外伝その289『プリキュア、第二陣』
――黒江達が21世紀世界に赴いていたのだが、ウィッチ世界の芳佳のもとに、思いもよらない人物から電話がかかってきた。
「やあやあ、ダーリジン。どしたの?こっちは夜なんだけど?…え、え?本当かいな!ラブちゃんに言おうか?」
「電話、代わってくれるかしら?」
「ちょっと待って。呼んでくる」
数分して、ラブが電話口に出ると。
「え、み、美希たん!?う、生まれ変わってたの!?」
「説明したいところだけど、こちらも事情があるのよ、ラブ。ありすちゃんもいるのだけど、家が家だから、呼び出すのに苦労したわ」
「それじゃ、あの人の予測は当たってたの?」
「そういうことになるわ。ミルキィローズはありすちゃんと同じ学校に生まれ変わってるから、呼び出してもらったわ」
「ほ、本当!?」
「ラブ、くるみよ。のぞみはいる?」
「くるみちゃん、久しぶり。事情は聞いてる?」
「まほさんから定期連絡があるから、それで」
「今、ちょうど休暇なんだよね、のぞみちゃん。伝言はできるけど」
「今度は地球人になってるから、楽しみに待ってて頂戴と」
「のぞみちゃん、驚くよ。でも、まさか、美希たんとくるみちゃんが同じ世界に生まれ変わってたなんて」
「私も地球の高校生になってて、気がついて考えてみたら驚いたわよ。前世はパルミエ人だし」
「まー、くるみちゃん。呼ばれる世界は宇宙人とか普通に居る世界だから気にしなくても良いさー。そっちに黒江さんの部下を送り込んでおいたはずだから、その人達に事情話せば、所定の手続きをしてくれる。それと、あと何人いそうだい?」
「サンダースのナオミがキュアレモネード、ブラウダのカチューシャがキュアピースって事は確認入れたわ。ノンナが協力者でね。意外に連絡取れたのよ」
「西住ちゃん入れて、四人くらいか。ま、上出来だね」
「とにかく、これからそっちに行くわ。もうしばらくは待ってて」
「わかったけど、西住ちゃんをよく連れ出せたね?」
「こっちにいる別のまほさんに美希がいろいろとハッタリしまくったのよ。ちょうど帰省中に四葉ありすの因子が目覚めて……あ、え、エリカ!?貴方、ど、どこから!?」
「み、みゆきちゃん!?あ、あたし…、相田マナだよ!わかる!?」
「ま、マナちゃん!?」
「いったいなにがどうなってるのかわかんないよぉ〜!」
芳佳は電話口の向こうで、逸見エリカが相田マナの声色で喋ってるのを想像し、吹き出しそうになる。エリカは気難しそうな風貌だが、キュアハート/相田マナは歴代ピンクの類型通りに明るい性格かつ、高めの声なので、電話口の向こうが面白いことなのは想像つく。乱入してきたので、一同が茫然としているのはわかる。
「ま、マナちゃん。落ち着いて。美希ちゃんから話を聞きなって。ドキドキプリキュアの第一陣がマナちゃんとはね」
「うぇーん!気がついたら戦車動かす部活してるし、しかもドイツ風だし!わけわかんないよぉ〜!」
覚醒したてでパニックになっている相田マナ/キュアハート。他の面々は覚醒から一定の時間を過ごしているらしく、ナオミは会合にいくにあたり、春日野うららの容姿に変え、ダーリジンも蒼乃美希の姿である。そのため、覚醒したてホヤホヤの逸見エリカが乱入するのは予想外だったようだ。
「マナちゃん。意識を集中して、念じな。さすれば、マナちゃん本来の姿になれるはずだよ」
「う、うん!」
芳佳の指示で念ずると、空中元素固定能力が発動し、逸見エリカから相田マナへ肉体が作り変えられる。マナは驚く。アイテム無しで変身したのだから。
「あ、服はそのままだけど、体は前の姿に戻ってる―!」
「生まれ変わった存在に平等に与えられる能力『空中元素固定』。わかりやすくいうと、キューティーハニーと同じことが生身の体でできるようなもんだね。プリキュアの変身アイテムも例外じゃないよ?」
「それじゃ、みんなはそれで?」
「肌身離さず持ってたし、構造自体は知り尽くしてたから。マナ、貴方もラブリングを造れるはずよ」
「美希ちゃん…。えいっ」
ラブリーコミューンが生成される。スマートフォン型のアイテムなので、ガラケーを模した道具で変身していたのぞみやうららの時代から、変身アイテムが模す道具も進んでいる事がわかる。個人用のアイテムであるキュアラビーズも生成され、試しに手順を踏んでみると。
「プリキュア・ラブリング!」
同時に生前の通りに、L・O・V・Eの文字をなぞると、キュアハートに変身できたマナ。プリキュア達の空中元素固定能力は本来、妖精の力が必須なプリキュアの変身アイテムも作れるようになっているのが確認された。
「あー!変身できた!?」
「良かったじゃん!こっちからは効果音しか聞こえないけど」
「他のみんなも?」
「できるわよ。だけど、むやみに変身はしないこと。目立つんだから」
美希(ダーリジン)が釘を刺す。黒江の部下と接触するまでは無用な変身はしないと。ただし、黒江もいうように、自衛での変身はいいそうである。ただし、小宇宙に覚醒した場合は必ずしも変身アイテムを必要としない場合がある。のぞみの場合、気合でメタモルフォーゼが可能になったため、変身アイテムはバックアップ用に持っているのが実情だ。セブンセンシズはプリキュアに変身アイテムを介さずの変身も可能にさせるほどの境地だが、神殺しが辛うじて可能という程度の力である。星矢達がエイトセンシズに目覚めることで初めて『神殺し』を達成したように、セブンセンシズ単体では使徒レベルに到達した程度の能力の目安でしかない。黒江達は主神レベルの神を殺せる力『ナインセンシズ』に到達したが、エイトセンシズ、つまりは阿頼耶識に到達して、ようやく幾多の英霊と同じ次元に達するのだ。しかし、神話の主神級を滅するには、阿頼耶識を含めての意識を『破壊』することで到達する第九意識が必要である。黒江達は数度の転生の果てに到達し、それをゼウスに認められ、末席とは言え、一応の神の座に座した。そこまで行くと、哲学兵装はもはや子供の児戯にすぎなくなり、上位の武装たる概念武装を自由に操れる。黒江がフルポテンシャルのガングニールを退けた事例がシンフォギア世界で幾度か存在するのは、黒江がシンフォギア世界の『哲学兵装』の起こせる摂理を超える存在であり、ガングニールでさえも犯すことができない神通力を発揮していたからなのだ。ちなみに、はーちゃん(キュアフェリーチェ)はエイトセンシズに限定的に覚醒していたが、不完全であった。そこがZEROの因果律操作を許した理由である。基本的にギャグ補正がかかる人物か、因果の因である人物でない限り、マジンガーZEROの力の餌食になる確率は高いのだ。
「とにかく、マナはこっちでなだめるわ。ラブをよろしく頼むわ」
「分かった」
「あ、みゆきちゃん、のぞみさんによろしく言っといてください」
「その声はうららちゃんだね?のぞみちゃんが喜ぶよ。それじゃ」
電話が切られる。
「ふう。忙しくなるね」
「隊長に報告しないとならないから、文章を苦心して考えてくるよ。加藤隊長はともかく、まほさんは妹がプリキュアなんて、腰抜かすよ?」
「多分。また連絡があると思うから、のぞみちゃんに連絡よろしく」
「わかった」
ラブはそれからすぐに、のぞみへ連絡を入れ、プリキュアの第二陣が現われた事を伝えた。それを見たのぞみはもちろん、腰を抜かすほど驚いた。第二陣がくるみ(ミルキィローズ)、うらら(キュアレモネード)を含めての五人で、ウィッチを兼任している自分たちと関連性があると思われる世界で因子を目覚めさせた者であるからだ。
「どひゃあ!?」
「どうした、騒々しいぞ」
「ラブちゃんからメール来たんですけど、他のプリキュアのみんなが現われ始めたんです」
「何?見せてみろ」
黒江はメールを見てみる。新たに5人前後のプリキュアが確認されたと書かれており、芳佳による添え書きもある。2019年の日本政府が聞けば、喜ぶだろう。
「こりゃ朗報だ。プリキュアとなりゃ、日本側も手出しはできんからな。ウィッチ組織はこれから長い苦難の時代に入る。ジュネーブ条約との兼ね合いで、10代のウィッチは疎んじられるからな」
「つか、先輩。あれって制定されたのは1949年じゃ」
「そうだが、連邦を組んだ以上は制約ができるからな。政治的圧力で、軍隊に今いる連中の雇用維持は特例措置ってんで認めさせたが、かなり野党連中がゴメたんだよ。国会がかなり空転したんだよな、これ」
「裏社会が栄えちゃいますよね?下手に大量にクビにしちゃうと」
「戦後すぐの日本、崩壊間もない頃のソ連と、軍人崩れが裏社会に落ちぶれるなんてのは、枚挙に暇がないからな。再統一後の東ドイツもそうだ。治安悪化の原因になるんだよ。下手すれば大量のホームレスも生まれる。ラ○ボーを見てみろ。あれなんて帰還兵への扱いの最たるもんだ」
黒江の言う通り、『ウィッチ世界特有の事情に鑑み〜』。日本政府と防衛省がひねり出した、軍隊に在籍済みのウィッチの雇用維持のための方針だが、野党の議員達はジュネーブ条約を大義名分に使い、防衛省と政府を責め立てた。ウィッチである事を理由に、それなりの人数の少女兵が扶桑軍にいるが、2019年日本の政治勢力の一部から激しく煙たがられていた。ジュネーブ条約に反するというのが理由だが、ウィッチ世界ではそれらがまだ詳しくは整備されていない時間軸な上に、ウィッチ特有の事情により、どの国も10代の兵士や将校がいる。扶桑でのみ、大事になっていくのは、日本による『指揮官適正テスト』や『階級調整』、『再教育』を屈辱と捉えるウィッチ部隊が実働部隊の五割を超えており、そのことに厳罰で臨むことがウィッチ組織の危機を却って増大させる。日本側はウィッチ組織特有の事情に無理解な層が大半であり、陸戦ウィッチだけで1000人を超える少女(中には、小学校からスカウトされて入隊した少女もいた)がおり、それらが路頭に迷う事を一考だにしない議員が多かったのも事実だが、良識的な議員もいた。『軍隊以外に食い扶持を知らない者を路頭に迷わせたら、その責任は誰が取るのか?』と。確かに10代の少年兵は好ましくはない。だが、歴代のガンダムパイロットは10代で初陣だし、古今東西、10代での初陣がなかったわけでもないという歴史的事実もある。その良識的な議員の発言もあり、在籍済みのウィッチの軍籍は維持される事になる。古今東西、クビになった元軍人が裏社会に入り込むことは多い。20世紀末期に崩壊したソ連邦の軍人の多くが身を持ち崩して裏社会に落ちぶれたのは有名な話だ。ベトナム戦争の帰還兵が帰還後の祖国社会に適合出来なかったりしたケースは特に有名で、映画にもなっている。それを避ける事は一つ。なるべく軍人を雇用し続ける事。地球連邦軍が軍縮傾向にあった頃、ネオ・ジオンに流れていったケースが多かったように、軍人が除隊後に社会の不安要素になってしまうケースが顧みられた事は少ない。地球連邦でも起こったことであるし、その前身の一つである日本連邦でも起こったのだ。結局、黒江達の危惧通り、雇用不安がクーデターを煽った側面が生まれてしまう。鎮圧後に首謀者たちを見せしめとして、公開処刑に処したことがウィッチの親達を萎縮させ、太平洋戦争が激しくなるまでの数年、ウィッチの新規雇用が絶望的に落ち込んでしまう結果となる。黒江はそれを見込んでいたので、プリキュア達を雇用することで、数年間は確実に得られなくなるウィッチの人的資源を補おうとしたのだ。実際、のぞみの転生を皮切りに、次々とプリキュアが確認されており、彼女らに行き場を与える意味合いも含まれるのが、『プリキュア・プロジェクト』だ。
「先輩、ここ数年はどうなるんですかね、ウィッチの志願数」
「井上さんは『壊滅的』になるだろうって睨んでる。日本からウィッチを集めるにしろ、43年ん時の志願数と学校からのスカウト数の総数に並ぶには5年はかかるだろう。その分を補う必要がある。一応、護身用の銃はもっとけ。のび太から渡されてんだろ?2010年代末のフランスは物騒だしな」
「暴動起きてますしね、この時期。扶桑軍人で良かったですよ。やすやすと変身するわけにもいかないし」
『S&W M27』をのび太から『護身用』ということで渡されているのぞみ。錦との人格融合を選んだ影響か、大口径銃を好む傾向が出ている。りんも護身用に『コルト・ウッズマン』をもらっている。そのあたりで将校の特権が行使されている。将校は拳銃に関しては、多分に個人裁量が認められていた。防衛省は『我が自衛隊の9mm拳銃を全員に装備させる』と息巻く勢力がいたが、将校の拳銃は元々、個人裁量で装備するのが風習であったため、反発がものすごく、結局、拳銃が個人で購入しやすい環境にあった扶桑軍人の拳銃は『期限』前に申請すれば、『使用継続ができる』ことで決着した。防衛省としては、危険とされる『十四年式拳銃』を排除する意図があったが、扶桑軍将校は国産銃よりも外国産をステータス的に好む傾向が強く、ベレッタ、ガバメント、ブローニング・ハイパワーなどが多数派で、南部十四年式が普及していると早合点していた日本防衛省を困惑させた。ベレッタの普及は圭子がソードカトラスという形で保有したのが最初とされ、それを皮切りに広まった。圭子がカスタムして二挺拳銃で持つことがきっかけで噂が広まった。もう一方のガバメントはリベリオン軍との共同戦線経験者に多い。結果、期限とされた日までの申請が扶桑の全軍にほぼ相当する1000万人分にも登ったため、防衛省は事務処理の膨大さを理由に、規制開始日を数年もの間、逐次延長する羽目となったという。
「ま、のび太はジャムがない分、リボルバーが良いっていうが、ドラえもんもあまり在庫がないみたいでよ」
「オートマのほうが調達しやすい時代ですしね。数も多いし」
「だが、装弾不良を起こす確率も一定くらいはある。のび太は嫌ってる。弾は入んないが、ヘッドショットか心臓をぶちぬきゃいいそうだ」
「わたしはいいけけど、りんちゃん達は相応に訓練しないとなぁ。かれんさんとこまちさんが見たら、思いっきり腰抜かすだろうけど。先輩、さっきの続き、見れます?」
「説明が終わったとこを見てみよう」
タイムテレビが別の場面を映す。
『えぇー!?あんた、なんで旧日本軍の軍服着てんのよ!?』
『かくかくしかじかで、軍の将校なんだよねー。銃も持ってるし』
『357マグナムぅ!?そんなたいそれた代物…って!どういう世界なのよ!?』
『ややこしいんだよー。色々な要因で魔法が普通にある世界の日本軍の将校になったから。シューティングレンジがあれば、腕前を見せられるんだけどね』
『のぞみさん、その世界だと、どのくらい偉いんですか』
『航空科だから、大尉さ。パイロットだから、分隊長級だよ、うらら。一応ね』
『貴方が航空科ねぇ。いくら第二次世界大戦の時代に行ったからって、すぐになれるものなの?』
『陸士出てますよ、一応は。だからすぐに大尉なんですよ。下士官からだと、少尉任官に何年もかかるし。まぁ、一度まっとうに死んでから輪廻転生した結果なんですけどね』
水無月かれんに言う。のぞみは覚醒前の錦として、確かに陸士を黒江の何期か後で出ているエリートであるため、すぐに大尉なのだ。
『一度死んだって?』
『聞きたい?わたしがどんな生き様だったか』
『遠慮しておくよ。別の自分と会えた事は嬉しいけれど、わたしは自分で道を選びたいんだ」
『分かった。わたしはかれんさんとこまちさんを連れて行くために来たんだ、実のところはね』
『え!?ど、どういう事!?』
『ややこしい事になるけれど、スカウトって奴かな。エターナルとの戦いが終わった後でで良いんだ。レストランの席をリザーブしとくようなもんさ。それに、私もしばらくはいるつもりだから、力を貸すよ』
微笑むのぞみA。ミルキィローズの登場を史実より遅らせてしまった事への侘びも兼ねていた。この後、りんBらにひたすら質問攻めに遭い、炎を操る格闘術をどうやって身につけたのか、プリキュアを超えるプリキュアとはなんなのか?などの矢継ぎ早の質問を受ける羽目に陥った場面が映る。Bは『旧日本軍の軍服を着る自分がどんな状況で軍隊にいるのか』は気になるようだが、辿った人生がどんなものであるのかについては、聞くのを避ける事は黒江も頷く様子を見せた。ただし、これまでの例に漏れず、Aの高い戦闘力に興味を示す素振りがあるのぞみB。
「どうせなら、お前も剣とか斧出せばどうだ?」
「先輩たちみたいに?」
「そそ。ケイなんて、あん時からゲッタートマホーク出すんで、周りがドン引きだったぜ。ハルバードにしか見えないトマホークだし、出すだけで『ドンッ!』って効果音が似合う代物だ。そんなのをブンブン振り回されてみろ、メタ情報持ってなきゃドン引きもんだ。俺のエンペラーソード、智子のショルダースライサーよりドン引きされてたし」
「うーん。考えときます」
「召喚する時に熱くシャウトしろよ。お約束だぞ、お約束」
「先輩たち、それで周りにドン引きされてません?事変で」
「されたよ、武子や隊長に。まっつぁんの豪腕で黙らせてもらったけど。隊長がうるさくてな。まっつぁんに怒鳴ってもらったぜ」
「でも、シャインスパークとストナーサンシャインはやりすぎですって。あれで士官学校の教官がケイ先輩をキチガイ扱いしてましたよ」
「ドワォだ、ドワォ。ケイには黙っとけ」
「ほら、パトレ○バーの某巡査長みたいな?」
「あいつが聞いたら『目だ!耳だ!そして鼻!』をやるな、その教官に。お前の代だと、奴の同期が多かったし」
「先輩は割に損耗して乗り換えるタイプですよね」
「19ももう二機目だ。オーバーGを何回かしたんで、機体にガタがきたんでな。武子や智子は気にするタイプだが、俺はテスパイ上がりだしな」
「智子先輩と隊長、機体にペットネームつけてますからねぇ」
「智子のやつ、二機目の19に『吹雪号』なんてつけやがってな。ありゃ荒い操縦しねぇタイプだわな」
「先輩は戦闘だと荒いって、47時代の上官がぼやいてました」
「ああ、あのヤロウか。奴は士官学校の同期で、事変時は5Fにいたんだよ。今は郷里に引っ込んだとか聞いたな」
のぞみ(の依代の錦)は47Fの出身であるので、入隊時の上官達は黒江の同期達であり、武勇伝を聞いていたのだ。黒江が同隊にいた時期は鬱病にかかりかけていた時期だが、それでも本来の性格の片鱗は出ていたようだ。その頃から『テストはいいが、戦闘だと機材を潰しやすい』という評判があった。当時の戦隊長の坂川中佐はそれを大目に見ていたので、黒江が立ち直ったとされる。
「先輩、47にいた時、何機潰したんですか?」
「隼は四機、鍾馗で二機かな?両方、初期生産機で不具合も多かったし、智子の封印されてる時期のレポートは当てにならんと愚痴られたこともある。だから、俺に回されたんだよ」
「先輩がいた時期は二型までですよね?」
「まーな。20になったからってんで、後方に下げられたからな。お前が錦として関わった三型は量産不能だから、お前がつかってやれ」
「リベリオンのエンジンなんだよなぁ、あれ。ダブルワスプ系積んだら、日本に笑われたけど…」
R-2800をそのまま積んだストライカーとしての三型は日本から『エンジン技術の不備を天下に示している』と嘲笑されたが、リベリオンが裏切ることなどは想定外である。元々、鍾馗は誉などの国産小型大馬力エンジンを積むように最適化されていない設計であるので、リベリオンからの供給を前提に鍾馗のパワーアップに使えるエンジンを選ぶのは当然であった。国産品で代替するにしても、別個に誉か43用の設計をした機体を設計する必要があると、キ84がすでにある事もあり、糸川技師が反対している。
「帰ったら、使ってやれ。その姿のままでいいから。プリキュアがウィッチとして出るなんてのは、広報のいいネタになるしな」
「向こうでラブちゃんがしてるはずですよね?」
「芳佳がついてるんだ。大丈夫だろ」
芳佳はこの時期、既にベテランの域に入るため、ストライカーで出ても普通に強い。空の宮本武蔵という、他の世界の『宮藤芳佳』にない特徴もあるため、普通に一級の航空ウィッチだ。アニメと同じ服装(海軍のセーラ服)で出撃していた最後の時期でもあり、震電で出ていない事を残念がられたという。ただし、他の時空で震電を手に入れているはずの時間軸に入っていたのに、紫電改から烈風に乗り換えた事は『劣化してない?』とする陰口も多かった。ただし、陸軍式の派手なテイルサインとインシグニアは好評であり、64Fのインシグニアが描かれている。(実際は婚約者の吾郎技師による、徹底したチューンナップが施された個体であるので、紫電改と震電を上回る性能を誇るのだが)史実ではありえない『烈風IN宮藤芳佳』は驚きを以て迎えられ、この後は史実自衛隊機相当の機体になるので、アニメの延長線にあるストライカーでの勇姿としては、この烈風改が最後であった。烈風の美点は『紫電改より操縦性がいい』点で、未経験者のプリキュア出身者に割り振られたのは、烈風のカスタム仕様である。(経験者はそれまでの愛機を使えばいいので)
「広報用に、新しい戦闘服着て写真撮影しましたけど、あれでいいんですかね」
「俺なんて、エンペラーソード持って、広報にネタ提供したぜ。もっとはっちゃっけろ」
広報にネタを提供するため、ル・マンの宣伝も兼ねて、皆が戦闘服姿で写真撮影をしたが、ウィッチのコスプレにしか見えないと言われたらしいのぞみ。撮影では、圭子と黒江が一番はっちゃっけており、ダブルトマホークとエンペラーソードを持って撮影しており、日本の漫画とは異なる存在であると、自分からアピールしている。また、シャーリーも羽目を外しており、キュアメロディの姿でル・マンの日本向けCMを撮影する事もしている。それに付き合う形で、りんもキュアルージュとして出演したり、早くもツッコミポジである。また、フレデリカ・ポルシェなどはレース専門番組に出演、ポルシェ博士の同位体として、日本のカーメーカーのエンジニアと対談したりと、楽しんでいた。
「いいなぁ。フレデリカさん、今頃は日本のカーメーカーのエンジニアとの対談番組に出てるし」
「あいつ、水冷にこだわってるからなぁ。日本のエンジニアと気が合うかもな。メーカーによるけど」
フレデリカはポルシェ博士の同位体であるので、一般にはティーガーのこともあり、新技術に傾倒するマッドサイエンティストと思われがちだが、意外に堅実に造る事もある。フォルクスワーゲンがその代表例だろう。自身が攻撃ウィッチ出身であるので、意外に堅実な面が多い。
「あの人、ワーゲンはどうして設計したんだろう?」
「ケイから聞いたんだが、あいつはT型フォードみてーな国民車を個人的に作りたがったんだとさ」
「同位体みたいな国家のバックアップなしだと、厳しくないですか?しかも零細企業だし」
「軍の給料を回して、試作車作ってたらしいのよな。で、ケイとマルセイユのコネで皇帝に試作車に試乗してもらえたみたいでなー」
フレデリカは意外なことに、友人のコネで試作車を皇帝が試乗する機会を得た。当時の皇帝は新しいもの好きかつ、大衆車に理解があったため、皇室公認のお墨付きが得られ、会社の経営が軌道に乗ったのだ。また、領邦連邦の恩恵を受けられた事もあり、21世紀ポルシェ社に嘱託職員として籍を置きつつ、自分から宣伝活動も行っているのだ。その一環が今回のレースへの関わりである。同位体の知名度を同じ分野で活かした最初のケースだろう。フレデリカは日本のTV番組で何を語るのだろう。それが気になるのぞみだった。
――2019年になると、扶桑への政治的圧力は収まりつつあったが、親独派や親露派とされた記録のある外務官僚を大量に罷免した事は現地の外務省を大混乱に陥らせた。かの有名な『杉原』外務官と史実で敵対、あるいは退官させるように仕向けたとされた、親露派の外務官僚たちを一斉に罷免し、多くを免職に追いやった事は、国の分裂で少しでも外交パイプを必要としていたロマノフ朝を恐怖させ、オラーシャ政府による外交要請が行なわれるに至った。この要請は無視できず、一部の復職が行われたが、屈辱感からか、断る者も多数に登ったという。意外なことに、陸軍中野学校などの諜報部の者たちは日本に『まとも』な対国家級の諜報能力が無かったことから、日本連邦体制下でも重宝され、日本では内部に派閥抗争がある上、内閣情報調査室の能力は諸外国の情報機関より格落ちが否めないものであるため、MI6を模した専門部があり、更に国防省が政府通信本部を模した組織を有することもあり、日本連邦の情報機関は扶桑のそれが主体となる。諜報活動はMI6と政府通信本部のノウハウを古くから仕込まれた扶桑皇国のほうが一枚上手であり、諜報部門では扶桑皇国が主導権を握った。しかし、派閥抗争をしたがる日本の内務閥はこれに反発し、無意味な派閥抗争を繰り広げた挙句の果てに、太平洋戦争開戦への対応の遅れが命取りになり、扶桑との統合組織の下請けのような立ち位置へ落ちぶれる。日英同盟が数百年続く世界であれば、扶桑はブリタニアのそれを模した諜報活動体制を構築済みという、当たり前の事に思いもよらないところが彼らの柔軟性の欠如と、官僚主義の硬直化を妙実に示す事例であった。また、プリキュアを内包するGウィッチへの特権授与は日本側も『人員確保の体制が再建されるまでに5年以上を要するだろう』という試算から、プロパガンダ的見地から容認した。扶桑はお墨付きを得たこの事項を推し進め、一騎当千のGウィッチに『戦功の見返り』ということで特権を合法的に付与した。これは各国も追随し、結果的にS級ウィッチという分類が連合軍内部で出来上がり、転生者で無くとも、相応の対価を払えば何かしらの優遇措置がなされるという形で公認化され、扶桑とカールスラントからもっとも多く輩出している点では、カールスラントの斜陽の暗示とも受け取られ、一見して華やかなカールスラント軍の衰退の予兆と受け止められたのは、皮肉であった――
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