外伝2『太平洋戦争編』
七十二話『まやかし戦争4』


――1949年に突入すると、戦況は膠着状態に入っていた。両国はこの時間で新兵器の開発と配備を急いだが、日本から当時の先進技術が提供され、次世代兵器の更に次の世代の兵器を得ることに成功した扶桑は、航空機に関しては絶対的優位を得た。戦車に関しては、航空機と異なり、扶桑の元々の戦車技術がカールスラントより低かったので、74式のコピーに手間取っていた。61式よりも格段に必要技術が高かった事が要因である。サスペンションの開発が遅れていた他、扶桑陸軍内部にある、105ミリは自走砲だと主張する砲兵派閥の妨害もあった。これは機械化されている自衛隊特科に活躍の場を奪われたと感じる砲兵達の抵抗だった。B世界滞在中の黒江は陸自に配属になった防大同期に頼みこんで、西大佐の口から『砲兵はハウザー(榴弾砲)とか臼砲だろうよ、カノンは戦車砲の基本的形式だから文句言うなし。 日本じゃ120mm滑腔砲戦車に積んどるわ!』と言ってもらうように頼み込んだほか、扶桑戦車隊の神様である池田末男大佐も『なんも、連邦軍みたいに155mm積んだ巡洋艦の砲塔走らせようって訳では無いからな』と言った事で、74式コピーは急速に進んだ。一つ違うのは、原型より重装甲にされた事で、原型と違い、第二世代MBTの設計思想が早くも時代遅れとされているからである。扶桑仕様は性能を90式にできるだけ近づけた74式改というべき代物で、74式+α程度の総合能力だが、当時としては世界最高水準の戦車だった。74式は、2014年当時では『40年落ちの旧式』だが、49年当時では『重戦車』に当たる。日本の一般人からすれば『旧式を与えた』との認識だが、第二次世界大戦後期型戦車すら満足にないような国からすれば、『超戦車』である。


――扶桑陸軍 陸軍機甲本部

「こんな重たい戦車が本当に必要なのかね」

「お言葉ですが、本部長。時代はもはや機動戦の時代なのです。チハ以前の認識はお捨てください」

扶桑陸軍は機甲戦力の整備をバダンとの対抗という理由で行ってきたので、バダンとの休戦がなった現在では、保守派が若干巻き返していた。だが、時代は戦車の時代を迎えているため、明治期のような歩兵主体の大会戦などは起きない。その認識の違いが74式コピーを遅らせていた。陸軍機甲本部でも意見が割れていたが、バロン西が『今や戦車は騎兵を越えた騎兵たる物なのだ!バダンはそれを証明しとったし、ロンメル閣下やグデーリアン閣下の電撃戦理論を実証出来る物だ!』と力説した事もあり、扶桑陸軍騎兵閥は戦車閥に吸収され、消えていった。

「特に日本型74式改は山岳機動でも騎兵に勝るとも劣らぬ働きが可能だ、装甲兵員車と組み合わせれば柔軟な作戦行動も行える」

と、彼自ら乗車してのテストでそれを実証してみせた事も効果絶大で、カールスラント装甲師団を手本とし、扶桑は騎兵師団を戦車師団へ改編していった。当時、既に騎兵師団は5つ程度に減っていた。軍馬の供給を維持する名目で、ある程度は維持する契約が1910年に契約されていた名残だが、多くは捜索連隊や戦車連隊に改編されていた。残る5つも、今や戦車師団へ改編されようとしていた。ウィッチもそれに組み込まれたため、陸軍も近代化を終えつつある。問題は未来から仕入れられた雑多な火器の整理である。当時は21世紀の銃器メーカーからありとあらゆる自動小銃が売り込まれており、既に89式小銃を得ている空軍と海軍と違い、陸軍は64式小銃を含めての大混乱であった。64式小銃を一応は採用してはいたが、日本から89式が大量に供与された事や、21世紀各国銃器メーカーが売り込んで来たので、陸軍は大パニックに陥った。兵站上の負担になるため、89式は空軍と海軍に優先配備されたが、それでもかなりの数が余り、64式と89式の共存が自衛隊との連携と訓練の共通化の意図もあり、最終的には決定される。



――統合参謀本部――

「敏子、なんで私らは市ヶ谷のオフィスに缶詰めなんだ?」

「言うな、章香。前線に行くことだけが戦いじゃない。……が、まさかこの年でお茶くみとはな」

日本防衛省と同一のデザインで建てられた『扶桑皇国国防総省/統合参謀本部』。その中のオフィスで階級が大佐なのにも関わらず、北郷章香、江藤敏子の両名はお茶汲みを兼ねての参謀職についていた。肩書は航空参謀職であるが、ウィッチ出身であるのもあり、扱いにくいとされ、最近はもっぱらお茶汲みだ。

「なぁ、敏子。偶にはまともな仕事したいんだが……」

「あいつらが暴れてくれたおかげで、その上官だった私達は反乱防止名目で監視されとるからな。まぁ、このオフィスから『出る』のは戦時中は叶わんだろうが、良い作戦を立てて、あいつらを楽にしよう」

「お前は楽天的だな、敏子」

「本当なら喫茶店でコーヒーを淹れてた身だ、このくらいの冷遇、どうという事はないさ。それに、スリーレイブンズを抑えられるのは私達だけだ。つまり、これ以上の冷遇は出来んという事だ。快適なオフィス暮らしを堪能するのも悪くない。この戦争が終われば、世代交代で議長や副議長のポストも開く。黒江曰く、私は、今から15年近く経った頃、第4代の空軍司令に任じられるそうだ。その頃には四十路だが、容姿はいくらでも変えられる時代を迎えたからな、ハッハッハ!」

「喜ぶ事か?」

「大いに楽しむべきだぞ、章香。お前だって、あいつらが暴れてなきゃ、今頃はウィッチ学校の校長に収まってただろう。それは本来の流れかもしれんが、軍神と謳われたお前が行くべき道ではない。私はそう思うぞ」

「あの子達、特に黒江君だが、何をしようとしたんだろうな。いったい。多くの者を巻き込んでまでの歴史改変なんて」

「因果に立ち向かいたい。あいつはそう言っていた。どうしても守りたいモノがあるそうだ。一つ。因果に立ち向かってでも」

黒江が変えたいと願う未来。それはゲッターでの圭子の自爆だが、こればかりは変えられないものである。それは薄々と、黒江も感じ始めていた。それでも最後まで抗いたい気持ちが黒江のモチベーションだった。その黒江の思いを悟った圭子は、自爆の運命は『変えられない』事を知る故の罪滅ぼしのため、Bに自らの後事を託している。これはゲッターの導きにより、自分の記憶と感情がBに引き継がれる事を悟ったからだった。圭子はいずれ『去らなければならない』運命であり、そのための罪滅ぼしが、Bに自分の記憶と感情を受け継がせる事だった。完全に同一とはならないだろうが、全ての記憶を持ち、その時までの感情を引き継ぐのは確かである。

「あいつは……本当はさみしがり屋なんだろう。戦闘狂を装っているが、心の奥底の感情はとても純粋だ。だから、穴拭や加東が面倒を見ているんだろう」

「そうなのか?」

「そうでなければ、あの穴拭が、自分から進んで面倒を見るような真似はせんさ」

江藤は直接の上官であったので、黒江の二重人格を知っているが、黒江の名誉のために、話を取り繕った。それが江藤なりの黒江への『恩返し』だった。江藤は友人の北郷の運命を変えてくれた事に多大な恩義を感じており、それが復帰と、黒江の二重人格の表向きの理由を取り繕う事だった。

「あの子は純粋な感情のままに動いてたのか」

「そうだ。私らが年と共に失った、ひたむきさを持つのがあいつさ。計算高いようでも、行動原理そのものは純粋な感情に根ざしている。それがあいつのカリスマ性なんだろう」

「カリスマ性、か。お前が横文字を織り交ぜて、もののたとえをするとは」

「グローバリズム時代だからな。今や、コンピュータ相手ににらめっこして事務処理をする時代なんだし、時流に乗らんとな」

「これから戦争はどうなるんだろうな」

「どんなに機械が発達しようが、最後は人の手で決まるだろうよ。向こうの日本はラ號やまほろばに逆転を賭けていたし、ジオンはゲルググやジオングに賭けた。だが、日本は完成が遅すぎ、ジオンには『ベテランパイロット』が余りにも不足していた。だが、我々には『世界最高峰の航空ウィッチ』と、『未来兵器』がある。活用するしかあるまい。それが地球を滅ぼし得る兵器であろうと」

江藤はマジンカイザーやマジンエンペラー、真ドラゴンと言った『超兵器』をフル活用してでも、戦争を勝たせると明言する。既にラ級戦艦すら投入されたのだから、今更騒ぐ必要はないのだ。

「現に、ブリタニアはラ級の『インヴィンシブル』の購入を打診している」

「ラ級を?馬鹿な、あれは波動機関だぞ。ブリタニアのドックに入るかどうかさえ……」

「ソユーズが向こうだし、その対抗だ。他にもラ級艦が居そうだしな。奴さんは魅せられたんだよ。ラ級の性能に。スーパー戦隊やスーパーロボットの攻撃でも撃沈しない堅牢性、都市を容易く破壊する火力に」

「だったら、何故ガリアが出てこない?」

「金が無いんだよ。ラ級の購入には多額の金がかかる。仏にガスコーニュがあるそうだが、ガリアはそれどころではないと、ペリーヌ・クロステルマン議員が反対してな」

ペリーヌは軍籍を維持しつつ、議員も兼任している。ラ級の購入に待ったをかけたのは、ペリーヌの思想は『一つしかない超兵器よりも、100個の通常兵器』とするもので、一個の超兵器よりも100の通常兵器で相対すべきと考えているが故だった。これはペリーヌが超兵器を魔物だと考えていたのも大きいが、もう一つは、この時代の常識である『護衛の無い戦艦は無力』とする常識に縛られていたが故の阻止であったが、ペリーヌはこれで敵を作ってしまう。ガスコーニュの購入はガリアの権威維持に必要とされていたので、ペリーヌが阻止した事で、ガリアに国難を招いてしまうからだ。

「あの方は敵を作った。ラ級を見ておきながら、ラ級よりも国土復興を優先させたと。今のガリアではインドシナ戦争で負けるのは目に見えている。それ故にラ級を必要とした海軍に。こっちは播磨と越後があるが、向こうはせいぜいリシュリュー級だ。超大和型戦艦に前大和型戦艦が立ち向かえるはずはない。ラ級はウチへの抑止力を期待したんだろうが、阻止されたからな」

「あの人は国内で戦力を完結させる軍隊の基盤は作ったが、インドシナ戦争敗戦を決定させたようなものだから、陸海空軍に敵を作った。それを思うと、何だかな」

「あの方の評価は後世がしてくれるだろうさ。あの人はガリアを愛するが故に、孤独になるのも厭わない高潔さを持つ。後世が評価してくれるさ、きっと」

江藤は敵を作りつつも、高潔な思想のもとに動くペリーヌを評価する者達の一人だった。ペリーヌは『インドシナと引き換えにしてでも、国内が復興できればそれで良し』と考えており、植民地帝国の解体に舵を切ろうとしていた。後のインドシナ戦争中の議会の記録によれば、『国内の事も片付かないのに他所行って戦争しようってのが傲慢だと言うのです!!!』と一喝し、ガリアのインドシナ撤退を決定づけ、ガリア植民地帝国の葬送役として、ガリアの帝国主義の幕引きをしたという。インドシナから整然と撤退してゆくガリア海軍と、インドシナ独立を達成させ、凱旋してゆく『越後』の姿は1950年代頃の雑誌の表紙を飾ったという。


――その越後が完成したのは1949年の2月中旬。予定より半年ほど早まっての竣工だった。当初は越後型とされていた艦種類別は、播磨の竣工が早かった事、既に播磨型とマスメディアが書き立てていた事で、越後は播磨型二番艦とされた。完成後、直ちに海軍艦隊旗艦の任を継ぎ、第3代の艦隊旗艦となった。所属は第一艦隊で、扶桑が動員できる通常サイズの軍艦では最大サイズにあたる。急がれた背景には改モンタナ級が竣工しだしたからだ。改モンタナはモンタナをベースに、46cm砲搭載に強化してのもので、モンタナをタイプシップにした強化型である。リベリオンの工業力の成せる業で、既に3番艦が公試運転中の段階である。そのネームシップの名は『リバティ』。7番目のモンタナであり、それを超えるモノ。ラ級戦艦の対抗馬として考えられたモノに予定されていた名である。別の名が予定されていたが、ラ號の存在が明らかとなって以降、変更されたのだ。


――後日 戦略会議――

「これが改モンタナ級である。全長310mほどで、46cm連装砲を積めるように幅も拡大されている。モンタナの特長を受け継いでいると思われ……」

改モンタナ級はモンタナのストレートな強化型で、発展型というほどには強化されていない。泊地突入作戦でセントジョージ級と改大和型にしてやられた戦訓を反映したのか、火力と装甲重視らしい。

「問題は『大和型戦艦を上回る装甲を有する』事をプロパガンダに使われる事です。直ちにマスメディア向けに播磨型の正式発表を行います。同級三番艦以後の計画は未定であります」

「あとは足がどの程度か、大型化しても門数を減らしている所を見ると片舷斉発に対応していると見えます」

「うむ。早急にFARMUを取りまとめ、播磨型三番艦を検討しなければならぬ。急がせよ!」


モンタナは三連装砲塔だったが、大口径化と引き換えに、門数を減らしている。速力は予想では30ノット前後。総合的に改大和型戦艦に匹敵する能力だ。播磨型は宇宙戦艦の部材で建造されているため、『対環境性に優れ、耐熱や対衝撃では戦略級兵器に耐久可能』である。それと引き換えに、量産性は諦められており、三番艦の建造は未定である。改モンタナ級は大量建造も視野に入れられている量産型戦艦であると思われたため、改大和型戦艦のFARMUが急ぎ計画された。その際に改大和型戦艦も核融合炉への動力強化と主砲の60口径化、あるいは45口径51cm砲への強化が検討された。51cm砲の生産能力の都合、前者への換装が是非とされ、数ヶ月ほどの製造とテスト期間の末、4月下旬に換装が完了した。その際に外された50口径砲は尾張型航空戦艦と加賀型揚陸支援艦の火力増強に使われ、更にそこから外された砲は要塞砲に転用された。南洋島沿岸部に設置された16インチ砲は、元は加賀型や紀伊型戦艦の艦載砲だったモノの転用だ。数度の戦略会議は播磨型三番艦の建艦を促すものだったが、戦艦の増勢が疑問視された事もあり、結局は50年代半ばまで計画策定が迷走する。その頃には第二次扶桑海事変となっていた事もあり、別艦型化した代物として完成したとか。


――1949年頃には64Fのメンバーが固定したことにより、近代兵器や未来兵器使用の役割分担も確立し、武子もGP04ガーベラのレプリカで出撃する事があった。当時、GPシリーズは試作機としての役割を終えた事もあり、輸出品目に加えられていた。圭子が主にゲッターロボやEx-Sガンダムに乗るようになったので、余ったのを武子が使用しただけだが、地上戦でも意外な高性能を見せた。コウ・ウラキが補給物資として持ってきたのも意外なものだった。

「ふう。ギアナ高地に眠ってたのを引っ張って来ました」

「RX-78ALじゃない!よくこんなの持ってこれましたね」

「旧式化で埃被ってましたが、ガンダムタイプです。一応の近代化は施しました。アトラスガンダム。GPシリーズとほぼ同世代の野心的な機体ですよ。増加生産機がアマゾンのパトロール艇として使われていたので、引っ張り出せたんです。地上特化型ですが、地上に於いては、今でも中々のポテンシャルです」

「使えます?これ」

「基本的にはジオンの水泳部対抗の機体ですが、地上では今でも第一級です」

「サブレックユニットで大気圏内の機能拡張、か」

「はい。基本的に大気圏用なので、水中にも行けるオールレンジな機体です。グリプス戦役の頃に運び込まれた記録があるので、それで探したんです」

「しかし、一年戦争の直後にこんなのがよく作れましたね」

「ジオンの技術を融合させた最初期のガンダムですから。関節構造を強化した以外はほぼ原型からの部品交換に留めています」

「アナハイムが関与したと?」

「そうです。そうでなければ、時代かがった実験機のガンダムの近代化の予算はおりませんから」

「確かに、GPシリーズの輸出にもアナハイムが一枚噛んでるし、政治力あるわね」

――当時、アナハイム・エレクトロニクスはウィッチ世界の64Fの要望に応え、ガンダム・パーソナライズシリーズと呼ばれる『輸出仕様のGPシリーズ』を輸出していた。主にGP04とGP03Sと言った現存機がベースである。再建造機なので、型式番号はGP0〜で統一されている。圭子と武子が共用しているのは、ガーベラをベースにし、汎用MSとして造られたモデルで、コックピット周りは全天周囲モニターとリニアシートに変更されている。カラーリングは緑と白のツートンカラーで、扶桑制式の航空機のカラーリングを意識している。武装はロングレンジビームライフルなどの当時からの専用武器のほか、ビームスマートガンも使用可能である。GP02は復元機が存在するが、GP01は説明用のモックアップは現存するが、ニナ・パープルトンが左遷された際にデータが破棄されていたため、設計図が現存しておらず、復元機の建造は見送られている。そのため、ニナ・パープルトンが関わったガンダムでは、GP02のみがこの世に蘇っているわけだが、ニナとしては忌々しい機体であるので、倒して欲しいと述べている。ニナにとって、サイサリスは『新旧の恋人の因縁が詰まっている上に、リベリオンに災厄をもたらした』機体でもある。それがニナの負い目となっていた。だが、世代交代の進んだアナハイム技術陣での数少ない『戦間期』の生き証人であり、GPシリーズに深く関わった一人である。そのため、友人らが残した遺産を引き継ぎ、管理するのが、ニナに残されたデラーズ紛争の仕事である。

「ニナからの伝言です。黒江大佐用のプルトニウスのオーバーホールが終わったとのことですが、腕のムーバブルフレームがかなり疲労していたとのことなので、より頑健な構造の新型に変えといたとの」

「あの子、格闘戦好むから……。ニナさんによろしく言っておいてください」

「アムロ少佐も言ってますよ。『黒江くんは格闘戦に傾倒しすぎている嫌いがある』と」

「恥ずかしいかぎりで……」

黒江はプルトニウスへの機種変更後は機体構造が頑健なのを良いことに、格闘戦を好む傾向が強まり、『ヒット・アンド・アウェイはどうした?』とアムロから注意されている。アムロは『プルトニウスは内蔵武器で暗器使いの如くトリッキーにやるのが持ち味なんだぞ?真っ向からの格闘戦やらせてどうする?』と黒江に注意し、実際に実証している。

『敵の近くに居る時間が長いと、それだけ反撃される可能性が上がるからな。対集団格闘は突入と離脱に一太刀づつが理想だな、ヒットアンドアウェイってヤツだ』

アムロにそう注意されたように、黒江は本来はドッグファイターであったので、格闘戦の心得はある。それが幸いし、フレームの摩耗は武器を振るう腕以外は良好であった。黒江の操縦データはアナハイムも喜んだらしく、接近戦におけるMSの挙動データの構築の一助となった。今はB世界にいる当人はアムロからのメールでMS操縦を注意されていて、MSパイロットとしては『まだまだ』であるのが分かる。その黒江が憧れているのが、マジンエンペラーGと鉄也の剣さばきであった。ある日、マジンエンペラーGのデモンストレーションでグーリゴリー(ネウロイの巣)に近接する別の巣の中枢を攻撃する際に使ったのが。

『エンペラーブレェード!!』

マジンカイザーがどちらかと言えば『パワーによる徒手空拳』を得意とするのに対し、マジンエンペラーはグレートマジンガーの剣士としての側面を強化した機体である。エンペラーブレードはマジンガーブレードより斬れ味を遥かに増したが、弱点もある。伸縮機構を更に改良したため、刃に繊細な扱いが要求されるのだ。鉄也はそれを承知の上で、連続の斬撃を見せる。それは鉄也の操縦テクニックの誇示ともなる攻撃だった。

「凄い……たった二本のブレードで怪異を解体するなんて」

「でも、あの剣……伸縮式なら、いくら未来の超鉱物から錬成したと言っても、構造的には脆いはず。それをこうも扱えるなんて……」

エンペラーブレードの構造は刃を使用時に展開するもので、支柱となる部分を覆うように、両刃がカッターナイフを思わせるギミックで展開する。もちろん、超合金ゴッドZ製ではある。が、構造的には脆いというのが、孝美の素人目にも分かる。それを達人級の剣さばきで操るのに、マジンエンペラーと鉄也の非凡さを感じ取る。

「あれがマジンエンペラーGだ。偉大な帝王の諢名は伊達じゃない。私は生身ならあれくらいはできるが、機動兵器越しだと自信ねーよ」

黒江が解説する。生身であれば可能だが、機動兵器越しだと出来ないと明言して。機動兵器というのは、操縦桿などを駆使して操るものになる。マジンエンペラーになると、補助に思考制御も入っているだろうが、鉄也の操縦テクニックの高さを思い知らせる。

「ん、デュアルコアみたいっすよ、鉄也さん」

『ああ、そのようだ』

「な、何言ってるんですか、先輩!そんな軽く……」

「いいから見てろ。ここからがマジンエンペラーの本領だ」

かる〜く言い合う鉄也と黒江。怪異が二重コアであるのに慌てた孝美が取り乱すが、至って両者は冷静だった。マジンエンペラーの右腕が天に掲げられ、雷を招雷する。そのエネルギーを圧縮して、巨大なエネルギーに変える。サンダーブレークの強化型『サンダーボルトブレーカー』である。そのエネルギーはダブルライトニングバスターの有に10倍以上。それを怪異にぶつけたのだ。

『超必殺パワー!!サンダーボルトブレーカァァ!!』

サンダーボルトブレーカーはまるでビームのような光芒として撃ち出され、怪異を覆い尽くし、一種の空間を作る。その空間を爆破するというのが流れである。エンペラーが拳を握った瞬間、信じられないほどの大爆発(キノコ雲を伴う)が起こる。怪異のコ・コアも関係なしに全てを吹き飛ばす。空間を爆破するためか、凄まじい衝撃波である。紫電改の推力では吹き飛ばされそうなので、黒江がF-104(補給物資にあった)で孝美を支えてやる。

「うは、すげえ火力。さすがはマジンカイザーやゴッドマジンガーと肩を並べる魔神だぜ」

「これが来訪者の持つ最強の兵器、なんですか…?」

「そうだ、あれがスーパーロボット。人が作り出した機械仕掛けの神だよ」

B世界の孝美も、これでスーパーロボットの力を理解したようだ。孝美Bは智子の蘇生措置により、13歳相当に戻ったため、死亡前の闇は若返りで消え失せたようである。

「この体になったからなのかな……。なんか、色々な事が吹っ飛んで、すっとしたような感じなんですよね」

「お前は怪異に負の感情を増幅させられてただけだ。偉そうな事言えた義理じゃねぇが、妹を大事にしろよ」

「はい、そのつもりです」

孝美は怪異に負の感情を増幅させられていたらしく、蘇生後は元の優しい人柄へと戻り、鉄也やハルトマン、それとひかりに詫び、その上でマルセイユとの模擬戦を受けるつもりである。また、これで黒江の人柄を知った事により、A世界の自分との関係に悩む黒江にアドバイスをする関係に発展する。この一連の過程は、『寄生怪異の脅威』を知らしめる事件として記録され、その種の怪異がいないA世界にも注意事項として伝えられる事になる。

――格納庫――

「これが、向こうの世界で使われてるジェットストライカーなんですか」

「ニパはすぐ壊すから、グレード低いやつにしてあるわ。アンタ、すぐ壊すでしょ」

「う〜……どこの世界でもやっぱり、『ついてない』のかぁ……、ショックだぁ〜…」

「こっちでも、直枝とあんたと伯爵で損耗率上げてたし、アンタには新鋭機はちょっとねぇ」

「あんまりだぁ〜〜!!」

ニパはどこの世界でも『ついてないカタヤイネン』である。智子がため息をつきながら『ズバーン』と言ったのが堪えたのか、悲痛(?)な叫びを上げる。しかしながらA世界では、501への統合後、ミーナがヒステリー起こす寸前になるくらいに物損率が高いため、ニパはあまり出撃させてもらえていない。

「こっちだと色々あったのよ。あんた、機動兵器乗せてもトラブるし、なんか憑いてんの?的な勢いの物損率で、統合後の上官のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐がヒステリー起こす寸前に行ったし……」

「え〜?!うっそ〜……」

智子が言及した、トラブル率。現場責任者を担うスリーレイブンズも目を回す勢いで、物損率が高いニパはローテーション以外で出撃の許可が下りず、その関係もあり、芳佳が菅野の護衛に固定した。ミーナがニパの物損率に目を回してしまった事もあり、ミーナは343空/64Fで試されていた『菅野/宮藤』の組み合わせを容認し、その編成で二人を終始、組ませた。そのため、ニパは被害担当機のような扱いとされ、重要作戦以外での出撃はあまり記録がない。下原かサーニャの護衛機という側面があったからだ。

「あんたは定子か、サーニャの護衛機扱いで、あまり使ってもらってないもの。あたしらが出ればカタがつく任務も多かったし、腕は評価してたんだけどね」

「そ、それは良かった」

「エイラが『轡を並べて戦った戦友』って明言してくれたのもあるかも。あの子が明言したから、中佐も折れたようなもんだし」

「い、イッルのやつ……」

目頭が熱くなったらしいニパ。

「あいつ、そっちじゃ何してるんですか?」

「えーと……、ふ、不死鳥使い?」

「?どういうことですか?」

「ややこしい話なんだけど、姉妹揃って、不死鳥の名前持ってるマシーンの使い手になったのよ」

「ふ、不死鳥!?」

――アウロラ、エイラ姉妹はA世界では、フェネクスの名を持つマシーンを手懐け、自分の手足としている。妹はMS、姉はISである。二機とも『不死鳥が翼を広げたかのような』シルエットを持ち、金色のカラーリングを持つことが共通している。

「フェネクスを手懐けたもんだから、あの姉妹、今や別々の分野でエースなのよね。エイラは未来予知がもっと上位の能力に昇華したし、アウロラにもその素養が芽生え始めてる。サイコフレームのおかげかも」

「サイコフレーム?」

「来訪者が作ったトンデモ素材よ。人の意思を集めて、力とする事が出来る金属でね…」

サイコフレーム。それはアナハイム・エレクトロニクスが作り出した一番のテクノロジーであり、Fシリーズを作り出し、MS技術では同社を凌駕したサナリィが及ばなかった唯一無二の代物。サイコフレームを使った機体は奇跡を起こせるため、歴代ガンダムのニュータイプ対応策として用いられ始めているが、フルサイコフレームのユニコーンガンダムに至っては『スーパーロボット並のバケモノ』に進化しうるポテンシャルを持つ。その事から、ウィッチ用の機体には、たとえ原型機が搭載してなくとも、積み込む傾向がある。

「そんなのあるんですね……」

「まぁ、人を機械組み込んで生き返らせられるような世界だし、なんでもありよ。ガムみたいなの食ったら宇宙空間にも出られるし」

「なぁ!?」

「唾液と反応して気密膜で体を覆うって道具があるんだって。簡易宇宙服として」

ドラえもんの『食用宇宙服』のことである。それを聞いた伯爵が場に入って言う。技術そのものは統合戦争前には確立されていたが、それが失われていたので、ノーマルスーツが使われていたが、ドラえもんの協力で技術が復興したため、簡易宇宙服として、デザリウム戦役後は民生分野でも大量生産され始めている。テキオー灯と違い、時間制限がないためもあり、デザリウム戦役からの復興では大いに活用されており、それを食して、宇宙空間で初日の出を見たカップルが早くもいたほどだ。

「簡易宇宙服だけど、酸素欠乏症にかかる事が減って大バンザイなのよね、介入者の世界。一週間くらいは宇宙空間でも活動が出来るから、宇宙で働く人達の必須アイテムなのよ」

「話はハルトマンから聞いたし、実物も見たけど、まるでチューインガムみたいだね」

「抵抗感失くすために、そういうモノにしたみたいよ。ただ、トイレが問題だから、コピー版ではトイレパット付きなのよね。オリジナル版だと、あれなのよ」

「ま、まさか……」

「知り合いの子が、前に宇宙空間で下のほうを○○○○○したとかねぇ」

のび太は子供時代、宇宙空間でしょ○べんをアレして、宇宙空間に撒き散らしてしまったという恥を晒した事がある。しかもその撒き散らしてしまったモノが凍り、落下。のび太から遠くで作業していた国際宇宙ステーションの宇宙飛行士にぶつかったという珍事が発生した。凍ったそれは宇宙飛行士に直撃し、宇宙飛行士はステーションへ回収されたのだが、宇宙服に匂いがこびりつき、その宇宙飛行士がはた迷惑を被ったという。

「うっわ、思い切り想像したくない構図だね…」

「宇宙空間での便意の処理は大変よ。だから、みんなパンツにトイレパッド仕込むのよ。切実な問題だし。人間の三大欲求だしね」

「ん?少佐、さっきから何食べてるのさ」

「介入者の世界で売ってるチョコレート。艦隊の購買で売ってるわよ」

「酒保だね」

「宇宙船のは大規模だから、ある種のモールみたいな事になってるわよ。宇宙戦艦だと、最低でも150m超えだし」

宇宙戦艦の酒保は航海が長いため、外洋艦などでは大規模になる。特にヱルトリウムやヤマト、アンドロメダなどの一等の艦隊旗艦級ともなると、ショッピングモールのような広さである。品揃えは時々の責任者によって差が出るが、基本的にはなんでもある。食堂も大戦艦(ラー・カイラム以上のサイズ)では街の大規模ファミリーレストランさながらのがいくつもあり、大ヤマトでは幹部級専用のスナックやバーまで存在する。(スリーレイブンズは大ヤマトへの改装後も使用した事がある)基本的に20歳以上の成年であれば、施設はどれでも使用可能であるが、場所ごとにメニューが違う特長もあり、黒江などはヤマト亭Aで食事を済ませ、デザートをヤマト亭Cで取った事があるほどだ。

「宇宙戦艦でも、内惑星でもなく、地球の衛星軌道駐留の艦になると簡素だから、外征艦隊が人気なのよね〜食堂」

「衛星軌道は沿岸パトロールみたいな扱いですか?」

「そういう感じね。沿岸警備隊みたいな位置づけなのよね、各惑星の衛星軌道守備艦隊。で、外洋能力があるのが花形の実戦部隊って奴」

恒星間航行艦隊が編成される時代になると、それまでの内惑星用艦艇よりも下の区分の沿岸警備用艦艇という区分が出来た。現在では内惑星用としても旧式化したサラミスやマゼランなどの一年戦争以前からある宇宙戦艦が警備艦に格下げされて運用されている。警備艦で最も大艦であるのがマゼラン改級である。沿岸警備艦隊は、元々、一年戦争以後に不要となった旧各国の沿岸警備隊の面々の受け入れ先として編成された部隊で、宇宙移民局所管のスペースパトロールと密接な関係を持つ。外洋艦隊編成後は、英雄型戦艦や雪風型突撃駆逐艦やサラミス級巡洋艦、マゼラン級を外洋航行能力ありに改良したモデルを共用している。えいゆう型は小回りが効き、サイズも外洋用の波動エンジン搭載艦より比較的小型であるので、扱いやすいという点があり、デザリウム戦役後は波動エンジン搭載型が沿岸警備艦隊とスペースパトロール向けに供給されている。これは間接的には『ガイアへの軍事力の誇示』に繋がってるのである。




――地球星間防衛軍の主力を務める『主力戦艦級』はガトランティス戦役で生存性に問題ありとされ、その改善型が作られたが、拡張性に限度があり、更なる新型『長門型戦艦』(これもハイパー放射ミサイル対策がなされた加賀型戦艦へ移行することになる)へラインが切り替えられ始めている。拡大波動砲の普及とその搭載艦へ世代交代し始めている影響で大型化しており、長門型戦艦は量産性重視ながらアンドロメダ級よりも大型化した設計である。政府や軍の主計科に艦隊維持費が高額化する危惧があるため、新型は第7艦隊以外では、旧型を使い込んだ隊の更新が優先されている。(大ヤマトのプラズマ波動エンジンはまだまだ量産不可能である)それでも、波動砲のエネルギーチャージ効率はアンドロメダの更に二倍以上である利点から、配備は急がれている。また、デザリウム戦役後においては、改アンドロメダを増勢して、航空戦艦にすべきとの案もあったが、アンドロメダの基本設計では、ミッドウェイ級がそうであるように、着水能力を損ねるリスクがある。アンドロメダの原型からして着水能力に難ありなため、新規に戦闘空母が設計された。これが後の『ブルーノア級戦闘空母』である。これは外洋空母が不足気味の地球星間防衛軍にとっては悲願であった。後に同盟国になるガルマン・ガミラス帝国の空母機動部隊閥からは『一点豪華主義』と揶揄される事になるが、ガルマン帝国より財政難である故、戦闘空母が主力にならざるを得ない地球の財政の証明とも言える。また、別の事情として、地球(アース)は、空母に護衛がない場合の惨状を内輪もめで充分すぎるほどに理解しているため、ワープはぐれや護衛なしの場合の事を鑑み、洋上空母のような『完全な空母』は好まれないという事情があり、戦闘空母が建造されるのである。戦闘空母は基本、昔の航空戦艦のように『中途半端』になる危険が大だが、地球連邦軍はそれを艦そのものの大型化やトランスフォーム(マクロス級)で解消し、ガルマン・ガミラス帝国もびっくりの『戦闘空母王国』と化している。ブルーノアも、当初より、『アンドロメダが大型巡洋艦に見える船体規模』とされ、最終的には大ヤマトも凌ぐ大きさの船体規模で竣工する。これはブルーノアが地球連邦の旗艦になることで、大ヤマトを行動しやすくしようとする意図があった。その結果、デザリウムの次なる侵略者『ボラー連邦』の戦役以降では、地球連邦の戦闘空母大国ぶりが有名になるのだった――


――マジンエンペラーGの天下無双ぶりはB世界の502の立場を確固たるものに変えた。欧州戦線を人類優位に変えたという事実は、502の地位を盤石にしたが、隊員達には『他力本願ではないのか?』という負い目があった。連邦は数週間行った502の援助を終える予定が立てられたため、隊員達の練度を『帳尻合わせ』しなくてはならない。そのため、黒江と智子、それと鉄也、レッドファルコン、バルイーグルによるスパルタが始められた。これはマジンエンペラーの事を隠す必要があるためであるが、いざ、事がバレると、今後に悪影響が生じるため、それを隠し通す必要があるからだった。

――ケース1 ロスマンの場合。

「まずは帳尻合わせに、近接格闘戦を鍛えましょう〜」

「ち、ちょっとぉ!な、なんでそうなるんですかぁ!?」

「帳尻合わせよ、帳尻合わせ」

「ひ、ひぇえっ!?じ、地面に穴を!?」

「軽い肩慣らしよ」

「どこがです!?」

黒い笑顔の智子に、ロスマンBは大いに突っ込む。智子のパンチはロスマンの目にも見えないほど早いし、しかも威力が凄すぎる。

「さて、まずはレッスン1よ。ダイヤモンドぉぉ……ダスト!!」

ダイヤモンドダストを放つ。ロスマンから見れば、氷の波動が放たれたようにしか視認できない。とっさにシールドを張るが、シールドで弾いた波動で地面が凍る。

「え!?地面が……凍る!?」

「あたしは凍気を操ることが出来るの。本気になれば、絶対零度に出来るほどのね」

「ぜ、絶対零度ぉ!?って、それ人殺せますよね!?」

「神を守るための闘技だもの、当然のことよ。あたしの使い魔は元々、農耕の土着神の神使って奴だから、相性が良くてね」

智子と同化した使い魔は妖狐である。農耕の神の使いともされたため、凍気を操る水瓶座は天職である。智子は小宇宙の急激な高まりと、同化で得た『記憶引き出し』能力により、聖衣の歴代装着者の戦いを脳裏に刻み、更に昇神で得た力により、水瓶座の黄金聖闘士に恥じない力を得た。その片鱗を見せたのだ。

「氷の棺に閉じ込める事も、瞬時に冷凍させる事もできるし、氷の光の乱反射で失明させるのも思いのままよ。自慢じゃないけど、光速で動けるしね」

「こ、光速!?」

「なんなら、あなたのシールドぶち破る技でも見せようか?冷凍待ったなしだけど」

「そ、それじゃ訓練にならないじゃないですかぁ!」

「そうねぇ。なら、徒手空拳でかかってらっしゃい。全部避けてみせるから」

「……いいでしょう。スリーレイブンズだがなんだか知りませんが、前世代のあなた達に遅れは取りません!」

「へぇ。言ってくれるじゃないの。こっちのあなたは『可愛がりがい』がありそうね」

智子はわざと挑発する。ロスマンは世代的にはバルクホルンやハルトマンの一世代前に相当する。当時は19歳。もうすぐ上がりが始まる年頃だが、スリーレイブンズから見れば、まだまだ若者である。ロスマンにしては珍しく、挑発に乗った形だった。



――こちらは黒江。ラルの頼みで孝美に活を入れるべく、聖剣を使ってみせた。

「ラル少佐からの頼みだ。妹を守るって決意を見せてみろ」

「決意……?」

「そうだ」

黒江が刀を抜くルーティンからエクスカリバーの衝撃波を放つ。孝美の心を試すためだ。孝美は黒江が手刀を振るう瞬間の『空間の歪み』を視認し、その次の瞬間にかまいたちのように皮膚が裂けるのを確認した。

「こ、これが……先輩の得意技『聖剣エクスカリバー』……!早いっ……!」

「どうした?そんなことじゃ、妹は愚か、自分も守れねーぞ?」

連続のエクスカリバーである。無論、本気では撃っていない。孝美は魔眼持ちである事により、見切ることはできているが、反射が追いつかない状態である。

(これは私の懺悔です、先輩。ひかりを泣かせた事、マジンエンペラーに恐怖を抱いた事の。私は……涙を……力に変える!)

「ふむ。絶対魔眼を使ったか」

「これが私の全てです。それをお見せします!」

絶対魔眼を発動させた孝美は、若返った事による体の柔軟性の向上、反応速度や瞬発力の向上もあり、黒江も関心するほどの速さを見せた。パワーも通常のウィッチを凌駕し、黒江と組み合えるほどであった。

「なるほどな。魔眼と肉体制御の並列化に成功したって事か。こっちのお前自身にはない力だな。だが、その程度で私は倒せねぇぞ!」

「!?」

「ムウン!!」

黒江は風を操る力を応用し、仮面ライダー1号のある投技を再現に成功している。その名も。

「ライダァアァ、きりもみシュゥゥウトッ!!」

ライダーきりもみシュートである。その最新バージョンでは、相手を抱え上げて横にした状態で超高速回転させ、それで発生した竜巻に合わせて投げ飛ばすという大技に昇華しており、それを使ったのだ。当然、通常のウィッチであれば受け身すら取れない。しかし、孝美は絶対魔眼で肉体の耐久力や思考速度を高速化(黒江からすれば、誤差の範囲だが)させていたので、受け身が取れる。

「く、くぅぅっ!」

竜巻の勢いに身を任せ、勢いが収まった瞬間に受け身を取り、着地する。かなりの無茶であるので、絶対魔眼状態でも痛みに顔を顰める。

「きりもみシュートの勢いを上手く利用したか。だけど、無茶しすぎだ。いくら絶対魔眼でも、足に来るぜ?どこぞの科学忍者隊みたいな真似しやがって」

「なんですか、それ」

「あ、いや、こっちの話だ」

黒江はB世界では影も形もないモノを口走るが、言った後で気づき、舌を出してあちゃーな表情を見せる。そのアニメはA世界では輸入されているが、B世界では影も形もない。それに気づいたのだ。ちなみに黒江は見始めたばかりであるが、早くもシャーリーやエーリカなどの子分達にそのところを見られ、今や上映会をやる羽目になっている。

「エクスカリバーを見きったのは褒めてやる。だが、こいつはどうする?」

「!?」

「廬山龍飛翔!!」

廬山龍飛翔である。光速バージョンであるので、絶対魔眼発動で直撃を避けるので精一杯だが、それでもかなりの衝撃波が突き抜ける。音速を超越した速度だったので、随分と後から炸裂音が響く。

「い、今のは……り、龍……?その昔、明国で言い伝えられていたという聖獣……」

「そうだ。明国じゃなく、中国と言ったほうが通りがいいと思うぞ。何回も王朝が入れ替わってるし」

「先輩の世界では存続したので?」

「介入者の世界での事だがな。アジアをかつては支配していた国だからな、知っておかんと恥だぞ」


――ウィッチ世界では例外なく、漢民族はその国土を明国の腐敗と衰退で失陥し、扶桑などの各地に散り、ある者は扶桑に亡命し、ある者は華僑として生き延びたり、流浪の民になった。後金国(後の清国)に取って代わられる事はなかったが、その代わりに扶桑にアジアの盟主の座を明け渡し、唐時代の栄光も忘れ去られた。その時代の中国に憧れていたフランクリン・ルーズベルトは原子爆弾を用いる事で扶桑を打倒し、中国復活の野望を抱いていた。A世界では、それはティターンズと連邦の双方の介入で明るみに出た。『扶桑を打倒する。それも街を一瞬で消せる大量破壊兵器で』とセンセーショナルに報じられたことにより、フランクリン・ルーズベルトの評価は地に堕ち、リベリオン本国でも評価は低い。残された家族は亡命リベリオンでリベラル系の政治活動を行っている。これはフランクリンが画策していた思惑の否定と、扶桑への贖罪である。このように、A世界では滅亡後も個人的に『復活』を目論むほどに好事家がいるのが中国である。A世界においては、未来世界中国のオラーシャ革命での肩入れや、リベリオン本国への援助もあり、連合軍からは敵国扱いである。表立ってリベリオン本国を援助をしないのは、2014年の中国共産党は軍備近代化の只中で、攻め込まれた場合、制空権や制海権を失う危険が濃厚だからだった。危険視されたのが、戦艦による威圧効果である。上海などの沿岸部都市に、大和の血族の大戦艦を置かれた場合、共産党の支配が揺らぐ事が想像されたからである。戦艦はビジュアル的にも分かりやすい力の象徴であり、米国もレーガン時代に実用性を無視してでもアイオワ級を現役に戻している。

――その当時の中国共産党の幹部はこう述べている。


「戦艦は時代遅れと言うが、政治的には依然として効果を持つ。核兵器と違って環境を汚染せず、原子力空母のように、戦争を煽ると批判されず、原子力潜水艦のように『核戦争』を騒ぎ立てられる事もない。ある意味ではクリーンな戦争抑止力なのだ」

と……。空母が高額化し、政治的に原子力潜水艦が揃えられない国情の日本国や高額な空母の建造費などで、かつての栄光は何処状態の英国には戦艦は魅力的な兵器である。日本や英国がレンタルで数隻を使用しているのは、『自前で建造がもはや不可能』であるからだ。FARMで予め近代化されていた事による、大幅な省力化がされている事も、両国には魅力的だった。特に、『甲斐』がレンタルされてしばらくした後の国会の質疑では、野党の無知が露呈した。

――2014年ごろの日本の国会――

「あなた方が2000年代後半からレンタルしている戦艦大和の姉妹艦についてですが、その運用費用はどこから捻出しているのですか?」

「扶桑皇国が半分以上を負担しておりますし、主砲弾などは扶桑の輸出品であります。あなた方の時代もそのまま通っているものですが?」

「は?」

「あなた方が政権を担っていた時代に中期防概算予算案で通ったものを、私達はそのまま出しているだけです」

「……」

野党はこれで突かれるとまずいところに気づいたらしく、論点を変えた。

「戦艦は乗員が3000名近く必要と聞いております。そうまでして運用する必要が?」

「それは第二次世界大戦の時の話であります。戦艦甲斐は我々以上の技術で大幅に省力化がなされており、むしろこんごう型護衛艦とさほど変わらない人数で運用可能でありまして。『3000人』は天一号作戦の際の大和の人数で、しかも対空改装後の例外的な処置です。今では空母のほうが遥かに多く、3000人を有に超えております」

これまた、野党の無知が露呈する回答だった。現在では空母のほうが乗員数も遥かに必要とするのだ。空母は航行だけで2500人、航空要員を入れると、と、戦艦大和の最終時も優に超える3270人が定数である。軍事的無知が尽く裏目に出る野党はここ数年、攻め手を欠いていた。また、扶桑の最新鋭戦艦が韓国軍を無力化したという事実が、彼らの勢いを自然と削いでいた。日本の野党政治家の大半が軍事学に無知で、常識が第二次世界大戦当時で止まっている者さえ常態である。しかも、それでマシな方に入るので、軍事的な面では攻め手が無かった。



――また、私的制裁に泣く扶桑の要請で動いた23世紀日本が21世紀日本を黙らせるため、量産型グレートマジンガーとゲッタードラゴンをデモンストレーション飛行させたのも、彼らが突っ込めない要因だった。お台場にあるガンダム像など問題外の『スーパーロボットの実物のデモ飛行』である。チョイスをマジンガーとゲッターにしたのは、それが最も有名なスーパーロボットであるからである。その二代目が選ばれたのは、単に現行モデルなためだ。ゲッタードラゴンについてはオリジナル版ではないので、ファンからブーイングが起こり、グレートマジンガーについては『Zじゃないの?』という嘆きがネット掲示板に書き込まれた。その日の夕刊の見出しは『マジンガーとゲッターロボ、東京を飛翔す!!』というものだった。グレートマジンガーとゲッタードラゴンは量産型であるが、オリジナルの全機能を引き継いでいる隊長機仕様である。グレートマジンガーについては実質的に『増加生産機』に近い。が、ドラゴンについては量産されるにあたり、一部は簡略化されている。カラーリングだ。赤一色に近いカラーリングなため、若年層からは『悪役だ〜!』と言われ、当時に見ていた壮年層からも『こんな色だったっけ?』と言われる始末だった。これはオリジナル版が原型機でないので、仕方がないところだが、高年齢層からは『コミック版じゃね?』と好意的に見る声もあった。そして、双方のパイロットが『既に上位機種は開発されている』と答えたので、上位機種が必然的に真ゲッターロボとなるゲッターロボファンは歓喜した。マジンガーファンは最強のマジンガーは『マジンカイザー』であるとする、グレートマジンガーからの流れを重視する中間層と若年層と、グレンダイザーとする高年齢層に分かれた。高年齢層はTVシリーズでの流れを重視していたが、グレンダイザーはそもそも、正統なマジンガーではないし、マジンガーの類似品的側面を持つ。一部からは『没版のゴッドマジンガーじゃないか』とする意見もあったが、ゴッドマジンガーはどれが正しいのか、ファンにもわからない状態である。しかしながら、匿名掲示板や質問サイトでは『普通に、あのマジンガーぽくない没版のゴッドマジンガーだろう』という回答が主流となった。





――彼らの言う『没版ゴッドマジンガー』とは何か?獣型パイルダー『マシーンウル』がドッキングし、グレートマジンガーの犠牲を経て生み出された、新機軸スーパーマジンガーであるとされるものだ。一般に、没版ゴッドマジンガーは1975年当時、グレートマジンガーの次番組案として作られた企画書に記載された『主役ロボット』のデザイン画を指す。その企画書での設定がそれだ。当時から見ても『シンプルなデザイン』であるのと、グレートマジンガーの玩具展開不振、前シリーズと関連性がほぼ皆無のデザイン、物語がハードにすぎたため、グレンダイザーが生誕するわけだ。実際にはグレートマジンガーのデザインを踏まえた発展系のデザインを持つマジンカイザーや没版と別個体だが、ほぼ同じ金属のボディを持つ『小説版ゴッドマジンガー』が上位機種として存在する。また、劇場版として企画された『ゴッドマジンガー』も存在したため、マジンガーは派生が多いのだ。なお、面白い誕生経緯として、マジンエンペラーの誕生にシリーズ原作者が絡んでいたというモノがある。未来世界とのタイムパラドックスが絡むこともあり、経緯は伏せられている。

――A世界――

「子供の頃、変なお化けと会ってさ。毛が三本でさ」

「のび太くん、それ、『オバケのQ太郎』じゃない!」

車で新京に繰り出したのび太となのはだが、のび太が話題に出したオバケが『Q太郎』なので、びっくり仰天である。

「オバケだけにまだその辺に居たりね」

「つーか、何でもありなんだね、のび太くんの世界」

「なのはちゃんはなんで知ってたんだい?旧・新・リブートのどれも、僕が生まれるより前だぜ」

「おじいちゃんの家にオープンリールデッキで録画した新があって……」

「お、オープンリール……」

「うん。なんでもその時にいた子供、つまりお父さんの上の兄弟にせがまれて録画したらしくて……」

「レアだなぁ、それ。国営放送がアーカイブに欲しがるって」


なのはは平成中期以降の生まれであるので、その祖父母はおおよそ、ベビーブーム世代の当たりに相当する。なのはの実家は武術で戦前から名家であったため、1971年当時に高価だったビデオデッキを購入できるほどの余裕があり、伯父達が子供時代に録画した番組がかなり現存していた。のび太から言われたなのははその後の休暇で帰省。それらを急いでかき集め、国営放送に高値で売り払うのとバーターに、なのはも欲しかっている最新式AV機器を取引に使い、軍で培った交渉術で見事手に入れたという。

「でもさ、のび太君ってさ、ドラえもん君のおかげでかなり得してない?」

「そうだね。普通なら雲の上の人なトップアイドル(のび太達と知り合いの伊藤つばさなり、元パーマンの星野スミレ)や女優と知り合いだし、オバケのQ太郎にも会えたからね。忍者ハットリくんは会った事殆ど無いけど、魔美さんとはちょくちょく会ってるなぁ」

「のび太くん、アニメファンからしたら、血涙もんだよ、それ」

「なのはちゃんだって、もう大人なのに『魔法少女』やってるだろう?」

「うぅ、わ、若返ってるから少女だし……」

「高畑さんとは今じゃ飲み友達だよ。良ければ紹介するよ。職場の先輩だし、家族ぐるみで付き合いあるから」

「本当!?感激だ〜!」

のび太の口から『佐倉魔美と高畑和夫はその後に結婚し、高畑はのび太の職場の先輩である』事が明言された。のび太と魔美はひょんな事から知り合った。(ちなみに、魔美の声色はドラミに酷似しているため、ドラえもんでさえ聞き分けられなかったほど)学園都市によるものではない『自然覚醒の超能力者』である魔美は、学園都市基準ではレベル3相当である。それを知る高畑が学園都市の暗部の噂を知っていて、魔美への人体実験などを恐れたのもあり、成人しても魔美の両親にさえ知らせていない。(美琴が学園都市を嫌うようになったのは、魔美やイナズマンと言った、自然覚醒の能力者を知ったためでもある)

「学園都市はちょうど『今』が絶頂期だから、口外しないようにね」

「分かってる」

なのはに釘を刺しつつ、車を飛ばす。



――学園都市はのび太が青年期頃に絶頂期を迎える。美琴は『素養格付け』による『個人の素養の行末』を知りながら、無作為を装って、能力社会を作り上げた事を憎悪しており、学園都市と戦う腹積もりであった。のび太との正確な年齢差も判明し、のび太が25歳の時に14歳である。なお、なのはは美琴より数歳ほど上、箒や鈴、シャル達は美琴より10歳近く下に当たる。(世界により、生年月日には誤差があり、のび太は最大で1964年から1990年代までの30年ほどの誤差がある)――



――なのはも箒たちもだが、ドラえもんの性格がアニメよりシニカルであるのに驚いており、シャルは錯乱するドラえもんを見かね、リヴァイブでネズミ駆除を行う羽目となった事があるし、またある時はマシンガンを家で乱射し、あのお馴染みの声で『うるさぁぁい!死にたくなかったら気をつけろ!』とのび太に怒鳴り散らした事もあるのだ。箒も、黒江も『錯乱したドラえもんは何するかわからないから怖い!!』と嘆いている。その一方、ドラえもんは経年劣化により、勝手にどこかの部品が故障する事もあり、修理のため、のび太が体の中に入ったり、その救出に箒と鈴が赴いた事もある。その際、鈴は『ネジが三本くらい抜けてるって言うけど、アンタの体、なんでメンテナンス推奨期間より前に壊れんのよ』とぼやいた事がある。これはドラえもんの製造ロットが極初期である上、9月3日製造機の0号か1号である事、雷に打たれてネジが数本抜けたためである。錯乱すると、自制が効かないため、ネズミを見せないように、あの菅野や黒江でさえ気を使っている。地球破壊爆弾をすぐに取り出すので、あのロンド・ベルの猛者達も震え上がるのである。最終手段はしっぽのリセットであるが、これがまた難しかった――

「新京まではまだ?」

「あと2日ほどだね。本土より広いからね」

「車でどうして行こうとしたのさ」

「日本だとポルシェのエンジンのパワー持て余すしね」

「でもさ、1940年代の道路でさ、911のポテンシャル出そうなんて無理だよ。アウトバーンでもなきゃ」

「うーん」

「次のインターチェンジで空港になるから、そこで飛行機に乗ろう。飛行機なら5時間でつくから」

「それもそうだね」

1940年代当時も21世紀もそうだが、ポルシェのポテンシャルをフルに引き出せる環境は限られる。新京周辺の200キロと仁川(にかわ)港(ウィッチ世界では、南洋島の地名である)からの路線は防空部隊の臨時滑走路にも使えるアウトバーン規格で戦前からコツコツと作っていた。ティターンズのマスドライバー攻撃で街ごと消し飛んだ区間も存在し、日本の左派の密告で破壊され、猛抗議でアウトバーン規格で作り直させた区間も存在するため、道路の規格はアウトバーン規格に統一が図られている。(日本政府もまさか、同位国とは言え、扶桑皇国を大日本帝国と同一視し、敗北に導こうとする勢力が公然といることに驚き、最近は規制を強めている。逮捕者の中には『ここままいくと、どうせ北朝鮮のような国になるんだから、負けて経済的繁栄を……』という持論を扶桑の公安に述べる者がいたという。)

「そう言えば、なんでポルシェ買えたの?いくら環境省の役人でも、ペーペーののび太君に買えるとは思えないんだけど」

「ジャイアン達には見栄張ったんだけどさ、実はさ。閣下のツテで、フレデリカ・ポルシェ技術中佐をウチの世界のポルシェ社に紹介したんだよ。創立者の同位体ではあるけど、創立者一族の人間ではないって言い訳で社の役員を説得してねぇ」

「ごねたでしょう?」

「会社創立者のフェルディナント・ポルシェ博士の同位体だから、無下にも出来ないらしく、役員どもが唸ってね。最終的にはCEOが折れたんだ。それで、半年研修して、最後に一車種を作ってみて、それが売れたら正式に迎え入れるって条件で車を設計させたんだ、ポルシェ社」

「それで?」

「実際に会社で設計してるし、軍で兵器設計してるから、飲み込みが早くて、ポルシェ社のユーザーが何を求めているかをすぐに現役のデザイナー以上に理解して、昔ながらのカエル頭をアクセントにした『組み替え出来るモデルで色々な層に売れる廉価モデル』を作ったんだ。これがまたバカ売れでさ」

――2014年。ポルシェ社から廉価モデル『カレラF(フレデリカ)』が発売された。フレデリカ・ポルシェが別世界のポルシェ社の資産を使って設計し、自ら試作車に試乗して生み出した。ポルシェ社は『創立者の同位体である美女が設計した』ところを押し出して宣伝した。当のフレデリカは実直な技術者なので、ジャーナリズムの宣伝は軽んじているものの、愛想笑い程度はできる。モデルの外観は往年の911っぽさを多分に残している。エンジンはなんと液冷エンジンである。

『フェルディナントは技術的ネガを嫌っただけで、ティーガー戦車には液冷V型つかってるじゃない?知っての通り、電動化で失敗したけど。今、この会社なら液冷でも空冷と変わらない故障率で、パワーも有るから液冷を選ぶわ』

『スポーツカーに必要なのはパワー、軽さ、空力。得られるパワーと重量を勘案すれば、今の液冷は長時間巡航や高速走行で空冷に遜色ないどころか安定運転では空冷より優秀だからね』

と、チームのミーティングでそう述べ、フェルディナント博士なら嫌うであろう技術を躊躇なく導入した。それもポルシェ社を唸らせた要因だった。同位体のフェルディナント・ポルシェよりも遥かに年齢が若いので、試作車にテストドライバーとして試乗も行い、自らチームを引っ張った。昔年のポルシェ博士を彷彿とさせるリーダーシップを見せた。その姿勢がポルシェ社の態度を軟化させたのだ。

「……って具合で、ポルシェ社から喜ばれて、割引で買えたんだ」

「いいなぁ。あたしなんて、子持ちだから、家に送られてくるカタログがワンボックスカーとかでさ…」

「いいじゃない。ボクなんて親父に『家族向けのに買い換えろー』とかねぇ」

「ミッド製の車、どうしても技術系統的に操作レスポンスが落ちるんだよ。やっぱり地球製に限るね」

なのはは、ミッドチルダ産の車は技術体系が違うのと、モータースポーツで技術が洗練されていないために操作レスポンスが地球産より落ちると明言する。動乱前、フェイトが試しに管理局制式車に乗ったところ、まるで使えないと憤慨し、地球のカーディーラーから取り寄せている事からも、ミッド製の車の未熟さがわかる。

「あ、のび太くん、右、右」

「わかってるって。子供の頃みたいなヘマはしないって」

「山の地図持っていくつもりが世界地図持っていったって聞いたよ」

「結婚前の話だよ、それ。ハハハ…」

とあるエピソードを引き合いに出されては、のび太も苦笑いである。空港に入り、身分証明書を見せて、軍のミデアに車ごと同乗し、新京に向かったのだった。



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