外伝2『太平洋戦争編』
四十八話『混乱2』
――扶桑皇国は21世紀日本人によってもたらされた膨大な実害により、軍事行動に支障が生じた他、軍学校の一部を強引に普通校にさせられ、ウィッチの予備要員確保のルートを一部潰されてしまった。これは内政干渉に等しいがため、日本側でも大いに問題となった。彼らは扶桑皇国を大日本帝国と同一視しており、『軍国主義の根絶』を内部スローガンとして、扶桑に『扶桑軍不利』の情報を流し、混乱を起こしていた。扶桑内務省・軍部は強烈に抗議した。が、彼らは自分達の祖父/曾祖父母世代の者達を『愚か者』と侮蔑し、扶桑に混乱を強い、当時の扶桑軍人・政府要人の少なからずをノイローゼに追い込み、それが扶桑に反戦思想の置き土産を与えるきっかけとなった。だが、そのせいで、扶桑皇国軍部は良心的兵役拒否者の迫害を強めてしまうという、扶桑人にとっての弊害をもたらしてしまった。また、当時のエースウィッチ達の大半がそのような者達を嫌っていた(芳佳がその急先鋒である)事もあり、扶桑の少女達は親の世間体の都合、華族であろうと、高級官吏の子女であっても、軍に志願せねばならない空気を作ってしまう。そのため、1948年の軍への志願者数は回復へ向かうが、多くはこの戦争の直後に退役してしまう。そのため、リウィッチの増加傾向に歯止めはかけられなかった。そのため、直後の第二次扶桑海事変に従軍した者達の八割はリウィッチであったという記録が後世に残されている。戦争中の混乱で最も多かった弊害が、日本から入り込んだ過激派などの危ない勢力らの軍への誹謗中傷によるリンチ、デマによる国民の混乱であり、それで失われたモノは膨大だった。特に大陸駐留軍在籍経験者は関東軍と同一視され、高級軍人の多くは凄惨な集団リンチされ、中には一族郎党が皆殺しにされた例すらあった。そのため、扶桑は大陸領駐留軍在籍経験がある高級軍人の人材の喪失を理由に、実質的に大陸領奪還作戦を諦める羽目となる。それまでの事件での賠償金が莫大な金額になってしまう事が日本側で試算されたのが、ウィッチ世界の1948年の8月の事。如何に経済大国と言えど、その金額は財務省が顔色を失うほどの金額に登りかねない。日本政府は『2013年度の途上国支援の総額の倍の金額を賠償金として供出しかねない』事に恐怖し、扶桑皇国に膨大な投資をし、軍事的援助も行った。これは賠償金を少しでも減らす、あるいはチャラにしてもらいたい意図があり、扶桑へ投じられた富は莫大だった。その影響もあり、扶桑皇国の様子は一気に、戦後しばらくした頃の日本国とほぼ同一のものに変貌してゆく。その過程で有名無実化していくのが、検閲だった。制度そのものは内務省の強い反発で残ったが、漫画などのサブカルチャー文化の育成の観点から、有名無実化が進む。これは、当時の検閲の担当者自体が日本のアニメ/漫画マニアと化した事、『物語を自由に書かせることで、欧米に匹敵、あるいは超えるモノが生み出せる』という自信を扶桑皇国の政府要人に持たせた事が最大要因だった。そのため、学生運動が盛んな1960年代頃を最後に、検閲が本来の意味で運用される事は無くなり、1972年に正式に廃止される。これは連邦が味わった地獄(一年戦争)からの忠告もあり、検閲はこの頃から次第に摘発基準が緩められ、表現の自由の度合いはほぼ20世紀後半の日本と同等になってゆく。――
――1948年 盛夏間近――
「ん?内務省との共同での任務停止か。警務隊も暇になるな」
「そーだね。内務省と共同でしてた検閲も有名無実化が進められるし、権限は小さくされたし、今は暇な商売だよなー」
軍の警務隊は今や、軍警察としての機能に特化されたため、内務省の要請で、憲兵時代に共同でしていた検閲の仕事もしなくなった。そのため、暇でしょうがない仕事の一つである。内務省も強い圧力で特高を公安に変えられたので、内務省は未来世界に反発が強い。鉄也とハルトマンが喋っているのは、内務省の愚痴ともとれる新聞記事だ。
「内務省は未来の記録だと、バラバラにされたからな。それを思えば、存続しただけラッキーだ。20世紀後半の日本ほどお役所仕事が多くないから、その辺は楽だ」
内務省が存続した要因は、20世紀後半日本のように、細かくバラバラにしてしまうと、ある省庁の腐敗が進行した場合、中央の立てる計画が、ある省庁の反対で頓挫する可能性が大きいがため、規模の実質的縮小で済ませる事で書類処理の円滑性を取ったのだ。その結果、総務省と自治省の中間程度の省として存続が許された。そのため、20世紀後半日本と違い、縄張り争いが少なく済んだ他、内部対立も表面化せずに済んだのだ。
「細かい庁を下に作る事で、内部対立を分散させる方法は正解だよ。建設の連中も警察系の連中も大人しくなったしな」
「海上保安庁設立案はボツったようだね」
「国民が納得しなかったからな。新聞で報じられた途端、デモが起こったしな」
21世紀日本の海上保安庁は『仲間が欲しい』がため、扶桑内務省に『海上保安庁作ろう』と持ちかけ、内務省も乗り気だったが、意外にも扶桑の国民の猛反発に遭い、頓挫した。これは各地に水上警察があった事、警察よりも軍のほうが宛にされている、扶桑での状況も重なっての事だった。内務省は事務局が焼き討ちに遭うなどの損害を出した事から、保安庁を諦めた。代わりに軍警備隊の大増強が行われ、それもあり、攻勢ができなかったのだ。(なお、この構想はかなりのところまで具体化していたらしく、それが生かされ、戦後に『海上保安部』という形で外局として設立され、軍中央からの実質的な独立に成功したとのこと)
「しかし、構想そのものは評価されてるから、コーストガードとして、戦後に作られるかもしれん。海軍は組織が巨大化しすぎてるからな」
「確かに。今じゃ派閥抗争の激化と、空軍への対抗やらで海軍は内情が悲惨だし、空母航空ウィッチのお鉢も空軍に取られてるしね。ウチの部隊、空母着艦も洋上航法もバッチリできるから、下手な海軍空母ウィッチ隊より仕事出来るし」
ハルトマンは、この頃にはすっかり64Fの一員になっているという意識があるため、『ウチの部隊』と言及した。海軍空母ウィッチ隊は、菅野や芳佳、孝美、赤松と言った有力な陸上部隊出身者を空軍に引き抜かれた影響により、大きく弱体化していた。そのため、平均練度は『マリアナ沖海戦の第一機動艦隊と似たようなものだ』と瑞鶴が嘆いたほどの惨状だった。『無駄に自信があるが、実戦では散々な成果しか出ないだろう』と関係者の間では一致しているため、空軍の64Fが実質、海兵隊まがいに運用されている。海軍航空ウィッチのキルレシオは熟練者の移籍を待たずして、ティターンズに優位になっていたのもあり、最近は自前のウィッチの運用を本土近海での練習任務に限定し、錬成に努めている。それへの反発が前年に噴出したのだが、空軍の64Fは超がつくほどの熟練者揃いだった事もあり、サボタージュした空母ウィッチ隊を叩きのめし、その彼女らを下船させた上で任務を成功させている。64Fは今や、彼女らにとっては目の上のたんこぶのような存在だが、343空の後身でもあるので、海軍は複雑な気持ちだった。特に部隊内の編成で使われている隊名は、基本的に剣部隊を引き継いでいたのもあり、『喜ぶべきだろうか?』と唸る古参ウィッチもいる。
「で、綾ちゃん達は行ったり来たりか。大変なこった」
「うん。あの人達はこれから『行ったり来たり』だってさ。何せ、地上の連中は若いのが多いからね」
「あの子達はあの子達で、孝美ちゃんの事の処理が完全じゃないと聞いたが?」
「ああ。あいつ、メカトピアの時は無理して『キャラ』作ってたから、デザリウムの時の姿が本当のキャラだよ。当人曰く、『見も知らない世界だから、無理をしてた』そうだ。その事と、妹の事もあってねぇ」
「なるほど」
雁渕のキャラ作りは相当に無理があった。そのため、普段使い慣れていない、荒く、男性的な言葉づかいをするのに抵抗もあったらしく、舌を噛むこともあった。その事をいじられ、恥ずかしい思いをしている。その言葉づかいの参考にしたのが、市井の子供であった時に目撃した『若手時代の黒江』だった事も、その当人に爆笑される要因だった。
「その時の会話記録をダウンロードしたんだけどさ、こんな感じでさ」
端末から再生される音声。それは黒江がアップロードした会話ファイルだった。
――音声は以下の通り――
『ガハハハ!なんだよ、メカトピアん時の言葉づかい、私を参考にしたって?こりゃ傑作だぜ、アヒャヒャヒャ……」
『笑わないでください!思いついたのが、昔の先輩だったんですから!』
膨れる孝美。バカ笑いする黒江。机をバンバン叩いており、ツボに入ったらしいのが分かる。
『でもよ、おめー、なんで若い頃の私の事を知ってたんだよ?いくら戦勝式典の時に見たって言っても……』
『先輩、当時の時点で有名だったじゃないですか。それに、私の友達に先輩のファンの子がいて、追っかけにつき合わされてたんですよ』
『なぬ!?どいつだ?あんとき、智子のほうが追っかけ多かったし、気にしてなくてよ』
『私より背が小さくて、後々にリバウ航空隊に行った、大野竹子です。海兵の同期でした』
『ああ、名前は聞いた事はある。そいつと同期という事は、付き合いがあったのか?』
『リバウまでは。今はどこにいるのか……戦死したとも聞いてます……』
孝美がちょうど脂が乗り始める時期、ティターンズの台頭があった。そのため、菅野と孝美の期のウィッチは『MIA』が多い期であり、孝美の友達の大野大尉も、44年当時に所属部隊がティターンズの攻撃を受けたらしいのだが、今日まで行方不明だった。孝美はリバウ時代の戦友を48年までに数多く失っているため、実の妹のひかりを守る事に異常な執着を見せるようになった。それは異様ですらある。そのため、B世界以上に『シスコン』である。それもA級と言える。
『はーん。それでお前、妹に入れ込むようになったのか。私もあまり人のことは言えんが、お前はそれから見ても異常じゃないのか?』
『たった一人の妹で、こんな私を憧れにしてくれてるんですよ、先輩。リバウを守れず、仲間も死なせたこの私に!あの子の笑顔を壊す者がいたら、たとえ別の自分でも銃を向けます』
孝美Aのシスコンは重度で、黒江が引くほどのものだった。黒江は、「B世界のこいつが、妹と同時入隊後は『そっけなく接していた』のを言ったら、ミニガンもって突撃かましかねないなぁ」と心の中でため息をついた。
『お前なぁ。気持ちはわからんわけでもないが、落ち着け。話を戻すぞ。で、若い時の私を見てたんだって?どのくらいだ?』
『小学校の最後の二年間と、海兵の学生時代です。私は平時からまた、戦時に入った直後に飛び級しての任官なので』
孝美は海兵を飛び級で卒業しているため、教育期間は短い。その関係の再教育が挟まったので、移籍が遅れたのである。
『で、向こうで再教育受けたわけか』
『はい。ややこしい手順でしたので、私は。上がり迎えて、海軍を辞めようとしてたのを、司令に指名されて移籍になったので、事務処理が遅れに遅れて』
孝美の移籍は、海軍の慰留と空軍への指名がぶつかりあったなどの都合、再教育に入るまでも時間がかかり、更に飛び級の都合、未来世界での再教育の履修に手こずった(主に兵站や戦略)事もあり、着任が遅れた。(スリーレイブンズのように、連邦の実戦部隊たる、ロンド・ベル在籍という事実が、連邦での再教育の短縮に繋がった例もあるが)
『私らみてーにロンド・ベルでなんでもやらされて、それで身についたわけでもないしな、お前は。私らなんて、衛生兵の真似事、砲兵の真似事、パイロットまでやらされてるから、自然と覚えたんだけど』
『ずるいですよ、先輩!こっちは実地研修で戦略級のシミュレーター訓練やらされたんですよ!』
『こっちだってな、対空砲座につかされるわ、医務室で包帯巻くわ、砲塔の銃座で砲術やらされてるんだぞ!おかげで、体のあちこちがこってんだよ!見ろ、この湿布の山!』
ミッドチルダ動乱〜デザリウム戦役までの期間の間、黒江達はなんでもやらされた。ジオン残党軍との戦闘では、対空パルスレーザーのリモートコントロールをやらされるわ、ショックカノン砲塔のコントロール、コスモハウンドの銃座につかされる事もあった。また、アストナージを自主的に手伝う事もあるので、意外にハードである。
『先輩、肉体的には若いでしょう』
『それがぶっ飛ぶほどハードなんだよ、ロンド・ベルの残党狩りとか査察ってのは。特に、コロニーの査察なんてやると、ジオン寄りのサイドなんて、視線が辛いぞ。サイド1なんて、ジオンの現本拠だから、ウチの部隊の本拠をフォン・ブラウンに移転しなけりゃならなかったから、参ったよ。軍服でスウィートウォーターになんて行けねーよ』
コロニー群の内、サイド1はネオ・ジオンの本拠になってしまった都合、ロンド・ベルもロンデニオンから追い出され、今やフォン・ブラウンに司令部が置かれている。サイド1はネオ・ジオンの事実上の国土であり、サイド3も今はネオ・ジオン寄りなため、ロンド・ベルは査察任務に支障をきたしている。元ザンスカール帝国のサイド2は、帝国の恐怖政治の反動で連邦寄りだが、新サイド6(旧サイド4)はティターンズなどへの反発でネオ・ジオンに比較的寛容、フロンティアサイド(元・ルウム)は連邦の腐敗に嫌気が差していた事もあり、コスモ・バビロニア崩壊後も反連邦シンパの集まりと化しているし、月でも、旧ギガノス帝国領の月面都市はどちらかと言えば、反連邦である。そのため、連邦の統治能力は回復へ向かってはいるが、火種は残されている。また、火種の一つが消えたのは、旧国連諸国の連邦から、星間国家の体裁に政体を移行させた効果である。スペースノイドのジオン世代の反発の原因は『アースノイドは地上から宇宙を見て、分かったような気でいる』なので、首都と政治中枢をフォン・ブラウンに置いたのだ。また、コスモリバースシステムで地球環境が改善した事も、ネオ・ジオンが空中分解しかけた原因である。また、20世紀の人間達がスペースノイドに冷淡であったのも、ジオンには効いた。大人しずかは2010年代当時に顕現した中東でのテロリズムを激しく嫌悪していて、日本が強引に統一したとは言え、地球連邦政府の登場を一同でもっとも喜んでいたほど、連邦政府の実現を歓迎していた。そのため、ジオン公国などの被害者意識を嫌っており、ギレンやデラーズ、そしてシャアが地球環境を滅ぼしかねない隕石落とし(コロニー落とし)を行った事を激しく糾弾しており、ジオン公国やネオ・ジオンの理想を大学時代、『スペースノイドの被害者意識の自慰的発想』と切り捨てている。かと言って、ティターンズのような完全な切り捨てでもない。それこそがしずかの考えであり、のび太が結婚に至るまで、ジオン残党狩りの一端を担う事に反対していない。
『前、のび太のカミさんが言ってたんだが、ジオンの現世代(シャアを含めて)は、ジオン・ダイクンの理想を選民思想に利用して、連邦政府への反抗・反発を行い続けることそのものを大義名分にしている、とな。それで、旦那が残党狩りに協力してるのを容認している。当人曰く、高校か大学の頃、『殺し合いまでして主張する程の話なの? 話し合いが通じないのは悲しいけど、長引くくらいなら。力ずくも仕方ないのかもしれないわね』って言ってた。アースノイドとスペースノイドの線引がない時代の人間だから、23世紀の殺し合いを冷静に見れるんだろう。ジオンの連中は中東のテロリストと同じとも言ってたしな』
「ジオン残党の話に飛んでるが、21世紀の人間からすれば、奴らの物言いは昔のイスラム過激派と同レベルにしか見えんだろうな」
「ジオンは反連邦でさえあれば、昔に敵対してた連中まで利用するからね」
会話音声を聞いているハルトマンと鉄也も、黒江が言及した『しずかの考え』に同意した。ジオンが嫌われる最大要因は、自分達と同じスペースノイドでも、反ジオンであれば躊躇なく皆殺しにする過激さであり、内部の人間である『荒野の迅雷』ヴィッシュ・ドナヒュー(ジオン公国軍エース)も生前、『コロニー落としをした時点で、ジオンは大義もクソもなくなった』と大いに嘆いている。現にシャアも、エゥーゴ時代の名残りか、ティターンズを大いに利用している。ティターンズ残党は、ネオ・ジオン再建のための『捨て駒』なのだ。その思惑にアレクセイは気づいており、その上でロキの依代となり、歴史に名を残すという手段を取ったのだ。そのため、ティターンズの機動兵器のノウハウはネオ・ジオンへ引き継がれ、レストアに力を貸しており、ハイザックの改良・再生産をネオ・ジオンが行い、残党へ提供している。そのため、ハイザックでも、ネオ・ジオン産は『マラサイ』に近いレベルに向上している。そのため、ネオ・ジオンは不本意ながら、ハイザックをザクの後継と認めている。
「ネオ・ジオンは兵器提供にも踏み切ったのか?」
「うん。ギラ・ドーガとか、ザクVが目撃されてるしね。ジェガンじゃ不利だから、高級MSを増やせって話」
「ジェガンも18m級としてはいいんだが、古いしな。だから、曰く付きのネオガンダムの予備パーツ組み上げたのとかが回されたんだろ?」
「後継機の『センチュリーガンダム』に向けてのデータ収集だって」
アナハイムは、この頃、ドラえもんの協力で、かのネオガンダムの二号機の復元とデータの回収に成功しており、その発展型の計画を進めていた。『RX-100』である。設計上、アナハイムガンダムの系譜の最新型であったネオガンダムだが、『V2ガンダム』の出現で、性能レベルがF91レベルのネオガンダムは陳腐化した嫌いがある事から、クロスボーンガンダムやV2ガンダムの水準のガンダムを作る事を指向していた。そのため、V2の製造で得られたノウハウをつぎ込む予定である。そのために近代化されたネオガンダムが送られてきたのだ。
「シルエットフォーミュラの遺産だな。誰が動かす?」
「当座はあたしが動かすよ。こいつのシミュレーターやった事はあるし、ジェガンより遥かにマシさ」
ジェガンはいい機体だが、いくらなんでも陳腐化が進んでおり、フリーダムへの改装も始まっているほどに旧型だ。そのため、ネオガンダムは大きな戦力になる。
「ハンナのクスィーにだいぶ負担かかってるし、ネオがあれば、ハンナも休めるしね」
「なるほど。しかし、ネオガンダム一機だけか?」
「いや、サナリィを脅して、クラスターガンダムを回させたよ。サナリィがごねてさ」
「確かに」
ネオガンダムに追従できる小型MSは少なく、ハルトマンはサナリィを脅し、実地でのデータ収集後は、サナリィの倉庫に収まっていたクラスターガンダムを引っ張り出させた。性能はネオガンダムと同等程度であり、F91を上回る。ハルトマンは、サナリィを更に脅し、F90Uを持ち出す交渉をしているという。倉庫で埃を被っている機体はサナリィにかなりあり、ハルトマンはクラスターガンダムを持ち出し、それを使うつもりである。既にサナリィの手でアップデートは施されており、Vダッシュより高性能である。(ガンダムタイプなので、パーツを現用品に変えるだけで性能レベルが飛躍する)
「アナハイムはノリノリで助かったよ。電話をフォン・ブラウンのMS事業部にしたら、『なんだったら、シルエットガンダム改もセットで送ります、はい』って言ってくれてさ」
「アナハイム、最近は気前いいな」
「戦争続きで、かなり儲けたしね。傾いてた経営も持ち直したっていうし。若い連中が見てるはずだよ、今は。あ、なのはだけど、ZEROから生まれた奴を手懐けるのに苦労してるみたいだ。ロケットパンチ食らって、今は医務室で手当て受けてる」
「ゼットちゃんか。そのうち、グレートやゲッターも来るかもな」
「ゲッターはどれになるんだろうね?」
「普通に旧ゲッターだろ。で、ドラゴンにパワーアップするとか」
「あいつ、Zに出来ることは出来るからなー。ディバインバスターもブレストファイヤーで相殺したし」
「おっそろしいな、そりゃ」
Zちゃんと呼ぶべき、ZEROから生まれたマジンガーZの『擬人化』の少女は、スーパーロボットの擬人化に相応しい破壊力を持っており、あのなのはが『骨が折れるな、しつけるの』とぼやくほどの強さである。また、Zちゃんの誕生を契機に、旧ゲッターの展示されていたゲッター炉から『繭』が生まれたり、元祖グレートの光子力エンジンからも繭が排出され、調査が行われている。それはグレートマジンカイザーへのパワーアップの際の調査の際に回収されたもので、繭の光子力反応は日に日に大きくなっている。中で何が動いているのか、Zちゃんの誕生で一種の回答を得た兜剣造は『グレちゃんが生まれるやもしれん』と漏らすなど、かなり歓迎している。(ちなみに兜剣造、ハメを外すと、雀荘に入り浸っており、デザリウム戦役でのゲリラ活動の際、象牙の麻雀牌をかっぱらっている。『レクリエーションの確保』を言い分にして、かっぱらったので、弓教授は呆れていた。その時の迷台詞が『何を言うか、これも世界平和のために働くための活力をやしなう必需品じゃ、レクリエーションがなけりゃ働く意欲はわかんよ、ちみ!!』、『ガンはペンよりも強し』で、甲児の父である故の破天荒ぶりを垣間見せている)
「ウチの所長なんて、新マジンガーの計画が具体化したから、教授達で徹夜麻雀してるのよく見るぜ。ありゃ重症だ」
「甲児パパ、相当だね」
「所長の趣味だしな。そんなことよりも、俺はスイーツ巡りだぜ」
「テツヤ、甘党だねぇ」
鉄也は顔に似合わない趣味として、スイーツ巡りがある。甲児すら引くレベルで甘党であり、給料の8割はそれに消えているとさえ噂されている。そのため、劇画調とも揶揄される濃ゆい顔と正反対のスイーツ大好き男子である事はよくネタにされている。
「今日の予定は?」
「んー、若い連中への講義、クラスターガンダムの試運転だね。連中の多くは、あたし達を『外様』って見てるから、働いて見せないと」
「そうだな。連中からすりゃ、君らは『余所者』だからな」
――この頃から、ハルトマンは今まで以上のマルチな才能を見せるようになり、黒江ら不在の64Fを、なのは、箒とともに支えていく。箒は戦線崩壊を押しとどめる防波堤の役目を負っており、最近は不在である事が多い。来訪した数人の平成仮面ライダー達も、南洋島各地に散って戦っており、特にディケイドが現れると、ティターンズからは『おのれディケイドぉぉ!』と恨み節がでるという。ディケイドはティターンズ率いるリベリオン軍から見ても『反則』的強さであり、結果的に、扶桑軍に組みしているが、これは当人曰く『戦争に興味はないが、俺はこの世界の自由を守っているだけだ』との事。ディケイドは大ショッカー撃滅に昭和ライダー達に助っ人を依頼しており、その恩返しであった。ディケイド以外にも、数人の平成ライダーはおり、その内の一人は仮面ライダー555=乾巧である。彼は『仮面ライダー555の世界』という基盤で成立している、数ある世界の一つから連れて来られており、不本意ながらも、『大ショッカーの時からの縁だ。手伝ってやる』と、ディケイドに加担していた。戦線で目撃された『杭を打つかのような前振りがあるライダーキック』を使うライダーは彼の事だ。天道総司=仮面ライダーカブトと共に、厳密な意味で言うと、『彼らの一人』を連れてきたので、彼らの基盤となる道そのものには影響はない。能力も辿った道も『オリジナル』の彼ら自身とよく似ているが、どこかで違いがある。それが彼らである。これは昭和ライダーにも当てはまるので、理論上は旧一号、桜島一号、新一号、更なる再改造を遂げた『ネオ一号』の共存も可能だ。
『通りすがりに期待するな、お前らの敵はお前らが、この場にいるべきでないヤツが俺の相手だ!』
ディケイドは扶桑陸軍ウィッチ隊にこの一言を言い放ち、戦いに臨み、過去の平成ライダーの能力を存分に駆使する。そのため、地味に強い事から、ティターンズはバダンと手を組む。バダンはディケイド対策と称し、仮面ライダー三号を送り込む準備を始める。それに不安を感じたデルザー軍団は、仮面ライダー4号を副官として送り込む。4号は仮面ライダー型(ホッパータイプVER4とも)の第4号であり、三号と異なり、スカイライダーの領域である空をマシンで飛ぶ。そのボディ性能は高く、強化スカイライダーを超越する。バダンはこうしたホッパータイプを生産しており、仮面ライダー5号の計画もあるという。ディケイドは強いが、所謂、改造人間ではないので、身体スペックそのものは昭和ライダーには及ばない。昭和ライダーは身体スペックが優れ、特殊能力は平成ライダーが優る。そのため、昭和ライダーと平成ライダーは互いにバランスが取れている。その調和こそが二つの仮面ライダー勢力の均衡を保たせていると言える。昭和ライダーと平成ライダーは、大ショッカー撃滅戦を境に、少しづつ交わってゆく。同じ仮面ライダーという名を背負った者の道が一つとなる。それは奇しくも、彼ら仮面ライダーを、ウィッチの中で一番に尊敬する黒江の願いでもあった。ウィッチ達は『自分達が英雄扱いされがち』であるので、誰かに縋る事が無かった。が、スリーレイブンズは歴代仮面ライダーらと出会っているので、ある意味では、多くのウィッチが失っている『童心』を復活させている稀有な存在である。若返ったという事も関係しているが、意外にもその童心がもっとも強いのは、黒江だ。若返った年齢が13歳であった事や、第二人格の形成もあり、レイブンズの中でも意外なほどに純粋であった。その純粋さが本郷猛を動かし、南光太郎に可愛がられたりする理由である。そのため、副人格の声色と片鱗が仮面ライダーらの前では不意に出たりしている。(例・『お兄ちゃん!』など)そのため、仮面ライダーらからは妹分/娘的扱いを受けている。そのため、智子は仮面ライダー達から『黒江の保護者』の扱いであり、茂からは『よく躾けておけよ〜智子』と冗談交じりに言われている。智子も、なんだかんだで『昇神した』後の人格では、そのポジションもまんざらでもないようで、黒江を引っ張る場面も多くなっている。メンバーの全員が『逆行者』なせいもあり、スリーレイブンズは本来の関係を超えた『家族』に変質しつつあった。
――それは事実上の創世王である南光太郎=RXがもっとも感じ取っており、武子には『綾ちゃんに悲しい想いはさせるなよ、武子ちゃん』と何気なく示唆したりしている。武子も頷いた。逆行前の99年、破局となった二度目の心臓発作で、突然の別れを黒江に体験させてしまい、黒江はショックのあまりに激しく取り乱し、仮面ライダー代表で参列した光太郎に縋り付いて号泣している。その事を見たため、武子は『あの子を泣かせませんよ、今度は』と明言している。逆行の負担は当時の肉体に来るので、当時はまだ、常人の域に近い武子は、三人と違い、体調を崩しやすい。これは今際の時までの肉体が鍛えられた状態をほぼ引き継いだ三人と異なり、武子は後天的に気の制御を身に着けた以外は常人と大差なかった故に生じた反動である。逆行と言っても、肉体が魂についていけるかは別問題で、三人は逆行までに神格化していたこともあり、生前の最高能力を過去の肉体でも問題なく使えるのだが、武子は神格化した直後に逆行をしたせいもあり、憑依慣れしていなかった。それ故、肉体が魂について行かず、オーバーヒートのような感覚で体調を崩すことがこの年までに多く見られた。体調を崩しやすいというのは、肉体の魂への拒否反応でもあるが、数年経てば落ち着く。それを知る智子が上手くなだめている――
――宇宙部隊と地上部隊に分かれた64F。シャア・アズナブルがシナンジュで以て、前線視察に訪れたのは、ちょうど、黒江たちがゲッター斬の受取で不在の時だった。
「やはり来たか、シャア!」
「不本意ながらも、私にはやらればならぬ事があるのでな」
「そのエゴで、カミーユ・ビダンを狂わせたのを知らない訳ではあるまい!」
アムロは、シャアがカミーユの身近にいながらもカミーユを救ってやらなかった事を許せず、それがアムロにとってのシャアへの禍根となっている。そのため、この時はその意趣返しと言わんばかりに、カミーユが使っていたZガンダムの同型機で対峙していた。
「キサマがゼータを使うとはな。私への意趣返しか?アムロ」
「そうだ。ゼータは時代を変え、ティターンズを滅ぼした。もうネオ・ジオンの時代でも無かろう!」
「あの時の量産型は歯ごたえが無かったが、まさかオリジナルのゼータ、それも改良型を持ち出すとはな。面白い」
「んなこと言うわりにあの時は早々に引き揚げたな?」
「あの時はサザビーに慣熟しきって無かったのでな」
「ゲルググで聞いたような言い訳だな?」
「如何にZとて、このシナンジュには勝てんよ」
シナンジュは最新型MS、対するアムロは名機と言われた歴代のガンダムの一機を駆る。シャアはサザビーよりも上位のスペックを持つシナンジュで、名機とは言え、歴代ガンダムの中では機動性と瞬発力以外では平均値の範疇のゼータに遅れはとるまいとタカをくくっていた。ゼータを間近で見ていたので、それは間違いではない。オリジナル仕様であれば。だが。この機体はオリジナルとは一味違っていた。全てが
「そいつはどうかな?」
「何ッ!?」
ゼータの各部装甲がスライドし、各部のサイコフレームが露出してゆく。さながらユニコーンガンダムのデストロイモードのように。Zでありながら、ユニコーンガンダムのような装甲展開機能を持つ『ストライクZ・サイコフレーム仕様』である。動力もバーストタービンが混ざっており、Zのパワー不足を『プルトニウス』と別のアプローチで解決した次世代の仕様であった。フレームもフルサイコフレームであり、ユニコーンガンダムとνガンダムのエッセンスを持ったZという、贅沢三昧な仕様である。
「ぬぅ……。TMSにサイコフレームだと……!?アナハイムのやる事は分からん!」
と、さしものシャアも狼狽したようだ。可変機にサイコフレームなど、贅沢三昧にすぎる。自軍ではバウに組み込む案があるが、経費の問題で一度、会議の場で見送っている。連邦は金に明かして、サイコフレームのZを作った。シャアも狼狽の色を見せるのも当然だった。
「行くぞ!!」
「ちぃ!」
バーストタービンとフルサイコフレームの恩恵により、シナンジュとも対等の加速力と瞬発力、パワーを見せるストライクZ。シャアはシナンジュも振り切れない加速力に驚嘆する。
(一年戦争の時のように、私が追われるとはな。ちぃ、アナハイムめ、厄介な仕事を……)
と、なじるシャア。同じサイコフレーム搭載機であるのなら、反応速度は対等であるので、射撃武器は意味をなさない。サーベルを使っての格闘戦に持ち込む。
「ぬうん!」
「なんのっ!!」
シナンジュの加速をつけたビーム・アックスの一撃を躱したZは、新造されたハイパービームサーベルでアックスと鍔競り合いを行う。元々の設計はリガズィ・カスタムの物だが、アムロ機に搭載されるにあたり、更なる性能向上が施され、ユニコーンガンダムやシナンジュにも当たり負けしないパワーを持った。その成果により、シナンジュの最新型サーベルにも引けを取らない。シャアのナギナタ攻撃は既に、一年戦争中に見切っていたため、アムロはそれを躱し、自身もディジェ搭乗時を思わせるツインブレード形態を取る。ディジェでナギナタを使っていたのが功を奏したのだ。こうして、両刃の光の刃を振り回す二機。両機の戦いは全くの互角。聖闘士で言えば千日戦争にも等しいほどの僅差であった。機体の反応力も全くの互角であり、マシンのポテンシャルの僅かな差が勝敗を分ける。艦からその様子を確認している者達は、マシン越しにアムロが見せる剣戟に唸らされる。正にそれは何者も介入出来ない血闘。やがて、シャアの反応速度にシナンジュの調整中の駆動系が悲鳴を上げ、腕部の動きが鈍った。ネオ・ジオンで改修した右腕のアクチュエータが過負荷で機能低下を起こし、関節の可動に支障を来たしたのだ。そこを突こうとするアムロだが、シャアは機体を翻し、距離を取る。
「……右腕のアクチュエータが機能低下を起こしたか。ええい、インテンション・オートマチック・システムに電装系がついていかんとは」
と、モニターに表示される機体損傷表示を確認し、ネオ・ジオンが調達した最高級品以上の精度を要求するインテンション・オートマチック・システムに、今一度ため息をつく。シナンジュはネオ・ジオンが整備するに当たって、中身にも手が加えられたが、それが悪手だった事を嘆く。
「今回は機体を仕上げて来なかった私の負けだな。またの機会に決着をつけるとしよう」
と、その場は取り繕うものの、シャアはシナンジュへの不満を垣間見せる。シャアが同機を好まないのは、出自が連邦系であるのもあるが、残党軍のジオン軍の整備能力がシナンジュを完全に整備出来るほどにでは無かったためでもある。そのため、シャアは純粋なジオン系のナイチンゲールを好んで使うようになる。
――この戦闘の模様は、帰還した黒江達にとっても垂涎の的であり、三人はアムロの驚異的な戦闘能力に唸った。アムロとシャアの反応速度は素で黄金聖闘士級であり、マシンもその二人の反応についてこれるというあたり、『バケモノ』である。ニュータイプの反応速度は戦闘に特化したニュータイプのアムロやシャアになると、量産型では駆動系と操縦系がすぐに限界になるため、最低でも高級機が必要となる。この頃のアムロの反応速度からすると、Z系では、リ・ガズィでは対応しきれないので、本式のバイオセンサーを積むZが必須である。そのため、νガンダム系の予備として、Zガンダムを選んだのである。(カラバの頃から好きな機体なためでもある)その日、映像を食い入るように見入る黒江と智子の姿があったとか――
――一方、ブリタニアのウィンストン・チャーチル内閣は、海軍予算を戦艦更新に振り分けすぎた事を糾弾され、窮地に陥っていた。戦艦建造費が前年度までで、今までの倍近い金額がかかっており、ブリタニア国内でも反発の声が上がっていた。そのため、チャーチルは泣く泣く、建造が遅延していたアイアン・デューク級三番艦を空母に転用し、CVA-01級航空母艦のテストケースも兼ねた空母とする事で、海軍空母閥の説得を行った。更に同位国の英国へ旧型艦艇の売却などを積極的に行う事も表明し、チャーチルは内閣への批判を火消ししようとしていた。その必死の努力もあり、アイアン・デューク、ヴァンガード、ヴィクトリアスの建造継続が決まった。その代価に、旧式化したKGX級の売却が決定され、状態が悪いモノから売却されていった。最初に売却されたのは、修理はされたものの、機関の調子が悪いデューク・オブ・ヨークであった。同艦はロマーニャ決戦で、事実上、大和型の弾除けのようにされた事で大小多数の砲弾を被弾。機関部に多数を被弾の結果、一応の修理はされたが、全速力の発揮が困難になり、地球連邦軍に売却された。また、次にネームシップのKGXは、英国から購入の打診があり、チャーチルがそれを了承した結果、退役式典が派手に行われた後、英国が購入した。そのため、能力向上型のライオン級は長く現役であり、ライオンの退役は1960年。史実ヴァンガードと同じ日に除籍されるという数奇な運命を辿ったという。また、後半生においては、後継艦に比して暇が取れる事もあり、晩年は御座艦として扱われたという。これはライオン級の戦力価値が下がっていた事もあるが、戦艦のプレゼンス的運用を指向した、当時の政権の意向ともされる。また、この1940年代にチャーチルが『大和型ファミリー』に対抗して生み出した7隻の戦艦は『ブリタニア・グレート・セブン』という区分で呼ばれるようになる。これはブリタニアが、大和型と対等の戦艦を作れることを内外に示すために、戦中からよく用いられた『プロパガンダ』である。これは大和型が扶桑海事変の頃から各国の海軍整備に影響を与え続けてきた事を研究してのものだった。が、皮肉な事に、扶桑はこの頃、既に戦艦から空母へ主力艦の建造の軸足を移している。そのため、ブリタニアは戦中のこの時点で既に、トレンドに半歩遅れていると揶揄されていた。チャーチル、いや、往年の栄光も終焉しつつあり、日が陰り出した国『ブリタニア』は同盟国の扶桑が何故、植民地経営に成功し、かつて『華僑』と呼ばれた者達をも取り込み、一大帝国になったのかを必死に研究し始める。これまでのの苦戦が原因で、ブリタニアという共同体が瓦解する危機に直面していると自覚があるらしい。そのブリタニアの威光を維持するため、グレートセブンの大半は戦線の矢面に立つのだが、リベリオン本国は、その豊富な資源に物を言わせての大戦艦を送り出す事により、ブリタニアの7隻を窮地に陥らせる。同時に、『ブリタニアの時代は終わった』と知らしめる良いプロパガンダになるのである。
――1960年――
リネット・ビショップは、当時、自衛隊設立準備に協力する一方、末の子供である息子の『ウィリアム』の育児に追われていた。当時、息子は7歳前後。遊びたい盛りであった。姉たちが軍人になったのもあり、彼が欲しがるおもちゃも当然ながら、それに関係するものであった。その時に買い与えたのが、ブリタニア戦艦最強と名を馳せるヴァンガードの模型であった。その縁もあり、彼は長じた後に、ブリタニア海軍へ入隊、シーハリアーのパイロットとなるのだった。彼の部屋に飾られた模型が示す事実こそが、ウィンストン・チャーチルが祖国に残した偉大なる遺産であったのだ――
「ママ〜、これ買って〜」
「いいわ。でも、学校の勉強を終えてからよ、ウィリアム」
60年代のビショップ家の風景。それはリーネが得た幸せの形である。だが、第二次扶桑海事変を更に戦い抜いた芳佳への罪悪感が消えてはおらず、それがリーネの後半生を決定づける事になるのだった。
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