外伝その321『自衛隊と旧軍の遺産』
――ウィッチ世界は結局、国際秩序がイタリア半島以外は第一次世界大戦以前の状態であったのを、日独の一部勢力が第二次世界大戦後にまで時計の針を進めようとしたため、オラーシャ帝国は衰退し、カールスラントは欧州の領土の権利を持つものの、実質は南米に封じ込められた状態になってしまった。ブリタニアは経済に陰りが見え始めていた時期であったため、財政の問題でイギリス側の都合で派兵規模が縮小されてしまった。日本連邦はその代わりに矢面に立つことが求められた。ただし、ブリタニアが扶桑へセンチュリオンとコンカラーを売る事は英国が積極的に促したため、この時期の日本連邦の保有する装甲戦闘車両の何割かはブリタニア系の車両であった。旧日本軍系の装甲戦闘車両の多くが旧式化を理由に、強引に処分された兼ね合いである。日本連邦は外圧で戦線の矢面に立つ事を求めることに応えざるを得なくなったのを、質で補おうとし、陸でメーサー兵器を、空では可変戦闘機と可変MSを、海ではメカゴジラシリーズを投入し、23世紀(ごく一部しか、その事は認識していないが)への面子を保つために、扶桑の現地部隊の行為を黙認した。その兼ね合いと特例で扶桑陸軍の機甲装備はこの時期、ブリタニア製装備や未来世界の装備がかなりの割合で混在していく事となった。――
――英霊、プリキュア。この2つに関しては、既にウィッチ世界の軍人である者が目覚めたケースも続出していた。全てが日本連邦の所属の所属ではない(アルトリア・ペンドラゴンはこの時点では、カールスラントの所属。北条響は自由リベリオン所属である)ため、日本連邦の一存では処遇を決められないというのが、日本政府と防衛省の公式回答だった。プリキュアを戦争に駆り出すことには反対論があったが、みゆき(芳佳)の演説でおおかたは沈黙したし、戦闘行為の合法化という観点からすれば合理的であった。――
――空母――
「現場のカールスラント系部隊は、殆ど使い物にならん。参ったものだ」
「空戦ウィッチはロシアの介入でスコアを参考記録にされましたからな。士気が壊滅的になるのは仕方ありませんよ。彼女達を押し出すのが最善なんでしょうな」
「それに、メッサーシュミットとフォッケウルフ系の機材は殆どが旧式化と航続距離の短さを理由に回収され、日本とアメリカ系の機材が大半だ。辛うじて、フォッケウルフの艦上ユニット仕様は回収されなかったのが救いだが…」
ルーデルはそれまでの愛機(ストライカーユニット)のJG87/G型での出撃が不可能になっていた。その最後の出撃で片足を戦傷で失い、義足をつけているが、ウォーモンガーぶりは衰えていない。一時代を築いたカールスラント系の機材が日米の熾烈な兵器開発競争に置いていかれていく時代背景を嘆いている。カールスラントの開発力の衰え、ドイツ主導による航空産業の統合もあり、この時代以降の航空開発は日本連邦とキングス・ユニオン主導になっていく。また、カールスラント系は元来、欧州の最前線で用いるために航続距離が切り捨てられていたため、日米の洋上決戦には役立たずと言わざるを得なかった。これはグラーフ・ツェッペリン級空母用のユニットであったBf109Tの配備の頓挫のせいでもあり、カールスラントは頼みの陸上でも、P-51HとF2Gというレシプロ機の極限に達した機体に駆逐されつつあった。日本系は異常な旋回性能で対抗が可能だが、同じ性能特性のドイツ機では、ただ圧倒されるだけであった。(カールスラントのパイロット達の技能が史実のドイツ空軍の比でないほどに低かったためで、ウィッチ達に高練度者が集中していた弊害である。)
「日本は戦闘機に必要な航続距離を2000キロ以上と定めているが、そもそも、洋上でもない限りはそんな航続力はいらんのだぞ?」
「飛行場が史実ほど確保できないからだと思われますが、空中給油など、レシプロは対応していない。必然的に我が国の戦闘機は排除されるのです」
「まったく…。旋回性能で撚る日本のパイロットは異常すぎるぞ」
「日本は国土が縦に長い上、領海が広い故に航続距離を必要にしています。日本の基準なら、ドイツからドーバーまで飛んで、なおも空戦できます」
「まったく、連中ときたら」
「連中は空対空特攻もやらかしますからな。捕虜は皆、シェルショックに罹患しています」
「それはそうだろう。空母にいても飛行機が爆弾を抱えて突っ込んできて、爆撃機に乗ってても突っ込まれるからな。この世界の者達はもれなくシェルショックになるだろうよ」
日本の義勇兵は爆撃機への空対空特攻も辞さないため、リベリオン軍のみならず、味方をも『狂戦士』と恐れさせている。扶桑ウィッチの敢闘精神を更に押し進めたかのような振る舞いはカールスラント空軍をして、『狂戦士』と怯えさせていた。また、日本独自の制裁文化である『修正』も(地球連邦軍にも受け継がれている)他国軍人が震えあがる文化であり、緩くした形で自衛隊でも存続しているため、それも恐れられている。ドイツとロシアにより、JG52の戦績に疑義が持たれ、そのスコアを拠り所にしていたカールスラント空軍の前線部隊は士気が壊滅的に陥り、『使い物にならない』と判定されてしまった。連合軍はその代わりに、扶桑海七勇士の過半数が現役復帰し、全てのスコアが公認された扶桑皇国軍航空部隊を持ち上げている。その流れに戸惑ってしまった江藤と武子は、英雄を必要にする時代の流れに翻弄されたと言える。(武子は若手〜中堅時代は部隊戦果を至上と考えていたが、記憶の覚醒後は部下への体面もあり、個人スコアを伸ばしている他、智子への負い目からか、レイブンズの行為は全て黙認しているし、自分も白昼堂々と酒を飲んでいる)武子は特に、『英雄が必要にされる戦時』に現役復帰した故の葛藤を味わっており、以前の記憶が蘇ったとは言え、智子への罪悪感はかなりのものであり、最前線で常に戦うことを美徳とする姿勢に繋がっている。
「日本では、前線部隊で指揮を取った経験がないと、士官は将兵に評価されないそうだが、ある程度のエースになったら、後方に行かせんのか?普通はそれが…」
「日本は前線主義です。教員になると、前線に上が出さなくするので、前線に居続けるのが多いのですよ」
「日本はワーカーホリックだな。私が言えたものではないがな」
「東二号作戦は、明野の教員達を本来は我々の交代要員にする手筈だったのです。それが潰えたため、64に501そのものが取り込まれたのです」
「日本は教員を前線に戻そうとすると、すぐ『特攻に使う!!』と騒ぎ立てるからな。こちらはいい迷惑だよ。おかげでここ数週間は休めておらん」
流石のルーデルも、連日連夜の出撃で疲労困憊であった。日本は軍隊への誹謗中傷で、後方の育成要員と前線部隊要員が半ば切り離された状態であり、その事がGウィッチの酷使に繋がっていた。いくら自分達が『超人』でも休息は必要である。かのルーデルでも、だ。
「日本も我々もだが、英雄が部隊にいると、そいつに周りが頼り切りになる。江藤参謀や加藤准将の事変の時の懸念は当然だった。だが、後から処分を下すとはな。体のいい人身御供だな」
「退役した死亡者を後で裁くわけにもいかん故の兼ね合いでしょう。そして、日本は我々へ負い目がある。旧軍最後の遺産『ラ號』の存在を認めることになったそうです。地球連邦軍が23世紀に用いるし、日本を守るために用いる事が神宮寺大佐の遺志でもある」
「ラ號か……。日本の左派はこちらに迷惑しかかけん連中だぞ」
「連合軍が怒って、日本を制圧するのを恐れてるんです。我々が本気を出せば、日本の政治中枢を抑えるのは容易い。特に扶桑の新鋭戦艦は自衛隊の正規部隊のいかなる攻撃も弾く上、一撃で全ての艦艇を塵にする。ましてや歴代のプリキュアが戦闘部隊にいれば、並大抵の自衛官では止められない」
日本の左派勢力が真に恐れたのは、連合軍による日本本土の占領であった。扶桑の戦艦が自分達を超越する科学で改造された上、46cm砲も霞む51cm、56cm砲を積む新鋭戦艦。いかなるミサイル攻撃でも傷つける事ができない重防御。『核ミサイルと核魚雷、核機雷にも耐える』という宣伝は日本の左派を萎縮させたし、歴代のプリキュア戦士の少なからずを抑えているという事実は彼らを恐怖させた。連合軍が本気を出せば、自衛隊の主力を引きつけられている内に、政治中枢をプリキュア戦士達に抑えられる。彼らお得意の被害妄想の類だ。だが、軍隊の復権を押さえつけたい日本警察の一部は本気でその可能性を検討しており、警視庁の機動隊で対抗することがシミュレーションされていたが、歴代のプリキュア戦士達の存在がシミュレーションを破綻させていたりする。
「偉い被害妄想ですな」
「日本警察は極秘にそのシミュレーションを繰り返していたそうだ。黒江閣下が調べたそうだが、それによると、革新政権の時代から幾度となく繰り返されてきたそうだ。ただし、我々の存在がネックになり、玉砕が前提だそうだが。その結果が公表された事も、日本が我々に抵抗する意志を完全に無くした証だ」
「昔の日本での三ツ矢研究のようですな」
「その通りだ、中佐。日本警察にとってはそのくらいのスキャンダルだ。黒江閣下はそのネタを掴む事で、連中を黙らせた。国家公安委員長や警察庁長官の首がまとめて飛ぶスキャンダルだしな」
「公にしない代わりに、ごちゃごちゃいうな、と?」
「21世紀では、閣下は御年90を超えている計算だ。警察庁長官でも、自分の子供世代に当たるから、青二才扱いできるからな。その手法で脅したそうだ」
「それを言うなら、大佐のほうが21世紀の定年間近の層が孫でしょうに」
「ま、これも年の功だ。気に入らんのは、メッサーシュミットとフォッケウルフを陸上からも排除しようとした事だがな。陸上での空戦主体の戦なんだぞ?1000キロも飛べないとか文句を言うのは贅沢だ」
「日本機は紫電改で2100キロ前後、烈風でも1900キロを飛べる。新鋭の陣風なら2500キロ、空中給油もできる。洋上決戦を前提にする日本の戦闘機と、陸戦の直掩機の性格が強かったドイツの戦闘機では、比べる分野が違いすぎるのですがね」
ブリタニアとカールスラントは艦上機でさえ、航続距離は1000キロいくかいかないか程度のものだが、日本連邦は広大な領海整備のため、陸上機でさえ、最低でも1200キロの航続距離を誇る。リベリオンも航続距離が長い機種が多いため、結果的に洋上決戦では、日米の頂上対決の様相を呈する。しかも、当時のメッサーシュミットの主力であったG型が1700馬力前後であったのに対し、3000馬力に達しようかという新鋭戦闘機『陣風』と『F2G』の存在はカールスラントの誇ったはずの液冷エンジン戦闘機の陳腐化を招いた。ジェット機が登場し、これ以上に高性能機を作る必要性はないとされたのも悲劇であった。扶桑では日本の記録にない『キ99』がコンペに提出され、カタログスペックはレシプロ機の極限と言えるほどの高性能ではあったが、前線の整備兵の手に余ると黒江が判断するほどの複雑なタンデム構造のエンジンや、調整の難しい照準器などの負の要素で史実通りのキ100に負けている。黒江は『ザ・コクピットの衝撃降下90°をするつもりか?』とコンペの際に呆れている。実際、漫画のそれが化けて出たかのように、新技術を詰め込んでいた。黒江が『はぁ!?』と声を出したのは、空冷18気筒エンジンをタンデム構造で二基も積んでいたという、明らかに漫画そのままの仕様である。軍の担当者も、山越技師(長島で若手のホープを目されていたトチロー似の人物)に『貴様、レーサーでも作ってるつもりか?!こんなん前線じゃ一割も稼働しないぞ?兵器は熟練者だけが使えりゃ良いってもんじゃねぇ!阿呆が適当に使っても何とか使い物になってくれるくらいが理想なんだよ!!』と罵倒じみた言葉を浴びせている。山越技師は『P-51とP-47の性能を超えるには、これくらい盛らなければ』と持論を展開した。しかし、レシプロの構造上の限界速度と強度に達していると言えたが、二重反転プロペラ、2000馬力エンジンのタンデム一体化構造、排気タービン装備と盛りすぎであった。更に自動空戦フラップ搭載である。明らかに大量生産など不可能なもので、如何に大日本帝国より恵まれた条件を持つ扶桑でも、主力機に採用などできない代物である。当然ながら、キ99はコンペで落選したわけだが、後にクーデター軍に下り、『衝撃降下90°』を実践する最期を遂げるのだ。黒江たちがキ99のテストパイロット『台場大尉』を弔うのを1946年以後、毎年の習慣にしていくが、彼が愛機の空中分解を起こす寸前に敬礼をしつつ、満足げな顔で死んでいったのを目にしたからだろう。
「例のキ99はどうなる?」
「わかりませんな。クーデター軍に降るでしょうが、まさか、漫画の通りに急降下して散華するとも思えませんが…」
「万一がある。注意しておけ」
「ハッ」
この頃、ストライカーも次第にF-86ストライカー(ジェットストライカー黎明期最高傑作で、究極の第一世代理論型とされる)に駆逐されだし、扶桑は既存機の生産と、大量生産の頓挫した烈風をベースにしてのチューンナップでのエース専用機生産に舵を切っており、64でも、カールスラント系の機材はあくまで予備機であった。
「今はエース専用機を作るのが容認されるからな。マルセイユ中佐は嫌がっていたが、扶桑は環境テストを配備前に済ませているはずだ。テスト部隊は廃止されるが、メーカー側が自主的に環境テストをしているからな…。宇宙の試験前に投入されて高性能をマークしたファーストガンダムは例外中の例外だ。あんな超高級仕様、普通は使わんよ」
「奴は42年に死にかけてますからな。その時に加東閣下の暴れぶりを目にし、犬のように従順になったと言うが」
「やれやれ。今は日本連邦の時代に入りつつある。それは認めんといかん」
「ですな」
ミーナとルーデル。カールスラントの二大撃墜王も、軍事でカールスラントが主導した時代から、日本連邦が主導権を行使する時代に変遷しつつある事を実感しつつある。ただし、航空産業では、21世紀までは米軍のライセンス生産機が主流になっていた日本であるため、その分野ではリベリオンの天下であった。ただし、要員の質は若年層の層が厚いとされたカールスラントではRウィッチの誕生率が低いために、ゆっくりであるが、徐々に全体の質は低下していく。一方の扶桑は世代交代を内外的な複合的要因で堰き止められた影響で、全体の質はむしろ安定するという状況になる。黒江達を始めとする『事変世代』が現場の屋台骨として定着し、それらを更に二大最古参が統率する絶対的なヒエラルキー構造が戦乱で定着するに至る。扶桑系のGウィッチはヒエラルキー上位を全員が占めるため、自分達がいつまでも小僧呼ばわりされかねない『ヒエラルキーの形成』を恐れる一派の非合法含めての攻撃に遭う事が多いのも、この時期の特徴だった。
「はい。こちら…。ああ、閣下ですか。え、刺客の攻撃を受けた?」
「しょんべんしてたら、トイレで襲撃された。整備兵に化けてた忍者のようだが、返り討ちにしてやった。中野学校の出身だろうから、これから黒田にスカーレットニードルさせて、じわじわと拷問する」
黒江は空母のトイレで刺客に攻撃されたが、一瞬で返り討ちにして、尋問担当の黒田に突き出したと伝える。
「ほどほどにしてくださいよ。半殺しにしたら、『事故』として処理出来なくなります」
「黒田には言っといた。切るぞ」
黒江はGウィッチの中心と反対派から見做されており、作戦中に刺客に襲撃される事がままあった。しかし、あまりに超人であるため、刺客は尽く返り討ちに遭い、中には心酔して、そのまま黒江の従卒を志願し、任務についた者もいる。黒江は襲撃も日常になったため、極めて落ち着いている。ただし、悪質な襲撃は黒田に引き渡しての尋問がなされるため、刺客も命がけである。尋問にスカーレットニードルが飛ぶこともあり、黒田は意外に苛烈な性格と旧506内部で有名になった。(蠍座であるためか、意外に拷問を愉しむ性質があり、味方をも震えあがらせたという)そこも黒田が味方からも恐れられる理由であった。
「隊長!!」
「美遊、どうした?騒々しいぞ」
「ソビエツキー・ソユーズが艦隊の進路上に!」
「何だと!チィ、閣下たちに伝令しろ!スクランブルだ!」
美遊・エーデルフェルトが慌てて駆け込んできた。ラ級戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』が進路上に姿を現したからだ。敵は先手を打ったのだ。64Fは現在のメンバーでスクランブル。直ちにソビエツキー・ソユーズを迎え撃った。
――10分ほど後の上空――
「あれがソビエツキー・ソユーズ……」
「そうだ。かつての旧ソ連が力の象徴にしようと目論んだ大戦艦だ。こいつを持ち出してきたか…」
ミーナ(まほ)は普通にストライカーで飛行し、ストライカーを用いずに飛べる者はそちらで飛行している。ソビエツキー・ソユーズ級戦艦。ソ連唯一無二の近代戦艦である。計画では『ソビエツカヤ・ロシア』までが予定され、実際に途中まで造られた。主砲口径は平凡だが、装甲厚はカタログスペック値では高いものであった。前史以前でも猛威を奮った同艦だが、今回はウィッチ達と戦闘を展開する事になった。ウィッチ達は空中戦艦相手の戦闘は大半が始めてであり、ソビエツキー・ソユーズの放つ『1940年型 56口径 100mm高角砲』と『1941年型 67口径37mm高角機関砲』の洗礼を浴びる事になった。
「各員、高射砲と機銃を恐れるな!ソ連の対空砲火は薄い!副砲の射線に入るなよ!」
外見が変化していないのもあり、言葉づかいはミーナのそれでは無くなっているが、周囲には『ミーナ』として振る舞っているまほ。ミーナの全能力を引き継いでいるため、空中指揮能力もそのままか、むしろ向上している。部下達を鼓舞しつつ、緊急事態であるため、自らも出撃していた。ラ級である事から、取り付いて拿捕することを狙っていたため、ルーデルを出撃させ、対空装備や電子装備にダメージを与えた後に、機関部、艦橋を占拠する。ラ級は是が非でも上層部が欲している重要戦略兵器であるため、遭遇の際はそう厳命されていた。
「各員、真上から乗り込め!武装の死角だ!乗り込み次第、白兵戦に移行する!」
ラ級は戦艦であるが故、第二次世界大戦の頃には廃れた『白兵戦』の備えは、枢軸国の起死回生の手段であったフリードリヒ・デア・グローセとラ號以外は想定されていない。内部構造も旧・枢軸国系のラ級と違い、連合国系のラ級は単純である。そこを狙った。だが、すんなりと行かないのが世の常。敵は神闘士や海闘士になっていた者達を乗艦させており、内部に最初に侵入した隊員達がド派手に吹き飛ばされて、あちらこちらに叩きつけられていった。
「何ッ!?」
「ふふ、そちらの考えている事は分かっている」
甲板に現われた敵の白兵要員。神闘士と海闘士であった。戦闘力が常人よりは上程度のレベルの64F一般隊員達をねじ伏せつつ、仁王立ちであった。
「この艦の鹵獲を考えているようだが、そうは問屋がおろさん。それを教えてやろう」
64F隊員は他部隊より戦闘力が高い隊員で構成されているが、流石に神闘士と海闘士が相手では分が悪く、7人ほどが一蹴される。常人の目に止まらぬ早技であった。プリキュア勢が立ち向かおうとするが、セブンセンシズをまだ完全には制御していないプリキュア勢では、先程と同じ結果になるだけだとし、黒江、黒田、智子の三人の黄金聖闘士が挑んだ。
「はあっ!」
それぞれの黄金聖衣を纏い、戦闘態勢に入った三人。プリキュア勢は視覚も強化されているため、三人が何をしているかを視認出来た。最高位の聖闘士である三人の戦闘は凄まじいの一言。それとがっぷり組み合える神闘士と海闘士の実力もさるものである。
「流星拳!!」
「スカーレットニードル!!」
「ダイヤモンドダストぉ!!」
三人の必殺技が炸裂する。三人の本領はウィッチというより、聖闘士としてのものへ移行している。黄金聖闘士としての本領が発揮され、プリキュアを遥かに凌ぐ破壊力がぶつかる。動きの視認は出来たプリキュア達だが、自分達の反応速度を遥かに超える速さで戦う三人との実力差を痛感する。
「これが先輩達の本当の実力……!」
のぞみ/シャイニングドリームは三人の真の実力が桁外れのものであると、改めて認識した。プリキュアで伍する事ができるのは、初代の二人のみではないか、と思わせるほどの戦闘ぶりだったからだ。
「喰らえ、ジャンピングストーン!!」
黒江は本業は山羊座の黄金聖闘士であるため、当然ながら『ジャンピングストーン』、『エクスカリバー』の2つの闘技を扱える。ジャンピングストーンをかけたあと、追撃でライトニング・ボルトをぶちかます。のぞみ、りん、ラブの三人は黒江達の全力戦闘を改めて目にすることになったため、自分達に稽古をつける時は手加減していることを思い知り、一瞬、呆然とした後に震えあがった。
「あたしたちを稽古つける時は……」
「手加減してたんだ……」
「うん……」
三人はこの有様であったが、付き合いの長いシャーリー/北条響/メロディ、芳佳/みゆき/ハッピーの二人は『相変わらず容赦ないなー(〜ぜ)』と冷静であった。光速拳が乱れ飛び、衝撃波が周囲に飛ぶ。プリキュア達をも絶句させるほどの戦闘を展開する聖闘士でもある、三人のGウィッチと神闘士と海闘士。その戦いは、狭い空間で第7感級の超能力と拳をぶつけ合う熾烈なもの。プリキュアの力は身体能力や反応速度を劇的に上げるものの、あくまでも第六感のレベルに留まる。そこがこの時点の彼女達と、Gウィッチの中でも最強レベルの実力を誇る三人との力の差であり、その彼女らと普通に並び立てる、野比のび太の非凡さの間接的な証明であった。
『船体さえ無事なら、鹵獲に問題はねぇ!闇を切り裂け、サンダーブレーク!!』
『光子力を炎に変える!!ファイヤーブラスター!!』
サンダーブレークとファイヤーブラスターが同時に放たれる。光子力を雷と炎に変え、放たれる必殺技。黒江と智子の同時攻撃であり、事変当時に伝説となった攻撃である。そして、そのついでに、キュアメロディが最強形態の姿で、シャーリーとしての固有魔法『加速』を発動させ、プリキュア・ミュージックロンドを高速で繰り出す。
『超音速で駆け巡れ!トーンのリング!!プリキュア・ミュージックロンド・フルブースト!!』
『よーし、こうなったらわたし達も!』
『うん!!』
ドリームとピーチは咲と舞の公認が得られたと確信したので、プリキュア・スパイラル・ハートスプラッシュに入る。夢が真実であると二人は感じていたのだ。
『精霊の光よ、命の輝きよ!!』
『希望に繋げ、二つの心!!』
ドリームは技の掛け声に関しては、完全にうろ覚えであるため、勝手にアレンジしている。ピーチは苦笑いする。お互いに本来の使い手ではないからだ。
『プリキュア・スパイラルハートォォォォ……!!スプラァアアアッシュ!!』
これだけの攻撃を受けたティターンズの神闘士と海闘士だが、小宇宙のバリアでダメージの多くを防いだようで、薄皮一つ剥がした程度のダメージであった。
「フフフ、畳みかけたようだが、この程度で我らは倒れん。見せてやろう、オーディーンソード!」
神闘士はかつてのジークフリートと同じローブを纏っていた。人差し指から緑色の光線を発し、相手の周りの地面を円形にくりぬき、その中の相手を衝撃波で吹き飛ばし、その円形の中の地面から、吹っ飛んだ相手をめがけて石ツブテが襲ってくるというものだが、非常に鋭利な石ツブテが襲いかかるため、見切れる三人はともかく、プリキュア勢は思わぬ反撃に頬を切る。最も、場所はソビエツキー・ソユーズの甲板上であるため、石礫は宇宙の結晶であろう。
「ぐあっ!!」
「うわっ!!…そんな、スパイラルスター・スプラッシュをほぼ完璧に防ぐなんて…!」
「ははは!我らは神を守護する闘士、精霊の力を借りた程度で届くものか!」
勝ち誇るΑ(アルファ)星ドゥベの神闘士。明らかにプリキュアを見下している。
「ふざけるなぁ!!」
これにカチンと来たドリームは月の精霊の力を全開にする。疑似的なものだが、キュアブライトと同じように、薄黄色のオーラを発する。
「プリキュアを舐めるなぁ!!プリキュアの力は精霊の力じゃない、人の変革の力だ!!」
ピーチも風の精霊の力を全開にし、キュアウィンディと同じように白いオーラを発し、その状態で突撃する。
「ふん、トサカに来たか」
「夢を諦めない決意こそプリキュアの力なんだ!!」
「馬鹿、やめろ!お前らの力で、アルファ星ドゥベの神闘士には!」
黒江の制止も聞かず、突撃する二人。彼はニヤリと笑い、最大の闘技を以て迎え撃った。
『ドラゴン・ブレーヴェスト・ブリザード!!』
廬山昇龍覇と同系統のアッパーであり、ドリームとピーチはその攻撃を喰らい、返り討ちに遭う。
「こ、これがかつて、紫龍が命を賭して破ったという技か…!」
黒江も息を呑むこの技。最強形態であったはずの二人の突撃をいなし、しかも返り討ちにする強烈なアッパーカット。黒江は紫龍から話を聞いていたので、技が何であるかわかったのだ。
「ふ、無様な事だ。聖闘士でもない小娘共が中途半端な力を持つからだ」
「確かに、わたし達はあんた達に比べれば、ちっぽけかもしれないし、光速で動けるわけじゃない!」
「だけど、あたし達は希望なんだよ、世の中の女の子たちの!」
二人は立ち上がり、尚も諦めない。かつて世界を守ったという誇りと希望。この二つが彼女らの原動力だった。その思いが彼女達のさらなる進化『キュアレインボー形態』を顕現させる。ミラクルライトを振らなければ発現しえないはずの究極形態。二人の背中の翼が黄金色に輝き、かつてのミラクルライトの力と加護を受けたのと似た現象が起こる。
『プリキュア・プリズムチェーン!!』
ドリームはレインボー形態になるなり、プリキュアプリズムチェーンを放ち、捕縛する。そこからのピーチによる攻撃。
『プリキュア・フォーチュンスターバースト!!』
小宇宙の力が引き出されたレインボー形態では、歴代のプリキュアオールスターズの技を好きに扱えるらしく、(ディケイドの要領で)ドリームはプリズムチェーンを、ピーチはフォーチュンスターバーストを放つ。
「わたし達を!!」
「舐めるなぁ!プリキュア・サファイアアロー!!」
「プリキュア・ファイヤーストライク!!」
「あ!それはあたしの技ってんでしょーがぁ!」
半分、観戦のルージュが憤慨する。しかし、頭に血が上っている二人は更に畳み掛ける。
「プリキュア!!マァァチシュートォ!」
「プリキュア!スクリューパンチ!」
思いつく限りの技の応酬であった。二人が思いつくバリエーションは割に遠くない代の後輩のものであるか、自分達の仲間の技であった。応酬が一段落すると同時にプリズムチェーンが断ち切られるが、防御の間もないほどの連続攻撃は中々のアイデアであった。
「必殺技の応酬か。見どころはあるぞ、小娘ども」
「クソ、堪えてない…か!」
ドリームとピーチは冷や汗をかくが、表情はこれまでにない猛々しさを匂わせていた。それは周囲にゲッター線が満ち始めたためでもあり、ゲッター線が二人の闘志をわかりやすいほどに引き出し始めた証でもある。空間に奔る光。空間に満ちるゲッター線が二人に力を貸し始めた事を示している。
「おい、ハッピー。空が……!」
「二人の意志が皇帝の眼鏡に適ったんだよ、エンペラーのね」
「ゲッターエンペラーだと」
ドリームとピーチは自身も気づかぬ内に、かなり高濃度のゲッターエネルギーを吸収し始めている。それに気づくハッピーとメロディ。
「……ゲッターエンペラーも世話焼きだな」
「ま、宇宙を食らう機械の化物には進化しない証だよ。理性があるって事だよ、ゲッターエンペラーにもね」
ゲッターエンペラーは流竜馬の意志が代表的に表に現れている。竜馬が理性でゲッターエンペラーを制御した事が示唆され、竜馬の意志が遥かな未来で生まれつつも、時間も平行世界すらも超える力を持つゲッターエンペラーの力で干渉し、プリキュア達に力を貸している事をハッピーは悟っていた。ゲッターエンペラーを流竜馬が掌握したことを理性と評し、完全に生前の面影がない理知的な姿を見せるのだった。
――ミーナや黒江のように、『航空団の司令』や将官が士気高揚目的以外にホイホイ出撃していいのか?』とする軍事的疑問は自衛隊や米軍にあるが、日本のマスコミは『指揮官先頭の好例』と礼賛している。23世紀ではそのほうが当たり前であるので、21世紀の軍隊はひたすら戸惑うばかりである。いくら航空部隊とは言え、前線で将官が指揮を取る事は極めて珍しい。ガランドの例は史実では、英雄が干された事を誤魔化し、前線に動揺を与えないための施策であった。だが、ミーナや黒江たちは自分で戦うことをむしろ好んでいる。自衛隊や米軍は困っていた。マスコミは叩くが、確かに高級将校は後方指揮が望ましいが、『高級将校は前線に出るな』ということではないし、大和民族の美徳としての指揮官先頭の伝統は否定されてはいない。武子のように、チームワーク至上主義が日本から逆に叩かれ、個人の戦功に理解を求めるように上層部から促されるなど、部隊固有の事情もある。(江藤に責任が被せられたと聞いた武子がヤケを起こし、以後は精神安定とストレス解消のためとして、酒飲みになった原因である)64は曲技飛行隊も兼ねる高練度部隊である。史実44戦闘団や343空のような役目を否応なしに担わされ、日本一般層からの政治的圧力との兼ね合いが実現させた『将官の出撃』。これが後にジオン軍などに間接的に受け継がれ、地球連邦軍も時代と共に受け入れる事になる慣習であった。――
――エディタ・ノイマンの不幸はデロス島の世界遺産を怪異諸共に『必要な犠牲』とし、艦砲射撃で吹き飛ばそうとした事、折しも、21世紀フランスのノートルダム大聖堂が火事で一部が崩壊してしまう惨事が起こった事で、21世紀側が銃殺か、それに近い厳罰に処するように圧力をかけたためで、それを23世紀が更に軍事的圧力で抑えたという経緯がある。結局、ノイマンは中佐へ降格され、僻地へ左遷、授与予定の勲章も白紙撤回という顛末になった。現場はこの厳罰に萎縮していたところに、ロシアがスコアの再調査に介入し、嫌がらせをしたので、カールスラント残存部隊の士気が完全に崩壊。日本連邦はこうした都合もあって、エース部隊という偶像を64Fに担わせたのである。各戦線のトップを文字通りにかき集め、整備兵も各戦線のトップを引き抜いて。その都合で、交代要員の選定や派遣で混乱が発生。結果、取り消された東二号作戦で結成されていた戦隊は遊軍化した。日本側の勘違いが発端であるため、反感が強まるのを恐れた日本は、どうにか事態に収集をつけようとし、そこに地球連邦軍が囁く形で、何とか四割ほどは当初の予定通りに欧州へ再派遣され、何割かが引き抜きで弱体化した他戦線の穴埋めに、後の多くは南洋島の防空に回された。(従軍記章が緊急で造られたのは、軟禁された挙句に、南洋でそのまま防空任務に着かせられた者達を宥めるのが主目的であったからだ。ものはついでに、扶桑海事変従軍記章も正式に造られ、直ちに授与。以後、事変経験者の古参兵が扶桑ウィッチ界隈で絶対的な発言力を持つことになる。これを異常に恐れた海軍航空隊中堅層が血気に逸る事となり、後に設立されし扶桑空軍が数年後からの太平洋戦争で事実上、日本連邦としての航空作戦を一手に担う事になる)その都合で、ミーナやラル、黒江など、立場的に後方で折衝や事務処理をメインにすべき者達も戦線の矢面に立つ事が常態化している。マスコミが持て囃すので、政治的に『ノー!』とは絶対に言えなかった。リベリオンの分裂、前線のサボタージュという想定外の出来事もあり、前線の人手不足が深刻化した事も欧州戦線での64Fの戦功に繋がっていた。(自衛隊と米軍はあまりに豪華すぎる陣容に、プロパガンダ用の魅せ部隊と見ていたが、文字通りに精鋭のみで固められていた上、整備兵もトップレベルで固められていたため、前線で酷使される様に、扶桑の現場が日本の政治に振り回されている事を察したという)――
――統合参謀本部では、ラ級戦艦同士の死闘が展開された事、敵がモンタナに続く大戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』を投入した事で、本格的に対策会議が始められた。ラ級戦艦の資料は元の枢軸国側にしか伝えられておらず、連合国側も同じようなモノを用意していた事が明らかになると、連合国までもが核兵器を作り出しておきながら、なぜ得体のしれない飛行戦艦に傾倒していたのかという議論が先行してしまった。また、大祖国戦争で消耗していたはずのソ連にソビエツキー・ソユーズを完成させられる余裕があったのかという疑問、資源が44年以降に急激に枯渇した日本軍に『ラ號』という超大和を作り出せるだけの余裕があったのか?(実際は戦後だが…)という問題が出てくる。列強が保有し、切り札とする予定だった飛行戦艦。大艦巨砲主義と矛盾する飛行機と戦艦を組み合わせた代物。艦によっては艦載機も積んでいる。量産されていない一点物だが、その装甲は飛行機の積める兵器ではびくともしない。敵がその増産に勤しんでいる事は日本側にも通告され、日本側は38cm〜40cm砲を想定した重装甲を真っ向から貫く武器を持ち合わせていない(バリアによる減衰効果もあり、21世紀頃の兵器では核ミサイルでも致命打にはなり得ない)事から、23世紀が就役させたラ號を21世紀日本は欲した。防衛省の一部勢力や左翼政党から『旧軍の最終兵器なら、一端、旧軍の兵器を接収したGHQの権利を受け継ぐ国連に献納し、国連からの貸与という形とすべき』という批判も生じていた。しかし、23世紀型ラ號は21世紀の学園都市でも解析不能な技術で中身が作り変えられているし、第一、国連には完成状態の軍艦を管理する力はない。また、影山コンツェルンが戦後に脈々と管理し、デスパー軍団と一度だけ交戦したという事実も示されたため、日本政府は左派勢力の『影山コンツェルン』への圧力を封じるため、『デスパー軍団』の殲滅への関与という戦果と神宮寺大佐の遺言を用い、ラ號の影山コンツェルンからの押収と、国連への献納を目論む勢力の動きを封じた。結果、ラ號は21世紀から22世紀終盤までどこかで秘匿され、最終的に宇宙戦艦化されて、地球連邦宇宙軍の『ヤマト型宇宙戦艦』の一隻(大和型戦艦を出自に持つか、ヤマトの改造時の設計図から新造されたものの艦種分類)として生まれ変わるという流れを決定づける。
「ラ號は我が方の軍艦でありますので、日本へは貸与するのが限界ですな」
「元は我が国のものになるはずの軍艦ですし、大和型五番艦ですが」
「影山コンツェルンの説明を受けたのですか?公式に日本帝国が終焉するサンフランシスコ条約までに献納されなかった以上、権利は彼らの手にあります。いくら元はそちらへ納入予定と言っても、日本海軍は45年に解体されている以上は権利は消滅している。我々はそちらに加え、国連の後身なので、ラ號を引き継ぐ権利は正当なものです」
「そんな!」
防衛省の一部はラ號を保有したがった。示威目的にしろ、他国のものでない戦艦は気兼ねなく使えるからだ。ラ號の権利は献納がキャンセル扱いになっていたため、元・艤装副委員長であった大佐が戦後に興した影山コンツェルンがそのまま有する。そのため、21世紀の日本政府は企業に献納を促す事しかできない。秘匿、管理していた影山コンツェルンは神宮寺大佐の『遺言』で管理していたし、軍が無くなった後では有志で運用されていたのだ。会議は続く。前線でソビエツキー・ソユーズを巡る死闘が始まっているのをよそに、ラ號の権利で会議が揉めるあたりは、実に『日本的』であった。
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