外伝2『太平洋戦争編』
三十七話『作戦発動秒読み』
――太平洋戦争で浮き彫りになったのは、兵器の殺傷力向上と戦場の残酷さに耐えられない問題であった。未来でも問題となった『戦闘神経症』とも言われるもので、軍人がなると戦闘ストレス反応ともされる問題だ。この戦争は『人同士の戦争』である故、耐性が低い若手から中堅どころに発症者が多かった。ベテランとリウィッチは戦前期の厳しい教育を受けていたのと、親世代が明治中後期生まれで、子供時代は厳格に育てられ、元々、理不尽な状況に耐性が出来ていたために発症の確率は若手や中堅より遥かに低い。そのため、必然的にリウィッチが主力の部隊ほど、激戦地に配される傾向があった――
――バグラチオン作戦発動前――
「あの、穴拭先輩……」
「孝美?あなたが相談しにくるなんて、意外ね」
「ええ。こればっかりは黒江先輩には切り出せなくて」
「?」
「実は妹の事で……」
雁渕孝美は、64Fという最前線部隊に、魔力値が低い妹のひかりがいる事を本気で心配していた。彼女は、妹が激しい戦闘に駆り出されて戦死する事を恐れており、本土かどこかの後方に配置転換させたかったのだが、ひかりの能力を見込んだのがクロウズとスリーレイブンズであるのが判明した上に、黒江が『仲間をぞんざいに扱う』事に怒髪天を突く勢いで激昂したというニュースが伝わった。その報に恐怖し、言い出せなくなった。黒江の逆鱗に触れてしまうと、本気で『腕の一、二本で済まない』と恐怖したのもあるが、家族に辛辣な態度に出たところを見られたら、激昂した黒江に激しく殴打され、数ヶ月は病院行きになりかねない。実際、黒江は別の自分自身にさえ激しい怒りを顕にしているので、雁渕の恐怖はもっともだった。
「あー、あの子の事ね。綾香に言ったら、あなた、歯の数本は最低でも覚悟しなさい?」
「や、やっぱり……」
「冗談よ、冗談。言い方次第にもよるけど、あの子はエクスカリバーを宿してるから、怒らせたら怖いのは本当よ。この間、統合参謀本部の参謀がふざけた事言ったら、『エクスカリバー』で大地割って、そいつのションベンを出させてたから」
「あ、あわわ……ど、どうしましょう、先輩…」
「狼狽えないの。そもそもあの子は義子と徹子も認めてるから、後方への配置転換なんて、綾香が許すと思う?」
「……無理ですね……」
「奇兵隊に回すよう、あたしから言ってあげる。あの子、あたしの言う事なら聞くから」
「お、お願いします。新撰組なんて行ったら、あの子はきっと……」
雁渕は智子に願いを託した。同じ部隊でも、偵察班に妹を配置転換してほしいと。それは妹をできるだけ前線から離れさせたい姉心というモノだが、姉の心、妹知らずと言うべきか、ひかりは奇兵隊配属後、その強行偵察班に志願し、進んで最前線に突っ込んでいってしまう。だが、ひかりは持ち前のド根性で生き残り、姉の願いとは裏腹に、最前線で生き残れる技量を証明した結果、第一中隊の『新撰組』に配属される。こればかりは当人の希望であり、雁渕もどうしようもなかった。その事への強い罪悪感からか、雁渕は新撰組で目覚ましい戦果を見せ始める。作戦前の前哨戦となる、宇宙に上がる前の戦闘においてが、その最初の活躍だった。
――戦場――
「落ちろぉォォ!!」
雁渕はこの頃から、ひかりを戦わせたくない一心で、鬼気迫る戦闘を行うようになっていった。B29相手に逆押し戦法を用い、B29を落としていく。一見して、気合が入っているようだが、その心の乱れに気がついたのは、管野であった。管野は『菅野』と違い、雁渕を姉のように慕う一方、憧れを抱いていた。無線の声に、雁渕の様子が変なのに気づいたのだ。
「おい、『孝美』!何やってやがるんだ!?あいつ、いつものあいつじゃねえ!」
管野は別世界に来てから、基地での軟禁状態が数週間ほど続いていたが、次第に解かれ始め、基地内に限っては自由に動けた。この世界の雁渕が『自分の知る雁渕孝美』とは全くの別人であっても、その想いは変わらず、基地の管制室に入り込み、マイクを分捕る。
『孝美、一人で突っ走ってんじゃねー!』
『直枝、あなた……!?いえ、まさか……あなたは!?』
『お前に名前呼びしてもらえて嬉しいけど、あいにくだけど、オレは管野のほうだ。周りを見ろ、周りを!一人で突っ走ってんじゃねーぞ馬鹿!!』
菅野と違い、管野は『口調は菅野に似ているが、全体的に幼げな印象を残している』。経歴も、兵学校で雁渕の下に当たるなどの違いがある。そのため、雁渕と同格・同期として接している、この世界の菅野とは折り合いが悪い。(同位体でありながら、気質と経歴の違いで揉めた初の例)
『お前、かってに管制室に入りやがったな、クダ!』
『誰がクダだボケェ!お前こそ、戦闘隊長のくせに、孝美を放っておくんじゃねー、スガ!』
この頃から、管野と菅野の呼び分けのため、かつての武子と圭子の事例に習い、部隊内で菅野は『スガ』、管野は『クダ』と呼び分けるようになっていた。菅野は新撰組隊長の責務を負っている身なので、管野にはない『統率力』を持っていたり、芳佳という明確なバディの存在から、普段の態度は落ち着きと荒々しさが同居している。(ぶっちゃけシスコンであるが)管野のほうは統率力の代わりに『闘争心』が強く、『協調性』はなく、子供っぽい態度を取るという特徴があり、かつての西沢と似ていた。この微妙な気質の違いが二人を見分ける最大のポイントであった。
『バカヤロウ!雁渕は松崎と油田を護衛に従えとるわ!アイツは一応、『維新隊』隊長だぞ、退き際は分かっている!』
とは言うが、突出気味であるのは分かっているので、本田と宮崎(菅野と付き合いが長い妹分)を護衛に行かせる。基本、現64Fの第一中隊は343空と旧64Fの高練度ウィッチを中核にしているため、練度は最強である。菅野の妹分たちにしても、全員が欧州で鳴らした猛者達だ。
『あのなぁ。だいたい落とされる様な練度なら出撃させんわ!』
『ぐ…!』
その一言は管野には効く。練度で言えば、管野のレベルは第一中隊では『練度不足』と判定される。出会いの際にも、菅野の戦技に圧倒されたので、菅野は管野の出撃を禁じている。同じ人物であるため、当然ながら飛行技能は同等だが、管野は機体に無頓着な面があり、それが菅野の反感を買っていた。菅野は芳佳と黒江、シャーリーの影響で愛機のチューニングに目覚め、ジェットへの機種転換後は整備の知識も身につけた。これは芳佳の膨大な魔力を受け止めるには、既存のジェットエンジンでは、タービンブレードの破損や燃料の異常燃焼などでのエンジン破損の恐れがあったため、芳佳用にチューンナップする必要があり、その組み合わせを模索するために奔走したからだ。そのチューンナップに追従するためのチューンナップを自分の機にせねばならないという事情もあり、菅野は整備士の資格まで取ってまで、自らの機体をチューンしまくった。そのため、それが公式化し、大隊長であるスリーレイブンズ含め、基本的に中隊長以上は高度なチューンナップがなされた専用機の保有が許可されている。MSの文化が持ち込まれたわけで、この後にこのチューンナップの普遍化が源田により布告され、隊員の機体が相互に予備機となるように、全員の機体が一定レベルまでチューンナップされる事になる。
――部隊単位のチューンナップは整備員からも好評であり、最前線部隊でこぞって行われるトレンドになる。大まかに制空部隊用チューンナップは『レイブンズカスタム』、防空部隊用は『つばくろカスタム』、偵察部隊は『地獄の天使』と区分され、戦争で活躍した部隊や兵器の二つ名を冠する用語が作られる。レイブンズカスタムは攻撃的なチューンナップであり、どちらかと言えば、火力と空戦時の稼働時間を重視する。つばくろは操作レスポンスに割り振ったチューン。地獄の天使は高速度と低加速の偵察に特化したチューンだ。それを基本に、各部隊独自の幅を持たせるのが、作戦前段階で始まっていた。そのため、ティターンズはB17を戦略単位でも使えなくなるという効果を上げた。それが戦略爆撃機として型落ちになったB29を戦術爆撃機として使用するようになった背景だ。当然ながら、B17より圧倒的に防御火力が強力なB29を使うので、64Fとて無傷ではいかない。武器を失う者、パラサイトウィッチの不意打ちを食らい、被弾して落伍する者も少なからず生じる。その中でも、菅野と芳佳はパラサイトウィッチの始末を行うのが仕事であり、雁渕まで気が回らないのも事実だった。
「テメーらどきやがれぇ!!」
菅野はパラサイトウィッチを倒すため、格闘技も磨いたため、流星拳・彗星拳・ローリングクラッシュなどのオーソドックスな闘技は身についていた。そのため、どちらかと言えば星矢と同系統の闘士であった。星矢と違うのはパワー系である故、一発あたりの打撃力は初期の星矢を越えている。速度面では白銀に踏み込むか否かである。この差も菅野が『クダ』を下に見る要因だった。管野には『剣一閃』があるが、聖闘士級の闘技であれば、弾くことは容易だ。黒江には指一本で止められ、智子は足で顔面に蹴りを入れるという方法で止めている。そのため、管野は大きなショックを受けたが、それを他山の石とした菅野は『手刀』による切断技に変更し、ライトニングクラウンに近い切れ味を出すことに成功していた。そのため、手刀で相手を殺すことに躊躇は無く、屈強なパラサイトウィッチ達をまっ二つに斬り裂く。
「オラオラオラ、まっ二つにされたくなきゃ失せやがれ!」
パラサイトウィッチ達は比較的屈強であるが、聖闘士級の闘技は想定外だ。黒江譲りの手刀は敵の腕や首を綺麗サッパリ切断し、菅野のウォーモンガーぶりを引き立たたせる。空中でスプラッタ劇が展開され、それに慣れきった敵味方は異様な光景と言えた。それらの人外な光景とは一線を画する雁渕だが、エンジントラブルに見舞われ、速度が低下した所をパラサイトウィッチに囲まれる。
「し、しまった!?」
「首の骨を折ってくれる!!」
一人のプロレスラー上がりのパラサイトウィッチが雁渕を捕縛し、全力で首を締める。護衛も気づかぬ一瞬の出来事だ。雁渕は追加ダメージとばかりに機体外壁に頭を打ち付けられ、気が遠くなる。が、不意に銃声が響き、敵が雁渕から手を離す。見事なヘッドショットだ。
『ふう。間に合って良かった』
『お、おい。その声……まさか、大人になった時ののび太!オメーかよ!?』
『お久しぶりです。ガランド閣下が手を回しまして』
飛来したヘリコプターには、24歳時の青年のび太がライフルを構えて搭乗していた。少年時代と違い、それなりにがっしりした体型に成長しているため、菅野は驚く。
『おいおいおい、初めて見たぞ!?しずかにてぇ出して、ガキもこさえた頃のお前!?』
『しずかちゃんにはノビスケの面倒を頼んでます。あ、僕はまだ24ですから、あしからず』
『そこを強調すんか?まったく……お前の結婚式出たばっかだろ……』
菅野はため息をつくが、のび太は24歳時点では環境省に一発で就職した『超勝ち組エリート層』の青年である。なんだかんだで、のび助と玉子から受け継いだ陽の面が高校から大学時代で開花したのが分かる。
『あ、今度はジャイアンですよ』
『何ぃ!?アイツもらってくれるような嫁さんがいたのか!?嘘だろ!?』
散々な言いようの菅野だが、ジャイアンは、妹のジャイ子が某大手少女漫画雑誌に『虹のビオレッタ』(少女期に自費出版した漫画の手直し)の連載を持ち、漫画家デビューするのを見届けた後に、大学のゼミの後輩とゴールインし、挙式をあげる。青年のび太が言及したのはそのことであるが、それをスリーレイブンズに話したら『あのジャイアンに嫁さんの貰い手が!?』と散々な言われようで、智子に至っては『あの子が結婚すんの、あなた達の中で最後と思ってた』とまで言ってしまう。
『みんな、そのことで腰抜かしてましたよ。智子大尉なんて、そりゃもう……』
『小学生の時の普段のキャラ的にゃ、ありえねーくらいにリア充になってやがったのか……あいつ』
『公務員試験通った時はのんびりフィールドワーク出来ると思ったのに荒事ばっかりですよ、慣れちゃったけど』
ウェポンブレイクをしながら会話をするのび太。とても銃を持っていない時期が数年ほどあった(21歳から23歳の頃)とは思えない。しかも当然ながら正規の訓練は積んでいないのに、だ。
『地が大長編モードに固定されたんで、男前で通ってますよ、あいつ』
『いつからだよ、それ!?』
『中学か高校かな?ちょうどその時にジャイアンの家、景気の悪化で傾いたんですよ。で、僕が大学在籍中に引っ越したから、昔通りのガキ大将でもいられなくなった。高校からジャイアンとつるんでた奴からは『良い奴』で有名ですよ』
『……うそ〜ん』
『高校からは、僕の昔の家の数件前に住んでた家の坊やの面倒を見てて、あの子をいじめから守ったって聞いてますよ』
『ああ、あの坊やか』
――のび太のかつて住んでいた家の数件隣には、バブル崩壊の影響で家庭がガタガタになった一家がおり、その家の坊やの面倒をのび太が見ていたが、のび太が引っ越してしまったので、その役目をジャイアンが引き継いだのも、ジャイアンの脱皮の要因であった。その一家の『坊や』は、1999年当時に8歳から9歳ほどで、子供時代には野比家によく遊びに来ていたので、菅野も知っている。その坊やは長じた後、ジャイアンの後輩となったのだが、生来の気質的に気弱な性格であり、いじめの絶好のターゲットとなってしまう事があり、ジャイアンは彼を高校・大学と守り抜いた。そのこともジャイアンの成長に影響を及ぼした。
『あの坊やのおかげと、中高の野球部で揉まれた事も合って、今は良い奴になりましたよ。だから嫁さんもらえたんですよ」
『確かに。嫁さんとは元々、知り合いか?あいつ』
『大学のゼミの後輩で、中学の時は僕の後輩でした。なので、僕とも面識はあります。結構な美人で、ジャイアンにもったいないくらいですよ』
かつてのハリウッドスター『チャールズ・ブロ◯ソン』張りの男気を青年期に得たジャイアンは、彼に憧れていたのか、自身がスーパーを新規に開業する際、スネ夫の経営する会社の協力により、TVCMを放映する。男気と男臭さを全面に押し出したそのCMは、当時、草食系と言って嘆かれていた世の男性諸兄の心を掴み、店舗のワンフロアを思い切って、完全に『男性フロア』にする戦略もあり、スーパージャイアンズの創業者として、すっかり時の人である。
『スーパーも繁盛して、今や時の人ですよ、ジャイアン』
『おお……。だから、お前一人なのか?』
『ええ。スネ夫も誘ったんですけど、結婚式の準備で忙しいとかで断られまして。ジャイアンはスーパーの社長だし、しずかちゃんはノビスケの事もあるんで。出木杉君は『英世』君をウチに預けて、火星に赴任だし』
『火星?そうか、火星移民のテストの人員になったんだったな、あの夫婦』
――のび太が青年期の頃から開始された『火星のテラフォーミング化研究と植民地化のテスト。出木杉英才は当時のJAXAのテスト要員に弱冠24歳で抜擢されており、火星の第一世代コロニー建設と、そのテストに従事していた。NASAとも密接に関係していたので、NASA職員と国際結婚し、夫婦で火星に赴任していた。(その成果は山本玲などの火星生まれの人間の存在で証明されている)戦闘しながらする会話ではないが、ちゃんと戦果を挙げているあたり、二人がプロなのが分かる。
『直枝、さっきから誰と話しているの?』
と、ここで芳佳に治療された雁渕が会話に交じってきた。が、のび太が声変わりしているせいもあり、何度か共に戦った少年が成長した姿だとは気付いていない。
『ん?あれ?あの丸眼鏡でわかんねーのか、雁渕?のび太だよ、野比のび太』
『えぇええええええ!?のび太君……なの?』
『お久しぶりです、大尉。僕だってわかりませんでしたか?』
『見違えたわね……その姿だと、もう大人に?』
『今年で24です。もうカミさんも子供もいますよ』
のび太はサムズアップする。子供時代と印象が違うので、見違えたと言うのも無理はない。青年のび太とは面識を持つ機会が無く、結婚式にも出席できなかった事により、今回が初めてであった。大人になっても、その戦技は健在である証明をするかのように、瞬く間にパラサイトウィッチのユニットの片方を撃ち抜いていく。圭子も舌を巻くほどの精度と装填速度でスナイパーライフルを扱う様は、『神童』がそのまま大人になった証明である。(狙撃精度は圭子を6とするなら、のび太は8である)
『さて、今ので最後だ。B29の数は?』
『だいぶ減った。あと数機……いや、宮藤が落とした。帰投するぞ。宮崎、今回のキルレシオは?』
『5対1程度です』
『B公相手にそれなら、良好なほうだな。クダ、聞いたな?帰投すんぞ』
『ああ。お前、孝美そっちのけで戦闘すんなよなー』
『任務だったしな。それに、雁渕がそんなに気になんならよ、腕を上げろよ。いまの腕じゃ、俺についていくのは愚か、宮藤に逆に守られるぞ』
『んだよ、俺が弱いってのか?』
『今のまんまじゃな。戦いたければ、強くなれ』
『強く……』
『そうだ。貫きてぇもん、守りたいもんがありゃ、人間はどこまでも強くなる。どこまでも』
――明確にそれがある菅野(スガ)は強さを手に入れ、聖闘士の領域に踏み込んだ。だが、管野(クダ)にはそれはない。スガは姉と兄を守りたい、芳佳と笑い合う日々を生きたいという想いで奇跡を起こした。が、クダの戦う理由は雁渕に依存していたため、元の世界での雁渕の妹であるひかりへ当初、強烈な拒否反応を見せている。それの自覚があったため、年代の都合、『年上』になるスガ(菅野は1948年時点で17歳、芳佳もほぼ同程度)へ妬みがあるのも事実。そのため、クダはこの後、ひかりと接触を試み、ひかりも管野の事情を知っていたため、ひかりが保護者のような形になる。そのため、明確に『主人公属性』を持つスガと別の道を歩むのだった――
――帰投後、青年のび太と既に面識のある者たち(のび太の結婚式に出た)は旧交を温め、少年時代に面識があった者も、少年が成長した姿と知ると、会話を楽しむ。青年となり、一児の父になったのび太はガランドの機関の構成員、しかもその幹部となっていて、黒江の日本での人脈の一端を担っている事、環境省の職員ながら、防衛省にツテがある事から、ガランドの子飼いと見られていると言った
「そっか、まさかテメーがエージェントたぁ……環境省に入ったって聞いたのに、MI6顔負けだぜ』
「なーに、軍人の地位を隠して、自衛隊に入った綾香さん達ほどじゃありませんよ。あれ、問題になったんですから、あとで」
菅野に言う。のび太は表向き、環境省に在籍しているが、実質的には23世紀地球連邦/アドルフィーネ・ガランドのエージェントである。これはセワシの孫の一人(のび太からは孫の孫の孫)がプリベンターのエージェントとして活動していて、もう一人が連邦軍の情報部にいる事を考えれば自然ではある。
「環境省の職員の肩書きは何処に行くにも重宝してます」
「確かになぁ」
「雁渕大尉、お久しぶりです」
「大きくなったわね、のび太君」
「もう24ですし、これでも一児の父親ですよ、ハハハ」
雁渕は青年のび太に不思議そうな顔を見せる。ついこの間、少年時代の彼と会ったら、年月を経た姿で再会したのだ。しかも父親となったほどの年月を隔てた。タイムマシンと住んでいる世界の違いというのを実感する。
「その写真は?」
「せがれですよ」
のび太が手帳に挟んでいる写真は、生まれた息子『ノビスケ』(セワシの曽祖父)を抱く妻のしずかと、のび太だった。のび太がドラえもんの助けを得て築き上げた『幸せ』がそこにはあった。雁渕はのび太の姿に眩しさを感じる一方、ひかりへの罪悪感を大きくする。のび太は危険を乗り越えた末に、幸せを掴んだ。それを目の当たりにした孝美は自問自答する。『自分はひかりを籠の中の鳥としてしか見ていないのではないか?』この罪悪感はのび太の得た幸せを見ることで増大し、彼女を病的にまで戦いに駆りたたせるのであった。そのため、その姿を心配した智子はドモン・カッシュに連絡を取るのだった。
――智子はこの頃には昇神が最終段階に近づいており、以前は見せなかった『後輩への面倒見の良さ』を見せるようになり、黒江の『姉』を自認する言動をするようにもなり、周囲を驚かす。(実年齢は黒江が二歳ほど上)、詳しい事情を知らない者からは『スリーレイブンズの次女』扱いをされているのも頷けるほど、自分が黒江の面倒を見ている事を意識している智子。黒江も生来の性格を智子の前では見せ、甘えるような言動も見せるため、この頃から『スリーレイブンズの三女』のポジションに落ち着き始める。それは黒江の『死後の人格』が智子がいなくなった後に味わった『寂しさ』を紛らわすため、ずっと抑えてきた感情のタガを外したためで、そのため、以前より若々しい態度も見せる。作戦前、宇宙に行くからと、好きな丼食べ放題チャレンジに智子を連れ出し、二人でダメそうになったので、赤城と大和を呼び出すという禁じ手を使う。大和と赤城は『謎のフードファイター』という触れ込みで、その店のチラシに載る事になるが、大和は痩せ型の大食いである事が公になる事を気にしていたが、赤城の一言で、副業として『フードファイター』を始め、それまで縁の薄かったバラエティ番組に出演するようになり、黒江と智子はその司令塔的扱いで、戦争中でもバラエティ番組にはできるだけ出演するのだった。――
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