外伝その288『マカロニの男』
――のび太は西部劇に傾倒していた。それはタイムマシンで実際にアウトロー生活を送るほどで、半英霊と化した彼が好む武器が西部開拓時代で使っていた『コルト・リボルバー』である。のび太は半英霊と化していた自分の技能も自覚しており、どのような武器でも『撃つ』という仕組みのものであれば対応可能である。また、仮面ライダーたちと敷島博士の技術供与で改造人間にも重傷を与えられる、高速徹甲弾機能がある弾丸を保有しており、彼の英霊としての技能と併せての相乗効果で『プリキュアを殺傷できる』とされる。服装はポンチョを着た『マカロニ・ウェスタン』スタイルを見せており、28歳当時の彼が好んでいたスタイルであった。30歳の自分の代打で登板したと自嘲する28歳のび太だが、若さが漲っていることも確かであり、西部開拓時代仕込みのアクションを見せていた。なお、のび太の英霊としての技能が発揮された場合、芳佳(キュアハッピー)しか、ウィッチとしてのシールドでは防げないため、キュアメロディは『反則だぞ、お前〜!』と涙目であるし、ドリームは腰を抜かした)――
「アンタ、あいつから聞いたけど、ガチで西部劇に凝ってんのな?」
「いや、タイムマシンで本当にその時代に行ったから、本当のアウトローと言ってほしいね、クリスちゃん」
「そんな骨董品みてーなリボルバーで、よく怪人に致命傷与えられんな?」
「弾薬は特注品だからね。ウィンチェスターも用意はしてるよ」
青年のび太は早打ちでは、西部開拓史に『ノビータ』として名を刻んだほどの名手である。モルグシティでの伝説が彼の英霊化のきっかけである事を考えれば、マカロニ・ウェスタンから飛び出てきたようなスタイルなのも納得である。のび太の英霊としての能力は『敵に必ず、銃弾を致命傷やそれに関係なく当てられる』というもので、成人後にゴルゴと並び称される理由でもあった。雪音クリスも驚く早打ちであるが、21世紀の目から見れば、映画としては陳腐化したマカロニ・ウェスタンまるだしの服装は時代錯誤の感もある。28歳ののび太はテンガロンハットとポンチョと、夕陽のガンマンを連想させる服装を好むため、西部劇に傾倒しているのが素人目にもわかる。彼の愛銃はコルト・ピースメーカー(古典的なコルトのリボルバー)と、コルト・パイソンのカスタム銃、スーパーレッドホークやスーパーブラックホークなどのリボルバーであり、通なセレクトである。ライフルでは、ウィンチェスターを用意するなど、趣向を凝らしており、元506のリベリオン系の人員にバカウケである。
「でもよ、古臭いレバーアクション式なんて、ボルトアクション式より面倒くさくねぇか?」
「慣れれば、それほど差はないさ」
のび太は西部劇まるだしの服装ながら、ボルトアクションより前の世代の方式とされるレバーアクション式でも驚異的な速さで装填し、撃つ。西部を征した銃とはよく言ったもので、のび太は青年期以降の西部開拓時代でのバイトで好んでいる。クリスがミサイルで狙撃しようとするのを制し、ウィンチェスターライフルを構え、撃つ。遠距離だが、スコープ無しで当ててしまう。
「嘘だろ、あの距離を!?」
「数百mくらいはスコープ無しで当てられるよ。西部開拓時代の末期にならないと狙撃用スコープ出ないしね」
のび太は西部開拓時代のアウトローが数十人相手に一人で立ち向かえる技量を持つが、その一端がウィンチェスターでの狙撃である。特にリボルバーの弾切れを見せておきながら、ウィンチェスターで不意打ちする事もしている。青年期以降はライフルを扱える背丈になっているのと、少年期は駄目だった乗馬も妻のしずかのおかげで改善され、ジョン・ウエインよろしくのライフル捌きをやってのける。ガンアクションに無類の才能がある男。それがのび太で、デューク東郷も認めているほどの男なのだ。
「お、おい、なんだよ、いきなり流れてきた、この口笛付きの西部劇風の音楽!しかもオーケストラだし!」
「ムードもりあげ楽団を調ちゃんに頼んで、使ってもらってるのさ」
「ムードもりあげ楽団かよ!?こんなところで使うもんか!?」
「冒険でつかったの、カミさんが鬼岩城の囮になるための一回こっきりだし、偶にはね」
それは夕陽のガンマンのOPで流れた『さすらいの口笛』という曲であり、典型的なマカロニ・ウエスタンである。のび太の映画的とさえ言えるクイックドロウ、敵を倒す度に見せる不敵な笑みもあり、宛ら、若かりし頃のイー○トウッドである。クリスを差し置いて、完全にマカロニ・ウエスタンの主人公である。まだ若い頃ののび太なので、雰囲気がイー○トウッドだが、40代半ば以降は渋みが出たので、『ウエスタン』当時のチャールズ・ブロ○ソン風になるという。また、60代から晩年はジョン・ウ○インにも例えられたため、のび太は各年代別に西部開拓時代の男を演じられるという事だろう。血気盛んな若きのび太は『名無し』風の物言いであるが、壮年期はチャールズ・ブロ○ソンが演じた『ハーモニカ』風の落ち着いた物言い、老年期はウェ○ン風の振る舞いであり、各年代ごとの西部開拓時代での振る舞いを完璧に演じられる。30代は40代と20代の中間的な振る舞いであるが、30代のび太は都合がつかず、28歳の自分を使いっぱしりにしたのだ。
「さて、今頃は立花響ちゃんはなのはちゃん共々、智子さんのブートキャンプだな」
「その、面倒事をあのバカが起こして、すまないな」
「な〜に、なのはちゃん、最近は天狗気味だって言われてたし、ここらで冷水浴びせておかないとね」
「あんた、大人になるとシビアだな」
「三十路になった後よりは優しいと思ってるよ?30超えの頃のぼくはわざと慇懃無礼な口ぶりしてるから、無用なトラブルが起こると思って、まだ青二才の頃のぼくを行かせたんだろう」
「タイムマシンってのは不思議なもんだな、エルフナインが?マークになるぜ」
「特異点に一番近いと言われた時代の産物だしね。僕たちの世界はそれで次元世界の真理を悟ってるから」
雪音クリスと共に戦いながら、語らう青年のび太。クリスは装者の中では、黒江に遊ばれる事が少なかったことなどもあり、割合に黒江達をニュートラルな目で見れるため、共闘に躊躇いがない。立花響は黒江に良い感情をあまり持っていない(切歌と調の絆を引き裂いた形になっているため)ため、ガングニールの力を証明しようと躍起になっている。そのところが彼女の人物評価に影を落とし、大人切歌も悩む問題である。翼とマリアは黒江の滞在中は黒江寄りの立場であったので、彼女の扱いに困っている節もある。そのため、局外中立のスタンスであったクリスが出張る局面が増えていた。言うならば、響の頑なさとなのはの社会経験の無さが相互に悪い方向に作用してしまった不幸と言えよう。
「ん?ところで、プリキュアの人たちはどうしてんだ?」
「ウィッチとして空戦に出たのが一、休暇中が三名さ。対外的にはウィッチ枠だし、ウィッチの技能を持ったまま、プリキュアの力が戻った子も多いからね」
「他に何人いるんだ?」
「正式な戦士で50は超えるなぁ。のぞみちゃんがリーダー格の三代目で、一番古株。ウィッチの力も併用できるから、二代目が霞むんだよね」
プリキュアになっても、肉体のウィッチ技能が失われたわけではないため、シールドは全員が張れるので、魔法つかいプリキュアのお株を奪う事が可能である。中でも、キュアドリームはウィッチとしての奥義『秘剣・雲耀』を会得した状態で引き継いだため、必殺技が増えている。もちろん、キュアマーメイドは竹井の空戦機動を引き継ぎ、キュアメロディは固有魔法をそのまま使用可能である。そのため、二代目プリキュアのスプラッシュスターの二人のお株を奪っていたりする。
「どういう事だ?」
「そのプリキュアの特色を補えちゃうってことだよ。二代目はただでさえ、初代のコンパチって評価あるのに」
「それ、アニメとしての評価だろ」
「のぞみちゃんと初代に挟まれたオセロ状態でパッとしないんだよな、スプラッシュスター」
のび太はセー○ー戦士世代なため、実はあまりプリキュアは見ていない。初代の活躍した時代にはもう中学生以上で、世間体もあって、少女アニメを見ていない時期がある。ちょうど『初代とスプラッシュスターの活躍した時代』だったのだ。プリキュアの世代がプリキュア5になった頃にまた見始めたため、のぞみのことは知っていたのだ。なんとも言えない男の事情だ。もっとも、初代とスプラッシュスターの時期は中学生から高校生までの時期に相当し、人生でもっと苦労した時期であるため、見たくても見れなかったのだ。プリキュア5の頃には大学生になっていたので、見れたのだ。
「あんた、二代目見てないのか?」
「中高の頃なんだよ、その時期は。ぼくの年齢、オヤジの古臭い価値観、お袋が受験でキリキリしてたのもあってね」
「俗に言う昭和の古臭いジェンダーの価値観か?」
「そそ。ぼくとカミさんは親の価値観で振り回されたクチなのよね」
しずかも成人後は『シ○ィーハンター』の野上冴子のような、妖艶な雰囲気を持つ強い女性へ変貌している。また、銃も扱えるし、ナイフ使いでもあるので、少女時代の清楚さをかなぐり捨てている。しずかは成人前までは清楚な少女を演じていたが、成人後は幼少期のお転婆さを隠さなくなっている。投げナイフが特技であるのと、自分から戦闘をするため、はっきり言って、少女時代とは別人に近い。
「今はかみさんも裏稼業についたから、夫婦で世界飛び回ってるのさ。ただ、倅がいるから、僕のほうが多いけどね」
「夫婦で汚れ仕事かよ」
「カミさんに隠す必要がないぶん、気が楽さ。嘘言わないで済むしね」
すっかり友人といった雰囲気の二人。ガンスリンガーの共通点が二人を引き合わせた。友人になったのが、子供時代ののび太ではなく、成人後ののび太という点では、クリスなりの背伸びの結果かもしれない。
――2019年のフランス――
「おい、のぞみ。芳佳から聞いたぞ。なのはと同じこと考えてるそうだな」
「え、不味いんですか?」
「だったら先に言えよ。フェイトに言って、レモネード達を探させたのに」
「えー!いいんですか」
「俺も事変でチートした身だ。それを思えばお前のしようとしてる事は可愛いもんだ。俺の雲耀は会得してたんだよな?47Fに問い合わせたけど」
「ええ。あの技は汎用技ですからね」
「見せたらどうだ、会ったら」
「かれんさんにツッコまれそうで。なんて言えば良いんですか」
「フェイトなんて、別の自分にライトニングプラズマ見せて、向こうの自分自身を泡吹かせた前科があるんだぜ?それを思えば、お前の太刀筋なんて可愛いもんだろ」
2019年では、黒江とのぞみが話していた。圭子が休憩中なので、芳佳から話を聞いた黒江が現場に来たのだ。
「いや、その、草薙流古武術…覚えちゃって」
「……マジで?」
「はい」
「…うん。お前、極めろ」
「煽ってどーするんですか!」
「今更言っても遅いだろ。自分にドヤ顔したけりゃ、草薙流を徹底的に覚えろ!」
黒江も流石に一瞬は間が空いたが、すぐに煽る。黒江と圭子がこの日から合間を縫う形で特訓させた結果、のぞみは草薙流を習得。後日、お望みの場面で奥義を披露できたという。また、ルージュの属性と思いっきり被るし、プリキュア関係なしの力業であるので、のぞみはパラレルワールドの仲間達への答えに窮する羽目になったのもお約束である。
「え〜!」
「ちなみに、このまま覚えた場合は…」
「タイムテレビですか」
「ま、論より証拠だ」
『裏百八式・大蛇薙!!』
力を溜め、前方へ手を振り、体を包む炎で周囲を焼き払う奥義。雨が降っているので、ちょうど、ミルキィローズの美味しい場面の日らしい。日付の都合でミルキィローズの登場シーンを乗っ取ってしまったらしい事が推察でき、当然、のぞみは自分自身の前にシャイニング形態で現れたことになる。しかも敵は消し炭になっており、ミルキィローズの登場場面を『もう一人のドリームが敵を一撃で倒した』ということにしてしまったのである。完全にミルキィローズは出どころを失ってしまい、敵は怯えて逃げ出す、助けられた側も茫然自失状態である。
「うん、見事にやったな」
「ああ、ミルクの出番取っちゃったんだ、わたしー!」
「ちょっと前に巻き戻すぞ」
「先輩、その言い方、この時代の子供はわかりませんって」
「こまけーこたぁいいんだよ。こういうのはニュアンスってやつだ!!」
黒江は場面を巻き戻し、登場シーンを見てみると。
『き、貴様は誰だ!プリキュアの仲間か!?』
『プリキュア、それを超えた超プリキュアを更に超えたプリキュアって奴、かな?ハイパープリキュアとでも呼んで』
清々しいくらいのドヤ顔、金のオーラを迸せつつ、恥ずかしいくらいの台詞をカッコよく言い放つシャイニングドリーム。不思議なことに、シャイニングドリームの柔和なイメージとマッチしないように思える、『柱のように天に立ち昇っていく金のオーラ』はまるで、『出る漫画を間違ってます』と言わんばかりに、どことなくバトル漫画的な雰囲気があるが、不思議と神秘のエナジーを持つ戦士感を演出していた。それを見ていた黒江は当然ながら、腹がよじれるほど大笑い。のぞみは恥ずかしさで、顔から湯気が出るほどに赤くなっていた。
『あなたは誰、誰なの!?プリキュアを超えるプリキュアって!?そ、それになんでわたしと同じ……』
『ゴチャゴチャした事は後。『エターナル』を片付けたら話すよ。……ココ達を離しなさい、ブンビーさん。さもないと」
『ほう?どうす……!?』
『こうするのさ。大雪山!おぉぉろしぃぃッ!』
通常のプリキュアを超える握力で敵の腕を掴み、握り潰す勢いのシャイニングドリーム。そこから会得した大雪山おろしに繋げ、空中で妖精達を救出する。着地したところで、もう一人が名を問いたため、シャイニングドリームは敢えて答えた。
『想いを咲かせる奇跡の光!シャイニングドリームッ!!』
決めポーズを決めるシャイニングドリーム。この時点でのプリキュア5の知らない力にして、正史で五人が覚醒した場合のスーパープリキュアをも凌駕するポテンシャルを持つ、プリキュア5の究極にして最強の姿。本来は祈りでしか変身が出来ない幻の姿であるが、小宇宙がセブンセンシズに達したことで自己制御に成功したのだ。そのお披露目である。
『シャイニングドリーム……!?どういうこと!?なんで、のぞみと、のぞみと同じ名前を持ってるの!?まさかあなた、先代のキュアドリーム…?』
『ううん、わたしだよ、りんちゃん』
『え、のぞみは……のぞみはそこに…』
『別の世界のわたし自身……って言えば良いのかな?そこにいるわたしとは別の次元にいきるわたし自身なんだ。ここには訳があって来たの、りんちゃん』
『あんた、のぞみね?どことなく違う雰囲気あるけど、あたしの事をそう呼ぶのは、のぞみだけ……』
『さすが、りんちゃん。分かってくれるんだ』
『……馬鹿ね、何年、あんたといると思ってんの…ッ。プリキュアとしての姿が違っても、アンタはアンタだもの。わかるわよ…』
『待って、ルージュ!信用するの!?』
『分かるんですよ!幼馴染のカンってやつで!』
『私もなんとなく思うわ。なんだか似てるもの』
ミントが同意したことで、旗色がルージュに傾く。それに安堵したシャイニングドリームはさらなる攻撃に移った。戦闘力が聖闘士の領域に達したため、この場にいる誰もが視認不可能な速度での攻撃が可能だった。リラックスした姿勢のまま緩やかに距離を詰め、目にも留まらぬ速さのパンチの連打を浴びせ、更に、透り抜けるように敵の死角へ移動、後頭部へ左右交互に一発ずつ膝蹴りを叩き込む。宙で身を捻ってのサマーソルトキックも添えて。黒江が『一度はやってみたい動き』ということで伝授した戦闘法である。
「先輩、ドラ○ンボールみたいな動き教えるんですね…」
「いーだろ。やれるようになったんなら、使えってやつ。決まってんだろ?」
「なんか、出る番組間違ってる的なのがプンプン匂いますけど」
『百八式・闇払い!!』
映像は続く。内から外へ腕を振り、地面に炎を走らせるシャイニングドリーム。炎を扱う点で、ルージュのアイデンティティを思い切り犯しているので、その世界のルージュが固まる。明らかにプリキュア関係なしの力だからだ。
「領域とか属性で凝り固まってると、いざと言う時に属性封じられたら途端に役立たずのデクのボーとかになっちまうから手札は増やさなきゃな」
「先輩はそれで雷を?」
「まーな。お前の場合は炎だな。草薙流だし、ちょうどいい」
「そういうものですかね」
『弐百拾弐式・琴月!』
走り込んで肘打ちし、相手を掴んで、炎を爆発させて相手を炎上させる。完全にプリキュアと異質のファイトスタイル、『〜式』とつくことから、何かの武術であることだけは、別世界のプリキュア5にも分かった。炎を自然発生させ、目にも留まらぬ速さで圧倒する。
「うーん。ルージュにはかわいそうだなぁ。アイデンティティ犯しちゃってるし」
「あいつ、ファイヤーストライクをバットで打ち返された事あるだろ?ま、鍛えるように、こっちにいるあいつに言っとけ」
『これで終わりだ!裏百八式・大蛇薙!!』
そこから先程の場面に繋がるわけだ。。
「あ、ブンビーさんがびびって敵前逃亡した。ま、そうだろねぇ。仲間が消炭じゃ」
「どうだ?分かりやすいだろ?」
「うーん。ミルクに悪いなぁ。登場シーンを分捕っちゃったし」
黒江は映像に大笑いであるが、映像では、裏百八式・大蛇薙が発動した後、明らかにルージュはアイデンティティの危機を感じたのか、完全に目が点になっている様子であり、その世界のキュアドリームはもう一人の自分の圧倒的実力が信じられないらしく、頬を抓っている。年長組は『あれがプリキュアを超えた……プリキュアの力……』と茫然自失状態だ。映像での圧倒的強者感には満足らしいが、どこかで見た動きなのが丸わかりなため、若干の不満があるのぞみ。しかし、如何にも、という感じの強さは演出出来ているのも事実だ。満足げな黒江と、若干ながらの不満はあるが、望む結果ではあるので、なんとも言えない表情ののぞみ。タイムテレビでの確認作業は続く。
「もうちょい余裕があれば、お前に聖剣でも教えてやるんだが。アルトリアには悪いが、エクスカリバーはあいつだけのものじゃないしな」
「磁雷矢さんから、真っ向両断くらいなら習えますかね?」
「それだな。俺も習得してるから、あれなら短期間で行けるだろう。フルーレ向けの剣技じゃないから、空中元素固定でブレードかソードでも作ってからな」
「先輩、事変でマジンエンペラーGのソードを作って使いましたよね。明野の誰かがぼやいてました」
「智子に合わせたんだよ。おかげであいつをスオムスに行かせることになっちまったが。武子は堅物なんだよな」
「隊長って、もしかして、若い頃から融通がきかない性格なんですか?」
「あいつは江藤隊長の流れを汲むからな。それで個人戦果を軽視してたんだよ、若い頃」
黒江と智子が個人戦果を挙げまくる事を快く思わない武子は江藤に事変のスコアを調整するように具申した。当時は未覚醒だったので仕方ないが、後で江藤が責任を取らされたため、覚醒後の現在は後悔しまくっている。江藤が責任を敢えて取ったのは、当時は何も知らなかった上、少尉の武子が遡って処分を下されるべきではないとする考えで、赤松が懺悔を止めたのは、江藤の思いを汲んでの事だ。
「武子は今の流れの原因は事変当時の自分の思いやりが原因と思ってる。本当のところは周りが善意や勘違い、悪意で動いた末の結果なんだよ。俺へのいじめも、智子の左遷も」
「隊長って、なんかこう、思い込んだら突っ走るタイプですか?」
「昔のお前に似てるとこあるぜ、あいつは。智子が転生者って言っておいたんだけどな。本気にしなかったんだよ、たぶんな」
「わたしはまだマシですかね」
「そりゃ、錦の姿でメタモルフォーゼすりゃな。智子が驚いてたとか言ってたぞ?竹井が海藤みなみの記憶に目覚めるの、お前のメタモルフォーゼが原因だし」
「あの時は無我夢中だったんですって!気がついたら錦ちゃんの体を使ってたんです!変身解いたら、14の時の姿になってたのは、こっちも信じられなかったんですから」
「帰ったら、妹の疾風に手紙書いてやれ。姉貴には手紙出したんだろ?」
「詳しい近況は赤松大先輩に聞くように書きました。お姉ちゃん、大先輩の同期だから、面倒でしょ?引退してるけど」
「まーな。そのうち、折り合いはつけとけ。ペリーヌみたいにスイッチするか、それとも、芳佳みたいにするか」
「みゆきちゃんと同じにするかな…。オーバーライドだとすると、完全にはなりきれないし」
のぞみは錦との人格統合をこの後に選び、錦の名残りがある言葉遣いに変容(俺という一人称をキレた時に使い、男言葉が増加する)していき、生前と多少異なる人物像を作っていく。杏寄りの人物像に芳佳が変容し、紅月カレン寄りにシャーリーがなっていくように、のぞみは錦の好戦的な側面を得、荒くれ者属性を得、敵を煽る時などに錦由来の一人称である『俺』を用い、意外と生前との差別化に成功したという。その甲斐あり、天姫との電話でも、特に違和感を持たれず、黒江達を安堵させたという。(りんがもっとも心配した演技力も、錦との統合でどうにかなり、りんも安心したという)
「それが良い。まだお前に錦の因子が残ってる内に受け入れちまえ。そうすれば、二つの人格が完全に一つになるから、おまえがまだ扱えてない錦の要素が解禁されるはずだ」
後日、のぞみは錦の意識に語りかけ、錦も同意したことで人格統合を果たす。その結果、『錦の要素を得た夢原のぞみ』という形となり、自然な形で男言葉も出せるようになり、サッカーもうまくなるなどの変化が生じた。特に錦時代に傾倒していたサッカーは影響が顕著で、フットサル同好会にいたりんが見て、『クラブチームのユースレベル』と感じるほどに技能が劇的に向上したという。(以後は急速にサッカー漫画に傾倒しだし、黒江を爆笑させたという)
――一方、同じ頃の日本では、伝わり始めたウィッチ世界の全体像に困惑する声が表に出始めた。中国と朝鮮半島は明国/李氏朝鮮の頃に滅亡し、モンゴル帝国のみが生き残り、アジアの近代的強国は扶桑のみである事、扶桑は中国の分もアジア全体の安全保障を担う立場である事、軍事力の削減しすぎは民族の衰亡を意味する事を見せつけられた。左派はこの生存競争の激しい世界像に困惑し、更に自分たちがしている事は独善にすぎないことを自覚したが、いまさら引っ込みがつかなくなったからか、国会を空転させる事を続けたため、連邦評議会の参加資格を一時剥奪される事になった。それが一度や二度でないのが痛いところだ。また、ちゃんとした知識さえあれば、元々がトップエリート層育成コースであった旧制中学を卒業していたインテリな分、旧軍軍人が幹部自衛官を演習で負かすことは起こりやすくなる事、警察官僚の驕りが扶桑を混乱させた事により、旧内務系官庁への懲罰措置が取られ、警察官僚の防衛省への出向が抑えられ、その代わりに扶桑軍人の防衛省への出向枠が設けられることになった。海保の不祥事もあり、扶桑へのあからさまな干渉は収まり始めるが、ウィッチ世界の国際連合結成にアメリカが噛んだため、自由リベリオンを強引に常任理事国に仕立て上げた事までは予想外であった。正式には『連盟軍』であったウィッチ世界の多国籍軍を『連合軍』で呼称統一する、統合戦闘航空団の殆どを『政治的な部隊』とし、正式に廃止、あるいは活動凍結させたのは、自由リベリオンの手綱を握ったアメリカ合衆国である。国際貢献活動用の合同部隊は二つで充分だということである。これは精鋭ウィッチの行き場が狭まったことを意味するが、501の64との事実上の一体化が定着した後となっては納得であり、結果としては、人材の集中投入ドクトリンが確立された。サボタージュに参加しなかった将兵が高評価される傾向になり、その反発を和らげるための措置が、歴代のプリキュアたちの出現のアピールであった。スーパーヒーローの参戦は喜ばしいことだが、スーパー戦隊には『女性が添え物』というジェンダーフリー的観点からの批判がつきまとうため、戦隊レッドや仮面ライダー単体に匹敵する戦闘力があり、個人的資質でムラがあるものの、概ね保証されているプリキュアは格好のプロパガンダの素材であった。休暇中の三人、療養中のはーちゃんを除いたプリキュア達は広報、プリキュアとしての戦闘、ウィッチとしての戦闘、広報勤務にと大忙しで、シャーリー(北条響)、のぞみ、りんの三名が休暇を取ったのもわかるほどの多忙ぶりだった。そのために青年のび太が出張っているのである。のび太は本人の意向もあり、表ざたにはされていないが、部内(日本政府)での評価はうなぎのぼりであった。うだつの上がらない青年調査員と思いきや、ゴルゴとタメを張れる男である。これだけでも出世は約束されたのである。のび太が西部劇にかぶれているのは、政府上層部に至るまでの周知の事実となり、通称、マカロニ・ウェスタン男。書類では『マカロニの男』とされたという。(料理としてのマカロニサラダを好むのも含めての意味であるが)
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