外伝その295『戦う君は美しい』
――連合軍の攻勢が制限されたのは、連合軍の指揮系統に21世紀の各国が干渉しあった上、ダイ・アナザー・デイに供するための兵器を21世紀基準に引き上げようとしたからである。これは日独に強かったが、独は陸空は第二次世界大戦では基本性能は最高クラスであったし、日本は日本で、四式中戦車や五式中戦車の生産が成功していたのである。日本はむしろ制服組と背広組の抗争が見るに耐えないレベルであり、野党も巻き込んだ結果、機甲兵器は74式までを造らせつつ、四式と五式のキメラをハイアンドローの要領で造らせる事で政治的に妥協した。ウィッチの雇用維持が正式に決められたのも、この決定と同時のことである。ウィッチを科学で排除しようとしても無意味であった。21世紀の裏社会では、むしろ、魔術師がゴロゴロいるし、何よりも、現地では、時代的に軍隊への志願こそが、貧困層の少女が高学歴と高収入を得られる唯一無二の手段である事だった。また、若くして軍隊に行くことはデメリットも多いが、現地社会で『勝ち組』とされる事が最大のメリットである。ウィッチ部隊には、歌で怪異を鎮め、周囲を癒やす専門部隊もいるが、その部隊を軍がわざわざ維持する意義でいらぬ議論まで交わされた。結局、日本が求めたのは、自分達の裏社会で暗躍する高位の魔術師に比肩するようなインパクト。英国の吸血鬼、あるいはバチカンの切り札の裏組織の持つような高い戦闘力でしかなかったという事になる。実際、ヒーリング能力程度であれば、戦時中の零部隊にも複数が確認されていたため、『専門技能』にするためには『特殊部隊以上の戦闘力』を必須と考える背広組がが多かったからだ。これに最初から該当するものは『精鋭中の精鋭たるGウィッチ』のみであるし、何よりも、慰問専門部隊のルミナスウィッチーズの立場がない。同隊も当初は解散する見込み(人員を広報部門に統合)であった事も、通常ウィッチの恐慌を煽ったのは間違いない。戦闘専門にウィッチの雇用の粗野を日本の背広組が狭めたのが、46年からのMATの肥大化に繋がるのである。――
――基地の医務室――
「いつつ……プリキュアになってなきゃ、死んでたよね、あれ」
「うん。あいたっ、みゆきちゃん〜、包帯もっと優しく締めてよ」
「打ち身してるんだし、固定しとかないとね。ま、いきなり元斗皇拳や北斗琉拳に出くわすよりは幸運なほうだよ。流派東方不敗でも修めるか、機神拳を覚えて、それを草薙流と組み合わせるか。まだ、セブンセンシズの感覚に体が慣れてないんだし、あまり無茶しないほうがいいよ」
回収されたのぞみとラブの二人は、基地の医務室で治療を受けていた。それと同時に、単にセブンセンシズを覚えるだけでは、混沌とした状況の慰めにもならないことを、星空みゆき(宮藤芳佳)はハッキリと告げる。実際に二人より先にセブンセンシズに至った調は、忍術と体術を極める事で、引き継いだ技能をモノにし、SONGからの離脱を引き留めようとした切歌(子供)を振り切り、聖闘士になった後の大人切歌と合流し、聖闘士として戦い始めている。のぞみはせっかく覚えた草薙流を出す間がなかったのが悔しいようだが、素のスペックが戦闘者として『格落ち』なのを実感したようだ。
「でもさ、闘気の制御って難しいよね」
「な〜に、日々の鍛錬次第さ。人には秘められた未知のパワーがあるのは分かってる。光戦隊マスクマンや五星戦隊ダイレンジャーはそれを引き出してた。彼らにできて、あたし達にできない道理はないね。」
ダイレンジャーとマスクマンを引き合いに出すみゆき(芳佳)。
「あいつらみたいなのはゴロゴロいることは分かってるから、手を打たないと。このままじゃ、プリキュアの名折れだよ、のぞみちゃん」
ラブが真剣な顔でいう。
「分かってる。なぎささんとほのかさんがいない以上、私達でプリキュアの看板を支えないといけないんだ。咲さんと舞さんもいないし……」
「せめて、私達がフルメンバーなら、ね」
「うららとくるみ、美希ちゃん、ありすちゃん、マナちゃん、やよいちゃんは別の世界に転生してるけど、まだ来れないらしいしなぁ……」
「せめて、せつなやエレンと連絡が取れれば……」
「せつなちゃんとエレンちゃん、どこで何をしてるんだろう……」
「前のときは気にしてなかったけど、せつなは故郷に帰ったしなぁ…。いくらアカルンの力でも、遠い次元までは飛べないだろうし……」
ラブも気にする、東せつなのこと。東せつな/キュアパッションはもともとが敵の幹部であり、そこから『アカルン』の力で転生する事で生まれたプリキュアである。また、黒川エレン/キュアビートも似た状況でプリキュアに覚醒している。平行世界を飛べる力を有してはいるが、『地球』の派生に当たるとは言え、遠く離れた世界へ飛べるのか?これにはラブも確証は持てなかった。
「連絡の取れた六人は、大洗女子学園の廃校を撤回させるための大学選抜との試合の準備もあるし、この作戦には来れないって連絡が入ったよ。せつなちゃんとエレンちゃんが、こっちの『SOS』をニュータイプみたいに感じ取ってくれるのを祈るしかないね」
「うーん。はっきり言うねぇ、みゆきちゃん」
「事実は事実さ。はーちゃんは療養中だし、これから、りんちゃんと話し合うしかないねぇ」
「くぅ〜。先輩達は今頃、好き勝手やってるっーのに…」
「あの人達は転生を繰り返してる分、戦闘力は群を抜いて高いからね。ライダーや戦隊と一緒に戦えてる時点で、ね。それに、一人の枠であまり考えすぎるのも良くないよ〜?それに空中元素固定をもっと使いなよ。あの人達は能力をフル活用して、武器作ってるんだしさ。それがもとで迫害されたけどね」
「映画じゃわざと変えてあるあるけど、先輩達、ゲッタートマホークだとか、ショルダースライサー、エンペラーソード使ってたんだよなぁ。上に疎んじられるはずだよ」
のぞみの言う通り、今回のレイブンズは記憶の『封印』を見越して、事変で『ド派手』に暴れた。最終決戦の折、黒江は『オレオールブースターG』、智子は『カイザーノヴァ』、圭子は『ストナーサンシャイン』と『シャインスパーク』を撃った。その事が記憶封印期の迫害に繋がったが、結果として、『超強力なウィッチがいる』と認識はされた。その認識がGウィッチの概念の起源にあたる。Gウィッチでは、黒江が最も空中元素固定を使いこなし、エンペラーソード、天空剣、断空剣などを聖剣と使い分けている。そのことを思い出す。
「あの人達みたいに、外聞をかなぐり捨てて、はっちゃけらればいいんだけどね。プリキュアとしての外聞をかなぐり捨てて、思いっきりガチバトルとか」
「今のままじゃ、それを出来る実力もないから、鍛えるっきゃないよねぇ、もっと」
「それには特訓あるのみだぜ、ガキ共」
「あ、黒江先輩」
「今の混沌としとる状況を生き延びるには、流派東方不敗の心得を持つことが最低ラインだ。それに、お前らの素の必殺技も強化せにゃならん。世紀末拳法が確認された以上、下手したら、南斗六聖拳、はたまた、北斗琉拳に元斗皇拳とやり合う羽目に陥るからな。世紀末救世主が助けてくれるとは限らないし、最低でも気の制御は完全に身につけろ、いいな」
「五星戦隊ダイレンジャーや光戦隊マスクマンみたいに、ですか」
「そうだ。…ん?おい、のぞみ。お前の現役時代の頃は獣拳戦隊ゲキレンジャーがいただろ?この種の最新だし」
「だって、世代じゃないもーん…。わたしの頃はダイレンジャーかマスクマンですよ、拳法のスーパー戦隊」
「そいや、お前とラブは平成の始めの頃の世代だったな。亮さんとタケルさん、喜ぶぞ」
のぞみとラブは2000年代後半に14歳であった世代であるので、黒江が引き合いに出した『獣拳戦隊ゲキレンジャー』を世代ではないと言い切る。のぞみは『五星戦隊ダイレンジャーのほうがピンと来る』というのは、後輩達の台頭に危機感を感じていたダイレンジャーのリーダー『天火星・亮』が諸手を挙げて喜ぶだろう。また、光戦隊マスクマンの名も出したあたり、存在を知っているらしい。
「それはいいんですけど、先輩、慰問専門のルミナスウィッチーズが解散って?」
「日本が専門技能として認めるに当たっての条件に出したのが、『SATやデルタフォース以上の平均戦闘力』だ。慰問専門部隊の連中は、未来世界の歌姫か、俺達でおおよその代用が聞くのは事実だし、部隊編成までして維持する必要性が見出されなかったのさ。ただし、メディックの需要はあるからな。見込みってだけで、正式にはまだわからん」
連合空軍は『ルミナスウィッチーズ』という慰問専門部隊を元から有していたが、戦闘要員の士気高揚に使えない(要はミンメイアタック要員)事により、ダイ・アナザー・デイには動員されず、シャーリーが美雲・ギンヌメールの代役を演ったり、素養を持つ艦娘たちが動員されているのである。魔力による効果はともかく、未来世界で戦争の戦局を左右するとされる、『チバソング値』そのものはさほど高くなかった事も、ルミナスウィッチーズの不幸であった。(数値的には『一般的な上手い歌手』の粋を出ないもので、軍事的に影響はないレベルでしかない。その数値では、Gウィッチのシャーリー、黒江、調でおおよその代替が効いてしまう程度。)同隊はウィッチ閥の意見具申のおかげで、部隊編成は一旦解かれるものの、人員は通常の音楽隊の一員という形でひとまずは温存された。治癒呪曲という存在意義の理解が得られなかった事、日本の官僚の基準がリン・ミンメイのそれであり、チバソング値自体は高められることを知らなかった故の行き違いであった。上層部の要請を受けた黒江から連絡を受けたDr.チバの提出した『呪曲の運用に特化しているためCSpは低いが呪曲自体の効力はスピリチア回復以外にも肉体的治癒力の増強が期待でき、複数の歌唱者によるブーストも認められる。この部隊の人員は分散させず運用し、更にボイストレーニング等歌唱指導を行う事でCSp上昇を促し更なる力を導ける事でしょう』というレポートと、前線部隊の嘆願で解散は見送りになり、45年より数年後、九条しのぶとしてのサーニャは最終的にそこに配属されるのである。(ただし、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとしての活動と並行するため、501/64にいる時間のほうが長いのには変化はない)
「そのおかげで、響(北条響の事)は大変だぞ。あいつなんて、プリキュアとしても音楽に関係してるから、今日はキュアメロディの姿で『ワルキューレはとまらない』を歌ってるぜ」
「え、本当ですか」
「ほれ」
「本当だ……」
「アコちゃん、ノリノリだなぁ。フランスの英霊が前世で、そのまま転生したっていうけど」
キュアメロディのバックダンサーをしている調辺アコ/キュアミューズは英霊とプリキュアの二重属性である。アストルフォの転生体であり、現時点での自我意識はアストルフォのものであり、素体がロボットガールズという贅沢な転生をした。英霊では一番に現代を満喫している人物で、プリキュアと英霊を兼任して活躍中である。前世は中性的な体つきであったものの、れっきとした『男性』であったが、今回はロボットガールズのVちゃん(コン・バトラーV)を素体に転生したので、名実ともに女性である。また、キュアミューズになったので、キュアミューズの姿でアストルフォとして振る舞う姿も見られた。キュアミューズとしては、小学生プリキュアだったので、精神年齢はアストルフォとしての大人びたものに上がったものの、自由奔放さが加わった。また、キュアミューズの姿でもロボットガールズの力を使えるという反則ぶりに、ジャンヌが膨れている。
「アストルフォの奴、ああ見えて現代を楽しんでるぜ?アストルフォの姿で、ファストフード店でバイトしてたし。ジャンヌがやさぐれそうになったけど」
「……いいんですか、それ」
「ま、アストルフォの奔放さとノリの良さがそのままだから、付き合いやすくなったとは思うぜ?ペリーヌがもし、キュアスカーレットだったら、ますます面白いけどよ」
「あれ、モードレッドさんと二重人格ですよね?」
「ああ。たぶん、プリキュアの因子が覚醒すりゃ、入れ替わり立ち替わりするだろうな。プリンセスのプリキュアが竹井一人だけってのはないだろうし」
「そもそも、ペリーヌはモードレッドとの統合を阻むくらいの魂の馬力があるんだ。プリキュアの転生でもなきゃ、説明つかねぇよ。いくら強くても、愛国心だけで自我は保てん」
「確かに」
キュアメロディとキュアミューズの『仕事』をタブレットで確認しつつ、圭子がデューク東郷に協力する形で不在なのを補うため、智子と黒江は多忙であった。黒江は休暇明けでまだいいが、智子は休みが未だに取れていないので、愚痴っている。
「ま、特訓は後でしてやる。まずは怪我を直してからな」
「うーん、敵が世紀末系で来たのなら、私達は何で対抗しよう……」
「ま、考えられるだけのもんは仕込んでやる。それと、のぞみ。お前は草薙流を使いこなした上でな」
「先輩は武術になると厳しいなぁ」
「武術に近道はないぜ。何事も精進だぞ。生前、部活追い出され王って言われてたの忘れてないだろーな、おい」
「うぅ。それは無しにして下さーい…」
黒江は一応、のぞみに釘は刺しつつも、何事も精進だと教えを説く。武術を修める者としては当然であった。この時から、のぞみたちは世紀末系拳法に対抗するための術を模索し始める。怪我を治しつつ、『気』の制御法を光戦隊マスクマンと五星戦隊ダイレンジャーから教わり始める。切羽詰まった中での特訓だったが、特にのぞみ、ラブ、響の三人は前衛を務める事が多いため、死ぬものぐるいで覚えようと必死であった。その特訓は過酷を極めたが、各自に相応の努力を払ったのもあり、黒江の予想以上の効果をもたらした。敵の兵站拠点化した『リスボン』への攻勢が全軍に布告される日には、初代プリキュアの二人に引けを取らないだろうとの評価がヒーロー達に下されたという。(ただし、のぞみが後に、一時でも荒れた原因は、りんがこの時に修行に付き添ってくれていたからで、のぞみはりんの存在を大事に想っていたかがわかる)また、主に修行をつけた者が『リュウレンジャー/天火星・亮』(五星戦隊ダイレンジャー)であったり、既にゲッターの使者化している圭子だった都合で、ものすごい修行を受けた『竜の戦士』に存在の位が昇華したのぞみとラブ、響の三人は、プリキュアとしては最初にセブンセンシズ以降の領域へ足を踏み入れる。三人は元々の高い素質に加え、タイムマシンフル活用で年単位の時間を費やしてのギアナ高地、モニュメントバレーでの血の滲むような努力の果てに、気の完全制御に成功。圭子の遊び心もあり、三人は流派東方不敗に加え、『機神拳』を習得。ラブは『真覇剛掌閃』を得意技とし、響は『轟覇機神拳』、のぞみは三代目リーダーの責任感と、背負う想いの重さからか、習得度が極奥義『真覇猛撃烈破』にまで到達し、『皆伝』に至ってしまう。これには圭子も驚愕したという。『属性に凝り固まるな』とは黒江の言葉だが、初代の二人を意識する事で、自分を奮い立たせて、そこまでの習得に至ったのは、紛れもなく、のぞみの努力であった。
――ちなみに、機神拳とは、レイブンズがのび太の時代でプレイしていたゲームに登場する拳法で、その実践を三人は気を練る事ができた関係で『可能』であったため、本当に出現させてしまった。遊び心で三人のプリキュアに仕込んだのである。プリキュアであった関係か、現実と架空の垣根は瞬く間にぶっ飛び、三人は本当に機神拳を習得してしまったのである。圭子も黒江もこれにはびっくりであった。最初に極奥義に至ったのぞみは、まとめ役の責任感と初代という偉大な二人の存在が原動力である事を公言しており、黒江は、普段は能天気なのぞみを駆り立てるほどに、初代が如何に反則じみているかを考察したという。その成果の一端は派生世界で見られ、派生世界の自分自身と別れる日に極奥義を披露。その世界の自分達の敵『エターナル』をして『白い阿修羅だ』と恐れおののかせるほどの阿修羅ぶりとなった。
『別れる前にいいモノを見せてあげる。わたしがハイパープリキュアって呼ばれるようになった所以を!!』
色々な想いで壁をぶち破った末に会得した『極奥義』。もはやプリキュアでありながら、それと異質の力を制御した。それを示す。
『真覇極奥義!!うぉぉぉああああっ!』
プリキュアとしての力と異質の気を高ぶらせ、気でできた双竜を放ち、フィールドを形成し、相手を包み込む。次いで、シャイニングドリームとしてのスピードでラッシュを行う。そのラッシュが凄まじいため、息を呑む派生世界のプリキュア5。特に、阿修羅と化した自分自身を目の当たりにしたのぞみ自身は茫然自失だ。フィールドの中で響く打撃と雄叫び。自分と別の道を歩んだ自分自身を否応なしに見せつけられる。
『真覇!!猛撃烈破ぁぁッ!』
フィールドを飛び出し、竜をそのまま纏ったシャイニングドリームが渾身の一打を決める。柔和な雰囲気のシャイニングドリームとかけ離れた『阿修羅』の如き一撃。事情を唯一、知らされていたキュアアクア/水無月かれんは『修羅になるしか道が無かった』シャイニングドリームへ哀しげな表情を見せていた。
(それが貴方に残された道なのね、のぞみ。ここにいる貴方自身と違う道を辿り、世界の残酷さを知ってしまった故に、踏み入れたのね、修羅の道に)
「修羅の強さは愛の強さ、愛するが故に磨きあげられた到達点なのね…」
そう独白するキュアアクア。彼女はこの時に決意を固めた。転生する決意を。シャイニングドリームとフェリーチェはその『種』をまくためにやってきた事を派生世界のプリキュア5で唯一、理解していた。阿修羅の如きシャイニングドリーム。愛するが故に強くなった。その時点での悩みをアクアに打ち明けていた故の独白だった。派生世界ののぞみ自身は、あまりにも違いすぎる自分の姿に茫然自失としていたし、他の二人も似たような状態であった。その本質を知るアクアの憂いの表情。それに気づいたのは、彼女の親友であるミントだけであった。
「どうしたの、アクア」
「ミント、私、決めた事があるの。後で来てくれる?三人には秘密にしておきたい事。あの子にまつわることなの」
それはシャイニングドリームとフェリーチェの要請に何らかの形で応える事を意味していた。シャイニングドリームが抱えこむ闇を知ったがために『してやりたいこと』。アクアはシャイニングドリームの故郷の自分は何をしていたのかと誹りたくなったともとれる行動であった。シャイニングドリームとしても、過去の時間軸の自分に知られたくない事は多い。そのため、滞在中、過去の自分自身とはあまり話していなかった。シャイニングドリーム達がアルカディア号一号艦で帰還する2時間前、かれんはこまちにシャイニングドリームに覚醒した世界ののぞみの事を知らせ、二人は話し合った末に、はーちゃん(花海ことは)に決意を伝える。
「――私達と行くんですね?」
「タイムマシンにワープ機能があるなら、いつでも戻れるでしょう?あの子が抱えている闇をどうにかしてあげたいの。お願い」
かれんは闇を抱えている大人ののぞみが心配なようだった。こまちも同様の思いらしき表情だ。はーちゃんがボレット1号のキャノピーを閉めようとしたその時であった。14歳ののぞみが引き留めようと現れる。
「待って!!」
「貴方……、家に帰ったんじゃ!?」
「どうしても気になって、急いで戻って来たんです。かれんさん、こまちさん!どうして、どうして、そんな戦闘機に乗ってるんです!?」
「ごめんなさい。貴方自身のためなのよ、のぞみ」
「あの子に何があったのかはわからないけど、なんで、『ついていこう』ってなったんですか!?教えてください!」
「ごめんなさい、のぞみさん。あの子はあなたが最悪に近い場合の道を辿った貴方自身なのよ」
「何が何だか、わからないですよっ!!そのわたしは、ここにいるわたしじゃないんですよ!どうして……」
「…決めたの。あの子を救えなかった別の自分自身にケリをつけたいって。あの子は、貴方なのよ。私達が大人になって、選択を間違い、お互いにボタンを掛け違えてしまった世界の!」
かれんはその旨を14歳ののぞみにはっきりと告げる。あまりの衝撃で茫然自失になる彼女の隙を突く形で、はーちゃんはキャノピーを閉め、エンジンを始動させる。不整地での垂直離陸が可能なボレットは、14歳のぞみが我に返った瞬間には垂直離陸を開始していた。のぞみは慌てて追いかけようとするが、機体が離陸し、機影が消えた瞬間、へたりこんで泣きじゃくる。……のだが。その次の瞬間、タイムマシンの織りなす奇跡に、彼女は茫然としてしまう事になるのだった。
――ダイ・アナザー・デイの反転攻勢の第一陣『リスボン攻略』。欧州最大級の港を抑え、ティターンズとリベリオン本国軍からイベリア半島の制海権を奪う戦力をつぎ込み、ルシタニアを脱落させる作戦であった。マドリードの安全を真に確保する意味合いの会戦を行った後、海軍と呼応し、リスボンを落とす。言うは易く行うは難しであり、リスボンには相応の兵力が置かれている。港の海軍を釣りだし、郊外で陸軍を壊滅させ、首都直掩の防空部隊を航空、地上含めて叩く必要がある。もっとも、当時の『ポルトガル』軍は史実通りなら、この時期は質的に弱体もいいところである。空軍の規模は不明だが、850機という予測は立てられていた。しかし、当時のポルトガル陸軍の質は不明であり、なんとも言えない状況であった。この『ポルトガル打通作戦』とでも言うべき作戦は現地での国名のルシタニアであることに関わらず、作戦目標の秘匿のため、『ポルトガル』の名称の頭文字『P』の符号が作戦検討で用いられた。日本にチト改良型の先行生産が要請されたのは、前線の機甲師団の充足率が下がっていて、カールスラント系の車両の多くが『旧式化』を理由に廃棄か、ドイツに回収されたため、ブリタニアがセンチュリオンとコンカラーをラインをフル稼働で生産しているが、ドイツと日本の軍縮施策の悪影響でその減少数を補いきれないためであった。このような現地の要請で、チトとチリの統合改良型を開発する羽目に陥った日本。黒江が『破砕砲』の開発を要請したのも、この『次期補助戦闘車両仕様決定』の段階での事だ。日本は日本連邦の装甲戦闘車両の主力を『MBT』一本に絞りたかったが、現地の需要の問題もあり、ハイローミックスに砲戦車(自走砲)の整備を混ぜる事で妥協された。2012年から試作が始まり、実車の完成は2018年と、日本で試験がなされたにしては速いペースで完成し、扶桑の各地の新工場の落成を以て、現地生産が始まった。作戦策定までに、初期の50号〜150号までの100両が配備されていた。車両設計は五式改と同様に史実61式を基にしているものの、戦中型重戦車との機動戦がより考慮された設計に変更されており、外観的には61式と74式の中間の形状になっていた。当時の重戦車のM26を上回る火力は持つが、装甲は避弾経始の概念があるとは言え、原型から大して増厚は不可能であった。61式の設計限界が露呈した形であるが、五式改の反省から、ステアリング操縦が取り入れており、その点は優れていた。ハイ・ローのロー相当ではあるが、当時のM26以上の火力を備える国産戦闘車両は前線で歓迎された。数を揃えられたとはいい難いものの、回収された旧式車両の代替には充分であった。性能特性は砲戦車寄りであったのは事実だが、侵攻でも、待ち伏せが戦法として推奨されていた事は、自衛隊のドクトリンには合致していた。ダイ・アナザー・デイでは、囮の車両で敵を釣り出す事から、戦車戦は始まっている。その用途に高機動車は重宝されており、アンダーパワーのM26を撃破するための餌とされている。この頃には、M4だけではダメと、いい加減に相手方の『地上軍管理本部』も知ったようで、M26とM46を投入している。ただし、山がちなイベリア半島では、M26はアンダーパワーであり、直ぐにM46に切り替えられている。しかし、まだライン構築間もないのと、前線に重戦車への反対論も多く、前線で最も多いのはM4系統のままである。連合が反攻を目論む頃には、M4中戦車は部隊単位で鹵獲されることも多いため、自由リベリオンに譲渡された鹵獲車も多い。物量だけでは、質で大幅に上回るセンチュリオンやパンターを打ち破れないという証明だけが積み重なった。制空権確保がない場合のM4は凡庸な戦車でしかないのだ。圭子がデューク東郷に依頼を出した日の新聞には『センチュリオン戦車の活躍!ブリタニアの誇る最新鋭重戦車』という扶桑の新聞に大きく見出しが乗ったという。以後、センチュリオンの登場で革新が起こるのだ。主力戦車への。ただし、センチュリオンのその重さのせいで、扶桑陸軍でいらぬ議論が起こったという。ただし、当時は主力戦車の概念が確立されていないため、ブリタニアでは『重巡航戦車』だった。21世紀基準では軽いが、センチュリオンは第二次世界大戦の目線から見れば、重量級だったのだ――
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