外伝2『太平洋戦争編』
七十話『まやかし戦争2』
ドラえもん達が地球連邦に協力した理由の一つ。それは地球連邦の統治を理想としていた時代に生きる人間であるのび太達には、ジオニズムも地球地上主義も馬鹿らしく感じられ、日本を中心にした地球連邦改革派に与し、地球連邦の地方分権と連邦軍の立て直しに大きく貢献した。ドラえもんはのび太を一人前にした後は連邦政府のエージェントに『転職』し、普段はジャン・○ノの着包みを着て行動するようになり、武子の情報網の一端を担っていた。また、仕事の性質上、殺しのライセンスを得ており、23世紀では普段は英国在住である。(旧MI6内にオフィスがある。フランス人俳優の姿を借りているのに、英国情報部の後身と言える分署に身を置いているので、のび太からは『ジェームズ・○ンドかぶれ』とネタにされている)
――64F 武子の執務室――
「ありがとう。これで当面は戦線に動きはないわね」
と、電話を切る。相手はドラえもんで、ドラえもんから『二年は戦線に動きはない』ことのお墨付きを得た事で、ようやく休みが取れる。新撰組のみは南洋島から離れるのが厳禁なので、南洋島での休暇となる(裏技で野比家に行くという方法はある)。
――味方はこの時間内での74式戦車のコピーを急いでいるし、播磨型戦艦二番艦の建造を急いでいる。日本からの賠償金を主に戦備立て直しに使い、扶桑は戦略を『ハワイ決戦』に切り替え始めている。そのための播磨型戦艦である。日本は膨大な資本を扶桑に注ぎ込む事で『禊ぎ』をしようとし、異例の金額の賠償金と、工作機械などの提供を行った。その恩恵はすぐに表れ、南洋島戦線の兵たちの武装は一気に自衛隊と同等以上のモノに置き換わりつつある。特に対戦車誘導弾や自動小銃の配備は嬉しいところで、装備が矢継ぎ早に与えられた。ウイッチ達は近接戦闘訓練をしていない世代が主力なため、この近代化に疎外感を感じていた。『戦闘機械』になれない者が多数派であるためだ。リーネやサーニャなどの『普通の女の子』には生きにくい世の中になりつつあり、リーネが半ば従卒になっているのも、この空気への反発もあった。サーニャがあくまで祖国に尽くし、ピアニストの夢を二の次としているのとは対照的に、リーネは対人戦を必要最低限以外はしないポリシーがあるためでもある。この頃には退役の腹積もりではあったが、芳佳が最前線にいるので、罪悪感があると漏らしており、軍籍は終戦まで手放さないとも明言している――
「天誅組あたりから休暇取らせ……はい、こちら……あら、まともなほうの圭子じゃない」
「どーいう意味よ、それ!」
「ごめんなさいね、こっちはウォーモンガーなのよね」
「〜〜!そのAから頼まれたけど、あなた知ってるの?あの子の運命」
「当人と話してるから。あなたには招来、『代わり』になってもらうしかないのよ」
「あの子が死んだ後、でしょ?100年単位で未来のことを頼まれてもね……」
「仕方がないのよ。綾香に言ったら、それこそ発狂しちゃう可能性大きいし。そもそも、自爆を止めたい、もしくは一緒に逝きたいから二度目をしてるのに、因果がそうなってるなんて聞いたら、ねぇ」
圭子は運命を受け入れているが、黒江はそれを変えたいがために『運命に抗っている』。その拠り所をぽっきりへし折ったら、再度の精神崩壊は避けられないだろうと武子は睨んでいた。黒江がゲッターチームで言えば、見届けることを宿命付けられた『神隼人』のポジションである事に気づいた武子は、この時期からメンタルケアを勉強し始める。軍退役後に稼業として『心療内科』を開業する選択を取る事を決めたのもこの時期だ。今回は昇神で寿命も老いも無くなったので、退役後の軍は孫達に任せるつもりである。
(あの子、もう一回しそうな気がするわね。多分、あらゆる手を尽くさないと気がすまないのよね。私が前回に死んだときの事、思い切り泣いてたし)
武子も前回の心臓発作は突然だったが、その直後の黒江の塞ぎ込みが尋常ではない事を孫の美奈子から聞いたため、黒江の根底にさみしがり屋の少女がいると理解していた。更に運の悪い事に、自分の半年後くらいに坂本が死んだため、坂本の子を恨んでいる事も聞いていた。坂本もその事にはバツが悪く、黒江を気づかっている。
「あの子は強いようで弱い。その事を理解しないと、友人は務まらない。あなたにはあなたの生き方があるだろうけど、貴方自身の最期のワガママを聞いてくれるかしら、圭子」
「あなたにまで言われると、断れないわね。あの子の事はほっとけないのは理解したしね」
圭子Bは折れる形で、黒江Aの面倒を、A世界の自身の死後は見る事を了承した。B世界では黒江との繋がりは無きに等しいが、A世界での絆を理解したためか、将来的なA世界への移住も確約した。それがBなりのAと武子への誠意だった。二人の圭子の存在の統合の兆候は既に表れており、容姿がAに近づき始めている他、言動もA側に近づき初めていた。記憶はまだ統合されていないが、既にA固有の荒い言動が口をついて出始めている。他の二人はあくまでAと別の存在であるが、圭子だけは統合され始めている。それが他の二人(B)との違いだった。
「こっちの二人はどうなるの?」
「智子は昇神で此方側に統合されるだろうし、綾香もおそらく、あの子を『飲み込む』でしょうね。でも、あなたの知るあの子達はあの子達で別の存在としてあり続けるかも知れないわ」
「神と人として?」
「そう。あの子達は言わば、人間として生きて死んでいった場合の存在よ。世界に別の存在と認識されるかも知れないわ」
「ややこしいわね」
「広瀬中佐が軍神な時点で、その手の議論は意味ないわ」
「靖国に祀られるって奴?」
「そう。私達全員、将来的には祀られる運命にあるわ。私の孫娘の代にはみんな祀られてるわよ」
「え〜!?」
「軍神扱いだもの、私達。孫娘曰く、貴方、男っぽいって人気だそうよ?」
「嘘ぉ〜……」
電話越しの声がヘナヘナになる。そういう方面の人気が出たのは、Bは不本意らしい。しかも孫の代の頃に。
「と、まぁ、そういうこと。影武者の任務、よろしくね」
「こうなったらヤケよ。私の後継ぎになった姪っ子の名前、教えなさいよね」
「仕事が出来てからね」
「ずるい!」
と、電話が切られる。こうして武子は黒江のメンタル問題の解決に糸口をつけたが、大きな問題の一つである『新撰組メンバーの固定化』は避けられない見通しだった。それについてが最近の本業での心配であった。武子は『若手の突き上げ』を欲していたが、日本/扶桑にエースパイロットは当面の間出ない事は分かっているため、実質的に今次大戦では、1944年から45年に志願した世代の者たちがエースを輩出し得る最後の代だ。この戦争の残りの期間の新人は宛にならぬ凡庸な人材しか出ない事の暗示でもある。
(天誅組に他の部隊から若めのを引き抜いて、置くしかないわね。そうでないと、危機感が生まれないし)
武子は新撰組のメンバーの固定化で『若手の突き上げ』が無くなり、慢心が生まれる事を危惧しており、天誅組のメンバーを若めにすることを検討している。しかしながら、ウィッチの平均年齢そのものは跳ね上がっている。48年にもなると、芳佳世代も18歳に達しているし、それ以後は服部がエースになり得る最後の人材だ。その前後に当たる、17歳前後の世代で、比較的腕がいい者が欲しいが、精神的にも、肉体的にも、最近の若手は鍛錬不足である。
「小園閣下、やはりこちらの要望に沿う若手は?」
「人事部に当たってみたが、64Fの任に耐える若手はいない。どんなに若くとも、18歳前後以後でないと無理との事だ。」
少将になった小園安名が電話越しに頷く。64Fの平均年齢は実働部隊で最も若いが、それでも24.5歳前後と、戦前より遥かに高い。これは結成時の17歳世代も20代に入ったためだ。
「閣下、どうにかなりませんか?」
「パイロットとしたらまだまだ若造だ。ウィッチとしては高齢なのは仕方がない。こうでなければ、今頃、我が国は蹂躙されとるよ。まして君は不老不死なのだから、贅沢だぞ」
「は、はぁ。そうですが」
この時期にもなると、スリーレイブンズとその友人らが昇神で不老不死になったのは公然の秘密であり、高官らも普通に話題に出していた。
「不老不死と普通に仰られておりますが、良いのですか?」
「艦娘たちがいるというのに、不老不死程度では驚かんよ。よろずの神々がおるのだ。軍神が増えたところでな、ガハハ」
大笑する小園。
「お上が爵位をいずれ与えたいとも言っておる。君らの言うより早まるやもしれん。それは伝えておく」
「お上……」
「たぶん、昭和30年頃には子爵に任じられるだろう。それを見越して、人事部は君らの給料を将官相当で出すそうな」
「お上のご機嫌取りですか、人事部は」
「四度のクーデター未遂で、軍部は相当に不興を買っている。翁が引退なされる後をご心配なされているのだ。池田勇人君は胆力はあるが、若すぎるからな」
ワンマンで名を馳せる吉田だが、当時は既に70歳になっており、昭和天皇はその後継を兼ねてから求めていた。軍部を言葉でも抑えられる胆力を持つ、吉田の参謀『池田勇人』を強く希望していた。だが、当時の彼はまだ40代と若すぎる上、軍歴がない生え抜きの官僚である。自然と吉田は続投せざるを得なかった。Y委員会も何人か候補は挙げてみたが、いまいちぱっとせず、有力候補と目された鳩山一郎は脳梗塞に倒れてしまうという結果に終わったので、吉田の続投を決議せざるを得なかった。
「ブリタニアも、チャーチル閣下の後継を模索しとるが、ぱっとしない。その事もあり、翁には頑張ってもらわんといかん事になっての」
「翁、もう70歳ですよ?いい加減に隠居を……」
「鳩山氏が脳梗塞に倒れられたし、池田くんをお上が熱望なされている。委員会も翁に続投を要請せざるを得んのだ」
戦争中という事もあり、内閣交代は避けたい扶桑は吉田のリーダーシップに賭けるしかなかった。軍部の統制を文字通りに行える胆力を天皇陛下がが求めた故の苦悩だった。
――まやかし戦争と呼ばれる小康状態に入った戦線だったが、軍備再編は上手く行っているとは言い難く、ブリタニアの新鋭戦艦『セント・ジョージ級の半数に機関と動力伝達設計のミスに起因する欠陥が判明してしまうなどのショッキングな出来事が起こっていた。これはブリタニアの機関技術が扶桑に比べて『未熟』であった事に由来しており、本国での試験中、事もあろうに故障を起こし、あわや漂流という恥を晒した事に、内閣の寿命が首の皮一枚で繋がっているチャーチルはお冠であった。これは機関の設計にミスが有り、更に、工場の製造工程で精度の低い部品が使われたという事も追い打ちをかけた。結果、機関の換装に少なくとも半年以上はかかる見通しと伝えられ、チャーチルはその製造会社の担当に当たり散らした。(実際は納期が早められた事による耐久テストの不備も大きい)
――64F なのはの部屋
「ドラえもんからの情報だけど、ブリタニア、最新戦艦のエンジンがポンコツで、高負荷運転を数時間でもすると、故障起こすそうだよ」
「イギリスにしては珍しいね」
「機関のテストを省略した上に、無理に高出力化した上に、納入した個体には精度の低い部品が使われてたみたいでさ、機関員が事故で死にそうになったそうだよ」
「縁起悪い」
「なんでも、ギアボックスの歯車が折れたとかなんとか……」
「無理に高出力化したから、歯車に負荷がかかったんじゃ?」
「ブリタニアは蒸気機関だしね。ブリタニアは割と堅実って聞いたけどなぁ」
――正確に言えば、ギアの組み合わせが悪く、共振して軸受けが弾けとんだと言うべきであるが、ギアボックスの不備を事もあろうに、新鋭戦艦で起こしたため、製造会社は顔面蒼白であった。同社は改良を急いだが、ブリタニア海軍の強烈な要望で日本製の『CODAG』化が通ってしまったため、結果として、同社製の蒸気機関は不名誉な最後になったという。
「華やかデビューの割にずっこけたから、ゴシップ記事にされてるよ。ブリタニア海軍はトサカにきてて、次の戦艦は日本製の機関積むってさ」
「日本製は出来がいいからね。あ、そうそう。ヴィヴィオにビデオ見せたんだけどさ、ザンダクロスの兄弟機っているの?」
「あいつはメカトピアじゃありふれたロボだったから、色違いのが大勢いたよ。あの戦争でも、人工知能ついてない組み立て途中のが何体も捕獲されてる」
「のび太くん達が乗ってたのもそのうちの?」
「ああ、歴史改変の時にね。なのはちゃんの時代のリメイク版みたいに、スネ夫単独じゃ乗ってないよ。ブリキン島の時に北極行ったんだから」
のび太はスネ夫の失敗を意外に覚えており、ブリキン島の冒険の時、北極に行ってしまい、サンタクロースに助けてもらった事を引きあいに出した。
「兵団と最初に戦った時ってどうしてたの?」
「僕達四人で塹壕戦だよ。いろいろな火器ぶっ放して。第一次世界大戦の兵士の気持ちがわかったね」
のび太達は塹壕戦の経験を持つ。相手は膨大な物量、撃っても撃っても出てくるという絶望的な戦いをしたので、ある意味では、絶望的な防衛戦の悲惨さを理解している。数多くの冒険でも、有数に絶望的だったとのび太はいう。
「ピシアにゃ銃殺されそうになったし、ドラえもんは二回も壊れる。今じゃいい思い出だけどね」
「そう言えば。メカトピア戦争の時、しずかさんが言ってたけど、やけに気にしてたっけ。鉄人兵団の事を先送りしただけじゃないか、って」
「カミさんはリルルが消える場に立ち会っていたからね。それだけでも堪えたんだろうね。で、23世紀の近くで連邦とドンパチと来れば、歴史改変したことの意義が揺らぐしね」
「でも、結局は兵団が来るわけでしょう?」
「そう。あいつらは進化の過程で必然的に起こりうる進化だったが、先送りって単純な話じゃないし、講和の種にはなったんだし、意味はあった。そう言い聞かせてるよ。リルルの生まれ変わりらしい人にも会えたしね」
「生まれ変わり?」
「うん。僕の時代に来た人の子孫、あるいは当人かもしれないけど。優しい人だったよ」
のび太は大人になるまでに、メカトピアの講和後の政権の首相になった女性、つまりリルルの転生と出会っている。のび太の時代にふと現れた人物と同一人物であるかは不明だが、記憶の中のリルルと同一の姿を持ち、しずかは思わず涙を流している。のび太は直接、リルルの最期は見ていないが、しずかは歴史改変の瞬間を見ているため、想いは強いのだろう。
「夫婦で会ったけど、まさしく、あれはリルルだったよ。記憶を受け継いだ子孫かもしれないけどね」
のび太は妻を尊重している。しずかは大人となっても、少女期の純真さを保っており、リルルがメカトピアでレジスタンスを率い、独裁政権を打ち倒したと信じていた。のび太とドラえもんは攻殻機○隊風に『ゴーストコピー』か、子孫ではないかと推測してはいるが、しずかには言っていない。
「ロボットだからね」
「ああ。だから意味があったんだと言ったのさ。この戦争だって、何かの意味はあるさ。この世界に何かをもたらすさ。ナポギストラーだって倒れたし、ピシアも崩壊した。ティターンズはその道をいずれ辿ると思うよ」
のび太達はいくつもの独裁政権を打ち倒すレジスタンス的立場を演じた。その経験則からの言葉は実感がこもっている。
「ティターンズは最悪の民主主義が産んだ最高の専制君主制だけど、いずれ綻びが出る。専制君主制はいずれ限界が来る物だからね」
「つまり、腐りきった民主主義や王制は独裁者を生み出す土壌になるって奴だね」
「そう。ドイツが現実に通ったけど、フィクションでも、『銀河連邦が帝国に変わっていく』なんて、よくあるだろう?地球連邦にも充分になり得る要素はあったからね」
「行き詰った国に扇動できる人が現れて……か。時空管理局もそうだったし、長く組織が続くと、腐敗していくもんなんだよね」
「いつの時代も、どこの国でも起こるもんさ。23世紀じゃ、溜まった体制への不満がジオニズムを産んで、ティターンズを産んで、コスモ・バビロニアやザンスカールを産んだ。昔に親父が言ってたけど、それが歴史なんだよ」
「のび太くん。大人になって、変わったね」
「カミさんと子供を食わしていかないといかないからね。いつまでもドラえもんに泣きついてた頃の僕じゃいられないさ。どう?これからドラえもんと茶店で会うんだけど、一緒に」
「いいの?」
「いいさ」
のび太は子供の頃と変わったようで、変わっていない優しい笑顔を見せる。なのはは外出届を出し、のび太の運転するポルシェ991に同乗し、基地の近くの茶店に繰り出していった。(近くと言っても、車で市街地へは、どんなに急いでも、有に30分はかかる。それが不便なところであり、列車運行が基地の人員から熱望されていた。これも21世紀人の介入の悪影響と言えた)
「のび太くん、これ公用車?」
「いや、ボクの自家用車さ。公用車はトヨタ・クラウンコンフォードだよ。色々と偽装してるけど。南洋島だと広いから、こいつのパワーを出せるってもんさ」
会話をしつつ、二人は市街地へ繰り出すのだった。
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