外伝2『太平洋戦争編』
九十九話『扶桑皇国の新兵器』
――日本はとにかく装備の近代化を強引に推し進めたので、現地インフラがそれに追いつかないケースが続出したので、困った日本は21世紀型のRO-RO船を大量にチャーターし、扶桑向けに貸与する事で急場しのぎを行った。これは今すぐに主力戦車を船では運べない(空輸ではミデアなどの手段がある)ための妥協策だった。また、主力戦車を運用するための南洋島のインフラ強化も行われたため、そちらに予算が費やされたのもあり、48年まで塹壕戦が継続した。とりあえず、ポンツーンを作り、RO-RO船と揚陸艇を大量に調達し、五式改各型と四式の改造型、それと16式機動戦闘車を配備していった扶桑軍。本命の七式は自衛隊が本物の74式を運んできたりしてくれたのと、四式改に滑腔砲持ちとライフル砲持ちがおり、砲仕様が統一されていないという難点もあるが、三式以前よりはマシだった。これは高速徹甲弾よりも新式である次世代徹甲弾のテストの意図があるとの事で、陸軍関係者は首を傾げた。しかしながら、戦車師団が熟練の師団に変わり、装備も第四より優良となったので、宮崎繁三郎中将も一安心だった。しかも、ミッドチルダ動乱でたっぷりと戦車戦を味わった第一と第二戦車師団。本来は大陸領奪還のために温存されていた師団だ。海軍の陽動は見事に成功を収めたのだ。
――陽動艦隊旗艦『大和』CIC――
「陽動は成功だ。後は敵艦隊をある程度叩き、聖上への手土産を持って凱旋する」
宇垣は勇躍、下令した。艦隊は陽動の目的を達成したので、本格的に決戦態勢へ移行した。大和型戦艦は二隻だが、波動カートリッジ弾の遠距離砲撃が本格的に可能となったため、改モンタナ級であろうと、射程で勝ってはいる。ダイ・アナザー・デイでの勝利の原動力となったのが、一式徹甲弾以上と貫通力と榴弾の特徴を備えた波動カートリッジ弾。これが扶桑必殺の切り札であった。敵艦は通常モンタナ級が1、改良型が二。数的には負けている。だが、波動カートリッジ弾を有する以上、一発の火力は勝る自信があった。そもそも地球連邦軍曰く、『三浦半島吹き飛ぶよー』という破壊力であるので、脅しに一射するだけである。耐えられるのはラ級だけだ。
『波動カートリッジ弾で奴らの心をへし折る。一撃だけで良い。あの破壊力なら、水上艦はまず耐えられん。ラ級でもなければな』
大和と信濃は波動カートリッジ弾を装填する。一度の斉発で良い。予想破壊力からして、モンタナ級でも溶けるだろうからだ。
「宇宙戦艦用の弾頭だ。バダンの化物相手以外に耐えられるモノはありませんよ」
「如何に波動カートリッジ弾と言えど、当たりどころが悪ければ、不発になる。ダイ・アナザー・デイで証明されておる。念には念を入れるのだよ、艦長」
宇垣はそう言い、波動カートリッジ弾を撃たせる。そして、一発が直撃したモンタナ級の一隻は水爆も真っ青なほどのきのこ雲と共に海中に没する。波動カートリッジ弾が装甲が薄い箇所を直撃したのだ。また、爆風で周りの護衛も転覆やら炎上やらの惨事となる。
「何隻巻き込んだ?」
「後続の甲巡3隻、駆逐艦は7隻ほどですな」
「上出来だな。通常弾に切り替えておけ。逃げればよし、向かって来たら倒せ」
「ハッ」
波動カートリッジ弾の一発が炸裂し、原水爆張りのきのこ雲が起きるが、核爆発ではない。タキオン粒子が敵の弾薬に反応した結果の産物だ。かの宇宙戦艦ヤマトが対デザリアム戦で使用しだした23世紀最新兵器である。波動砲の100分の1程度とは言え、竣工時でオーストラリアを一撃で粉砕出来る威力の波動砲の100分の1の威力でも、広島型原爆の1000倍の威力を誇る。これは初期型水爆に相当する威力だ。波動カートリッジ弾はタキオンエネルギー体を放射(爆発的拡散)して物質と融合しながら熱に変えていく性質を持ち、それを大気圏内で使うと、まるで水爆を炸裂させたような状態となるため、リベリオン海軍は大パニックに陥った。
「うーむ。凄まじいな、これは。当たった敵艦は?」
「爆心ですので、消滅しております。護衛艦ももはや浮かべる廃材です」
「空母は巻き込めなかったか。まあ良い。敵の心胆を寒からしめる事には成功しただろう」
「今の砲撃の威力は?」
「8592メガトン。ツァーリ・ボンバも目じゃない破壊力です、提督」
「21世紀の日本の連中は目が飛び出とるだろうな、今の光景は」
「波動カートリッジ弾のことは海自には通達してありますが、予想以上の破壊力です」
「敵もこれには腰を抜かすだろうよ。錬金術の黄金錬成を力業で行おうと、パワーは50メガトン級がせいぜい。良い脅しになる。だが、真ドラゴンの真ストナーサンシャインには、これでも及ばんが」
「波動フィールド効果でタキオンの拡散するエリアの内側にしか効果が及ばないのが幸いですな」
デザリアム戦役で覚醒を遂げた真ゲッタードラゴンの必殺技『真ストナーサンシャイン』の破壊力は真ゲッター1とも比較にならない破壊力であり、単位面積あたりの破壊力では、ゴッドマジンガーの『ファーストライト』に匹敵する。波動カートリッジ弾をも更に超越すると宇垣に言わしめるのは流石である。
「あれを日本に見せましょうか?」
「戦争が激しくなれば、否応なしに見ることになるさ。真ゲッターロボすらも超えるゲッターロボ。ゲッターロボアークも凌駕する威力だ、あれは」
真ゲッタードラゴンは100%の力を発揮した真ゲッターすらも二十分の一の出力で凌駕し、十分の一でゲッターアークも完全に超える。あのガンバスターすら凌駕する威力を、通常のスーパーロボットサイズで持つ。これはゲッターの大いなる可能性の表れであり、将来、更なる領域へ進化する余地がまだまだある事実でもある。ゲッター聖ドラゴン、そしてエンペラー。少なくとも、あと二段階の進化が控える真ドラゴン。なんとも恐ろしい存在である。それは大ヤマトとなる運命の宇宙戦艦ヤマト(アース)も、であるが。
「日本はゲッターエンペラーは知っていても、その中間である真ゲッタードラゴンの事は厳密には知らんと言うが、本当かね」
「ハッ。日本で漫画を執筆していた人物が真ゲッタードラゴンの復活を描いたところで亡くなり、それ以降はわからないと」
「ふむ。それでは、真ゲッタードラゴンの基本的な武器は分からぬか」
「彼らの推測では、進化前と基本的には変わらぬだろうとのことです。ゲームとして発表されたスペックは有りますし、それと近いかと」
「なるほど」
「彼らのほうが驚きかと。Gカイザーやマジンエンペラー、更に真ゲッターG。未知のスーパーロボットがたんまりあるんですから」
「防衛省の背広組はそれを知っているのかね?」
「アニメ好きの若手であれば、おそらく。暗黙の了解ですが、大っぴらに出すと、ヒーロー大好きのアメリカの顰蹙を買いますから、日本も内部で情報統制しているのです」
「やれやれ。超人機とウィッチに対抗して、あのコミックヒーローを作ろうとしていたと言うのは聞いたが、あの民族は遺伝子単位で好きだな」
宇垣はため息をつく。日本の防衛省の制服組は地球連邦軍の存在を暗黙の了解で知っており、背広組よりも楽観的な者が多い。英霊達が連合軍の軍人として転生していたりする事も知っており、アルトリアなどは大人気であるし、ジャンヌは依代のことでネタにされている。そのため、制服組ほど、戦争の戦況を比較的に楽観的に見ているが、背広組は悲観的にモノを考えている。その温度差が背広組の失態の連続として表れている。
「日本は一度、戦争に完膚なきまでに負けていますからな。トラウマ級に米軍の物量を恐れているのでしょう。黒江准将も呆れていますがね。史実のドクトリンをリベリオンが持つとは限らないと言ってますよ」
「……やれやれ。彼らは戦争を良くも悪くも知らんな。物事を悲観的に捉えすぎる」
『我々は貴方方の同位体が希望的観測、机上の空論、こうあってほしいという発想などにしがみついたため、300万人以上の犠牲を出しております。根拠のない楽観は禁物です』
……とは防衛省の背広組の口癖だ。背広組はこの思想に固執するが故に、ダイ・アナザー・デイでの失態を招いてもいる。また、明野の教官級の戦う機会を奪った事になった事に抗議してきたウィッチらに官僚的答弁しか言えなかった事で、顰蹙を大いに買っている。そのため、前線で手柄を立てさせたほうが勲章や従軍記章を多めに作る手間が省け、慰労金も一定の金額で済んだと、財務からぼやかれている。黒江はこの事件のゴタゴタを前線での休憩中に聞き、自分が空将昇進と同時にする仕事が背広組の尻拭いである事に激怒し、背広組の官僚の懇願する猫なで声へこう怒鳴り返している。『だから!遅すぎたと言ってるんだッ!!!』と。黒江が空将として与えられた権力を以てしても、あきつ丸にいたウィッチの何割かは参加させられなかったし、何もせずに帰る事で、後ろ指を刺されかねない事も予測できた。宇垣はその事を後で山本から聞き、黒江に慰問代わりの酒を送っている。
「あのダイ・アナザー・デイの時もそうだ。名だたる将軍や提督が彼らを問い詰めたが、背広組の言うことは『想定外の事だったのです!』とか、『知らせてくれていれば……』だ。制服組が呆れておった。『戦線から遠のくと、楽観主義が現実に取って代わり、そして最高意思決定の段階では現実なるものはしばしば存在しない』。どこかの作品での台詞回しだそうだが、我々はそれで、彼らの日本を破滅させている。それは本当だが、我々は大日本帝国ではない。日本連邦だからな」
リベリオン海軍をよそに、彼らは会話を交わす。戦力差があるのを思い知らしめたので、敵の戦意が萎えているのを察し、無理して殲滅する必要はないとしたためだ。
「敵、撤退を始めました」
「タンカーは何隻撃沈した?」
「大型を数隻ほど。」
「これで日本へのご機嫌取りは済んだ。全艦に泊地への帰投を指令せよ」
補助艦を撃沈するのも、日本を政治的に満足させる条件であるのを『厄介』と見る宇垣だが、時代の流れとしては仕方がない事である。戦闘艦艇だけを撃沈すれば良いとする考えは既に過去のモノなのだ。海上護衛総隊の大井篤少将はタンカー撃沈を推進している一人で、『タンカー潰しゃ戦艦なんぞデッカイ艀だろうが』と公言している。そのため、地球連邦軍も彼の後押しをし、彼に米軍と海自の戦術を仕込んでいる。そのため、ウィッチ世界では補助艦艇と見做されていた潜水艦を始め、タンカーや商船を徹底的に叩いている。リベリオン海軍がハワイの燃料備蓄に余裕があるのに関わらず、目立った行動を控えていたのも、タンカーの損失を恐れていたからである。いくらT2タンカーが大量に月単位で出来ると言っても、パナマを取られた状況では、遠回りになるため、補充速度はどうしても遅くなる。ティターンズも固有装備の温存とシンパからの補充を図っているので、パナマ失陥によるタイムロスは甘んじて受けている。その事も、扶桑海軍の補助艦艇優先主義は功を奏している表れと言えた。
「海でタンカー潰すのは、船って駱駝の為のオアシスを潰して回る焦土作戦みたいなもんだ、自軍領土ではなく敵陣を焦土にしてるんだがな」
作戦成功を聞き、彼はそう言って笑ったという。大和や武蔵に反対していた彼だが、シーレーン防衛という海軍本来の任務に光が当てられた事で、大和達を使いっ走りに出来ることにご機嫌だった。艦娘大和のこともあり、以前ほどは戦艦嫌いを公言しなくはなった彼。彼も流石に、レイテ沖海戦と坊ノ岬沖海戦の記憶を有する、艦娘大和には悪口は言えないのかも知れない。
「デッカイのも箱入り娘の扱いじゃ拗ねるもんさ、ウチの仕事も手伝ってくんねぇかな?」
年頃の娘の姿である艦娘大和の事は嫌ってない様子の大井。それは彼なりの大和への気遣いかもしれない。
――扶桑が反撃の狼煙をあげたのと同じくして、衛星軌道上のガイアでは――
「……と、いうわけ。私はみんなの知る私とは『育て方を変えた双子』程度の相似しか無くなった同位体。そう考えて」
「つまり、調が二人いるって事デスか?」
「遺伝子学的には同一人物だけど、生物学的には別人なんだ。だから、こうして共存できるんだ、切ちゃん」
「お前、どんな生き様をしてきたんだよ。生身で極超音速を出せるなんて、並大抵の生き方じゃ無理なはずだぞ!?」
「ええ。私は別の世界に行って、そこで戦争をくぐり抜けてきたんです。10年ほど。だから、そこにいる私より10歳以上は年を取っているし、軍隊を飯の種にしています」
「軍隊だって!?お前、シンフォギアの力を持ったままで軍隊に!?」
「それなりに事情があるんですよ、先輩。確かに、ご両親を紛争地で亡くされた先輩にはいい印象は持たれませんでしょうけど、仕事に誇りを持っていますよ。少尉になりたてのタマゴですが」
1948年にはデザリアム戦役での功績もあり、座学の試験に合格後、直ちに少尉に任じられ、士官となっている調A。精神年齢が20代半ばである事もあり、クリスの言うことを軽く受け流す。
「先輩も、日本の自衛隊を否定してはいないでしょう?つまりはそういうことです」
「お前、それだけで分かったような面しやがって!」
「雪音!」
翼Bが諌めるが、クリスBは止まらない。
「いいや、言わせてくれ。お前に何が分かるんってんだ!戦争は関係ないやつも死ぬんだぞ!?それを飯の種にするなんて!」
「……先輩、私は国が滅ぶ様や、個人個人が志を持って戦って死んでいく姿を嫌ってほど見てきてるんです。不本意とはいえ、伊達に10年も異世界にいたわけじゃないんです」
調Aは古代ベルカの最期を見届けた生き証人でもある。その過程での各国との戦争も経験してきている。それ故、感情的なクリスBへ言い返す時の言い方は哀しげだった。亡き主のことを思い出したのだろう。騎士として哀しい道を辿った事はアルトリアと似た点があり、それも約束された勝利の剣を使える理由でもあった。
「戦争は何が切っ掛けで起こるか解らない、それを少しでも早く終わらせるのも軍人の役目なんですよ、先輩」
「その姿は……!?」
「別の世界で使っていた、魔力で練った鎧です」
それは古代ベルカ滞在当時に使っていた騎士甲冑であった。デザインはアルトリアのそれを意識しており、『セイバー』という英霊の位にいたアルトリアへの敬意でもあった。アルトリアの場合に青い騎士服が浅葱色になっているなどの違いはあるが、調の背丈が160cm台に成長した事もあり、アルトリアと比べても見劣りしない(アルトリアも生前は155cmほどであり、以前の調と大差なかった。従って、転生後のほうが背丈が遥かにある事になる)。ここから映像で、色々な説明がなされて行くことになる。
――その説明が全て終わり、響の回復後は模擬戦で調Aはその優位性を身を以て示した。だが、その事はクリスBや響Bのコンプレックスを誘発させた。特に、完全聖遺物の霊格をその身に宿すという事は、響を上回る因果律操作力を得た事になる。約束された勝利の剣は、ガンニグールが他世界では、元の世界でのフルポテンシャルを発揮できないのに対し、どこでもその威力を存分に発揮出来る。また、シンフォギアを使わなくとも、聖衣や騎士甲冑を纏えば、戦闘力をフルに引き出せるという点で、響Bは後に『私はどうすればいいのかな……?これじゃ役に立てっこないよ…』と弱気を見せ、見かねた調Aがアルトリアとジャンヌに響への叱咤激励を依頼する事にも繋がる。
『我等も元々同じ人間、貴女も修練と経験を積めば我等の域に届かぬという事はありません』
『切っ掛けは必要かも知れませんが、もう目の前にチャンスが転がっているのに気がつきませんか?』
と、かつての英雄としてではなく、一人の人間として響Bを叱咤する二人。これで自分なりの戦い方を見出し、黒江を追いかけてるAとは異なるアプローチで自分を鍛えてゆく。クリスBの方は、英霊達が転生していながら、戦火の拡大に加担するような行為を咎め、アストルフォに苦言を呈される一幕もあった。
『僕達がやってるのは基本迎撃戦、売られた喧嘩を買っている立場なの、解る?相手はいきなり脅しとして水爆で街を吹っ飛ばす様な連中で、話も通じないし、チョッカイ出してくるからひっぱたいて黙らせなきゃなんない訳!状況を見てから口を開きなよ、お嬢ちゃん』
クリスはその出自上、Aが城戸沙織/アテナにも噛み付くほどに『戦争の火種を無くす事』を目指している。レヴィ/ケイの『硝煙と血の匂いに滾る』という発言に突っかかった事があるように、Bもアストルフォに苦言を呈され、押し黙った。クリスは血気盛んな側面から、それぞれが苦言を呈されたが、Aはその相手がケイ/レヴィだったため、強烈な皮肉じみた一言を浴びさせられ、泣きそうになったので、アストルフォな分、Bはまだ穏便だった。だが、幼児に言い聞かせる様な説明であるので、涙目であったのには変わりはない。Aの場合は、ケイがあきつ丸事件の事で苛ついていた事もあり、強烈な皮肉じみた返しをし、その場に居合わせたマリアに咎められるほどであった。ケイはこれで、シンフォギアA世界の大半の装者達に『戦闘狂で銃撃狂のおっそろしい人』と認識されている。また、素の姿での温和そうな容姿、レヴィとしての戦闘狂としての面を押し出した『イカレ野郎』を使い分ける事もあって、中々、シンフォギア装者らに理解してもらえないが、調Aは『優しい人ですよ、ケイ姉様は』と述べている。(理由は、どちらの方でも見せる『殺意スレスレの三白眼』と、その好戦的な粗野さである)
「優しくないなら、あなた方は今ごろ戦場の土に還ってますよ、こうして保護してる部隊の指揮官ですよ?姐様は」
と、調Aは私生活では、真美の教育の成果で、ケイを『姐様』と呼んでいる事を垣間見せる擁護をした。真美はGウィッチに早期に覚醒に成功していた組であり、扶桑海で江藤が隠した事も、家の力で元から全てを知れる立場にいた。(着任当時、家が子爵である)そのため、今回も圭子に良く仕え、圭子がレヴィとしての振る舞いをオープンにした後は、黒田をアフリカに転属させるようにお膳立てもするほどの副官ぶりを発揮していた。調やティアナの教育係も引き受けていたので、私生活では「姐様」と呼んでいたのが、調に伝染したのだ。その点では、真美は武子にとっての檜少尉とよく似ている。黒江は自分が行動派であり、子供っぽいので、副官は扶桑ではいない。黒江は『子供っぽさ』による純真さと、策士としての用意周到さ、冷徹さを併せ持つからだ。そのため、事実上の秘書は芳佳/杏である。芳佳の使いっ走りは菅野、西沢、坂本、竹井、雁渕姉である。赤松と若松はそれぞれ黒江達の親代わりだ。
「まあ、ドイツ人なのに、結果として日本最強の古式剣術を極めちゃった人もいますから」
「何ぃ!?どういう事だ、月詠!?」
ハルトマンが飛天御剣流を独学で全てマスターしてしまった事を改めて、翼Bに言う。実際、自分達もその心得はあるにはあるが、ハルトマンほどの領域にはまだ到達していない。ハルトマンは独学で天翔龍閃までマスターしてしまうという、黒江達すらなし得ていない芸当をやってのけた。医者志望の割には、戦闘面での才覚は転生で更に伸びた証でもある。これを上手く誤魔化そうとした時期もある。が、同志である智子と会ったので、カミングアウトを決意、智子の僚機を即興で勤め、その技能の片鱗を見せたのが、記録上でのハルトマンの剣戟の始まりである。今回は技能を引き継いだ事に確証が持てなかったハルトマンだが、『体に染み付いた』動きと剣筋は転生しても健在であり、智子も驚きのレベルであったことが42年度の記録に残されている。当時はミーナもバルクホルンもマルセイユも未覚醒であったギリギリの時期にあたり、覚醒組のほうが少なかった。そのため、波風が立つ事はしたくないとハルトマンが述べ、智子にスコアを献上したので、智子は白バラ勲章の扶桑人初の受賞者となり、第一次現役時代の最後の華を飾った。(智子は日本連邦軍結成の段階で、白バラ勲章のメダルをつけられる事でもある。そのため、日本の野党はこれまた無知を露呈し、彼らの不祥事となった。フィンランド政府から抗議があったからだ。智子が受賞した際にはハカリスティが入っていたので、それをナチスの鍵十字と勘違いした。これはフィンランドの勲章に無知な某女議員が、周囲が止めたのにツッコんだからであるというエピソードもある。フィンランド大使館は『いい迷惑だよ、全く』と呆れ、仏僧も『寺の卍に文句言わんのに似てるもの間違えて非難とはいやはや』と嘆息したとか。最も、1963年でモミの葉に置き換えられていたので、女議員が1962年時点までの旧タイプ勲章を知らないのは無理はないと、当時の党首は苦しまぎれの擁護をし、フィンランドに謝罪したという)
「その人、大して鍛えてなかったんですが、ちょっと裏で特訓しただけで剣客になっちゃいまして。沖田総司に匹敵する才能じゃないかなぁ…」
「私が10年くらい鍛えても、防人としてはまだまだというのに、どういう事だ!?」
「だーかーら、私に突っかかって来ないでくださいよ、翼さん。戦場で切り合ってきてる人とそうでない人の差。貴方は人相手に戦ってないでしょ?」
「ぐ!ぬぬぬ…!」
翼は人相手の戦闘経験が実質、日が全く浅い。これはAとBの共通点だ。対して、ハルトマンAは修羅場をくぐり抜けてきた猛者である。自ずと差が出て当たり前であり、あの緋村剣心や斎藤一も一目置くほどの才能を持つ。
「実戦の呼吸は鍛練とは違うからねー、銃弾やビーム飛び交ってる中を飛ぶのと比べたら、切り合いはまだ見えるから良いよ、そのかわりに、見えたら避けるには手遅れだったりするけど。だから、切り傷あるんだよね」
とはハルトマンの言だ。これはハルトマンAがBに対して持つ絶対的アドバンテージでもある。B達が転移当初の際に、剣技を実演した際に、坂本Bが半泣きで悔しがったという話もある。(更にペリーヌに至っては、自分がモードレッドと体を共有し、モードレッドとしての稀有な剣技を誇るという事実のショックで三日三晩寝込んだとのこと)
「私も10年間の異世界生活で、いくらでも剣を交え、拳で殴り合いました。だけど、私は体格とかの関係もあって、途中からは足技主体に切り替えてましたけど」
「それが、立花との模擬戦でのあの足技か」
「はい。どこでも響さんはタフなので、マッハ3でぶっこんだんです。アレはその後のアレンジが強いですが」
苦笑する調A。従って、遠近に隙が無くなった事になる。Bとの戦力差はBがおいそれと追いつける領域ではないとも示唆する。情け容赦ないように思えるが、敢えて力の差を示すことで、自分勝手に動かれるのを防ぐ狙いがあった。ましてや、シンフォギアB世界の者達は転移間もないため、歴史の流れ的な意味で、リベリオン軍に加担されるのでは、という危惧があったのも関係している。(史実で言えば、調A達は枢軸軍陣営に加担しているように見えるため)
「英独が轡を並べてる辺りで、色々察してくださいよ、全く」
「す、すまん……。根本的に歴史がこうも違うとは思わんだ。まさか日本が資源大国かつ、アジア唯一無二の強国とは」
「それに日英同盟が数百年続いてるんですよ?だから、史実より多少はマシな財政なんですよ、イギリス」
ウィッチ世界では、元禄年間に仏武同盟が結ばれている。史実で言えば徳川綱吉の時世の頃だ。ブリタニアも当初は名誉革命後の混乱から建て直したいのと、その前の戦争での扶桑武士団の阿修羅ぶりに打ち震えたアン女王は『味方につけておいたほうが良い』と考えた事から、彼女の後を継いだ王たちも慣習的に引き継いでいった。スチュワート朝の後継のハノーヴァー朝までも引き継がれた慣習がこの同盟である。既に300年近く続いているので、キングス・ユニオン体制でも引き継き、同盟は有効とされている。これはブリタニアがコモンウェルスをブリタニアに引きつけておくには、扶桑から得られる富しかないと結論付けていたからである。当時、大国として盛りをとうに過ぎたブリタニアは現規模の軍事力を維持するには、コモンウェルスからもたらされる富が必須と考えていた。しかし、日本に触発されて連邦を組んだイギリスは英国病を経ての老大国としての醜態を晒す有様で、経済的恩恵は期待した程ではなかった。そのため、ブリタニアは同盟関係の継続を選んだのである。これは英国の利害にも叶うことなので、英国の反対もなかった。そのため、ブリタニア首相チャーチルが戦艦の交代を異常な情熱で行ったのもあながち間違いとは言い切れない。キングス・ユニオンとしての英国側には、戦艦の維持と交代に情熱はそれほどなく、大和への対抗意識も薄かった。これは英国海軍は『数で対抗する』ドクトリンが過去にあり、それにビルマルク帝国やナチスにはどうにかなったため、戦艦の使い方も『コモンウェルスへの示威』としての面を重視し、個艦戦闘力を押さえていた事情があった。もちろん、日米を想定しての艦隊決戦ドクトリンを指向する勢力もいたが、かつての大英帝国からすれば、ネルソン時代の名残と見られ、少数派でもあった。対するブリタニアは第一次ネウロイ大戦後の財政難と、軍縮で大戦前〜戦中型の戦艦を使い回すしかなかったという、用兵上の都合から、新戦艦をひたすら熱望していた。その第一陣がダイ・アナザー・デイで醜態を晒したキングジョージ五世級戦艦であった。しかし、扶桑海での大和のデビューがブリタニアを顔面蒼白にさせた。砲弾の融通をするための口径調整や修理ドックの融通がワシントン軍縮のウィッチ世界での存在意義だったが、扶桑が本土決戦の切り札を目論んで46cm砲にした事は扶桑内部でも賛否両論だった。杯数の制限は基本的に、各国の一次大戦後の復興の為に財政的観点で行われたにすぎないため、扶桑は条約の第二次に加盟せず、大和型を設計し、そして作り上げたのだ。
――第二次海軍軍縮条約がリベリオンの離脱で空中分解したため、ブリタニアはライオンを急いで設計し、作ったが、急ごしらえ感の否めないものに終わった。そして、各国が扶桑の巨艦『大和』に対抗するため、狂ったように大艦巨砲主義にひた走った数年の狂想曲をヤマトショックという。狂想曲は三年ほど続き、その期間で生み出されたのが、それ以前の計画によるリシュリュー級、その後継になるはずであったアルザス級、キングジョージ五世とライオン級、ビスマルク級、リットリオ級などの欧州新世代艦にあたる。建造は大和に遅れ(実際は先行している)たので、戦争勃発時に決定打とならぬまま、リバウ撤退戦での大和と武蔵の颯爽たる戦いと相成った。この時に46cm砲であることが判明し、アイオワの更に比ではない一発あたりの威力を見せた。規格外の大きさなのは、建造時は移動司令部として使用するつもりだったからだが、艦娘大和の天皇陛下への直訴により、天皇陛下の勅が降った末に、リバウの前線で使用され、想定以上の戦果を見せた。そのため、急遽、予備の確保という名目で計画を拡大し、信濃と甲斐の建造にまでこじつけていたのが43年の状況であった。ここで当時に勃興していたウィッチ閥が空母化を提言し、揉めていた。だが、その間にも造船所での建造は進み、翌年の視察時には、砲架設置の準備中というコンコルド錯誤的な状況になっていた。この光景に、ウィッチ閥は悔しがったとも伝えられる。既に樫野が信濃用の部品を横須賀に届け、軍が輸送中の段階であり、空母化は不可能。知らされていた工程管理よりも、実に一割強も進捗していたが、担当者の工程管理にミスが有り、それが中央に知らされていなかった事で生じた行き違いだった。未来技術で改造したのは、その事の隠蔽工作も兼ねていた。これはジムUの非武装機等の作業用MS、21世紀水準の溶接技術が入れられた事で、作業時間管理が狂い、それを知らせていなかった故の状況だった。ウィッチ達が信濃の艦載機数を計算し、仕様にする頃には、信濃は戦艦としての建造率が80%を超えていた。この行き違いで造船官とウィッチで喧嘩が起こったという。主任造船官が、視察しにきたエクスウィッチに『ここまで進んでたら新造と変わらん程度の予算かかるで?しかも、時間も余計にかかるし、空母としての出来も悪くなるで』と言った事で、信濃、次いで甲斐も未来技術の導入もなされた『改大和』の第一陣となったのだ。扶桑は飛行機のジェット化で、雲龍型が用を成さなくなる不運もあり、海軍予算は新型空母の計画や改装、インフラ整備に予算の七割も数年費やされた。それを目の当たりにしたブリタニアが戦艦の入れ替えを大義名分に、インフラ更新も行ったのは、空母の隻数圧縮と引き換えの大型化への布石の意味があった。チャーチルはジェット化で今までの基準の中型程度は10年も使えないと、きちんと見抜いていたのだ。ただし、艦載機の完全ジェット化は保守的な海軍の反対と国内産業の保護の意味でも当面は見送られ、シーフューリーが数的主力であった。これは対米戦を過剰に意識するあまり、第4世代ジェット戦闘機へ更新したが、載せる空母がないという本末転倒な状況の日本連邦よりはよほど堅実だった。マリアナ沖海戦やレイテ沖海戦のトラウマで、『絶対的制空権』を政治的にも求められざるを得ないため、ジェット戦闘機を買わないとならなかった日本連邦海軍。弱体化していた海軍航空隊には『過ぎたおもちゃ』とさえ部内で揶揄されており、運用法の模索が続けられている。
――こうして、扶桑が政治的・軍事的にの複合的な要因で購入せざるを得なかった『プロメテウス級空母』。その存在はそれよりも一世代古い空母を使うティターンズ海軍への軍事的プレゼンスとなり、ティターンズの直接行動への抑止力として機能する事になる。地球連邦軍が厚意で艦載機ごと売った艦もあるので、それも抑止力となっている。それを収めるドックの整備も必須となったが、21世紀のどの空母よりも巨大である同艦は扶桑の財力の象徴である。問題はジェットパイロットの確保のみだ。確保はレシプロからの転換で数ヶ月程度で出来ると見込まれている。ただし、日本は戦闘可能な者を半年育成し、着艦可能な者を多めに育成したい意向であり、そのあたりで、あ号作戦のトラウマを感じさせる。つまり、あ号作戦での『持てる力を振り絞るのでは駄目だ。絶望を与えなくては』という観念が生み出した、リベリオンの心を完膚なきまでに粉砕したいという妄執と言える。これは米軍からも『レシプロ機相手にF-14じゃ、オーバーキルだぜ』と言われている。これは自国の第二次大戦型兵器への政治家の信頼の無さも理由だった。
「逆ファイナルカウントダウンでもやるつもりなのかよ…」
と、いうのは空自のとある隊員が、時代を超えた戦闘機が飛んでいることを指摘した際の一言だ。高高度飛行能力を備えているはずの烈風や紫電改すら、政治家からは『B-29の高度まで飛べない』と謗られるため、ジェット戦闘機の使用は日本側には燃料統一の利点はあった。だが、全てをジェット戦闘機にするには膨大な時間が必要である。そのため、一部精鋭部隊には極秘に可変戦闘機が与えられている。乙戦(局地戦闘機)装備であった部隊は機種がバラバラであった。キ44-Vだったり、飛燕だったり、百舌鳥だったり、雷電、紫電改であったりしたので、未来行きの経験がある者たちに歴代VFが与えられる事で迎撃能力の絶対性を確保している。これに対し、旧横空在籍経験者は日本の異常な防空へのこだわりを『神経過敏』だと嘆いている。自分達が『乙戦の雷電を軽視した』、『帝都をみすみす火の海にした』などと敵視されるような書かれ方をされたので、彼女らは『防空を軽視してはいない』と緊急声明を出す羽目になった。相手がB-29という化物なのが想定外だっただけだ。それも数百機単位で。その都合上、前線よりも本土の方が航空機の在地数が多いという状況だった。実際、レシプロ機の在地数は三個飛行戦隊にも満たない120機前後。しかもそれは爆撃機や司令部偵察機を入れた数である。黒江達が未来兵器を思いっきり使用する理由は、政治的な理由で戦線の航空兵力の増強が中々通らないためでもある。未来兵器を使用せざるを得ないのは、レシプロ機の数を減らした日本の政治家達にも責任はある。レシプロ機は戦線では依然として必要な戦力には変わりはない。烈風や紫電改などが生産中止が撤回された理由も、前線の要望である。要するに、レシプロ機の生産の是非の判定は大日本帝国での記録に頼っていたので、扶桑ではきちんと当時の第一線級のスペックを持つことを知らなかったのだ。(地球連邦への輸出分が有ったので治具の廃棄はされていなかったのもある。百舌鳥は五式戦として、日本側にも好評なので、難を逃れた)また、残存機の殆どは日本側がシビリアンユースなどのために引き取っていったので、そもそも本来の生産数よりも桁が低い数しか本土にも残存していないのだ。そのため、戦闘用途で再生産を促進するのを、日本側が露骨に渋った事も大きい。しかし、調査で当時の連合軍規格の高オクタン価ガソリンが使用され、エンジン部品も連合軍のそれであり、史実と比較にならない工作精度であることで手のひらを変え、排気管を推力式に変えたモデルを生産させている。メーカーは『シビリアンモデルはそっちの規制に合わせて改造してあるから別物ですよ?』との事だが、この調査で命脈を繋いだ烈風や紫電改は戦闘爆撃機としての道に次第に転換していく。また、百舌鳥は隼の後継としての最後の日本陸軍系レシプロ戦闘機として花道を飾るが、メーカー側としては不本意であったとか。智子も黒江も、初期不良を理由に疾風を使用しなくなったのも結果的に評判を助長した。疾風そのものは鍾馗と隼の間の子的な特性だが、トップエースに送る機体に初期不良が起こったのが悲劇だった。黒江の魔力値をそのまま得た調も使用したことがあるが、機体特性そのものは素直としている。(従って、調も書類上はウィッチとして、64Fに登録されている)
「――なるほど。よくわかった。が、一つ聞いていいか?お前、錬金術ではない、真の意味での魔法少女に?」
「そういう事になります。響さんのほうが似合ってるかもしれないですけど。だいたい『魔砲少女』だし、こっちのメインは」
「??」
「私が世話になってる人がいるんでけど、その人、今、映画撮影のために子供の姿に変身しているんですが、これですよ。編集中の映像を見せます」
『スターァァァライトォォォ…ブレイカァァァ!!』
なのはがスターライトブレイカーをぶっ放す映像に、一同は固まる。もはや何かのエネルギー砲といった方が正しい。調Aも思わず『シンフォギアじゃ受け止められない』と冷や汗タラタラになったほどである。47年度に撮影が開始されてから、かなりの長丁場だが、好評で本数が更に数本増えたためである。流石に同情したフェイトが『30分休憩の間に、こっちに来い』と連絡を入れたほどのハードスケジュールだ。従って、48年度でも、フェイトは青年期の姿には戻らず、子供の姿のままでパニックの解決に挑んでいる事になる。むしろ子供の姿のほうが気楽にやれると本人はご機嫌であるが。
「調、ドラえもんから連絡が入った。……なるほど、連中に説明していたところか」
「フェイトさん」
フェイトがドアを開けて入って来た。仕事着であるバリアジャケット姿である。口調は大人の時の聖闘士としての厳格なものだが、姿が子供なので、そのギャップが連邦軍や自衛隊にはバカ受けである。
「あん?なんだ、そのちっこいのは」
「先輩。この人は先輩より年上ですよ?子供に訳あって変身してるだけで、年齢は、えーと、いくつでしたっけ」
「今年で24だよ」
「何だとッ!?嘘だろ!?それにその声……」
「ああ。子供の時の私によく似ている……何かの偶然なのか?」
「偶然ではないな、風鳴翼。君と私は良く似ているからな」
フェイトと翼はとても声色が似ているが、フェイトのほうが高めであり、聞き分けは比較的容易である。ただし、性格面はどこか似た面があるのは事実だ。得物も剣であるあたり、マリアと箒に近い関係性があるのだろう。
「どういうことです?女史」
「私はフェイト・T・ハラオウン。君達が巻き込まれた『転移』に纏わる事件の捜査を担当している者だ。厳密には警察関係者ではないがな」
厳密に言うと、フェイトは宇宙刑事ギャバンなどに近い立場であるので、法の執行者としての側面があるが、割合、軍人に近い立場でもある。管理局の体制が改革された後も、フェイトは立場上、今までと変わりない権限は維持されたので、ミッドチルダの『機動刑事ジバン』とも言える程の立場にいた。ドラえもんからは『特捜司法官名乗りなって』と言われている通りである。
「先輩たち、この人はさっきの砲撃撃ってた人の親友で同格の強さです。それと、私の姉弟子の一人です」
『!?』
「ああ。見かけは故あって誤魔化してるがな。私は常に光速で動け、戦えるだけの力を持っている。喧嘩を売れば、火傷では済まんと思ってくれ」
フェイトはGウィッチ覚醒後、『ミッドチルダの雷神』という渾名で以て時空管理局に君臨していた。なのはAよりも凄まじい現象が起こせ、光子すら意のままに操れる事から、タイマンでは時空管理局最速最強を誇る。子供の姿に戻っても、それは同じであり、任務中に喧嘩を売ってきたストリートファイターが一瞬で地面に倒れ伏している事も常態であり、19歳時には、大会の秒速優勝記録すら打ち立てた。得意技はアイオリアとアイオロスより継承した『雷光電撃』で、大抵はこれ一発でケリがつく。ヴィヴィオは『ママ、かっこいい〜!』という事で、ファイトスタイルはフェイトに近くなっている。普段は調が教えているので、ヴィヴィオも着実に聖闘士の領域へ足を踏み入れ始めている。つまり、調は地球連邦軍で働きつつ、高町家と野比家の家政婦のような事を自主的にしている事になる。
「光速だって!?」
「ああ。綾香さんが調に成り代わっていた時期の映像は見ただろう?私も同じ力を持つのでな」
「生身でそれだけの力がありながら、剣筋も自信があると?」
「綾香さんや調のようにはいかんが、私も大鎌を持つのでな。獅子の大鎌を。元々の得物も大鎌、斧、大剣、双剣だしな、私」
フェイトは獅子の大鎌を自前で放つことが出来るので、特定の聖剣は与えられていない。また、元々の得物との兼ね合いもある。聖闘士となったため、防御のネガは無くなった上、天羽々斬のギアをソニックフォームの上から纏う事で、双方の力を同時使用可能という利点もあり、フェイトに触れられるのは、同門のなのはのみである。それを更に圧倒可能なのが赤松であるのだが。
「私は綾香さんや調と同門だが、綾香さんの師はもうどうなってるのかわからん強さだぞ」
「ええ。大先生、柔道、剣道、弓道、相撲合わせて十五段以上の化物ですしね…。それで水泳も数十キロ泳げるし」
赤松の強さは普通に柔道、剣道、弓道、相撲合わせて十五段以上という基礎の上に、聖闘士の力が上乗せされたため、白銀聖闘士ながら、実力では並の黄金聖闘士を凌ぐという猛者となった。転生後も黒江達を自分の子供とし、その育成を行っているので、赤松は黒江がずっと求めていた『理想の母』と言える。そのため、黒江は赤松と一緒にいる時は『娘です』と言って誤魔化す事も多い。調は『大先生』と呼び、赤松の弟子筋では末席に当たる事もあり、一派の中では使いっ走りである。
「……あなた方はどんな方に弟子入りしたのです、ハラオウン女史」
「言うならば、『日本海軍戦闘機隊では戦技、右に出る者はいない』と言われた強者かな?綾香さんの大先輩に当たる方だ」
フェイトは赤松の洗礼を受け、圧倒された事から、赤松の空中戦技に憧れており、黒江の紹介で前史に面識を得た。今回もそれは同じで、転生後も赤松はなのは、フェイト、智子、黒江が束になろうと、無傷で勝てる程の戦技を誇る。
「一言で言えば『面倒見の良いオッサン』かな?」
「どういう事だ」
『おーい、娘っ子!ドラえもんが催促しとるぞ〜』
20代後半ほどのバンカラ女子が姿を見せた。黙ってれば清楚な美人なのだが、振る舞いがバンカラという言葉が似合う番長である事もあり、インパクト大である。
「大先生」
「この人が……?」
「ええ。赤松貞子大尉。ウチの部隊のご意見番で、最強のお方の一人です」
赤松の服装は膝上20cmで切った飛行服(ツナギ、自衛隊旧型中古)にフライトジャケット姿であった。そのインパクトのキャラで『武士道にかぶれている』扶桑軍のウィッチ出身軍人の中では思いっきり目立つ。調が大先生と呼び、粗野なケイでさえ『姉御』と呼ぶほどの大人物。特務士官の出である現場叩き上げの古参。経歴だけでも物凄いのだが、何よりも、仕えるべき人物は冷静に判断する黒江が損得なしで母親のように慕い、粗野な圭子すら『姉御』と呼んで慕っている様子を見せるカリスマ性は特筆すべき事項だ。その事から、レイブンズ連中の安全ピンだとか、制御棒とも部内で評判である。その赤松が登場しただけで、調とフェイトが畏まったのが、その大人物ぶりの証明だった。
押して頂けると作者の励みになりますm(__)m