外伝2『太平洋戦争編』
八十二話『誕生、日本連邦』


――今回、山本五十六の発案で『日本連邦』の樹立が提案され、様々な問題の解決に繋がると踏んだ日本政府は2014年に同意し、水面下で準備に入っていた。懸念されたのが、日本の野党は扶桑軍の解体による『自衛隊への軍事組織の一本化と軍人のリストラ』を主張する事で、当時、215個師団約600万人の陸軍力と100万トン約300万人の海軍力を誇っていた扶桑軍を全て解体するのは非効率であり、東西ドイツの時のような『歪み』を生み出し、裏社会の伸長を促してしまう。そこで考え出されたのは上部組織を一本化はするが、部隊そのものは別個に維持する事だった。これは海上自衛隊には重巡以上の大型戦闘艦艇の運用ノウハウはもはや存在せず、軍事的に過去の遺物となっていた戦艦、重巡洋艦などの大型戦闘艦を自衛隊の戦闘ネットワークに組み込むのには、膨大な費用が予想されたし、双方のどちらかに統一しても、どちらかが反発する(例えば、海上自衛隊を扶桑皇国海軍に編入すると、海上自衛隊員であることにアイデンティティを持つ隊員らの反発は容易に想像できる)のは目に見えて明らかである。(東ドイツ軍の元軍人の例を見ても明らか)現実的なのは、『上部指揮組織は統一するが、各組織が別個に存続する』という選択だった。これは海上自衛隊隊員が重巡洋艦以上の大型戦闘艦という分野の訓練を積んでいない事なども大きく関係しており、戦艦、空母、重巡洋艦というわかりやすい力を持つ艦隊を、元来の海自と別個に置くことで、野党からの批判を躱す狙いが有るのと、脅威と相対する事になる中国、ロシアへの言い訳、それとアメリカとの日米安全保障条約維持のための方便だった。――


――日本連邦国軍(陸海空自衛隊と陸海空扶桑皇国軍の指揮系統統一による共同軍)は、扶桑皇国軍の世界二位とも謳われる軍事力に三自衛隊をまるごと加えたもので、21世紀の世界では、アメリカ、中国に次ぐ総合的軍事力(戦艦十隻以上保有という観点では、21世紀世界では最高だが)の巨大な外征型軍隊と変貌を遂げた。扶桑軍の有した旧式兵器が多いので、額面上ほどは強力ではないが、それでも、扶桑軍の国家正規軍同士の衝突を前提にした兵力は、数の削減が日本国内からも叫ばれた。明らかに21世紀の水準では過大だったからだが、元々、扶桑はウィッチ世界の安全保障を担う立場に置かれており、そのために膨大な陸軍を有していたのだ。加えて、統一時の扶桑陸軍の兵力は23世紀地球連邦軍が手を入れて、機械化で数万は減らしての数であった。従って、機械化は1946年時点で相当に進展しており、陸自の幹部が『ウチより豪華やん!』と涙目になるほどの豪華さだった。これはダイ・アナザー・デイ作戦が成功裏に終わり、来る太平洋戦争を見込んで、急いで整備していたためである。23世紀からの援助が入っていたが故の大幅な機械化だが、それでも、兵力が600万人というのは、自衛隊を驚かせた。しかもその内の数割は、ウィッチ出身、もしくは現役のウィッチである女性軍人で、若い者で12、年長でも30に達していないというのも驚きであった。この扶桑三軍にいるウィッチ達の内、若年兵をどうするかが問題だった。ウィッチの常識では、古参になる17歳以上は成人と扱っていいが、若年の12歳から15歳が問題となった。前史では、未成年を理由に、日本が圧力をかけて、それらの年齢のウィッチを軍から放逐した事が問題になったので、今回は先手を打ち、予め、軍学校に再入学させていた。だが、それでも野党がうるさく言うことへの対策に、工科学校に幼年学校を移行させ、飛行学校を新設し、体裁を整えた。幕僚本部会議の扶桑側の中核を担うのは、当時に軍に在籍しており、扶桑海事変での実戦経験を有する北郷や江藤と言った大佐級の将校で、前史では、戦争中は参謀という名のお茶くみだったのに比較すると、江藤と北郷は幸せだった。作戦に関われるからだ――



――特に江藤は着任前、電話で山下大将、赤松、若松、山本五十六、源田実、栗林中将、今村大将から連チャンで『政治屋は水商売と同じ』という考えを表に出すなと釘を刺されている。(同じ陸軍の先輩の若松からは、『馬鹿なこと言うと、積尸気冥界波で黄泉比良坂に落とすぞ、小僧!』と脅されている)江藤は扶桑海でグダグダな戦争指導しかできなかった政府に不信を抱いており、それで一度は軍を去った経緯があるためだが、軍国主義と取られかねないため、元部下のレイブンズはヒヤヒヤモノであり、江藤の処理は赤松と若松のダブル最古参に頼んでいる有様だった。江藤は頑固であるため、江藤が押し黙るほどの権威を持つ将校らが電話で注意したが、当人は脅しも散々にかけられたため、げんなり状態だった。トドメは、黒江が『神様が全知全能なら人間がこんな苦労するかい!私らだって神の一角だと理解して貰えば、現人神だってまちがいが有るから、内閣という補佐をもって国を治めているんだ、そして彼ら政治家の決定がお上の意思としておこなわれる、それに背くのはお上の言葉に背く事になるんすよ…?』と、できるだけの絶対零度の視線で最後通告を行った事だった。流石の江藤も戦慄するほどに冷たい視線であり、背筋が凍てつくほどに恐ろしい『目』だった――

「く、黒江……。お前……」

「隊長、貴方だから注意しに来たんですよ……?若松の姐さんに言われたでしょ?黄泉比良坂に落とすと」


「扶桑神話からして、失敗作から始まったの尋常小学校で習ったでしょ?」

「あ、ああ……!」

江藤が冷や汗タラタラなのは、極めて珍しい光景だった。しかも元部下に醜態と言える姿を見せるあたり、平静を保てていない証拠だった。


「隊長、あん時の事で不信持ってるのは分かりますけど、隊長ともあろう人が……ねぇ。言っときます。……神様が全知全能なら人間がこんな苦労するかい!私らだって神の一角だと理解して貰えば、現人神だってまちがいが有るから、内閣という補佐をもって国を治めているんだ、そして彼ら政治家の決定がお上の意思としておこなわれる、それに背くのはお上の言葉に背く事になるんすよ…?」

「……それが文民統制なのか……?黒江」

「この国では、ね。お上も望まれておられることです。それと、見せたいものがあります」

「見せたいもの?」

頷く。すると、空中元素固定能力で肉体と服を再構築し、別人の容姿を取る。人種すら変化しての。今回は『ガンスリ○ガー・ガール』のトリエラの容姿を取ってみせた。(その漫画は、ルッキーニが孫の名を考えている時に手に取り、そのままつけたというオチがある)

「く、黒江……その姿は……?」

「私の現人神としての力で、肉体を作り変えたんですよ。原子の単位でね」

ツインテール、褐色肌で長い金髪と、黒江の本来の容姿とはかけ離れた姿。『ミドルティーンくらいの欧州系の少女』と言ったほうが正しいほど、黒江の姿は別人と化していた。更に空中元素固定で、P230を生成しても見せた。(黒江は同漫画を、『のび太に買ってやる』体裁で連載終了まで追いかけており、その関係でルッキーニにも読ませており、ルッキーニの孫娘の名が『トリエラ』なのは、それが本当の理由である)

「別人でしょ?まるっきり」

「お前……その力が……」

「神としての能力っす。今はもう、肉体は自分の魂を収めておく容れ物、現世で行動するための道具に過ぎないですから」

「本当に神様になっちまったってか……。お前だけなのか?」

「いえ、ケイと智子の奴も同様です。この写真にそれぞれ写ってるのが二人です」

「!?」

「オペレーションラグーンの時のケイと、非合法活動してる時の智子です」

レヴィの外見で二丁拳銃撃ちまくりのケイ、『バラライカ』の外見で仲間と落ち合い、話をしている際の智子。智子は元が元なので、まったく結びつかないほど『女傑』の雰囲気ムンムンである。

「加東は元から二丁拳銃でヤンチャするからわかるが、穴拭はなんだ?オラーシャ系の『大物マフィア』っぽい姿をしおってからに」

「それっぽいでしょ?あいつ、元が元だから、見かけで行こうって」

「この火傷も人為的に?」

「ええ。それは好きにできますからね。ケイもタトゥーあるでしょ?」

「うーむ……。まるで中華系リベリオン人だぞ?この外見」

「モデルが漫画の中の人物だから、非合法行動の時は重宝してますよ」

黒江達の取る姿は、日本で人気のある青年漫画の登場人物を模している。アニメ化している漫画であるので、使う声もそれに合わすなど、三人は几帳面だった。圭子は転生後の素がレヴィに近いため、一番自然に演じられるが、元がアレな智子は結構な苦労があり、『大尉殿』と呼びかけられるのに慣れる訓練も行った。黒江が最も姿の使い分けが激しい方で、調、トリエラなど、日本連邦結成時には、変身でツインテールの属性に挑んでいるようである。(フェイトもかつてはツインテールだったが、さすがにフェイトから止められた)

「今回の連邦結成は誰が仕組んだ?」

「山本のおっちゃんですよ。おっちゃんの発案で、日本を戦争当事国に引きずり込んで、日本の内部にいる反政府勢力を叩くために。日本は難色を示しましたが、皇統の継承問題、少子高齢化社会、行き詰った経済……他国にペコペコする外交の解決を選んだんです」

日本は21世紀時点では、『先進国が行き着く終わり』のモデルケースのような窮状にあった。それを解決し、二次大戦の敗者という枷から逃れるため、藁にもすがる思いで山本五十六の提案を飲んだのだ。21世紀を生きる日本の青年層から壮年層は、かつての右肩上がりの時代が終わった後に青春時代を送った層であり、第二次世界大戦を経験した者の孫、もしくは曾孫世代にあたる。そのため、『第二次世界大戦の罪は自分達の原罪』とされる事に嫌気が差している。その事も連邦結成の追い風となったが、当時の老年層の内の比較的若年に位置する層ほど、的外れな批判を繰り返した。老年層の年長世代にあたる、2015年時点の100歳代から80後半世代は『戦前の日本への郷愁』が残っており、連邦結成には好意的だった。戦後世代の内、老年層に入ってきた世代は戦後教育を濃厚に受けた事もあり、親がバリバリの戦中〜戦前派である家に育った者を除いても、その少なからずが『戦後日本を守る!戦前回帰は認めない!』と連邦結成に反対した。だが、実際には扶桑は大正デモクラシーが昭和期でも継続し、東條英機は短期間で失脚した歴史で、大正の文化が生きている国だったため、的外れな批判に終わった。結果、日本の国民投票で1970年代以後生まれの世代が賛成に票を投じ、老年年長組も賛成だったため、世代別に見ると、老年年中組、若年組が浮く形となった。結果、かつてのバブルを清算するため、壮年層以前の層は扶桑との連合を選んだ事になる。それほどバブル崩壊の影響が尾を引いていたという事であり、その煽りを受けた世代が『血の献身をしてでも、少子高齢化社会の解消と昭和期の活力を取り戻せるのなら』と、実を取ったために実現した。最も、70年代生まれでも、バブル崩壊以後に就職した世代と、それ以前に成人した世代で経験に開きもあり、好景気を過ごした時間が短い80年代生まれが存在感を見せた。

「日本は平和主義だった70年がありますから、世界の安全保障を担う立場を嫌がるのもわかりますがね。アメリカが腰抜かしてますよ。インペリアル・ジャパンの再来だと」

「インペリアル?」

「日本は1945年まで『大日本帝国』を名乗っていたんですよ。戦後はその歴史に半分蓋して生きてきたが、それも経済の行き詰りと少子高齢化社会で限界になった」

「経済至上主義の限界か」

「そうです。金の力で安全を買って、経済に邁進しても、100年も持たなかった。日本人は若いほどそれを実感してます」

「矛盾だな。世界は甘くはないというのに」

「海外進出と経済が大きくなる進むにつれ、自衛隊を拡充してきたけど、日本には第二次世界大戦の罪をネチネチ言い続ける隣国がいたし、国内でも再軍備を軍国主義の再来と言って議論すら封じ込めてきた連中がいる。それを解決するために、韓国が無力化し、ウチとの国交ができて10年経ったタイミングを千載一遇の好機と見たんでしょう」


黒江のいう通り、日本は連邦結成で自らの抱える問題を解決し、合法的に大日本帝国時代の『文字通りの列強』の立場を取り戻そうとし、扶桑との連邦国家結成を選んだ。最も、中国の強大化に対抗する意図も多分にあり、表立って自衛隊を拡大はできないため、扶桑の軍事力を使うことで、その問題を解決しようとしたのだ。最も、戦艦の大戦中のような保有数は日本側から疑問が大きく、日本の軍事評論家の間でも意見が割れるほどだった。扶桑は戦艦を二桁維持しており、その多数が大和型戦艦であることも、日本財務省や野党からの批判の的になってもいる。敵国であるリベリオン本国側が戦艦をモンタナ級とアイオワ級、サウスダコタ級を保有している現状を顧みないのも、彼らの特徴だった。

「日本の役人や野党は自分達の常識で考えるから、困ったもんですがね。潜水艦はミサイル搭載艦があるだろって言ったって、自分達だって持ってない、ミノフスキー粒子で有効性が下がってるんのは言えないし、ミサイル搭載型潜水艦。それにウイッチ閥がいるってのを考えてない」

ウィッチ世界では、ミサイル搭載型潜水艦はウィッチ閥からの猛反対(ウィッチ母艦で有るべしという思想から)、ミサイルの必中性がミノフスキー粒子で失われている、水中MSの存在などもあり、敢えて持つ意義はない。むしろ求められているのは、『ウィッチや水中MSを運用整備できる潜水空母』であったりする。伊400潜型もその目的で使用されていたが、日本からは『静粛性』を理由に増勢廃止が強く提言されている。そのため、攻撃型潜水艦の整備が推し進められ、旧来の伊号潜ではなく、戦後型のおやしお型潜水艦であったりする。輸出にそうりゅう型潜水艦も検討されたが、日本側の最新鋭艦であった都合、背広組が却下している。理由は『新鋭艦を40年代の間抜け共が作れるか!あいつらは潜水艦のなんたるかも知らぬ間抜け共だぞ!』と背広組の大物が怒鳴り散らしたからだが、実際は、造船関係からは『伊400出来るなら建造出来るだろ、工員の研修をこっちで1隻やれば良い位だよ』と返答された事で、背広組は唖然としたが、そうりゅう型潜水艦がオーストラリアに売れなかった上、扶桑での商機を失いたくないが、技術流出を異常に恐れた。しかし造れると判明した後、自分達の面子が潰れるのを恐れた背広組は、おやしお型潜水艦(二代)でお茶を濁す事とした。商談を潰しかけたため、今更、輸出許可を出すと、メンツ丸つぶれなためだ。制服組はその経緯に冷笑したという。そうりゅう型潜水艦の輸出許可は結局、総理大臣の決定で、戦時中の1948年に出され、戦争後半に活躍することになる。

「日本は本当、戦争のアマチュアだな」

「私らもあまり笑える状況でもありませんがね。向こうと違って、日清戦争、日露戦争、日中戦争を経験したわけでもないですし」

「たしかに、我々が戦争を本当に経験したのはここ数年の事だが、かなり濃厚だと思うぞ。安土時代からの対人戦争の空白を埋めるくらいには」

「その代わりの歪みも出てますけどね。私らと若手との間に相克がありましたし、今は私らがウィッチ部隊を回してるようなもんですよ」

トリエラの外見で言う黒江。服装もトリエラが作中で着ていたものにしているという、妙なこだわりも見ものである。トリエラは、作中で『義体』と呼ばれる一種の消耗品のようなサイボーグであった故、報われたものの、必然的な最期を迎えた。黒江はキャラに思い入れがあったらしく、ガンスリ○ガー・ガールのキャラの容姿を取る時は、トリエラを選んでいる。

「お前、その能力を非合法活動に使っているとは?」

「裏稼業ですよ。暗殺とかのスパイ活動。一応、情報部にも顔効くんで」

「お前、元は航空兵だろ?そこまで手を出す必要があるのか?」

「聖闘士してる時点で、そんなの今更ですよ。ウィッチ部隊はグリーンベレーだかネイビーシールズみたいな『特殊部隊』になるしか、生き残る道はない。だから、船舶免許とか、大型特殊免許、二輪免許、もちろん、普通自動車免許も取りましたよ」

黒江は、勉強をやり込むタイプなのか、日本で乗り物関連の免許はあらかた取得している。更に、危険物取扱者試験も合格するという徹底ぶりで、その気になれば破壊工作員にも転職可能である。

「お前、向こうの空自にも籍あったな?どうなるんだ、それは?」

「双方の組織の任務に加わる資格を持つ事で落ち着くでしょうね。軍籍は連邦化で統一されるだろうし、双方の行き交いも積極的になるから、自衛隊の任務に参加することも増えるでしょうね」


その通り、国体の統一で自衛官も扶桑皇国の作戦に駆り出される代わりに、皇国軍人も自衛隊の作戦に駆り出される事は決められている。ただし、国民の不満が無いわけではない。日本連邦は通常軍事力は高い水準に飛躍しつつも、核戦力がないなどを理由に、日米安全保障条約を継続した。これは通常兵力は上がったものの、核戦力は無いからだ。(23世紀の記録でも、日米安全保障条約の解消は統合戦争最終盤のこと)連邦結成で、日米安全保障条約の解消を期待した者達の不満となったが、現実問題、核の傘から抜ける事はいくら通常軍事力が増えても、選択肢としてはあり得ないし、アメリカにいきなり喧嘩を売ると言うのも愚の骨頂。従って、日米安全保障条約は当面の間は存続しつつ、在日米軍の規模は縮小を目指すという現実的な案が採択された。これは沖縄県などの反感を買ったが、扶桑の沖縄県は、史実ほどの軍事的要所でないため、琉球王朝当時の面影が残っている。それに目をつけた者の多くが扶桑の沖縄県に移住していく。また、広島県でも、原爆で消えた中島地区の残る扶桑に、日本の中島地区の元住民やその子孫らが移住を選んだ事もあり、住民の入れ替わりが少なからず起こった。

「住民も入れ替わりが起こります。こっちには、原爆で消えた市街地が無傷であるし、大空襲で被災する前の東京が再開発途上とは言え、残っている。郷愁を煽られた老年世代の日本人がこっちに来てるし、こっちの東京にはまだそれほどない摩天楼に憧れて、日本に行く連中もいる。ややこしいけど、これがベターな共存共栄の方法ですよ、隊長」

「共存共栄、か。扶桑の持つ誇りが、日本に感染ってくれればいいが」

「23世紀の連邦がその証明ですよ。色々と時空のなんやらでややこしいですけど。それじゃ」

「あ、待て!その姿で何処行く気だ」

「式典っす。ルッキーニが風邪引いて寝込んでるから、その代理で」

「お、おい、お前、扶桑……いや、日本人だろ?」

「この姿なら、どこからどう見てもロマーニャ人ですから大丈夫ですって」

なんと、黒江、当時に中尉に昇進し、ロマーニャのマリア王女の親友として式典に参加予定だったルッキーニが『風邪で寝込んだ』ため、その代理で、トリエラの姿で参加すると伝えた。(自分の代理は黒田にやらせた)そのため、ロマーニャ軍の男性軍人用の軍服を着込んでの参加となり、(階級章も大佐)『マリア王女個人の護衛』との方弁で言い繕って、まんまと式典会場で21世紀の欧州の首脳らと語り合う(マルチリンガルであるため、イタリア語や英語などを用いた)豪胆さを見せ、その模様をTVで見ていた江藤をハラハラさせた。また、日本の総理とも、その姿で語らい、ロマーニャ軍人を見事に演じきった。アカデミー賞ものの演技だったと、黒田は語る。生粋のロマーニャ人を演じきれるあたり、もしも女優になっていても一流になれただろうとは、黒田の談。英才教育が思いもよらないところで役立ち、黒江はその演技力が高く評価され、47年にはやはり、圭子の著書の映画化の際の主役に抜擢(長兄の要望)され、ヒットを飛ばし、今回は父のガンの早期発見が叶い、治療が受けられた事もあり、母親の要望に答え、大戦後、イアン・フレミング原作『007シリーズ』のボ○ドガールを演じたのだった。(今回は父親がガンから助かった事もあり、精神的に安定したため、母親が謝る形で和解し、母親の謝罪を受け入れた。戦後、女優業を副業にするのは、父親が『母さんの願いを叶えてあげなさい』と諭したからだった)今回において、黒江は軍人/女優を扶桑での稼業にし、親の存命中はそれを通したという。(マルチリンガルである事、軍人である事から、外人役もこなせたために重宝された)



――こうして、誕生した日本連邦はアメリカに匹敵する人口(日本の一億数千万と扶桑の一億数千万が合わさった)、大日本帝国時代の海軍力、日本の科学力を併せ持つ強力な国家である。扶桑の若年層が加わった事で、少子高齢化社会も解決に向かい、経済も持ち直し始める。問題は軍事に対しての双方の意識の違いで、扶桑は生き残るために強大な軍事力の維持は必須と考え、日本は強大な軍事力よりも経済力を志向する考えが存在するためだ。日本人は長年の平和で軍事軽視傾向が学園都市の戦争を経ても存在している。そのため、扶桑軍の軍備の処遇は政府間の取り決めで『別個に管理する』事が発表されても、『空母と戦艦の全解体』を主張する無知な市民団体は存在する。戦艦については『軍国主義の象徴』と言って。もちろん、扶桑軍は『我々の前にアメリカやロシア、中国で言ってらっしゃい』と相手にせず、むしろオラーシャ衰退の原因となった策謀を暗に示し、彼らを霧散させた。ロマノフ王朝を滅亡させそうになった事に関連し、日本の野党に苦言を呈したのだ。特に、共産党はソビエト連邦の樹立がその誕生のきっかけであるため、ウィッチ世界で『スターリンがいないなら、マシなソビエト連邦ができる』と、裏で革命勢力を援助していた事実が判明すると、しらばっくれて逃れようとした。連邦結成に反対したのは、自分達の非合法化を恐れたからでもあるが、こうした事情もあった。彼らは『一部党員の暴走であり……』と声明を発表し、生き残りを図った。だが、オラーシャから『ウィッチの虐殺を、明らかに我々の拷問よりも遥かにエグい行為で楽しんでいた』と報告がされた事で、犯罪にあたることを行った人物を特定し、組織として維持出来ない様にされ、共産党は政党として合法的な死を迎えるのだった。



――この連邦の樹立に触発され、同じ島国のイギリスもブリタニアと連邦を組むことを検討し始める。ブリタニアは末期の大英帝国そのものであり、英国が世界の超大国であり続けるのを望まれている世界だ。英国は既に日が沈んで久しい国だが、ウィッチ世界で覇者の地位に有るブリタニアと一体になれば、アメリカに伍する影響力を取り戻せる。更にイギリスには史実の失敗という経験がある。時のイギリス首相はウィンストン・チャーチルに接近し、日本と同様に連邦を樹立する事を打診し、チャーチルも了承する。また、扶武同盟の恩恵で自動的に第二次日英同盟が結ばれた事も、ブリタニアと英国の一体化の機運となる。ゲートが旧・スカパフローに設置され、そこからブリタニア主力戦艦『セント・ジョージ』が現れ、英国を訪問した事も一つの契機となった。史実では泡となって消えた『改ライオン級』、それも大和に引けを取らない艦容で。チャーチルのこだわりが、ここで実を結んだ。排水量も大和と互角、攻撃力・防御力も大和に匹敵しうる。これが同級完成時の海軍のセールストークである。実戦で問題視された『艦橋装甲の薄さ』も解消されており、イギリスの設計思想で言えば、キング・ジョージより前の世代の思想へ回帰している。水中防御力も改善されたため、イギリス系戦艦としては『一番マシな総合力』と評価された。更に改良された型である、本国艦隊旗艦『アイアン・デューク』が表敬訪問に現れた時は大歓迎された。ブリタニア最新最強の戦艦は、日米戦艦に引けを取らない艦容であり、世界最強の艦の一つに数えられるというのも感動モノだった。日米の戦艦の強大さに置いてけぼりを食らった感の強いイギリスも、その気になれば60000トンを超える大艦巨砲を造れる。同艦の華麗な登場は、既に失って久しい海洋王国、大英帝国の誇りを呼び覚ますのに充分な効果を見せた。ユニオンジャックを翻し、大和と肩を並べるその勇姿に、時のアメリカ大統領は『SHIT!SHIT!SHIT!』とSHITを連発し、大いに悔しがり、家族には『ガッデム!ガッデマー!!ガッテメストォォ!!』と、髪をクチャクチャにしながらヒステリックに叫び、モンタナの設計を基にした戦艦の新造を『ズムウォルト級駆逐艦の代替プラン』として計画させ、本当に起工させたのだった。これは23世紀の記録において、米軍の『勇気ある追跡』として、当代の人間たち(21世紀)に笑われたという。その艦は艦砲射撃がズムウォルトよりもむしろ好評で、戦艦という古典的な艦種である事がプラスに働き、ズムウォルトの存在意義をアーレイ・バーク級の発達が奪った事も考えれば、大成功だったという。この艦は前史での『新モンタナ』に相当するため、黒江は『モンタナの忘れ形見』と呼んだという。設計もモンタナのそれを元にしている事からも、モンタナの直接の子孫と見なされた。主砲は亡命リベリオンから砲塔技術をもらい、製造するものなので、大和に比べると格落ち感は否めない。資料の発掘、ノウハウの再取得なども入ったため、建造費そのものは高い。亡命リベリオンからの技術提供と自己の資料の発掘で済んだものの、ズムウォルト級とはどっこいである。しかし、戦艦はズムウォルトほどに求められる機能は多くないため、その点から確実性はあり、歓迎された。重装甲が施されるため、それも映画の影響で人気だった。2017年の駆逐艦とタンカーの衝突事故で装甲の存在が見直された(と、いうより、軍艦=重装甲と思っていた人々の先入観)事もあり、同級はズムウォルト級の代打として、ベース艦のモンタナとほぼ同じ数が、2030年代初頭にかけて、ゆっくりと建艦されていくのだった。こうした事故が戦艦の復活に大義名分を与え、日本連邦に続けとする、軍事的風潮を生み出したという点で、核兵器廃絶を目指す者達からも『戦艦の復活は歓迎する』とされたのだった。――



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