外伝その327『大空中戦21』


ティターンズ残党はシンパなどからの補給もあり、MSの数は昔年のデラーズ・フリート以上の数であった。その数は一個方面軍の転移である分、倉庫にある旧式機を入れれば、有に300を超えており、シンパが送り込んだモビルドールや新鋭機を含めば、400台に達する。主力はマラサイとバーザムであり、少数のガンダムタイプも保有している。航空戦力はMSよりも多めであるが、それらを温存し、リベリオン合衆国を電撃的に占領し、傀儡政権を建てる事で彼らはウィッチ世界に楔を打ち込んでいた。そのために連合軍は兵站能力が弱体化し、ダイ・アナザー・デイまで大規模な作戦行動は控えられてきた。ティターンズ残党は地球連邦軍との正面切っての戦闘を避けつつ、衛星軌道に衛星を浮かべ、報復ネットワークを構築しようとしていた。圭子とデューク東郷が破壊しようとしているのがそれだ。現地軍はティターンズにとっては『弾除けになる駒』扱いであり、現地に燻る人種差別問題を煽る事で、戦線に参加させる意義を信じ込ませていた。中央政府が傀儡であることを見抜いた一部の州は水面下で叛乱を企てつつ、表向きは従う素振りを見せていた。それもあり、ダイ・アナザー・デイでは多くの血が流されていた。





――ダイ・アナザー・デイのルシタニア攻略のための陽動も含めた海戦は自衛隊の遊撃活動のサポートも受けつつ、ついに火蓋が切られた。艦上機の航続距離で優っている連合軍は先手必勝と言わんばかりに全力出撃を行い、500機以上の機体が発進していった――



「先輩方はバルキリーなんですね?」

「ストライカーは他の連中に回したからな。俺達はVFで出れるし」

ウィッチ達とプリキュア達の上空を三機のVF-19Aが飛行している。武子、黒江、智子の機体である。VFの操縦訓練を積んでいるウィッチは64Fにはそれなりにいるが、エースパイロット用とされる同機種を使いこなせる者は更に限られる。黒江の言う通り、ストライカーは自分達以外の者に回したため、三人はVFで出ているのである。速度差があるため、別の高度をそれぞれ飛んでいる。なお、当時は既にYF-24を始祖とする、さらなる次世代機が配備されていたが、地上での機動性でVF-19には及ばない機種が大半であり、最新鋭の『VF-31』もまだ数が回ってきてないため、VF-19シリーズはハイエンド扱いが継続中である。

「先に出たレシプロと、他のジェット機の連中がそろそろ空戦に入る、武子」

「各機、幸運を祈るわ。交戦開始!」

戦域はジェット機やレシプロ機、VFも入り乱れるため、広範囲に渡っていた。武子は自衛隊で教習を受けたわけではないので、黒江と違い、後世で普及した『エンゲージ』という軍事用語は用いない傾向がある。黒江が指揮官であれば用いるが、あいにく、今回は武子の副官と護衛を兼任するため、指揮官ではない。一同は大空中戦の真っ只中に飛び込んだわけだ。





――空戦は第二次世界大戦後でカウントするならば、ベトナム戦争を凌ぐ規模であった。ジェットとレシプロ、ウィッチが入り乱れ、機銃とミサイルの火線が入り乱れる。

「こいつら、ウィッチの攻撃で装甲が弱体化しないから、硬いんだよねっ!」


ヴァルトルート・クルピンスキーはこの時は分隊長扱いであった。原隊での大尉に階級が政治的に復帰した後の初の空戦であった。(人事記録からも降格が抹消されたため、ずっと大尉という事になったし、遅まきながらGウィッチ化したため、原隊の誇りを守ろうともしていた)当時、原隊の栄光にケチがつき、ロスマンが結局、人事的都合で『特務少尉』にならざるを得なかったことを『上層部の勝手な思惑』と断じつつ、いずれは昇進しないと、人事面での軍規に触れるのも事実である事はわかっており、自分も気持ちの板挟みにあっていた。Gウィッチ達の階級が一様に高い理由は、挙げてくる戦功もあるが、『定年』の規定年齢が高齢になる階級までとにかく引き上げておくという政治的都合もあった。ロスマンが本人の希望を無視して無理矢理に階級が上がった理由も『昇進を拒みまくったため、ドイツの人事科に素行を疑われている』というもので、ロスマンは時勢と政治的都合で『曹長』ではいられなくなったというわけだ。(素は享楽的な人間だが、戦場では生真面目なので、人間性をそう誤解されたのもある)『伯爵』はその事を気にしていたのだ。F6Fの装甲に手を焼く最中、そんなことを考える。当時のカールスラント標準のMG42では、F6Fはびくともしない。如何に近距離でも、MG42程度の火力など、無力に等しい。零戦の20ミリ機銃にすら耐えるのだから、当然といえば当然である。

「こいつら、ウィッチの攻撃で装甲が弱体化しないから、硬いんだよねっ!」

その通り。打ち水の如く、弾丸が跳弾し、効かない。

「くっ、武器が効かない!」

「伯爵、だから言ったろうが。せめてマウザーの20ミリもってこいって」

黒江がガウォーク形態で不意を突いて撃墜する。当時、ウィッチが一様に苦戦している理由は『標準装備が7.92ミリから12ミリ銃である』という事である。日本が再生産させたり、ドイツが増産させた20ミリ砲はウィッチには反動の都合と携行弾数の減少を理由に、あまり用いられておらず、伯爵はテンプレート通りの失敗を犯した。黒江たちはガンポッドの射撃で、レシプロはいかなる種類のものでも一瞬で蜂の巣に出来るため、傍目から見れば、火力に差が出ている。

「ずるいですよ!そんなすごいの撃つなんて」

「こりゃ、今となっちゃ古いガンポッドだぜ?最新型はビーム式だ」

VF-19の標準ガンポッドはこの時期には旧式に属する。弾切れが早いことなどが問題視され、VF-31ではビーム式になっている。世代交代は促進されているが、戦場では、実弾式が支持される傾向があり、サンダーボルト用の長砲身ガンポッドも現役である。

「それで旧式って」

「ビーム式に比べればな。アーマードサンダーボルト用の長砲身モデルを見せてやりたいぜ。腰抜かすぞ」


地球連邦軍はガンポッドを重宝しているが、ウィッチ世界では、同形状のものを圭子が事変当時に持ち出して撃ちまくっている。その中で一番に大型であったのが、アーマードサンダーボルト用の長砲身モデルを模したものであった。伯爵はそれを知らないが、ロスマンは知っていた。

「加東准将がその昔、その銃と同じ形のモノを使用していたと、小耳に挟んだ事があります。まさか未来装備だったとは」

「ロスマン、意外に知っているな」

「私は貴方方が絶頂期の頃の新兵です。噂は聞き及んでいますよ」

「なるほどな。ウルスラが愚痴ってるよ。これにだ」

黒江は機体のマイクロミサイルを放ち、レシプロ機の編隊を一掃する。当時のレシプロ機では、23世紀のハイマニューバーミサイルを避けられる可能性は万に一つもないため、20機ほどが空の塵芥に成り果てる。レシプロ相手にはオーバーキルもいいところだが、当たらないフリーガーハマーを無駄使いするよりは、誘導ミサイルは遥かに役立つ。

「誘導ミサイルは反則では」

「数が多いんだ、四の五の言うな」

と、黒江は言う。原理的には、マイクロミサイルはIRイメージ誘導で移動する物体を赤外線画像から識別、追跡する。つまり、機体の熱量自は関係なく追尾出来るという事で地球連邦で標準になった。また、東西冷戦時代のミサイルより数を積めるため、21世紀型戦闘機にはない利点である。

「一発でMGのベルト一節(100発)と値段変わらんからな、未来世界製は。自動工場でどんどん造れる。大盤振る舞いなのはそういうわけだからだ。それに、大気圏でこいつに勝てる飛行機はねえよ」

黒江はガウォーク形態からファイターに戻し、ロスマンの前で、格闘を不用意に挑んできたP-80を一蹴する。P-80のオーバーシュートを見逃さず、機動力の差で背後を取った後、レーザー機銃で炎上させたのだ。

「バカめ、この時代のジェットで、真っ向からの格闘戦は無謀だっての」

直線翼のジェット機は速度差でレシプロ機に優位だが、優位がない後の世代の機体には脆さを露呈する。特に格闘では顕著に差が出ると言ってよく、アフターバーナー(オグメンダー)すらない時代のジェット機で、アフターバーナー付きで、しかも核融合タービン機と戦おうなど、F-22にソッピース・キャメル(第一次大戦の名機)で挑むのと同じだ。

「すごい、急上昇からのループを迅速に行って、すぐに背後を取れるなんて」

「P-80なんぞ、こいつからすれば、ソッピース・キャメルかフォッカーと同じような骨董品だぜ」

「ま、綾香は元がガンファイターだから、格闘はお手の物よ、ロスマン。だから、そんな事が言えんのよ」

智子が一応のフォローを入れる。黒江は元々、モスキートをキ43で撃墜判定を出した猛者であるので、頭脳明晰そのもの。格闘で優位を保つ術を持ちつつ、菅野のような格闘馬鹿ではない。

「扶桑は格闘馬鹿が多いけど、あたしや綾香はヒットエンドランの先駆者よ、先駆者。直枝とはオツムが違うわ」

「ふーんだ、おりゃ、どーせ格闘馬鹿ですよーだ」

「ガキみたいに拗ねるな、馬鹿」

話を聞いていた菅野が拗ねる。菅野は小学校から兵学校に行く過程で今の性格になったため、元々の文学少女としての子供っぽい側面が残っている。そのため、最近は芳佳に翻弄されるわ、美遊・エーデルフェルトやイリヤスフィール・フォン・アインツベルンにまで、子供扱いされる屈辱を味わっている。また、最近は外見上は14歳前後ののぞみやりん達にも子供扱いされるため、イライラが募っていたらしい。

「ったく。お前、少しは自制しろ。だから、美遊にも『子供みたい』って言われんだぞ」

「リーネの野郎、ちっとばかり剣が使えるからって…」

「英霊の力を使ってるんだぞ、あいつは。お前みたいな『青っちょろいガキ』じゃ一瞬で終いだ」

「菅野さんはこんな調子でして、閣下」

「よし、あとでまっつぁんにしごいてもらうか」

「そ、そりゃ勘弁してくれ」

「若さんに頼むぞ?」

「若さんはやめてくれよぉ!まっつぁんのほうがまだいい!」

黒江は若松を「若さん」と呼ぶ。若松が自分を妹のように可愛がっている事は知っており、事変中は対江藤の切り札として活用した。

「ったく、ピーピーうるせぇ奴だ。宮藤はどうした?」

「宮藤さんはルゴール液を割り箸に脱脂綿巻き付けたのに付けてグリグリ塗ったくるそうです。坂本少佐へのその処置をするとかで出ないそうです」

「そうか。ま、治癒魔法より手っ取り早い処置だな」

「それでシャーロット少佐は?」

「今日は別の仕事だ。歌のな」

「あ、先輩!」

「どうした、ドリーム」

「ハッピーから通信です。坂本少佐が涙目で逃げたようです」

「はぁ?いい年こいて、何ぶるってんだよ」

「変身して艦内を走り回ってるそうです、ハッピー」

「気持ちはわからんでもないが、艦内をみっともなく逃げ回るほどか、坂本?」

「風邪が悪化しかねませんよ」

「竹井とペリーヌは非番だったはずだ。マーメイドとスカーレットに変身させて、後を追わせろ。余計に悪化させたらどうすんだっての」

「はい、みなみちゃんに連絡を入れます」

事の始まりは黒江たちの出撃後、芳佳が医務室で坂本に処置を行っていたが、坂本は過敏に反応する質であったために、『もういい!寝る!!』と逃げ出したためで、芳佳は慌てて変身し、後を追いかけたが、坂本は足が早く、プリキュア状態の芳佳でも容易に追いつけなかった。おまけに持久力もあったため、500mもあるプロメテウス級空母の艦内で大捕物になってしまった。



――竹井の自室――

「なんですって、美緒が医務室から逃げ出した!?いい歳して何してるのよ、あの子…!わかったわ。トワを見つけて、追いかけるわ」

竹井はドリームからの通信で事の次第を知ると、すぐに『プリキュア・プリンセスエンゲージ』でキュアマーメイドに変身し、坂本の後を追った。途中でペリーヌを見つけ、スカーレットに変身させて、ハッピーと合流。増築を繰り返した建物といった雰囲気の空母艦内を虱潰しにした。艦に座乗していた山口多聞も艦内放送で坂本を捕まえろと放送した。その結果、三人のプリキュアを中心にした捕獲班が坂本を探すため、艦内を捜索した。

『坂本少佐は風邪を引いている。下手に動き回れて、乗員に移されても困る!手空きの乗員はプリキュアの指示に従い、坂本少佐を捜索せよ!これは演習ではない、繰り返す…』

艦内に放送が響き渡る中、艦の第2階層の右舷付近の空いている部屋の前に坂本はいた。

(まるで罪人ではないか!私は吐きそうになるのは嫌なだけなんだぁ〜!)

芳佳の処置は喉に触れて嘔吐反応を起こすため、嫌がるのも無理からぬ事だ。

坂本は忍び足で通路を上がっていたが、遠くからキュアマーメイド(竹井)の声が響いてきた。明らかに怒っている。

『美緒!!隠れてないで出てきなさい!貴方、風邪を周りに移す気なの!』

(うぉぉ、醇子が怒っている!昔は私の後ろをチョロチョロついてきてたのに、どうしてああなった!?)

その原因の一つが自分自身の士官教育であり、海藤みなみとしての自我の覚醒であったが、坂本は後者に考えが及んでも、前者は範疇外だった。

(よし、部屋に帰って鍵掛けて寝る、何としても寝る!!)

坂本は決意を固めるが……。

「坂本少佐〜、どこにおられますの〜。出てこなければ、私は王剣で貴方を斬らねば…」

(うおおお!?待て待て、なんで宝具を持ち出す!モードレッド卿の入れ知恵か、ペリーヌぅ!?)

正確には、キュアスカーレットの姿で王剣を挿しながら探しているのだが、スカーレットの姿では、普段と言葉づかいに差異がないので、坂本は気づかなかった。声を聞いた坂本は慌てて階段をフェイントで降り、第3層に降りる。そこは空母の中では通路の少ない階層で、兵員用の食堂や兵員用遊戯室があるところだった。

(げ、ここは兵員の居住区ではないか。空いている通路を通って、士官用の居住区に戻らなければ…!)

ちなみに、士官用居住区は500m級では広めになっているため、意外に遠くはない。坂本は逃げ回っていたため、時間がかかっているのだ。プリキュアたち率いる捜索班は坂本が素直に自室に向かおうと努力していたことを予想していなかったので、大捕物になってしまった。

『竹井少佐、A班は坂本少佐をみておりません!』

『B班は!』

『同じく、こちらも見ておりません!』

『あの熱よ、そうは動けないはず』

捜索班の兵士たちの報告に焦るキュアマーメイド。彼女の指揮による捜索を坂本は逃れている。これは黒江から教わった忍術スキルの賜物である。

『ハッピー、そちらは!』

『だめだよ、姿が見えない』

『閣下に意見具申して、捜索範囲を機関区や弾薬庫にも広げないと…』

マーメイドは長年の付き合いで行動パターンを熟知しているはずの坂本を捕まえられない事に苛立ち始めていた。これは坂本の作戦勝ちで、構造材の隙間に入り込んだり、通気口を通ったりする忍術を駆使し、捜索班の捜索を逃れていた。残されていた体力をフルに使うが、竹井に『怒られたくない心境』もあり、坂本は竹井(キュアマーメイド)の立てた作戦の上を行くつもりであった。坂本は竹井より一歳年長であり、かつては坂本が目上で、竹井が子分のような関係であったため、竹井(キュアマーメイド)の思考を読めるのである。そんな艦内の大捕物をよそに、空中戦は艦隊戦と同時展開されるようになった。23世紀ではよくある事だ。キュアマーメイドが苛立ちを見せることは珍しかったが、ハッピーとしても、八つ当たりされるのは御免なので、状況を第三者に伝えていたりする。








――艦隊戦は空母を艦隊から分離させての打撃戦に移行していた。空母を伴った状態での砲撃戦は危険だからで、それも艦隊戦の古風感を際立たせていた。戦艦と護衛の巡洋艦が艦隊から分離し、20キロ圏内で互いに砲撃戦を展開し、大和を始めとする大戦艦が撃ち合う。近代化された艦艇が護衛についているため、不用意に攻撃をかけたレシプロ機が敵味方共にCIWSで撃墜される。戦艦同士の砲撃戦はミサイル戦より悠長であるが、防空戦と同時進行になったため、余計にゆっくりになっていた。これは旧式の巡洋艦に合わせての処置で、近代化が間に合わなかった一部の巡洋艦に発射速度を合わせるためであった。その上空で繰り広げられる空中戦。ウィッチがベテランであっても恐怖しかねないほどに火線やミサイルの入り乱れる戦場。当時の扶桑の精鋭たる『S級ウィッチ』の殆どが一つの戦場に集まったため、格闘戦こそがウィッチがMSやジェット機に対抗可能な唯一無二の手段と見られるのに、そう時間はかからなかった。扶桑の古参兵の利点は『格闘に供する武器を使う術を知っている』という所に尽きる。当時、ジェット機の登場でカールスラントお得意のヒットエンドラン戦法が通じなくなり、戦果は一部のGウィッチに偏っていた。人同士の戦争に躊躇するウィッチも多いのも事実であったため、扶桑の昔気質と揶揄されていたはずの事変経験者達が重宝され、孤軍奮闘していた。その孤軍奮闘ぶりは『新選組』の名に相応しいものであった――


――戦場――

扶桑の古参達は刀、槍、薙刀、長巻、大太刀と、扶桑の近接武器のオールスターを使い、修羅の如き戦闘を披露していた。欧州では、近接武器そのものが廃れ、攻撃魔法も廃れ、『斬岩剣』という秘術をアンドラの魔女が用いるだけであったため、ある世代までの扶桑系の魔女が戦果を稼ぎまくるという皮肉な状況が生まれていた。銃が効かないのなら、斬撃であり、徒手格闘である。64F所属の戦闘ウィッチの殆どはその思考回路であり、キルレシオが当時としては異常に高いルートを記録していた。


「扶桑のウィッチって、みんながああなの、定ちゃん…?」

「私の代までだよ、本当はね。近頃はああいう訓練は廃されてたから。だけど、方針転換で復活したから、肩身の狭い想いをしてるんだよ、今の若い子達。先輩達がまた持ち上げられたから、ねぇ」

下原は相方のジョゼに言う。Gウィッチの中では後輩に優しいため、中堅がふてくされるのに比較的、同情的である。

「先輩達を冷遇したツケだよ、ジョゼ。今はああいう『プロ』が求められてるから、一時期の『飛べればいいアマチュア』は必要とされないんだ。少なくとも、日本連邦じゃね」

日本連邦体制では、ウィッチであろうと、一定の学歴と軍事教育が求められるようになるために実力はあるが、学歴の無いウィッチを発掘する事が難しくなった。ウィッチ募集定員確保のための『集団就職』は農村への救済措置的側面の強いものであるので、世代交代の鈍化は避けられない。それも扶桑で突出して『Rウィッチ化措置』が多い理由である。航空隊内部に覆せない『年功序列』が確立されてしまう危険を指摘する声があるが、扶桑は古参兵の方が基本的に技能レベルがいいため、上の代に下の代が敬意を払うのを習慣づけるために、ウィッチ隊の慣習を壊したというのが実情であった。この違いが、後のウィッチB世界のウィッチとの邂逅でクローズアップされ、菅野の同位体『管野直枝』が怯える羽目になるのである。また、管野は喧嘩っ早いため、黒江が孝美を『青っちょろいガキ』扱いしたのに激昂して、『剣一閃』を見舞おうとするが、黒江はライトニングフレイム(アーク放電のライトニングプラズマ)で粉砕。菅野は別の自分に同情したという。(傍からすれば、炎を纏う電撃が管野を焼くようなビジュアルであるため、菅野は『あ〜あ。俺って喧嘩っ早いんだなあ』とため息であったという)その時の黒江の一言は『稲妻出てるなんて精々がマッハ50かそこらだぞ?それくらい避けられねぇかなぁ』秒速10万km辺りになると、稲妻ではなくプラズマの壁が発生する)で、涼しい顔であり、当の管野は『かほる姉さま、助けて…』と気絶しつつも、シスコンぶり全開の一言であったという。A世界が魔窟である事は黒江のこの闘技、圭子の『まだまだ踊れると思ったんだがな…』との一言で十分すぎる程に示された。B世界のウィッチ達はブレイブウイッチーズの面々とノーブルウィッチーズの面々で違いが特に顕著であった。A世界では、ノーブルウィッチーズは始動前に解散したし、ブレイブウイッチーズにひかりは配属されていないし、孝美はマイティウィッチーズに配属された後に501に引き抜かれているからだ。ウィッチB世界のウィッチがA世界を『息苦しい世界』と漏らす事になったのは、A世界に生じたウィッチの職業軍人意識の存在をB世界のウィッチの多くが『違和感』を感じたからだが、実際、B世界のように『怪異撃滅の後の利権を争う』次元の話ではなくなり、『ティターンズの奴隷に堕ちるか、地球連邦の力を借りてでも、A世界の人々の尊厳を守る』という次元の話になっているため、戦う意義や目的自体が変容していたからである。B世界のウィッチ達は滞在期間を広報向けの影武者として過ごすか、極秘に救難部隊に協力するか。その2つの選択肢を提示される。芳佳やリーネなどは心情的に『力があるのに、何もしない』のを極度に嫌がり、『後者』を選ぶことになるが、それは別の話だ。(B世界のレイブンズは実力差から、最初から前者のつもりであり、そこを芳佳とリーネに批判される羽目になるが、三人としても、こればかりは反論したという)黒江達は既にあがっている別の自分達を弁護する羽目になり、事態を重く見たB世界の坂本が土下座して謝ったという。その時の会話は以下の通り。

――1947年前後――

『すまん!!うちの若いのがお前たちの気持ちを考えず…』

『俺たちに謝られてもな。そこにいるほうに謝ってくれ』

黒江は自分より加齢している外見の別の自分のほうに視線をやる。坂本は戸惑いつつも改めて、A世界の黒江を見る。見かけはA世界が若々しく、事変当時と変わりないが、言葉づかいは粗野で、一人称も『俺』である。

『すまん、見かけだと判別できん』

『俺のほーが若々しいだろうが』

『わからん!』

『この馬鹿…』

『あんたはどこの世界でも、そんな調子なのね、坂本』

『穴拭。お前はますますわからん』

『背が高いでしょーが。そっちだと160あるかないかだし!』

『そういえば…』

『ったく、他人の変化に無頓着すぎだぜ?坂本』

『お前はわかる。すべてが違う』

圭子は名前も違う上、目つきや身に纏う雰囲気からして、粗暴かつ好戦的なのが丸わかりなので、坂本Bは驚いている。言うことも一番に危ない方向にぶっ飛んでいて、背筋が凍る物騒なことを言うので、ミーナ(B)を怯えさせている。そのため、坂本が使者なのだ。また、服装もホットパンツとタンクトップであるという、別人28号を地で行く恐ろしさだ。

『ま、ガキ共はあたしらが説教してやるさ』

たばこに見える薬を吸いながら言う圭子。ドカッとソファに腰掛ける姿は裏世界的な雰囲気がするので、坂本Bも怖さを感じる。

『ま、あのガキ共はそっちの俺たちが広報の影武者になるって選択がわからねぇんだろ。義務感が暴走気味だ。あの手のガキには多い。特にお前が引退間近ならな』

黒江はコーラを飲みつつ、ズバッと言う。B世界の坂本は引退が迫るのを、烈風丸で誤魔化そうとしていた。芳佳は坂本の衰えを見て知っているため、義務感を突っ走らせており、あがり済みのB世界のレイブンズを面と向かって批判する行為を行っている。それをリーネも一緒になって批判したため、坂本が咎め、そこでレイブンズが引退済みなのが教えられる有様であった。

『これから、あのガキ共を教育する、いい講師を五十六のおっちゃんのツテで呼んだ。紹介する』

『講師?それにお前、今、山本五十六閣下を…』

『こまけー事はいいんだよ!』

黒江Aは海軍高官の多くと懇意であり、1947年の段階ではY委員会を通して、海軍の状況にも通じている。また、A世界ではダイ・アナザー・デイ中に連合艦隊参謀もしていた関係で、海軍に太いパイプを持つ。そこもA世界の黒江を指して、B世界側の人間が『オカシイ』と唸る理由だ。

『HEY!提督に頼まれて、来たデス!』

『金剛。相変わらずのノリだな、お前』

『黒江、この子は?』

『馬鹿、敬礼しとけ。こう見えても将官だぞ」

『何ぃ!!?…って、お前はなぜせんのだ?』

『いや、俺たちも将官だし、改まってするほど、畏まる雰囲気でもないだろ』

『何!?将官だと、お前らが』

『俺は中将』

『あたしと智子は少将だ』

A世界特有の事情があるとは言え、三人の階級はずば抜けて高い。45年当時のガランドと同等以上である。これはダイ・アナザー・デイの戦功で、終了後にそれぞれ更に昇進したためで、黒江など、統括官の任務との兼ね合いで中将になったが、47年前後にやっている事は佐官時代と同じである。圭子など、『あの兵隊やくざが将官?』と同期からネタにされているほどだ。

『待て待て、なぜそこまであがった?普通はありえんぞ』

『数年前の戦で現役に戻って、一暴れしてやってな。その戦功であがった。俺たち、元帥も夢じゃないしな。慣例はその時に吹き飛んだし、勲章ももらってる。お前らには信じられんだろうが、レイブンズと言えば、この世界じゃ、泣く子も黙るぞ』

黒江の言う通り、B世界では過去の人間扱い(芳佳とリーネは知らず、それが坂本を落胆させた)のレイブンズは、A世界では『泣く子も黙る、扶桑最強のケッテ』、黒田を加えて『「伝説的シュバルム』として名が通る。B世界では、坂本と竹井の代が辛うじて記憶するだけの知名度しかなくなっているが、A世界では、『皇室の信頼厚く、未来の超兵器に遜色ない強さを持つ、世界で五指に入る猛者』として確固たる地位を確立している。ウィッチ組織が弱体化した1947年以後の時代では、扶桑ウィッチ界の権益の守護神のように扱われている。ダイ・アナザー・デイ当時の反発からはものすごい手のひら返しであり、数年の間に黒田が爵位と家を継いだ事もあり、嘘のように誹謗中傷は止んでいる。

『原初にして究極のシュバルム。そう謳われたもんだ。506の黒田って奴いるだろ?』

『あ、ああ。手練との後輩とは…』

『ここじゃお前の先輩だからな。今度、顔を合わせたら挨拶しとけ』

『なんだとぉ!?』

『事情が違う以上、人間関係も違うんだぜ?坂本。黒田や菅野がいい例だ。菅野も、ここじゃ孝美に入れ込んでないし、同期だ』

A世界の人間関係は色々とB世界と違いが多い。例えば、孝美を思慕する管野と違い、A世界の菅野は孝美とは同期のウィッチという関係である上、ひかりとは接点がない。黒田はA世界では『黒江や圭子に仕える古豪かつ、Gウィッチの重鎮』であるし、ハインリーケに至っては、人格が別人化している。錦も同等の出来事に遭遇しているので、この時期には名前がのぞみの別名として使われている。その関係で、天姫とは顔を滅多に合わせなくなっている。

『ここじゃ、不思議な出来事が集中して起こってな。何でもありだ。例えば、この金剛だが、戦艦金剛の化身だ』

『は?』

『九十九神みたいなもんだ。連合艦隊旗艦経験者だから将官なんだよ、こいつ』

『遠い昔の事デス。連合艦隊旗艦と言えば、長門か大和でしょ?』

『言われてみれば…』

金剛は見かけは10代後半に見えるが、艦歴的には太平洋戦争における日本戦艦の『オールドネイビージャック』に等しい。そのため、亡き東郷平八郎が意気軒昂だった頃の記憶も有するという稀有な艦娘と化している。金剛型が最古参級の戦艦であった関係か、その若々しい喋り方と裏腹に、長門から数えても数代前の連合艦隊旗艦であった事に由来する落ち着きがある。

『本当ならTea timeしながらお話したい所だけど、良いお茶が切れてるので、コレでも飲みまショー!』

『おい、ルートビアかよ。ある地方の人間しかわからんモノをだな。見ろ、坂本が固まってんぞ』

『あ、あれ?オイシイデスヨー?』

『お前なぁ』

『坂本、欧州で飲んだ事ないのか?こっちの坂本はコーラの代用品扱いでガボガボ…』

『すまん、ない!ハッハッハ…』

坂本Aは物資の優遇を受ける前のリバウ時代にルートビアをコーラの代用品扱いで飲みまくっていたと笑っているが、Bは初体験である。B世界のレイブンズは苦笑いしている。坂本Bは飲んでみるが、すぐに顔を顰める。

『なんだ?この湿布みたいな匂いは…』

『だから言ったろ、金剛。B世界の坂本にゃ通用しねぇって』

『まぁ、疲れてる時には良いかもしれんな…。こっちの私は、なぜガボガボ飲んでられたんだ』

『コーラが確保できないだろ、リバウは。その代用品だよ』

『リバウはリベリオン系の物資は入りにくかったデスからね。皇帝がリベリオン嫌いだったし』

『なるほどな…。で、そちらのミーナは何をしているんだ?』

『いるよ。ただし、半分は戦車兵だけど』

『は?戦車兵?』

『なんて言おうか、口でいうより、見せた方が早いな。定期報告に来る時間だし』

『閣下、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ少佐であります。定期報告に参りました』

『挨拶していけ、向こうの坂本がいる』

『はっ』

『ん?待て、黒江。ミーナの階級、下がってないか』

『説明するが、俺たちの扱いで問題を起こしてな。大尉まで一旦下げて、外部に留学させる方向で守ってたんだ』

『二階級降格だぞ。何をやらかした?』

『個人的な失敗だ。個人的に閣下たちとやり合ってな』

苦笑いのミーナA。容姿はB世界と変わらないが、服装が黒森峰女学園制服改造の戦車兵軍服である。口調はミーナらしさは薄れている。階級はダイ・アナザー・デイ後に、問題の責を負う形で大尉へ降格し、未来世界に留学、終了後に少佐に再任している。

『お前、いつから内勤に』

『いや、戦車兵だ。戦車兵の訓練を受けてな。今は戦車兵も兼任してる。ティーガーは重い割には軽快だが、神経使う代物でな』

『どういう事だ?』

『数年前の激戦で陸のウィッチも人手不足になってな。ミーナと宮藤を陸で戦わせた事がある』

黒江は詳しくは説明しないが、ダイ・アナザー・デイを『数年前の激戦』と表現する。畑違いの分野に黒江が投入させたという事実に首を傾げる坂本だが、ミーナが記念に撮った写真を見せる。

『ティーガーだ……。お前、いつから降下装甲師団の回し者に?』

『あー、コイツらは戦車エースの魂引き継いでんだ。宮藤はパンターだったな?』

『はい。ウチでは一番新しい中戦車でしたから、乗せました。…ストライカーでも出たが、実車のほうが使いやすくてな』

芳佳とミーナは転生の都合上、戦車兵の資格をダイ・アナザー・デイ中に取得。同作戦中は戦車兵としても名を馳せた。そのため、陸空の双方でエースになった稀有なケースであり、戦車兵としても一流という反則的な事態であった。

『お前。戦車兵としても一流だと?』

『色々と込み入った事情があるんだよ、美緒。一言では語れん』

『お前、そういう中性的な口調だったか?』

『清楚で優雅な人物像を取り繕う必要もなくなったしな』

ミーナ(まほ)は口調で顕著に変化が生じ、言葉づかいが中性的になり、仕事モードが常態化したこともあり、紋切り型になりつつある。以前と比較して、政治に興味なしになったが、実直になった事から、ドイツからも『仕事人間』と評価されている。また、デザートイーグルを用いる様になり、ウィッチの特権で片腕で『.50AE弾』仕様を撃つことから、日本からは某少女漫画に擬えて、『鉄の女伯爵』という渾名を頂戴している。

『こいつはお前の知るミーナ自身とは別人級に変わった。今は鉄の女伯爵って渾名だぞ』

『確かに、ミーナは伯爵の異名があったが…?』

『軍人としては降格したんだが、個人としては本当に爵位もらったんだ。皇帝陛下が個人的に気をよくしてな』

カールスラント皇帝はミーナの戦車兵としての活躍に気を良くし、軍人としては降格された後、排除された史実武装親衛隊系の人材の代わりに爵位を与えられた。これは皇室の人心掌握のためのプロパガンダに近い行為だが、カールスラント皇室は一時はドイツにより退位を迫られていたほどの窮状であったため、有能な軍人かつ、信頼する者に爵位を与えるようになっていた。扶桑は華族の身分維持のため、一族が存続する限りは身分を保持する事になったが、カールスラントは貴族の身分の存在が認められているため、元帥は一代貴族に任ぜられる。ミーナは少佐に下がっていたが、皇帝個人の意思で爵位を得ている。カールスラントのGウィッチは予備役編入(表向き)時に『黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章』が授与されており、招来の元帥を約束されている。これは扶桑系Gウィッチの功一級金鵄勲章に相当する。

『ミーナ、黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章を授与されているんだよ。こっちじゃ。俺たちの旭日大受賞と同等の価値だ』

『お前ら、授与されたのか?』

『蓄積した戦功とお上への忠節が評価されてな。もちろん、黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章ももらった』

『馬鹿な、どれだけ戦功挙げたっていうんだ』

黒江Bも驚く。B世界での黒江は黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章制定前に引退している上、戦功も常識の範囲内であるため、勲功は意外にそれほど得られていないらしい。

『えーと、一個軍団はぶっ潰したよな?俺ら』

『それ以上だろ、艦隊や空軍入れると数千機は落としただろうが』

『戦艦、巡洋艦、空母もかなり海の藻屑にしてやったじゃないの』

『何よ、その会話ぁ!?』

智子Bが絵に書いたような『ムキーッ』という擬音が入りそうな涙顔で声を張り上げる。目の前の自分が艦艇を血祭りに上げたと、」さらりと言ったのが琴線に触れたらしい。

『事実ですよ、皆さん。我々の知る貴方方は世界最強級の戦士ですので』

『せ、世界最強ぉ!?個人で!?』

『ま、色々と事情があるが、俺らは事変で三桁は撃墜済みなんでな。武子のヤツは若い頃はうるさかったけど』

『待って、綾香。あなた、ここだと智子とバディを?』

『黒田とローテーション組む形でだがな。ケイ、穏やかなお前を見ると、変な気分だぜ』

『私から見ると、その格好と入れ墨…何があったのよ。まるで極道…』

『アホ、タトゥーといいやがれ』

圭子は別の自分が服装とタトゥーに触れたのに若干の呆れを見せる。圭子は素の容姿に戻していても、ホットパンツにタンクトップ、タトゥーの3セットを忘れないため、『桂子』からすれば、やくざ者に見えるらしい。

『こいつ、故あって、中華系リベリオン人になりきる事もあるからな。それでアウトローな格好なんだよ』

『ガタガタ言うな、こんなの描いてるだけですぐ消せる。大体、自衛隊出向する時モンモンは御法度だしな。それに潜入任務とかで裏世界歩く時は舐められない様にしないとな」』

『自衛隊?』

『交友がある平行世界の扶桑の軍事組織。防衛隊みたいなもんだ』

『平行世界!?』

『詳しくは、そこでルートビア飲んでる金剛から聞け。全部を説明してたら、講義をニコマしても余るくらいの時間はいる』

『そんなになの?』

『……んだよ、あれ!?ずるいぞ!刀じゃ勝ってたのに…』

『あの声は504の錦だな。のぞみの奴、本気出したな、ははは…』

ドアの向こう側から、錦Bが地団駄を踏んで悔しがる声が聞こえてきた。どうやら、模擬戦でのぞみに撃墜されたらしい。

『暇だし、錦から話でも聞こうぜ。ウチの若いのが遊んだらしいからな』

黒江は地団駄を踏んで悔しがる錦を呼び、自分達の前で模擬戦の状況を話させた。錦曰く、最初は自分が優位に立ち、刀でも優っていて、一気に決めようとしたら……ストライカーを外し、自由落下しながら、ある言葉を叫んだという。

『プリキュア・シャイニングメタモルフォ――ゼッ!』

錦の姿からシャイニングドリームに変身したのぞみは、シャイニングドリームの姿で通常時の必殺技の『プリキュア・シューティングスター』を敢行。蝶の形のオーラを纏い、そのまま高速で飛行してエネルギーをぶつけた。ゲッター線に見出された後の時間軸では、通常時よりもシャインスパークに近くなっており、蝶のオーラを纏って飛行している時は幾何学的な空中機動を見せ、スピードも真ゲッター1に匹敵する。キ44-Vを履いていた錦Bはこの予想外の事態に対応できず、シューティングスターをまともに受けてしまい、撃墜判定を受けた。気がついたら、シャイニングドリームにお姫様抱っこされていたとの事で、錦Bとしては『天姫や竹井さんの前で恥をかいた』と不機嫌だ。

『お姫様抱っこかよ、こりゃ傑作だ』

『笑わないでくださいよ!あんな天使みたいな羽がついてて、戦場を何だと思ってやがるんだよ…』

錦Bは膨れているが、のぞみ/シャイニングドリームもそれなりに辛酸は舐めてきており、ダイ・アナザー・デイでは、南斗紅鶴拳、泰山天狼拳などに完封された事もある。そのため、現役時代の華麗さから打って変わって、意外に泥臭い戦いをしていたのは事実だ。

『ふう。模擬戦に勝って来ました』

『ご苦労。おい、金剛、ドリームにルートビアを』

『Okネ!』

『こいつは俺たちの世界の錦だ。今は仮名bで、夢原のぞみと名乗らせているがな。ウィッチとは別枠の戦士の力に目覚めたから、変名を名乗らせている。機密事項に接触するしな』

『あの、先輩、金剛さん。私、ルートビアはダメで…』

『OH〜!麦茶の買い置きは…』

残念そうな金剛。麦茶の買い置きを探す。錦Bは戦場に不釣合いな派手な格好と、天使のような翼を背中に生やしてるドリームにふくれっ面をしている。

『シューティングスターをかましたそうだな。数年前にクロから聞いたが、派手にやったな』

『一発逆転の奥の手ですよ。変身も含めてね』

ドリームは最強形態に自力で変身できるようになったのと、久しぶりに自前の必殺技を使って勝てたからか、声が弾んでいる。ダイ・アナザー・デイ中は修行で撃つのを禁じられていたからだろう。




――このように、47年時には色々と解決し始めるが、カールスラント軍はグレーテ・ゴロプの処分の過程で人種差主義者の巣窟と他国に訴追されてしまったことも、前線の士気の阻喪に繋がっていたため、扶桑ウィッチが代わって、前線の屋台骨になっていた理由の一つである


――話は戻って、ダイ・アナザー・デイ中の空域――

「日本はどうして、ウィッチを軍から遠ざけようと?」

「ジュネーブ条約の兼ね合いというのが大義名分だけど、この世界の実状にはあわないよ、あの条約」

「少年兵がたんまりいるしな。どこの国も」

「先輩」

「手を動かせよ、お前ら。フラップを吹き飛ばすか、燃料タンクをぶち抜け。20ミリは無駄撃ちできんぞ」

「わかってます」

下原は仕事はきちんとこなす。通常ストライカーを使ってはいるが、そつなく戦闘をこなせる才能を持ち、戦歴的には古参に入りつつある。下原は孝美と同期だからで、坂本の弟子で、芳佳の姉弟子にあたる海軍系のウィッチである。最古参級の黒江からすれば、陸海の垣根を超えての後輩である。

「前史じゃ、お前、宮藤に嫉妬してたな?」

「ジョゼの前でそれはご勘弁。ま、まぁ。一応、坂本さんの教えを受けてましたし、私が姉弟子なんですから」

「坂本も反省しとる。宮藤に入れ込みすぎて、お前らをかまってやれなかったってな。その坂本は扁桃腺が腫れて寝込んどるが」

「聞きました。インフルエンザやコロナウイルスじゃなくて、一安心です。芳佳が手こずってるみたいですよ」

「坂本に忍術を教えておいたんだ、昔。それで手こずってるんだろう」

「芳佳からの通信で、竹井さんが苛ついてるとか…」

「竹井はああ見えて、沸点が意外に低いからな。坂本が捕まらんのに苛ついてんだろう。奴が遠慮するのは、先輩の俺達くらいなもんな。」

戦いつつも、艦内の大捕物の様子が断片的に伝わった事で苦笑いの黒江と下原。プリキュアに変身しても、坂本を捕まえられない芳佳と竹井。さらに空母乗員を捜索班として用いても空振りなため、キュアマーメイドになった竹井がかなり苛ついており、スカーレットがなんとか宥めている状況は苦笑いそのもので、黒江が坂本にかなり高等な逃亡術を仕込んだ事がわかる。

「先輩、艦隊が砲撃戦に入ります」

「よし、智子、ドリーム、ピーチ、菅野、下原は俺に続け。対艦戦闘に入るぞ」

黒江は5人を率い、対艦戦闘に移行する。空中指揮を武子とミーナに任せての選択である。

「目標、12時方向、目標はモンタナ級戦艦『カルフォルニア』!」

眼下の艦隊を率いる旗艦に狙いを定め、レーダーピケットと護衛艦の対空砲火と対決する。下原と菅野がいる都合上、『スピードでなく、対空砲火を火力で沈黙させつつ、目標に一撃を加える』方法が取られ、二機のVFがマイクロミサイルとレーザー機銃を撃ち、レーダーピケットを沈黙させ、その隣にいる護衛艦の巡洋艦を突破せんとする。

「お前ら、海面スレスレで飛ぶ気分はどうだ!」

「ひえぇ〜!うっかりしたら、海水にドボンしそうですよぉ!」

「これくらいでブルってんな、ピーチ。これがこの時代の航空機の対艦戦闘だ!」

「ジェット機で日本軍の雷撃機まがいの真似やらかすのは、先輩くらいですよ〜!」

「バーロー!メリケンさんなんか戦略爆撃機で、地面の上でやらかしてるわ!

二人のプリキュアはこの有様だが、流星艦上攻撃機や天山の搭乗員たちは皆、こうやって雷撃を敢行してきたのだ。それと。

「アホ、空自のF-2の連中も、対艦戦闘は一定程度までは低空飛行するぞ。ミサイルは便利だが、戦艦のバイタルパートには大した打撃にならん。機銃や両用砲に電子装備、主砲の測距儀の破壊が目的だ。お前らは目標に全力を注げ。護衛は俺と智子で黙らす」

敵護衛艦のギリギリ上空を通過していく一同。ブルックリン級軽巡洋艦の4隻はマイクロミサイルで損害を被っていき、一同は目標に迫る。艦隊の対空砲火はまばらである。低空飛行をする敵機への弾幕展開に手間取ったためだ。天山や流星より高速で通過する一同に向けられた対空砲火は意外に密度が低く、黒江も同情的になるほどである。

「智子!」

「わかった!」

黒江と智子は阿吽の呼吸で機体をガウォークに変形させ、目標からの対空砲火を避けつつ、瞬時に目標めがけて、大火力を叩き込む。続いて、その隙を突き、ウィッチとプリキュアが火器と必殺技で電子装備や両用砲などを壊していき、ドリームとピーチのキックはモンタナ級の砲塔の天蓋装甲をへしゃげさせる。伊達にスーパープリキュアに変身はしていない。貫通しなかったのは、232mmの厚さの天蓋装甲のおかげである。

「いったぁああ〜!へしゃげるだけぇ!?仮面ライダーみたいに、きりもみ回転加えて飛び蹴りしたのにぃ〜!」

「モンタナは主砲塔の天蓋、232ミリもあるんだぞ?よくへしゃげさせたな。貫通したら、中の人員を沈黙させんとならんかったぞ。まあ、今の圧力で中の連中はのたうち回ってるだろうが」

「感想はいいから、援護射撃してください!」

「狼狽えるな、ドリーム!そこは武装の死角だ。そこから第二砲塔がすぐ後ろにある!その位置なら、技で狙える!砲身をへし折れ!菅野と下原は続いて攻撃!敵に第一砲塔の被害を考えずに独自射撃される危険がある!目になる測距儀を潰せ!」

指示を飛ばす黒江。部下達に経験を積ますために、自分達で全てはやらない選択をした。育成のためだ。黄泉還りの素体の錦がいっぱしの軍人であったドリームと違い、ピーチは生前はプロダンサーで、かつての『フレッシュ!プリキュア』とはいえ、こうした専門分野的な戦闘経験はもちろんない。それを少しでも覚えさせるため、一応は錦からの引き継ぎで専門知識を持つドリームとペアを組ませているのだ。そういう事情がこの戦闘にはあった。



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