外伝その290『ユトランド沖海戦の再来2』
――ウィッチ世界で空母がコンパクト化の思想が流行ったのは、コマンド母艦用途の方が主目的だったからだが、それが否定され、エセックスとミッドウェイへの対抗で艦上機をできるだけ多く積むことに方針転換がなされ、雲龍型の完成済みかつ、中期の建造艦は強襲揚陸艦へ用途変更されており、ウィッチの数がいないことを理由に、自分たちを雲龍型に押し込み、新鋭空母がジェット戦闘機専用で運用されることに反感を持つ者は多かった。しかし、ジェット戦闘機を運用するには、信濃型航空母艦があったとしても、全くの性能不足であるとする現実があり、日本が信濃が戦艦である事を歓迎した裏には、信濃の空母としての不運に起因する。また、紀伊の敗北で建艦運動が起こったのも航空閥には想定外であり、大和型に対抗せんとする各国の執念、史実での信濃の悲劇が伝わった事も、信濃が戦艦であり続けた理由である。甲斐、三河共々、『自国戦艦戦力の陳腐化の防止』の大義名分(正確には、国民が戦艦建造を促したため、購入艦だけでは済まなくなった事情がある)で整備された信濃は史実と正反対の殊勲艦として名を馳せている。艦上ウィッチ部隊は信濃型が消滅した影響で政治力減退を恐れ、存在意義の証明のために、海戦で戦果を挙げんとしたが、近代的防空網は彼女たちの望みを木っ端微塵に吹き飛ばした。史実での特攻機への対策が施された状態の防空網は日本陸海軍航空隊が『万に一つの奇跡にすがる』ほどの弾幕を展開したため、『遠距離から艦を破壊できる』力を持つ智子しかウィッチとして機能できず、あとは防空網に木っ端微塵に吹き飛ばされるか、直掩の航空機に追い散らされるかであった。海戦ではウィッチは智子が孤軍奮闘する羽目に陥っており、対艦エースになる勢いで敵艦を撃沈しまくっていた。――
『光子力ビィィーム!!』
智子は光子力を操れるようになっているので、生身で光子力の力を奮える。第二次世界大戦型駆逐艦などは紙屑のように撃ち抜ける。戦艦であっても、高出力の光子力ビームを受けては玩具同然に溶けていく。智子はリベリオン艦隊を遊撃する形で行動し、ストライカーを用いず、自前の『炎の翼』(形状はカイザースクランダー)で飛行している。この時代のレシプロストライカーでの機動限界を攻めており、敵ウィッチを落とす事は容易にできる。スオムス時代の大半には見せなかった能力の応酬であるので、海戦の様子を見ていたスオムス軍関係者の間からは不満も漏れていたが、智子が『全力かつ、本調子』であれば、戦艦すら意に介さない強さである事はGウィッチの強大さの証明であると同時に、各国からの問い合わせの増大を危惧した扶桑軍関係者たちが事変当時の責任者の処罰を急ぐ理由にもなった。武子は当時の立場が任官間もない新米の少尉だったため、一連の処罰を免れた。懲罰的に虚偽申告の罪で軍法会議に回す案もあったのだが、武子は当時は本当に『何も知らなかった』ので見送られた。赤松と若松による根回しも関係していた。『処罰どころか出世した』ということで、反G派の先鋭化の理由にも使われたが、本人はあくまで『善意』で申告していたこと、昭和天皇に『智子が転生者であると、あの時に了解していたとしても、スオムス戦線に送りました。彼女は、風雲急を告げていたスオムス戦線に必要だったからです。上層部はやろうと思えば、いつでも智子を欧州の最前線に送り込めたはずです、陛下』と、1942年前後に弁解していたことなどが評価されたのである。武子は転生者とそうでない者の対立を結果的に煽った責任を何かかしらの形で取りたかったが、政治的理由で内輪のみで片付けられた事には不満を見せてはいるが、対立の尖鋭化が大規模な内乱と化する事は避けたかったため、赤松と若松に最終的な処理を委託した。武子なりの智子達への償いが501/64の指揮なのである。現在、実質的に501の総司令官は彼女であった。
――当時、空母はその重要性故に、後方に下げられ、戦艦はその弾除けに使われるドクトリンが日本連邦軍では用いられ始めていた。ウィッチに空中給油は有効な手段にはなりえない(ウィッチは魔力回復に休憩を挟む必要があるため、ウィッチ閥は空母を中継拠点にすることにこだわり、大規模拠点としての信濃型航空母艦を欲したのだ)。信濃が戦艦として完成し、大鳳の増産が『縁起が悪い』という理由も含めた日本側の要請で却下された事(その時点で大鳳型の二番艦と三番艦の起工が間近であったため、造船所を遊ばせないよう、資材を使うためにその代替となる65000トン級のジェット戦闘機用空母が数日後に起工されたという)による『紫電改、烈風、流星の同時運用可能な』一線空母の不足はなんともし難いものであり、扶桑が慌てて、『プロメテウス級航空母艦』を買い込んだのも分かるほどの窮状であった。その代わりに豊富にある戦艦を積極的に運用する方法が取られていた――
――連合艦隊と敵艦隊は反航戦の形になって、砲撃戦を続行していた。扶桑の第一線級戦艦の高い防御力の証明がなされた戦でもあり、リベリオンの40cm砲の砲弾は既に20発以上の命中弾を出していた。だが、グレートマジンガーの装甲である超合金ニューZと、高級MSに使われるガンダリウムγの複合素材による装甲はそれに耐えきり、逆に60口径46cm砲が敵艦を撃退していく。戦艦同士の砲撃戦では、主砲口径の差が物を言う。アイオワ級戦艦は戦艦本来の砲撃戦にはさほど向かない点が露呈し、強化を重ねた大和型相手には役者不足であるのがまざまざと見せつけられていた――
「アイオワ級戦艦は今ので最後か?」
「ええ。後は耐弾性が高いモンタナ級とヒンデンブルク号だけです」
「巡洋艦は智子君が片付けた模様です。」
「前任者共はひどい置き土産をしていったものだよ。おかげで内乱だ」
「竹井少佐が押さえ込み工作をしていますが、影響力は限定的でしょう」
「やれやれ。我々は今後、海自と一体化が進む。それに従い、変容を少なからず余儀なくされるというのに、連中は頑なだな」
「彼女たちは自分達の先輩から引き継がれた襷をローテション的に後輩に引き継がせる事に執着しているのでしょう。今の世の中、小学校卒では、一般社会のどこも雇ってくれないというのに」
小沢治三郎と参謀たちはこんな話をしているほどに余裕であった。自軍の戦艦の能力に絶対の自信があるが故であった。改大和型やその改良型の開発には、一年戦争中に連邦海軍が多額の予算をかけて建造した『ジュットランド級戦艦』のノウハウが生かされている。宇宙戦艦とその水上戦艦のノウハウの結集体が扶桑最新鋭戦艦群なのだ。連邦海軍の601ミリ砲搭載戦艦よりも後に設計されたため、より優れた構造を持つ。その防御力は1940年代の火砲では接射であろうと、致命的損傷は負わせられない程である。当時、扶桑皇国軍は粛清人事の影響が出始め、火器管制をオートマ化しなくては、まともに戦闘遂行もできなくなったため(兵科士官が威張れなくなったら、却って現場が混乱した)、それを補う意図もあり、火器管制のオートマ化が進んだ。一隻に数千人が乗り込むような事はもはや過去の話となり、ダメコン要員入れて、1000人前半台が定数である。このオートメーション化は一年戦争で連邦海軍により使われた『ジュッドランド級戦艦』から得られたもので、アンドロメダの管制システムはこの発展型に位置する。アンドロメダより人の介在度を引き上げる改修が施されたため、運用の必要人数は増えている。
「主砲の射撃回数は?」
「今ので20回です」
「よく耐えるものだ」
「次元を跳躍する力を与えられたものですから、頑丈なのでしょう」
56cm砲が10発当たっても、意気軒昂のヒンデンブルク。次元跳躍機能があるからか、実質的にワンランク上の防御力を有しているのが分かる。
「残存駆逐艦からの魚雷が来ます」
「迎撃だ」
「ハッ」
駆逐艦からの魚雷をパルスレーザーで迎撃したり、デコイなどで回避する。アメリカ式駆逐艦であっても、この時期は大口径魚雷を搭載していた。この時期、魚雷は存在が疑問視されていたが、ティターンズがスーパーキャピネーション魚雷で呉に停泊していた艦艇を次々と撃沈したことで、各国が魚雷廃止論者を左遷させる事となった経緯がある。(結局、対潜魚雷という形で生き延びた歴史が知れ渡ったため)
「敵魚雷は本艦に集中」
「フン、旗艦の落伍でも狙ったか。歓迎してやれ」
5本以上の魚雷が迫るが、デコイや迎撃で全てが当たらない。そうするうちに艦隊は変針し、同航戦に戻る。距離は変針で13キロと、第一次世界大戦級の距離にまでは距離を取りつつ、敵艦隊の陣容を再確認する。ウィッチ世界にとっては近世以来の大砲撃戦だが、21世紀世界にとっては、単なる局地戦という認識である。味方戦艦が七隻前後というのは、太平洋戦争当時のアメリカの分艦隊規模にしかならないからだ。しかし、二隻前後でワンセットと扱われる戦艦にとっては、充分に大規模な戦である。『コストパフォマンスが悪いから砲撃戦は起きない』という識者もいたが、ウィッチ世界では、航空戦力はウィッチのおかげで意外に維持費が高いため、戦艦は却って、安上がりな戦力であったのだ。
「ヒンデンブルクにもう一発、食らわせろ!」
砲撃がヒンデンブルクに飛び、同艦を大きく揺るがす。ヒンデンブルクは自分の砲よりワンランク上の防御力を備えていたが、そのワンランク上の砲を持つ三笠型の攻撃力には流石に耐えきれないようで、ついに火災が起こる。
「やったか!」
「今の砲撃が艦尾に命中した模様!」
「よし、この調子だ!」
喜ぶ連合艦隊司令部。ヒンデンブルク号についに火災が起こった事は喜ばしいことだからだ。如何にナチスの野望の結晶である同艦でさえも、56cm砲にはそうそう耐えられないのが判明したからだ。その事から、船体のだいたいの装甲厚も推測できる。46cm砲に耐えられても、56cm砲には数撃しか耐えられない装甲厚の部位がある事が判明したのは朗報であり、連合艦隊は攻勢を強める。だが、敵の破れかぶれの対艦ミサイル攻勢が始まり、思わぬ伏兵に苦戦を余儀なくされる。ブリタニア艦隊は改装済み新鋭艦以外は対応能力を持たないため、落伍する艦艇が出始める。そんな中でも、扶桑連合艦隊は発砲を続ける。海戦はまだまだ続くようだった。
――黒江達の確認はまだまだ続いた。先の時間軸で、のぞみは草薙流古武術をモノにした状態で別の自分たちと出会うことになったわけだが、その中で自分はまた別の世界へ転生し、そこの日本軍人として戦っていること、そして、遠大な目的のために、秋元こまちと水無月かれんを迎えに来た事を語る。
「どういう事よ、のぞみ!かれんさんとこまちさんを『迎えに来た』って!説明しなさいよぉ!!」
いきなりの一言だったため、りんBは熱り立って、のぞみAの胸ぐらを掴む。と、そこへ。
「待ってください、りんさん。私が事情を説明します」
「フェリーチェ!」
「貴方は……プリキュアなの?」
「そうです、かれんさん、それに皆さん。私はキュアフェリーチェ。あなた達の時代からおおよそ9年後の時間軸でのプリキュアの一人です」
のぞみに助け船を出したのは、キュアフェリーチェであった。普段の花海ことはの姿では。どうにも子供っぽい喋り方になるので、シリアスな場面では、キュアフェリーチェの姿になっていた。大地母神の後継者である本来の存在意義もあり、シリアスな局面では、フェリーチェの姿で現れる事が増えている。
「9年後のプリキュア!!?」
「そうです。私は『魔法つかいプリキュア』の一人であり、大地母神の後継者でもある存在でした。ですが、その力をも超える化物が和達の世界を蹂躙したのです」
どことなく神秘的で、神々しさを感じさせるキュアフェリーチェ。その彼女をして、絶望の淵に追いやったほどの『終焉の魔神』と『神に愛されし者達』。その脅威を説く。そして、みらいとリコの悲劇も。その脅威へのレジスタンス活動のために、歴代のプリキュアをのぞみA、その後輩の北条響が周りの助けを借りる形で、集結させるために奔走している事を告げる。自分もその一人であると明言して。
「終焉の魔神、神に愛されし者……。未来のプリキュア達まで巻き込んで、のぞみ、アンタは何をしようってのよ!」
「わたし達は戦うために生まれ変わった。だから、平行世界全体の脅威があるのなら、誰がために戦うだけだよ、りんちゃん。たとえそれが未来永劫でもね」
「かれんさん、それにこまちさん。事は急を要するのです。もはや、時間軸の違い、住んでいる世界の違いの次元ではないのです」
「その通りだ」
「ハーロックさん!」
ここでさらなる援軍として、キャプテンハーロックがやってきた。太時代的な海賊然とした風貌だが、その風格溢れる姿はまさに大海賊である事を雰囲気だけでわからす。
「俺はファントム・F・ハーロック。こう見えてもドイツの出身だ。細かい説明は俺がしよう」
(さすがハーロックさん、来ただけで場の空気を呑み込んじゃうなぁ)
(さすが、30世紀の宇宙大海賊ですね)
ハーロックは海賊であるが、先祖代々のドイツ人の血と、過去に地球連邦軍の『大佐』であった軍歴がそうさせるのか、軍人のような迫力があった。年端も行かぬ乙女たちは、ハーロックのような『男の中の男』には畏まってしまうらしい。
「時間軸の細かい違いなど、もはや些細な問題でしかない。『敵』が君たちの仲間の根源を叩こうとしている以上、俺たちも黙っているわけにもいかんのでな。この子達に力を貸している。」
「ハーロックさん、今回は『マッコウクジラ』で来たんですか?」
「アレはオーバーホール中でな、『イカ』で来た」
「初期型ですね」
「性能にそれほど違いはないがな」
「ハーロックさん、まさか貴方は」
「君たちの世界では、漫画での人物として知られているだろう。その通りだ」
「キャプテンハーロック……!通りで…!まさかアルカディア号を?」
「衛星軌道に待機させてある。今回は初期型で来ているから、『イカ』だな」
アルカディア号。未来世界の30世紀で、宇宙最強戦艦の一つとして名を馳せている名艦である。大山トチローが設計した大戦艦であり、惑星ヘビーメルダーの地下ドックにて『デスシャドウ号』の二番艦として造られたものを強化して生み出された鋭角艦首のものが最初のアルカディア号で、『デスシャドウ二号』の前名を持つ。お馴染みのマッコウクジラの艦首型は三番艦以降に用意されたタイプで、大山トチローが人生の晩年に至るまで造り上げたものの一つである。ハーロックの乗艦にふさわしい優美さを持つことでも有名だが、一方で、宇宙戦艦ヤマトからの地球連邦軍型の外洋型宇宙戦艦の流れを汲む設計もなされている。デスシャドウ号がそうであったように、艦の基本ベースはその時代のドレッドノート級だからだろう。デスシャドウではそれが顕著である。
「動いているのは俺だけではない。Mr.ゴルゴ13も動いている。奴らは彼の心に火を灯したからな」
「なんだか、漫画みたいな話になってきたわね……」
「俺やMr.ゴルゴ13がいる時点でそうだろう?俺は一海賊だが、彼は神を殺すことのできる男だ。愛称の由来が十字教のあの聖人をゴルゴタの丘で裏切り、殺した男だからな…」
「神を殺せる男?」
「あの人は言うなら、そういう宿命だよ、かれんさん。神様でも、悪魔でも、彼が敵になれば鎮魂歌を聞く事になるし」
ここでゴルゴに課せられた宿命が語られる。神でも悪魔でも、彼に直接の手出しを避けるというのは、彼の名の由来に関係している。のび太が友人関係になれた事を全世界が驚愕したのはそういう事だ。実際、バダン大首領は末端のネオ・ナチ組織をいくつもけしかけたが、いずれも返り討ちにあっている。もっとも、初代ゴルゴと第二次世界大戦からしばらく、MI6の部長だったヒューム卿が奇妙な友情を結んでいたので、友人を持つのは始めてではないが。
「野比のび太が彼と友人関係を結んだのが、如何に歴史上の珍事だという事だ。だから、ある意味で我々は幸運だということだ。のび太との仁義で、我々からの依頼は高確率で受けてくれるからな」
ハーロックをして、幸運と言わしめる要素。それは二代目ゴルゴの代から続く、ゴルゴとのび太との友人関係である。のび太もギャグ補正を抜いた場合のシリアス補正である『長編補正』が煮詰まった英霊としての力の『敵に必ず、銃弾を致命傷やそれに関係なく当てられる』というものは神、神に準ずる存在にも適応される。それが英霊に選ばれた者の力であり、それ故に裏世界でゴルゴと共に畏れられたのだ。
「彼の助力も得て、我々は神々の軍団と敵対している。この子の仲間を倒したのも、その軍団だ。高度な技術で造られた改造人間を使役して」
「改造人間!?」
「サイボーグの古い言い回しだが、身体を99%改造された個体も出ている。脳を残して全て機械に置き換えたという意味で、だが」
「サイボーグはプリキュアを倒せると…?」
「サイボーグと言っても、動力は初期のモノでさえ超小型原子炉が組み込まれている。戦闘用改造人間なら、プリキュアを圧倒せしめる事は容易だ。殺すことも、な」
「戦闘用は人工筋肉もアクチュエータも、介護目的に使われるモノとは質が違いますからね、質が」
「核融合炉の圧倒的なパワーを伝えられるアクチュエータ、戦闘用に造られた鋼の骨格と人工筋肉……。私達の防御力を超える事は充分にできるよ。わたしとフェリーチェはプリキュアを超えるために特訓をしてきたんだ。野比のび太くんたちの下でね」
のぞみAはいう。のび太が示した『永遠の童心』を転生後の拠り所にしてきた表れであり、変わってしまった自分が取り戻したいと願った心をのび太達が持ち、それを目標としていると。
「なんだが、貴方、変わったわね…」
「そこにいるわたしが同じ結末になるとは限りませんけど、教師をして、大人の社会で否応なしに生きてくれば、こうもなりますよ、かれんさん」
自分が教師であった事により、全てが14歳の自分のままでは無くなった事を水無月かれんに示すのぞみA。自嘲気味なのは、大人の社会での非合理や理不尽さに翻弄されきった後の時間軸からの転生という境遇がそうさせたのだろう。
「あなた、通常のキュアドリームにはなれる?」
「なれます。パワーアップしただけですし。ただ、それだと見分けられないと思いますよ。ただ、気合と掛け声で変身できるようになりましたから、便利になったといえば、なりました」
「えぇ〜!?何それ!?ずっる〜い!」
「まあ、こっちは経験積んで、特訓もしたし」
「ねぇねぇ、どんな特訓?」
「そりゃ、ジープに全速力で追っかけ回されたり、真冬の滝に打たれたり……」
「どこの獅子座のウルト○マンよ、それぇ!」
りんBがツッコむが、のぞみAはこれから黒江の悪乗りで、ウルト○マンレオもかくやの大特訓を受ける羽目になるのだ。昭和ライダーの影響が大きいので、当然といえば当然である。のび太もノリノリでそれに乗っかったので、流石にジープの全速力で追っかけ回された時には、『やめてください〜!』と血走った目で懇願したという。その特訓が功を奏し、シャイニングドリーム形態を自家薬籠中の物としたのも事実だ。
「そんな大特訓を経ての成果が、シャイニングドリームだよ。通常のスーパープリキュアを超えた姿。苦労したけど、その甲斐あったよ」
「昭和のスポ根アニメとかドラマじゃあるまいし、そんな特訓でどうにかなるものなの?」
「素質はあったし、周りの祈りでしかパワーアップ出来ないってのも不便だしね。それに武術も覚えたし、これで初代と二代目に並べたと思う」
「初代と二代目?」
「プリキュアはわたし達だけじゃないんだ。先達がいて、フェリーチェみたいな後輩まで延々と受け継がれていく称号なんだよ。わたし達は三代目にあたるプリキュアだよ」
自分が『三代目』という自覚があるのぞみA。そして、パワーアップした事を示すための変身を見せる。
『プリキュア・シャイニング・メタモルフォーゼ!』
シャイニールミナスの変身時の掛け声と語彙が一部被るが、新しい変身コードがどうにも思いつかなかったらしい。そもそも、セブンセンシズによって、『イレギュラーな変身を自家薬籠中の物にする』事自体がイレギュラーなのだが。
「嘘、色が白で、翼も生えてる……」
「わたし達プリキュア5の最上位形態だからね、これ」
シャイニングドリームは『プリキュア5』最強のポテンシャルを誇るプリキュアである。パワーアップフォームの元祖であるため、ドリームのみが有した形態である。気合で変身したため、端から見ると、プリキュアというよりは、バトル漫画の変身である。オーラがどこかで聞いたような効果音を伴っているのもあり、そんな雰囲気がありありと出ている。
「それと+αですね。プリキュア以外の力で最大ポテンシャルを引き出している分」
フェリーチェが解説する。セブンセンシズでプリキュアとしてのポテンシャルを引き上げているため、+αと言ったのだ。もっとも、フェリーチェ自身もこの頃には、エイトセンシズを完全にモノにしているため、以前の比でない力を手に入れているが。
「あんた、アイテム無しでどうやって変身したのよ」
「うーん。第六感の先の扉で、かな?」
「第六感より先ってあるんですか?」
「セブンセンシズ。そう呼ばれる境地です」
「セブンセンシズ…」
「なんか一気にマンガチックになって来たわね…」
「これだけすごいことになってるんだし、言うだけ野暮よ、かれん」
「こまち!?」
「ココさん達がたまたま用事で出てる時で良かったかもしれないわ。のぞみさんが増えてる上、未知のプリキュアとキャプテンハーロックよ?」
「確かに」
プリキュア5の現役当時のたまり場『ナッツハウス』に集まった、凄まじいメンバー。その上空(衛星軌道上だが)には鋭角艦首型アルカディア号が待機している事を考えると、なんとも言えないことになっている。自分たちを追って、マゾーンかイルミダスの戦闘艦が次元跳躍してくる可能性も考えているからだろう。それを映像で見て、苦笑いの黒江。黒江の課そうとする特訓に青ざめるのぞみ。だが、黒江はマッコウクジラ型艦首のアルカディア号しか見たことが無かったので、青色の鋭角艦首型アルカディア号(デスシャドウ二号艦)の勇姿に興奮気味の黒江。
「おお〜!イカ型のアルカディア号だー!俺が会う時は、いつもマッコウクジラ型だからなー!」
「本当だ。この前見たのと違いますね」
「これは初期に造られたタイプで、デスシャドウ号二番艦という別名もあるんだよ。武装とかは同型だけど、艦首の設計が違うんだ」
「へぇ〜。先輩、詳しいですね」
「伊達に、なのはに付き合ってプラモをつくっちゃいねーよ」
「そっか、なのはって、高校でプラモ部だっけ」
なのはの他にはない特徴である『高卒で、プラモ部出身』のことを話題にする。なのはは他世界では中卒でミッドチルダへ移住したが、黒江達の知るなのははのび太の勧めもあり、高校まで進学し、その後に防大に入学し、タイムマシンを活用して生活を送っている。肉体の外見は17歳前後で固定されているが、自己での年齢操作を教わっていなかったというポカもしている。また、のぞみは錦として、なのはに会っている記憶があるので、なのはには目上として接している。のぞみがほぼ同年輩を呼び捨てにするのは、珍しい事ではあるのだが。もっとも、のぞみとて、前職は教師、現職は職業軍人なのだが。
「お前も前職が教師で、今は軍人ってのも、割合珍しいぜ、扶桑じゃ。予備士官制度は整ってないから、下士官を育成してグレードアップするやり方当たり前だったしな。陸軍。あ、予備士官制度あったな」
「そう言えば」
海軍には海軍予備員があったが、批判が大きく、改定される見通しであったし、比較的に批判の少ない陸軍も同じである。海援隊の第二海軍化は予備員制度を根底から覆すものであるため、有事の際の人員の融通という点は海軍の要望で残された。明治期から続いていた『役割分担』を完全に壊してしまう事は扶桑海軍内部でもかなりの懸念があったからで、第二海軍化でかなりの制約は生まれるものの、退役者の海援隊入隊はどうにか通った。自衛隊の自衛官との交流だけで、扶桑軍の膨大な需要は賄いきれるものではないからだ。また、今から海上護衛部隊を創設しようにも、少数の空母と海防艦ではものの役にも立たない。その悩みもあり、連合艦隊の実働戦力を第一艦隊と第三艦隊のみにする案まで出ているほどだが、第二艦隊や航空艦隊の空軍移籍の是非などで揉めている現状では、性急な議論は避けられている。のび太が圭子に頼まれて実施した内部調査で、思わず呆れ返るほどのシッチャカメッチャカな現状がダイ・アナザー・デイ当時の扶桑軍であり、黒江と数人のプリキュアが休暇を取るだけで、参謀本部が大慌てになるほど、組織内部の抗争が明るみに出てしまった状態なのだ。
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