外伝2『太平洋戦争編』
九十八話『扶桑皇国の反撃準備』


――扶桑皇国の軍事的混乱は日本の持つ、ある種のトラウマによって引き起こされた。21世紀の規格で製造された四式中戦車の改善型は日本の規格で製造されているため、連合軍の規格とこれまた違う(21世紀の軍事規格には基づいているが)ため、これまたパニックを引き起こした。旧軍の規格とも、連合軍の規格とも違う21世紀の規格で造られた四式は確かに自衛隊や米軍の規格には適合していたが、1945年の連合軍の規格とは異なっていたため、砲弾は新規に調達せねばならなかった。(なんと、事もあろうに主砲部が新規に製造されたAPDS使用前提の砲塔だったため、扶桑の既存の75ミリ砲弾が流用できなかったのだ。これは三菱重工業のエンジニア達が扶桑の砲弾製造技術の精度を不安視したためで、変なところで21世紀の技術を入れてしまったための混乱だった。扶桑用という割には攻撃面ではオーバースペック気味である――

「何ぃ、日本が送ってきたチト改の砲の口径が90ミリで、滑腔砲になってるだと!?それじゃ、余ってる砲弾が使えないじゃないか!」

空母の甲板上で配下の幹部自衛官から連絡が入った黒江は素っ頓狂な声を上げた。これはライフル砲が自衛隊では特科以外は使わなくなってきており、16式機動戦闘車の存廃が心配された事もあったのと、新規に砲を製造するにあたり、自衛隊で一番古かった61式戦車と規格を統一したため、扶桑が備蓄していた『四式七糎半高射砲』ベースの四式七糎半戦車砲(長)II型の砲弾は無駄になってしまった事になる。これは日本側にリベリオン軍が装備する最新の戦車がM48と伝えられていた事で、エンジニア達が『四式七糎半戦車砲(長)II型はもはや役に立たない』と判断し、現場の判断で自衛隊式の『61式52口径90mm戦車砲』に砲を変え、車体の主要パーツのみを扶桑製にしたという裏事情があった。これは扶桑の思惑とは違った結果だが、日本は74式のコピーがある以上、四式の改善型はそれほど長く使えないと判断した。そのため、四式改は五式改とは規格が合うが、扶桑のチトとは完全互換ではないという本末転倒な結果を招いた。その為、備蓄していた砲弾を処理するため、四式七糎半高射砲が戦地での高射砲として再生産されるという顛末となった。

「そうなんですよ。三菱に問い合わせたら、エンジニア達が『すぐに陳腐化して生産中止となるのは作る意味が無い』と言ったそうですが」

「備蓄した砲弾の処理が目的と言ったはずだよな」

「ええ。元になった高射砲の方を再生産すれば良いと」

「財務省へのご機嫌取りしてる時でもないだろう。……陸軍への説明を頼む。五式改の生産を継続しないといかんことになったと」

「分かりました」

「パーツの共有率は?」

「砲塔部は完全新造ですので、流用されたのは車体のパーツだけです。むしろ五式改のほうがバッチリです」

「やれやれ。規格統一を意識しすぎだ。これじゃ廉価どころか、61式の再生産に等しい価格だ」

三菱重工業のエンジニアたちは扶桑の思惑とは裏腹に、『61式をチトのパーツで作ったと言うべき車両』を作ってしまったという報に、黒江は思わず、頭の上で閑古鳥が鳴いてしまった。この報は扶桑を砲弾の在庫処理に悩ませる事になり、兵站面では混乱を助長した。これも日本の財務省が軍事費の増大を如何に嫌がっているかの証明だった。結果としては装甲部隊の近代化には役に立ったが、扶桑の在庫整理の思惑は外れた事になる。また、LST-1級戦車揚陸艦をベースに建艦されていた『第百一号型輸送艦』では性能不足とされ、『デ・ソト・カウンティ級戦車揚陸艦』ベースの廉価型、おおすみ型輸送艦の扶桑向けの増産などが行われている。それらが出揃うまで本格的な攻勢は見送られ、戦線への配備はアメリカ軍のC-5、扶桑がロシア軍から設計図などを買い取った『An-225』などが主に使用されている。無論、第百一号型輸送艦もフル稼働していたが、二次大戦型戦車を運ぶ事が前提の船体では、MBTの重量への耐久性が不安視され、物資輸送のみに使われていた。これは速度が遅すぎたせいだが、ウィッチ輸送では問題視されていなかった。これは速度がLSTでは遅すぎ、古臭い事が指摘されかねず、仕方がないので、自衛隊の有する中で最新のおおすみ型輸送艦を選定した経緯がある。日本の財務省は良くも悪くもこうした事情に無知なのである。

「扶桑の既存の輸送艦は61式程度の重さの車体も運べないとケチがつけられましたからね。新規に作ると、どの道、攻勢の予定は1950年代ですね」

「やれやれ。リベリオン本土に進出しないと屈伏しないからって、戦後第二世代型、いや、第三世代型戦車で第二次世界大戦型を蹂躙でもするつもりか?」

「そのようです。第二次世界大戦型からまだ奴さんは切り替えきっていないというのに」

「やれやれ。日本の自前の第二次世界大戦型兵器への信頼度の低さは異常だな。航空機も、烈風や紫電改が680キロ以上出しても『P-51Hは〜、ベアキャットは〜、シーフューリーは〜』だ。宮菱や山西、川滝、長島が泣いてるぞ」

「耳が痛いですな。紫電改も疾風も烈風も、高オクタン価ガソリンと推力式単排気管、ファインチューンを施せば、720は軽いはずですがね、専門家の間では『格闘戦至上主義の日本機がそんなに速い速度を出せるはずはない。カタログスペックを盛っている』とまで聞かれます。彼らは日本機のプロペラ関連技術が第一次世界大戦の時の水準のままだった事を誹っています」

「最新技術を使っても、戦線で整備出来なきゃ意味がないんだぞ、本当はな」

黒江はレシプロストライカーでは、キ84ではなく、既存技術の集大成のキ100を最後の愛機としていた。未来世界で使用したところ、不具合が発生する不良個体であった事から、キ100に機種変更した経緯がある。また、長島飛行機はキ84を急速に量産した影響で戦線の整備員の教育や工場工員の育成などが追いついておらず、マ45エンジンの不良なども続出。マ43エンジンへの搭載エンジンの切り替えが終わる頃には、更なる次世代機の『旭光』が普及しだしていたという悲劇がある。その事を教える。実際、ジェット機を矢継ぎ早に与えたところで、扶桑軍全体が扱えるわけではないのだ。

「ストライカーの疾風なんて、あまり普及しない内に次の世代や既存の集大成が出ちまったから、実機の半分以下しか生産されないまま中止だぜ?配備予定部隊にも満足に行き渡らない内に、だ。中止の理由は未来世界や財務省の横槍だ。メーカーは今でも愚痴ってるよ。『MATは値段を値切って来る』って」

「財務省はMATにも懐疑的ですからな。害獣駆除専門部署であり、そのために10代の少女を世界各国から受け入れるなど」

「ウィッチは本来、10代の女性の特権のようなものだったからな。男のウィッチは日本で確認されるまで伝説の存在でしかなかったし、特権階級って意識があったんだよ。だから、今、軍部で『浮いてる』んだよ」

黒江自身、転生の経験でウィッチを特権階級と考えるつもりはなかったが、多くのウィッチは特権階級的な振る舞いから、航空/陸戦を問わず、反感がかなりあった。その内の実例と言える、ミーナの覚醒前に作っていた『整備員はウィッチと接触禁』の規則は今回は坂本とシャーリーが裏で整備員を宥めており、黒江達が自分達の持つ特権で本格的に有名無実化させ、当人の覚醒がとどめとなり、遂に規則文からもそれは消えている。ミーナは覚醒後は覚醒前の自分を『青二才だった』と評するほど、西住まほの気質に目覚めており、一転して質実剛健なカールスラント軍人になっている。実質、覚醒で西住まほとしての部分が覚醒めたといっていい。当時はウィッチの人との戦いへの忌避感がかなり強く、この時期から1960年前半までがMATの人員的な絶頂期である。組織自体は存続するが、ベトナム戦争後はMATの組織自体が縮小傾向になり、設立当時の七個飛行大隊から三個大隊にまで年月と共に縮小してゆく。21世紀になると、怪異の減少で存廃も議論されるが、良心的兵役拒否者などの『世間体を取り繕える舞台』としての観点から、前史と違った歴史を刻んでゆく。


「MATは今が絶頂だろう。歴史の流れで言えば、今度はベトナムだ。そこでベテランを失えば、あそこは組織的に衰退が始まる。21世紀まであるかどうか。若い連中のわがままに過ぎん理由で宮藤が手を回して作ったからなー。」

MATの辿る道はだいたい予測出来ているため、黒江は自衛隊での自らの副官へ極めて打算的かつ、冷ややかな調子で告げる。ゲッター線の増大で人々が進化すれば、星の免疫反応やもしれぬ怪異は鳴りを潜める。そうすればMATの存在意義は変化するしかないと。

「打算的ですな、統括官」

「あそこは今の若い連中のわがままを宮藤が聞き届けて、ウィッチの試験運用の名目で置かれた部署だからな。とりあえず、戦車での陸軍との折衝は任せる。今村大将閣下が手筈を整えてくださってる」

「了解致しました」

電話が切れる。黒江の副官は、黒江が20年近くの自衛官生活で築いた派閥の中の幹部であり、2018年では空将補である。黒江はほぼ20年の歳月を使い、自衛隊に自分の組織細胞を築き上げ、統括官就任後に活用している。今の黒江に取って、19年の歳月はどうということはないものであり、2000年代後半の苦難を思えば、報われたと考えていた。黒江にとって、2000年代後半は苦難の日々であったが、それ以降は一転して、統括官として自由な日々を送っている。基地祭などで調の姿になり始めたのは、訴訟を抱えていた時期のストレス解消のためでもあったが、好評であったので、2018年時点でも続けている。黒江がその当人に了承を得た時期は2010年代に入る頃であったが、当人もなんだかんだでアイドル活動には抵抗はないらしく、黒江と交代で基地祭で歌ったりしている。調当人も黒江の影響で、性格に熱血成分が増大したため、2010年代に放映されているアニメでのキャラも的外れでは無くなって来ている。




――黒江が統括官として、自衛隊で女傑として活躍している時期になると、のび太も成人し、既にノビスケも設けている。その時期になっても、調は2000年にのび太と交わした契を守り、ドラえもんがいなくなった後の野比家を守護している。のび太との擬似的な兄妹関係はのび太の入籍後も続いていたのだ。調は、のび太の成長で外見上の姿が逆転した、2004年以後は対外的にのび太の妹分として振る舞う事も多くなったが、2002年に合流した切歌が武者修行などで野比家にいない時も多いため、野比家の専任警護を続けている。奇しくも、それは武子の家の取り仕切り役を私生活で行う檜少尉にも似ている。野比家がマンションに移転した後は野比家の住む部屋の隣を警護のために買おうとしたが、ガランドがG機関支部としてフロアを買い取ってくれたので、野比家が移転したマンションの一棟はG機関やら地球連邦軍の21世紀支部に使用されるという珍事が起こってもいる。これはマンションのオーナーがG機関であり、立ち退きする野比家にガランドが格安で売り込んだ事も含めて全てがガランドに仕組まれていた。それをガランドから調に聞かされたのは、のび太達がお馴染みの一軒家から引っ越す前の年になる。のび太は地球連邦にとっての最重要人物であるので、のび太が成人する頃に学園都市が最盛期を迎える事も鑑み、野比家にマンションを売り込んだのだ。これらはのび太を、引いては世代交代した野比家を守るためのガランドの策であった。

――2018年――

「ああ、ガランド閣下ですか。静香です。主人があまり連絡を寄越さないもので。うちの子の事があるので、はい」

2018年。30歳を迎えた静香だが、子供の頃に冒険で度々時空を超えていた影響か、その容貌は依然として若々しい。12年に出産したノビスケも18年には6歳を迎え、腕白盛り。性格は父親に全く似ていないし、運動神経も父親と真逆だが、頭脳や容貌は少年期のび太に良く似ている。静香はこの頃にツインテールからポニーテールに髪型を変えており、のび太を『貴方』と呼ぶなどの既婚者として相応の変化を示している。静香が手を焼くノビスケは、のび作(戦国時代の野比家当主)からのび太までの歴代の野比家直系長男たちと異なり、ガキ大将である。体躯で勝っているが、気が弱いジャイアンの子『剛田ヤサシ』(ジャイチビ)とスネ夫の子『スネ樹』と『スネ太郎』をしごいている。これは源家の血が入ったためである。その事は小学校入学間もない時期と、時代故に学校から心配されたらしい。これはガキ大将がノビスケの時代だと死滅寸前である事や、時勢がガキ大将には辛い時代なのを反映している。

「ノビスケ君の事か。こちらでも情報は得ている。あの年頃は腕白盛り……と言いたいところだが、時代的にそうはいかんか。よし、我が機関が夏休みにしばらく預かろう。のび太には私が連絡を入れておく」

「お願いします」

こうして、ノビスケは低学年の内にG機関に預けられ、シゴカれたおかげで矯正され、乱暴さは鳴りを潜め、やがて10代後半時のジャイアンのような少年になっていく。また、この頃になると、ススキヶ原のチームもリーグに正式に組み込まれており、ノビスケはやがてそこに監督のジャイアンの勧めで入団、4番でエースとして君臨することになる。のび太達が子供の頃にジャイアンズ黄金期を築いた面々であるGウィッチ達やガイちゃんは年月の関係でコーチに就任している。部屋にある食器棚の上には、その時期に撮られた一枚が飾られている。日付は2001年のシーズン中になっていて、ガイちゃん、なのは(混ざるためにタイムふろしきを使用)、フェイト(同上)、菅野、西沢と言った若めのメンバーが中心になっている。この時のジャイアンズは魔球と絶対的な代打要員の存在もあり、黄金期を迎え、以後、ジャイアン達が中学を出るまで黄金期であった。のび太の生涯成績は目も当てられない打率、守備力でベンチウォーマーとも揶揄されたが、人脈で貢献したとされる。ジャイアンとスネ夫の長年の夢が実ったのは、スネ夫が父の会社を継ぎ、貿易業に手を広げて、ジャイアンが自分の店を経営するようになってからであるので、リーグに組み込まれたのはつい最近のことだと分かる。この頃には伝説めいて語られるが、ウィッチやガイちゃんの活躍はジャイアンズをも無敵にしたほどである。地域の子供達の憧れになったという点では、ガイちゃんの尽力あってのことである。暴君と言われるジャイアンを諌め、うまくチームを回したという点では、ガイちゃんは功労者である。そのため、ガイちゃんはジャイアンズの影の実力者として名を馳せた。ガイちゃんはコーチになるまでの数年間、ジャイアンズのエースピッチャーとしてマウンドに立ち続け、その数年間の成績はとあるプロ球団のスカウトが『女の子でなければ、我が球団にほしいくらいだ』と嘆くほどの成績で、ジャイアンが高校から大学までの苦労を重ねた時期の監督としても有名である。因みに、リーグが出来た後のスポンサーには『スーパージャイアン』(ジャイアンの経営するスーパー)、『骨川重工業』(スネ夫が自分の代で工業分野、貿易分野にも手を広げた。これは2011年の大震災で石巻にあった支社が大打撃を受けて多大な損失を被り、G機関が極秘裏に援助して持ちこたえさせたという経緯があり、スネ夫の家の会社はG機関の息がかかった。)、それとG機関の息がかかっているスポーツ用品メーカーが名を連ねている。ガイちゃんの政権下で二軍と女子チームも出来ており、かなりの変革があった事が分かる。その後は大学を出たジャイアンが監督に復帰している。ジャイアンは現在、息子のジャイチビを入れさせようとしているが、ジャイチビは体格は父親似だが、運動神経は鈍く、歴代の剛田家の中では異端児である。その事から、ジャイアンの奥さんは大人しめの人物らしいのが分かる(先祖代々、気が強い気質の女性が嫁入りする剛田家では異例中の異例である)。これは自分が気の強い母に苦労したからだろう。スネ夫は父親に家の再建を託された故に恋愛結婚ではなく、お見合い結婚であるが、それなりに夫婦仲はよく、二人の子を設けている。これが2018年でののび太達の現況だった。


――この頃には、玉子も50代後半となり、のび助も会社で重役に出世しており、のび助は隠居間近であった。それを証明するように、飾られている写真には、顔に皺が出来、白髪が目立ってきたのび助と玉子とのび太達のスナップがある。調や切歌はGウィッチに近しい存在へ覚醒したため、外見上は出会った時と殆ど変わりはないが、二人の背丈は年月とともに大きくなり、野比家に居着いて10年以上が経過した2018年時点で、調は160cm台前半、切歌が159cmほどに成長している。これは調に黒江の因子が加わった事で生じた事項で、当人としても驚きの成長だった。最終的に調が163cm、切歌が160cmに成長する。肉体の加齢が完全に止まった年齢がギリギリで成長期だったためである。切歌は武者修行で家を開ける事が多いため、この頃の野比家の取り仕切り役は相変わらず調であった。そのおかげで育児に余裕が生じた静香は、のび太の裏稼業を知っており、ノビスケの育児が一段落した段階で専業主婦をやめ、G機関に就職し、事実上の諜報部員となっている。これはのび太との結婚で、子供の頃の夢を諦めた形になったのに同情したのび太が、前々からガランドに頼んでいた事でもある。そのため、21世紀以降の野比家の住処となったマンションには、武器が以前同様に隠されている。日本連邦の体制下では、国民に扶桑人もいるため、厳格な許可制という形で銃火器の所持そのものは許可されたが、それまでの常識と、銃火器の値段の関係で日本ではあまり所持者はいない。のび太達が持っているのは、かつての戦いで得たもので、それをそのまま持っている。のび太は日本連邦の諜報部員でもあるので、許可が真っ先に出た一人である。静香も元々優れた運動神経があるので、かつての冒険のことを体が覚えているようで、射撃技能はそこそこある。その面がノビスケやセワシに受け継がれていったのだろう。また、意外にも静香は喧嘩に強い面があり、少女時代には、母親の目が届かないところでは、のび太をボコボコにした事も多い。静香は焼き芋好きであるが、清楚なイメージのダウンを恐れ、何回か悪気はないとはいえ、のび太とドラえもんをボコボコにしている。そのため、のび太は対策として、調が来てからは、調を介し、またある時は切歌を使っていた。公言しだすのは、2000年の冬に『ママやおばあちゃんの時代は焼き芋って女の子の好物の代表格だったんだって。しずかちゃんも好き?』と、自分が食べたいから何の気無しに聞いた事、偶然、調が焼き芋を食べているところを見た事で踏ん切りがついてからだ。その時にドラえもんが撮った一枚が飾られている。2018年までは色々とあったが、切歌が覚醒した事で、二人は公式に『年齢不詳』になり(肉体年齢は17歳程度)、聖闘士として独り立ちでき、調は次期天馬座を目されている。(しかし、元が白銀から分裂した聖衣であるので、そのままとなったが、調は箒が双子にコンバートした後の場繋ぎの射手座を目されている)また、20年近くものび太と共に生活した影響で、二人の戦闘力は格段に高まり、2018年では雪音クリスが嫉妬するほどのガン=カタを切歌であろうとも可能になっている。ケイ=レヴィが仕込んだのだ。その証明は先行して、調が次元震パニックの最中で見せた。響Bと切歌B、クリスBが転移してきた時だった。知らせを受けた調Aは圭子の指示で『拳銃使い(ガンスリンガー)』としての腕を試せと言われ、連邦軍の軍服姿のままで、三人の回収を兼ねた戦闘を行ってみせた。これはウィッチ世界の1948年の時点では、切歌はまだ武者修行中で、ガンスリンガーとして鍛えられていたのが調のみだった事による。


――ウィッチ世界の1948年――

三人が転移した場所は不運な事に最前線の十字砲火の真っ只中であり、三人の姿を目撃した自衛隊が64Fへ通報した。第二次世界大戦中の米軍と思しき軍隊がいきなり自分達に十字砲火を浴びせてきたので、三人は自衛のために応戦したが、一つのハンデがあった。切歌はLINKERを定期的に服用しなければならないため、長期戦は不利である。シンフォギアは現代兵器に有利に立ち回れるので、第二次世界大戦型兵器などは本来、どうという事はないはずであるが、ウィッチ達の攻撃は効くことなどから、苦戦を余儀なくされていた。中には身体能力向上に魔力全振りの海兵隊ウィッチもいたので、響B一人では限界があった。

「ハッ!!」

魔力で強化された蹴りはシンフォギアのバリア関係なしに響Bにダメージを与え、強力なシールドでクリスの援護射撃を封殺する。

「嘘だろ!?バリアで防ぎやがった!?」

「どうやら、俺たちを甘く見たようだな」

リベリオン海兵隊のウィッチは基本的に美人が多いのだが、切り込み部隊であるため、ウィッチとしては珍しく、対人訓練を濃密に受けていた。魔力によるシールドというアドバンテージもあり、身体能力の強化の観点では互角だが、正規軍人である彼女たちの攻撃はさしもの三人でも捌ききれなかった。しかも当時世界最強の切り込み部隊であったリベリオン海兵隊の猛者相手では、クリスは得意の銃撃に持ち込めずに苦戦し、切歌Bは得物の間合いの難しさ、モーションが大振りである事からすぐに見切られ、応戦もままならない。また、比較的容易に応戦した響Bも、ガンニグールのブーストパンチをも弾くシールドに驚き、隙が生じたところをM1ガーランドで思いっきり脇腹を殴られ、吹き飛ぶ。並大抵の攻撃は通さないはずのシンフォギアだが、魔力で強化された攻撃は防御フィールドを魔力の観点から無効化したらしく、響Bは肋骨が折れたらしく、のたうち回る。

「嘘だろ!?シンフォギアのバリアをあんな古くせえ銃で殴っただけで破りやかった!?」

驚愕するクリスB。不敵に笑う海兵隊員。M1ガーランドの銃剣は魔力光を帯びていた。それをクリスに突き立てようとする。クリスBはここで明確に幼少期のトラウマが蘇ったか、半狂乱になって火器を乱射するが、シールドで防がれたり、半狂乱状態で照準がまるで合っておらず、見当違いのところにガトリングガンを打つ有様だった。異変に気づいた切歌Bが援護に向かうが、身体能力強化特化タイプのウィッチの怪力で締め上げられ、悲鳴を上げる。響Bはその光景に怒り、立ち上がろうとするが、複数の肋骨が折れた痛みで動けない。更にそこに嬲るような攻撃がされ、元の世界ではおおよそありえない悪夢のような光景が展開される。この光景は響のトラウマを抉る光景であるので、暴走一歩手前までに至るものの、肋骨が折れ、更に魔力を帯びた銃剣が突き刺さった影響でそれが抑制されており、暴走に至るどころか、ほぼ無抵抗でなぶられてしまう。クリスはその光景に、幼少期に父母が死んだ時の記憶などのトラウマを呼び覚ましたか、暴走寸前に陥る。切歌の声も届かなかったが。銃声とともにクリスに銃剣を突き立てようとしたウィッチが崩れ落ちる。そして、目の前にいたのは。

「遅くなりました、先輩」

「お、お前……!?」

「説明は後です。こっちにも事情あるんで」

調Aが到着した。サイドアームはレヴィ(圭子)と違い、SIG220だ。軍服に緑と白線のマフラーをしており、Bとの明確な差別化を狙っていた。背丈が160cm台前半で、目つきはレヴィを思わせる、『人を殺してます』と言わんばかりの鋭いもの。この時点で明確に違う。マフラーをアスコットタイみたいに襟の内側に入れており、ネクタイのように角の先を垂らしているのもあり、印象は強烈だった。クリスに微笑って見せるが、その微笑は自分自身のBとは別物である自覚はあり、内心で自嘲する。自分はこの場にいる三人の知る『月詠調』ではない事を知らしめるためにも、身につけた足技を見せる必要があるとし、それも織り交ぜて戦ってみせた。

「ハァ!!」

左回し蹴りで竜巻を起こし、敵を二人ほど空高く吹き飛ばし、それより高く、生身の身で跳躍してみせる。その際には小宇宙を使っているので、足には雷を纏っている。

「ライトニングフォォ――ル!ぶち抜けぇ!!」

見せ技も兼ねて、ライトニングフォールを決める。極超音速で叩き込んだので、相手がシールドを使う暇もないまま、蹴り殺した。大爆発と共に。生身で極超音速の動きを見せたので、切歌はもちろん、他の二人も固まる。そして敵すらも。

「お、おい……お前、今の攻撃、音速を超えてたのか?音が後から……」

「マッハ3くらいは出しましたね」

「はぁ!?マッハ3だって!?バカも休み休み言え。そんな速さで動いたら服が破けるはずだぞ」

「いや、司令だってシンフォギア装者と互角に戦えるじゃないですか?」

「そりゃ、あのおっさんがおかしーだけだってぇの!」

「ケイさんからの言いつけもあるから、こいつである程度は倒さないと……面倒だな」

「お、おい、お前、銃なんて撃てるのかよ!?」

銃を構える調。驚くクリス。だが、この調はクリスの知る彼女ではない。手に持つSIG220から、SIG220が放たれ、ヘッドショットで敵兵を倒す。調Aは銃の教師が圭子であるため、圭子から一対多での銃撃戦を仕込まれている。そのため、ガン=カタを披露し始める。相手のM1ガーランドやM1カービンの火線を発砲されてから避ける芸当は圭子仕込みだ。跳躍して、相手の顔面に蹴りを入れつつ銃撃で確実に殺す。レヴィ(圭子)も時たま行う殺しの手法だ。彼女は敵の小銃の火線をくぐり抜け、見事までに銃を扱う。殺しなれているかのように。遂には敵が痺れを切らし、M2重機関銃も混じり始めるが、お構いなしだ。これに言葉を失う三人。

「私を殺してみせてよ、兵隊(アーミー)さん?」

調Aの中の黒江の因子が呼び覚まされ、狂奔じみた笑みを見せる。と、そこで敵ウィッチの怪力持ちが『57mm砲』を持ち出してきた。57ミリは一昔前の戦車砲に相当する大きさだ。

「うわっ!57ミリ砲だ!?」

57ミリ砲。おそらく史実でも造られたボフォースのものあろうが、これを持ち出すとは思わず、調Aも流石に戦慄する。このクラスだと、21世紀のフリゲート艦の主砲になってくるからだ。流石にこれは避けるしかない。クリスもこれには驚く。

「何だよ、あいつら!普通の人間があんな長物持てるのかよ!?」

「あの人たちは魔法使いですから、57ミリ程度なら軽いもんです!」

「なぁ!?どういうことだよ!?」

「事情は後で言いますから、今は切ちゃんと一緒に響さんを頼みます!」

37mm砲、57mm砲も混じり始めるが、その直撃を生身で躱し続ける調A。75ミリ榴弾砲が来る前に撃退すべく、得物を銃からエクスカリバーに持ち変える。空中で鞘ごと生成し、引き抜く。エクスカリバーは周囲の魔力も集め、風と共に黄金に輝くその姿を見せる。

「し、調!その剣は何なのデスか!?」

約束された勝利の剣(エクスカリバー)だよ、切ちゃん!75ミリ持ち出される前に撃退する!」

「待スデス、調!その剣……完全聖遺物じゃ!?」

「そうであって、そうでないもの。ある種の霊装に近いかも!」

「え!?」

『エクス!!カリバァァァ!』

――エクスカリバー。これも黒江と共通で持つ必殺技である。調の未熟さもあり、威力はアルトリアのオリジンには届かないが、それでも対軍級の破壊力は充分にある。ある意味では聖剣使いの資格を黒江と共有していると言えよう。鞘に納め、アルトリアが良くするようなポーズを決める。それは約束された勝利の剣持ちの『お約束』でもある。このエクスカリバーを遠目で目撃した自衛隊は『あの光は約束された勝利の剣だ!俺たち勝てるぞ!!』と歓喜したとか――

「おい!!お前がなんでエクスカリバーを持ってるんだよ!!それに空中からギアもなしに呼び出したみたいに……」

「うーん…。今は聞かないでください」

「それに、エクスカリバーって確か、イギリスの王権を示す剣のはずデス。どうやって!?」

「その説明は後でするよ。平行世界も絡むから長くなるけど。救護は呼んであるから、それに響さんを乗せてからだよ」

その言葉通り、地球連邦軍のコスモシーガルが飛来する。操縦しているのは山本玲だ。

「お前たち、早く乗れ!」

「玲さん!」

「閣下からの命令で飛んできた。ガイアに運ぶぞ」

調Aはデザリアム戦役で山本と戦友になっているので、手っ取り早く会話する。

「陸自の特科に牽制射撃を要請してある。それが続いてる内に行くぞ」

手っ取り早く救護設備があり、軌道上をパトロール中のガイアに三人を運び込んだ。そこで事情説明が行われた。

「あいつの具合は?」

「肋骨が三本は逝っている。通常の適合者になっているなら、当分はベットで唸る羽目になるな」

玲は当時、21歳前後ながら、撃墜王として有名となっていた。ヤマト航空隊から武子の要請で出向していたので、ウィッチ世界にいたのだ。

「あんたは何者だ?見たところ軍人っぽいけど」

「山本玲。地球連邦宇宙軍航空隊の大尉だ。調の同僚になる」

「地球連邦宇宙軍?」

「お前たちの言う国連が未来に発展解消して、地球を統一した政府の軍隊と思えば良い」

「はぁ!?なんだよそれ!?ここはいったいどういう事になってるんだよ!?」

「それは今から説明する。それと、君の仲間の治療が間もなく済む。骨の接合はすぐに済むだろう」

「!?★!?」

芳佳が治癒魔法をかけ、骨折部位を治癒した事を暗に示唆する。

「雪音、お前も来ていたようだな」

「先輩!?こんなところで油売ってたのかよ!?」

「……すまん。世界が根本的に違う上、ギャラルホルンを介しての転移でないから、戻りようがなくてな。それと、お前が見た月詠の件だが、あの月詠は我々の知る月詠とは似て非なる存在、平行世界の月詠なのだ」

「……うん。私の双子のような他人のようなものです」

「お、おい!?ど、どういうこった!?」

姿を現した翼Bと調Bに大混乱のクリス。まさしく、目の前の調は自分の知る調そのものだが、此度のAの暴れぶりには閉口気味である様子が見て取れる。

「切ちゃんに説明が大変でした。私が二人いるから、切ちゃん、目回しちゃって」

「うむ。暁が失神してな……。しかし、我々はとんでもない出来事に巻き込まれたのは確かだ。まず、我々が今いるこの世界だが、1948年になっても、世界大戦がまだ続いてる世界だ」

「ちょっと待ってくれ!世界大戦の頃の時間軸で、こんな宇宙戦艦が作れるはずねぇだろ!?異端技術の解析だって、その頃の科学じゃ…」

「いや、世界大戦の代わりに異形のモノと戦争していてそれと入れ換わりに人同士の戦争が始まった世界、というべきか」

「異形だとッ!?」

「うむ。この世界の人間たちは怪異(ネウロイ)と呼ぶらしい怪物だ。金属を貪り食う化物。それに対抗するための魔女がいる世界。とはいうものの、科学レベルは本来、年数から5年は引いた程度だったそうだ」

翼Bは説明する。ウィッチ世界の本来の姿を。

「事の起こりは1942年頃。とある異常に軍事科学が発達した世界から、戦争に負けた軍隊の敗残兵達が兵器や設備ごと転移してきた。そいつらは自分達の生存圏確保のため、アフリカや中東に勢力を築き、遂には核攻撃でU.S.政府を屈伏させた」

「そいつらが自分達の世界でもないのに、戦争をおっ始めやがったのか!?」

「そうだ。それを突き止めたその討伐部隊と、この世界の日本とU.Kが手を組んで、世界大戦となったのがこの世界の状況だ」

「ん?日本はこの時期、戦争に負けてたような?」

「根本的に違う歴史を辿ったから、U.Kの重要な同盟国だし、絶頂期の連合艦隊が健在なままだ」

ウィッチ世界では陸空が主な戦いの舞台であるため、海軍にあまり出番がなく、扶桑の連合艦隊は未だに健在なのだ。そのため、日本連邦の交渉当時、日本側の前政権が一番に腰を抜かした事項である。政権与党の交代後も野党にネチネチ言われているのが『戦艦と空母の整理』である。空母は蒼龍型が史実の翔鶴の規模で建造されており、書類上は蒼龍型で翔鶴と瑞鶴も一括りされていたが、日本連邦樹立後は翔鶴と瑞鶴は正式に翔鶴型として独立している。これはFARMで優先的に改造を施すためと、日本の野党や財務省を納得させるための工作でもあった。また、大鳳は逆に同型艦が中止されているため、翔鶴型に編入された。雲龍型は精度の高い前期型を改造、簡略化された中後期型は別用途に転用という事で落ち着き、代替に50000トン級大型空母を3隻新造とされた。それに23世紀製スーパーキャリア三隻、八八艦隊竜骨流用の改装空母三隻で空母機動部隊を編成する案が米軍の助言もあって確定した。ジェット機を載せるという事は、空母の大型化を招くのだ。そのため、その維持費捻出として、戦艦の処分を財務省に通告されたが、リベリオンは大艦巨砲主義まっしぐらと空母の巨大化を両立している事を教えられた途端に顔面蒼白だった。しかも、史実では存在しないはずのモンタナ級に旧式艦が交代していることは、防衛省背広組のど肝を抜いた。その様子は2017年の年末の日本連邦評議会内の軍事会議でのパニックが証明していた。

――2017年の年末――

「これを見給え」

扶桑海軍の高官である近藤信竹大将は日本側に地球連邦軍の偵察機が捉えた各地の海軍工廠で建艦中のモンタナ級と改モンタナの写真を掲示した。フィラデルフィア海軍工廠で最終艤装に入るモンタナ級の『インディアナ』の威容は日本側を驚かした。史実ではありえないはずの大艦巨砲が続々と産声を上げている。しかも1948年の段階で。日本側の関係者は息を呑む。

「こ、これは……」

「見ての通りのモンタナ級だ。敵は旧式戦艦の代替と増強も兼ねて量産している。我々は戦艦を削減するわけにはいかないのだ。ブリタニアはダイ・アナザー・デイで数を減らした上にポンコツも多い。我々が矢面に立たなければならぬのだよ。こいつらとの」

近藤はいう。モンタナ級が増強されている以上、戦艦戦力は最低、二桁を維持せねばならないと。

「大和の砲でも易易とは参らんのが十杯以上も来られては多勢に無勢。だからこそ、播磨の増産は必須なのだ」

当時、扶桑海軍は地球連邦軍に敷島型戦艦の建造を依頼する一方、日本には播磨の増産の承認を求める二枚舌を行っていた。播磨は超大和型戦艦だが、加賀や紀伊型が純粋な戦艦としては陳腐化している以上は増産は必須だと説く。近藤はその点では播磨を目眩ましに使えると評価している。しかし、日本の背広組は潜水艦の増強に傾倒していた。そこも時代の差であった。

「閣下、超大和型戦艦を有する以上、これ以上作ってどうするのです?ミサイル装備もあるのなら、戦艦よりも我がそうりゅう型潜水艦を生産すれば…」

「君らは戦艦の時代を知らんだろう」

「それはそうですが、大艦巨砲主義は航空戦力に敗れたのですよ?」

「その航空戦力で近代化された戦艦に決定的な損傷は与えられても、撃沈は出来ないというレポートを見ていないのかね。戦艦の戦というのは最低でも同数、出来れば砲数で1.5倍を揃えるのが常識だ。だからこそ我軍は質的優位にこだわったのだ」

戦艦は戦艦で対するべきとするガチガチの艦隊決戦ドクトリンだが、戦艦が現代装備で身を固めた場合、その防御力もあり、むしろ現代兵器では撃沈には至らない。ましてや、対潜装備が充実した海上自衛隊の護衛がついていた場合、潜水艦は近寄れず、航空機も危うくなる。そのため、リベリオンは戦艦をガンガン作るという方法を取ったのだ。これに困ったのは扶桑と日本の方で、戦艦に対応可能なミサイルは21世紀になると、米軍でもあるかないかである。戦艦が過去の存在となっていたため、米軍でも、重装甲の戦艦を撃破可能な対艦ミサイルは冷戦終了以後はおそらくは有していない。せいぜいデモイン級巡洋艦までが自衛隊の対応の限界である。対艦魚雷も潜水艦しか有しておらず、自衛隊の潜水艦の保有本数では、一隻は確実に撃沈可能だが、艦隊規模では、海自の全潜水艦でも追いつかない。アラスカ級ではもはや現用艦の武装では無力化は出来ても、撃沈そのものは無理だ。

「自衛隊の武器は評価しているが、戦艦には決定打にはなり得んよ。潜水艦にしても、いくら高性能でも、20隻しかないのでは、通商破壊作戦には良いが、艦隊決戦の露払いにはならん」

「お言葉ですが、閣下。艦隊決戦はもう起きるものでは…」

「この世界では起こるのだよ。潜水艦が封殺され、航空兵器も如何に進歩しようと、君達の知る第二次世界大戦ほどの練度はない。兵器自体は進歩しようとも、練度が伴わなくては意味はないのだ」

史実の太平洋戦争がそうだが、航空兵器の世代差は早期警戒機が存在せず、練度に差がある場合はあまり関係がない時の方が多い。陸戦兵器は性能差が大きく出るが、空戦ではあまり世代差は関係が無くなり、高練度兵が操る旧型が新米の駆る新型をこてんぱんに叩きのめす事が多かった。艦隊決戦指向は英国ならともかく、米国はその物量と仮想敵の関係で好む傾向があった。ましてや有力な潜水艦がなく、ウィッチの存在で航空兵の練度が当てにならなければ、艦隊決戦を挑んでくるのは間違いない。近藤にはその読みがあったのだ。たしかに核は落とされたが、戦争には使わないコンセンサスが形成されてもいる。 リベリオンがティターンズの傀儡と成り果てたが、核のその影響力を鑑み、介入した軍隊はそれを超える兵器を持つことを知ったが為に、核の兵器としての運用を行わない事を宣言したから対抗としての核武装も行わずに済んでいる。その事も戦艦が主戦力のままである理由であり、潜水艦の発達が遅れている事もあり、そのプレゼンスの大きさが際立つのだ。

「敵は兵器を消耗品と考えている。我々も大日本帝国よりはよほど兵器生産力はあると自負している。敵は必ず、一回辺りのコストパフォマンスは悪くとも、艦隊決戦を敢行する。核兵器が存在せず、潜水艦も封殺され、航空兵器も高コスト化が進むと分かれば、そうなるよ」

近藤信竹は自国の現在の生産力を史実最盛期大日本帝国の数倍程度と見込んでいた。実際は連邦の援助で既に6倍にまで膨れ上がっており、航空機生産力については、疲弊しているノイエカールスラントの倍はあり、ウィッチの質は少数精鋭になったとは言え、Gウィッチのおかげで世界最強である。航空兵器はジェット機とコンピュータの時代を迎えると、レシプロ機のような大量配備は不可能になる。それこそ地球連邦が出来て、値段が廉価にでもならない限りは。そのため、ユトランド沖海戦や日本海海戦のような艦隊決戦はまだまだ余裕で生起するのだ。

「近藤大将の言うとおり、艦隊決戦は航空兵器や潜水艦が決定打にならなければ、充分に起きる。敵がモンタナ級を量産していることがその証明だ。それへの対抗は超大和型戦艦の増勢あるのみである」

宇垣纏も続く。バリバリの鉄砲屋である宇垣は所謂、大艦巨砲主義者であり、信濃と甲斐の戦艦としての建造を当初より支持していた。ウィッチ閥は宇垣や猪口などの鉄砲屋の排除を目論んでいたが、ヤマトショックで続々と各国に大和に対抗可能な戦艦が現れてゆくことに困惑しており、信濃の空母化の失敗で衰退を決定的にした。また、ジェット機と誘導兵器の登場で、自分達の利点が損なわれた事と、人同士での戦争ヘの移行も彼女たちの発言力を損ねた。また、20世紀終盤の第4世代機以後のジェット戦闘機の火力と機動性であれば、空戦型怪異を圧倒し得る事を、世界最強のウィッチ集団であるはずのレイブンズがその手で証明してしまったのがトドメとなった。特に黒江が空自でもエースパイロットとして君臨していた事により、F-2でカールスラントの名だたる撃墜王を翻弄するほどのキレを見せた事により、ウィッチの中堅は尽くMATに流れた。MATの勃興は、通常兵器が発達すれば、いずれ自分達に追いつくという、ごく当たり前の事実を受け入れられない者達の不満と断末魔でもある。また、軍に残っても、海軍出身者はGウィッチが源田実を動かして推進中のエースパイロット制度に異議を唱える事も多かった。坂本の一期後輩の志賀少佐がその一人である。

「我々にとっては、そんなわかりきったことより、ウィッチのベテランがエースパイロット制度に反対するほうがよほど重大な問題なのだよ」

「なぜです、中将」

「……海軍には特に多いのだ。扶桑海事変で黒江くん達が持ち上げられ、聖上も彼女たちに入れ込んでおったので、海軍航空隊の中に『個人を讃える制度は合わない』という空気が出来てな。扶桑海末期からの志願者の世代には、海軍にエースといった称号なく、全て共同戦果として考えるのが伝統という厄介な慣習が出来た」

「ああ、こちらの志賀少佐の同位体も仰っておりましたな」

「彼女たちはレイブンズにコンプレックスがあるのだよ。七勇士の過半数は陸軍だし、穴拭君がこれまた容姿端麗ときている」

「ああ、なるほど」

「それでお上のお気に入りで、勲章も大盤振る舞いだ。我が海軍航空隊の連中は強烈に反発したのだ。最も、統合戦闘航空団が出来た後で、撃墜王と公言しないと派遣されないことは理解しだしたがね」

「どうしておりますか?」

「空軍に行った赤松に『何でも『共同、協同』と全員纏めてやっと一人前か?それとも誰かの戦果で昇進狙う寄生虫か!』という風に、司令・隊長級を若いものの目の前でどやしつけてもらっとる。奴に逆らえるウィッチは海軍におらんし、黒江くんも母のように慕っている事は有名だからな」

「ああ、彼女なら問題ないでしょう」

「源田君にも『エース表彰は戦果確認の厳正化のついでだ、嫌なら受けなくても良いぞ、他国のウィッチと絡んだときエース記章付けてなきゃ嘗められるのを覚悟することだ』と脅すように言いつけたとこだよ。志賀少佐は後方部隊に異動願いを出すことで抗議してきたが、岡田閣下直々に叱ってもらった」

志賀は空軍が出来る前に横須賀に異動したが、黒江が志賀の将来を案じ、岡田啓介に通報し、彼に叱るように頼んだのだ。

「岡田啓介閣下を?」

「うむ。生存中の海軍関係者では最長老は彼だ。米内元大臣は亡くなわれたが、岡田閣下はご健勝だからね」

岡田啓介は後輩の米内光政が亡くなっても、未だ健在であり、天皇の信任も得ている。黒江は戦前、彼に取り入っており、コネを作っておいたのだが、それが吉と出たのだ。

「黒江くんは大物相手の処世術を心得ておるよ。岡田閣下や鈴木貫太郎閣下も、たいそう気に入っていてね。それでいて、源田くんのような若手に同調するような柔軟性がある。君らの防衛省が数年冷遇していたのは信じられんくらいだよ」

宇垣は防衛省の背広組への皮肉を口にする。陸軍出でありながら、海軍提督らと複数のコネクションを持っている黒江は、『海軍に欲しかった』と山本五十六や大西瀧治郎が嘆くほどの俊英として、海軍提督らにも有名になっていた。日本防衛省の背広組は陸軍軍人ということで甘く見ていた節があったが、同位体が加藤隼戦闘隊のエースパイロットかつ、空自の次期幕僚長を目された人物である事を制服組は早期に見抜いていて、黒江のシンパになった者も多い。つまり、黒江は人たらしの才能が羽柴秀吉と同レベルなほどにあり、転生後の純粋さも、圭子が見捨てられなかった原因の一つである。(圭子は転生後、姿を晦ますことを考えていたが、流竜馬が諌めたのと、黒江の心の傷を鑑み、そばにいることを選んだ。何度も同じキャラで生きるのに疲れていたのが、今回はガンクレイジーな理由である。今回は『今回は好き放題やる。あいつの面倒は智子に任せる!よろしくな』 とにこやかに宣言している)

「まあ、相方の一人の加東くんはなんと言おうか、銃撃狂だがね」

「どこかの暗黒街にでもいそうなトゥーハンドですものな、彼女」

智子も、Gウィッチとしての完全覚醒がちょうどスオムスからビューリングが離れようとした時期で、圭子に次ぐ速さで覚醒している。ビューリングは智子とハルカの異変に気付いており、智子が『女傑風の口調』で訓示をしだしたことに、正気を疑った。また、智子はGとしての覚醒後は、ソ連軍の軍用コートを自前で作り、それを巫女装束の上から羽織るという格好で勤務していた。ハルカが『軍曹』となったのも同時期である。また、いらん子中隊を一応は世代交代させるべく、ハルカを教育しだしたのもこの頃だ。また、ビューリングは智子がかつての力と記憶を取り戻した事を悟り、退役してモデルになる予定を返上し、智子の同志になるため、軍籍を維持し続けた。それは退役を家族から勧められている中でのRウィッチ化で極まり、現在はちゃっかりと遊撃隊の幹部格に収まっていたりする。モデルも広報で兼業しているのは、智子が勧めた事でもある。また、城茂に頼んでバイクをプレゼントした事も、本来は一匹狼なビューリングをなびかせるのに一役買った。ビューリングはオートバイマニアであり、それを覚えていたのだ。『あんた、オートバイ好きでしょ?』と気前よくプレゼントしたので、さしものビューリングも取り乱し、『トモコ、お前……熱でもあるのか?』と目がぐるぐる巻きになった程だ。ビューリングはそれで退役を撤回し、44年後半のRウィッチの実験に志願し、以後は智子の参謀で落ち着いている。モトキチぶりは黒江に負けず劣らずで、黒江とカスタマイズやマシン選びで熱く語り合う仲である(1948年現在)。

「聖闘士になった穴拭君と黒江くんに比べれば、可愛いものだよ、加東くんは」

「確かに。地形変えてましたからな…あの二人は」

「君らは我々を甘くみているようだが、そうは問屋がおろさないと言っておこう。君たちの航空自衛隊に黒江くんとピンで渡り合える者がおるかね?」

「……コブラの連中でやっとでしょうな…」

宇垣は会議の最中にも皮肉や嫌味を出しまくる。こういう意地悪さも嫌われる要因だが、宇垣は戦場を経験しているという強みがある。会議はここのところは扶桑側のペースで進んでいるが、日本の相次ぐ失態のせいであるので、防衛省としても文句は言えない。海保の不祥事や警察官僚らの暴走もあり、日本連邦は戦時中でありながら、『会議は踊る』状態になることがしばしばだった。現場は47年の夏からの次元震パニックへの対応でてんやわんやであり、黒江達に自由行動を許したのも、この評議会の進み具合を危惧した山本五十六の策であった。会議が本題からこうして大きく逸れる事も常態化しているので、パニックへの対応は現場に丸投げ状態で、山本五十六と山口多聞は苦言を呈している。実際、来訪者の処理は64Fが一手に引き受けており、芳佳の挙式など伸びまくっている。芳佳は『旦那を入婿にしてあるし、披露宴だから、伸び伸びで大丈夫だけどね』と言っているが、山本五十六は大いに憤慨しており、長門に『お前、評議会で64に休暇を与えるように言えんのか』とぼやいている。こればかりは如何に山本五十六といえどどうにもならぬ事であり、芳佳に『提督が予定を決めてくれとぼやいている』と長門が電話するほどだった。これは後日、長門から話がいった岡田啓介が『基地で披露宴をやれんのかね、源田君』と源田に言った事で、芳佳は無事に披露宴を行う事になる。参列者には三軍の高官ら、安倍シンゾー、小泉ジュンイチロー、麻生タローなどの政治界の大物達もずらりと参列したとか。



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