外伝その300『現地雇用情勢』


――日本から強引に改革を迫られたのは、ウィッチの服装、待遇に至るものであり、これもクーデターが起こった要因である。GウィッチはTPOを弁えていたため、特権階級としての体裁が整えられ始めた。軍隊に進んで残ったウィッチはこの時期においては貴重であったし、促成教育の弊害で、『試験』に受からず、高階級が実階級で維持できたウィッチも減ってきたからだ。勤務階級の維持がされたのだけでも、ウィッチの面子に配慮されたほうであり、書類上では大尉以下に下がった佐官ウィッチが多く出ていた。ダイ・アナザー・デイでのサボタージュはそれも原因であり、必然的にGウィッチが交代交代で突出した戦果を挙げていた。促成教育世代は世代にもよるが、一年以下の士官教育しか受けておらず、そこも他国軍隊が扱いに困るところであった。そこが『若めの者』でも、戦争初期までに士官教育を受けたGウィッチが重宝される理由であった――


――智子の執務室――

「年寄りじみてるけど、最近の若い連中は高待遇でないと気が済まないの?あー、ヤダヤダヤダ」

「まー、あんたの頃からだしな。チヤホヤされんの。それにあたしは一年位で士官教育終えたし、再教育に怒るのは無理ねぇさ」

「あたし達を異物扱いしたら、連中のほうが排斥される。因果応報ね」

「中学生がクラスの一人をハブにするみてーなやり方だから、連中は泡食うんだよ。今は高度な士官教育がされてるのが求められてるからな」

「今は日本のアニメやラノベから、こっちの機密が分かるじゃない?おかげでマンネルヘイムが顔面蒼白になって、あたしの勲章の等級を引き上げるって打診してきたわ。情勢的に辞退できないし、明後日は式典に出てくるわ」

「仕方がねぇさ。白薔薇勲章のことで日本も赤っ恥かいてるんだ。マンネルヘイムもまさか、同位国から圧力かかるとは考えてないだろうし、奴の保身に一役買ってやりな。宝飾・剣付の白薔薇勲章なんて、マンネルヘイム用に作られてたようなもんだし」

智子はシャーリーに愚痴る。ウィッチの待遇、ダイ・アナザー・デイ中、宝飾・剣付の白薔薇勲章を、大仰な式典を行った上で叙勲される事に、だ。彼女の功績を隠したと批判を浴びたマンネルヘイムの保身策であり、東洋人差別の意図はないと内外に示すためのプロパガンダだった。同国が日本連邦との戦争、経済制裁を異常に恐れていた事もあり、智子の功績は実態以上に誇示された。また、マンネルヘイムの指示で、507の消滅で『行き場』を無くしたハッセも、501へ一隊員として送られる手筈になったが、原隊の反対で処理が遅れた事もあり、ダイ・アナザー・デイ中は実現しなかった。501は戦力集中の原則で複数の航空団を統合し、ダブルエース(二桁撃墜数)しか配属が認められなくなったため、ハッセの501への配属は現場から反対論が大きかったからだ。

「トモコ、いくつかの航空隊から詫び状が届いている」

「ああ、ありがとう。ビューリング。後で目を通すわ」

「まったく、日本の連中は私達と周りの連中との抗争を煽っとるぞ」

執務室に入って来たビューリング。多くの世界では、既に軍を退役した身だが、この世界ではGウィッチ化した事もあり、未だ現役であり、『元鞘』に収まっている。元は疎んじられていた身であるが、階級も既に少佐であり、純粋なブリタニア人としては唯一の501隊員である。(美遊は日系ブリタニア人扱いになるため)

「そうね。日本はウィッチを疎んじてる世論があるのよ。ジュネーヴ条約の兼ね合いで。でも、扶桑だけで数千人いるウィッチをいきなり路頭に迷わせても、社会的に不味いでしょ?だから、任官済みの連中の雇用を維持するために、わざわざ、『現地の情勢を鑑み、特例として、任官済みのウィッチの在籍を認める』って一文を連邦軍結成の発表にねじ込んだのよ」

「わざわざ、それを明文にするか?」

「戦後の日本はなんでもアメリカ式でね。明文化しないと、色々と政治家がつついてくるのよ。下手したら全員がクビになる危険だってあったのよ?」

「どうするつもりだったんだ?」

「一部の有名なウィッチを自衛官に仕立てて、後はポイッってするつもりだったらしいわ。それだと、九割以上が路頭に迷うし、ウィッチの社会からの排斥も進むからってことで、結局、この形になったのよ。ただし、促成教育を受けた連中は嫌われ者だけどね」

孝美はその極初期に相当する世代だが、45年当時には名実共に大尉であり、リバウ撤退戦で功を挙げた事、『雁淵ひかり』の姉という箔、Gウィッチ化で促成教育世代の受けた措置を免れた。ちなみに、当人は前史での事もあり、謙虚に振る舞っている。前史で最終的にアクイラの聖闘士に叙任されたため、戦闘能力は以前の比ではなく、リバウ撤退戦では、病気を理由にリバウに留まっていた坂本と並び、もっとも勇名を馳せた。そのため、排斥対象に当てはまらない。

「あなたが騎士に叙爵されたようなものよ。昔の行いを考えば、ね」

「フ、確かにそうかもしれんな。しかし、日本のやることは、いたずらに対立を煽るだけだぞ」

「ええ。連中はウィッチって得体の知れない代物よりも科学を信仰してるから。第二次世界大戦で負けた故の反動ね。もっとも、21世紀当時には陰りを見せてたけど」

「連中は何を考えてる?」

「大方、第二次世界大戦で負けて、いいようにされた腹いせをこの世界でしようって奴でしょうね。現に、大和型の改装で『艦底まで舷側装甲を延長しろ』って迫って、地球連邦軍に作り変えを頼んだのよ。だから、この時代のどんな兵器でも、大和型以降の戦艦は沈められないし、体当たりでも逆に砕け散るのが関の山よ」

「そうでもしないと、連中は納得しないんだよ、少佐。大和の舷側装甲の支持鋼材の組み方にまで文句言うんだから。それで地球連邦軍に作り変えを頼んだわけ。宇宙戦艦ヤマトと同レベルの構造にすりゃ、連中はグウの音もでないだろ?」

「確かに」

シャーリー(北条響)の言う通り、扶桑の新戦艦は外観こそ大和型戦艦の大まかなシルエットを受け継いだが、内部構造は恒星間航行用宇宙戦艦と同等のもので、20世紀から21世紀の技術レベルの核兵器では、びくともしない。目標がアトミックバズーカに耐えるためであるから、21世紀型核兵器では、たとえ、史上最強と21世紀で謳われたものでも不可能だ。この大げさな防御力が21世紀の潜水艦信仰に一石を投じたのは言うまでもない。

「軍の暗号もデジタル暗号にしたんで、連合軍のほうが泡を食ってる。23世紀レベルのコンピュータでランダムに暗号を作るから、各国での共有が難しくなった。おまけに、扶桑海軍の実戦部門の縮小まで言ってきてる。任務部隊別に再編しようなんて、扶桑が困ってる」

「多分、これは否決されるわよ。編成はともかくも、連合艦隊の名称は伝統あるものだもの」

「で、どうなると思う、トモコ」

「水上打撃部隊が第一艦隊、空母機動部隊が第三艦隊でしょうね。編成的に航空艦隊が消えるし。今後はハンターキラー部隊のほうに力が入れられるだろうし、しばらくは第一艦隊は横須賀に引きこもらざるを得ないでしょうね」

「おい、呉はどうなる?」

「去年の襲撃の残骸を取っ払ったら、民間に工廠ごと払い下げですって。横須賀に軍事機能移して、大神、舞鶴、室蘭を使う計画らしいわ」

「後は外地か?」

「ええ。外地を充実させて、そこで例のプランをするつもりらしいわ」

「相模に置く計画は?」

「中止よ。とにかく、既存の工廠の地下化工事もあるし、外地の充実もあるし、48年までこっちからの開戦は不可能よ」

「燃料の備蓄は?」

「樺太油田の増産、ブリタニアのブルネイやオラーシャのバクー油田の融通、とにかく、軽油や潤滑油の備蓄に血道を上げろと日本は要請してる。潤滑油の国産に目処が立つまで、とにかく金で買い漁れってさ。日本からも融通するからと。ウチの生産量と燃料備蓄量に悲観的なのよ、連中は。連合軍全体の燃料供給を崩すつもりなのかしら」

智子が呆れるように、太平洋戦争が不可避になったこの時期、日本は扶桑に『狂ったように』航空機用潤滑油、ジェット用の軽油などの備蓄を要請し、扶桑の当時の内地備蓄量の800万キロリットルを遥かに上回る量の燃料備蓄を要請しだし、扶桑はそれに応え、地下に燃料庫などを作り、そこに各種燃料を備蓄し始めている。もっとも、カールスラント以外にまともな潜水艦の対艦戦闘を研究していた国は無いウィッチ世界で扶桑がハンターキラー部隊を大規模に用いたことで、後の太平洋戦争ではリベリオン潜水艦の活動は封殺されるので、杞憂に終わるが。また、数少なくなった優秀なウィッチの四割を輸送中に潜水艦ごと失うなど、リベリオンはこうした面で軍事的に大打撃を蒙り、リベリオン本国のウィッチ部隊は花形兵科の座から滑り落ちてしまうのである。扶桑の軍工廠はこうした提言と五輪を大義名分に、一部の地下化が陸海空を問わずに進み、空襲への耐久性を獲得。また、各地への分散化が進展。その秘匿性が功を奏し、地下はラ級量産計画の舞台になるのだ。



「連中はアメリカへの復讐をしたいんだろうさ。1940年代のアメリカに嫌というほどに敗北の味を味わせてな。真珠湾を燃料庫含めて完全に破壊して、五大湖の工業地区を全滅させ、ワシントンに旭日旗を立てたいんだろうよ」

「そうしたら、戦後は扶桑がアメリカ役をやんない事には世界の秩序の維持はおぼつかないじゃない」

「連中はやりたいんだろうよ。世界を思うがままにする事を。アメリカにやられた事を逆の視点で味わってみたい気持ちはわかるがな」

「でも、暗号を急に変えたら、大使館とかまでパニックになるわよ」

「連中は暗号を数ヶ月ごとに変えればいいって考えてるが、暗号はそう簡単に解けんよ。史実でも、陸軍の暗号は完全には解読されておらん。日本は太平洋戦争のトラウマが強すぎる。まるで子供だ」

機械(パソコン)任せの暗号ソフトで使い捨てレベルにキー(鍵暗号)も変わる自動生成暗号だから同程度のコンピュータで川柳の暗号を解読しようとしても数年かかる代物とはいえ、コンピュータ導入費で大蔵省が腰抜かすわね…」

ビューリングは日本を『トラウマに怯える子供』と断じ、日本連邦で主導権を取りたがる性質が強い部署の多さに呆れている。空母を後生大事に後方に下げ、戦艦を使い捨てのように前線に出すというのを防衛省の一部が支持するなど、軍事音痴なところを露呈している。ウィッチ世界の実情に合わない施策がなされ、空母ウィッチは冷や飯食いである。この後、クーデターを理由に弱体化が進められる海軍航空隊であるが、結局は再建の方向になり、空軍の助け無しには再建もままならなくなる。結果としては海空の一体化は進んだものの、海軍の血気に逸る青年将校の暴走を決定的にさせた点では罪と言える。

「大変です、閣下!」

「どうしたの、ハルカ」

「広報に送ったポスター案の件ですが、日本側の横槍で没になりました」

「なぬ!?」

ハルカが息を切らせて駆け込んできた。それはどう言うことか?全ては日本での出来事がきっかけであった。2019年のことだ。




――2019年の盛夏に差し掛かる頃――

「貴方方は我々の軍閥を解体しようとしている。それはいい。だが、一方でまとまりを失った軍隊をどう統制するつもりか」

「我々にできる事は、一部の優秀で、国家への忠誠心が旺盛なエースウィッチに特権を与えることです。本来はよろしくはない事ですが、皇室への忠誠では、反乱を起こされますからな」

扶桑の軍部要人と日本の防衛大臣の会談では、Gウィッチへの特権授与が東條英機の国外追放と引き換えに、正式に合意に達していた。日本は戦前の軍閥の基準である皇室への忠誠よりも『国家への忠誠』を忠誠心の判断基準にし、それを満たすGウィッチに特権を与えることで扶桑への償いとした。皇室への忠誠は東條英機が高かった事を鑑み、『国家そのものへの忠誠』を判断基準にしたらしい。

「東條英機元大将へのあてつけですか」

「彼は大和民族の同胞を300万も地獄に落とした。彼が国家や軍の中枢に居続ける事は我が国では誰も許容しません。彼と彼のシンパには生贄になってもらいます、全員ね」

日本は東條英機の国外追放を強行するのと引き換えに、Gウィッチの特権授与を認めた。東條英機は統制派の領袖であったが、肝心の彼が機甲勢力嫌い、歩兵至上主義で鳴らしていたため、九七式中戦車の怪異への無力という事実により、責任を取って辞任。既に半ば隠棲生活だったが、シンパが神輿にして、彼の復権を図る事を恐れ、日本はバード星への国外追放を行わせた。シンパの粛清も同時にした上で、だ。これにより、統制派は壊滅。皇道派も危険分子と見做された軍人の中央からの追放で衰退。Gウィッチを支援する『Y委員会』がそれらに代わって登場していく。また、Y委員会は親米派の山本五十六が設立した組織であるため、日本も存在を許した。

「その代わり、山本五十六閣下の軍閥の支援は行います。彼が当時の軍部では良心でしたから」

「矛盾と叩かれますよ。Gウィッチの特権を許容し、山本の派閥は容認するなど」

「確かに矛盾した施策ですが、あなた方がGウィッチを迫害してきた償いをどうしろと?10代の年頃の女子のいじめというのは陰険なものですよ。その償いですよ、償い!戦功が顕著な彼女達への見返りとお考えください。中傷から守られる権利くらい、彼女達に与えたって、バツは当たりませんよ」

防衛大臣は21世紀の陰険な学校でのいじめ問題に自分の子が直面した過去を持つためか、軍部のGウィッチへの異常際わりない迫害を糾弾し、扶桑軍の高官は答えに窮した。実際、連合軍でGウィッチが有益と判断されたのは、ここ数年の有事のおかげであり、それまでは『突然変異の異物』扱いだった。特に、最初に確認されたレイブンズは、東條とその後任の総理の方針に真っ向から挑戦していたこともあり、三人とも、事変直後には迫害された。(最も顕著だったのは、テスト部隊に行った黒江だが、智子も当時の武子に危惧されたのも事実である)彼も当時は『出る杭は打たれる』の心境だったが、後でこんな問題になるとは夢にも思わず、前任に突きつけられしダモクレスの剣の心境であった。

「彼女等は英雄だった訳じゃない、一人の女の子だったんだ。そんな彼女達を戦いに誘(いざな)い英雄の道を歩ませたのは貴方がただ。そんな彼女達を救いたい、そんな気持ちで動くのは政治家としては失格かもしれない、だが、だからこそ、救いになるのであればなんだってしてみせるさ…。私が小泉閣下に奏上すれば、貴方方の首はまとめて飛ぶ。そうお考えください」

小泉純也は中継ぎの総理として大命降下したものの、有能な総理大臣であり、憲法改正が予定されていたこともあり、軍部の人事権を握る事で軍部の手綱を引いていた。この時期、総理大臣の権力が実質的に強化された事で、軍部は戦々恐々としていた。


「ある一定のまとまりは維持させなくては、有機的な軍の行動は不可能ですからな。一定の連帯意識は必要です。そのための存在はいります。それと、ウィッチの服装はどうにかできんのですか。フェミニズムの観点から、批判が多いのです」

「それでは、どうしろというのです。ベルト履けというのを現場が納得するとでも」

「お上の勅を出してでも、ズボン、そちらでのベルトですか、…はどうしても履いてもらわんと、私が野党に槍玉に挙げられるのです。日本はフェミニズムが流行っているので、私共としましても…」

防衛大臣は山本五十六に好意的であり、そこも山本五十六の後ろ盾になった。しかしながら、自国のフェミニズムに怯える素振りを見せるなど、いまいちしまらない様子を見せた。扶桑海軍のセーラー服や士官服もその影響で、日本での下着着用が義務付られ、それを嫌った者が空軍へ転科する事も増えたため、空軍のウィッチ組織が肥大化し、海軍が尻窄みになる現象が発生。結局、古参層の反対もあり、海軍の戦闘服は従来の士官服に日本基準のズボンを加えたものか、新規に、空軍と共通の戦闘服が採用された。その点で、日本は海軍の古参ウィッチに恨みを買ったためにクーデターを恐れ、言い訳がましく、軍のウィッチに関する事項として、太平洋戦争開戦後に『新規採用ウィッチの初期階級を少尉に格上げする』とする苦肉の策が取られたという。これは日本内部のフェミニズムのせいであり、扶桑から批判を浴びたという。その帳尻合わせに、その時点で下士官級のウィッチを特務、兵科を問わずに『少尉』に任ずる珍事も起こった。日本によるウィッチへの統制はその時点で防衛省内部で放棄され、Gウィッチの上流階級化を決定づける事となった。

「…わかりました。お上に奏上し、対策を協議いたします」

この後、扶桑は戦闘服の改定と、日本連邦軍としての勤務中は戦闘以外は最低で『ベルト着用』をウィッチに義務付ける事になり、日本側に一定の配慮を示しつつ、日本の他国文化に無思慮な風潮に疑問を投げかけた。未来から呼ばれた二代目レイブンズが下着をちゃんと身につけているのは、その規則ができた後の世代だったからだ。







――その議論の影響もあり、芳佳は日本に蔓延るフェミニズムへのあてつけも兼ねて、角谷杏/星空みゆきの姿で過ごすようになり、シャーリーも北条響の姿で、竹井も海藤みなみの姿で過ごすようになった。元からプリキュアの変身者の、のぞみとラブにりんを除くと、その三者が容姿を切り替えた場合に相当する。

「まったく、日本のフェミニズムには腹が立つわ」

竹井は海藤みなみの容姿になり、背丈に関しては元に戻しつつ、服装はきちんと軍服である。プリキュアになれる者たちは、その変身前の容姿を使うようになり、撮影したポスターが没になった腹いせで、プリキュアの変身者の容姿で再チャレンジし、今度は認められた事から、竹井は荒れていた。要請があったから、本国からひかりと静夏をわざわざ呼び寄せたのに、ポスターを没にされたからだ。海藤みなみの姿になっていたのは、その苛つきを抑えるためでもあった。

「みなみちゃん、苛ついてるね」

「それはそうよ、みゆき。ポスターを没にされたのよ。全く、わざわざ本国から呼び寄せたのに、静夏とひかりを」

後に彼女達へ慰謝金が出たほど、理不尽な理由での没らしいのが分かる。また、二人を手ぶらで帰させるわけにもいかず、ひかりと服部静夏を少尉に任官して、前線勤務にせざるを得なかった事も苛つきの原因らしく、普段は温厚な竹井にしては珍しく、苛つきを顕にしていた。

「あの二人は当面は後方で訓練だけど、ポスター撮影のために前線に呼んだなんて、あの子達には言えないでしょ?」

「確かに。作戦に参加させた実績は持たせないと、本国に返せないしね。だけど、やっぱりあの二人は強い因果の持ち主だよ、みなみちゃん」

「それは思ったわ。でも、これから、日本の都合に合わせないといけなくなるのはね…」

「仕方ないさ。そういう時代になったんだ。あたしたちは他の世界よりも修羅の道を歩む事になる。ゲッターエンペラーに魅入られたから、かもね」

「ゲッターエンペラー、か…。究極最大のゲッターロボ、ゲッタードラゴンの末裔…」

「あれに見出された以上は戦うしかないさ。ポスターは残念だったねぇ……。あたしたちの素でだめで、プリキュアの変身者でOKなんて、どうなってんのさ」

「それは私が聞きたいくらいよ。全く、あの子達の扱いは困ったわね…」

「…全く、日本は何を考えてるのでしょう」

「その通りよ、ペリー……、…と、と、と…トワ!?」

「うっそぉ!?」

「お久しぶりですわ、みなみ、みゆき」

「やっぱり、ペリーヌさん個人にトワちゃんの因子があったのか…!」

ペリーヌが来たのかと思ったら、兼ねてから予測はされていた『紅城トワ/キュアスカーレット』が現れたので、みゆき(芳佳)は吹き出し、みなみ(竹井)は驚天動地であった。モードレッドの人格とは別に、ペリーヌが個人として、Gウィッチ/プリキュアに覚醒した姿だが、口調は元々、同じようなお嬢様言葉であるので、みなみでも判別が困難であった。

「ええ。モードレッドも驚いています。私も前世と今生で似たような境遇なのは驚きで……」

「声色が同じようなもんだから、ますます聞き分け困難だよ、トワちゃん。しかもペリーヌさんとしても領主の娘で、その姿だとモノホンのお姫様じゃん。変身は?」

「できますわ。プリキュア・プリンセスエンゲージ!」

プリンセスプリキュアの変身アイテムが出現し、彼女をプリキュアへ変身させる。ペリーヌはこれで、キュアスカーレットであり、モードレッドでもあるという、凄まじい三重属性を得た事になる。

『深紅の炎のプリンセス!キュアスカーレット!!』

名乗りをバシッと決めるスカーレット。生前の通りの名乗りだが、ここでみゆきがプリンセスプリンセスの力の根源が『生前』のそれと別のものである事に気づく。

「おー!お見事。ん?そ、そうか!転生した事で、プリンセスプリキュアの力そのものが魂に宿ったんだよ!そうでないと、戦いが終わった後に変身できるはずがないよ!」

みゆきがここで、プリンセスプリキュアに関して、ものすごく重大な事を指摘した。みなみ、トワの所属する『GO!プリンセスプリキュア』は変身アイテムとなるキーが力の根源であったため、全ての戦いが終わった後、キーが眠りについたため、プリンセスプリキュアの変身能力は失われたはずである。ただし、危機が訪れたが故に能力が復活し、キーが出現したのか、サイコフレームの力で新たなキーが転生で生まれたのか、変身能力そのものが魂に宿ったのか。この時点では、みなみもスカーレット(トワ)にもわからなかった。のぞみ達は変身能力そのものを修行で獲得しているため、ペリーヌとして、『異能』に目覚めていたために起こった奇跡なのか。この時点では判別が不可能であった。

「そう…ですわね」


「なら、私達の変身能力はいったい…?」

「さーね。こればっかりはなんとも言えないね。響ちゃんも、生前で不可能だった単独変身ができてるしね。智子さんに報告しにいくよ。スカーレット、一緒に」






――智子の執務室――

「あの、智子さん」

「ああ、あなたなの?用件は?」

「実は…ペリーヌさんがもっとすごいことに」

「すごいこと?」

「こういう事になってしまって…」

「うぇ、うっそぉ!?」

「す、スカーレットぉ!?マジかよっ!?」

「プリキュアは何人いるんだ…?」

「黒江さんの予想通りの結果になりましたよ…。どうします?」

「うーん。綾香が視察から戻ったら、会議を開くわ。だけど、あなたまでプリキュアに戻るなんて。これぞ、転生の神秘ね」

「どうします、閣下」

「会議で、この子の扱いを議論するわ。ド・ゴールがまた泣くわね」

部屋に集まるみゆき(芳佳)、響(シャーリー)、智子、ビューリング、ハルカ、スカーレットの六人。ペリーヌ個人として、プリキュアに覚醒した事は自由ガリアとしては、恨み節の一つでも吐きたくなるだろう。ノーブルウィッチーズの隊長に相応しいと言える属性を完全に得たからだ。(プリキュアとして、GO!プリンセスプリキュアだったため)智子がそう言ったのは、ノーブルウィッチーズが日本連邦の提言で本格始動前に死産に追いやられた事を『自国に恥をかかせた』と逆恨みするガリア軍高級将校は多い。それが後の日本連邦とガリアの戦争の伏線となってしまうのである…。



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