、ほぼ無意味である」

彼らは元・鍾馗や屠龍の搭乗者であり、義勇兵としても鍾馗を駆る猛者である。彼らは扶桑より遥かに条件が劣悪な大日本帝国陸軍で生き残ってきており、扶桑製鍾馗を『エンジンがすぐにかかる』と絶賛している。また、12.7ミリとは言え、四門を有する二型は一撃離脱戦法に最適であり、B29も、与圧されている部分を撃てば、意外に落とせる。ウィッチ世界のリベリオン軍に対戦闘機戦のマニュアルが殆ど存在しない事もあり、彼らは撃墜数を伸ばしていた。元々、対人戦想定外の軍隊に、いきなりやらせても無理があるので、日本連邦は太平洋戦争経験者の優位点をここで活かした。また、扶桑の機体は大日本帝国の同名機より程度がいいため、鍾馗もハイオクガソリンを入れて、推力式排気管にすれば、それだけで40kmは上がる。レシプロ機はそういうものだ。疾風の史実寄り機が開発中であったのもあり、鍾馗の現存機の大半は作戦に従事している。元々が重爆迎撃用の戦闘機なので、要撃用途で使用されているが、欧州では航続距離は長いと判定されており、制空権確保にも臨時で参加してもいる。また、現地改良で空戦フラップの自動化もされたため、空戦能力は史実疾風より良かったりする。

「B公の爆撃高度は精度の問題もあり、高度5000から6000である。基本的に敵は編隊飛行で来るので、編隊の最後尾から攻撃をかけていくべし」

B-29は扶桑とブリタニア以外のレシプロ機では迎撃が困難を極める事が明らかになっていた。この当時としてはもっとも先進テクノロジーが詰まった爆撃機ともされるので、富嶽が如何にオーパーツなのがわかる。カールスラントはどうしたかというと、この当時、ジェットであるMe262に傾倒していたために、既存戦闘機の改善が停滞していた。その弊害で敵機との性能差が顕著になり、なんとも情けない有様であった。メンツの問題もあり、度重なる現場からの要望をガランドとラルが聞き届けるが、その時には軍備制限条約たる、新京条約が締結されており、結局、カールスラント空軍の軍事的衰退は避け難くなってしまうのである。

「また、敵機は頑丈なものが多いので、露払いも重要であり……」

戦争が激しくなるにつれ、近代ウィッチの抱いてきた『人を殺さない』という倫理観は通じなくなっていく。リーネはそれをかなぐり捨てるためもあり、人格を美遊・エーデルフェルトで統一した。元・ノーブルウィッチーズB部隊のマリアン・E・カールは黒田が転生者である事や祖国の分裂などの事実に打ちのめされたが、自由リベリオンへの恭順を選び、引き続き部隊に残った。憧れのシャーリーがGウィッチ+プリキュア属性の取得により、幹部扱いされている(年齢は1945年時点では同輩だが、レーサー時代のシャーリーのファンだったらしい)事が効いたのである。こうして、501JFWと他のJFWが上層部の軍事的都合で統合したため、派閥抗争が懸念されたが、幹部が全員、Gウィッチである上に各軍トップ級なので問題はなかった。武子のかつての思想とは裏腹に、『各国軍精鋭の集合した部隊』は政治的思惑のすれ違いの果てに霧散した506JFW以外は一応の成功を収めたと言える(ただし、501と508以外が統廃合されたので、手放しでは喜べないが)












――ちなみに、黒江は門矢士/仮面ライダーディケイドに頼み込み、他のプリキュアを捜索してもらっていた。この日にディケイドから連絡があり、未来世界の惑星エデンで風来坊的な暮らしをしている少女が、あるプリキュアの変身者に酷似している事が伝えられた。その事を教えるため、特に関係のあると思われる、のぞみが黒江の部屋に呼ばれた――

「こいつなんだが、覚えあるか?」

「え、えぇっ!?り、りんちゃん!?」

「お前の生前の仲間か?」

「はい!夏木りんって子で、キュアルージュです。わたしの生前の友達で、仲間だった子です。な、なんで惑星エデンに!?」

「ディケイドが調べたところによると、数ヶ月前から風来坊として鳴らすようになり、ここ最近はキャピタルシティを根城にしてるそうだ。地球で言えば、昔のサンフランシスコだな。会いたいか?」

「もちろんじゃないですか!」

「休暇を取って、惑星エデンに行く準備をしとけ。あと何人かにも声をかけてみろ。今回はなが〜いから長めに休暇をもらえ」

惑星エデンには、一般の観光船では七日(太陽系外縁部に達したところでフォールドするので)かかる行程であり、意外に遠い。星系が違うので当然である。21世紀では無人だが、23世紀にはそこからの移民船が出るほどの人口であり、地球連邦勢力圏第二の星である(30世紀には軍事拠点化され、軍事基地が増設されている)。そのため、黒江と他数名は有給休暇を長めに取り、未来世界に行って、地球からエデン行きの観光船に乗るのだ。この時に有給休暇が取れたのは、勤務日数があり、なおかつこの年の有給休暇をまだ消費していない数名(黒江含む)で、未来に行った時点でプリキュアの変身者の姿を取れる者、または素がそうなった者(のぞみ)が黒江に同行した。

「この姿になるの、久しぶりだなぁ」

「シャーリーはあんまかわんねーな」

「ま、今と髪型があんまかわんないしなー。前世と違って、言葉遣いが男っぽくなってる事くらいだな」

北条響の容姿になったシャーリーだが、元々、にた容姿であるため、差異は意外にない。あるのは…。

「変わったのは宮藤か」

「この姿も久しぶりですよ、本当」

「自衛隊の連中にアホの子とか言われてたな、お前」

「まー、事実だし。りんちゃんにも分かるように姿を変えただけで、あとは角谷杏なんだけどねぇ」

「生前と変わらんと言おうか、お前が人格を塗り替えた唯一の例だな、のぞみ?」

「は、はい。なんか錦ちゃんに悪いなぁ。全部を乗っ取っちゃったみたいで。それに天姫ちゃんに知られたら、なんて言い訳すればいいんですかぁ〜!」

「知らん!俺に聞くなよな」

「先立って、士を接触させた。あのストーカー野郎より先回りさせたから、誤解される事はないだろう、たぶん」

「たぶんぅ!?先輩、どーいうことですかぁ!?」

「鳴滝次第だよ。あいつに先を越されてたら、最悪、一戦は覚悟しておけ。まー、俺は負けるつもりはないがな」

「先輩は反則すぎです!ウィッチとしての魔力値はそこそこなのに、テクニックは当代屈指だし、おまけに聖闘士で、サムライトルーパーなんて」

「逆に言うと、ウィッチとしての自分に見切りをつけたから、別の方法で強くなったんだよ、俺は」

黒江はウィッチとしての自らの限界に気づいた。だからこそ、別アプローチで強くなる事を目指したのである。元々、求道者だったため、黄金聖闘士に登り詰め、その礼の心が光輪の鎧の継承者に選ばれた理由なのだ。外見の変更はいくらでも効くため、容姿はここのところは調を多少成長させたもので固定している。そのため、外見上は17歳前後に見える。とても、自衛官として勤続20年近いとは思えないし、見えないだろう。

「自衛隊で勤続20年近い人の言うことですかね」

「親父さんの思惑に乗っかって、防大から行ったしな。親父さんの差し金と分かったら、防大からウチに文句が出たんだぞ。『防大に士官学校卒の佐官級将校を送り込むな』って」

公には、黒江が防大の在籍中、防大からの要請という形でそれは伝えられたが、当時は『留学生』扱いにすることになっていたので、問題にされなかったが、政権が小泉ジュンイチローの手に渡った後、本来なら2020年代を目処にしていた女性自衛官活用を早め、日本連邦への布石とするため、黒江を正式な卒業生とし、正式に任官させた。そこから日本連邦は2016年まで具体化せず、発足に時間がかかった。黒江はその間に最高位まで登り詰めた。統幕入りは警察系官僚の策謀でならなかったが、実質的に幕僚長レベルの権限を持つ、対外任務の責任者に登り詰めた。旧軍人と同義な事が判明し、更に昭和天皇のお気に入りと分かった後で設けられた、幕僚長の代替職のようなものである。黒江とそれに続く数年の期に防大に潜り込んだ者が正規の自衛官としての高官コースに乗っかったケースだ。(現役の佐官〜尉官であったため)革新政党は組織乗っ取りを恐れたのだろうが、70年代までは陸士/海兵出身者が自衛隊制服組の中枢を占めていた歴史があるので、無意味である。2018年を超えた頃には革新政権時代の内規はもはや形骸化していた。

「革新政権時代にゃ訴訟起こされたけど、俺の同位体は支那戦線にゃほとんど従軍してねぇし、それに黎明期は旧軍人の再就職手当みたいなもんだし、連中はアホだぜ」

黒江は自衛隊の高官コースを驀進していた2000年代半ば、言われもない理由で訴訟を起こされた影響でマスメディア嫌いになった。また、航空幕僚長間違いなしとされながら、革新政権時代に設けられた内規で逃した(これは年功序列を守るためでもあったが、黒江は大戦期の住人であったので、加速度的に昇進し、遂には叙爵された)が、叙爵された事で空将への昇任がなし崩し的に行われ、扶桑軍も渋々ながら(将官になると、前線に出せなくなる事を嫌ったためもあるが、日本連邦化で将官だろうが前線に出ることが半ば国民の意志として示された事、自衛隊の中枢に登りつめた事は彼らも予想外だった)准将を設け、功ある若手の放り込み先にしたが、黒江が空将であることで、実質は中将扱いとされ、作戦終了後に正式に中将へ特進予定だ。その出世ぶりも扶桑中堅ウィッチの反発を招いた理由で、江藤の正確な報告が7年も握りつぶされた事での『伝説』とそれまでの公式スコアとの乖離の弊害がモロに生じたことも、プリキュア出身者を『この際だから』と持ち上げる事になった流れだ。

「先輩、溜まってますねぇ」

「武子や隊長にゃ悪いが、泥をかぶってもらうぜ。武子はケイが怒ってたが、今回も智子をスオムスに最初から行かせたしな」

「ケイ先輩、そんな事言ってたなぁ。脅したみたいですよ」

「それだが、聞いたところだと、42年の師走に帰郷した時、武子のやつをめっちゃ脅したそうだ。それであいつ、口下手な上に口が足りねぇと来てる。同位体の功績がなけりゃ、今の時代じゃ出世できないタイプだったよ」

武子はハルトマンとマルセイユの台頭が起こった42年を境に、以前のような集団戦闘至上主義の論調を緩めたとされる。表向きは『カールスラント空軍の撃墜王の様子を鑑みた結果』だが、実は『Gへの覚醒を促す意図もあり、圭子がわざと大袈裟に脅した』からで、武子が懺悔したいと譲らない一因でもある。(その前に、黒江への過去のいじめが公になった事で、元・加害者達が海援隊からも追放され、路頭に迷ったからでもある)

「あいつは運が悪いんだよ。覚醒した時にゃ、もう世代間対立が避けられないって状況だし、若い頃に個人スコアを重要視しなかったら、今になって大戦の時代に入るし」

対応が後手後手に回った事も、武子が悩んでいる理由である。黒江は同情はするが、『世代間対立からの内乱をどうするか』では、意見が対立している事から、武子を『身内に非情になれないので、日本連邦の時代では出世できないタイプだ』と評した。(黒江は軍/自衛隊で少なからず、ライバルたちを蹴落としてきた)

「先輩、隊長の面倒はどうするんです」

「昔の好だ、俺たちが裏で動かんと、あいつは政治的に不利になるからな。面倒は見るよ」

智子の同期であり、元々は同僚であった、『三羽烏』本来のメンバー(現・レイブンズは黒江の歴史改変で成り立った)あった好もあり、レイブンズは武子をなんだかんだで支えているのである。その事もあり、武子も『レイブンズには好きにさせる』事で応えている。観光船(全長は500mほど。宇宙時代での空母級に相当する)の船内の店で土産物を見ながら話す。船は火星との中間地点に差し掛かっており、船での七日の内、一日はこの行程で消費する。火星に寄港するからだ。

「ん、火星との中間点か。この時代にゃテラフォーミングされてるからなー」

「テラフォーミング?」

「地球と同じ、あるいはそれに近い条件の星を改造して、人が住めるようにする方法だ。火星はOTMとかの流入もあって、テラフォーミングが進んでるんだ。この時代には海ができて青くなってる」

「えぇ!?学校とかで習った時は、火星は移住に向かないって」

「そりゃ21世紀前半までの常識だ。この時代になれば、科学が21世紀前半までと比べ物にならないくらいに進歩してるからな。ただ、問題は木星の衛星にいる連中だよ。下手すれば、侵略者と手を結びかねない過激派多いんだよな」

「そうなんですか?」

「あそこの連中、過去の連邦の仕打ちから、伝統的に反連邦なんだよ。だから、独自の軍隊を持ってるし、二派に分裂したって噂だ」

地球連邦内部でのいざこざは意外に多く、火種を抱えていた。それは地域国家時代の対立を思わせる。21世紀日本がオラーシャ人を信用しないのは、日露戦争や日ソ不可侵条約の反故の名残りであり、オラーシャが『同位国がそうだったからって、我が国は…』と近隣国に日本連邦への仲介を懇願しているが、それと木星圏と地球圏のいざこざはよく似ている。

「銀河系に版図を広げても、地域国家時代の対立と似たような事やらかしてるから、数百年経っても、人間のやることや考える事は変わらんってこった。連邦とジオンの対立みたいに」

ジオンが起こした一年戦争はある意味、地球圏の統一国家樹立を理想としていた21世紀前半までの人間たちの失望を買い、ドラえもん達の中では、意外な事だが、しずかがジオンにもっとも辛辣であった。しずかは20世紀末から起こっていた宗教紛争や民族紛争を鎮めるためには、地球連邦の樹立しかないと考えており、その繰り返しを起こしたジオン公国やティターンズには辛辣そのものであった。この時代、ジオンの大義名分は形骸化しつつあり、存在意義の喪失がスペースノイドからも叫ばれており、ジオンの理想の実現にそれほど興味がないシャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)をまたも担ぎ出して、存在意義の証明に躍起になっていた。そんな理由により、またも行動の尖鋭化が鮮明になり始めており、火星に逃げ込んでいた公国軍残党の一派は民間船も見境なく襲うようになっており、黒江達の乗る観光船もその標的となってしまった。4人が買い物を済ませたその時に事件は起こった。

「なんだ!?」

「きゃあ!?」

「黒江さん、まさか!?」

「くそ、オールズモビルの連中か!?」

「オールズモビルって!?」

「この時代から15年くらい昔の事だ。一年戦争っていうコロニーと地球の大戦争が起こったんだが、その戦争が終わった時に各地に散らばった軍隊の生き残りがテロを起こしてるんだよ!連中め、見境ない事を!」

ティターンズが一定の支持を得ていたのは、ひとえに、残党軍のこうした『昔の中東イスラム過激派』まがいの無差別攻撃のおかげであり、ジオン残党の自業自得に近い。ギレン・ザビの遺産はなんだかんだで一年戦争時の公国軍の大義名分として機能していたのだが、この時代にあっては、ほとんどイスラム過激派と同義に見られ始めていた。黒江がブリッジに向かい、他の三人はとりあえず、パニックを落ち着かせてから、作戦会議に入った。



「あわわ、宇宙空間じゃ、普通に変身しただけじゃ戦えないよぉ」

「宇宙だからなぁ。スーパープリキュアになんないと戦闘もままならないぜ?かと言って、応援が期待できるか?観光船だから、機体も持ってきてないし」

「スーパー化かぁ。自力でなったのなかったしなぁ。気合でなれるかね?」

「宮…じゃなかった、みゆき。お前、パワーアップ形態がこの中で一番あるだろ」

「そんな事言われてもなぁ」

芳佳/みゆきは困った顔をする。実際、この中で一番にパワーアップを重ねたが、自力でなれたわけではないからだ。

「幸い、食用宇宙服無しでも戦闘できる体にはなったけどよ、通常形態じゃ空間戦闘は無理だしな…」

「宇宙空間の戦闘は経験無いなぁ」

「宇宙空間じゃ、全天に神経を張り巡らす必要があるぞ。360度あらゆるところから攻撃がくるかんな。空での戦とも違うぞ」

「困ったなぁ…。普通にパワーアップしたら普通のスーパープリキュアだけど、あの時点でラスボス戦で序盤は圧倒されたからなぁ。私しかできない『シャイニングドリーム』になるしかないのかなぁ。先輩はその先を行けっていうけど」

「マジンガーZEROを警戒してるんだろう。のび太やドラえもんとかの例外を除いて、神を超える力がないと立ち向かえないからな」

「マジンガーZERO……」

「黒江さん達はドラえもんとのび太の助けを得て、神の座に至った。奴と戦うために。奴はグレートマジンガーを認めない延長線で、自分以外のあらゆる存在を認めねーんだ。だから、初代の加護があたしたちには必要なんだ」

「なぎささんとほのかさんの?」

「そうだ。何事も先駆者ってのは偉大だぞ。それに、一応、食用宇宙服食っとけ。ダメージで変身が解けたら、いくらあたしらでも、宇宙空間じゃ、マジでシャレにならないし」

「は、はい」

本来は、のぞみがプリキュアとしては先輩だが、シャーリーと錦の人間関係がそのまま持ち込まれたため、のぞみは北条響(シャーリー)に敬語で接していた。(軍隊階級の差でもある)彼女から食用宇宙服を受け取り、食べる。そこで、みゆき(芳佳)がとんでもないものをドラえもん風に取り出す。

『サイコフレーム〜!』

「……って!宮…じゃなかった、みゆき!どっから持ってきた!そんなおっかねえモン!!」

「エイラさんがフェネクス使ってる関係で、サンプルを失敬しておいたんですよ。思いを増幅させる機能があるサイコフレームなら、私達のスーパープリキュア化を人為的に起こせるかなって。ニナ・パープルトンさんに頼んで、サンプルをもらっといたんです。」

別世界では人智を超えてしまった故に封印措置が取られたサイコフレームだが、この未来世界では、マジンガーZEROを封じ込め、ゲッターエンペラーの登場を促すためのものとして、むしろその力は歓迎された。人の意思を増幅させる機能から、オーパーツともされるが、プリキュアのスーパープリキュア化を促進させるための『思いの増幅器』として使用された。T型のフレームのサンプル材一個でも、三人のスーパープリキュア化を引き起こすのに充分な増幅効果を発揮させた。つまり、サイコフレームはプリキュアの進化すら促す事が可能なのだ。

『プリキュア・メタモルフォーゼ!』

『プリキュア・スマイルチャージ!』

『レッツプレイ・プリキュア・モジュレーション!!』

サイコフレームの緑色の光が三人を包み込み、変身をパワーアップさせる。三人が個人単位で行き着いた最強フォームへ。サイコフィールドによるパワーの増幅効果である。シャイニングドリーム、クレッシェンドメロディ、プリンセスフォーム(単体での最強形態という意味での)へ三人を強化させた。


「ふおおおお〜!さすがサイコフレームだぜ!」

「私はプリンセスフォームかぁ。ま、サイコフレームの大きさ的に妥当かな?」

「よぉーし!行くぞぉ〜!」

三人は甲板に出て、そこから飛び出し、オールズモビルのMS隊を迎え撃った。オールズモビルは基本的にギラ・ドーガを製造できる技術で一年戦争時のMSをリファインしたもので、外観はザク、グフ、ドム、ゲルググなどを模している。黒江はサイコフィールドの発動を感じ取って状況を察し、敵に傍受されないテレパシーで指示を与え、三人に当面の迎撃をさせた。巨大な敵との戦闘経験がゼロでない幸運もあり、オールズモビルと対峙した。

「これが…ジオンのザクの最新版!だけど、人間サイズをMSのFCSで狙おうったって、そうそうっ!」

RFザク。外見はザクを模すが、性能はギラ・ズール以上のものであり、後に、設計図が流れたネオ・ジオン本隊も採用するに至る名機である。RFザクはザク・マシンガンを模したビーム・ライフルを放つが、小さい目標に当てられずに接近を許す。

「ただの観光船を海賊みたいに襲うなんて!あんたら、それでも元軍人!?」

のぞみにしては荒っぽい台詞だが、錦の肉体に残っていた記憶の影響によるものだろう。スターライト・フルーレを振るい、RFザクを斜め袈裟懸けに斬り裂く。天使のような柔らかい印象を与えるシャイニングドリームだが、やっている事はそれと正反対の大胆なものだ。三人の中で素で唯一、斬撃武器を持っているからだが、空間戦闘は経験がほぼないため、可変機で経験があるメロディから注意される。

「馬鹿、宇宙空間で気を抜くな!」

メロディは武器をプリキュア本来の物でなく、紅蓮聖天八極式のMVSを人間サイズにしたモノで戦っていた。スイートプリキュアは音楽に関連する技が持ち味だが、スピードが命のMS戦ではその暇がないため、紅蓮聖天八極式に準じた戦闘である。そのため、プリキュアの姿でナイトメアフレームの戦闘をしているに等しく、回し蹴りでRFザクを吹き飛ばし、取り付いてMVSで斬り裂く芸当を見せた。索敵や迅速な移動は手慣れており、宇宙戦闘の経験者であるところを見せる。

「あたしのプリキュア本来の技使えるほど、敵に隙がないから、輻射波動で!」

「え〜!」

メロディはなんと、プリキュアの姿で右腕から輻射波動を発生させ、MSを爆散させる芸当をする。ドリームは呆然とする。もちろん、腕が伸びるわけはないので、広域放射か、直接取り付いての攻撃が方法だが、最もギャップのある攻撃である。

「意外に使えるな。ただ、この姿ですると、よい子泣くかもなー」

「でも、メロディ。サウンドブースターさえあれば、歌を響かせられるんじゃない?」

「無茶いうなよ、ハッピー。サウンドブースターがどこにあるんだよ」

背中に羽が生えるクレッシェンドメロディは、サウンドブースターの装着はできない。

――あー、メロディ。サウンドブースターなら、俺が空中元素固定で用意してやるけど?――

「黒江さん、テレパシーで話しかけないでくれよぉ!ドキッとすんから!」

――ハハハ、いいやん。ナインセンシズ持ってんだし。今、イカロス基地に中継してもらって、系内遊撃艦隊のバトルキャリアを急派してもらった!それまで持たせろ――

黒江は通信をイカロス基地に繋いでもらい、そこから近隣を航行中の系内遊撃艦隊の司令部に中継してもらい、救援を派遣してもらった事を明言した。この艦隊はアースフリートの内惑星防衛艦隊の傘下にある遊撃艦隊で、比較的に新鋭艦の多い艦隊である。規模はウラガ級空母を主体とするが、旗艦は波動砲搭載のバトルキャリアである中規模艦隊である。搭載機も当時としても強力なVF-17、コスモタイガーU、スタークジェガン、ZplusC1型である。17はVFとしては旧式だが、VF-22の生産が伸び悩む時代では、未だに強力だ。

「系内遊撃艦隊?演習中だったの?」

――ちょうど就役した、エンジン強化型の航行テスト中だったんだと。真田さんが中継してくれたよ。M粒子をばら撒きやがったから、遠距離通信は使えんし――



そのバトルキャリア『レキシントン』では、VF-17が甲板から次々と発進していく。この当時としては旧式だが、ベテランパイロットが操ることや、ステルス性にあまり配慮せずに住むようになったため、VBに近い運用もなされている。廉価版の171はオートマチック化が進んでいたので、嫌われ者であったが、17は廉価版が生産中止されても現役である。また、地球本星仕様は独自の近代化でブロックが進み、ピンポイントバリアを展開可能であり、廉価版の特徴も取り入れている。ちょうどプリキュア達が戦闘している空域の近くにレキシントンは来ており、管制官が『プリキュアのお姉ちゃんたちにカッコいいところ見せてやれよ、野郎ども!』と発破をかけ、パイロット連中は歓声を挙げながら発進していっていたりする。そして、VFが発進し終えると、今度はスタークジェガンが発進態勢に入っていく。

「こちら『サジタリアス01』。発進準備よろし」

「了解、サジタリアス、戦闘機連中に遅れを取らないように」

「あいつらに飯を奢らされるのはゴメンだからな。サジタリアス隊、出る!」

地球連邦軍のMS隊は艦載機部隊ごとにコールサインがある。ネェル・アーガマなら、ロメオやジュリエットが使用されている。レキシントンのMS隊は意外に伝統があり、一年戦争当時にジム・ライトアーマーで編成された古い部隊だ。以後、スピード重視のMSに機種変更がされており、この時期はスタークジェガンである。また、彼らが最初に基礎能力値を上げるため、素体をD型からR型に変更して使用した部隊であるなど、とにかくスピード重視の部隊である。地球連邦軍の中では古株部隊であるため、ロンド・ベルの採用基準ほどでないが、高練度兵が選抜されるという。スタークジェガンを末端兵に至るまで運用する珍しい部隊である事もあり、地球連邦軍の中では珍しい高練度部隊である。こうした救援が意気揚々と向かった事を黒江から知らされたプリキュア達は奮起するが、ドリームが経験不足から、RFグフのヒートロッドに捕まってしまう。流石にシャイニングドリームの力でも、18m級MSのヒートロッドを引き剥がせず、グフのパイロットは勝ち誇る。人質になるからだ。そして、見せしめにヒートロッドの電流が流されようとしたその一瞬だった。ガンポッドの一撃がヒートロッドを引きちぎり、一瞬の内に、VF-17が肉薄する。一般に、ニュータイプでもなければ、相対速度の差もあり、MSはVFのスピードには対応困難である。ファイター形態で矢のように現れ、ガンポッドがグフを蜂の巣にし、撃破する。その一瞬でドリームの救出もやってのけたVF-17。可変戦闘機はこうした救出任務にも迅速に対応できるので、特務部隊に好まれるのだ。

「さすが、17!もう来やがった!」

はしゃぐメロディ。VF-17は一時期、黒江も使用した経験がある重厚なフォルムのステルスバルキリーである。新鋭機時代はダイヤモンドフォースなどの特務部隊が愛用していたことで知られ、MS相手にもスピードとトリッキーな動きで優位に立てる機種とされたほどだが、生産数はけして多くない。バトロイド形態の重厚なフォルムもあり、人気のある機種であるのだが、AVF以前では一番に高価であるので、この時点では780機しか出回っていない。動きが『硬い』ため、黒江は機体の全損後、VF-19系に機種変更したが、メロディはシャーリーとして、VFの操縦資格を持つので、カットラスに続く二機目の普段遣いのVFに買おうかなと考えた。黒江はズームアンドダイブの名手で鳴らしているが、本質的にはドッグファイターなので、19系のほうが肌にあった。メロディ(シャーリー)はどうであろうか。火星との中間点でとんだ事件に巻き込まれた一同だが、ドリームにとっては、これ以上ない形で、未来世界の洗礼を受ける戦闘であった。



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