外伝2『太平洋戦争編』
三十四話『超大和型戦艦』


――太平洋戦争中、急激に進む変革には反発があった。それは軍事的には生存性の向上主眼の設計なり改修が施され、建造、もしくは改修の時間がかかる事への反発が艦政本部にはあった。また、扶桑にとって想定外であったのが『制空権ない戦場で生き残れるような船を作れ』という誹りだった。また、リベット主体での工法に日本マスコミから『時代遅れ』と罵られたが、扶桑に取っては、第4艦隊事件の教訓から、電気溶接の多用は時期尚早とされただけなのだ。実際、当時の新鋭艦達には溶接がそれなりに取り入れられていたし、大鳳では多用されている。また、リバティ船がボコボコ沈んでいるのを知っていたため、国運を担う戦艦への使用箇所を控えただけなのだ。そのため、艦政本部では喧々諤々であった。特に当時のトレンドの集中防御という思想そのものを否定されたのが大きかった。

「ええい、日本のマスコミは軍事を分かっとらん!全体防御など、今の時代には不可能なのだぞ!?23世紀の宇宙戦艦でもあるまいし」

ベテラン造船官達が憤慨するのは、当時の最高技術で作られた大和型を後の世から見て、『欠陥品』と謗られた事だ。大和型は『最小の重量で最大の威力』を主眼に設計された『小さく造られた18インチ砲戦艦』である。そのため、23世紀世界の技術での改修にさえ反発が生じた。21世紀世界の日本の者達は『全体防御にしろ』などと叫ぶが、それはそれで弊害が生じる。そのため、自分たちでは『あれ以上の防御は思いつかない』。超大和型戦艦の設計を23世紀地球連邦軍に委託したのはそのためだ。地球連邦軍が超大和型戦艦を強化テクタイト板を多用した多重空間装甲による重防御に設計したのも、そのクレームに泣く造船官をなだめるためだ

「そもそも、戦艦の水中防御は『穴が開くのを承知』で、どうやって被害を極限するか』になっとるのだぞ……。魚雷を跳ね返すなど、不可能だ。それに近頃は水中防御など重視されんかったからな」

「うむ。怪異のおかげで上からの攻撃の対策が主眼になり、下からの対策はせいぜいバルジ装置とかだ。それに下の液層防御は、あのリベリオンですら疑問視されていたからな」

「それを『横からの攻撃に弱い』などと……」

彼らは悩んでいた。そもそも彼らにとって、『魚雷攻撃を受けたらどうなるか』など、机上での計算上の話で、しかもレイテ沖海戦や坊ノ岬沖海戦の『制空権無き戦場に投入されて沈んだ』事自体が驚天動地なのだ。そこで連邦軍がその嘆きに応え、扶桑軍の既存・新造艦の防御を出来るだけ厚くする改修を施した。その内、通常サイズの新造戦艦で当初より多層構造の装甲と船体構造を持って建造されているのが『播磨型戦艦』である。その防御は宇宙戦艦と同等で、たとえ改モンタナが46cm砲であろうと沈められないほどである。過剰性能とも揶揄されたが、日本からのクレームに対応するには必須とされた。複合防御である故の装甲材製造に手間取り、二番艦『越後』の方が工事が進んでおり、1948年6月には進水式が行われ、正式に『越後』と名付けられた。

――1948年6月 64F 基地


「超大和型戦艦の一隻が進水式か。二番艦の方が先に進水式たぁ、ペガサス級かよ」

「そいえば、連邦軍もあるんでしたね。二番艦のほうが有名になるってケース」

「おう。たしか、ペガサス級も二番艦の方が有名になって、『ホワイトベース級』って言われてるんでしたっけ。なんで数がないんですか?」

「コストがかかったんだそうな。構造が当時の主力だったマゼランやサラミスの倍以上複雑で、ブロック切り離し機構も組み込まれてたから、製造コストが内惑星巡航艦としては最高級になって、量産はされなかったんだと」

一年戦争からデラーズ紛争当事の連邦軍は波動エンジンを得る前であり、その当時では最高級品の一つだったペガサス級はマゼランとサラミスほどの量産ペースには乗せられず、改ペガサス級がガトーによる核攻撃で戦没した事もあり、最終型のG型に切り替えられたが、ラー・カイラム級の竣工で生産打ち止めとされた。G級を入れれば30隻ほどだが、マゼランとサラミス比では希少だ。かのアルビオンはG型に至る過渡期の艦で、ペガサス級をもし、全て並べた場合の『第二世代』の嚆矢に当たる。

「で、母艦として回されて来たのは?」

「アルバトロス。アルビオンの同型艦で、アルビオン型の後期の個体だそうだ。デラーズ紛争の時に完成したけど、ティターンズが実権握ったから、月のドックに係留されてたままだだったそうだ」

――アルビオン級。それはホワイトベースから余りにも艦型が変更されているため、俗称として『アルビオン級』と後から呼ばれた生産ロットをいう。アルビオンがデラーズ紛争のダメージと証拠隠滅で廃艦処分され、ティターンズがトドメとばかりに存在を抹消したため、完成していた同型艦は月で眠り続けていた。おおよそ4隻から5隻で、その内の一隻は戦力不足に陥ったティターンズが接収していったため、残存しているのは4隻。その中で最も新品同様なのがアルバトロスだ。このアルバトロスの艦名は、一年戦争時にペガサス級が当初の予定通りに量産された場合の7番艦に予定されたのだが、改ペガサス級とアルビオン級の開発により、先延ばしされ、戦後にアルビオン級として日の目を見た。ペガサス級はラー・カイラム級の登場で相対的に旧式化しているため、他国への援助で手渡される物資としても重宝されており、アルバトロスもそのうちの一つである。戦後世代の艦艇なので、少しのオーバーホールでZやZZ系も積めるという利点があり、竣工順の都合、管理局に送られたトリビューンよりも高性能である。艦長は経験者の武子が務め、MS部隊長は圭子である。

「扱いはどうするんですか、宇宙戦艦でしょ?あれ」

「うちらの所有物だから、空軍所管になるな。うちらは宇宙軍編成出来るほど、宇宙戦闘の経験者はいないしな」

――宇宙軍はその後に設立されるが、この頃は便宜上、空軍が援助を受けたとされたため、アルバトロスは空軍所管となった。宇宙軍の設立はスリーレイブンズがいた時代には設立されていない(彼女らの孫世代の頃の設立)ため、空軍基地に宇宙戦艦が駐機されるという、ものすごく違和感ムンムンな光景となった。

「う〜ん。違和感ありません?先輩」

「ペガサス級は着陸用のランディングギアがあるから、置けないこたぁねーんだが、無茶すぎるぞ、フジの奴」

同艦を基地で見た雁渕孝美も同様の感想だった。ペガサス級をもらったため、他の空軍基地にはある百式輸送機、銀河などの攻撃機の姿はこの基地にはない。連絡機なら個人単位でコスモタイガーを使えばいいし、物資もシナプスから直々にアウドムラによる大規模定期便が来るので、問題ない。『レイブンズオブウィッチーズ』としての愛称もつけられた同隊は、太平洋戦争から第二次扶桑海事変における空軍最有力部隊に位置づけられる。

「でも、凄いですね、この基地。宇宙戦艦まで入っても余裕があるなんて」

「本来は飛天を並べて、そこからシアトルとかを空爆するために建設されてた基地だからな。施設に余裕があるから、MSとかVF、ひいてはスーパーロボットも受けいれられるキャパシティがある。戦略爆撃機用の基地なのが功を奏したな」

この基地はこの年の5月に完成したばかりで、黒江も言う通り、本来は戦略爆撃機の大規模集積基地として整備された。が、戦略爆撃機の改良と空中給油機の導入、爆撃機自体の世代交代で南洋島の端からでもリベリオン本土を爆撃可能となったため、基地の存在意義が薄れ、未来兵器を持ち、元の駐留基地が手狭になってきた64Fに充てがわれた。また、当時は海の戦局を左右するやもしれぬ新空母と新戦艦が近くの工廠で複数建造されていたため、その建造中の艦の直掩も期待されての事だった。

「この基地の位置って、今度の新戦艦が作られてる工廠に近いですよね?なんでです?」

「戦前からの計画だったらしいんだが、当時は建設予算の問題で棚上げされてたのを、飛天の実用化に前後して実行した。多分、この近くと合わせて『軍都』にしたかったんだろう」

「その計画は?」

「日本マスコミの横槍で中断。で、できた基地だけが宙に浮いたってわけだ。だから、ちょっと遠いんだよな、市街地まで」

――軍都計画が日本マスコミの横槍で中断された結果、広大な基地の周りにあるのは大自然だけである。街まで遠いので、軍都計画の代替に鉄道が引かれている。日本マスコミの横槍で計画が中断された煽りであり、物資輸送という名目で鉄道は引かれたが、それ以外の計画は中断され、その計画に組み込まれていた街から日本マスコミが批判を受ける立場となった。軍都となれば、軍人・軍属の住む街として街の再開発も行われるし、そこから見込まれる税収なども大きな資金源となる。それをふり出しにされたのだから、当然のことだった。これが21世紀日本と、扶桑皇国とにある決定的な倫理観の違いと、『軍への考えの違い』であった。21世紀日本では、太平洋戦争敗北の記憶により、軍事=悪の認識が根強いが、当然、扶桑皇国では怪異との生存闘争で軍が尊ばれている。その決定的な違いが、21世紀日本の左派がティターンズに肩入れする根拠とされた。(後に後悔するが)――

「21世紀の日本人の左巻きの連中は、自分達が武器を持たなければ戦争起きないってお花畑な思想してるの多いからな」

「それがなぜ、23世紀には連邦の支配者に?」

「21世紀中盤に差し掛かる頃、タイムマシンの実用化第一世代の大規模なものが暴走して、時空流入現象を起こしたそうだ。それから、統合戦争が起こって、一年戦争になる流れが決まったそうだ。多分、時空流入で、他の支流が本流に統合されちまったんだろう。そうでなきゃ、統合戦争が終わった後にに一年戦争なんて起きん」

それは、23世紀世界が出来上がった理由が、本来はパラレルワールドとして存在した世界を、その暴走したタイムマシンが本流に組み込んでしまったというものという、ある意味とんでもない現象を引き起こした結果であるというものだった。だが、結果的には人類が短時間で銀河を闊歩するようになったため、むしろ『井の中の蛙』にならずにすんだと歓迎されている。中には『地球人の子孫が戦争で母星を自ら火の海に変え、地球の存在を忘れ去っていく』世界もあるため、23世紀の状況を歓迎する者が多数派であった。ドラえもん達がこの状況を最終的に受け入れたのは、『戦争や事件が数多いが、人類が宇宙大航海時代を迎えた』事を鑑みたためだ。その事件の影響は様々な面で影響を残しており、『本来、ファーストガンダムから70年後に登場するV2ガンダム』が短期間で生まれている。また、VFもVF-19に短期間で到達しており、技術の異常発達を興している。

「その事件のおかげで、一年戦争以後をアニメとして知ってる年代にいる、知り合いのガキ達から言わせれば、『シャア・アズナブルは三重苦の変態で、そのくせMS操縦は天才』だそうだw」

「うーんwwwそこははいぱーえりーと変態紳士でしょwww」

と、雁渕と会話していると、そのシャア・アズナブルのコンプレックスの一端を担っているアムロがやってきた。今の会話を聞いていたらしく、爆笑している。

「君達も言うなぁwwおっと、俺もララァに未練たらたらだからロリコンエースの仲間入りか」

「アムロさん、聞いてたんすか?」

「バッチリ。奴が聞いたら図星だろう。あの時のあの言葉はドン引きしたよ、はっきり言って」

『黙れ!ララア・スンは、私の母になってくれる私の母になってくれるかもしれなかった女性だ! そのララァを殺したお前に言えた事か!』

シャアはララア・スンに、自分が幼少期に喪失した母性を求めていた。実母のアストライアの匂いをララアに感じていたのだ。アムロも思い入り引いており、『お母さん……?ララァが!?』と返している。そのため、生還後、アムロはシャアを『地球圏を治められる立場の人間にしては器量の小さい男』と評した。その事はシャアも自覚したらしく、クェス・パラヤを結局、ララアと同様に戦闘にしか使わなかった事に後悔の念を見せたり、再興ネオ・ジオンに帰還したのはそのためだ。


「これは後の調査で分かった事だが、シャア、つまりキャスバル・レム・ダイクンは、偽名の元の持ち主『本物のシャア・アズナブル』を謀殺していたんだ」

「いたんですか?」

「そうでなければ、ジオン公国軍人になれんさ。当時の記録によれば、エドワウ・マスという青年が輸送機の事故で死んでいるが、それが本物のシャア・アズナブルだった。キャスバル・レム・ダイクンと目の色以外は瓜二つだった。それで奴が成り代わった。その後、その家族も死んでいるから、奴のした事で『アズナブル家』は断絶、シャア・アズナブルという名前だけがキャスバル・レム・ダイクンの異名として独り歩きしていった」

「死人の名前に背乗りしたんですか?」

「二回もね。二度目は地球圏に舞い戻って来た時、一年戦争の戦没したサラミス級のパイロットの軍籍を買って、『クワトロ・バジーナ』としてエゥーゴで戦った時だ。奴にとって、その程度は造作もない事だ」

シャアはエゥーゴ時代の事は『素の自分でいられた時代』と比較的好意的に見ており、その名残りとして、演説で繰り返し、『ティターンズのような反政府運動を……』という文を入れている。これはブレックス・フォーラを敬愛していたための事で、これがティターンズを反政府運動とする現政権の史観を補強している。

「じゃ、ティターンズを反政府運動って言ってるのは……」

「エゥーゴの中心人物だった名残りだろう。そこが奴の良心とも言える。それがティターンズ残党には許せんのだろうが」

「その事への反発が、彼らの?」

「そうだ。戦後、ティターンズの構成員は極刑に処されるか、良くて僻地へ左遷だ。彼らが2年前、『我らに帰る場所はもうない』と言った理由はグリプスの後、ティターンズ構成員が報復的な処罰を受けている事を知っていたからだろう」

「それだけの理由で、これだけの戦争を、戦争を起こしたんですか!?」

語気が強まる雁渕。ティターンズの境遇は同情できるが、それだけの理由で平行世界を戦乱に巻き込み、多くの先輩や自ら、後輩達の運命を歪めたのかと、激昂する。

「ティターンズは恐らく、この世界の歴史の流れを元に戻すための役目を負って召喚されたんだろう」

「修正って何を……」

「世界大戦と冷戦だ。そうでなければ、ティターンズが敢えて、この国に喧嘩を売る意義がない。この時代、平行世界では、君達の国は既に戦前と体制が変わっている。その事が日本の左派の憤激のもとなんだ」

「そんな身勝手な……!」

「それが奴らの言い分だ、雁渕。夢みたいな事を言うから、奴らは支持されないんだ」

「ああ。革命はいつもインテリが始めるんだ。彼らは夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激な事しかやらない。しかし、革命の後では、気高い革命の心だって、官僚主義と大衆に呑み込まれていく。フランス革命がその最たる例だ。ロベスピエールの恐怖政治の反動で、ナポレオンが帝位についてしまったように」

アムロはフランス革命を引き合いに出す。他にも、共産主義革命を興しながら、結局、密告と恐怖で国を統べるしかなく、数十年で破綻を来したソビエト連邦の例でもそうだが、革命後の国家が別体制に100年未満で取って代わられる事は地球の歴史では日常茶飯事である。

「そんなの、彼らの願望じゃないですか!扶桑は日本じゃないんですよ!?」

「正確に言うと、『日本に極めて近いが、どこかが違う世界』だ。彼らはそこが理解できないらしい」



――日本の左派は『扶桑を平和な国家にするには、現在の帝国主義国家を滅ぼす。そうでなくてはならない』という偏った見方からの使命感で動いており、それがティターンズの付け入る隙だった。ティターンズは自らが『彼ら』にとってのアニメの存在であるのを利用し、そこから援助を引き出していた。もちろん、彼らの後身である23世紀地球連邦の中枢部にとっては恥部であり、結果的に21世紀日本左派対23世紀日本人の構図になってしまった。これが23世紀日本人が21世紀日本人と決定的に気質が違うことの表れである。統合戦争のきっかけの一つが『時間旅行の本格化で、暗部を見られるのを嫌った各国が自国の史観を守るために戦争を始めた』というエゴイズム溢れたものであるので、統合戦争を経た連邦政府は21世紀の列強の多くを侮蔑していた。その事もあり、21世紀でエゥーゴを支持する当時の日本の最大野党(後、政権与党に復帰)、ティターンズの言葉をそのまま受け取り、ティターンズへ援助する政権与党(後、政権から転落)の政権交代に関与していた。

「アムロ少佐はどうして、この戦争に関わってくれたんですか?」

「俺はグリプス戦役の当事者で、カラバの幹部だった。グリプスの時の連邦の不始末がそもそもの彼らの暴走の原因なら、当事者だった俺が止めるのが筋だろう」

アムロはカラバとして、ティターンズを打倒する一端を担った。その事もあり、シャアを追いかけるついでに、この戦争に加担する決意を固めたのだろう。

「確か少佐は、ファーストガンダムの……」

「ああ。昔の話さ。今じゃ撃墜スコアは数えてないけどね」

アムロがファーストガンダムのパイロットであった事はこの頃になると、ウィッチ世界にも知れ渡っていた。連邦最強のMSパイロットと言うなら、次世代のニュータイプらを抑えて、不動の一位であるアムロ。乗機もディジェを除けばガンダムタイプが多く、グリプス戦役までの数年のブランクを除けば、間違いなくエースパイロットに相応しい経歴である。

「君の戦闘を見せてもらったが、敵機を落としたと思うと、隙を見せる事があるね?怪異相手ならいいが、対人ではそうはいかない。安心したところを撃たれて落とされた事例は多い。後ろにも目をつけるんだ」

「は、はいっ。あ、あの改造手術ですか?」
「気配を感じて目で見てるのと同じように対応出来るようになれ、ってたとえだ」

雁渕は怪異との戦闘には慣れているが、対人戦闘の経験は浅い。そのため、対人戦では隙を晒してしまう事があった。それを指摘する。アムロはウィッチ達の戦技を確認し、そのレベルを上げる役目が出向先での任務の一端であり、その性質上、隊の全員が敬語を使って接していた。これは幹部がほぼ全員、連邦ではアムロの配下である事も関係している。

「黒江君。君はどうも接近戦に傾倒する癖があるな?プルトニウスにしたからというのは分かるが、ヒットアンドアウェイがZ系の本義だ、忘れるな」

「り、了解っす……」

乗機を接近戦が可能なプルトニウスにしたため、素の癖がMS戦でも出始めた事を指摘される。黒江は一撃離脱戦法の先駆者で知られているが、やはり世代的に『巴戦』を好む傾向も残っており、機体が頑丈で、機動性があるZプルトニウスへ乗ると、格闘をしがちであるのが指摘された。

「ヒットアンドアウェイ戦法向けのMSと言うのがあるんですか?」

「最近は基本、航空機形態になれる可変機で推奨されてるよ。昔はジムの軽量型にやらせていたが、それだと無理があってね」

ヒットアンドアウェイ戦法主体のMSは基本、戦闘機パイロットから転換したパイロットの多い連邦が確立させたものであり、ジム・ライトアーマーがその嚆矢である。しかし、ライトアーマーは色々と無理があり、Z系の開発後は一線を退いている。

「今はヒットアンドアウェイの役目は可変機の役目で落ち着いたが、ドッグファイトするパイロットも多かったから、プルトニウスが造られた。俺も搭乗資格と専用機を持ってるが、黒江くんはやり過ぎだな。機体の頑丈さに頼りすぎだ」

「う〜……」

と、若干呆れている様子のアムロ。整備員が部品を交換しに来たが、中を開けてみると、予想以上に部品の摩耗率が高く、オーバーホールになってしまったと聞いたからだろう。Zプルトニウスが黒江の若手時代の愛機『キ44』と特性が似ていたのもあり、好んで乗っていたため、大規模オーバーホールとなってしまった。代車ならぬ代替機を充てがう必要があり、武子もため息をついたという。

「オーバーホールの間の代替にリ・ガズィ・カスタムを回しておいた。後で慣らし運転をするように」

「り、了解」

「さて、上層部からの指令だが、当面は工廠の護衛をするように。新戦艦と新空母を守り通せとの事だ」

「呉のような襲撃を警戒してるんすか?」

「そうだ。扶桑軍はあれですっかり肝を潰したようで、軍港や工廠の防空体制を強化している。その一環だ」

呉への襲撃は、扶桑海軍へ強烈なトラウマを埋めつけた。万全な警備態勢の軍港を大胆不敵に攻撃され、壊滅に等しい被害を被ったというので、この戦いでは、特に防空体制が強化されていた。これは小園安名大佐が特に防空強化を唱えており、ジェット機に悠々と爆撃されたのを理由に、自衛隊式防空システムを購入することの推進者でもあった。そのため、軍港を兼ねた工廠には、自衛隊型防空兵器の他、23世紀連邦軍の防衛兵器までも配置されており、対潜哨戒機のドン・エスカルゴが配備されていた。また、連邦軍から譲渡されたセイバーフィッシュ、ワイバーンも配備されているオーバーな防衛網である。これはブラックタイガーとコスモタイガーの配備が進み、余剰になっていたセイバーフィッシュの在庫処分も兼ねていた。コスモタイガーの配備のみならず、その後継機『コスモパルサー』の開発も進んでいたためだ。ただし、武装面と機体面では近代化が行われているので、コスモタイガーとの作戦行動が可能になっている。(改修により、ブラックタイガーに並ぶ程度の能力は手に入れ、形式番号も『FF-S3R』へ変更されている)

「そいや、セイバーフィッシュを買ったとか小園のおっちゃんが言ってたけど、あれ、旧式じゃないっすか」

「まぁ、コスモタイガーとブラックタイガーに比べればな。ガミラス戦の時に醜態も晒したが、改修型という形で買ったと言おうか、譲渡みたいなものだから、ブラックタイガー級の能力はあるらしいが」

「大丈夫っすか?」

「ブラックタイガー程度の能力があれば、ティターンズの戦闘機には遅れは取らんさ。ただ、問題は物資輸送の鉄道が襲われる危険だな。路線長が30キロ以上もある。これは小田急線の江ノ島線と同等以上だぞ?長すぎやしないか?」

「軍都計画が中断されちまったんですよ。日本のマスコミの横槍で。本来は5キロ行ったくらいから街を分譲して新しく造る計画だったんですけど……」

「彼らお得意の『軍事=悪』の論評で煽ったな?まったく、あの時代の日本のブンヤ連中はお花畑なんだから」

アムロも呆れる、日本左派マスコミの傲岸不遜ぶり。再開発を見込んだその路線に繋がる事を期待していた街から大顰蹙を買ったため、彼らは慌てた。そこで扶桑は地下鉄を掘って、地上路線はダミー化する代替プランを考えたのだが、市長直々の嘆願もあり、代替プランを実行できないままだった。とうとう日本政府に市長が抗議するに及び、政府が『損害保証に、我が国の企業の支社を進出させ、再開発を行わせる』と公約する事態になった。そのため、扶桑が計画していた区画割に日本企業が進出していき、21世紀の常識におけるオフィスビル街とショッピングモール街、物資倉庫などが1950年度までに建設されていく。扶桑軍人の中には『普通の市街地のための敷地ではなかったのだが……』と苦笑いする者も多かったが、軍隊用の演習場・工廠・燃料庫・弾薬庫・軍施設は基地含め、軍港周りに集積され、完全に軍施設と民間都市が分けられた最初の例となった。

「どうするんですかね?」

「恐らく、日本政府が民間企業に損害賠償も兼ねて、企業送り込むだろうから、50年代になるまでにはビル街になってるだろう。あ、念のために聞くが、輸送列車は電化されているか?」

「いえ、空軍に反対論があって、電化はされてないと」

「装甲列車でも使うつもりだな」

「装甲列車ぁ?なんすかそれ」

「意外だな。君は元は陸軍だろ?」

「航空畑なもんで……」

「俺も佐官教育の時の教育で聞いただけだが、装甲列車は20世紀の前半から中盤まで、つまり君達の親世代から君達の時代、鉄道輸送は重要視されてた。その過程で生み出された兵器だよ」

装甲列車。それはかつて、鉄道網の防衛と輸送力を兼ねて作られていた兵器で、列車を武装・装甲化させたものだ。特に一次大戦から二次大戦で盛んに用いられた。扶桑軍が電化を嫌がったのは、当時最新の九四式装甲列車が電化すると使えないという点だが、これは扶桑の設計当時の列車技術により、ディーゼル機関車が使用できず、電源車を連結せざるをえなかった事に由来する。九四式装甲列車は高射砲も積んでいたが、現在の常識では旧態依然とした装備であり、鉄道故の弱点もあり、連邦軍も注目はしていなかった。が、扶桑軍にとっては重要な輸送手段であり、『ミサイルとか積んだの作れない?』と言われ、連邦軍が困惑したほどだ。その為、『仮称・八式装甲列車』という名でミサイルとパルスレーザーを積んだ車両が開発されている。

「うちに話が舞い込んだとき、アナハイムが腰抜かしたほどだよ。まぁ、アナハイムの事だ。ディーゼル機関車にパルスレーザーとミサイルでも積むかもな」

「……本当にやるのがアナハイムクオリティーだしなぁ」

黒江もその辺は納得のようだった。


――この時期に近くの工廠で建造が始められた戦艦は『播磨型戦艦』である。第二世代大和型、俗に言う超大和型戦艦だ。設計計画名はA-150。原計画の再開という形だからか、元のままの計画名だ。防諜の意味もあり、欺瞞も兼ねているので、変更はなかった。しかし、中身は別物で、三笠型の小型化の体裁が強く、主砲も速射砲仕様で当初より決定されており、新規に開発された試製甲砲の制式採用型『50口径51cm速射砲』を連装で五基備えている。三連装四基案と最後まで設計を争ったが、播磨型においては想定された敵艦がヒンデンブルク号という重装甲艦であった都合、火力が重視された。その為、打撃力重視の艦として越後と共に設計された。ただし、戦後の超大和型戦艦三番艦(ベトナム戦争時に建造)では、三連装四基になっており、その頃には打撃力重視では無くなっていたのが分かる。なお、1948年当時、播磨型の建造途中の船体を見た国民は『オバケ』と噂したという――


――なお、超大和型戦艦は二代目スリーレイブンズ曰く、建造ロットによって、装備に微妙な差異があり、第一ロットの播磨と越後は打撃力重視、第二ロットの石見、伊吹(両艦はベトナム戦争時に建艦。状態の悪い三河と激戦で酷使された甲斐の代替)は防御重視、第三ロット(湾岸戦争後、老朽化した大和と信濃の代替で登場)の二代『大和』と『武蔵』はバランス型とされている。数十年のスパンで造られたため、基本ラインは同じだが、ミサイル装備の進歩や未来技術の導入度が次第に上がったため、最終的にはCIWSに替わり、パルスレーザーが搭載されるに至る。そのため、対空武装などに変化が大きい90年代型を第三世代に分類する意見があるという――



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