外伝2『太平洋戦争編』
四十二話『告白と真意』
――神隼人は、真ゲッターは出来れば、自分達で動かしたい(ゲッター線への耐久値的な意味で)のだが、立場上、おいそれとパイロットができなくなった事により、後輩らに真ゲッターロボを託す事も考え始めていた。スリーレイブンズが訓練途上の際、様子を見に来たアムロへ、その旨を漏らした。
「アムロ少佐、真ゲッターロボを動かすにも、今の立場上、俺達はパイロットだけをやるわけにもいかん。理想としては、號達が育つ事だが、あのガキ共にも、パイロットをやってもらうやもしれん」
「あの三人か。どうなんだ?」
「ドラゴンに耐えられているから、鍛えれば可能かもしれん。元々、Gは初代より10倍のパワーが有る。それに耐えられれば、たいていのゲッターに乗れるが、真以降は未知数だ」
「君も年寄りくさい台詞を言うようになったな」
「俺も20代の前半を終えつつあるし、研究やると、どうしても時間の空きが無くなるからな」
「號達に乗ってもらいたいのが本音か?」
「出来れば、な。が、事がそう上手くはいかんのは、俺達自身で実証している。真ゲッターは、G耐性よりゲッター線への親和性が問題なんだ。 ゲッター線親和性が高ければGが緩和されるんだ。 チェックシステムを作って見たんだが、アムロ少佐も、今後の話のネタに体験してみないか?」
「俺はリアルロボットのパイロットなんだがな。まっ、話のタネにいいかもしれん」
「あのガキ共で試したが、號達にも劣らない親和性は確認できた。おそらく、リウィッチ化した際の副産物だろう」
――アムロへ隼人は説明する。スリーレイブンズのゲッター線への親和性は號達にも劣らないほどの高い水準であるが、これはゲッター線でリンカーコアが活性化したためであると推測していた。
「それと、政府の中にはいるんだな、『正規パイロット以外にゲッター乗せるな!!危険だ!!』とかのたまうの。俺達からして、現地徴用なんだがね」
「スカウトと聞いたが?」
「表向き、さ。竜馬はホイホイついてくる性格ではないからな。武蔵はただの柔道家、弁慶に至っちゃ、親がパイロットなだけの野球部員だったしな」
初代ゲッターチームはそもそも、全員が正規パイロットの死亡により、その辺にいた空手家、革命家、柔道家の高校生(当時)をパイロットにでっち上げたのが始まりで、武蔵の死後に補充要員として入った弁慶も野球部員である。正規パイロットが本来、初代ゲッターロボの段階で別にいたのは知られていない。
「俺達の搭乗を考慮して、操縦が簡便になったのは、Gが最初だよ。博士がGを考えた頃には俺達がパイロットとして扱われていたしな。初代は音声入力がまだ完全じゃ無いから、レバーの操作とかスイッチの操作を同時に行う必要があって、めんどくさかったのを覚えている」
初代ゲッターロボは本来、宇宙開発という題目で造られたため、武器の搭載はイレギュラーに近い。Gは戦闘用途に造られたので、その兼ね合いもあり、音声入力が導入された。それは以後のゲッターに受け継がれている(アークでも)。隼人としては、真ゲッターロボの正規パイロットはあくまで號、翔、剴に継承させ、あの三人はあくまで『補欠』という立ち位置か、ゲッター斬に回したいようだ。
「俺としては、ガキ共には、暫定的にだが、新型の斬に回って欲しいんだがね。あれは女性の搭乗前提にしてあるしな」
「ああ、君が橘博士から受け取った設計で作ってる?」
「ああ。その旨、少佐の口から伝えといてくれないか?」
「ああ、分かった。軍団が組織される以上、パイロットは一人でも多く必要だからな」
こうして、黒江達はアムロからという形で、ゲッターロボのパイロットとしての正式ライセンスの獲得と、正式パイロットとしては『ゲッターロボ斬』に回って、真ゲッターロボには補欠という形で登録される事が通達された。これはネオゲッターロボの『一文字號』、『橘翔』、『大道剴』ら二代目チームが真ゲッターロボへの機種転換訓練を受け始めたのとの兼ね合いであった。これは当時、翔以外に、斬を乗りこなせるであろう女性パイロットがいなかった(早乙女ミチルは行方不明扱い)事も大きかった。テストパイロット扱いであったが、元々の前職がテストパイロットであった黒江は二つ返事で了承した。
「ところで、ゲッター斬だが、元々はどういう計画だったんだ?」
「ミチルさんが昔にテストパイロットしていた、ゲッタークイーンあるだろ?あれの本格戦闘発展させたブラッシュアップの量産型の計画だ。平行して、正規のパイロットにする予定のガキをスカウトして、前々から養成しているんだが、今のデータを見ると、まだ実戦で出せる練度でもなかったからな」
「それでドラゴンを乗りこなした、あの子達をテストパイロットに充てがおうって腹か。ふふ、君も中々、危ない橋を渡るな」
「危ない橋程度であれば、初代に乗ってる時にいくらでも渡ってきたさ。あいつらは即戦力になるからな。真は補欠扱いに留めておく。あれはふつーの人間には耐えられんゲッターだからな」
「君は人外、という風に取れるが?」
「そう取ってくれて、構わんさ」
――こうして、ゲッターロボ斬のテストパイロットという形で落ち着いたスリーレイブンズ。アムロからその旨が伝えられた時、黒江は落胆する事も、怒ることもなく、二つ返事で了承した。真ゲッターや真ドラゴンを真に扱えるのは、竜馬や號などの『ゲッターに選ばれし者』だけである事は既に、『知っていた』からだ。
「別に、真イーグルの椅子を取ろうなんて気は、さらさらありませんよ。真を本当に扱えるのは、竜馬さんか、拓馬か、號とかの『ゲッターの申し子』だったり、『選ばれし者』なのは分かってますし。ただ、こうでも言わないと、高度なシミュレーター訓練は受けられませんから」
「『分かっていた』ようだね。真ゲッターロボを訓練を受ける『口実』に使うとは」
「何分、今の自分は、ネットに溢れてるような『逆行』、『転生』系のSSみたいな状態なもので」
黒江は、アムロには隠し事は無理なことは分かっているので、自分達の本当の事情を話す。ゲッターは意思に応えるが、黒江たちのように、死後に神格に至った者には『自分の力で戦ってくれ』とするスタンスを取っているため、たとえ、乗ってもフルポテンシャルは引き出せない(実際に、黒江が晩年に真ドラゴンへ怒りに任せて乗った際、それは証明されている)。
「なるほど。それで、君の態度が変わったわけか。少し子供っぽくなった、とは思っていたが」
「恥ずかしい話ですよ、200年くらい聖闘士してて、親しい人間達と別れる事が辛くなっちまうなんて……。心ってのは、体に案外引き摺られるみたいで……。恥ずかしながら」」
「それは、君が自分の感情のままに生きる事を選んだ証でもあるさ。別に、恥ずかしくはないさ。もし、俺も15の時に戻って、ララア・スンと出会ったら、やはり当時そのままの事をするだろうからね」
アムロは、ララア・スンの事を思い出したか、感傷的になったらしく、遠い目をした。アムロは黒江の告白を受け止めてやるに値する寛容さと包容力がある。成長し、ベルトーチカという恋人を得た事で、『大人』というものを理解したからだった。
「君は『過去』に戻り、過去の仲間たちの温もりを思い出すことで、神格になった事での寂しさを紛らわすために『来た』のか?」
「半分は。でも、今、この時間は紛れもなく、生きている時間なんです。未来は変えられる。のび太がそうだったように」
「未来、か。タイムマシンで些細な歴史改変は当たり前にされてきてるから、今更、驚きはしない。それこそ、ネオ・ジオンのハマーン派やザビ家派も一年戦争で何度か試そうとしたという記録もある」
「本当に?」
「ああ。結局は望む形での未来が来なかったから、断念したらしいが」
タイムマシンで歴史改変を目論む事は、ネオ・ジオンも当然ながら目論んだ。だが、数回ほどの実験は失敗と言える結果に終わった。その計画は『ONE計画』と言われ、ネオ・ジオンのザビ家とハマーン派は『一年戦争を勝たせれば、ジオンの立場は良くなった』とし、一年戦争の重要な局面に当時の最新鋭機とそのパイロットを送り込んで、数回ほどの歴史改変を行ってみた。例えば、ソロモン戦に『ザクVの大隊を送り込む』、『キシリア・ザビのギレン暗殺を止める』などの些細な改変から、『コロニー落とし』を行わないで、最終時の装備で連邦軍を蹂躙するという大規模な改変も試行された。だが、結局は『ガンダムが更に高性能になってしまい、手がつけられなくなる』結果でしかなかった。ゲルググを鹵獲し、連邦軍は必死に解析し、更に圧倒できるだけの性能を求めるのは必然である。そのため、『ゲルググを開戦時に送り込んでみた→ガンダムが史実のマークUの構造と性能を持つ機体になってしまった!』という失敗例が記されている。そのため、ジオンは歴史改変を諦めたのだ。
「どういう風に?」
「報告書によると、二桁単位で、軍事的・政治的に改変が試みられたが、一年戦争に勝ったとしても、ザビ家の内紛か、シャアの蜂起が早まり、ジオンは滅ぶだけという結果が出たそうだ。ハマーン・カーンも流石に落胆したようだよ」
「それで、ハマーン・カーンは一騎打ちで、ジュドーとダブルゼータを倒すことにこだわったと?」
「そうだ。だが、奴は負けた。シャアも俺に敗れたが、ジオンという存在を存続させるための人身御供にされているのさ。考えようによっては、可哀想な奴だよ。ララア・スンの幻影から離れられないのさ、シャアは」
アムロはアクシズ落としからの生還後、シャアに同情するようなスタンスであった。シャアはララア・スンに自分以上に縛られ、更に『ジオン・ダイクンの遺児』というだけで、明確な政治ビジョンを持ってはいない。ジオニズムも、その源流のエレズムも何ら信じていない。そのため、ジオンの指導者たる器でありながら、ジオンを保つ事は考えていないという状態にある。
「奴は俺にライバル意識があるが、俺は別にライバル意識は持っていない。道化をライバルと認める訳にはいかないからな。奴は道化を嫌っていたが、今まさにそれになっている。皮肉なものさ」
「言いますね」
「奴はジオンの指導者という立場だが、当人がそれよりも『一パイロットでありたい』ような『軍人気質』だからな。クワトロ・バジーナであった頃の姿が『キャスバル・レム・ダイクン』の素なんだろう」
シャアは颯爽とした振る舞いがプロパガンダされているが、クワトロ・バジーナとしての姿を見ている者からは『情けない男』と言われる事が多い。カミーユも『クワトロ大尉を尊敬はしていましたが、僕から見ても、情けないという印象がある人でした』と、アムロに語っている。
「操縦技術は一流、ルックスも一流、赤い機体を持つエースパイロットという好条件がありながら、他が二流以下なのがな……。ハマーンを歪ませた最大の原因で、しかも、彼女を否定しながら、同じような事をしでかした。本当に情けない奴だよ」
とことん辛辣である。かつて、セイラ・マスに焚き付けられていた事もあるが、それにしても、辛辣である。
「それじゃ、シャアがネオ・ジオンの再建に動いているのは?」
「ハマーンやガルマ・ザビ、もしかしたら、名を奪った本物の『アズナブル』氏への罪滅ぼしかもな……。アズナブルと言う名は奴の変名でしか世に知られていないしな……」
ハマーンを歪ませた事へ罪悪感があったのか、ハマーンが10代前半時の写真を部屋に置いている事は、アムロも知っていた。若き日のハマーン・カーンはボブカットの髪型ではなく、ツインテールの『美少女』で、死亡時より甲高い声色をしており、連邦軍、とりわけジュドーが腰を抜かしたほどである。どこがどうしたら『女傑』と呼ばれるだけの迫力を持つ女性となったのか?ジュドーが写真を二度見したほどだ。
「罪悪感?」
「俺のかってな推測だがね。ハマーン・カーンの若き日の声色は死亡時のものとは別人レベルで違うから、ジュドーでさえ驚いた」
ハマーンはシャアが逃げ出した後、指導者たるべく、自らを律し、その声色もトレーニングで変えたという記録がある。少なくとも、デラーズ紛争当時にはそれが終わっているので、短期間で行われたというのがわかる。元々の声色は、例を挙げると、シャーロット・E・イェーガー似であったらしく、ハマーンの妹で、行方不明となった『セレーナ・カーン』の残した遺品でそれが分かる。生前のハマーンと相対した経験がある、カミーユとジュドーの両名が目玉飛び出るほどに腰を抜かしたとは、アムロの談。
「まったく……奴は女性の扱いが下手だよ。何人の女性が泣かされたか……」
かつてのレコア・ロンドもそうだが、シャアに失望した者も多く、シャアが現在、最も気にかけているはずの実妹が、アムロに『兄を殺せ』と囁いているというのは皮肉な事だ。
「アムロさん、もしかして、セイラさんに焚き付けられてました?」
「昔な。今はシャアを倒すよりも、屈服させて改心させる方向で考えてるよ」
アムロはアクシズ落としの際に、シャアに精神的にも勝利したためか、シャアを懲らしめるという方向に転換していた。そのためか、シャアを『殺す』という選択は、サイコフレームの共振の後は捨てたのが窺える。
「シャアは自分の得意な分野で、初めて他人に遅れを取った。その俺を倒すことで『青春』にケリをつけたいのさ。奴の青年期は『俺との青春』であったからな……」
アムロはシャアを『超えていた』が、シャアには地球圏に混沌をもたらすに値する権力があり、アナベル・ガトーのような過激派も内に抱えている。
「シャアはガトーを使っている。ガトーは生粋の軍人であるが、デラーズの薫陶を受けた『過激派』だ。ジオンのためなら、どんな悪行も行える。たとえ核で汚染させようが、大陸を吹き飛ばそうが、な。ウラキ中尉との因縁も深い」
「コウさんと?」
「ああ。同棲しているニナさんの前の恋人がガトーで、ニナさん、不味い事に、土壇場でガトーを取ったような行動取ったから、ウラキ中尉が女性不信になってな」
「あー……」
コウ・ウラキがニナ・パープルトンとの結婚を未だにしないのは、ニナ・パープルトンがデラーズ紛争で取ってしまった行動の結果、女性不信になってしまったためである。同棲自体は何年もしているのに、だ。それは今や、ロンド・ベルの皆の周知だ。
「ウラキの親友のキース曰く、元々メカフェチだったが、その後に症状が進んだらしい。なんでも、最近はドラミちゃんにアプローチするくらいだとか」
「!?う、うそーん……ニナさん、何しでかしたんすか……」
黒江も流石に閉口した。ドラミにアプローチするというのは、かなり重症だからだ。
「さて、俺は検査を受けたら戻るよ。君達はこれから、シャインスパークのタイミング合わせの訓練だろう?」
「はい。アレって大変なんすね……タイミングがシビアで……」
ゲッターロボGに乗る事は、シャインスパークの際のペダル踏みの訓練を定期的に行う必要があると言うことだ。その事で竜馬にかなりシゴカれており、黒江はG以外のゲッターロボに乗るため、真ゲッターロボへの乗り換えを示唆する事で、シミュレーター訓練を受ける口実に使った。
「君もやるもんだな。真ゲッターロボへ乗り換えたいと公言する事で、訓練を受ける口実を捻り出すとはね」
「こうでもしないと、隼人さんが訓練受けさせてくんないのわかってたんで、周りに言いふらす事で、隼人さんが動くの待ってたんです」
「それで、斬に乗る準備か」
「はい。アレはドラゴンよりも攻と速はいいですから、ちょうどいいですし」
黒江はゲッターシャインの必要がない斬に乗りたいらしい。防御は比較的薄いが、『当たらなければ、どうということはない』だ。教習機の真ゲッターロボ型は最近、號たちが専ら、機種転換訓練で使用しているので、性能が近いドラゴンの練習機仕様のパワー増大型で斬への機種転換訓練を行っている。練習用武装の多くも斬に準じたものに変わっており、トマホークは火斬刀、ビームは腕や胸からも撃てる『斬魔光』となっている。
「フジには理由言って、書類を土壇場で斬に書き変えさせてます。なので、公では真を諦めたように振る舞いますよ。そうでないと、発言との整合性取れないんで」
「それがいいな。俺もそのように振る舞うから、君らの演技力に期待するよ」
アムロはこの後、公では『黒江を説得し、真ゲッターロボへの搭乗を諦めさせた』と周囲に触れ回る事で、黒江が予め、周りに触れ回っていた発言との整合性を調整した。
――武子は、アムロ達が宇宙艦隊戦を片付けるのを見届けると、どこでもドアをのび太から借りる形で、自分がいなくては不味い『式典』や『視察』に対応していた。宇宙に出たはいいが、この月は、参謀や高官の前線視察などが控えている月であったのを忘れていたからだ。
「大佐、忙しいですねぇ。作戦中に式典や視察の対応なんて」
のび太が同情の言葉をかける。武子はうんざりした感じで、『もう!!作戦中なのに、どうして、参謀とか高官が前線視察に来るのよ〜!』とストレスが溜まっている台詞を発した。仕方がないが、空軍は創立間もない軍隊である。内部では、近代的な空戦に理解のある旧陸軍航空閥の力が、その中でも、とりわけ、江藤の系譜を継ぐ者の力が強く、更に間接的に空自から影響を受けている。それを嫌う旧海軍出身閥などとの派閥抗争に事欠かない。反骨精神旺盛な江藤敏子は、空軍を『戦前の陸軍飛行戦隊の気風を残す空自』に育てたいと公言しており、それ故に海軍航空閥からは、『米軍の傀儡になった空自など見習うべきではない!』という意見が絶えない。これは扶桑海以来、専ら主導権を握られぱなしの海軍閥としては、陸軍航空閥寄りの源田を快く思ってはおらず、その子飼いであるスリーレイブンズを疎んじていた。これは源田が強権を奮う事で、343空にエースパイロットを集めていた事、その人員を元に返さないで、そっくりそのまま空軍に持っていった事、源田がそのまま空軍司令官に任じられた事などが要因だった。坂本Aが以前、この事に猛反発し、一時、問題になったのは、前線から本土にエースパイロットを引き抜いていくのに反感を持ったからである。
「多分、私たちは江藤隊長の系譜だから、海軍出身者から疎まれてるのよね。源田司令の子飼いって評判立ってるし、最新の航空用兵知らない海軍出身の阿呆ども、個人単位でエースパイロットを表彰すると、怒るのよね」
「は?ふつーは褒めるでしょ」
「海軍にはあったのよ。個人よりも集団戦果を重んじる風潮」
日本海軍航空隊は、個人単位の戦果を誇るなといいつつも、陸軍への対抗心から、多量撃墜者は感状と金鵄勲章の確約の軍刀を与えるという姿勢と風潮であり、矛盾した風潮を抱えていた。それは扶桑においても同様で、他国と対陸軍へのプロパガンダで、クロウズを強力にプロパガンダする一方で、海軍には『エースパイロット』という称号は無いと言い張っていた。が、連邦軍との接触、亡命リベリオンが逃げ込んできた事、空軍の設立がその全てを覆した。天皇陛下が『撃墜王の存在が国民の士気の高揚と慰めになるのなら、それでよろしいのではないか?』と発言した事もあり、国内向けには『撃墜巧者』、他国へは『エースパイロット』とする公式制度が空海で導入された。当然ながら、その時までに公的に個人戦果記録が残されていた部隊ほどランキングで有利であり、トップ20は64Fで占められており、その内の更にトップ10は、全てがその幹部である。意外な事だが、スリーレイブンズはその中では真ん中当たりである。これはウィッチとしては、おおよそ数年のブランクがあるからで、撃墜数そのものは西沢や若本には及ばない。一方、菅野と芳佳はペアなため、ほぼ同じ位置におり、ここでもバディぶりを見せている。撃墜ペースでのトップは赤松・若本・西沢がダントツであり、ハルトマン達に引けを取らない数である。撃墜数の数では、言わば『三巨頭』が君臨するが、大物とされる『大型怪異/戦略爆撃機撃墜数』の分野では、黒江がトップ5に入る。黒江は大物食いが得意であり、歴史改変後においては、逆落し戦法の先駆者ともされているため、その分野では大物である。
「343空出身者でも、志賀淑子少佐が異議を唱えてたし、揉めたのよ、ウチでも」
「で、その少佐、どうなったんです?」
「連絡将校+テストパイロットという形で残ってはもらったけど、居心地悪いからか、あまり顔見せないのよね。親父さんが引き止めてなければ、どこか別の部隊に行くつもりだったみたい」
志賀少佐は343空から横滑りで空軍へ移籍したものの、他部隊・陸軍航空から大量に熟練者が来るためか、64Fでは飛行長の職を固辞した。そして、エースパイロットの称号の創設で、部隊内では少数派の反対の考えだった(良くも悪くも海軍航空出身者であった)事から、隊の不和を招いたと猛省し、以後は姿をあまり見せない。
「それで、今は圭子に飛行長と大隊長を兼任してもらっているのよ。今度会ったら、教官くらいはやらせたいわね」
「で、今の用はなんだったんですか?」
「統合参謀本部主催の閲兵式の打ち合わせよ。圭子にアクロバット飛行をやらせようなんて、ねぇ……」
「あ、ああ――。ケイさん、落っこちて、死にかけたとかなんとか」
「改変前、ね。改変後は怪我で済んでるから」
圭子は立場上、アクロバット飛行も本来は率先して行うべき立場だが、歴史改変前の経緯もあり、アクロバット飛行だけは、ブルーインパルスに在籍経験がある黒江に押し付けていた。(その期間はおおよそ、2000年代末期から2010年前後までであり、のび太が大学在籍中の航空祭にて、のび太の大学合格を祝う意味もあり、その航空祭で、派手な演目を行ったなどの伝説も作った)そのため、圭子がアクロバット飛行しないのを疑問に思った参謀から『編隊飛行訓練をサボっているのではないか?』と冷やかされたのだ。流石の圭子も、この一言を聞かされ、カチンときたらしく、『参加するわ……。その参謀をぎゃふんと言わせてやるー!!』と怒り心頭だ。
「閲兵式はいつで?」
「作戦が終わり次第よ。本来なら一昨年くらいにやる予定が、開戦で伸び伸びになって、一般人から不安の声が出たから、士気高揚にやるみたい」
「閲兵式、か。戦時中にもやるんですね」
「士気高揚と、あなたの故郷向けのプロパガンダよ。余裕があるってところを見せないと、あなたの国のブンヤがうるさくてね」
「うちの国のブンヤはあっちよりなの多いですから、気にしなくていいのに」
扶桑は実際、本土防空には、戦中日本の100倍は強力に力を入れており、既に高高度の戦略爆撃機を余裕持って要撃できる力を備えている。しかし、日本のマスコミが憶測で扶桑向け記事を書いたため、扶桑国民は混乱し、その結果、いくつかの新設航空隊は前線行きが取り下げられてしまった。青年のび太もそのことには呆れており、扶桑空軍は消耗戦を強いられている事に同情していた。消耗戦に陥り、機材があまりに不足したため、黒江と智子が合成鉱山の素で、孫世代の第一線機『F-15J』を調達することを実行したのも無理からぬ事だ。そのため、運用指導に孫娘を呼ぶ羽目となったのだ。
「おかげで、未来から孫娘を呼ぶ羽目になったのよね」
「お孫さんを?」
「ええ。子供は軍に行ってないから、孫を頼ったのよ。私のポジションの後継でもあるし」
武子の孫娘の美奈子は、武子と瓜二つの容貌を持つ。違いは戦闘時に戦闘服になるか否かくらいだ。階級も20歳時で同階級であるので、影武者になってくれと頼んでいる。そのため、武子と死別して7年で、美奈子は青年期の祖母と『再会』した事になる。
「それで、他の部隊から文句が出ちゃって。前線でストライカーの補給が追いついてないのに、ウチだけ、次世代の更に次世代な15を装備しちゃったから」
「マルヨン世代が最新鋭な時代に、イーグル持ってくるなんて、それこそ、一年戦争でSガンダムを使うみたいなもんですからね」
のび太の言う通り、F-15ストライカーはISと同等の機動性を誇っており、この時期に『普通』に作られているジェットストライカーとは隔絶した超高性能を誇る。この時代でのジェットストライカーの常識たる『一撃離脱』に専念するどころか、『巴戦でも世界最強』であるのが15なのだ。
「そうなのよ。行く前、智子がカールスラントのハルプ実験隊の前でドヤ顔で性能差見せちゃってね、先方が放心状態に」
「やりすぎ!」
のび太が突っ込む。F-15とMe262とでは、まるで地力が違うのだ。15はマッハ2.5を誇るが、262はせいぜい870km/h。加速力もアフターバーナーがあるので、シュワルベの比ではない。智子は262(履いているウィッチはヘルマ・レルナンツ)が充分に加速している状況で、アフターバーナーを焚く事で、瞬く間に抜き返したのだ。あまりの性能差に、カールスラント技術陣を放心状態にさせてしまった。その時の様子は以下の通り。
――試験場――
「お、追いつけないであります!?グングン引き離されて……」
ヘルマはウルスラにそう報告する。最大加速を行っているのに、自機が止まっている錯覚すら覚えた。カールスラントの量産可能なストライカーでは最高レベルの機体が、20年前の初期型か、戦間期のそれになっているのかと思わせるほど、15との性能差は大きかった。さらに、試験場のカールスラント勢が瞠目したのは、その驚くべき機動性だ。レシプロストライカー並に小さい旋回性能を持ち、ジェットは一撃離脱専用の常識をぶち壊す光景だ。これは使用用途が『制空戦闘』なために可能となった事だが、実用化された本来の年代の『1970年代』としては保守的な技術の集合体である。
「!?」
「悪いわね。機動性も『ダンチ』なのよ♪」
実は、この旋回半径の小ささ、智子の高いストライカー技量によるところが大きく、平均的なウィッチが用いた場合はもっと大きくなる。智子が15を履いたらどうなるかの証明だった。
「何、あの機体……。切り返しから、90度向きを変えるのに数秒しか……信じられない……今の技術であんな事……」
『落ち込まないの、ウルスラ。こいつは未来から引っ張って来た機体なんだから、性能差あって当然よ』
「え!?ど、どういうことなんですか、ちゅ……いえ、大尉」
地上で放心状態のウルスラへ、智子が声をかける。『15』ストライカーは1970年代の次世代型宮藤理論で構築された『宮藤理論の集大成』の機体なのだ。それが初期段階の機体で追いつける道理はない。言うならば、『戦闘機に爆撃機がドッグファイトを挑む』ようなものだ。それと、想定された用途がまったく違うのだ。15ストライカーは『空の王者』たらんとして造られたが、262は対大型爆撃怪異の要撃特化なのだ。それ故、飛行性能が違うのは時代的にも当然なのだ。
『60年位後の機体だから、ドッグファイトくらいこなせるつーの。つーか、出来なきゃおかしい』
「智子大尉、随分と垢抜けましたね……」
ウルスラは、少女時代、智子の印象を『真面目で、頼りになるけど、同性愛気味』と感じていたので、黒江と組んで以後の『23世紀ナイズ』された姿の智子とは、この時が初めての対面だった。
『あんた、あたしのことどう思ってたのよー!」
「すみません、ここではなんとも……」
『ウ〜ルス〜ラ〜!』
「す、すみません!」
拗ねる智子だが、かつてと人物像に大きな開きがあるため、茶目っ気が大きく増した今の姿は、ウルスラには信じられなかった。まるで別人のように明るく振る舞っており、ジョークも嗜むと言うのは、かつてと別人のように見えた。それは大姪にして、後継者の麗子にも通じるもので、紛れもなく、麗子は智子の子孫なのだ。(黒江が頼ってくるので、実家での素が出せる様になった、というのもある)
「――ってわけ。あの子が暴れたもんだから、先方に説明するのが面倒で……。あーもう!あのバカぁ!!」
と、昇神しても苦労性なのは変わらず、頭をかきむしる武子。そこは『生前』と変化なしである。
「あ、ごめんなさい、孫から電話が」
「いえいえ、構いませんよ。今、僕もドラえもんから電話が」
のび太に電話をかけてきたドラえもん。この頃になると、野比家からは離れていたが、功績を認められ、連邦政府に雇われて、エージェントをしていた。(本来の製造目的から離れまくりである)また、あの姿では有名すぎて、諜報活動が不可能なので、『ぬいぐるみせいぞうカメラ』で、かの有名俳優『ジ○ン・レノ』の姿の着ぐるみを着て行動していた。俗に言う『偽装スキン』に近い。のび太からは不評(渋いフランス人壮年男性なので)だが、ドラえもんは銃器も扱えるため、さながら『レオン』出演時の彼のようである。チョイスがなぜジ○ン・レノなのかは、のび太でも分からないが、ドラえもんは意外に楽しんでおり、コートも姿なりに渋めのものを着込んでいるので、ネズミが苦手以外は、姿に見合った渋めの男性に見える。
「ドラえもんがそちらにお医者さんカバン送ってくれるようですよ」
「ありがとう。でも、ドラえもん、あの姿じゃ目立って……」
「こんな姿になっていますよ、今は。仕事で」
「えーと……ジ○ン・レノ???なんで??」
「なんでも、豚の飛行艇乗りのアニメで人間に戻った姿と似てるフランス語版の声優だったからそうな。エージェントとしての上司がそのファンで」
「『飛ばない豚はただの豚だ』って奴?あれの主人公はイタリア人でしょうに」
と、しょーもない理由に呆れる武子だが、ドラえもんが掴んだネタがマジンガーZEROについてのものであったので、思わず身を乗り出す。ドラえもんの調査により、マジンガーZEROがウィッチ世界の下層世界を既に3つ以上滅ぼしていたというのだ。
「ZERO……許さないわよ……よくもよくも……」
武子は怒りを燃やす。自分のいる世界と関係がある他世界が3つ以上も、身勝手な邪神により滅ぼされた。しかも地球まるごと。ゴッドマジンガー。ゴッドマジンガーさえ来てくれれば、ZEROを倒せる。あの『地獄のような光景は見たくないし、味わいたくもない』。無力感に打ちひしがれるのは、もうごめんだ。ZEROに焼かれて死んでいった別の自分、数年前の風翔での出来事は。
(別の私達……、あなた達の無念は、この『隼』、加藤武子が必ず晴らす。鋼の巨神と一緒に)
――無力に打ちひしがれて、散っていったであろう別の自分達の無念を晴らすため、武子は作戦の完遂と、ZEROの打倒を誓う。ZEROはすぐそこまで迫っていた。自分が最強である事を証明せんがため。だが、ZEROの力の根源たる兜甲児がゴッドとともにあるという矛盾がそこにはある。黒江がゲッターロボ斬を欲したのは、その対策もあった。ZEROは征く。自分以外のマジンガーを認めるわけにはいかないがため、兜甲児に相応しいのは自らだと証明せんがため。ゴッドも待ち構える。強烈なエゴから生まれ、Zの負の面を具象化させた存在といえるZEROへのアンチテーゼと言える『善性』の象徴であり、『Zの生まれ変わりであり、半身である出自を持ち、グレート以後のマジンガーに込められた思いの象徴である『剣』を掲げて。両者の対峙は近い。――
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