外伝その293『序曲、太平洋戦争』
――ウィッチ世界のティターンズが長命を保った理由として、一つに地球連邦内部に生き残っていたパトロンの支援があったり、ネオ・ジオンが連邦軍の戦力を一定数削るために利用せんとし、一定の物資支援を行っている事、ティターンズがリベリオン本国を制圧し、一定の自給自足を達成し、更に現地の軍を掌握した事が理由であった。1940年代当時に世界最大最強を謳われた国家を掌握した事は、扶桑/ブリタリア同盟の落日だという識者も多かった。しかし、太平洋戦争の機運はダイ・アナザー・デイ当時から出始めており、世界秩序の書き換えを容認しない姿勢の連合国は必死に太平洋への戦力集中を始めつつあった。扶桑は枷を日本側にかけられた状況が、万博と五輪の両イベントの開催される1948年まで継続するため、太平洋戦争緒戦で不利に陥る事となる。艦艇や航空機、戦車の更新やウィッチ組織の再編、兵站管理体制の刷新などの改革の完了が間に合わなかったからだ――
――ウィッチ組織が改変、縮小されるのは通称、『MAT』。自衛隊害獣駆除部門の設立でウィッチの住み分けが始まっていた事、既にサボタージュしていた部隊の最先任者が人身御供として不名誉除隊とされたことで誘発された『恐慌』が加速し、部隊ごと移籍するケースが続出したのを受けてのもので、64は部隊の解散と組織そのものの再編で『行き場』を失った高齢の古参兵と将校の引き受け場の意味合いが持たせられている。自主的な移籍も含めれば、日本側の意図通りの部隊に早くも仕上がってきていた。黒江の立案したプリキュア・プロジェクトは防空との兼ね合いで限界がある古参兵の引き抜きと、現役世代がグウの声も出ないほどに古参が強いことへの妬みが内乱に繋がっている事を背景にして容認されたのである――
――戦線では、64隊長の武子がその階級により、実質的に501の最高指揮をも担当するようになったため、501は64の一部として扱われるようになった。扶桑が501を統制するに等しいが、連合国間の連絡が不安視された事もあり、武器は次第に米軍/自衛隊/地球連邦軍の三者のものへ統一されていくが、各国のトップエースを引き抜いている政治的な都合で、機体(ストライカー)のみは各国のもので妥協されている。連合国の勢力図が塗り替えられ、様々な勢力の援助を公に受けている扶桑皇国が事実上の盟主に登りつめ始め、カールスラントの失墜、オラーシャとガリアの疲弊、ブリタリアも経済力で陰りを見せ始めていた時代、ヒスパニアは政変で『あってないようなもの』であるため、扶桑に軍事力の負担を求める風潮は強い。だが、日本の左派に軍隊そのものが振り回され、扶桑へ生じた実害が大きいのが実情である。彼らの行動が結果的に、ウィッチの世代間対立を尖鋭化させ、古参の行き場が一部の精鋭部隊と軍学校のみしかなくなったのだ。軍学校教員からの抽出が封じられた以上、戦線の取り捨て選択でトップエースを最前線へ投入するしか選択肢が無くなったのだ。64にはそんな者が集まったため、本来なら戦線の要というべき各地のトップエースがゴロゴロおり、501の交代要員は結果としては確保に成功した。年齢層は20代と18歳までがむしろ多く、17歳以下の現役世代が少ないという事態にもなった。古参がフル回転で出動しているので、撃墜数はうなぎのぼりであり、数週間で数百の戦闘機、数百の艦爆、数十の艦攻を落としている。これは練度の高い人員が連携しての戦果であるため、武子も満足している。64そのものがロンド・ベルに組み入れられているため、地球連邦軍の編成にも名が載っている。地球連邦軍の戦いに従軍経験がある者も多いため、普通にスーパーロボットとの連携もできるし、智子のように、スーパーロボットそのもので戦う者も出ている。人員にロボットガールズ、プリキュアを内包した事もあり、フィールドを選ばない一騎当千を実現していた――
――戦場――
磁雷矢や宇宙刑事ギャバンらの遊撃行動、英霊達による猛攻、その英霊の力を行使できる者の攻撃、自衛隊や米軍の攻撃も物ともせずに侵攻を続けるリベリオン本国軍。リベリオンは中央政府の州政府への統制が緩くなりつつあるが、潜在的な人種差別を背景に、扶桑相手には比較的に統制が取れた行動を取れるらしく、既に数千人の死傷者を出していたのにもかかわらず、進撃は止まっていない。まったくピンピンしていると言える。兵器のキルレートは扶桑が圧倒的に優位であるが、中には数の優位で74式戦車を撃破する部隊も出現していたため、ガンヘッドを28歳のび太が統合戦争の時代から持ってくる事も行われた。日本にとっての最新型の10式戦車の出し渋りが起こったからだ。智子はそれに憤慨し、地球連邦軍の最新鋭試作戦車『22式戦車』の調達も検討するほどに戦車の不足が問題であり、16式機動戦闘車で補えるものではないと判断した。また、自衛隊は2007年からは『部隊使用許可』という形で装備品を採用していたが、『制式化』の言葉を欲しがる扶桑企業と扶桑軍との兼ね合いで、扶桑向けに『制式化』の文面の復活が成される。こうした政治的なやり取りが多いために『軍需品』の調達が遅れ気味であり、21世紀の新鋭戦車の10式の第二陣投入もなし崩し的に決まる。MSやVFなどの未来兵器が花形として活躍する中、『74式戦車が第二次世界大戦のM26に撃破される』光景は自衛隊の恥と見做されたからだ。実際、74式戦車と言えど、数で押す第二次世界大戦型の戦闘では『数的不利』が災いし、車体側面を攻撃されて撃破される事例は事前に予測されていたので、現場では特段、驚きは起こらなかったというが、沽券に関わると背広組が焦った事で、10式の大規模投入が容認された。陸は新兵器を出せばいいが、海はそうもいかない。陸自より、扶桑海軍のほうがよほどパニックである。雲龍型の陳腐化と空母の超大型化が起こったがために、空母の調達が控えられ、むしろ護衛艦艇の調達のほうが急務になり、高雄型重巡洋艦が旧式化していた事情、デモイン級の存在で『B65型超甲型巡洋艦』が復活したり、改高雄型軽巡洋艦が計画されるなどの影響が出ている。デモインは前世代の弩級戦艦に匹敵する攻防力があり、扶桑海軍を震撼させた。一夜にして、保有する重巡洋艦の全てが旧式化してしまったからでもある。ロンドン条約に縛られない設計であるため、高雄や利根を圧倒する性能がある。超甲巡が戦艦枠に入る動きもあるため、伊吹型を結局、改高雄として作る羽目になった。また、利根型重巡洋艦(史実と違い、乙巡のままだが、便宜的に重巡洋艦扱い)がヘリコプター巡洋艦へ改装される見込みであるため、デモインへのカウンターパートとしての甲巡が必要となったのが用兵側の都合である。このように、空母の量産が空母そのものの大型化と搭載機のジェット機化で不可能となったり、最新鋭機運用不能な軽空母の大半の解体、もしくは売却という選択が取られたため、空母の数そのものが大きく減り、超大型空母数隻、大戦型大型正規空母五隻のみの陣容(書類上)に落ち込んだ。量産が打ち切られた雲龍型は防空空母、ヘリ空母に転向したもの、輸送艦と強襲揚陸艦に変わった例も生じた。増備計画の変更で、船よりもそれを扱う要員の育成と搭載の増産に力が入れられたが、大型空母の多くは次世代のジェット戦闘機専用になっているため、雲龍型が10隻ほどが輸送名目で結局は前線へ駆り出された。要するに数合わせである。実際、正規空母として竣工させたら『軽空母』扱いで参戦に憮然とする扶桑海軍だが、華々しい艦隊決戦の場で存在感を見せる戦艦部隊と裏腹に、ウィッチ母艦から通常の航空母艦への転換が間に合わない4隻の雲龍型の艦上ウィッチは活躍の場がない上、戦死者も出しており、智子の足手まといとまで揶揄される現状である。その智子は光子力の制御で炎の翼での飛行を行えるため、空中元素固定による武器の生成との相性はよく、ロボットガールズと轡を並べての戦闘を可能にしていたし、のび太がドラえもんから預かっている『鉄人28号FX』を使って参加した事もあり、艦隊戦は連合艦隊に戦局が傾きつつあった。――
『超電導パーンチ!』
青年のび太が持ち出した最強の鉄人28号『鉄人28号FX』は初代28号の時を隔てた『兄弟』にあたり、超電導エネルギーで稼働する。デザインは時代相応にスタイリッシュであり、初代鉄人28号の面影はフェイスデザインなどに見いだせるのみである。鳥型支援メカと合体した状態で運用されるため、マジンガーZに近い印象さえ与える。歴代の鉄人で最強を謳われる通り、あくまで陸戦兵器の延長線上にあり、戦車の相手を想定した防御装甲であった初代28号より圧倒的に耐久性は上で、クリーブランド級巡洋艦の『Mk.16 47口径6インチ砲』12門の一斉砲撃を物ともせず、同艦級の艦橋をその鉄拳で倒壊させる。
「よぉし、のび太、その調子!」
「OK!」
タケコプターで飛行し、片腕にFXの操縦器『グリットランサー』を持つのび太は開いている左腕で智子へサムズアップし、FXを操る。FXはのび太の操縦でクリーブランド級を大破せしめ、返す刀でフレッチャー級駆逐艦を排除する。駆逐艦程度の火力ではかすり傷一つつかないのがFXの威力だ。連続パンチでフレッチャー級が浮き上がり、追撃のチョップでまっ二つにへし折られ、そのまま回転してひっくり返った状態で海面に叩きつけられ、弾薬の誘爆で大爆発を起こした。もはや、リベリオン水雷戦隊は統制された艦隊運動を取ることは不可能に陥っていた。鉄人28号FXは無線操縦ではあるが、その分、操縦者に身の安全を図る技能が要求されるマシンである。グリットランサーを持つために片腕が塞がるが、のび太は左でグリットランサーを持つので、銃を撃てる。そして、あることに触れる。
「こういう、ティターンズ残党の処理はプリベンターの仕事と被るんだけど、奴さんもあちこちで忙しいらしいし、僕が出張ったんだよね。本当は完全平和主義の実現のため、その維持のために作られたらしいけど、今じゃ軍部に疎んじられてる。アナザーガンダムが頑張ってるけど、予算自体は予定の八割なんだよ。だから、僕みたいな男が必要なのさ」
「大人になったらクサイ台詞回しするようになったわねぇ、アンタ」
「プリベンターの依頼も受けるしね、僕。いつもヒイロ・ユイ達がどうにかしてくれるとは限らないし」
「あそこも世知辛いなぁ」
「仕方ないさ。防衛軍の設立までは、あそこが兵器の維持管理をする手筈だったんだ。それが頓挫したから、軍部が疎んじるのも無理ないね」
プリベンターは当初の目的とは全く別の『大統領直属の情報部』という形で存在が許されたが、当初の目的の都合上、元OZ系MSやアナザーガンダムを擁するので、元々の諜報部や軍部と折り合いが良くない。現時点では唯一、ロンド・ベルのみが友好的であるため、プリベンターはロンド・ベルとその分遣隊に協力しており、黒江達の情報網の一翼を担っている。彼らは懸案とされるティターンズ残党の補給を断つため、アナザーガンダム達を用いて、元ティターンズ配下の工廠や軍事基地跡地の秘密工場の完全破壊を進めていたが、動きを先読みしていたティターンズのシンパらにより、重要物資とMSの移動は済ませた後であったので、後手に回った感は否めなかった。しかしながら、全く無駄ではなく、補給路を狭めるという点では効果はあった。それがティターンズの上層部に太平洋戦争を決断させる原動力にもなったからだ。実際、恐怖による支配は綻びを生むため、ティターンズはいずれにせよ、太平洋に打って出る事は覚悟していた。バダンの援助でリバティー、ガスコーニュを有した事も理由になるだろう。ちなみに、ティターンズとバダンが投入を見送った唯一のラ級が『インペロ』で、ベース艦はかのリットリオ級戦艦である。ベース艦の運の無さの懸念もあるが、船体下部の構造が他のラ級に比べて脆弱性を持つ事が判明していたからという。
「彼らの調べによると、リットリオ級のインペロがバダンの手でラ級化されたらしいけど、試験に使われてるだけだっていうんだよね」
「なんで?」
「たぶん、プリアーゼ式の水雷防御が机上の空論に等しかったっていう戦訓からかな?それに主砲口径さ。38cm砲じゃ、長門型を貫けるけど、大和には豆鉄砲さ」
「でも、ガスコーニュも似たようなもんじゃ」
「ありゃ、40cm砲さ。それにフランスのは性能がいいんだよね、砲のさ」
のび太の言う通り、ガスコーニュは主砲口径は平凡だが、貫通力などのスペックは高い。故障率が高いという論評もあるが、概ね、『長門のバイタルパートを貫く』とされる。そのことに触れる。
「攻防は悪くないんだけど、足が短いんだよね、あれは。ラ級化しても、どうにも弱いってのは、元々、地中海から出ないのが前提だからかもね」
「大和が異常なの?」
「少なくとも、数で優る米軍相手で、たどり着いた答えなんだよ。一発あたりの威力を上げるってのは。これは戦後には理解されないけどね。それに司令塔は46cm砲には耐えられないけど、40cmなら耐えられるって説もある。まあ、ラ號がある世界だと、普通に耐えられそうだけど」
大和型の防御は平行世界で差があるが、扶桑皇国を実は上回るのはドラえもん世界の大和型で、原型を保って沈没していたことからもわかる。宇宙戦艦ヤマトに改造できたのもそのためだ。ラ號の研究の過程で得られた成果を取り入れて改善が図られていたためで、坊ノ岬沖海戦でも、述べ1000機の戦爆連合の波状攻撃にも耐え、他の世界より航空機を多く落としている。ただし、後方第四副砲付近で爆発が起こったので、そこは折れていたが、それ以外は奇跡的に原型を保っていた。その原型の保ち度が時の連邦軍の目に止まり、波動エンジン艦に改造された理由なのだ。ラ號が楽に宇宙戦艦になれたのも、その優れた設計によるものだ。
「ところで、若い連中は何が不満なのよ?」
「それは巷で魔眼系最強とされる『絶対魔眼』を発動させた孝美さんを普通にワンパンできるからでしょ?クロちゃんが確かめたところによると、二年後、『向こう』の孝美さんが絶対魔眼しようとしたら、烈風正拳突きで気絶させて、強制キャンセルさせたみたいだし」
「あー……。やりすぎかな?」
「いや、あれは模擬戦にゃリスキーだしね。綾香さんみたいに、ライトニング系の闘技で心折るとか、のぞみちゃんみたいに、向こうが勝ちを確信した瞬間に変身して、続けざまにシューティングスターを決めるなんて、鬼畜の所業に比べりゃ…」
「あの子達は容赦しないから…。つか、錦の姿からメタモルフォーゼしたのかしら?」
「そのようだよ。それで反則だ、とかツッコまれてたとか」
「当たり前よ。空戦の実力とプリキュアの実力を両立してるもの、のぞみと響は。まあ、素体がエースだったから、だけど」
「普通にやって互角で、で、刀で負けそうになったらメタモルフォーゼして、シューティングスターだもの。向こうの錦さん、泣いてたそうな」
「そりゃ、ねぇ」
「イリヤと美遊に比べりゃ、マシと思うわ。あの子達は英霊の力と宝具を劣化コピーとは言え、行使できる。特に美遊なんて、芳佳とイリヤに何かあれば、エクスカリバーが飛ぶもの。あの子、アルトリアの力を好むみたいでね」
「それ、シンフォギア世界の皆に調ちゃんが言ったら、すごくツッコまれてたそうだよ。特に、英霊の力を得られる夢幻召喚なんて、向こうの常識じゃ測れないし」
「まあ、ガングニール万能の世界に近いから、あそこ。だから、綾香のエクスカリバーが如何に恐れられていたか、って話なのよね。エアなんて、あそこじゃ使わなかったっていうのは正解よ。世界そのものを斬るから」
二人は戦闘の意志を無くし、逃走するリベリオン水雷戦隊は見逃し、会話を続ける。その中で、今後、のぞみがやらかす事、イリヤと美遊の力でシンフォギア世界が震撼することなどが話題に上る。装者たちも強くなっているが、切歌が徐々に聖闘士枠へ移行していき、調に至っては『Gウィッチかつ、聖闘士』の二足のわらじを履くため、色々と大変なことになるのである。また、調はダイ・アナザー・デイ当時には既にS.O.N.Gから離脱していたし、普段からシンフォギアを展開する習慣があるため、元の世界に戻るつもりはない。その事は既に通達されている。また、黒江がエアを温存していたことに、雪音クリスと切歌(少女)が憤ったが、大人切歌が『じゃあ、エアで世界そのものが斬られてもいいのデスか?』と諌めている。響の一軒の後も、クリスや翼、マリアが協力しているが、少女の切歌は抗議の意図もあって、戦闘に参加していない。なのはの行為と、響の頑なさでお互いに気まずくなったのは否めない。ただし、リスク無しで自分たち以上の平均戦闘力を誇るプリキュアへの嫉妬も含まれているのだが。
「ま、この世界は基本的に、普通にウィッチしてるだけじゃ生き残れなくなったからね。マジンガーやゲッター、はたまたMSやVF。そんなのが飛び交うんだ。他の世界の子と模擬戦やりゃ、下手すれば、風のヒ○ーイと拳王くらいは差があるね」
「そりゃ、その気になりゃ、束になってもワンパンできるけど。それだと模擬戦になんないでしょ?」
「そりゃそうだけどね。まー、根本を言うとね。『世代が新しくなると、前世代の戦闘ノウハウを引き継いだ上での戦術を最初から教育されるから、前世代より基本ステータスで上』っていう認識が間違いの下だよ。ましてや、レシプロからジェットへの転換期を迎えた時代じゃ、ベテランも新兵も条件は同じさ。この世界での歴代ガンダムパイロット相当のポジションの貴方達を基準に考えるから、いけないのさ」
のび太の言うとおり、1945年はレシプロ機からジェット機への切り替えが始まる年である。他世界との交わりでそれが促された結果、各国の航空機開発計画は統廃合された。扶桑も史実の『橘花』、『火龍』、『梅花』などが計画の進捗度を問わず中止され、また、『ザラマンダー』をベースに開発されていた『単発噴進式戦闘機案』も安全性を理由に中止され、F-86、F-104などの『史実で名機』のジェット戦闘機の開発とライセンス生産にリソースが注ぎ込まれたが、自国製の戦闘機が作れなくなると危惧した技術者達がクーデターに加担するのである。そんな技術者達を満足させるため、震電のジェット戦闘機化は必要だったのだ。実際、『単発噴進式戦闘機案』は流線型の胴体の後部下面にエンジンを配置した設計で、当時の見識では先進的であったが、P-80の胴体内蔵式がその後のスタンダードな設計になるという衝撃、『安定が悪く、常に操縦桿で微調整が必要で、急な機動は不可能』というサラマンダーの欠陥がそのまま出るとされたことが致命傷になった。カールスラントは結局、『Ta183』のみがその後の時代に通用する戦闘機となってしまったし、扶桑も震電改の系譜のみが辛うじて生き残る。アメリカの技術提供はジェット戦闘機時代の到来をもたらしたが、結果として開発費の高騰と単価の顕著な高額化を進展させたため、財政的に苦しくなっているカールスラントは技術者の離散などで航空産業が衰退を始め、扶桑は他国製ジェット機に独自の改良を施す形で航空産業を維持し、ブリタリアもライセンス生産と独自改良で当座を凌ぐため、各国独自の設計でかつ、各国の個性を持つ機体が戦線に出ていたのは、この時期が最後になる。その事を悟った技術者の内、気骨ある者はコンペで落選したキ99のクーデター軍への提供に動き、『衝撃降下90°』を実践してゆくのだ。
「まぁ、ねぇ…。内乱、思ったより大きくなりそうなのよねぇ。不満持ってる技術者や技官が多くて」
「まあ、自分達が頑張って研究してたものが『勝てないから中止!』じゃねぇ。震電も780キロを出せるP-51Hには見劣りするし、上昇率が低いっていうデータもある。横空が反発するのは当たり前さ。ただ、機体を燃やすのはあってはならない事だから、太平洋戦争で最前線送りになって、多くが死ぬ羽目になるのさ」
横須賀航空隊は乙戦軽視や制空戦闘機至上主義を叩かれ、出身者の多くは禊と称した懲罰人事の末に太平洋戦争で戦死していく。それを二人は知っている。志賀はこの時期、黒江がのぞみに促されて、ストライカーの震電のガワをダミーと入れ替えていた事はもちろん知らされていない。黒江との対立が災いした形であるが、それを知る芳佳(みゆき)も『和解に必要なプロセス』ということで知らせなかった。
「志賀には悪いけど、海軍の美風ってのを空軍に持ち込まれても困るのよね。だから、敢えて震電のことを知らせなかったのよ。国の戦略にも反するし」
智子は志賀が海軍の美風と言い、陸軍出身のレイブンズが部隊内で大きい顔をし、撃墜王と触れ回る事に反対して自分達と対立し、源田が坂本を戻すことになったことに触れる。志賀の誤算は『電光三羽烏=レイブンズ』という事実を『対立し、転出願いを出す』時に知らされた事、横空の部下達が自分の不在時に機材を焼却してしまったことに他ならず、自分の軍内での立場が不味くなってしまい、それがもとで家族との不和まで生まれてしまったという不幸が重なった事だろう。
「志賀大尉は事変後第一世代だからね。信濃の飛行長が内定してたのが取り消されたことを根に持ってたんじゃ?」
「その線かしら?それとも、撃墜王ランキングの制定への反対?」
「海軍系はそういうのが面倒なんだよね。基準が明確化されるだけなのに、『個人戦果を記録し、それをもとに個人をたたえる習慣はなかったから』を振りかざすから」
「これだから、海軍の事変後の世代は面倒なのよ。外部に宣伝してるくせに、部内じゃ禁止するから」
日本により、海軍航空隊の空軍編入が内定していた理由は『しがらみを無くすため』であるが、軍事的には空海の一体化が目的に含まれていた。しかし、専門性の高さから、それが見送られ、空母航空団の再建に舵が切られた頃には、空母航空団の母体予定航空隊の空軍編入が終わった後であり、空母航空団の一からの再建と人員確保の確立に時間がかかることになる。また、黒江の505での事例から、エースパイロットには航空技能特優章の着用が義務付けられた。志賀は海軍航空優等徽章の引き続きの使用を進言するなど、文化面では頑なであった。結局、志賀のような中堅世代の『海軍の美風を守ろうとする』動きは日本連邦そのものに『害悪』と見做され、排除されていく。海軍航空隊冬の時代がこれから訪れるのである。(再建で記章などが改めて一から改定されたため、志賀の願いは打ち砕かれた)
「本当、改革には出血はつきものなんだから」
「日本のほうが狼狽えてますよ。拳銃なんて、1000万人以上の軍人の登録をしないといけないんで、POSを動員しても5年はかかるし、新しく将校になる連中に支給する銃器を回さないといけなくなるし」
軍の拳銃を一括管理しようとした日本だが、元々、私費で購入した拳銃を使用するのが将校のステータスであった扶桑では、ブローニングハイパワー、ベレッタ、ガバメントという具合で銃が混在しており、私費で購入したものが大半であった故、すべてを買い上げて、P220に統一するには無理があった。将校のステータスという事情と、『全ての登録完了までに5年近くの月日を要する』という事情もあり、『今後、将校になったら、拳銃を購入する際に新規登録手続きさえしてくれれば良い』という落とし所で決着した。弾薬の規格は概ね統一されていた事、ある世代以前のウィッチは護身用武器を軍刀と併用していたからである。軍刀は扶桑独自の精神的支柱であり、また、名を成した古参ウィッチの象徴でもある。黒江、赤松は自衛隊の勤務であっても、2005年以降は持ち込んでいる。身分のカミングアウトで勤務中の帯刀も許可(刀袋に入れる形で)されている。帯刀はしばしの間、扶桑出身者である事を示すシンボルとして機能した。(日本連邦軍設立後は自衛隊員にも、風土の関係で現地での帯刀は許可されたため、扶桑駐在の自衛隊の幹部自衛官は帯刀している。)
「そうなのよねぇ。今だけで数百人の候補生が航空分野でいるし、陸じゃその3倍はいるわ。その子たちがみんな将校になったらどうするのかしらね」
「まあ、坂本少佐も困ってる。みんなが兵学校と陸士から入ったわけじゃないし、数年伸ばしたところで、いずれは少尉だしね」
ウィッチ候補生には陸士と兵学校を修了した者だけでなく、訓練学校からの持ち上がりや普通学校からのスカウトも相当数存在する。また、普通学校からの将校引き上げによる余剰のウィッチ出身を含めた将校の予備役編入問題や訓練学校の軍機関編入による在籍生徒への救済措置など、日本が自覚して初めて、対応が協議された問題も多い。それを考えれば、現役将校、もしくは将校に任じられたものにプリキュア出身者が出たのは、むしろ幸運であると言える。在郷軍人会にいるウィッチ出身者を中心に、教育課程の再延長と、実働部隊の年齢層の高齢化を促進させる施策に反対論が強いのも、ジュネーブ条約の制約を受けることになった軍を悩ませている。プリキュア・プロジェクトはそんな軍部には希望の光であった。この時の候補生の世代が、結果としては旧体制下最後の候補生であり、従来通りの期間で下士官に任ぜられた者達だった。その中にはのぞみの素体になった中島錦の妹である疾風の姿もあった。のぞみは『卒業が転換までに間に合うか』と心配していたが、疾風の一期後の世代からが教育課程延長対象になったため、運が良かったのだ。これはダイ・アナザー・デイで現役ウィッチのサボタージュが問題になっていたのと、各戦線のベテランが64に集められたため、各戦線から欠員補充要請が出ていたからで、些か強引な手段であった。また、南洋島に軟禁状態の明野飛行学校の教員/助教らをバラバラに各戦線へ送り込むのも実行されたが、彼女達は数週間も軟禁状態にあったため、日本に不信感を懐き、その仕返し代わりに、64に志願する者も続出した。内乱と太平洋戦争に至る伏線はこの時、既に存在したと言っていい。
――64Fは30世紀のキャプテンハーロックとも友好関係にある。その関係で宇宙艦艇の独自強化に努め、政治的理由で本国艦隊をお払い箱にされた改アンドロメダ級戦艦に独自の改修を加えており、30世紀製波動エンジンとメインコンピュータ、同時代最強の『パルサーカノン』へ強化している。アンドロメダ級はガイアのヤマトクルーの提言を期に、『前衛武装宇宙艦』共々に政治的に嫌われ者になり、アンドロメダ級はデザリアム戦役で退役の手筈になったが、反対論も多かった。その関係で64Fへ供与されたのがネメシスだ。供与を良いことに、30世紀でアンドロメダの末裔として存在する『エクシード級』の部材で改造された。浮きドックで独自改修されている同艦はハーロックがもたらした30世紀の最新技術で改修され、デザリアム戦役時点の宇宙戦艦ヤマト(オリジナル)を圧倒的に超える性能に飛躍した。また、エクシード級の部材で改修されたため、艦影も変わっている。艦艇部材の規格は銀河大航海時代からの700年間、素材の性能向上はあれど、大まかには変化していない。ハーロックは除隊しているとは言え、元・アースフリートの大佐である。もちろん、アースフリートに多くの同期が残っており、部材のちょろまかしなどは容易だ。23世紀にいるハーロックの先祖を通しての部材供給であるが、潤沢に提供されている。波動砲も時代相応にパワーアップしており、事実上は別艦に生まれ変わった。Gヤマトとの連携のためでもあった。艦載機も30世紀の技術で強化され、その技術はロンド・ベル全体に伝わっているため、30世紀からどんどん技術が流れ込み、改良が施されている。宇宙戦艦ヤマトの改装もプランが変更される見通しである。ハーロックがもたらした超技術はアースフリートの強大化を推し進めたが、疑心暗鬼のネオ・ジオンの過激派とヌーベル・エゥーゴの暴走を招き、ムーンクライシス事変の引き金となってしまう。結果として考えるなら、ヌーベル・エゥーゴの指導者『タウ・リン』は一年戦争時にジオンで生み出された初期の強化人間であり、歳相応に冷静な男を装っているが、連邦もジオンも憎むという過激な思想を持つ男が招いた事変であった。
『お前たちは理想やイデオロギーで人を殺すウジ虫共だ!』
連邦もジオンも、ヒステリックに罵るところは強化人間以前に、彼の歪んでしまった人間性そのものだった。また、強化手術による恩恵で、戦闘能力は生身でも、歴代プリキュアを3人まとめて相手にできるほどのものであった。歴代でも戦闘能力が高いドリーム、ピーチに加え、メロディが束になって挑んでも、それぞれの攻撃をいなせるほどで、ジオンの強化人間技術の起源の証明であった。
『俺は連邦もジオンも関係なく踏み潰す、俺の意思でウジ虫共を!小娘共にはわかるまい!』
ムーンクライシス事変の首謀者『タウ・リン』の望む、『この世への復讐劇』。それが月を爆破しようとする計画の真意だった。彼を評するならば、歪んだ復讐者。彼の計画の事前準備と予行演習で引き起こしたフォン・ブラウンでの爆破テロに夏木りんが巻き込まれ、生死の境を彷徨うことになった事もあり、のぞみ、ラブ、響の三人はムーンクライシス事変に深く関わっていく。りんがテロで瀕死の重傷に追い込まれた事で、怒りに燃えるのぞみが引っ張る形でプリキュアの介入を招いた事はタウ・リンのミスであった。
『あんただけは絶対に許さない!!』
ムーンクライシス事変で彼が招いてしまったほんの小さなミス。それはりんという幼馴染が、瀕死の重傷を負ったことに愕然としたのぞみが無残な姿の幼馴染の惨状に完全に切れたことだった。集中治療室に運び込まれ、予断を許さない状況のりん。知らせを受け、フォン・ブラウン中央病院に駆けつけた三人が医師から聞かされた事は『発見時、誰かへのプレゼントを守ろうとしている態勢で発見された』という事であった。奇しくも、その日はのぞみの生前の誕生日であった。更に、運悪く、タイムふろしきでの治療が不調であり、傷は治ったが、自分がプリキュアであった事、のぞみと幼馴染であった事を健忘してしまった事がのぞみの爆発の要因だった。診断は『爆発のショックと、タイムふろしきの不調での解離性健忘症』。発見された時に持っていたプレゼントは手製のビーズだった。手紙と共に箱に入っていたと医師から告げられ、崩れ落ちるのぞみ。それを支えるラブと響。のぞみは医師の治療と、りんとの絆に一縷の望みを託し、ムーンクライシス事変に関わっていく。
『思い出は無くならない!必ず思い出すからその時まで私は戦う!仲間を傷付けられた借りは必ず返す!!』
その言葉に付き合うことにしたラブと響。事を知ったはーちゃんも加え、ネオ・ジオンとヌーベル・エゥーゴに立ち向かっていくのだった。その宣言の瞬間、のぞみに小宇宙の気がうっすらまとわりついているのが見えた。もっとも高温の炎である青の炎。智子とよく似たオーラであったという。
――こうして、64はダイ・アナザー・デイの後に起こる太平洋戦争、ひいてはムーンクライシス事変を睨んでの動きを加速させていく。歴代プリキュアの処遇も徐々に決まり、扶桑本土の厚木で錬成を開始した林大尉率いる『天誅組』、ダイ・アナザー・デイで戦う『新選組』、『維新隊』。64はその体制づくりを終えつつある。だが、その強大さを『特別扱い』と見て反発する海軍系ウィッチのクーデターも控えており、日本による粛清人事も起こるのは確実な情勢なためもあり、ダイ・アナザー・デイを終えても、部隊規模では休めないのは確実であり、多忙を極めるのであった。――
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