外伝2『太平洋戦争編』
七十三話『まやかし戦争5』


――地球連邦と戦車道世界とのつながりはデザリウム戦役後も保たれ、連邦軍のガンタンク運用に革命をもたらしていた。MSが小型化され、支援用MSも廃れかけている時勢、ガンタンクの殆どは退役していた。が、デザリウム戦役中、陸戦強襲型ガンタンクやガンタンクUで機動戦術をやらかし、ジオン残党に『これがタンクもどきの動きなのか!?』と震え上がらせたので、その戦術を活用できる陸戦強襲型ガンタンクベースの最新型が作られていた。可変MSのタンクバージョン扱いであるが、既存機体ベースとは言え、久しぶりのガンタンクだった。最高速度、火力ともに歴代ガンタンクでは最高をマークした。反地球(ガイア)から輸入したコンバットアーマーがその設計の参考にされ、コックピットはコア・ファイター(Sガンダム)の機首が流用された。なお、試作機は初代ガンタンクと陸戦強襲型ガンタンクのパッチワークで改造して生み出されたため、『RX-75-4+』の型式を与えられた。完成型は初代ガンタンクが陸戦強襲型ガンタンクに変形するという風体で、初代ガンタンクの頭部に当たる部分には宇宙戦艦用のセンサーが設置されており、異形感を与える。装甲はガンダリウムγ合金であり、当然ながら、主砲の滑腔砲に耐えられるだけの強度を持つ。時代の流れとして、ロトと部品をある程度共有する必要があるので、可変機構を持つ。この形態は表向きは『ロト参考』とされているが、実はコズミック・イラ世界で回収されたザウートのデータを参考にしているところが多い。名は『ガンタンク+』とされ、デザリウム戦役後に陸軍の61式戦車の老朽個体の置き換えも兼ねて生産されている。これは22式戦車のライン確保が手間取り、主力MS置き換えのフォクシー/フリーダムの製造に予算が割かれたために製造が遅れ、61式の老朽化が目に見えてきたからの応急処置でもあった。そのガンタンク+の運用マニュアルを作成する仕事についていたのが、高校生としての戦車道を終え、黒森峰女学園の卒業を控えていた西住まほだった。


――彼女はみほの在籍する大洗女子学園が高校オールスターと大学選抜との試合で廃校を免れたのを見届けた(この敗戦で大学選抜の立場が無くなったが)後、卒業を控えていたのだが、圭子の誘いを受け、ウィッチ世界に赴いた。これは実戦を生き延びた事で、内心ではみほの戦車道こそが戦車道の王道ではないかと考えるようになり、母への最初の反抗も兼ねて、みほにだけ知らせる形でウィッチ世界に赴いた。服装は黒森峰女学園の制服だけでは不便なので、デザインが似ているカールスラント陸軍制式の戦車兵軍装を与えられ、それを使い分けている。連邦軍の野戦服も勧められていたが、連邦軍の野戦服は米陸軍を参考にして制定されたので、アメリカナイズされているのもあり、作業服としてのツナギ以外は着ていない。現在の扱いとしては、実情は民間人の協力者だが、義勇兵経験者であるので、現在は軍人に準ずる扱いであり、デザリウム戦役の戦功もあり、士官待遇である。(姉妹は、デザリウム戦役後に軍人に与えられる中では最高位の勲章が連邦大統領から授与されている)――


――64F基地

64Fに世話になっているまほは、連邦軍の予備役軍人の規定である『一定程度の訓練』を戦車兵として受けつつ、1949年現在では扶桑軍へのアドバイザーと連邦軍の戦車戦術の教官を兼任し、それを『大尉』待遇で行っていた。扶桑軍の戦車戦術が48年の年末を堺に急激に苛烈になったのは、まほの来訪が原因である。まほの黒森峰女学園は『圧倒的な戦力と火力を以て破砕する』思考が長年の黄金時代で染み付いており、みほの柔軟な用兵に破られる要因ともなった。が、今のまほは扶桑皇国軍、間接的に連合軍や自衛隊、地球連邦軍をも動かせる立場にあり、試合と違い、完璧な航空支援や砲兵支援を受けられる。しかも相手より質の良い戦車が配備予定であるのは楽である。二次大戦当時の車両と違い、MBT世代は機動力の統一がなされているので、戦略を立てる上では楽である。

(いくらでも航空支援や砲兵支援が受けられるのは楽だな。旧日本軍系の車両はホニやホリ、チト/チリ以外は数合わせにもならんが、自衛隊系の車両なら戦力として使える)

まほは、旧日本軍型装甲戦闘車両の多くが歩兵直掩を主眼に作られ、対戦車戦闘に用いるのには非力にすぎることをよく理解していた。これは旧軍の輸送インフラの限界に起因するものであり、戦時中にチトを作れたのは、技術の進歩もあるが、本土決戦が前提になったからだ。チハの車台の派生車両は山ほどあるが、その中で比較的マシなのが一式砲戦車/三式砲戦車である。砲戦車は日本独自のカテゴリで、駆逐戦車に近い。日本軍は主力戦車に大火力を求めないドクトリンで、砲戦車に大火力と機動力を与える思考だった。が、結局は独ソ戦の激しい戦車のシーソーゲームに顔面蒼白となり、チトをバランス重視にした経緯がある。日本軍が槍玉に挙げられるのはこの見識だが、ウィッチ世界の高級軍人らが21世紀世界の日本人に愚痴っているのも『輸送インフラ』の問題なのだ。最も、23世紀地球連邦軍の協力で空輸の問題は解消され、港湾の近代化や補給システムの構築が課題である。

「まほ、調子はどう?」

「ケイさん。補給システムの構築はどうですか?」

「日本からの賠償にPOSシステムねじ込んだから、それで構築する事になったわ。それと連邦軍の空輸支援が強化されるから、大抵のものは運べるわ」

ガルダ級も補給に動員されるため、今や空輸にほぼ制限はない。ガルダを以てすれば、全備重量のMSを30機以上運べるのだ。MBTに至っては、ミデアでも三機編隊で30両近くの運搬が可能だ。それも61式サイズをだ。21世紀までのMBTであれば、三機の定期便の数回で陸自第7師団の全てを運搬可能である。これに驚愕したのが21世紀の米軍と自衛隊だったりする。21世紀初め時点の名輸送機『C-5 ギャラクシー』がおもちゃに見えるような輸送量だからだ。垂直離着陸輸送機でありながら、MBTを10両以上運べるペイロードを誇るという時点で信じられないのだ。更にガルダ級は21世紀から見れば『超弩級』である。大抵のものを運べるというのは、それらが動員されているからだ。運べないのは、合体状態のガンバスター系のマシーン兵器だけだ。

「本当にバケモノですね、あれは」

港湾の沖合に停泊しているアウドムラに視線を移すまほ。同機はほぼ、『東京タワーをまるごと翼つけて飛ばした』のと同じ程度の大きさを誇る。『輸送機』としては史上最大である。

「あれで運べないのは、ガンバスターくらいよ。大抵のスーパーロボットも運べるから、需要はあれで事足りるわ」

「空輸の制限はほぼないも同然も同然ですね」

「ええ。防御も凄いから、奴らも手出しは諦めてるわ」

「でも、まさか40年代の内に74式を作れるとは思いませんでしたよ」

「大戦規模の戦争がもし、1945年以降も続いてたら遅かれ早かれ出現していたであろう技術レベルだしね、74は」

圭子が言うように、第二世代MBTまでは、第二次世界大戦の技術とそれほどベトロニクスなどで隔絶した世代差は存在しない。大日本帝国の数倍の国力の扶桑を以てすれば、74式戦車は1950年までに製作可能である。五式改二型の一部でテストがなされた溶接砲塔と追加装甲を携えた74式改は原型以上の高性能を持つ。変更点は砲塔の設計変更と車体装甲の強化である。原型の鋳造砲塔ではAPFSDSに無力であるため、砲塔だけは新設計になったのだ。サスペンションの開発に手間取ったため、当初予定より二年は遅れているが、74式のコピーは成功したわけで、扶桑がコピーして制式化した事は日本政府も防衛省も了承済みである。野党も2014年春を超えるまでには、賠償が行われた事もあり、扶桑への援助にいちゃもんつけるのを避けるようになり、これに関しては大人しかった。他の要因としては、素人目にも『1974年制式化』の退役中の旧式戦車に興味を持つ者はいないからでもある。賠償として、『サンプル品』として輸出された用途廃止扱いの車両も稼働状態にされ、第一戦車師団(本土駐留)で教材に使用されている。




――南洋島は別世界では中国・韓国や旧満州国の地名である地名と、昔の貨幣や年号などを充てがった独自の地名が混在する地である。その内の幾つかはマスドライバーによる攻撃で消滅したり、その二次災害で壊滅したので、30万人ほどは街の幾つかごと消えた。マスドライバー攻撃が直接被害が大きく、織田時代の遺産もいくつか消えた。それらを含めての賠償金請求が21世紀日本をして、『顔面蒼白』にさせた。扶桑は賠償を確実に得るため、消えた街が発展で『重慶』を襲名する予定であったのを良い事に、『消えた都市の名は重慶市です』と報告し、日本側に精神的ショックを与える手法を使った。しかも死亡者の多くは旧明国の末裔達たる華僑であったと伝えられた事も、日本左派を大きく混乱させた。この事は日本の政治界に大きな衝撃を与えたのは確かで、自分達の最新技術の提供も大きな反対なく決議されるほど、扶桑への贖罪意識は大きかった。その贖罪意識の大きさは、自衛隊の派遣規模にも表れており、異例の規模での派遣なのがその証明だった。また、学園都市による戦争を期に『憲法改正』の機運が高まったため、自衛隊への法制の縛りが緩められ、左派の存在意義は薄れ初めた。それが扶桑での左翼教育への情熱になったが、著名なウィッチである芳佳が1950年、『力があるのに、何もしないのは怖いことです』とインタビューで答えたのを期に、新学校は次第に失速していく事になる――

「このニュースは本当ですか?」

「日本の過激派の行いの報いって奴よ。それで74の実物と技術が得れて、コピーが成功したから、良いことと悪いことが半々なのよ。だから、予定より戦車師団の編成と装備更新が遅れちゃって」

「だから、パットンに通じないであろう、ホニまで引っ張り出したんですね?」

「そうよ。本当は予備装備に格下げされてたんだけど、チハ改とかチヌにパットンとの矢面に立たせるわけにもいかないから、引っ張り出したのよ。ジャクソンとかM10相手には有利だし」

「戦車駆逐車を砲戦車で駆逐ですか。ややこしいですね」

「MBT時代だもの。戦車駆逐車のカテゴリ自体が陳腐化してるし、昔の重戦車も要らない存在になりかけてるしね」

主力戦車が活躍する戦場においては、第二次世界大戦での定義に縛られている戦車の出る幕は殆ど無い。扶桑軍が74式をコピーする時に自動装填装置を求めたのは、迅速な連続射撃による制圧力が理由なので、そこが怪異相手にしてきた扶桑軍としての見解だった。これは怪異相手の遭遇戦で、旧式戦車群が鉄屑同然だったことの反省で、自動装填装置を自衛隊の反対にも関わず、組み込むのを望んだ。これにより重量が増したが、原型より強力な機関を組み込むことで解決した。

「原型と違って、自動装填装置がついてるんですね」

「ウチはバケモンとの遭遇戦が想定されたから、安定した連続射撃が求められるのよ。だから弄って、74+αにしたのよ、陸軍」

「今の生産数は?」

「本国の師団へ供給が終わって、チリ改との交代が始まったところ。初期作戦能力は得たけど、前線にはまだまだね」

「工廠での予定生産数は?」

「『重慶』の代わりになる生産拠点の構築が必要になるから、自衛隊の用途廃止車両の再生で数合わせはしてるんだけど、月に100両いくかどうか」

「少ないですね……大戦末期のドイツでも400両は月に作ってましたよ?」

「仕方がないわ。モータリゼーションが遅れてて、自動車工業そのものが発展途上だし、派閥抗争で戦車よりも陸戦型ストライカーの製造が優先されてたもの。いきなり増産は無理って奴よ」

扶桑の戦車生産力は日本帝国よりはマシだが、ドイツ(カールスラント)より大きく立ち遅れている。戦時中に平時並みの生産数では、供給が損失に追いつかない。これを危惧した者たちが64基地地下を大規模工場化させるプランを実行させたが、完成は50年代だろう。一大工業地帯である重慶の喪失は実に痛く、反攻作戦の頓挫になってしまった。ウィッチ装備用工場を転換させてまで、戦車工場を構築する必要に迫られているのが、扶桑における新興分野である、機甲部隊の窮状だった。

「それでは、どうするんですか?」

「連邦軍の戦力をフル活用して、戦線を安定させる事よ。その間に兵站システムと兵器増産体制を整えて、反攻の再開とハワイでの決戦に持ち込む。ロサンゼルス侵攻は無理になったしね」

「予定が立てられたのはどうしてですか?」

「第一に、リベリオンの生産体制が平時になっていた事、西海岸にはティターンズは部隊をあまり置いていなかったからなんだけど、妨害と密告でティターンズが生産体制を戦時に移行させちゃった上、リベリオン本国の人達が思ったより協力的である、第二に、リベリオンの工業生産力が宣伝された事で、うちの国民がビビった事、第三にリベリオンの国民性が好戦的である事で、侵攻計画がオジャン」

「フルセットの日本連合艦隊を、4年もあれば二個以上作れる工業力をプロパガンダされれば、国民の士気ガタ落ちなのは確実ですからね」

「そう。だから今の現有戦力を0にした上で、工業地帯を叩かない限り、対等な条件の講和も覚束ない。白人至上主義が強かった時代のアメリカはアジア人を『イエローモンキー』扱いで蔑んでたから、そうするしか選択肢がないの」

「第二次世界大戦というのは、凄惨ですね」

「数十億が7日で死んだ一年戦争よりはかわいいわよ。一年戦争に比べれば、第二次世界大戦も子供のお遊戯よ」

「あれはやり過ぎですよ」

「相手が同じ地球連邦を出自にしてるだけ、まだ良識あると考えたいわね。ジオンは自分たち以外の全てを敵認定する過激派がいるし」

「ジオンもそうですけど、何故、過激派は生まれるんですか?」

「昔から、行き詰った国や組織には、『カリスマ性がある誰かが現れる』のよ。フランス革命が行き詰った時のナポレオン、地球連邦軍にとってのジャミトフ・ハイマン、サイド3にとってのギレン・ザビのように」


――後世、ジャミトフ・ハイマンは人を見る目は無かったが、一種の政治的天才であると再評価されている。ギレン・ザビのようにマルチな才能は無いが、ティターンズを育てた事は評価されている。問題は自分の足下を固める事に苦心する一方、バスク・オムのような残虐非道な軍人を配下に選んだ事が不幸だった。軍政分野ではギレン・ザビに並ぶが、人心掌握術はギレンの足元にも及ばなかった。それがジェリド・メサへの信任に繋がったのだろうが、全てが遅すぎた。圭子も軍政家としてのジャミトフは評価しているが、個人としては嫌いな人種であるらしく、個人として蔑むような態度も覗かせた。これはパプテマス・シロッコに対しても同様であり、圭子はゲッターの使者として、『傍観者を気取り、人を家畜のように動かす事を是とする』者たちを侮蔑しているのが分かる。


「ケイさん、嫌いなんですね?あのような人種が」

「自分の手を汚さないで、他人を家畜みたいに扱って、それを悪びれないといおうか、悪いことって自覚がないような野郎共は嫌いなのよ。そういう連中がいていいはずないわ」


自らの手で運命を切り開く事を尊ぶゲッター線の使者として、パプテマス・シロッコやジャミトフ・ハイマンのような者たちを許さない。圭子も自覚していないが、元々からの正義感がゲッター線で増幅したが故の言動である。

「今のティターンズも同じよ。自分らの手をなるべく汚さず、現地の人間をコマみたいに扱う。あいつらだけは『ぶち殺したい』人種よ」

圭子はスリーレイブンズで一番に苛烈な攻撃性を秘める。まほの前でも同じで、ぶち殺したいと公然と言い放つので、かなりゲッター線汚染が進んでいるのが分かる。

「過激ですね」

「あいつらは一種のレイシストだもの。『地球生まれ』は差別しないけど、それ以外の地球人を見下す。それが傲慢だってのよ」

「どうするんですか、ケイさん」

「戦場で敵対したら倒すまでよ。鉄の暴風雨を浴びせてもね。あいつらに与した以上、同胞とは思わないわ」

圭子が攻撃性を表に出した場合、その狂気は狂奔モードの黒江すら超えるもので、なのはは『ゲッター線に魅入られた狂戦士』と例えている。なのはもそのところがあるが、ゲッター線の使者となった圭子はそれ以上で、敵対者には全くの情け容赦がない。孝美Aが圭子と黒江へ、ある種の怯えを持っているのも、この攻撃性を本能的に感じ取ったからでもある。(それがひかりの事で智子に相談した真の理由である。孝美Aは基本的には三人へ敬意を払っているが、二人は裏が読めない事もあり、どちらかと言えば、正直な智子を敬愛している。三人にそのような感想を持つウィッチは多く、この戦争中に三人の全員に数年づつ仕え、その後に空軍参謀副長となった『遠藤健子』准尉(当時。最終階級は中将)の死後に発見された手記で、『穴拭さんが一番仕えやすかった』と残されていたという。これは智子の正直な性格が部下たちに受けた事、圭子と黒江は『得体が知れない』と恐怖心を抱く者が多く、人柄を知れば心酔する者も多いが、触れ合う機会が少ない者は『戦闘狂だ』と認識していたからでもある)二代目スリーレイブンズの時代の言い伝えによれば、『64Fに配属されるのは名誉だが、同時に戦闘狂にならなければならない』との言い伝えが孫世代に残り、孫世代の64Fが『魔窟』と揶揄される要因になっているという。三人が退役し、仕えた者たちが戦隊司令を受け継いでいった時代に確立された言い伝えに、当の三人は苦笑いである。

「あ、ちょっとごめんなさい。ウチの子から電話だわ」

と、圭子は携帯電話を取る。義理の子の澪のことはまほも知っているので、普通に了承している。

「澪、どうしたの?」

「母さん、麗子の家が大変なの。町子おばさんがインフルエンザにかかって、それで、麗子も寝込んじゃって」

「なぁ!?」

町子とは、智子の姪で、麗子の母にあたる人物である。21世紀で穴拭家にインフルエンザが蔓延してしまったという報に思わず、素っ頓狂な声が出る。

「タミフル処方してもらいなさいよ、確か麗子の家の近くに医者が……」

「あいにく、今日は休日なのよ」

「〜〜……んじゃ……、確か、黒江ちゃんの甥っ子の一人が軍系の救急病院で医者してるから、救急でねじ込んでもらいなさい。あたしの名前出していいから。あそこの院長、あたしの陸士時代の後輩だから、ベットを確保できるし」

「分かった」

圭子は指示を飛ばす。21世紀においては、退役後に医者に転身し、軍の救急病院の院長の座についた元ウィッチもおり、この時代においては圭子の士官学校時代の後輩がその任についていた。その事もあり、21世紀ではスリーレイブンズ御用達である。

「重症なら横須賀病院の宮藤先生頼りなさい。あの子、まだいたと思うし」

「分かった。それと、翼がそっち行ったから、そろそろつくと思うよ」

「翼が?分かった。切るわよ」

と、電話を切る。まほもみほと電話をしていたようだ。

「みほから?」

「ええ。あいつは心配性ですから。なるべくなら、あの子にはさせたくないのですが……」

「姉心って奴ね。こっちは黒江ちゃんちの子が来るって言うのよね」

「ああ、翼さんですか」

「ええ。あの子、綾香と違って堅物だから。その辺は智子に近いわね」

二代目スリーレイブンズはそれぞれ、幼少期の教育の影響により、黒江の義娘『翼』には智子の影響が、澪には黒江、麗子には圭子の影響が出ている。面白いことに、教育した人物の影響がモロに出たのか、ポジションは入れ替わっている。なお、黒江の元々の性格は真面目系であったので、それに近い。聖剣は先代のエクスカリバーとエアではなく『アロンダイト』と『草薙の剣』で、黒江の隠居後に山羊座の黄金聖闘士を継いだらしい。聖闘士としてはかつての黒江同様に若輩だが、黒江の才覚を隔世遺伝で継いだので、強豪である。なお、その頃には紫龍が何かの戦いで負傷したらしく、綾香当人は代打で天秤座の黄金聖闘士を拝命しているとのこと。



――それから数時間後、武子の前に翼が現れた。

「あら、翼じゃないの。お母様は不在よ」

「お久しぶりです、武子おば様。知ってます。母さんは平行時空に行ってるんでしたね」

「ええ。本当、髪型と服装でしか見分けつかないわねぇ、アナタ」

「昔から言われてます」

翼は声も黒江の主人格と酷似しているが、真面目な雰囲気を持つため、その点では分かりやすい。細かな違いとしては、言葉づかいが硬いか、荒いかの違いだけだ。ただし、性格上、黒江と違って生真面目なため、堅物と言われる(黒江はほしいゲームや漫画の発売日にはあらゆる手で外出して買いにいくが、翼はそれをせずに休暇で買う)

「本当は麗子達も連れてくるはずだったんですが、あいにく麗子がインフルエンザで」

「圭子から聞いたわ。美奈子にお見舞いに行くように言ってあるわ」

「ありがとうございます」

と、すっかり未来の子孫と打ち解けている武子達。この事はすっかり部隊の間では知られている。

「お、来ておったのか、黒江の孫っ子」

「お久しぶりです、赤松大先生」

赤松も二代目スリーレイブンズとデザリウム戦役から面識があるため、『黒江の孫っ子』と呼んでいる。翼は世代的に、黒江の孫に相当するからだろう。

「ガッハッハ、あいつ、孫娘まで連れてきおったか!こりゃめでたいこった」

「大先輩、ボリューム落としてください」

「こりゃすまん。この年になると、声が大きくなっての」

「声が大きいのは前からじゃ無いですか、ゃだもー」

戸籍上は30の大台に乗った赤松はますます豪快で、バンカラという言葉が似合う女子という新ジャンルを開拓(?)した。自衛隊でも『姐サン』と呼ばれており、今やウィッチ部隊の長老の一人として絶大な権力を持つ。その権力は江藤と北郷でさえも従うほどのもので、二人の新米時代に面倒を見たため、北郷たちがウィッチとして敬語を使う稀有な存在である

「隊長、報告書を……あら?あなたは黒江先輩の娘さん?」

「雁渕大尉、お久しぶりです」

「お久しぶりです。先輩に呼ばれたんですか?」

「圭子おば様の要請です。本当は麗子達も来るはずだったんですが、あいつ、インフルエンザで寝込んじゃって」

「あらら……」

「今、私の孫娘に連絡したわ。孫娘達にも戦ってもらうから、ローテーション変えるわよ、孝美」

「分かりました。孫娘って事は、お子さんは?」

「あいにく、娘の就職先は軍隊じゃなくてね」

スリーレイブンズの子供世代は、軍隊よりも新設の『自衛隊』に入る事が喜ばれる時代であったのと、スリーレイブンズに素養がある姪が生まれなかった事などにより、武子の子『明子』も自衛隊に行った。当時は軍隊に行くことが異端視されたからだが、ベトナム戦争によりその風潮は終わり、剴子などの新世代の活躍も軍隊の復権に繋がった。これは戦争が20年近く続いた事による厭戦の風潮があったからだが、ベトナム戦争がそれに終止符を打つ。

「ああ、50年代に出来るという……」

「そう。そっちの方に行ってね。孫娘が私の後を継いでくれたからよかったわ」

武子は子供や孫を溺愛しており、私生活では親バカである。その点が意外そうに部下に取られており、武子の人気の一翼を担っていた。

「報告書はこちらに置いてよろしいですか」

「ああ、ごめんなさいね。机に置いといて。後で目を通すわ」

「了解です」

「さて、これでウチの人員問題は半分解決出来たな。孫っ子、さっそく揉んでやる、来い」

「大先生、お手柔らかに……」

翼を訓練場に連れて行く赤松。それに苦笑いの武子と孝美Aだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.