外伝その292『プリキュア・プロジェクト5』
――扶桑皇国で日本国の文部科学省主導で教育現場からの軍隊の排除が進み、学校からのウィッチとなる少女の直接スカウトが禁止され、各学校にいたウィッチ候補生と将校が学校現場から連座的に追放されたため、候補生を軍機関で引き取らなければならなくなり、候補生の全員が軍へ就職が叶うわけでもなかった。その影響も扶桑で軍部の人気が下がった理由であった。その分をプリキュアで補うのは至極当然の結論であった。実際、日本から持ち込まれた反戦の風潮が拍車をかけ、兵士志願数、ウィッチ志願数が目に見えて低下しはじめた。良心的兵役拒否が許されない空気が叩かれたのもあり、軍部は新規志願定数割れの状態が数年もの間続く。新規志願数の増加に元帥/大将級を悩ませることになり、圭子の軍部に批判的な著書を軍が映画化を目論むという皮肉な状況が生まれていく。プリキュア達の死闘は扶桑軍が人員確保方法を潰されていった状況下の希望と見做され、Gウィッチと同様の優遇措置が与えられる理由とされた。この扶桑への事実上の内政干渉が収まるには、扶桑がオリンピックと万博を終えるのを待たねばならない事を考えれば、64Fの存在とプリキュア達の職業軍人としての待遇を現地の要請という形で容認するのが日本側のせめての誠意であった――
――実際、扶桑は並み居るライバル国の衰退で、連合国の中で事実上の盟主の地位に登りつめつつあったが、軍事的負担を嫌う日本側の政治勢力の策謀で人員確保方法を減らされ、更に反戦の風潮が広がることでのマイナス点が表れ始め、既存人員の消耗があまりできなくなった。その事も、64Fの肥大化がますます拡大してゆく流れを決定づける。そのため、扶桑の実働部隊の多くは練度が高い義勇兵と64Fが担っていき、生え抜き扶桑軍人は長らく肩身の狭い思いをしていくことになる。64の肥大化には現場から反対意見が多かったが、日本からのメタ情報で各部隊の史実での体たらくが伝わってしまうと、各地に散らばる熟練者が日本側の圧力もあって、どんどん引き抜かれて一箇所に集中される。中には熟練者が根こそぎ動員されて、若手ばかりになり、夜間出撃が不可能になった戦線も出ていた。本土防空と64に人材が集中された事への不満もクーデターの一因だが、日本は『一つの部隊を外征用に保有しておけば良い』という考えのもとに、人材の集中を進めさせた。黎明期にあたる、ダイ・アナザー・デイで現地に展開済みの64の中核部隊だけでも、制空ウィッチのS級技能とされる者のほぼ全員が在籍済みであった――
――現地――
「さて、これでクーデターの勃発自体は避けられなくなったわね…」
「私が手を回しましたが、焼け石に水だったようです」
「元々、私は反対だったのよ。こういう形で精鋭部隊を生み出すなんて。でも、時代がそれを求めた。複雑ね」
武子は元々、人を育てて欧州派遣部隊を精鋭に仕上げた実績を持ち、一からの育成に定評が中堅時代からあった。64Fの陣容も史実343空と同程度で良いと考えていたが、熟練者の行き場が世代間対立と部隊の統廃合で無くなり、装備テスト部隊も昭和天皇の意向で解散する見通しであることから、『一癖ある古参の行き場』を求められた事は自覚している。皇室を守るために准将への昇進を引き受けるなど、武子はここ最近は何かと政治に翻弄されている。黒江を隊長に推薦したら、逆に自分が隊長に祭り上げられたなど、不本意な結果であるが、周りを納得させるためと妥協した事も多い。転生したタイミングが遅かったり、黒江と圭子のように、軍人として理想的な『冷徹な面』が性格的になく、『情にもろい』のが武子の弱点であり、ある意味では扶桑の内乱の遠因でもある。それを気にしているためか、最近は酒を煽るのも珍しくない。黒江がオートバイの運転との兼ね合いで、酒を控えているのに比べると、武子の脆さが表れていると言えよう。
「酒ですか?」
「最近は飲まないと、やってられなくてね」
まっ昼間からビールを煽る武子。竹井(海藤みなみ)が諌めるが、ここ数年のストレスが溜まっているからだろうか、350ミリリットルの缶の半分を飲み干す。自分の気遣いが内乱を結果的に煽った形である事を気に病むあまりの自暴自棄である。武子は転生前と後の行動の整合性を気にする生真面目さが災いしたケースだろう。傍目からは出世街道驀進に見える高待遇は望んでいなかったとも告げ、皇室を守るために昇進を引き受けたという辺り、武子にあるのは皇室への忠誠心と、家族を食わすことだけであるのが分かる。
「亡くなった姉は陸戦第一世代でね。近衛師団配属が確実視されていたのよね。その仇討を私は親父達にやらされた。皇室の要請がなければ、こんな階級への昇進は蹴ってたわ」
「まあ、自衛隊式の人事が入ると、いつかは上がらないと人員整理の対象になりますから。黒江さんが定期的に階級が上がっていったのは、そういうことです」
自衛隊式の人事考査が入った扶桑は士官級の切磋琢磨を煽るためとし、士官の定期的なふるい落としを図る様になったため、温存したい人材は定期的に昇進させることで温存が図られた。また、自衛隊は自衛隊で、戦時状況下での将官の退官が許されなくなったという悪影響も出ている。少子高齢社会が極端化した社会においては、若年定年制が崩壊しつつあるため、定年の延長がなし崩し的に行われた。また、退官した自衛官の犯罪も増えているため、その抑止も兼ねて、表向きは福利厚生の向上という形で、自衛官にも正式に扶桑の金鵄勲章の授与資格が与えられ、付随する年金授与資格も得る事になった。(黒江などの潜り込み世代は身バレした後に外国勲章扱いで認められていたので、元から問題はない。また、扶桑の勲章なので、扶桑軍と連合した日本連邦軍としての活動で扶桑が授与する限り日本の法律の適用外で外国勲章として叙勲可能であるとする法的根拠があったが、野党がごね、瑞宝章での代替案を繰り返し出していた)他には、戦時状況下では危険度が大きく増すのに、財政的に自衛官の基本給の向上に財務省が反対したため、扶桑が財政負担をするという条件で容認された。メタ情報が伝わったことでの変化は、無人戦闘機が結局は非人道兵器と扱われる世界が将来に訪れ、無人戦闘機の動きを超えられる機体(VF-19など)とパイロットが出現する可能性を知った日本は無人戦闘機の研究をほぼ止める事となり、その分野では、アメリカが先行してゆく。結局は無人兵器そのものがトレーズ・クシュリナーダや東方不敗・マスターアジアらの影響力で非人道兵器と扱われていくことになるが、人的資源の不足を理由に、それに反発する者もおり、その派閥がゴースト無人戦闘機を開発していくのだ。
「ゴースト無人戦闘機が積極的に投入されないのは何故なの?」
「その一、正規軍がBC兵器と同列視してるから、配備数がそもそもない、その二、中枢システムが暴走する危険が大きい代物で、地球本星軍に嫌われ者である事、その三、無人兵器を使うと、地球圏じゃ政治的に叩かれかねないから、処分名目じゃないと外征で使えない。この三つです」
21世紀頃に予想された戦争の未来図は、結局は技術の進歩と、ボタン戦争時代を忌避するために起こった戦争への倫理観の変化(武士道と騎士道精神が一定の復活をした)が否定する。MSが造られ、VFが造られた世界でも、人手不足という人的資源の問題から、無人兵器は一定の需要はある。ただし、相当な抑制がかけられた状態での運用である。ドラえもん時代の人格保有が自律的に可能な超AIの技術が失われた代償は大きいのだ。
「皮肉ね。兵器の無人化を目指したはずが、それが未来で鬼の首を取ったように否定されるってのは」
「未来世界に生まれた流れが無人兵器を否定したんですよ。昔の騎士道精神と武士道が一部でも復活して。人は血と汗を流してこそ、って奴です」
「確かに、ウォーロックの暴走も転生前にあったから、極限まで発達した有人兵器が戦場をまた支配するのは悪くないわね」
「Gからパイロットを解き放つ技術が発達して、無人兵器を敢えて使う意義がなくなったんですよ。真ゲッターロボやマジンカイザーは光速出ますから」
武子は酒に強いほうなので、ビールを150ミリリットルほど飲んでもケロリとしている。竹井は普段は幼い頃の姿で通しているが、海藤みなみの人格と統合されたような口調を使っている。また、海藤みなみとしても振る舞うため、『GO!プリンセスプリキュア』出身者としては、今のところは唯一無二の職業軍人である。元々、生徒会長属性も有していたため、海藤みなみの記憶が目覚めてからは中間管理職ポジションであったりする。(ちなみに、幽霊の類がダメである)
「綾香からの報告だと、貴方もプリキュアだそうね?」
「はい。過去生では『海藤みなみ』と言う名で、キュアマーメイドでした」
「これでプリキュアもだいぶ増えたわ。あと数人いれば中隊規模になるんだけど」
「のぞみからの報告で、少なくとも、あと5人は確保できる見通しです」
「スーパー戦隊が取ってるみたいな歴代の混合メンバーで行くのが最善ね。日本の動きは?」
「軍部の締め付けに躍起になってます。これ以上締め付けると、予想以上にクーデターものですよ」
「東條閣下の追放で済ませておけば良いものを。何考えてるのかしらね」
「自分達の身の安全でしょう。日本は金さえ出せば、自分達は手を汚さずに済むと思ってるんです」
「21世紀までの考えとはいえ、身勝手極まりない事」
「80年近く平和だと、こんなものですよ。大衆は」
日本の一般大衆の非戦思考は、扶桑人から『身勝手』と断じられている。外征志向の強い扶桑と、太平洋戦争の敗北で民族のプライド、誇りを失った日本が相容れない点はその点だ。また、軍部をあらゆる手で押さえつけようとするあまりに、連合国をも混乱させた事は日本、ドイツの罪である。日本の左派の誤算は、『ドイツが主導して、カールスラントの軍縮を人員含めて強引に行ったら、現地が却って混乱した』例が先に出てしまったことだろう。その事例を鑑みた日本政府はドイツの行為を他山の石とし、段々と国内の統制を強め、最終的にプリキュアの存在を認めるのである。
「芳佳の証人喚問はどうなの?」
「ネットで大反響ですよ。あの子がズバッと言うんで、若者はこっちの味方になるでしょう」
「プリキュアとして言う事で、子供や若者は味方になる事を上手く計算したわね、あの子」
キュアハッピーの姿で答弁した事は2019年の日本に衝撃を与えた。また、キュアハッピーが宮藤芳佳でもあり、どっちみち主人公属性が強いことは反則だ、とは言われている。ただし、プリキュア勢の現時点でのリーダー格がのぞみである事には初代とSplash Starの世代の若者からは文句が出たという。また、某デモンベ○ン風の『憎悪の空を駆け、正しき怒りを胸に、無垢なるこの身を剣と成す、我ら再誕せしプリキュア一同、この身に恥じる事など有りません!』と決めた事も話題であり、元々のアホの子ぶりとは打って変わっての切れ者ぶりに萌える若者が続出したとか。
「あ、文句も一部出てます。なんで初代とSplash Starがいないんだ!って」
「のぞみが聞いたら怒るわね。あの子、意識してるから、先代達を。綾香達に頼み込んで、最近は流派東方不敗にまで手を出してるらしいし」
「そこまでしてるんですか、あの子」
「はーちゃんの事もあって、血の気が多くなったためだと思うわ。俺って一人称も混ぜるようになったし」
のぞみは黒江に頼み込み、流派東方不敗にも手を出し始め、僅かな期間で強くなるため、ギアナ高地に籠もるなど、初代の三人を強く意識していた。どこでもドアでギアナ高地に行き、黒江と圭子にタイムマシンフル活用で仕込まれた結果、流派東方不敗を血反吐を吐く努力で習得。草薙流古武術との組み合わせでの戦闘法に開眼。別人のように強くなった。フィンガー系の技も放てるようになり、灼熱サンシャインフィンガー(若き日の東方不敗こと、シュウジ・クロスの必殺技)を現時点では放つ。それは黒江とのぞみが確認しなかった箇所の戦闘でもわかる。
『俺のこの手がうなりをあげる!炎と燃えてすべてを砕く!しゃああああくねえつ!!サアアアアアン・シャインフィッガァアア!』
戦闘時に一人称を俺にしたのは、この技を放つ時が最初である。大人の精神状態で転生したため、Bより声のトーンが低い事も重なり、のぞみBが茫然自失となる衝撃をもたらした。シューティングスターで決めると思いきや、ルージュと属性が被る炎系のアイアンクローで、しかも前口上で『俺の〜』と言ったので、周りのプリキュア5が固まるほどの衝撃であった。おまけに相手をアイアンクローでわしづかみにし、そのまま地面を引きずり回して『すり潰しながら』のぞみ本来の性格であれば、絶対に言わないだろう『そのまま寝ていやがれぇぇ――ッ!』という熱い咆哮で決めたため、周りが茫然自失になるほどの衝撃をもたらした。更に流派東方不敗の型も最後に決めたので、ますます衝撃を与えた。修行の成果と言えばそれまでだが、あまりにもドリーム本来のイメージとはかけ離れている。その世界のミルキィローズの参戦タイミングを大きくずらす結果にはなってしまったが、のぞみAとしては、かつての恋人の姿を見られて一安心であったりする。フェリーチェもこの時に『トールハンマーブレーカー』を放っているので、相乗効果でミルキィローズが出たくとも出れなくなったのが実情だ。修行の成果は証明されたが、その世界に存在している、ミルキィローズ/美々野くるみ/ミルクの合流タイミングを大きくずらす悪影響が生じている。また、その世界の妖精たちへの説明がややこしくなるため、妖精たちの前には姿は見せなかった二人。だが、その世界のプリキュア5にはしっかりとその熱いハートを刻み込んでおり、Bにとって、のぞみAは彼女が強く意識する初代の二人のような立ち位置に立っていたのである。また、仮面ライダーZXがかつて、滝和也に言われたという『一言』をアレンジした『どこまでも強くなれるよ。貴方がプリキュアならね』と、別れ際に言い残したのである。のぞみAは修行を通して、なぎさとほのかの偉大さを実感し、二人に及ばない事を自覚しつつも、自分なりに強くなろうとしているのである。
「あの子はなぎささんとほのかさんの背中を追ってます。私があの時、レイブンズの背中を追っていたように。近頃の若い子は気概がないですね」
「それ言うようになると、貴方も歳取ったって言われるわよ?まあ、それには同意するけど」
事変世代かつ、プリキュアであった竹井醇子こと、海藤みなみは『近頃の若い〜』をテンプレート通りに言ったので、武子に苦笑される。彼女ら『事変〜大戦初期世代』は『電光三羽烏』(現・レイブンズ)を目標として育った世代である。電光三羽烏がレイブンズである事を知る世代でもあるため、基本的に精神的意味でタフネスを誇る。しかし、反レイブンズ教育がされた世代は前世代と鋭く対立しており、子供じみた反発とさえ言われていたが、海軍ウィッチ部門の最大の失敗であったと言わざるをえない。それが扶桑の内乱が起こる最大の原因である。海軍への懲罰も海軍航空戦力の空軍への取り込みの目論見にあると言えるが、それが頓挫したことで『齟齬』が生まれつつあるのがダイ・アナザー・デイ中の状況なのだ。
「601が空軍に行ったのは『懲罰』のつもりだろうけど、どうするつもりですかね」
「私達を当分は空母に載せるそうよ。ウィッチ組織も縮小される見通しだから、数百人を維持できれば良いほうよ。高練度ウィッチをパイロット兼任で維持するのがウチの政治的目的とのことよ」
「501を実質的に取り込んだ上で?」
「そうなるわね。ブリタリアが実質的にホスト国から外されたから、あそこは私達の行動の上での大義名分として使われるわ」
「ウォーロックの事への罰ですね?」
「形式上はカールスラントと共同だけど、あそこはドイツの進めてる軍縮で機能してないから、扶桑が好きに動かせるようになったから、扶桑の部隊と同義になるわよ」
「初期の混乱と、乗り気でなかったことでの人員転任の懲罰も入ってません?」
「イギリスのエリザベス二世陛下の意思よ。だから、権利が扶桑に移ったって感じ。美遊は形式上、スオムス在留の貴族の息女ってことになってるし」
「機材の融通が侘びのつもりと?」
「シーフューリーストライカーはまだグローリアスウィッチーズも受領してない最新鋭機よ?だから、それがウォーロック問題の侘びと受け取りなさい。あれでかなり賠償金払ったから、シービクセン改良型の量産が遅れたし、ストライカーの生産も遅れてるから」
「プロジェクトは人員確保が困難になる故に容認を?」
「転生前の記憶からして、ウィッチの確保は困難になるのはわかってる。だからこその貴方達よ」
武子はキングス・ユニオン内部での英国によるブリタリアとの政治抗争は英国が優位にあり、501の議長国の地位を扶桑に譲渡させ、ブリタリア空軍きっての精鋭部隊『グローリアスウィッチーズ』は縮小され、各地に隊員をバラバラに送り込む決定もなされた事、英国のエリザベス二世がブリタリアのウィンストン・チャーチルを動かした結果であるが、グローリアスウィッチーズの縮小と、501議長国の地位を降りさせる事を王室の威光で決定したに等しい。501への侘びとして、グローリアスウィッチーズに配備され始めたばかりの『シーフューリー』を美遊・エーデルフェルト用に送ったのは、ブリタリアの日本連邦への謝罪と受け取るべきであるという。また、クイーン・エリザベスU級の恩が日本連邦にある以上、強力なGウィッチである、美遊の優遇は当然の流れであった。ただし、皮肉なことだが、彼女の正体は『リネット・ビショップ』。将来有望とされたが、政治的理由で501へ送られていたビショップ家の息女の一人である。つまり、体のいい厄介払いとしていた者が強力なGウィッチとなり、ブリタリア関係者では、名うてとされるビューリングと並ぶ活躍をしていたことになる。疎んじた者が世界でも有数の俊英と評価を受ける。エリート思想が強いブリタリア空軍上層部には屈辱であっただろうが、美遊の正体が特級の軍事機密扱いであるため、家でも微妙な立ち位置であり、軍でも微妙な立場だったリネットとしての自分と打って変わって、貴族階級かつエリートのエース扱いの美遊としての待遇の差に、当人は皮肉交じりにぼやいている。ブリタリアはなんだかんだで階級社会なのだ。また、首都防空部隊のエースたちが次々と供出される形で各戦線へ送られることへの反対意見が英国の手で封じ込まれた(大将、中将の更迭と最前線送り)ため、ブリタリア空軍も政治的に混乱した。そのため、連合国は扶桑軍に『常任理事国の責任』と称し、軍事的負担の増大を求めた。それが上手くいかない状況がダイ・アナザー・デイであり、黒江がその分をプリキュアで補おうとしたのは当然の流れなのだ。(ブリタリアの疲弊、オラーシャの分裂、カールスラントの衰退が同時に起こった上、リベリオンの分裂が決定的になったため、ウィッチ世界の命運は実質的に唯一無二の疲弊度の低い大国の扶桑が握っている)日本の左派とドイツが連合国軍に『シロアリ』と揶揄されるのは、扶桑とカールスラントの軍事行動を押さえつけ、強引に10万、20万人規模の人員整理を軍備共々に行おうとしたからである。
――プリキュア・プロジェクトは扶桑のウィッチ確保方法が強引に狭められる上、『高齢化』と『世代交代』が大きく延びる事から、現在の中堅以下の世代にその事実を受け入れさせた上で、サボタージュで実働数が目も当てられない数に低下しているウィッチの存在意義を同位国にわからす意図も含まれている。自由リベリオンは扶桑の保護国扱いであるが、承認していない国のほうが多いため、書類上は扶桑への義勇兵と扱われている。そのため、シャーリー/北条響も書類上は扶桑軍への義勇兵と処理されている。いくらアメリカの圧力があろうと、ウィッチ世界のリベリオン本国にとっては『脱走兵』であるので、リベリオン本国からの報復措置を恐れ、自由リベリオンを国として承認しない国の方が多い。プロジェクトの承認は連合国のウィッチ組織の壊滅を防ぐのが目的に含まれる。(逆に言えば、既に軍籍を有していて、サボタージュに関与しなかった層のウィッチが優遇される流れができつつあると言える)64Fの編成凍結の解除と44戦闘団の強化はウィッチ組織解体の予防も兼ねた政治的決定だったのだ――
――64は機材の優遇が合法・非合法を問わず許されたので、宇宙艦隊を自前で編成可能なほどの豪華さを誇った。結成当初の時点でも、ラー・カイラム級機動戦艦、改アンドロメダ級戦艦を有し、強力な機動兵器をアナハイム・エレクトロニクス社とサナリィより多数を融通されている。この豪華さはロンド・ベルの指揮下にある故でもある。ロンド・ベル本隊から優秀なメカニックが派遣されている通り、地球連邦軍でも、なかなか見ない機体が回されている。文字通りに精鋭だけで固められたのは、パイロットと兼任可能なほどのパイロット訓練を受けた『世代』を意図的に集める意味合いも含まれていた。そこに自動的に配属されたプリキュアたちは高度な航空要員訓練を施されていくわけだ。(表向きは航空ウィッチであるための措置)歴代ガンダムの同型機や派生型などを有している事もセールスポイントである。人員にプリキュアを擁する事もそれに入る。しかし、初代がいないという点で『決定力不足』という声もあるのは事実で、のぞみはそれをひどく気にし、流派東方不敗を習うことも躊躇しない事に繋がるのである。日本で興りつつある初代プリキュアの神格化の風潮を『なぎささんとほのかさんは望んでいない』と否定しつつ、『なら、強くなります!』と場の勢いで宣言し、流派東方不敗に走るのは、根が一途なのぞみらしかった。それでいて、ちゃんと流派東方不敗を会得するあたりは主人公格の面目躍如である。休暇を利用して、戦闘スキルを向上させようとするあたりは彼女の気概だろう。武子とみなみは『素体になった中島錦の負けん気がのぞみを駆り立てている』と推測しつつ、それにはーちゃんとりんも付き合った結果、三人の戦闘力が飛び抜けて強化されるのである。キュアピーチが戦線を支え、キュアハッピーが日本で証人喚問をくぐり抜けている中、のぞみ(キュアドリーム)、はーちゃん(キュアフェリーチェ)、りん(キュアルージュ)は『プリキュアを超えるプリキュア』の扉を『明鏡止水の境地』と小宇宙への覚醒の二つで開くこととなる。
「あの子、タイムマシンを使うつもりかしら」
「そうでないと修行になりませんしね。ギアナ高地でもこもるんでしょう」
「お約束を。ずいぶん本式ね」
「ケイさんが噛んだようなので」
「あの子、武道は本格的にしてるのよね。ちゃらんぽらんそうなのに」
武子は圭子の現在の総じて奔放な振る舞いを『ちゃらんぽらん』と見ているらしいが、戦闘や武道に関しての生真面目さは評価している。カメラ小僧かつ武道の達人、二丁拳銃使い。圭子は戦闘面のスキルを伸ばし、性格面での温厚さを捨てた形だが、所々で元の温厚さの名残りを見せるため、黒江ほどストイックなイメージは持たれていない。智子ほど『とっつきにくい』イメージもない。そこが圭子の処世術の上手さの証明であり、現時点でのレイブンズの一番人気な理由だろう。(次点が黒江)
「ケイさんは処世術に長けてますからね。智子さんは、『昔の評判』が却って足を引っ張ってるから」
「綾香ほどストイックなイメージはないのが救いかしらね。智子も、本当はパニック癖ある、ただの中二病患者に近いんだけど」
「辛辣ですね」
「綾香より付き合い長いのよ?智子とは。あの子の秘密を握ってるって奴」
武子は酒が効いてきたのか、茶目っ気が普段より強まっていた。武子は酒を煽る事で、本来持つ生真面目さを解す事が目的なのか、ほろ酔い程度で勤務する日も増えている。
「どうするんでしょうね、ケイさんと綾香さん」
「フランスとギアナ高地でも往復して、子供達を鍛えるんでしょう。政治的なお膳立てはみゆき(芳佳)に任せてあるから、私達は官僚を黙らす『戦果』を出さないとね」
みゆき(芳佳)の政治手腕にかなりの信頼を寄せる武子。本質的に武人であり、政治屋でないのがわかる。黒江と圭子がプリキュア達を鍛えんと、ギアナ高地へ足を運んでいるのを早くも見抜き、戦果のことに思いを馳せるあたり、根っからのパイロット気質なのだろう。乗機にライトニングZ、ライトニングガンダム、ジェスタを選んである意外に堅実なセレクトや、前史と違い、乗機に『隼が羽を広げる』パーソナルエンブレムを持つようになるなど、エースパイロットとしての茶目っ気への理解も深まっている。(前史ではノーズアートなどの文化を敵の戦意のなさ、不真面目さと誤解するウィッチが海軍系に多く、坂本、武子自身もその一人だったが、今回は黒江が事変中の機体にシャークマウスを描いていた事をきっかけに、戦意高揚のために、その種の文化が容認される傾向がある)事実、64はその文化のメッカであり、黒江はシャークマウスと、剣と箒が交差するパーソナルエンブレムを、智子は雷と刀をモチーフ、圭子はある時期からは『柄頭が髑髏のカトラス』をモチーフにしたパーソナルエンブレムを持つ。ネームド(異名)持ちに仕立て上げたため、事変当時の参謀本部も戦中は黙認していた。戦後直後は国粋主義的風潮が生じ、海軍主導で『不謹慎な塗装の禁止』が通達された。その一時期は三人の記憶封印期なので、反論はしていない。統合戦闘航空団結成後の時代になり、世代交代で『ネームド持ち』が減っていたが、他国との均衡のために規則が緩和された。しかし、それが501の再編でトラブルにつながった。元々、パーソナルエンブレムもない扶桑のエースがカールスラントのエースに見下されるケースは存在し、505での黒江への冷遇で問題視されていた。特に、505での黒江への冷遇で愛鷹関連の賠償金が倍化したとさえ囁かれていたのと、ミーナの冷遇がバッティングする不幸があった。Gウィッチ化で免れた『二階級降格処分』はそのタイミングで生じた。また、ドイツによる撃墜数見直しの影響も重なり、覚醒直前のミーナはヒステリックに坂本へ小言を喚き散らすという醜態を晒し、見かねたラルとルーデルが一時的にミーナを隔離していた。覚醒は一時的に医務室に移した時に発生し、直後の陸戦で戦果を挙げた事で、事後に予定された処分が思い切り軽くなった。G化で実質的に別人となったため、処分しようにも、その大義名分が失せたためでもある。その流れでパーソナルエンブレムは黙認され、501を64が事実上、取り込んだこともあり、クーデターの事後処理の一環で内規が取り下げになるのである。坂本はこの頃、未来にいる孫娘に送るための手記でこうぼやいている。
「あいつの元々の人格には、追い詰めると石頭のクレーマーになる性質があったが、『あの時』ほど『不快な思い』にさせられた事はない。今の人格のほうが付き合いやすい」
と。あの坂本が手記であからさまに不快と書くあたり、相当にヒステリックになっていたのがわかる。坂本のタネ明かしを聞き入れずに喚き散らした事で、ミーナは坂本の人望を失った。坂本は黒江との、長年の友人としての友情を取ったと思われる三行半を突きつけたのだ。半分はケイの指令による行動でもあるが、愛想を尽かしかけていたのも事実である。その極大のストレスと、あるきっかけが眠っていた因子の覚醒に繋がり、西住まほとしての人格が主導権を握ったのである。二人の破綻寸前の関係の修復が成功したのは奇跡だとは、バルクホルンとマルセイユの談。まほは転生してからは、レイブンズへの『恩義』もあり、その実直で、寡黙な人柄が高く評価されていく一方で、シスコンというコミカルさで部隊員を掌握し、レイブンズに献身していく。ここより、まほはミーナの人格が残したものを使いこなしつつ、以前と全く別の人間関係を切り開いていく。また、『妹と弟子』がプリキュアであることに大きく喜ぶなど、意外にコミカルな人柄である事から、『ミーナ』の人物評をなんとか持ち直すことに成功する。また、西住しほをなんとか納得させるために、降下装甲師団に出向を考えるなどの『母親を怖がる側面』もある。その心配は、しほ自身の前世が『MSパイロットかつ、ニュータイプ。コスモ・バビロニアの後継者』であった事で解消され、逆に呆気にとられることになる。『カリスマ性は前世の出自由来ではないか?』と、星空みゆきは予測していたが、兆候を見る限り、まさにピタリであったのだ。その関係でMSの操縦技能は一級のままである事も予測されており、圭子は『クロスボーンX-3でも乗せっか?』と述べている。その逆に、未来世界のセシリーこそがしほの転生体であるのでは?という予測も菅野から出ている。どちらが正しいかは不明だが、ともかくも、有力な候補者である。ともかく、みほにキュアロゼッタの記憶が戻り、変身も可能とあれば、呼び寄せたいのが心情。まほはミーナの肉体でコミカルに困る様子を見せ、ハルトマンにからかられていくのであった。
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