外伝2『太平洋戦争編』
六十九話『まやかし戦争』
――1948年の秋から戦争はまやかし戦争と呼ばれる小康状態に入った。その小康状態は双方の不本意のするところであったが、扶桑は日本から渡ってきた元日本帝国陸海軍軍人であった老人らが若返り、戦列に加わった事で、陸海軍の人手不足の緩和に成功した。その彼らは主に、訓練期間の短縮を図る都合、青年期についていた兵科に配属された。ある者はオートバイ免許を活かせる斥候であったり、戦後の職業の関係で整備兵に転向した者もいた。戦後に辛酸を舐めた経験がある彼らに取って、軍人であった事を誇れる世界である扶桑は良い移住先であり、家族がある者は子や孫を連れて移住したりした。また、この頃になると、未来人による私的制裁も収まった。(最後の被害者は畑俊六元帥で、『米内内閣の戦犯』と批判され、元帥位の剥奪が提訴され、お上に逆らったと批判されたのを期に、同位体の罪を背負う形で彼は軍を辞し、一農夫に身を落とす事になったという。)その余波は大きく、未来人の手で徹底的に戦前指導層と幼年学校卒の青年将校が中央から排除された事により、扶桑陸軍の帝国陸軍の同位軍という雰囲気は薄れ、その代わりに陸上自衛隊的な風土が持ち込まれ、2000年代時点の陸上自衛隊を範にした軍隊になっていった。
――1948年 10月――
「小康状態になって、もう二ヶ月かぁ。暇になりましたね」
「その間に軍は建て直しに奔走してるけど、純粋培養の幼年学校からの青年将校はアリューシャンに島流しになったし、ウィッチ訓練学校の一部から手切れされたから、そのウィッチを軍で拾う必要があったから、今年の予算はかなり使い込まれたそうよ」
「ああ、連中の暴走でウィッチ訓練学校が強引に普通学校にされて、放り出されたですもんね」
「おかげで、分校まで開いて教育を自前で引き受ける羽目になったのよね。傍迷惑だわ」
武子となのはが会話するが、ウィッチ訓練校の一部が軍と手切れさせられた悪影響により、放り出されたウィッチを軍が引き取る羽目になり、士官学校や訓練学校の分校を開く羽目に陥った扶桑皇国軍。そのウィッチ達は郷里に不信感を持ち、生涯、郷里の土を踏まなかった者も多い。だが、幸いにも歴代ヒーロー達の助力により、戦線に混乱が起きることはなく、ロボットガールズ達に合宿をつけてくれるというオマケ付きであった。中には、ウィッチとの縁により、B世界に赴いた者もいる。太陽戦隊サンバルカンは二代目バルイーグル=飛羽高之、超獣戦隊ライブマンはレッドファルコン=天宮勇介がそれに該当した――
――B世界――
とある駐屯地に移動した502だが、早速、陸戦型怪異の空挺降下を受けてしまう。これを救ったのが彼らであった。
「来てくれたんですか!?」
「武子ちゃんから要請があってな。それでやってきたんだ。太陽戦隊サンバルカン、バルイーグル!!」
「おお〜!!か、かっこいい〜〜!」
と、大喜びのガイちゃんと黒江。ビシっと決めポーズを決めながら颯爽登場のバルイーグルに歓声を上げるあたり、二人の馬は合うらしい。スーパー戦隊は他戦隊との共同戦線の場合、個人名乗りに所属戦隊名を加える事がある。今回のバルイーグルはそれである。B世界に足を踏み入れたのは、武子の要請がスーパーバルカンベースに伝えられ、すぐにB世界に行ける人員がレッドファルコンとバルイーグルだったわけだ。レッドファルコンも姿を現す。
「超獣戦隊ライブマン、レッドファルコン!!」
これまた決めポーズを決めて、名乗りを決める。日本のスーパーヒーローには威嚇と変身の余剰エネルギー放出の意図もあり、名乗りをする事が当たり前である。仮面ライダーXが史上初の名乗りを挙げたヒーローであり、以後、ストロンガーに継承され、逆輸入で歴代ライダーも用いている。スーパー戦隊ではゴレンジャーからの伝統であり、戦隊同士の共同戦線が増えてからは名乗りに変則パターンも増えている。
「ここは任せろ!君達は仲間を助けに行け!」
「は、はいっ」
バルイーグルとレッドファルコンに促され、二人は他の皆の援護に向かった。駐屯地の部屋が離れていたりするため、502はこういう空挺降下への対応は遅れがちである。502は陸戦ウィッチ隊が回収班として随伴しているが、肝心要のアウロラ・E・ユーティライネンはこの時期になると魔力減衰期に入っており、矢面に立てないという問題があるので、あまり不測の事態では宛にできない。そのため、駐屯地を探す羽目になったりした。もちろん、自力で道を切り開き、陸戦ウィッチ顔負けの戦闘力を見せるハルトマンとマルセイユが近くに配されていたラルは、すぐに救出された。二人が『真っ向両断』で侵入した怪異の子機をたたっ斬ったからである。これはA世界の二人特有の技能であり、B世界の当人らとは関係はない。ラルも驚きのあまり、目を何度もこすっている。
「ふう。直伝が役に立ったな」
「ハンナ、ハルトマン、お前ら……なぜ扶桑刀を?」
「こちらでは人同士の戦争だと言ったろ?その関係で覚えた。いざという時に役に立つんだ、これが」
マルセイユとハルトマンは戸隠流正統・磁雷矢から忍術と剣技を教わっている。その関係で真っ向両断を放つ事が出来、動きが身軽なのだ。ハルトマンは太刀だが、マルセイユは忍者刀を使っている。ハルトマンはその後、飛天御剣流に、マルセイユは双方を習得せんとしたため、マルセイユは忍者寄りのファイトスタイル、ハルトマンは剣士寄りである。ラルは生え抜きの軍人、それも戦前教育組であった上、当初は陸軍に入隊したクチだったので、戦中志願組と違い、護身術として対人戦闘術へある一定の心得は持っていた。怪異との戦争では役に立たないとされ、ミーナが志願した1939年前後の時期には対人訓練は省略されている。腰の痛みが解消されたA世界では、立場と時勢の都合、対人訓練を推進しているが、一少佐であるB世界では『ロートル』との意識も持っているため、護身術を使う機会が来た事に驚いている。A世界においては、カールスラント三人娘達は『接触』当初は魔力に頼っていたため、海賊としての訓練を受け始めていたシーブック・アノーは愚か、ジュドー・アーシタにも遅れを取る程度の対人スキルしかなかった。ハルトマンは戦間期から新501までの時期にそれらを鍛え、黒江と揉めて、理解者に転じて以降のバルクホルンも流竜馬の道場に通っている。ミーナは元来、音楽家志望だったのを新501編成時も引きずっており、対人術は留学して以降に鍛えている。
ラルを守りながら、二人は建物を進んでいく。やがて黒江とガイちゃんと合流に成功するが、問題はここで発生した。
「なに――!あの二人の部屋を離したぁ!?参ったな、こうなると、敵がわんさかいるのを突っ切る必要があんな。私達だけなら問題ないが……」
「大丈夫です。自分の事はお構いなく」
「いや……陸戦は腰に触るだろう?うーむ……」
「イーグルさんとファルコンさんに連絡入れる?」
「それしかないな。いくらなんでも、少佐を守りながらじゃ、あの二人のところには迅速にいけんし。ハルトマン、連絡入れてくれ」
「了解〜」
連絡を入れるハルトマン。レッドファルコンとバルイーグルが駆けつけたのは、それから数分後のことであった。レッドファルコンは本業は科学者だが、バルイーグルは地球平和守備隊の大佐(航空自衛隊で一佐)である。立場としては軍人に当たるため、指揮はバルイーグルが取ることとなった。これに異論はなく、バルイーグルを先頭に、駐屯地を突っ切る事となった。
「秘剣・流れ十文字!!」
バルイーグル(二代目)は戦隊史上初の剣を個人武器にするレッドである。その立場は伊達ではなく、襲いかかる怪異の子機を難なく撃破していく。剣といっても、形状が日本刀である点を考慮すると、史上唯一である。
「いつ見ても、イーグルさんは手慣れてんなぁ」
「戦隊史上初の剣持ちのレッドだからな。俺も戦隊としては現役を退いた時に会ったが、シゴカれたよ。先代のレッドマスク曰く、通過儀礼だそうな」
「わーお」
バルイーグル=飛羽高之は剣道などに通じており、歴代の剣技を使うレッドとしては、後発のレッドが増えた時代でもトップクラスを維持している。剣技を扱うレッドはバルイーグル以後はほぼ常態となったが、意外と『剣で幹部級と渡り合った者』は多くない。また、バルイーグルから直近の80年代のスーパー戦隊のレッドは特技の傾向が格闘か剣技に分かれる傾向があり、チェンジドラゴン(電撃戦隊チェンジマン)からは剣技主体が定着し、少なくとも、90年のファイブレッド(地球戦隊ファイブマン)まで傾向が継続している。
「とう!!」
「ハァ!」
二人のレッドは剣技で道を切り開いてゆく。それを見て、必死にメモを取るガイちゃん。抜けているようで、意外と自分に関連がある事は勉強熱心であるらしい。元々は槍使いであるガイちゃんだが、現在は剣使いであるので、その勉強に熱心である。
『飛羽返し!!』
バルイーグル必殺の飛羽返し。これを食らって生き延びた者はまずいない。ましてやバルイーグルの刀はデンジ星のオーバーテクノロジーが直接用いられているので、怪異であろうと薄紙のように斬れる。その証拠に、バルイーグルの刀は通常の刀が弾かれる硬度の怪異の装甲を真っ向から切っている。これはレッドファルコンのファルコンセイバーも同じだ。二人について進んでいくと、雁斑(姉)を守る智子の姿が見えた。
『ダイヤモンドダスト!!』
智子は通常の小具足姿ではあるが、戦闘力そのものは神レベルに達したため、怪異など問題ない。黄金聖闘士としての水瓶座の闘技の精度は黒江よりも上であり、絶対零度に達している。
「お〜い、みんな〜!こっちこっち〜」
「智ちゃんか。しかし、ダイヤモンドダストで氷漬けとは、エグい倒し方するな」
「なーに、いい肩慣らしにはなりますって」
レッドファルコンが言う。(智子は、ヒーロー達からは『智ちゃん』と呼ばれている。言い出しっぺは南光太郎)
「あの……先輩。この人達は?」
「うーん。えーと、リベリオンのコミックヒーローを地でいってる人達、かなぁ?」
「……先輩?」
「あー、信用してないでしょ!」
ぶーたれる智子。1945年当時、スーパーヒーローと言えば、それくらいしか例がないからだ。A世界では既にスーパーヒーロー達の存在は認知されているので、説明は楽だが、この世界においては説明が難しく、そうとしか言えない。
「論より証拠というわけだ、智ちゃん。ファルコンブレイク!」
レッドファルコンがファルコンブレイク(エネルギーを充填した上での十文字斬り)を披露すると、歓声が挙がる。つまりは論より証拠なのだ。
「次はあたしにやらせて!ザウゥゥルガイザー!!」
ガイちゃんもザウルガイザーを放つ。彼女らの存在はB世界には公にされていないものの、502(B)の立場確立に大いに貢献している。が、孝美Bは妹への過保護が最悪の形で知られてしまった事への強烈な罪悪感が心を縛り、マジンエンペラーへの畏怖がハルトマンの怒りの琴線に触れてしまい、すっかり怯えている様子すら窺わせている。妹と数日も顔を合わせていないらしく、顔色が悪い。更に罪悪感がウィッチとしての力に悪影響を及ぼしたらしく、今の彼女は魔力を使えない非戦闘要員も同然であった。更にそれを助長したのが、扶桑人以上に戸隠流忍術を理解し、使いこなすマルセイユ、一騎当千の剣技を実現させたハルトマン、更には『前世代のウィッチ』と侮ったスリーレイブンズへの劣等感だから、余計に始末が悪い。それらの陰の感情により。異変が起こる。突然、孝美が苦しみだし、体が怪異化し始めたのだ。
「な、なにこれ……い、いやあああ…!私の、私の体が、体があぁあ……!」
「な、なんだ!?」
「孝美の体が怪異化!?」
「この世界にはウィッチに寄生して怪異化させてしまう恐ろしい怪異がいると聞いた事が……!まさか孝美が……!!」
「ああぁぁ……!」
「孝美!」
孝美は意識があるまま、体の制御を怪異に乗っ取られ、本人の意思と関係なしに破壊の権化と化してしまう。軽く絶望したラルだが、一同は救出すべく、早くも動き出す。そこのあたりはあっぱれなほどポジティブである
『バーニングデススト――ム!!』
怪異化した孝美の構造を調べるため、ガイちゃんがバーニングデスストームという風系の技を放つ。荒い方法だが、熱風を浴びせると、怪異は行動に出る。孝美の体に寄生している故に、体の構造を弄れるのか、元は孝美の足であった部位から支柱を出すという行動に出た。
「あ、コノヤロ、支柱を出しやがった!」
「よし、バルカンスティック!」
今度はバルイーグルがバルカンスティックを日本刀から元の形に戻して、投擲する。すると、当たった箇所がガラスが割れるかのようにひび割れる。体は完全に怪異化しているようだ。
「ライブラスター!」
次はレッドファルコンがレーザー銃『ライブラスター』を放つ。当たったのが胸部だったのが幸いし、変貌した内部構造が明らかになった。
「ああ、考えやがったわね!コアに孝美の心臓を取り込んでる!」
「なにィ!?」
露出したコアの中には、孝美の心臓が包み込まれる形で存在していた。脈打っているその心臓を人質に取る形を取る。が、その程度で攻撃を止める彼らではない。
「な、何をする気です、穴拭少佐」
「荒療治だけど、あれを砕くわ。黄金聖闘士のスピードなら、砕いた一瞬で『蘇生』できるわ」
智子は仮面ライダー555のように、『溜め』に入り、足先に魔力と小宇宙を集中させる。ラルは思わず顔色を変える。が、もはや方法は黄金聖闘士としてのスピードに賭けるしかないのだ。
「智子、孝美の脳に負荷がかかってる事を考えれば、1分が限界だぞ」
「50秒もあれば充分よ」
不敵な笑みを浮かべる智子。智子は加速し、すぐにコアに『クリムゾンスマッシュ』を叩き込む。それを終えた直後にすぐに蘇生処置を行う。その時間、57秒。豪語した割にはギリギリセーフなタイムだった。
「おいおい、7秒も遅れてたぞ」
「心臓からコアの破片を抜くのに時間がかかったのよ。まぁ、許容範囲内よ」
「肉体は何歳くらいで再生した?」
「急いでたから、元の年齢より5歳は若いくらいね。12歳程度かしら?」
再生された孝美はひかりよりも若い肉体になった。急いでいたので、肉体の年齢までは気が回らなかったのもあり、完全に志願当初の頃まで戻っている。
「一度、心停止したから、起きるのは当分先ね。あたしがおぶっていきましょう」
「大丈夫ですか?」
「今更、子供一人くらいどーってこたぁないわ。説明は頼んだわよ、少佐」
「は、はい。しかし、心停止とは、死んでません?」
「未来の医学によると、心停止から1、2分ほどは脳は生きている事が判明している。その間に処置すれば蘇生する事が多いんだ」
「なるほど……」
バルイーグルが補足する。
「それに、未来では心臓を停止させて行う手術法が開発されているからな。昔、ギロチンで落とされた首が動いたっていうのも聞いているだろう?そういう事だ」
レッドファルコンも続く。レッドファルコンは科学者である(肉体派の落ちこぼれとされたが)ので、説得力がある。
「死亡診断は難しい。ショックで脳と心臓が同時に止まったり、脳だけが死ぬ場合も有る。この時代の医学ではわからないが、未来では色々と開明されているからね」
「なるほど」
「艦隊のいた世界だと、腕の一本とか足の一本、軽く繋げられるし、再生できるからな。私の知ってる奴がそれで足を治したぜ」
「魔法みたいですね……」
「ウィッチがいう台詞じゃないぜ、少佐」
黒江が最後に言う。皮肉な事に、戦争は医学を発達させる。A世界では、旧エゥーゴとティターンズの戦争が先進医学を持ち込んだ結果、義足になっても往時と変わらぬ生活が送れる事が当たり前となった。ルーデルも片足を失ったが、高性能義足のおかげで不自由なく生活しているし、未来世界のオリンピックに二度目で出るつもり満々である。そのため、B世界の人々の驚きは新鮮だった。(ルーデルは義足だが、23世紀の超高性能義足を用いているため、見かけでは判断出来ない上、動きも俗に言うに言う義足のそれではない。そのため、パラリンピックに出るのは反則とも言える。当人は「いざとなったらパラリンピックでも出るさ」と大笑している。幸いにも、ルーデルは片足タイプの義足であった上、出力が生身とバランスする最新タイプだったので、無事、オリンピック二度目の出場が叶った。見かけが完全に健常者のそれと変わらないのも助けとなったからだ。当人は特注品と言って誤魔化した。昔から義手の騎士や軍人がいた事もあり、21世紀のオリンピック委員会もOKしたという)
「確かに。そちらは1948年になっても戦争が終わってないのでありましょう?それは複雑ですが」
「この分だと、53年あたりまでドンパチかもな」
「何故です?」
「介入者達が手前勝手な思惑で動くからだよ。おかげで反攻作戦が頓挫だ」
「手前勝手とは?」
「ややこしいんだが、介入者達の中にはいるんだよ、扶桑が軍事大国になるのを止めようとする奴。そういうのは、介入者の間からも鼻つまみ者だけどな」
21世紀日本の左派は23世紀という未来からも介入者がいて、扶桑に超テクノロジーを与えた張本人であることに愕然とした。それが自分達の子孫に当たる23世紀日本人であるのも、左派には精神的ショックだった。つまりは『自分達が未来人と驕り高ぶっていたら、もっと未来人が来てた』と言う奴だ。23世紀人はティターンズを殲滅せんと、扶桑に援助をしたが、21世紀人が知らずに足を引っ張った。おかげで、世界は大混乱である。オラーシャ帝国は革命を起こされ、身内同士で殺し合い、モスクワ大公国時代とさほど変わらぬ国力に落ち込み、自衛隊より少ない兵力に落ち込み、更には国民の間に分断を強いた。その結果、オラーシャは世界の安全保障よりも自国の再建が急務となり、ブリタニアの世界安全保障構想は頓挫してしまった。そのため、不本意ながらも、扶桑は本来よりも強大化しなければならなくなった。が、介入者の情報の陽の面もある。軍事的には、『自国でも軽視されていた潜水艦技術の重視』(カールスラント)の成果を挙げた。カールスラントは比較的進んだ潜水艦技術を保有していたが、怪異戦では人員輸送と物資輸送以外に需要がなく、技術は相応にありながら、潜水艦を軽視していた。21世紀介入者が大っぴらに『ドイツに外洋海軍は無理』、『潜水艦隊を持ってればいい』と発言した事、XX1の高性能が敵側により証明された事により、水上艦隊整備計画を撤回してまで潜水艦整備に邁進している。
「結果として、国々の間で分業が進んで、カールスラントは大洋艦隊再建を諦めた。それでも水上艦閥がうるさいから、一定規模までは再建するらしいけど」
カールスラントの海軍整備は潜水艦隊整備に軸足が移されたため、『ショーケースの中の海軍』と彼ら自身が称した水上艦隊は、扶桑の一艦隊の数程度で再建が止まった。戦艦6、空母4、巡洋艦20程度の規模である。そのため、実働戦力は扶桑の一艦隊にも満たない。また、バダン製のグラーフ・ツェッペリンは当然ながら、彼らに残されたペーター・シュトラッサーとは規格も艤装も違うため、現場がパニックになった。これは造られた世界が違うため、鹵獲グラーフ・ツェッペリン級達はドイツ独自の工夫がこなされていて、カールスラントにあるペーター・シュトラッサーは『天城級航空母艦の小改造』である出自の違いが原因だった。流石に違い過ぎで困ったため、ペーター・シュトラッサーの扶桑製は返却まで検討された。が、カールスラントには今すぐに同等規模の空母の新造は不可能であり、結局、ウィッチ閥の反対もあり、改名の上、『練習空母』として、しばし使用されたという。
「そちらでは大変そうですな」
「ああ。あとで話すよ。色々と話のタネはあるよ」
「あ、また来たわよ!」
「ここは任せろ〜!デスパァァサイト!!」
と、言いつつ、手刀の斬撃であるガイちゃん。『トリプルガイキング』とも言うべき姿に通常フォームがパワーアップしたため、青色を主体にした今までと違い、黒である。装甲形状も異なる。
「パワーアップしたあたしをなめんなよ〜ギガ・パンチャーグラインド!!」
カウンターパンチの二段階パワーアップ後の武装がこのギガ・パンチャーグラインドである。破壊力と貫通力はスクリュークラッシャーパンチ(グレンダイザー)と同等程度とかなり上がっている。パンチの初速がかなり上がったためだが、パンチが必殺武器のZちゃん達にはやはり一歩及ばない(Zちゃんとグレちゃんはターボスマッシャーパンチなり、Gスマッシャーパンチを有するので)。それでも、ガイキング・ザ・グレート化すれば、マジンカイザーにかなり肉薄するパンチ力を誇り、マジンガーZの超合金Zに風穴を開けられると豪語した。
「とどめだぁ!カウンタークロス!」
所々で、以前の名残が見え隠れするが、基本的にはトリプルガイキングであるように進化したガイちゃん。その力は総合的にZちゃんの通常時を凌ぐ。それが自信を取り戻す要因であった。ガイちゃんは自分の力が及ばない事を恐れる一方、熱血で事を乗り切ろうとする思考回路をしているため、黒江と波長が合う。黒江が面倒を見ているのはそのためであった。
「へへーん、どうだ!」
「よし、道は開けた!みんな、行くぞ!」
一同は隣の棟に突っ込んでいく。そこの中ほどの居住地区では。
「おおおおおああぁああッ!」
圭子がゲッターマシンガンとロングトマホークを持ち、ひかりとジョゼが引くほどの阿修羅ぶりを見せつけていた。しかもガン=カタをやらかして。ゲッターの使いとなっているためか、一対多でも躊躇なく突撃を選び、のび太直伝のガン=カタを行う。相手が怪異であろうと。陸戦ウィッチ顔負けの乱舞ぶりに、ジョゼとひかりはあっけらかんとしていた。
「あの人、本当にエクスウィッチなの!?現役より強いし、アウロラさんより怖いし!」
「う〜〜ん……」
ひかりは何とも言えない。ゲッターの使いと化した圭子の個人戦闘力はアウロラの絶頂期に比肩するレベルである。智子と黒江に比べると大人しめだが、機動兵器搭乗で真価を発揮するため、一概には比べられない。ひかりBは圭子の往年の勇姿は知らないわけでもないが、ここまで凄いはずもないので、ひかりも驚くだけだった。恐ろしいのは、瞳が渦巻き模様のようになっていて、『戦いを愉しむ』かのような狂気じみた叫びを上げるところである。
「二人共大丈……って、えぇ――ッ!?」
武器を持って駆けつけた下原も呆気にとられる、大暴れの圭子。下原は坂本の直接の教え子であり、比較的スリーレイブンズと世代が近い。往時を坂本が語る事もあったのだが、それを鑑みても異常な強さである。
「ムウン!」
極めつけは生身の拳で怪異を破壊してしまったので、三人は言葉も無かった。アウロラもやらなかった事だ。『人外魔境』とはこういう事を言うのだ。そう三人は同意した。圭子の大暴れは『当人』が知れば、泡をふいて失神間違い無しの出来事である。しかも片手に銃、片手に斧と、完全に殺る気である。
「き、金太郎?」
と、下原がつぶやく。で、それをばっちり聞いた圭子。
「誰が金太郎よ!」
「す、すみません!だ、だって、マサカリなんて担いでたらそう思いませんか?!」
「これのどこがマサカリよ!トマホークランサーと呼びなさい!トマホークランサー!」
「うぅ……」
「そう…見えない事もないのか……はぁ……」
ガビーンと効果音が聞こえてきそうな落ち込みようの圭子だが、怪異を寄せ付けない。
「でも、定ちゃん。あれ、槍頭ついてるし、ハルバードだよ」
「ハルバード?」
「定子、お前はハルバードも知らないの?」
「はあ。私の頃は近接戦闘訓練は省略されまして…」
「近頃の訓練課程は情けないわね。男の兵士を制圧出来ないわよ、そんなんじゃ」
圭子は戦前志願世代なので、近接戦闘訓練を受けている。これがA世界では盲点となり、死傷率が上がった要因である。ティターンズの特殊部隊に暗殺されたり、あっさり制圧されたりした事例がいくつかあり、新501では近接戦闘訓練を重視した。その時は訓練に苦労させられた事がある。坂本/竹井世代から後は個人武器に刀(剣)、槍などを携行しないのが当たり前となっていたため、リーネやサーニャなどは普通の女の子でしかない。その点が対人戦争に於けるウィッチ閥の発言力低下に繋がっていた。その窮状は扶桑では、スリーレイブンズを再び祭り上げているほどである。(黒江はその関係で、冷遇と厚遇を交互に経験したので、広報部に嫌味をたれたいとぼやいた事がある。行動的な性質なので、基本的に平時には疎まれる質なのである。それは当人も自覚しているため、戦後はしばらくはブラブラするつもりである)
「あの、加東……大佐。そんな戦闘術をどこで」
「色々あってね。みんなのところに行くわよ。続いて」
「は、はい」
圭子は温厚さが売りだが、戦闘モードになると情け容赦のない修羅となる。そのギャップが定子を戸惑わさせる。印象的なのは、マフラーが特徴的な形をしていて、どんなに動いても崩れない事であったりする。
「敵に厳しくするのはそうしないとやってられないから。 情がわいたら戦争なんてたまんないわよ」
と、本心をさらけ出す。黒江の精神バランスが狂ったのは、敵に回った戦友へ情を捨てきれなかったからであるのを知っているのと、元々がレイブンズ最年長である故、割り切っているからだ。レイブンズは方向性は違うが、なんだかんだで優しいところは共通である。黒江を思いやるがため、汚れ役の修羅となるため、ゲッター線に身を委ねている。圭子のその決意が逆に黒江を苦しめているのは皮肉なことである。それを圭子は既に自覚している。ゲッターの導きに従う以上、招来の自爆は必然である。黒江の願いに応えられない唯一無二がそれである。智子に面倒を頼んでいるのはそのためだ。智子が姉と公言したのは、圭子が将来的にゲッターロボで自爆して逝く運命が待っているからである。智子が神になって不老不死になっても逆行したのは、一人ぼっちにした事で黒江に寂しい晩年を送らせた(一度目)事への償いであると同時に、圭子との約束を守るためだ。武子が逆行したのは、圭子と黄泉の国で会話した際、それを知ったからであったりする。
「さて、行くわよ」
「は、はいっ」
圭子は運命に身を委ねる一方、個人としての苦しみもある。黒江に献身的なのは、その運命がゲッターに決められた必然である故の寂しさと、本来の母性がなせる業だったのかも知れない。
――この時の暴れぶりは後にA世界に伝わり、滞在中の圭子Bを大いに泣かせる事となる。その際、Aから『後事』を託された事で、圭子Bはその願いに応える事になる。B世界のスリーレイブンズの内、圭子だけはその性質上、戦後もA世界と深く関わっていく。圭子Aの願いが圭子BをA世界に関わらせ……、やがて――
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