外伝2『太平洋戦争編』
四十三話『魔神対邪神』


――邪神と差し支えない行いをしたマジンガーZERO。その光景を憂いた『神格化したマジンガーZ』(Z神)は自身の半身が生まれ変わったゴッドマジンガーにZEROを止めるための力を与えたが、それ以外の偶発的要素が一つだけあった。C世界を滅ぼす際、その世界の黒江が、最後の力を振り絞り、圭子と智子の仇を取らんと、秘剣・雲耀で斬りつけた事だった。黒江は両断を確信したものの、ZEROはその攻撃を嘲笑うかのように、マジンパワー『再生』、『吸収』を使い、愛刀を魔力ごと吸収し、取り込み、傷を再生した。が、散っていった二人の親友の意思をも得、ぶつけられた魔力は、ぶつけたZEROの内部をゆっくりと蝕んでいった。その三人の遺志は、A世界で昇神し、人間としての自身と完全に『別個の存在』となった当人たちにも、タイムラグはあれど、ビジョンという形で伝わった。そして。ビジョンを見た日、黒江Aは添い寝モード時に、いつになく情緒不安定に陥った。ZEROへの恐怖が現出したのだろう。智子のもとにやってきた時には、既に半泣き状態であった。

「どーしたの、あーや?」

因みに、添い寝モードが周知の事実となった際、彼女の普段の姿と区別するため、部隊内での文章では、「あーや」と、黒江の小学生当時のあだ名で表されていた。精神年齢が幼子になっている事を表すためだろう。

「うん……。すっごく怖いロボットがきて、みんなを連れて行っちゃう夢みたの……」

添い寝モード時の黒江は、深層心理が表に出ているため、口調と声色が6〜8歳当時のものに戻るが、声がすごく可愛くなるため、整備兵らからは密かに人気である。(普段はガラが悪い荒くれ者と言えるので)

「ともこおねーちゃんは、いなくならないよね?」

その問いかけは、智子Cの死のビジョンが『武子を庇い、光子力ビームで下半身を消滅させられて息絶える』という、凄惨極まりない光景であったためだった。そのビジョンが智子の大親友を自称する黒江Aに、強い精神的ショックを与えたのだ。

(あー……ZEROは因果律兵器を持ってるからなー……。怯えたのね。きっと。あたしが殺されるって)

黒江Aは知っていた。ZEROが最強と豪語するだけの自信を持つ理由を。ZEROが完全体であれば、因果律操作能力すら持ち、超合金ニューZαであろうと、破壊する因果を導き出せるという恐るべき能力を持つ事を。『C世界などが滅ぼされた=どんなに強くなっても、殺された因果を出現させられ、智子を奪われる』という恐怖を抱いたのである。その恐怖が情緒不安定にさせているのだと、智子は推測した。

(甲児から聞いたけど、『因果律が通じるのは、平行時空に望む結果がある場合であり、ない場合は演算の必要があるが、出現はさせられる。しかし、対象が神格化した場合は、因果律兵器の効用外になる』のよね。だから、この世界のあたしはZEROも手を出せないのよね、あーや)

甲児はZEROの持つ能力のもとになったであろう兜十蔵博士の構想ノートを発見しており、既にゴッドには『反因果律操作装置』が組み込まれている。なので、ゴッドが守ってくれる、と言っても過言ではない。

(あー!そう言えば、二回目のビジョンが来た時間は……!そうだ。添い寝モード発現後の時間だったんだー!!。しゃーないわねぇ)

「あたしはいなくならないから、安心しなさいな。ほら、ベットで話をしてあげるから」

「うん……」

黒江の添い寝モードは、事実上の多重人格と言えるものだ。普段は『男性的な荒くれ者の10代後半の少女』の主人格だが、それと分かれた、本能の芯的な部分が反映された『子供』の人格が夜になると活動する。声色が違うのはそのためである。この多重人格が現出したのは、505事件からしばらくしての事で、ロンド・ベル所属になり、未来で共に暮らし始め、邸宅を構えた頃だ。心療内科の医師は、『部下に置いて行かれ、そのショックと、過去の折檻の際の精神的な傷を、豪放磊落と振る舞う事で覆い隠してきたのがついに破綻してしまったための自己防衛本能だろう』との所見を述べている。智子と圭子は、黒江の多重人格化を受け入れてやる事で、黒江の安定を図った。それはやがて、部隊での暗黙の了解となり、泣かせた者は赤松が直々に制裁を加えると宣言するほどに広まっている。(因みに、それを知らないで、邪険に扱ったあるウィッチは、赤松直々の鉄拳制裁を食らったという。501時代には、このモードがヴァルトルート・クルピンスキーの審美眼に叶い、危うく手を出されそうになった事があるが、それを察知したハルトマンが飛天御剣流で阻止したというエピソードもある)


――その際には、流石のハルトマンも半ギレになっていた。その様子を見てみよう。

「お、お、おい!待ってくれよ、エーリカ!?つーか、その刀はどこから…」

「はくしゃーく?今回ばかりはライン越えてるよ……?」

ハルトマンは半ギレになっているためか、顔は笑っているが、目が修羅になっていて、刺すように冷たい視線を向けている。そして、腰に下げていた刀を抜き、構える。ガランドとスリーレイブンズのツテで得た、名刀の童子切安綱である。

「待った!話せば分か……」

「問答無用!」

ハルトマンは突進し、そこから峰打ちで9つの斬撃を同時に繰り出した。

『飛天御剣流……九頭龍閃!』

9つの連続した打撃音が後から響き、クルピンスキーはその凄まじい打撃力で大きく吹き飛ぶ。受け身は取ったらしいが、それでもすぐには立ち上がれない。

「折れてはいないはず、二〜三ヶ所急所で痛いところ入ったみたいだけど」

「いたた……。死ぬかと思った……。まさか、ハルトマンがこんなに剣に通じてるなんて……。それも扶桑の剣術にさ……ずるいったら……」

「伯爵、今度、寝付く前の中佐に手を出したら、五体を斬り刻むよ……?いい?」

「わーった!わーったから、睨まないでよ!怖いってば!」

刺すような視線が怖いらしく、語尾が奮えているクルピンスキー。奇しくも、カールスラント勢では、最初に『剣術の巧者となったエーリカ』の体験者となった。『同門』の坂本は死後の人格となった後は、もっぱらエーリカへ追いつく事を目標にしている。


――坂本は元々、1945年あたりには講道館の師範代に任じられていて、クロウズ一の巧者である自負があったが、1947年前後に全てを体験してからは、『剣を握って数年のハルトマンにやすやすと追い抜かれていた』事に大きなショックを受けており、逆行の目的のいくつかは『追いつくこと』だった。ロマーニャ戦後、人格が入れ替わった坂本は、ハルトマンにその事を愚痴り、ハルトマンはそれをいなし、『ごめんね。追い越しちゃってさ』と、いつもの笑顔で返した。坂本は『ぐぬぬ……』とぶーたれた。ハルトマンは事の全てを知っているため、坂本に『今度は追いついて来てよ、少佐』とだけ言い、坂本も『お前のようなヒヨッコにそう言われるほど、耄碌しとらん。今度は追いついてみせるからな』と大笑しながら返した。ハルトマンは逆行の事を理解した、数少ない人間であったからだ。が、一つの問題があった。坂本は青年期、我が強かった故、憑依時に性格の緩やかな統合が起きず、脳内で喧嘩しているに等しい状態であった。それはマジンガーZEROの襲撃が起ころうとしている時でも変わらず、ZEROが現れた報を耳にした瞬間、青年期の人格が、自分の体を動かせないもどかしさに叫ぶ。それは傍目から見ると、強烈な頭痛に見える。

「うっ……。本当に、この頃の私は『青かった』のだな……。こいつを見て、衝動を抑えきれんとは」

嘆息する坂本。モニターに映るは、ガリアのトゥーロン軍港を理不尽なほどの力で蹂躙し、全てを無に還す『邪神』の姿だった。ZEROは手始めに、C世界と趣向を変え、『絶対的な力の差』を見せつけてから、蹂躙するという質の悪い面を見せる。トゥーロン港のガリア陸海空軍のあらゆる兵器が火を噴くが、ZEROに取っては『蚊に刺された程にも感じない程度』程度にすぎない。大小合わせて、数千の火砲がZEROに火を噴く。が、ZEROはその全てを受け止める。しかも無傷で。戦艦の主砲・沿岸砲台・戦車砲・高射砲・陸上砲台・機銃と言った全ての火力を受け止めたのだ。


「無駄だ。そんな攻撃では足止めにもならんよ」

坂本は達観したような一言をこぼす。そこで頭痛が起こる。副人格化している『青年期の人格』が深層で怒り、叫んだのだ。

――お前は分からんのか?あのマジンガーの力が!――

――貴様、仮にも扶桑のウィッチであるのなら、いや、『あった』のなら、ガリアの努力を嘲り笑うのか!?――

――私は、客観的に状況を分析しただけだ。――

深層でそのようなやり取りが交わされる。その次の瞬間、ZEROはルストハリケーンを放つ。ルストハリケーンと言っても、その威力はルストトルネードをも遥かに超え、もはや全てを根こそぎ吹き飛ばす暴風であり、軍港から街に至るまでの一直線に位置する全てを吹き飛ばし、塵に還す。

――これがあのマジンガーの力だ。トゥーロンは下手すると、地殻まで露出しかねないほどに焼き尽くされるぞ――

坂本AはZEROの本領を『知っている』。大人時代の人格が、血気に逸る青年期の人格を諌めるのは、その力を知っているからだ。

「ああ、言わんこっちゃない」

モニターには、粒子状のサザンクロスナイフを肉薄攻撃をかけたガリアのウィッチに放ち、容易くシールドごと、串刺しにしていくZEROの姿が映し出される。理不尽なほどに力が通じない様に、若手のウィッチが『死にたくない、死にたくない、死にたく……あああああああ…』と、サザンクロスナイフに串刺しにされ、無残な死を遂げる。

――見ろ。これが力の差だ。過去の自分ながら、ここまで血気に逸っていたとはな。力の差を推し測れないなど、武士(もののふ)としての目が腐ってないか?――

坂本は他の逆行者と違い、人格の緩やかな統合が起きなかった。その弊害は当然ながらあり、後世の人物評がバラバラなのである。親しい友人らは『付き合いやすく、友情を重んじ、いつも落ち着いていた』と、関係が薄い者達は『現実見のない昔語りしかしない老害』と、両極端な人物評を残していた。kこれが不幸の一つと言えた。

――坂本の人物評がバラバラなのは、『ウィッチ個人の力が戦況を支配できた最後の時代を経験し、その成功体験を怪異が強力化した1943年以後も引きずっていた』と、44年後半時に若手であった後輩らからは認識されていて、『スリーレイブンズ伝説』に縋った老害と陰口があった事による。これはリウィッチが現れる前の時期に現役、あるいは候補生であった世代には多い『嫉妬』であった。その後の戦線では、現役ウィッチよりも、リウィッチが戦線を支える原動力とされていた、下手な候補生よりも『元エース』のほうが生存率も高いという軍事的理由で、リウィッチが重宝された事実がある。44年後半当時、若手のサボタージュが問題視されたので、各国が扶桑の立案した、(リウィッチを戦力化させる『作戦』(R・W計画という暗号で呼ばれてもいた)の立案に賛成したのだ。この計画の第一陣が圭子なり智子であり、武子であった。こうして、黒江をテストケースに、生み出されたリウィッチは抜群の成果を収めた。特に扶桑は『伝説のスリーレイブンズをもう一度、戦力として使える』という軍事的利点と、その威光による外交の『優位性』は大きかった。彼女らの現役時にあった『軋轢』を天秤にかけてまでの選択であったが、得たものが大きかったので、多少のデメリットは許容された。そのデメリットは『現役世代との軋轢』であった。



――スリーレイブンズがそうであるように、『過去のエースは、現役世代からロートル扱いされやすい』。スリーレイブンズが遭遇しただけでも、かなりのものだった。502との合流に当っては、ロスマンや『伯爵』が模擬戦を挑んだともされる。特に、人格が完全に入れ替わった後に模擬戦を挑んだロスマンは、苦手とする格闘戦に持ち込まれ、撃墜判定をもらっている。この時に智子は『覚醒』を見せており、ラルをして、『孝美の絶対魔眼!?……いや違う!なんだ、あれは!?』と言わしめた。絶対魔眼がとてつもない高リスクであるのに対し、智子の覚醒はストライカーへ負担が大きくかかる以外にデメリットは事実上なく、更にその気になれば、ストライカー無しでも飛べるというメリットが生ずる。それは模擬戦からの連戦で、ストライカーが不調を来たした際、自ら投棄して、自前の翼で戦った事でも証明されている。その模擬戦の様子の最終局面は以下の通り。


――45年の夏のある日――

「……くっ!私の動きを見切られている……!?」

「こちとら、ヒットアンドアウェイの扶桑での先駆者だっつーの。メルダースさんから聞いていたけど、正確な飛び方ね、あなた」

智子はロスマンのメッサーと性能がほぼ互角の四式ストライカーを履き、互いに戦技を使い合うが、巴戦も一級である智子相手では、ロスマンはいつものキレは見せられなかった。ロスマンは元々、体が高負荷のかかる巴戦向けでなく、ガランドの同期にして親友の『ヴェーラ・メルダース』の下で、一撃離脱を研鑽したのだが、単騎での空戦に持ち込まれたら、意外と脆い。それが智子との微妙な技量差となって現れた。

「ふふふ、巴戦ならこっちの思う壺よ。あなたは巴戦に耐えられるだけの体がない」

「こちらの弱点を……!?流石は、元のサイレントウィッチーズ司令……老獪な事を……!」

「老獪って言うほど、年食っちゃいないんだけど!」

「あ、そこですか……」

ロスマンは古参だが、見かけがロリータなので、菅野の迎えのため、野比家に赴いた時など、玉子からは完全に子供扱いされ、密かに憤慨した事がある。一方の智子は、その大人びた外見から、実年齢よりも上に見られる事が多い。特にリウィッチ化後は『黒江の姐さん』的姿を多く見せる事もあり、のび太の両親からは『黒江より年上』と思われている。(実年齢はスリーレイブンズで最年少である)

「ったく、のび太の両親からは綾香より年上に見られてるし、ロンド・ベルでも、あの子がポカやると、怒られるのあたしだし!!うが――!これでも最年少なのに!」

「溜まってますね、大尉……」

ロスマンと智子はこの時、お互いに気苦労が多い事にシンパシーを感じたらしく、この模擬戦以後は気心の知れた仲になっていく。これは菅野と黒江が、添い寝でシンパシーを感じたのと同じで、以後、智子はロスマンの子の代母になるなど、ビューリングに次ぐ親友と見なすようになっていくのだ。

「そりゃそうよ。実年齢は下なのに、周りからは『ちゃんとしつけてもらわんと』なんて言われてんだから……。おかげでペコペコ頭下げるのに慣れちゃったんだから……」

智子は、黒江に第二人格『あーや』が生まれた影響により、『子供っぽい面』が主人格の時にも現れている事に手を焼いていた。あーやは別人格たる主人格にも何らかの影響を及ぼしているらしく、主人格の時であっても以前より天真爛漫な面が見られるようになり、子供っぽさがどことなくある。測定された現在の主人格の精神年齢は高校1年から2年程度と、三人の中では一番に若々しい。因みに、智子はそれよりは上の高校三年程度、圭子は20代前半と、それぞれ実年齢より数歳は若々しいとの事。

「大変ですね……」

「あの子、年相応の知識はあるから、無茶するのよね。狡猾なところがあるのに、それでいて、自分が信じた事はどんな事があっても、貫く。それが『ギャップ萌え』とか言って、人気ある原因なんだけどね」

「ああ、未来の若者がよく使う言葉ですね、萌えって」

「ええ。あなただって、未来に滞在してみたら、分かると思うわ」

黒江は副人格の影響もあり、自分が信じた何かを貫くというところが生まれた。その最たるものが、仮面ライダー達への信頼である。仮面ライダー達を信じぬく事が『彼らへの礼儀』だと考えており、仮面ライダー達に全幅の信頼を寄せている。ZXがミーナに嫌疑をかけた時にも、黒江はとりなしはしたものの、ミーナを特段、擁護していない。

「何故、黒江中佐はミーナ隊長を擁護しなかったのですか?」

「あの子、仮面ライダー達に敵対的な者は嫌いなのよ。仮面ライダーって、言わば『正義の味方』じゃない?ああいう正義の味方が大好きだから、利敵行為を激しく嫌ってね。最後通告をアイク――アイゼンハワー元帥――と一緒に突きつけたのは、半分はそういうことよ」

「正義の味方、か。ああ見えて、純粋な方なんですね」

「仮面ライダー、とりわけ、その中でも『栄光の7人ライダー』が大好きなのよ。あの7人はヒーローの先駆者だし、格段に強いから」

7人ライダーは、数多のヒーローが生まれた後世においては、『一種の伝説』とされている。上下関係が薄い平成仮面ライダー達も、彼らには敬語を使う。もっとも悪の組織の活動が活発だった数年間を戦い抜いたという実績は、クライシス帝国も畏怖するほどの威力である。昭和仮面ライダーが当初、平成仮面ライダーに否定的なスタンスだったのは、一部を(人間の進化系とされるオルフェノクである555など)除いて、『人としての肉体を保っていて、自分達が失ってしまったモノを持っている』という、彼ら昭和仮面ライダーの改造人間としての悲哀から来る嫉妬も混じる、複雑な立ち位置からの考えだったからだ。

「でも、あの人達は苛烈な生き様送って来てるのよね。23世紀で目覚めたのも不本意だったって漏らしてたし」

「え、本当ですか?」

「ええ。綾香には内緒にしてくれって言われるのよ、それ。気持ちを裏切れないからって」

模擬戦をしつつ、智子は語る。一号=本郷猛の真意を。それは1984年頃、本郷猛が当時は存命中だった恩師の立花藤兵衛に語ったところによれば、『自分達の力が必要とされない平和な時代になった以上、二度と目覚める必要はない。それが永遠であるを願う』と、立花藤兵衛に言い残したとされる。だが、その願いと裏腹に、ゴルゴムが23世紀に現れ、バダンも復活を遂げたため、彼ら仮面ライダーは23世紀を生きる事になった。

「そういう事だったんですね」

「ええ。でも、人々の希望が自分達であるのなら、『人々が望む限り、仮面ライダーは死なん』とも言ったわ。複雑なのよ、彼らも」

――仮面ライダー達にも、一種の矛盾した心理がある。自分達の力が行使される必要がない世界を願いつつ、悪と戦う姿が彼らに与えられた唯一無二の存在意義の証明となる事への充足感。それ故、本郷は、コールドスリープから目覚めて、新たな敵『ゴルゴム』と戦うまで、彼なりに葛藤したのだろう。クライシス帝国と戦い始めた後、黒江と出会い、彼女から慕われるようになり、純粋に自分達を信ずる姿に、本郷達は裏切れないと感じたらしく、23世紀の世の中を生きる決心を固めたのだ。その葛藤は智子には告げたが、黒江には言っていないあたり、彼らの気づかいが感じられる。

「本郷は昔、女の子泣かせた経験があるからな。それもあって、綾ちゃんの前では、純粋に『正義の味方』でいたいのさ。仮面ライダー一号として」

一文字が本郷の代わりに、彼の気持ちを代弁した。本郷は、恩師の緑川博士の愛娘『ルリ子』の気持ちに気づいていたが、自らの体の事もあり、彼女の思いを振り切ったという負い目があった。ルリ子が死して数百年経った23世紀でも、墓参りに赴いている事からも、本郷は『改造されていなければ、ルリ子さんとお見合い結婚でもしていただろうさ』と語るほど、彼女に未練があった事が分かる。その体験から、本郷は女性を裏切らないようになり、接し方も温和になった。それは自分達を慕ってくる黒江へも同様で、黒江が縋ってくれば、どこへでも駆けつける。一文字は本郷の葛藤に同意しているが、23世紀の世の中には肯定的な仮面ライダーの一人だ。そのため、不器用な本郷に代わり、彼の本心を代弁する機会が多く、一文字は、黒江の体がまだ小さかった頃に、『まずやってみろ。全て手を尽くしてダメだったのなら、力を貸す。が、最初から宛にしているのなら、他力本願でしかないぞ』と言い聞かせており、実際に、黒江は『どうしようのないピンチに陥った』時に仮面ライダーらの登場を願い、彼らもその言葉を守り、ピンチを救う立場で参陣するのが通例となった。501の前へは、実際にそのような場面になった時に参陣し、クライシス帝国を蹴散らして見せたのだ。

「だから、この間の襲来の時には、あんな登場の仕方だったんですね」

「そうよ。若い子達には反感があるようだけど、スーパーヒーローなんてのは世知辛い商売なのよ、意外に」

「スーパーヒーローも楽じゃないってことですね。夢がありませんね」

「まぁ、スーパーヒーローは楽じゃないわよ。V3さんなんて、運悪く、すごくキザなセリフを吐く別のヒーローと混合されちゃってね。それだから、そのヒーローやってた人物の遺品回収して、自分が始めようか言ってるんだから」

「……いいんですか、それって」

「だって、その当人はとっくにあの世だし、承諾を取ろうにも、使った人も、設計した人もあの世の住人だもの。仕方がないわ」

模擬戦しつつ言う事ではないが、風見志郎は、世にも珍しい、『同時代に自分と酷似した容貌の別人が3人もいて、しかも同じ商売をしていた』ヒーローである。風見志郎=仮面ライダーV3、新命明=アオレンジャー、番場壮吉=ビッグワン、そして、早川健=快傑ズバット。彼らは酷似した容貌を持ち、悪の組織でさえも見分けがつかなかった。三人は有名ヒーローだったので、互いに面識も当時からあったが、アウトローのヒーローであった快傑ズバットは、目撃された回数も少なく、実在すら怪しまれた事もある。が、早川健の遺品がある場所で発見され、そこからズバットスーツが出てきた事で、実在が確定した。ズバットの正体は『未完成のパワードスーツを着た早川健』であり、彼の類稀な才覚で、未完成のスーツのデメリットを補っていたと分かった。これは早川健の親友で、当時に最高レベルのパワードスーツ技術者の『飛鳥五郎』が残したパワードスーツの設計がズバットと酷似していた事からの推測であった。ズバットスーツは、科学者でない早川健が急ごしらえで制作したので、設計図通りには作れておらず、パワーアシスト機能も不完全、自爆の危険すらあるという『未完成品』であった。それを改良する研究も行われた形跡はあるのだが、早川健の生き様の最期は不明のままであり、復讐を果たしたかも分からない。分かることは、V3やビッグワンと違う側面から戦いを挑んだ男がいたということだ。彼に敬意を払い、風見志郎はビッグワンの元へ、彼の遺品であるギターを持っていき、そこから数枚のマイクロフィルムを回収したのである。経年劣化はなく、全てが良好な状態だったので、解析した上で、ゴレンジャーなどの技術で改良した同型のスーツを新造。彼らが表立って活動出来ない時の彼らの偽名として『早川健』の名が使われる事になった。

「正義の味方は、綺麗事ばかりじゃ成立しないって事よ。ズバットはその証……きゃあっ!ん、もう!!これだから誉は嫌いなのよ!」

疾風のエンジンが不意に咳き込み、煙を出す。これは誉エンジンの部品の工作精度がばらついており、統合戦闘航空団に卸した機体でも、このようなトラブルはままあった。智子は、84の機体は好きだが、駄々っ子のような誉エンジンは嫌いであり、ロマーニャにいる時はマ43搭載の個体の調達を行わせたが、予備機が誉搭載型だった。不意のエンジントラブルが多いのも、金星エンジンによる高稼働率のキ100ストライカーを好んでいた理由の一つだ。精鋭整備員がいた501でさえ起こるエンジントラブルに、智子は長島飛行機の技術者を罵りたい気持ちになった。そして、ついに片側が煙を吐き、停止する。そのため、智子と言えども、機位を保てなくなる。負けず嫌いの性分である智子は、模擬戦に負けるくらいなら、と、残った片側も強制排出。それと同時に変身を実行した。

「はぁあああっ!!」

変身し、翼を展開。同時に空中で安定を取り戻す。青色の髪とはっきりと視認できるオーラ、銀色の瞳と、容姿も劇的に変化する。

「なっ!?」

ロスマンは初めて、智子の変身を目の当たりにした。オーラが体から吹き出すように出ている様は、バトル漫画を思わせる。また、地上で様子を確認していたラルは『絶対魔眼か!?』と驚きを顕にする。容姿の変化が、かつて共に戦った経験のあった雁渕孝美の絶対魔眼を思わせたからだ。だが、絶対魔眼のように、攻撃力と機動力の向上と引き換えに、防御力が低下するわけではない。全てが飛躍するのだ。全ての能力が。

「さて、どこぞの平成仮面ライダーじゃないけどさ、スピードで圧倒する!」

智子は空中で溜めの態勢を取り、一気に当時に出せた最高速にまで加速する。それはロスマンの動体視力を凌駕していた。持続時間は短いが、ロスマンの認識する速度よりも速く動く。そして、杭を打つかのように、足から魔力を打ち出し、目標をポイントした上で、飛び蹴りを叩き込む。スピードがついている都合、複数箇所からのキックだ。これは平成仮面ライダーの一人『仮面ライダー555』のクリムゾンスマッシュ』、しかも『アクセルフォーム』でのそれと同じであったので、悪ノリの面が大きかった。が、魅せ技としては充分な効果を見せ、模擬戦に勝利をもたらした。ウィッチ個人としては強力な技だが、魔導師として見れば、なのはとフェイトの足元にも及ばない。二人との間にある素養の壁が、智子と黒江に『ウィッチとしての限界』を強く意識させ、黒江が聖闘士になる理由でもあった。なのはとフェイトは類稀な才能を持ち、なのはに至っては、目立った訓練もしないで、膨大な魔力を扱えた。それは血反吐を吐きながら、魔力を制御する訓練を積んだ二人に取って、己の限界を知らしめる事でもあった。

「こんな事ができるというのに、何故……才能がないような事を?」

「自分の身近に、地形変えられる攻撃ができるのがいりゃ、限界も分かるってもんよ。フェイトと戦って御覧なさいな。私の言ってる事の意味がわかるわ」

が、やはりフェイトも、紆余曲折を経て、聖闘士となる事を選んでいる。師と同じような悩みを、仮面ライダー達と出会うことで考え、アイオリアの憑依を期に、聖闘士になる。それは『力に頼る者は更なる力に滅ぼされる』という事を、なのはの事で意識した結果とも言える。奇しくも、スリーレイブンズの全メンバーとなのは、フェイトは『一つの力へ慢心せず』、別のアプローチからも強さを追求していった事になる。その姿勢が一同に、『強さ』の意味を考えさせる事になったのだ。その姿勢は坂本にも影響を与えていて、マジンガーZEROの猛攻にも、冷静に振る舞っている大人時の人格がその証明である。


――やがて、トゥーロン港は『港であったことすら分からない』ほどに破壊され、この世の終末のような様子を呈する。ブレストファイヤーで地殻を露出させ、全てが溶けた無残な様相の大地、人がいた証拠の全てを破壊し尽くしたZERO。ZEROスクランダーで浮遊し、次の目標へ向かう。それがどこなのか。ガリアは為す術もなく、今度は文字通りに滅ぼされるしかないのか。流石のド・ゴールも意気消沈し、自国の戦力と国民を疎開させる『エクソダス作戦』を再び実行させるか、悩んだほどである。が、トゥーロンを去ろうとしたZEROの前に現れた魔神。それは。

『久しぶりだな、ZEROさんよ』

――キタカ、カブトコウジ。ソシテ、マガイモノヨ――

ZEROはゴッドと対峙した。ZEROがカイザーを意識した、マッシブなボディを持ちつつ、マジンガーZとしての名残りを頭部と胸部に残すのに対し、ゴッドは『全てのマジンガーの頂点に立つ』事をビジュアル的に示す、鋭角的な頭部と放熱板など、グレートマジンガー以後の意匠を持つ。

『ハッ、曲がって異なる物になっちまったお前こそ“曲異物(まがいもの)”じゃねーのか?』

――ヌカセ!キサマハコノオレノモノだ、ソノヨウナマガイモノハ、マジンガーデハナイノダ!!――

『それはこっちの台詞だぜ!トルネードクラッシャーパーンチ!!』

組み合った状態から、ゴッドはパンチを放つ。さしものZEROも、自身と同等以上のパワーを持つゴッドのロケットパンチを組み合った状態から発射されれば、圧されるのは当然だった。しかも超高速回転をするので、ZEROも態勢を崩す。甲児はすぐにそのまま、ゴッドの拳を見舞い、ZEROにアッパーを見舞う。

『来い、ゴッドブレード!』

更なる追撃を見舞うべく、ブレードを形成、手に持つ。反撃で放たれた、ZEROの拡散モード光子力ビームを刀身で受け止め、受け流す。ZEROには信じがたい光景が再び繰り広げられる。自身の力がゴッドには通じないのだ。マジンカイザーを名乗ったマガイモノを倒せると豪語するはずの力が、だ。


『ZERO、テメーの力がおじいちゃんとお父さん、弓先生達の想いがこもったゴッドに通じると思うなよ!!』

甲児は吠える。そして、両腕を大きく広げ、神の雷槌『ゴッドサンダー』を見舞う。ゴッドサンダーは核ミサイル相当の大爆発を引き起こし、かつて軍港だった場所の大地は更に抉られる。ZEROは耐えるが、胸の傷がみるみるうちに拡大していく。


―ーグアアアアア……ナ、ナンダコレハ!?ワレノ、ワレノチカラデナオセンハズハ!?――

それは黒江Cが放った最期の一撃の残存エネルギーがZEROのマジンパワーの発動を阻害していたためだった。黒江C達の最期の意思が次元を超え、ゴッドの反因果律兵器の効力とシンクロシステムの効果増大に一役買っていたからで、対デビル用のシステムはZEROにも効果があったのだ。

『喰らいやがれ!!ポジトロングランサー!』

反陽子エネルギーを照射する、光子力ビーム相当のゴッドの新武装である。砲台の小型化に成功し、組み込まれた。顔に命中し、ZEROの片目を潰す。ZEROは顔を片腕で抑える。まるで、火傷を負った時の人間だ。


――グオオオ!?バカナ、バカナ、バカナ!!サイセイガキノウセンダト!?――

マジンパワー『再生』はZEROを無敵たらしめる能力の一つだが、それをゴッドのシステムで阻害され、機能不全に陥らせられ、因果律の演算を狂わす『反因果律兵器』に因果律の操作を封じられたZEROは、もはや単なる『強力化したマジンガーZ』でしかない。

『それは、お前がまやかし、紛い物の証拠だ!!ゴッドスパーク!』

ゴッドブレードから放つ破壊エネルギーの奔流。それにより、ZEROは大きく吹き飛ばされる。ZEROはその時、ゴッドの背後に『見た』。正統なマジンガーの系譜の構図を。Zと握手するグレート、それを束ねる玉座に座るマジンカイザー、そして傍流のグレンダイザー、それらを全て超える『神』。金色の鎧に身を包む機神。


――ゼ、ゼウスヨ、ワレハマジンガーデハナイノカ!?ナゼダ!?ナゼダ!?ワレハシメソウトシタダケダ、ソウダ!――


ZEROを断罪するかのような視線を送るZ神。その横に護衛のように控えているは、マジンカイザーとグレンダイザー。両機が護衛の衛兵扱いというあたり、Z神の力が窺えた。Z神はZEROを見つめる。『自分とは異質のモノを見つめるような』目で。マジンガーであることがアイデンティティのZEROにとっては、マジンガーの神と言える存在に『マガイモノはお前だ』と宣告されたに等しく、ZEROはパニックを起こす。

『人と共に立つ、Zは最後の守りの誓いの印しなのだ!ZEROよ全てを無に帰すはお前の存在すら否定するものぞ!』

Z神はその一言を言い放ち、甲児とゴッドに力を与える。


『ZERO、お前はZの陰の面が誇大化して生まれた存在だ。だから、お前はこの兜甲児様が引導を渡してやる!このトゥーロンの、いや、お前が滅ぼした世界の人々の力、そして!!』

発射されたトルネードクラッシャーパンチの片腕が黄金の光を帯び、巨大化していく。やがて巨大なロケットパンチとなる。

『輝くZ神の名のもとに!!全てを原子に打ち砕けぇぇぇぇ!』

甲児は叫ぶ。Zがとある世界でたどり着いた『最強最大のロケットパンチ』の名を。パンチを再装着し、黄金色にゴッドが輝く。

『ビィィィクバァァァンパァァァンチ!!』

ゴッドの究極のパンチは、ZEROのブレストファイヤーすら無効化し、ZEROを地面に叩きつけた。叩きつけられる寸前、ZEROの体は少しずつ崩壊を始める

『こいつの心臓はオリジナルのZだ、長年連れ添った俺の兄弟であり、俺の身体でもあるんだ!俺は!俺たちは!何者にも負けるもんかぁあああああああ!!天地開闢の光(ファーストライト)!」!!』

カイザーのカイザーノヴァよりも遥かに強力な破壊エネルギーが照射される。Z神の加護によるものだ。そのため、ZEROはあがくが、ゆっくりと崩壊してゆく。そのエネルギーは遠い南洋島でも感じ取れるほどの衝撃を生み出した。

「坂本少佐、地震です!」

「バカモノ、地震ではない。ガリアでゴッドマジンガーがノヴァを放ったのだ。えーと、雁渕の妹だな、君は」

「は、はい。落ち着いてますね?」

「このくらいで驚いていては、扶桑撫子の名折れだぞ、雁渕の妹」

「雁渕ひかりです」

「お前らは姉妹でウィッチだからな、名前で呼んでいいか、君の姉さんと区別がつけられんのでな」

(因みに、雁渕姉妹はB世界では『雁斑』という名字であり、これまた一字違いである事が、ラルBの口から語られた。B世界では、クダの代わりに、姉妹でブレイブウィッチーズに入隊したとのこと)


(向こうのラル少佐が言っていたが、クダがいた世界では、クダが『雁斑』の後輩で教え子なんだよな。義子との関係が薄いんだな、多分)

坂本の言う通り、『雁斑孝美』は、A世界の雁渕孝美とは全く異なる立ち位置にいる。それ故、フェイトが別の自分と『菅野』は『同期』であり、343空の同僚であり、64Fでも同僚であると知らせたら、腰を抜かしたと言っていた。


――フェイトはその時の様子を、『信じられないと言った感じでした。『人間関係も、生まれた年も違うなんてとか。特に、空軍に移籍した事が衝撃だったみたいです』と語っている。A世界では、引退を取りやめさせられるような形で源田に引き抜かれての移籍だったので、1948年時点では、フライトジャケットの下は海軍の第二種軍装を着ている。B世界では海軍軍人としての矜持が強かったのか、移籍は衝撃だったようである。A世界の空軍は40年代当時はフライトジャケットこそ決まったが、正式な軍服は定められていなかった。そのため、黒江は南洋島での式典では、空自の夏用制服を持ち出し、着ている。武子は陸軍の軍服をそのまま着用していたし、雁渕は海軍第二種軍装をそのまま着て、式典に参加など、服装がバラバラであった。これは空軍の構成員を既存軍での前歴があった者で賄っていた事、正式には戦中の設立なため、制定の暇がなかったことに寄る。戦時中は『フライトジャケットの着用と制式化』で空軍の軍人を見分ける方法が取られた。正式な軍服の制定は空自の協力を必要とし、決定は1954年の夏にずれ込む――


『ん?ZEROの体が崩れて……何かが生まれる……!?』

ファーストライト(スーパーノヴァ改め)の一撃で倒れたZEROだが、その胸から光が発しられ、邪念が消え失せる。それと同時に、ZEROは人間と同様の姿へ転生していく。それは再構築に近かった。それはZEROの中の善性がZ神へ贖罪を願った結果の産物だった。これは甲児のみならず、中継映像を見ていた全ての人間が驚く光景だった。ZEROは生まれ変わりる。スーパーロボットの力を持つ別の存在へ。

『な、何ぃ!?』

なんと、ZEROは弓さやか似の美少女に転生してしまったのである。まだ目覚めていないものの、見た目は普通の少女である。

『こいつは……ZEROだよな?』

甲児も、坂本も、ひかりも、ド・ゴールもニミッツも、山口多聞も、アイゼンハワーも、チャーチルも呆然とする瞬間だった。ロボットが人間の外見を持つ存在に転生する。これは奇跡以外の何物でもない。甲児は『ZEROは倒したけど、女の子拾った』と、殆どパニック状態の通信を64Fに送り、坂本が『南洋島まで連れて来い。ゴッドなら10分で行けるだろう』と返し、とりあえず南洋島で調査することになった。ゴッドがZ神の力をを借りて起こした奇跡。トゥーロンが配置戦力と住民ごと全滅したという悪夢が生じたが、世界そのものを破壊されたわけではないため、ド・ゴールは泣く泣く我慢した。大地はコスモリバースシステムでどうにかなるが、失われた命だけはどうにもならない。ガリアはこれで衰退の一因を出現させてしまった事になる。扶桑とブリタニアが『未然に倒せてよかった!』と大喜びであるのと対照的で、ガリアの踏んだり蹴ったりかと思われたが、捨てる神あれば拾う神あり。ドラえもんが人と街をタイムふろしき(国サイズ拡大版)で復元させてくれたのだ。ド・ゴールはこの報に男泣きしたという。それと、実は、甲児が着く前、なのはとヴォルケンリッターらが対策として、封時結界を貼っていたのである。ただし、ファーストライトとビッグバンパンチで結界が壊れかけていたため、ドラえもんのタイムふろしきも併用したのだ。


『甲児さん、やり過ぎですって。あたしたちの結界が壊れかけるって、どんなエネルギーなんですか』

『いやあ、すまねーな。本気で撃ったら、結界が壊れかけるたぁな。ただ、ド・ゴールのおっさん、肝潰したろうな』

『でしょうね。みんなは別の任務があるんで、先に帰ったんですが、あたしは暇なんで、ついていきますよ』

『ヴィヴィオちゃん、放ったらかしかよ』

『ち、ちゃんと実家にあずけてきましたし……』

なのはAは本質的に子育ては苦手であるので、割と放任気味である。Bが奮闘しているのに対し、Aは子育ては苦手で、フェイトに任す事が多い。そのフェイトも任務なので、なのははヴィヴィオを実家に預けてきた。Bが聞いたら目を回すような事案だ。ただし、普段の世話はきちんとしていたので、Aは子育てがわからないと言いつつも、なんだかんだでいいお母さんをやれていたりする。正確に言うと、B世界と違い、なのはは『お父さん』に近い気質であったのかもしれない。そのため、ヴィヴィオは他の世界よりも早期に格闘技に目覚めており、フェイトが教えたりしていた。また、他世界のヴィヴィオ自身よりも『格闘技向け』にカスタマイズされ、オリジナルに近い性質を得ていたのも大きかった。また、フェイトが大会優勝経験者である事も、ヴィヴィオが格闘技に興味を持つきっかけであった。ある時、道場破りが家にまで押し掛けてきたので、半ギレ状態でライトニングプラズマを放って倒し、ヴィヴィオから羨望の対象になり、大会優勝経験者であると知られ、その流れで仕込む事になったのだ。

『フェイトちゃんが護身術仕込んでるなら、大丈夫だろ?それになのはちゃんの家族って、確か、人外魔境じゃ』

『それは言いすぎですよ、多分……』

自分含め、母以外の高町家の人間は『武道の経験者』であり、しかも物凄く強い。なので、なのはもそのことについては強く言えない。しかも友人のフェイトは黄金聖闘士である。このコンボは、小学校時代からの友人のアリサ・バニングスからは、帰省時に思いっきり突っ込まれている。

『うぅ……気がついたら、別の自分には泣かれるし、小学校からの友達から突っ込まれちゃうし、我が娘も格闘技好きっと来たもんだ……因果ですかね?これ……』

『俺に言われても……』

落ち込むなのは。


――こうして、ZEROの猛威はZ神の介入で防がれた。黒江はZ神の介入で、ゲッターロボ斬を使う機会がなかったとぼやくが、それは別の機会に訪れるのであった。



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