外伝その287『精鋭部隊という事情』
――日本側に左遷させられた、あるいは失職させられた外務官僚は親独派と親露派とされた派閥が中心であり、オラーシャやカールスラントは扶桑への影響力喪失に怯えたが、カールスラントは松岡洋右の失脚で、オラーシャは当時の親オラーシャ主流派の失脚で外交パイプを尽く失った。強引な軍縮で国勢が衰え始めたカールスラントは、ガランドが持つラインのみが頼みの綱となり、44戦闘団に集めたエースを扶桑へ義勇兵扱いで派遣する密約を結び、空母愛鷹の返還で生じる再整備費用の支払い額を何割か値切ることに成功する。当時としては法外な値段を請求されていた事、カールスラント軍の技術のブランド力喪失という懲罰的報復を受け、カールスラント軍の財政は破綻に近かった事もあり、日本連邦側も手打ちにした。カールスラントはドイツの干渉で軍縮傾向になり、芳佳の予測どおり、1950年代には『外征がままならない』規模にまで衰えていくが、1930年代後半から40年代前半期までに入隊した黄金世代の保全策は一定の成功を収める。44戦闘団をウルスラ・ハルトマンの反対を押し切ってでも、各部隊の精鋭の行き場にし、各部隊のトップエースを引き抜き、リストラから守ったからだ。エーリカ・ハルトマンも同位体の失敗を踏まえ、44戦闘団に籍を置いていたため、リストラを免れた。(ドイツは扱いにくかった同位体の記録から、エーリカを予備役編入し、有事に復帰させようとしたものの、カールスラントの猛反対で潰えている。もっとも、エーリカが『予備役?それなら完全除隊して自由リベリオンに移民して軍役に着くよ』と脅した事もドイツ側に対するカードとなった)先行する扶桑の事例はカールスラントの人材保全に役立った事になる。事情は異なるが、日独の『精鋭部隊』は政治的事情も作用して生み出されていったのである。――
――扶桑の64の場合、海軍343空と陸軍64戦隊の双方を統合する形で生まれた。組織概要は343空のそれが受け継がれたが、源田実のネームバリューを政治利用するための日本向けプロパガンダが多分に含まれている。志賀が反発したのは、扶桑では先行して著名であった64の名を受け継ぐという点であり、些か子供じみた反発であった。彼女の人的補償で坂本が出戻った事、後に機材の焼却事件を止められなかった事から、『栄光の横空の晩節を汚した』とレッテルを張られ、戦争終結と同時に退役する。海軍系ウィッチの少なからずは戦後に志賀の興した民間軍事会社へ転じたが、菅野や芳佳たちのように、軍に残ることが立場上、義務付けられた者も多い。64は日本を納得させるための政治的な場所と解釈した者も海軍系に多いが、練度は1945年時点の本来なら『世代交代期』と言える時代にあっては、文字通りに最強と言える水準であった。各国で大戦前半期入隊第一世代までのウィッチが退役し始めている中、扶桑海事変以前の世代が幹部を占め、末端の隊員に至るまでが百戦錬磨の撃墜王。そんな豪華な布陣は当時、ウィッチ世界では唯一無二であった――
――扶桑本土 統合幕僚会議――
「山本閣下、64戦隊の陣容はすごいですな?」
「当たり前だよ。我が軍に残留していた事変以前の世代から現役世代までの名だたる撃墜王の殆どを全戦線から整備兵共々に引き抜いたのだからな」
「源田大佐のネームバリューを利用したのですか?」
「そちらでは加藤隼戦闘隊のネームバリューは死んだも同然だろう?源田君のネームバリューを使ったほうがそちらに受けが良いのでね」
武子は部隊の通称で『隼部隊』を要望したが、政治的事情で『剣部隊』となった。武子は不満であったが、剣部隊のほうが験担ぎ的意味でも良いのは事実だ。山本五十六は航空幕僚長にそう告げる。
「隼部隊という通称を加藤くんが要望を出していたが、隼部隊はそちらの記録では壊滅しとる。なので、源田君の決定という形で剣部隊にした。そのほうが予算が通るかと思ってね」
「閣下の差し金ですか」
「リサーチしたよ?これでも。源田君は航空幕僚長になっていたからね。彼のネームバリューを使わん手はない」
「確かに」
「まあ、もう一つはそちらから『隼は米軍にファルコンのコード使う部隊が多いから避けよう』って意見が出たからさ。加藤くんはああ見えて、隼に入れ込んでるからね」(『ファルコンやらイーグルやらあちらは好きだからこっちも部隊コール考えちまう、日本語で隼だと4音だから聞き取りに難ありってなっちまう』という意見もあり、剣部隊となったという)
「統括官はよく説得出来ましたね」
「源田くんの決定ということで承服させたそうだ。それと、海軍の不満が危ない水準だよ。唯でさえ、軍備整備計画にそちらが噛むようになり、雲龍型と大鳳型が調達中止になり、空母機動部隊のシェイプアップが求められる時代だ。だが、ジェット戦闘機搭載空母に短期間では切り替えられん。かと言って、ウィッチ主体のドクトリンを切り替えるのにも6年以上は要する。ウィッチとの共用空母は大鳳型の大きさでも充分だったからね」
「21世紀では、45000トンで軽空母扱いですから。正規空母は100000トン級ですよ。政治屋は米軍のものと比べますし、左派は自衛隊より強そうだからって反対する」
「純然たるウィッチは強襲揚陸艦に載せるしかないな。黒江くんのように、ジェット戦闘機のパイロットを兼任できる者は希少なのだよ?全てが機械工学に強いわけでもないし」
「それはわかっております。だからこそ、64の存在を官僚連中に容認させたのです。F-14をテストしているとは思いもしませんでしたが」
「一般大衆は一世代の優位だけでは納得せんらしいのでな。四世代ほどの優位を得ておいたほうが楽だからね。1940年代の技術で1950年代以降の技術は解析できんというのに、大衆は騒ぐ」
「仕方ありません。子供でも買える本に『日本は零戦の後継機を出せずに負けた』と書いてあっては」
「メーカーが泣くよ?陸軍のキ61やキ84など、メーカーが文句を言ってきとる」
「84は擁護のしようがありません。分散配置で稼働率は低調、目立った手柄がない」
「やれやれ。連合軍のトップエースを撃墜したやもしれぬというのに。確かに、こちらでの要求仕様の見積もりが甘かったのは認めるが、メーカーの技術者も必死に改善しようとしとるのだ。脅さんでくれ」
「背広組はハチロクと三菱鉛筆で爆撃機への迎撃能力を持たせようとしとるのです。曰く、日本系レシプロ機は限界が見えているから、と」
「そんなに言うなら、ターボプロップエンジンを積めば良いんだよ。宮菱の試算では、烈風も時速700キロはゆうに出せると上奏してきている」
山本五十六の言う通り、扶桑のレシプロ戦闘機は全体的に製造精度が史実連合軍の規格に沿っており、飛燕がメッサーシュミットのエンジンを何の苦もなく搭載できる。疾風が問題になったのは、機銃の世代交代に伴う設計の不備であり、改良型で航続距離は削られるが、史実と同水準の機銃弾搭載数は確保する見通しである。メーカーにしてみれば、量産型のロールアウトと同時に『改良型を作れ』と言われるのは心外であろうが、まさか戦闘機に『戦闘機を排除し、爆撃機も落とせる火力』を与える時代がするなど、ウィッチ世界の誰も思ってなかったし、一時は邪魔者扱いだったはずの20ミリ砲がGウィッチで当たり前に用いられるようになるなど、予想を超えていたからだ。
「これも時代の流れか」
統合幕僚会議の扶桑出張所のディスプレイに表示される『戦闘機が戦闘機を落とし、単発戦闘機が重爆迎撃に赴く』当たり前の光景も、ウィッチ世界の者には信じられないほどに血生臭い光景であろう。また、被弾した戦闘機が重爆を道連れにして爆散する光景は、ウィッチ出身参謀たちの顔面を蒼白にさせる。義勇兵の勇敢な行為は、ウィッチ出身の参謀たちに戦争の真実を否応なしに思い知らせてるだろう。現場のウィッチ達がサボタージュをするのも仕方がないほどに、戦場は血みどろの争いの場だったのだ。
――戦場はもはや、64/501が単独でウィッチ部隊の面目を保っている状態であった。歴代のヒーロー達が側面援護し、ごく少数で各地を支えているという特異性もあり、Gウィッチの勇名が高まっていった。サボタージュした部隊の解散と部隊員の懲戒解雇が検討されたのもこの時期だ。サボタージュしていた部隊はこの報に蒼白になり、慌てて出動準備を進めるが、既に肥大化した64が単独で戦線を支えられる規模になっており、熟練者を64へ供出し、解散する部隊が続出し始めた。日本側への予算対策も兼ねての決定で、自主的に古参が64へ移籍する動きが止まらないため、それを公式化することで、一定の歯止めをかけたのである。人身御供として、軍指令を拒否した最上位者を不名誉除隊させる処置が取られ、南洋島で軟禁状態にあった教官と助教達がその代替要員にされることで解決が図られ、智子を安堵させた。歴代のプリキュア達はそんな戦況を支える柱と見なされており、芳佳(みゆき)などは連邦宇宙軍の機密であるはずのベクトラ級宇宙空母の事を知っている。転生者である場合、軍機は意味をなさないため、彼女たちが内輪で話題に出す分には問題はない。計画がデラーズ紛争の頃から延び延びになったためもあって、規模も今となっては小型に入るため、多少の改設計でロンド・ベルに回す案が有力とされる。また、プリキュアで彼女だけは政治にも噛んでいるため、ジオン穏健派と連邦で話し合われている『サイコマシン規制問題』の折り合いがつくか微妙という感触も持っている。サイコフレーム機はハイνも入るし、地球連邦はサイコマシンを脅威と見なしておらず、むしろゲッターロボのほうが危ないと思っているという相違がある。また、地球連邦はドラえもんの『道具は使う者次第』という考えの影響で、サイコマシンの制御に前向きな展望を持っており、ジオン過激派がたとえ、ネオ・ジオングを持ち出そうと、それを捩じ伏せられる神通力を持つマシーンが手中にあるからか、ネオ・ジオングも脅威と見なしておらず、キャプテン・ハーロックのもたらした未来の敵『イルミダス』、『マゾーン』対策のためにサイコマシンは必要という認識であった。(ただし、ユニコーンの力を見た後は、流石に考えたか、軍用量産機を目指す後発機の新規開発は止まるが、RX-93シリーズを含めた既存機の運用そのものは有事が続いたこともあり、その後も続けられ、継続して戦果を挙げたと言う。ただし、RX-94『量産型νガンダム』のみはジェガンの初期量産機の老朽化やジェスタのラインの拡大が政府に容認されなかった兼ね合いで量産され、本国のみで使用されたという)
――2019年 フランス――
「サイコマシンの規制ねぇ。ユニコーンがヤバイのはわかるけど、これから暗黒星団帝国とボラー連邦、ディンギル帝国が控えてんだぜ?そんな規制かけんなよ」
黒江は芳佳からの電話に不機嫌な声で答えた。
「エンペラーや真ドラゴン見てる身としてはみみっちいんですけど、ネオ・ジオングの悪用をジオンの穏健派は恐れてるらしくて」
「それを連中に教えてやったらどうなんだ?百鬼もアトランティス最後の遺産のウザーラを手に入れてんだぞ」
「有事が当分続くなんて、連中は信じませんって。それにイルミダスやマゾーンに対抗するためって言っても、何百年も先だし」
「そうだよなぁ…」
「既存機の解体を有事のためって言って、なんとか消させるしかなさそうですよ、政府。ガトランティスの事があってから、選択肢を残したがるし」
「ジオンもガトランティスとの生存競争を見てないはずはねぇからなぁ。そこから攻めるようにアドバイスしてくれ。イルミダスやマゾーンの事はハーロックからのラインで藤堂軍令部総長は知っているはずだしな」
「対人戦争には、νガンダムを超えるフレーム使用量のサイコマシンの投入を禁止させて、大統領直轄扱いで研究を続けさせる方法で進んでいますよ。ν系なら、フレームはコクピット周りしかないし」
「それで妥協するしかねぇか。ま、ν系が使えるだけいいか」
アムロ・レイの事もあり、使用量の低いRX-93系のみが特例ということで、その後の対人戦争でも運用は続けられる。ジオンのν系へのカウンターパートのシャア・アズナブルの『ナイチンゲールが使用不能になる』というリスクが問題視されたからだろう。つまり、νガンダムに対抗するためのマシンはあるに越した事はないという意見があったからだ。この過程でジオン軍はマリーダ・クルス用に用意していた『クシャトリヤ』のサイコフレーム使用量を減らし、改良型バイオセンサーである程度の負担を補う方向で改修する。地球連邦もハイνの改良でフレーム使用量が増やせないため、改良型バイオコンピュータを補助に、量子コンピュータをメインに使うことで機体の追従性能を引き上げる方向になる。後に、正式にサイコフレーム研究に規制がかかった後は、バイオセンサーとコンピュータの改良(コズミック・イラから伝わった量子コンピュータを次世代型とした)を主体にして、ニュータイプパイロットへのレスポンス対応を目指していく。
「νは元からの搭載機じゃないってのもあるかも。あれ、元はファンネル用のサイコミュを積むだけのハズだし」
「それか?」
「ジオン穏健派もνが元は単にサイコミュ積んだガンダムでしかないのは知ってますからね。今のうちにエイラさんにフェネクスを使わせておいたほうがいいかも」
「代替機を考えとく。SかZUの増加生産を要請しとく。νはアムロさん用だし。ところで、あれを模したISはどうなんだ?」
「ISは規制に入らないと思います。使用量はわずかで、機能と外観を模してるだけだし」
「ま、そうだよなぁ。連絡サンキュー。こっちはのぞみの面倒見てるから、そろそろ切るぜ」
「あ、そうだ。川内ちゃんと話したんですけど、のぞみちゃん、なのはみたいなこと考えてるみたいですよ」
「もしかして、あのヤローが今回もやろうとしてるあれか?」
「ええ。アレです。シャイニングドリームで過去の自分を含めた仲間を助けたいらしく。なのはにいろいろ聞いてたみたいで」
「なのはから聞き出したのか?」
「立花響のことで叱るついでに」
「なのはなぁ。あいつもやんちゃ盛りだからなー。ドラえもんとのび太に頼んどいたか?」
「絞ってもらいました。それでのぞみちゃんが話を聞き出してる事を吐きました」
「あのガキ、レモネード、ミント、アクアのことを探すつもりか?」
「別世界の自分と会うことになるよ?とは忠告したんですけどね」
芳佳は基地に帰った後に、黒江に報告を入れている。その中で、のぞみがかつての仲間であった、同じプリキュア5のキュアレモネード、キュアミント、キュアアクアを探すつもりである事を伝えていた。芳佳はみゆきとして、『別世界の自分と対面するのは間違いないよ』と忠告したと伝える。ラブとの話に出した事は芳佳(みゆき)の懸念でもあるのだ。
「ルージュがそうだったみたいに、同じ世界の出身じゃなくてもいいの?とは言いました。だけど、『たとえ、世界が違っても、みんなはみんなだもん!』って返されまして」
「気持ちはわかるが、俺みたいに失敗やらかすのは止めろよ?あの時のこと覚えてんだろ」
「あんなのは黒江さんだけですよ。ホテルの壁を破壊するなんて」
黒江が前史で犯したポカは転生者の間では、もっぱらのネタであるため、芳佳も笑い飛ばしの種にしているし、黒江自身も笑い飛ばしている。世界が違えば、人間関係は違う。黒江はその時にそのことを学んだ。のぞみが自分と同じ失敗をしないか、性格的に気が気でないようだ。
「あん時は絞られたかんなー。とにかく、のぞみがそうなったら、お目付け役を頼むぜ。りんだけじゃ足りないだろうから」
「分かってます。以上です。あ、それとベクトラのこと言っちゃったんですけど、大丈夫ですかね」
「マクロス級あるし、あれのこと言っても大丈夫だよ。ドゴス・ギアより数百mでかいだけで、エリシオンよりちょっと小さいくらいだし」
「微妙なサイズですねぇ」
「デラーズ紛争ん時はドロスより大きいって話題になったんだそうだけど、今となっちゃな」
ドゴス・ギアやドロスは500m級だが、ベクトラは700m級で、計画されたデラーズ紛争当時は最大級の軍艦であった。だが、建造が先延ばしにされる内に相対的に小型に分類されるようになった。マクロス級が量産され、ヱルトリウムも竣工しているからだ。設計はその間に『グワダン級大型戦艦』を基にしたものに変わり、その仕様で建造されたが、度々の戦乱で遅れまくり、完成したモノはグワダンを地球連邦系のラインでまとめたような外観を持つに至った。グワダンを地球連邦軍系の艦艇のパーツで改造したように見えるというのは、ハマーンの死後に鹵獲された設計データが使われたからだ。
「グワダンを基にした空母だから、MS搭載数は高いけど、バトル級ほどじゃないし、存在意義も薄れたけど、折角の機会ってことで作った奴だからなー。プリベンターの連中に使わせる案も検討されてるからなー。ま、Z系の多数運用に向いてるし、試験運用はロンド・ベルになりそうだな」
――こうした政治的な話が黒江と対等にできるプリキュアが角谷杏としての前世を持つ『星空みゆき』というのも意外な事実だが、64戦隊は設立の経緯からして、思い切りに政治的な動きに巻き込まれている部隊であり、501統合戦闘航空団との統合運用がなされている上、内部に転生者やプリキュアを抱える複雑怪奇な人員構成なため、プリキュアでありつつ、大洗女子学園の生徒会長の過去を持つ彼女の助けが必要であったのも事実だ。みゆきは表向きは生前のキャラを演じつつ、のぞみと被らない範囲でアホキャラを留めたり、角谷杏としてのしたたかさを裏で発揮。レイブンズの参謀格として存在感を見せている。のぞみが中島錦の熱さを持ち、以前からの主人公属性を強めたのに対し、みゆきは参謀格としての要素を得て、生前と正反対の頭脳労働役の役目も担っている。その中間が北条響/シャーロット・E・イェーガーに当たる。話が長引くのも、こうした新たな役目からだろう――
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