外伝その301『登場、キュアスカーレット』


――日本で流行るフェミニズムはウィッチ世界からの苦情もあり、急激に陰りを見せた。ウィッチの特権とされたものが縮小された一方で、Gウィッチに関しては、歴代ガンダムのパイロットと同様に、『戦局を左右する戦士』であるとされた事から、『特権階級』と実質的に扱われるようになった。防衛大臣が好意的であったこともあって、彼女らに関しては、通常のウィッチと明確に区別されて扱われるようになった。これがGウィッチが市民権を得る最初の契機であった――









――ペリーヌ・クロステルマンは紅城トワ/キュアスカーレットの転生体であった。黒江が兼ねてより予想していた通りであったが、存在が三重属性になるため、ものすごくややこしい存在でもあった。その特典か、モードレッドの宝具である王剣を素で召喚可能であった。『燦然と輝く王剣』の本来のスペックを、キュアスカーレットの姿であれば、思う存分に引き出せる事を意味する。――

「燦然と輝く王剣…、その姿で使えるのね?」

「ええ、モードレッドが許してくれたようです」

「プリンセスプリキュアであるあなたが使えば、カリバーンと同等の威力を出せるんじゃない?」

「おそらく、モードレッドは正統な持ち主であるアルトリアの許しを得ずに使っていたので、スペックが低下していたのでしょう。ですが……、私であれば、本来の能力を引き出せるはずです」

キュアスカーレットは生前と異なり、宝具である『燦然と輝く王剣』の使用が可能になっていた。モードレッドと同一の存在となっていることもあるだろうが、ペリーヌ・クロステルマンとしての能力を活かせる武器を得られた事は大きい。(後に、キュアドリームも錦としての剣技を活かすため、色々と『剣』を使う事になるが)

「ペリーヌとモードレッドのスペックが反映された結果ね。あなた、鳳凰属性あるんなら、鳳翼天翔でも覚えたら?」

「それはいきなり、ハードルが高すぎますわ…。それを覚えたら幻魔拳も覚えなくては…」

「分かってるじゃないの」

智子の言葉に戸惑うスカーレットだが、自我意識はペリーヌ・クロステルマンと紅城トワの混合である。双方が似た性質かつ、似た境遇、似た出自(方や、領主の出、方や、王女)を持っていたため、言葉づかいなどでは判別不可能なレベルの親和性であった。ただし、ガリア復興に邁進するあまりに自らを顧みない傾向の強かったペリーヌ・クロステルマンの気質はやや薄れ、紅城トワとしての気質と、モードレッドの世俗じみた面が出ている。ペリーヌがツンデレ過ぎたとは、芳佳の談。キュアスカーレットになったことで、ガリア政府関係者に影で『独善的』とさえ言われていた事は苦々しく思っているようである。

「しかし、プリキュア戦士が増えつつあるとはいえ、虫食いみたいに、歴代でバラバラというのはな」

ビューリングはプリキュアがバラバラに現れる傾向に苦笑する。

「仮面ライダーやスーパー戦隊、メタルヒーローの日本三大ヒーローだって、各々の都合ってのがあるし、仮面ライダーは昭和ライダーと平成ライダーで、あまり関係が良くないのよね。それを思えば、昭和ライダーの助けが得られているのは幸運なのよ。プリキュアの登場がバラバラなのはしょうがないわ。もし、敵に、とある世界の『高次物質化能力者』が甲乙問わずいたら、普通の軍隊じゃ歯が立たないしね。昭和平成を問わずの仮面ライダー達か、聖闘士/鎧戦士のあたしと綾香、それとのび太、英霊で対処するわ。プリキュア達は対人戦には、まだ未熟だもの。シャッフル同盟にも連絡を取っておくわ」

シャッフル同盟。コロニー格闘技五天王の別名を持ち、その戦闘力は人外と謳われる。ここ数代はガンダムファイターから選出されており、東方不敗マスター・アジアが元はネオジャパンの代表で、シュウジ・クロスという名前であったのも有名である。また、高次物質化能力とは、ある世界で『HiME』、あるいは『乙HiME』と呼称される、甲乙に区分される能力のことで、いずれも通常の軍隊では歯が立たない強さを持つ。それらの異能に素で対抗できるのがシャッフル同盟である。

「スカーレット、あなたを含めたプリキュアは訓練の必要があるわ。対人戦のね。あたしらは前史で聖戦を含めての経験があるけど、あなた達は完全に人の姿の敵と戦った経験はそれほどないでしょ?」

「確かに、それはあたしも否定しないよ。ただ、乙式なら、あたしもできないことは無いと思うぜ。記憶にあるんだ。それの」

「響、あなた…、もしかして、惑星エアルの『ニナ・ウォン』の記憶も?」

「ああ、持ってるよ。フラッシュバックの中にそれらしい場面があったしな。そうなると、大洗の元バレーチームのアイツを疑う必要が出てくるけどな。ペリーヌがスカーレットだった以上、ありえないこともないから困るぜ」

響(シャーリー)はそういい、『条件』さえ合えば、自分はマイスター乙HIMEになれると明言する。

「確かに、アストルフォも三重属性(ロボットガールズと英霊、プリキュア)だし、あんたも、そういうのはあり得るわね。だけど、あの能力は『海神の翠玉』だか、『漆黒の金剛石』が必要でしょうが。甲式と違って、そこが面倒よ」

「まぁな。その影響もあるかもな、あたしが奏無しでプリキュアに変身できるの」

「しかし、これでド・ゴール将軍には愚痴られそうですわ。ますます、断った理由に疑問持たれそうですし」

「ああ、そりゃ言える。お前、確か…、一国の王女だろ。無くなったノーブルウィッチーズにうってつけだもんな。結果的に日本の横槍でダメになったけど」

「確かに、フランス革命で王制は打倒しましたが、ノブリス・オブリージュ自体は否定しておりませんのに。日本にだって、華族は消えても、皇室はあるでしょうに」

日本がウィッチ世界の軍事への口出しを減らし始めた最大の理由が『ノーブルウィッチーズ』の死産がガリア/フランスとの国際問題になる事を恐れたからであった。ノブリス・オブリージュそのものを否定するのかと日本とガリアで応酬があり、ガリアもルイ17世への残酷な仕打ち、ロベスピエールの恐怖政治が槍玉に挙げられ、日本への反論を言い淀むなど、醜態を晒した。(フランス革命周りの出来事に関しては世界間の差異がなかったため)しかしながら、本格始動寸前の国際部隊を強引に事実上の解散に追いやられた事で、連合軍のガリア本土防空体制が混乱した事には変わりはない。また、退役寸前のロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネを引っ張り出したのに、『活動実績がない』内に、ノーブルウィッチーズが書類上の存在になってしまった事は、連合軍の構成各国の国際協調に打撃を与えてしまった。日本外務省が事の重大さを理解したのは、ガリア/フランス、扶桑の各国家から猛抗議が来たからで、日本政府首脳は、『501にノーブルウィッチーズ旧メンバーをそっくりそのまま編入する』という地球連邦軍の提案を受け入れ、司令部付きになったロザリーを除く人員は501に編入された。米国が国際協調用の部隊は数個のみでいいとした事もあり、以前よりエースとされた者は501に集中して配置され、508も実質的に凍結され、肥大化した501が64の一部として活動する状態であった。また、ライセンス料ボッタクリ事件に始まる日本のカールスラントへの不信から、武子が明確に最上位者に位置づけられるなど、501内でのカールスラントの地位は扶桑より下位とされた。また、カールスラントの撃墜王とされた人員のスコア調整の精査にロシアが絡んだため、あからさまに悪意があるものになり、現場の士気が目に見えて低下したため、アメリカが再精査し、上方修正させる羽目になるなど、カールスラントはその面で大打撃を被った。カールスラント四強のそれまでのスコアは害獣駆除の参考記録に変わったが、皆、ダイ・アナザー・デイだけで50機の撃墜スコアは挙げているため、ダブルエースである事には変化はない。相対的に未来世界で活躍済みのレイブンズのスコアが突出したと言ってよく、撃墜王ランキングはこの時点で、扶桑出身者がトップ10を占めるようになる。それを『たかが銃後向けの宣伝でしか無い』と怒った海軍中堅層がクーデターの中枢を担っていく。クーデター軍の士官層がカールスラントの崇拝者であったため、カールスラントは政治的に苦境に陥る。同時に、エーリカ達が太平洋戦線に従軍するため、表向きは予備役に退くこともあり、クーデター後に白眼視された扶桑海軍航空は冬の時代を迎えるのだ。

「スカーレット。あなたとこなんて、まだいいわよ。うちなんてさ、海軍があと数ヶ月から半年もすれば『クーデター』起こすし、粛清人事も伴うから、次の戦線の半分以上は空母勤務になりそうなのよね…。日本はクーデターには一切の情けをかけないから、空母航空隊の任務代行でこき使われそうでね」

「た、大変ですわね…」

「ベアルンくらいしか、空母がないあなたの国にはわからないだろうけど、太平洋の空母大国ともなると、空母航空隊は大世帯なのよ。リベリオンの新型に対抗するために拡充したら、今度はジェット化で圧縮させられそうだし」

「ああ、ウチのエセックスとミッドウェイだろ?いくらなんでも圧縮は無理だろ。今更、20も作った雲龍型の全部をいきなり除籍はできないし、強襲揚陸艦を新規で用意するには時間がかかるんだぞ?」

「だから、程度のいい初期艦を防空空母、工作精度の落ちてる中期以降の艦は各種用途に転用で落ち着かせたのよ。戦後と違って、空母の数が戦力に直結する時代だし。この作戦にも10隻は出させたわ。軽空母扱いでね」

「艦載機を思いっきりチートして、やっとトントンだしな。敵は陸上基地に展開するだけで数千機いるし」

「艦載機入れると、有に7000機を超えるわ。空を覆う敵機とは、よく言ったものね」

「B公はブリタニアを無視して飛んでくるし、艦載機は軽空母と護衛空母でどんどん運ばれる。陸上だから、パイロットも徒歩で帰還できる。潜水艦の攻撃で護衛空母を減らしても、数週間で一隻ができる。富嶽で攻撃できねぇの?」

「日本が反対してるのよ。飛天の配備にさえ反対したし。この戦いで専守防衛だけじゃ、守るのも限界があるって分かってくれればいいけど」

ダイ・アナザー・デイが長引く要因は航空戦力の物量差もその一つであり、扶桑が外地に展開した全ての陸上戦闘機をかき集めても、数千機(3000機)程度でしかなく、新規に生産される五式戦闘機が、次第に一式戦闘機を代替していった。日本は三式戦闘機を嫌い、現地改造の横行を懸念していた(稼働率の変動)ため、手慣れた空冷エンジンの五式への改装を指示したが、三式の外地展開個体の少なからずは原型機のエンジンに換装済みであり、日本側を困惑させた。(DB605系のエンジンになった個体も多かったため)軍事面でのカールスラントとの関係の維持の問題ものしかかった日本連邦。その兼ね合いで五式戦闘機が新規で調達され、使用数は三週目には、二個航空軍を充足するに至り、史実より生産数が遥かに少ない一式戦闘機と交代しつつあった。








――ジェットとレシプロの轟音が入り混じる前線の飛行場では、キ43は三型へ改装され、キ44は鹵獲エンジンが手に入った個体のみ、扶桑基準の三型へ改装されていく。世代を超えたジェット戦闘機達が颯爽と発進していき、それと入れ違いに、レシプロ戦闘機が着陸する。黒江達はその様子を視察しに来ていた。

「先輩、前線の視察って予定にありました?」

「広報の連中がポスターを没にしやがった当てつけだよ、当てつけ」

「現実感ないなぁ。自衛隊のジェット機と日本軍のレシプロ戦闘機が同じ飛行場に並んでるの」

ラブが辺りを見回して言う。のぞみにしても、F-4EJとF-86、F-104Jと、旧軍の戦闘機が同じ空間で整備を受けているというのは現実感がないので、頷く。

「F-4EJ改なんて、年式だけは新しいが、耐久年数ギリギリのポンコツだぞ?ノズルは取れる、脚は折れるやら…。上に文句いったよ」

黒江が自衛隊の責任者として従軍する頃には、F-4EJ改は退役寸前のポンコツで、経年劣化による不具合続出で、使い物にならないものもあった有様である。その関係で地球連邦軍から機材を融通してもらったのだ。

「自衛隊連中の羨望の的なのが、あのハンガーから出てくるコスモタイガーだ」

自衛隊に所属した記録のあるジェット機と隔絶したフォルムを持つ、緑と白のカラーリングの戦闘機。地球連邦軍の主力戦闘機であるコスモタイガーUである。自衛隊から羨望の的とされるように、恒星間航行艦の機動兵力を担うために造られつつ、20世紀の戦闘機じみたフォルムを保つ流麗な姿から、人気がある。ハンガーで整備を終えたばかりの姿で、自衛隊員達が集まって来ている。実際に実物になると、コスモタイガーは21世紀のパッシブステルス全盛時代と逆行する形状であるからだろう。後期型なので、ハードポイントが増えており、機首も延長されている。21世紀の戦闘機と違い、パルスレーザーで機銃の弾切れがないなど、23世紀型らしい特徴を見せつけている。既に大勢の隊員が列を作っており、大人気であった。

「お前ら、コスモタイガーがそんなに珍しいか?」

「統括官」

「ヤマト以外にも配備されてるんだぞ、これ。ブラックタイガーより、大気圏じゃ小回り効かんが、火力は上だ」

「統括官はお乗りに?」

「23世紀の地球連邦軍じゃ、ごくありふれた戦闘機だぞ、コスモタイガー。陸上戦闘機としても多くが配備されてるしな」

ありふれたと表現するように、コスモタイガーはデザリアム戦役直前には地球本星、月、火星などの内惑星地域の守備隊にまで行き渡り、ブラックタイガーを退け、名実ともに主力にのし上がった。その扱いに最も長けた部隊がヤマトの艦載機隊で、元は月面基地航空隊が転じた部隊である。機体のカラーリングはデザリアム戦役の前に制定された新カラーで、ガイアでコスモタイガーが、『1式空間戦闘攻撃機』として採用され、裏取引含めての売り込みが成功した兼ね合いで、誤認を防ぐために変更されたものだ。以後、アースフリート所属のコスモタイガーは『機体上面を濃緑色、下面を明灰白色とする』ようになった。元はヤマト航空隊の塗装であったモノが採用されたという経緯がある。これはガイア側も、キャノピー周りのカラーリングをオリジナルから変更するなどの配慮を行ったため、その問題は解消されたが。

「統括官、なんで旧軍カラーに?」

「23世紀でのことだが、もう一つの地球に売り込んで、採用されたからだよ。見分けのためだ。23世紀の地球はヤマトのオリジナル版の歴史辿ってるのと、反対側にリメイクバージョンの歴史の二つがあるからな」

「当然、これのほうが高性能になると?」

「まあ、実戦をいくつか経験して熟れた戦闘機だからな。ガイアに渡したのは初期型の設計だって話だしな」

「基本性能に差は?」

「こっちのほうが航続距離が長い。大帝が死んだ後、ガトランティスの技術で航続距離を伸ばしたからな。土星のタイタンから、木星の衛星まで往復のフェリーフライト出来るからな」

アースフリートはフェーベ航空決戦を経験しているため、艦載機の航続距離を延伸させ、宇宙戦闘機もある程度の戦略性を持つようになった。フェーベで奇襲をしたのは、当時のコスモタイガーを含めた艦載機は白色彗星帝国の艦載機より航続距離が短いからである。その戦訓から、エンジンの効率にうるさいのだ。

「統括官、具体的にはどこです」

「タイタンとガニメデだったかな?まぁ、地球と火星の最遠距離を無補給で往復出来るくらいとは、真田さんから聞いた。ガイアの持つワープブースターより小型でフィットしてる形状のやつなら、フォールドブースターと同時期に造られてるから、片道10光年だな」

「統括官は視察に?」

「そうだ。今日はお付きがいるがな」

「お付き?」

「おーい、お前ら。出てきていいぞ」

「はーい」

自衛隊の隊員達がざわめく。扶桑の軍服(旧陸軍の軍服でもある)は着ているが、夢原のぞみと桃園ラブ。二代のプリキュア戦士達が変身前の状態で黒江の護衛という形で現れたため、歓声が挙がる。歓声が黄色いのはお愛嬌だ。

「せ、先輩〜…」

「プリキュアなんだから、連中の黄色い歓声はお愛嬌だろ」

困惑するのぞみに黒江が冷静に言う。芸能活動をしていて、場馴れしているのか、ラブは普通に応対している。

「ラブを見ろ、ラブを。普通に応対してんだろ」

「そりゃ、ラブちゃんはうららみたいに、芸能活動してたし!わたしはたかが教師ですよぉ〜!」

生前の職業もあるのか、自衛官達の黄色い歓声に困惑しまくるのぞみ。芸能活動で場馴れしているラブと違い、一教諭でしかなかったため、いい年した自衛官の歓声に狼狽えまくる。

「あのなぁ。先生なら、集まってくるの、生徒だと思えば良いじゃねぇか。お前、教師になっても、そういうとこは現役時代と変わんねぇなぁ」

呆れる黒江。のぞみは現役時代から変わらない側面も残っているため、ラブよりドジっ子属性が強い。暗い面もできたが、一方で、現役時代と変わらぬ間の抜けた面があるままで成人した面もある。

「りんにツッコまれるぞ?朝礼で注目されるより数は少ねえだろう。」

「ひーん、先輩の意地悪ー!」

「りんの代わりのツッコミ担当だぞ?ミルキィローズとキュアレモネードはまだ戦車道世界だし」

この頃、りんはみなみ(竹井)の従卒扱いで大忙しであり、のぞみの面倒を黒江に託していた。みゆきから、うららとくるみが戦車道世界にいることも知らされていたので、潤滑油のような役目を担っている。

「うらら〜、くるみ〜、たーすけーて〜…」

「だみだこりゃ。パニックしてやがる」

「統括官、ラブちゃんとのぞみちゃんはどういう扱いで?」

「俺の直属だよ。みゆきは坂本の直属だし、響はクロとイリヤの面倒見てるし」

ここで芳佳(みゆき)は、プリキュア化後も坂本の直属の部下扱いであること、クロとイリヤは響(シャーリー)が面倒を見ている事が語られる。クロとイリヤについては、エイラがかなり文句をつけたらしいが、クラスカードや能力の関係でセットになったという。

「ラブ、やれ」

「はーい。ちょっとごめんね、のぞみちゃん」

「ぶははは……はは…!いきなり何するの〜!」

「ショック療法。効くよ、これ」

脇腹を掴んで、腹筋の脇に腹側筋掴むように指を押し込んで反射で笑わせるラブ。芸能活動をしていた分、こういう分野には元から詳しく、黒江の指示をすぐに実行できた。

「どう?効いたでしょ?」

「き、きついって」

「まあ、こういう場に慣れないと、幸せゲットできないよ?」

「はい、お馴染みのフレーズ入りまーす」

「お前ら、ガチだな…」

と、的確な掛け合いをラブの口癖が出た直後にやる黒江と自衛官達。自衛官には10年来のプリキュアファンが多いため、現役時代の口癖にはすぐに反応が帰ってくる。ラブは『幸せ、ゲットだよ!』が現役時代の口癖であったので、思わず笑う。のぞみはラブに釣られる形で笑顔を見せる。出身世界の出自故に、暗い面が生じているが、この時は現役時代に戻った気分になれたのだろう。

「せっかくだ。修行をやり始めたことだ。パワーアップした姿を見せてやれ」

「よ、よーし!みんなー、変身を見たいかー!」

『おー!』

「私たちの現役時代の裏話聞きたいかー!」

『おー!』

「ウルトラクイズだな、こりゃ」

黒江のツッコミをよそに、ウルトラクイズさながらのMCから、二人は現役時代からパワーアップした変身を『オリジナル』の掛け声と共に披露した。

『プリキュア・シャイニングメタモルフォーゼ!』

『チェインジ・プリキュア!エンジェル・ビートアーップ!』

それぞれの最強形態の名を入れてのオリジナルの掛け声である。任意で生前の最強形態になる事の意義。自衛官たちはまさに天にも昇る心地である。

『想いを咲かせる奇跡の光!シャイニングドリーム!』

『ホワイトハートはみんなの心!羽ばたけフレッシュ!キュアエンジェルピーチ!!』

変身アイテムを使わずに変身する。その姿が究極形態という点で、黒江は仮面ライダーアギトを思い出した。津上翔一も最後の戦いで、変身ポーズを普段と変えることで、アギトのシャイニングフォームになっていたからだ。

(高次世界の意志と祈りが二人に力を与えたかもしれねぇな。その点は津上さん…仮面ライダーアギトに似てるな)

最強形態をサービスで披露できるようになったあたりは、高次世界の意志(ゲッター線と光子力か)も関係していると推測する黒江。のぞみは変身してしまえば、スイッチが入る性格になっているようで、さっきまでと違って饒舌になっている。黒江が訓練として課している、小宇宙の制御は厳密に言えば、安定して最強形態になれるようになるための補助訓練であると言えよう。

「なぎささんとほのかさんの事はどう思ってるのー?」

「あの二人は一緒に戦った友達だよ〜。代が離れた後輩達はちょっと近寄りがたい感じにしてるけど、わたしとピーチにとっては、同い年の友達って感覚なんだけどね」

共闘回数も多く、代も近いドリームとピーチにとって、初代とスプラッシュスターの五人は単に『友達』であり、仲間という感覚である。代が離れていくと共闘する機会も少なくなるので、その感覚は共有しずらくなる。魔法つかいプリキュアは2010年代後半期のプリキュアながら、共闘経験を持つため、比較的に初期のプリキュアに近い感覚を持つ。

「そうそう。最近のプリキュアじゃ、魔法つかいプリキュアとは会ってるよ。ドリームはその時は捕まってたけど」

「そーなんだよー。元祖ピンクなのに、とんだ醜態を…」

「初代でしょ?元祖」

「厳密に言えば、初代ピンクはわたしだもーん!あの時は不意打ちだったしー!」

明確にピンクのプリキュアとされた最初のプリキュアはドリームが最初であるため、矜持があるらしく、魔法つかいプリキュアが最新のプリキュアだった時代の戦いで捕まっていた事が悔しいようだ。

「あの時の反省点は掛け声がバラバラで、ルルにツッコまれたとこかな?必殺技もミラクルに揃えてもらったからさー」

ピーチが笑い話にするその出来事はドリームにとっては悔しい出来事でもあるため、苦笑いである。自衛官達はドッと笑う。

「それで、ドリーム。お菓子の国で前代未聞のキスをしたことはどうなのー?」

「え、い、いやぁ、その、あの、は、恥ずかしいなぁ。その事は」

「あ、昔、ココがタルトに言ってたなぁ、そんな事」

「えー!?そんなぁ〜!?そこからぁ!?」

ピーチは妖精ルートでドリームの一世一代かつ、前代未聞の接吻を聞いていたようである。それを今更知り、効果音の『ガビーン!!』が似合う顔のドリーム。ドリームはパルミエ王国の王子である『ココ』と種族を超えた恋愛関係にあり、敵の洗脳の解除という解除という名分があったにしろ、キスをしてしまった。10代の頃の甘いロマンスの思い出であるのだが、自衛官達にバレている上、ピーチにもバレていた。ヤケクソになりつつも本心で気持ちを言った。

「ふ、ファースト・キッスだったけど、ココを助けたかったんだもん!ムシバーンに操られてて、それで……。あ、あ、あの時は本当に必死だったんだもん〜!」

「かわい〜!!」

顔を真赤にして、それを大声で言ったドリーム。恥ずかしさと、長年隠していたことを吐き出した事の開放感とが入り混じっていたが、ココへの想いがまだ残っている事の表れであった。顔から湯気が出ており、現役時代はりんにも言えなかった反動である事が容易にわかり、恋愛に関しては一途である。その彼の面影を、同じような雰囲気を放つ青年のび太に重ね始めているのだと、黒江は悟った。

(そうか、あいつがのび太に心を開いたのはそういうわけか。あのスケコマシめ。女房とガキがいるのに、あだ名が大関スケコマシだからなー)

のび太は優しさに裏がない。成人後は端正な顔立ちで、甘いマスクで通ったこともあり、少年期がウソのようにモテモテであった。それはのぞみ、調、はーちゃんのような存在であろうとも変わらない。そんな優しさが彼の人間的魅力である。特に親しい黒江たちから『大関スケコマシ』とあだ名されたが、それはたとえ、のぞみや調のように、経緯ゆえにどこか影を持つ少女の内に眠る素直さを自然に引き出し、心を開かせる。成人後ののび太は『誰かのそばにいてやることの意義』を知っており、それを純粋な心のままに実行する。その一方で、キャプテンハーロックには『人間は、たとえ負けると判っていても、戦わなければならない時がある。死ぬと判っていても戦わなければならない時がある。誰しも、後に引けない時がある。命をかけて行かねばならぬ時がある。のび太はそれを知っている』と評され、彼に『同志』と見なされているほどの侠気を併せ持つ。その誰がための勇敢さと優しさ。それがハーロックの求める理想像でもある。黒江はのぞみが不幸な晩年期に何を失い、何を渇望していたのか、なぜ、のび太に心を開き始めているのか。その理由を解明したのだった。



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