外伝その326『伊達じゃないこと2』


――日本は科学で扶桑に優位があるため、全般的に扶桑を見下す傾向があった。扶桑皇室に日本皇室と同等の露出を求めるなど、扶桑の国家単位の混乱を助長した事もあり、日本は自国の扶桑への世論統一を図った。軍事関係者の教育現場からの排除など、性急すぎる施策が反対意見を聞き入れずに強行された事は大問題だからだ。その兼ね合いで、扶桑皇国のY委員会による裏での統制が取られていく。当時、既にY委員会は始動しており、軍官僚組織の一定の保全がなされていた。これは軍の官僚組織を完全に潰してしまうと、軍組織の管理運営に多大な支障が出てしまうからで、既に前線部隊の運用さえ支障を来していたダイ・アナザー・デイは地球連邦軍が実質的に兵站面を下支えしていた――




――地球連邦軍製兵器は公然と使用されており(自衛隊がスーパーXVやメカゴジラを使いだした事もあって)航空自衛隊の機材は半分以上がセイバーフィッシュとVF-1EXに取り替えられていた。F-4EJ改の老朽化が限界に達していたからだ。この時の運用経験が両機種の実用化のきっかけと開発理由に繋がる。2019年頃に当時の最新鋭機とされた『F-35』が墜落した事で運用部隊の士気が低下しており、黒江はその部隊の人員を優先的に派遣させ、より高性能であるセイバーフィッシュなどに乗せる事で士気の回復に努めた。(当然ながら、F-35よりセイバーフィッシュは高性能。アクティブステルスでステルス性と第四世代機以前の洗練された機体形状を両立している)セイバーフィッシュは一年戦争当時から使用されているため、デザリアム戦役前の当時としては古臭い機種である。コアブースターのような『核融合炉搭載機』でもなく、21世紀の戦闘機とそう基本構造が変わらないからだが、その方が自衛隊の整備員の手に負えるのだ。黒江達の乗艦する空母にも、コスモタイガーの補助機扱いで宇宙軍仕様が搭載されている――


「統括官、すごいですな、これは」

「500m超えなんだ。スペースを使わんと損だろ?格納庫も多いからな」

「レシプロ機は少ないですな」

「他部隊への予備機提供用だ。この艦はジェット運用が主体だからな」

「セイバーフィッシュはなぜまだ現役で?」

「コスモタイガーは外征部隊に優先配備されてるんだ。ブラックタイガーの生産はストップしてるし、ゼロやコアブースターは高価だ。セイバーフィッシュは議会受けもいいからな」

セイバーフィッシュは現在の主力戦闘機とされるコスモタイガーやコスモ・ゼロより安価であり、整備教育期間が相対的に短い。その事も、二線級扱いで現役復帰したのだ。黒江はクロや武子と別れた後は自衛官としての副官を案内していた。

「で、お前にも見せておくが、俺はゲッタードラゴンも動かしている」

「ゲッタードラゴンを?」

「ただし、俺のはオリジナル版の予備パーツを組み上げた機体で、量産型じゃない。真ゲッターロボにもその気になれば乗れるが、文句が来た事があるから、ドラゴンに留めてる。ただ、チューンしてるから、性能は三割増しだ」

「どういうことです?」

「文句が来たんだよ、真に乗ったら」


黒江は身体能力と親和性。共に真ゲッターに乗っても問題はないが、前史で乗ったら文句が来た事があり、その関係で乗れなくなったのを根に持っているらしい。ちなみに、黒江達が使うゲッタードラゴン改はチューンナップされ、オリジナルの個体より戦闘能力が強化されている。カラーリングは視認性低下を狙い、黒に変更されていた。スーパーロボットの増産は反対される傾向があるが、予備パーツなどの確保の目的のため、別個体が作られる。ゲッタードラゴンはオリジナル版の『喪失』後、運び出された残存予備パーツを組み上げた個体がチューンナップされ、黒江達に回されたわけだ。竜馬、隼人も號を三号機(ポセイドン)に乗せ、ドラゴンで出る考えだ。(真ゲッターロボは二代目チームが使用しているため)

「これだ。」

「黒いドラゴン、ライガー、ポセイドンですか」

「ゲットマシンの状態だが、塗り替えた。夜間視認性の低下の意図もある。形状はオリジナル版と同じだ。日本の世論が大規模派遣を許さんから、こうしたチートをせにゃならん。うちは超大国として、この世界の秩序を維持せねばならんのに、兵力不足だ。いくら質を強化しようと、最後は数が左右するからな」

「日本はできるなら、関わり合いたくないのですよ。扶桑に引きずり込まれたという被害意識を政治屋共は持っている。それで、せめて、扶桑の国家体制を戦後日本に近づけて、軍部を自衛隊と殆ど同じ規模にしたいんですよ。軍部より警察を偉くさせたいんでしょうな」

彼の推測の通り、日本の政治家の多くは軍部の力が強い扶桑の国家体制の変革を目論んだものの、オラーシャ革命の頓挫を目の当たりにし、ウィッチへの非人道的な魔女狩りが横行した事で、扶桑国内でのウィッチへの異端審問的見せしめを防ぐため、ウィッチの取り扱いは腫れ物に触るようにされ、扶桑の慣習を壊す程度の関わり合いに留めた。その流れで得た『埋もれていたレイブンズの功績の再発見』は、日本が得た扶桑への数少ない政治的アドバンテージであった。それを活用する事で扶桑の内部改革を促し、レイブンズを通し、扶桑の国家体制や思想を『ドイツ寄り』から『英国寄り』に近づける意図を持っていた。その過程でカールスラントとの関係の一定の希薄化は容認され、ブリタニアや自由リベリオンとの関係強化がその代替として扱われた。これに酷く狼狽した(太いパイプを持っていた扶桑外務省の人物たちが次々と失脚したためもある)カールスラントは、国際貢献の成果を焦り、44戦闘団の主要メンバーが実質的に日本連邦へ移住することを容認。義勇兵枠で、扶桑が彼女たちを用いる手筈が整えられたという。


「ま、その動きは利用しがいがある。近衛師団を縮小してやって、皇宮警察の権限を上げてやって恩は売った。クーデターを早期に鎮圧して、日本の不満分子を扶桑が摘発すれば、合法的に裁ける。俺たちが活躍すりゃ、日本も口出しできなくなる。これだけ前線を混乱させたんだ。相応の対価は支払ってもらうぜ」

「統括官の手筈通りに、防衛装備庁は部隊使用許可を出したようです」

「よし。後は公安警察をひっくり返せるネタをちらつかせれば、連中はこっちに反抗出来なくなる。2003年か、1999年位に俺を調査対象にしてやがってたしな。で、危険視して俺を逮捕しようとしたからよ、逆にボコボコにした。その一件でカミングアウトの方向になったんだ」

「どの程度?」

「骨を五本は折ってやった。肋骨、腕、足、鼻。公安警察官くらいの鍛え方で、俺を取り押さえられるかってんだ。そいつらを半年は病院送りにしてやった」

「流石ですな」

「トドメにタマを上げてやったよ。正当防衛を成立させた上で。カミングアウトで公安は俺に手出しが出来なくなったのを恨んでるんだ。おまけに構成員をボコボコにされて、何もできない状況に追いやられたしな」

「タマにも一撃?」

「ああ。靖国行った帰りに逮捕されそうになって、コンビニのおにぎりをダメにしてな。そんでムカついて、ガイーンだ。99年くらいだったかな。防大の一年だったし。それでムカついたんで、任官後に公安委員会丸ごとひっくり返しかねないう研究をしてたことを掴んだ。部内で噂になっただろ?あの研究の大本だよ。」

「どこからそれを」

「義勇兵のおっちゃんの一人の倅が警察庁の要職でな。そこから得た。2003年くらいにももう一回やられたから、それでツテを使った。あん時はまだ隠居した好々爺だったけど」

「詳細はどうなのです」

「警察の扶桑軍隊との戦闘想定だ。それを何度もシミュレーションしてたなんて公になってみろ。1000万近い扶桑軍隊が全力で日本を制圧しにかかるだろう?おまけに予想以上に扶桑軍隊が近代化されてて、プリキュア出身者も含まれてる事が分かった上、おまけに政権交代後もシミュレーションを数回くらいしてたんだぜ?扶桑の世論が沸騰すれば、連合艦隊と陸空の主力で制圧しにかかる。俺達が全力を出せば、自衛隊が動く前に政治中枢を制圧できる。実質的な無血革命だが、警察庁は機動隊で抵抗する想定をしていた」

「その想定は無意味では?」

「まあな。ウィッチを嘗めてやがるんだよ。ウィッチが全力出せば、機動隊くらいは数分で無力化できる。プリキュアの連中にとっても、機動隊は有象無象だ。それに、古くは70年代に『10月計画』を仮面ライダー一号と二号が潰したからな。それを踏まえてのものらしいが」

この頃には、日本の治安関係部署は度重なる失態で政府からも苦言を呈される立場に追い込まれており、防衛関係部署の力が相対的に増していた。ただし、扶桑皇国の軍事力を政治的手段で縮小させる手を講じようとした結果、前線に多大な悪影響が生じてしまった。この頃には、かつての日本政府の画策が組織に利用され、『10月計画』なる計画にされてしまったのを、ダブルライダーがすんでのところで阻止している。この事実は周知の事実であり、日本警察はその計画で組織にしてやられており、その事からもナチス残党を敵視していたが、歴代仮面ライダーの現役期間になんら寄与できなかった(自衛隊はネオショッカーの時代、大幹部のゼネラルモンスターに手傷を負わせる殊勲を挙げている)事がコンプレックスである。彗星のごとく現れた扶桑軍。戦後に自分らが敗北者と蔑んだはずの旧軍と同位存在の扶桑軍の台頭に危機感を覚え、その規模縮小をあの手この手で行い、革新政権に入れ知恵も行い、無能とされた人材の排除を目論んだ。黒島亀人や栗田健男、宇垣纏、大西瀧治郎はこの煽りをモロに受けたと言える。(もちろん、海軍左派の山本五十六、井上成美、米内光政にも批判はある)陸軍は富永恭次、田中隆吉、赤松貞雄、佐藤賢了などの東條英機の腹心とされた者が根こそぎ一掃された。だが、史実と異なる状況にあったため、そこそこの要職についていた者もおり、彼らを有無を言わさずに強引に軍から『追放』した事で軍官僚組織がショックで機能不全に陥っていた状況であるため、実質は連合軍統合参謀本部が扶桑軍を統制している。扶桑で極秘に動いていた組織であり、親Gウィッチ閥が設立した『Y委員会』が国家指針をコントロールしだしていたが、この国家指針のコントロールは日本の政治勢力の人事介入で生じた大混乱への対応の一環であったが、扶桑国家の『変革』には時間がかかる見通しである事から、実質的にY委員会は『扶桑版の円卓会議』と化していく。小泉純也以降の扶桑の内閣総理大臣の選定にY委員会が深く関わっていくが、このフィクサー組織は扶桑国家の変革を少しづつ進めるためには必要であった。

「俺たちは冷や飯食いくらいが国や社会にはちょうどいいが、敵がいる以上は矢面に立つしかない。軍人はそのためにいる。自衛隊員もだ。内務の連中は旧軍とウチを同一視してるが、関東軍含めての旧陸軍よりはよほど、中央の統制が効いてる軍隊なんだがな」

黒江は冷や飯食いに慣れているため、戦乱期の終了後は風来坊的な暮らしをするつもりである。黒江は仮面ライダーストロンガー/城茂を慕っており、戦時の英雄は平時には持て余されるだろうから、『風来坊をやろう』と決めている。(黒江は64Fからの異動が無くなったため、『戦間期』は持て余されると自分で予測しており、野比家でその期間を過ごすつもりであるし、平時には女優を兼業する事も考えている)その点では、戦後の平和な時代の扶桑での身の振り方を早くから考えている一人だった。

「統括官は、この世界の戦後はどうなさるつもりですか」

「軍籍を持ったまま風来坊やったり、女優でもやるさ。おふくろへの親孝行はしないとな」

「お母様への?」

「某歌劇団におふくろは入れたがったからな。俺にできるのは、違う形での親孝行だよ」

「私はこれで」

「ご苦労さん」

黒江はその美貌とボーイッシュな風貌から、女優への転身を勧める声が親族からあり、黒江自身も戦間期の食い扶持として、広報部に出向しての女優業を考えていた。実際、智子の戦友であるビューリングは『Gウィッチへの覚醒がなければ、退役後に雑誌モデルになるつもりだった』と言っている。Gウィッチ化は軍から離れる事ができなくなる事であるが、その代わりに『軍内で特権の恩恵を受けられる』事である。軍に籍は残しつつ、法に反しなければ、好きに生活できる。勤務中は体外的な品位は求められるが、それ以外はこれ以上ないほどの特権を有する。黒江のように未来装備のパイロットをする者もいれば、芳佳、のぞみ、シャーリー(北条響)のように『プリキュア』の力を取り戻した者もいる。のぞみは、錦としての生活とプリキュアとしての生活を両立せねばならないため、錦としての荒い言葉づかいを改めて習得しないといけない分、苦労も多い。おまけに、天姫が本国に帰還した後、錦を心配して連絡を取ろうとしている動きが伝えられており、何気に誤魔化しが大変であった。

「はぁ。疲れた〜」

「のぞみ、どうした?」

のぞみが帰ってきたが、若干疲れた様子である。

「先輩。帰ってなり、天姫が電話してきて、とにかく誤魔化してきたんですよ。全然、話が伝わってこないから、小鷹姉貴のツテを使ったとか…」

「錦の姉貴か…。テストパイロット畑で実戦には出てないと聞くが、顔が効くらしいな」

「不意を突かれましたよ、本当」

「お前のことはA級の機密に指定したはずなんだがな。それに触れられる立場って事か、小鷹ってのは。もっと上に指定し直させるように言うわ」

「キ43のテスパイでしたからね。兎も角、姉貴の同期のまっつぁんに誤魔化してもらいました。あの人なら有無を言わさずに信じさせるの上手いですし、押しが強い」

「まっつぁんだしな。若さんはそういうの苦手だから、こういう時はまっつぁんに限る。天姫は今の実戦向けのウィッチじゃねぇ。本国でテストさせておいたほうが幸せだろうよ」

「その代わりがわたしって事に?」

「名目上はな。お前には二役をしてもらうぞ。シャーリーに比べりゃ、幾分は楽だと思う」

「ああ、美雲・ギンヌメールの影武者させてるんでしたっけ、響」

「現在進行系でな。だから、元の容姿は今、殆ど使ってないぜ。もっぱら、北条響の姿か、美雲だ」

「そうそう。あおいが対抗心燃やしてますよ」

「プリキュアキラキラアラモードの奴だよな。あいつ、元の世界でロックバンドしてたんだっけ」

「はい。それで昨日、響のオンステージ聞いて、圧倒されてましたよ」

「訓練させた甲斐があったよ。スイートプリキュアとして、音楽的素養はないわけじゃなかったしな。あおいにFIRE BOMBERでも聞かせっか?」

「ワルキューレの音楽で十分ですよ」

「ま、意外にノリが良いから助かったよ。バルクホルンが腰抜かしてるが」

「バルクホルン少佐、歌に自信が?」

「ミーナの次に上手いと自負してたらしい。ま、俺に比べりゃ落ちるが」

「へぇ…。でも、歌ってるとこ、見たことないですよ」

「あいつを歌わすには、酔わせないといかんからな。それか、宮藤がのせるか」

「確かに」

「お前、どうせなら、自分のキャラソン歌えよ」

「おーー!うららが来たら誘ってみようかな」

「ま、バルクホルンには衝撃を与えたぞ。響が食事でバルクホルンとかちあって、『LOVE!THUNDER GLOW』をその場で謳って、茫然自失にさせたとか言ってたし」

「えー!見たかったなあ」

『LOVE!THUNDER GLOW』。美雲・ギンヌメールのソロソングである。シャーリー(響)はこれでバルクホルンを圧倒し、じゃがいもを一個多く得ている。バルクホルンも歌唱力は低くないが、美雲・ギンヌメールの影武者をこなせるまでに成長したシャーリーには及ばない。そこが敗因である。

「どうせなら、『Reckless fire 2011』でも歌うか?」

「先輩も好きですねえ、スク○イド」

「のび太が持ってるんだよ」

「Get Freeは考えてますよ」

「通なところ突いてきたな

「ミーナ中佐は何を歌うとか言ってました?」

「静かな夜だとか」

「は?」

「ですから…」

「プラントのあの歌姫の歌やん。キー出せんのか?九条ひかり並にキーが高いぞ」

「声楽科行ってたなら、出せるんじゃ?」

「うーん。聞いてみないとわからんな」


「戦艦がイージス艦や空母と一緒に航行してるのは珍しいですね」

二人は飛行甲板に出て、遠目に見える大和の姿を見る。

「戦艦は弾除けだよ。実際は護衛艦タイプの護衛も兼ねてる。砲撃戦じゃ、戦艦が盾にならないといかんしな。それに、ミサイルは戦艦のバイタルパートの破壊は出来んしな」

「魚雷は?」

「酸素魚雷は無誘導だし、短魚雷は対潜用だ。戦艦の砲撃戦に護衛艦は殆ど用無しだしな。砲撃の観測や牽制、対潜しか役に立たん」

戦艦は40cm級の砲弾を撃ち合うため、護衛艦型艦艇に直撃すれば、下手すれば『一発で轟沈』しかねない。ましてや、史実以上の規模の戦艦がいる戦場では、護衛艦は主力となり得ない。ミサイルの有効性に疑問符がついた最初の事例がこの世界での海戦であった。海自はミサイルで砲弾を迎撃する手立てを考えていたが、史実大和以上の砲弾は迎撃を失敗したら、至近弾でも、護衛艦の電子装備を破壊するほどの衝撃波を発生させる。その事から、海自の護衛艦は戦艦との交戦は禁止されてしまっている。(漫画のように、煙突を破壊する方法は確率論の問題になり、乱戦では有効ではないし、核融合炉以上の動力である場合、煙突はない)

「だから、戦艦が前に出てるんですね」

「そういう事だ。最も、打撃戦になれば、艦隊から空母を分離させるがな」

「乱戦になると、空母は脆いですからね」

「第二次世界大戦のような艦隊戦は、少なくとも統合戦争までは起きんからな。戦後型は砲弾には脆弱なんだよ」

「戦後の人間は、すぐに航空機に頼りますからね」

「楽だが、大和以上の戦艦には費用対効果が低いよ。防空能力が米軍の水準なら、旧日本軍は数百機の特攻機を使っても、前縁のピケット艦を落伍させるのが精一杯だったしな。戦後のジェット機とミサイルでようやく対等だが、一回じゃ戦闘力喪失にはならないし」

「ですね」

「それと、お前。ゲッターエネルギーに選ばれたぞ。完全に」

「なんとなく自覚はあります。その場の勢いで叫んじゃったけど、いけますかね」

「いけるいける。はーちゃんは光子力だし、このまま突っ走れ」

「トマホークとか、ソードトマホークとか振り回さないといけないかな?」

「そうだ。どうせなら、ネオのプラズマサンダーを使えばどうだ?」

「ピースと被りますけどね」

「それはそうだ」

「今、ディケイドにお前のいた世界線を探させている。『プリキュア5の世界』は分岐点も多いからな」

「わたしたちは二年は戦いましたからね。その影響で、色々と説明しづらい事になりましたよ、ハハハ…」

「なんで、お前ら進級してないんだ〜的な奴だしな。クロと武子にも見せたが、どう思う?これ」

「え〜!?変身したままで買い物!?」

メールの画像に驚くのぞみ。ピーチは『プリクラ』を撮った経験があるとは聞いていたが、買い物はなかなか以て衝撃的である。マーチはサッカーボール、フェリーチェはアイスクリームと、趣向が表れている。

「のび太の街なら、こういう事もできるぞ。再開発もされてるから、以前より便利になったしな。それと、特異なあの街があまり話題になんなかった理由も分かった。結界だ。江戸期の天海大僧正の施した呪術的結界や魔術、それと学園都市に施されていた結界の効果だった。急に話題が出た理由は、学園都市の結界が無くなったためだ」

「なるほど…」

「日本も、何かと裏があるんだよ。オラーシャを分裂で封じ込めたら、アジアの軍事大国は扶桑だけってことに気づいたし、シャムから部隊引き上げさせたら、あそこは国が安定しない上、ティターンズにすぐ制圧されるくらいの戦力しかない。あそこが落ちたら、東南アジアから極東は怪異の勢力圏になる。それが指摘されたから、申し訳程度の部隊を置く決定は出してる」

「連邦になったら、日本が出しゃばってません?」

「こっちの情勢掴めてないって、政府に締められはじめたから、2020年代日本はウィッチ世界の件で官僚が口を挟めない状態にしたが、日本はうちらを恐れてるんだよ。うちらを真に抑えられるのは皇室だけだ。だから、如何にして、皇室の権限を内閣に移させて、憲法も変えさせて、軍隊を内閣が抑え込んで、皇室を客寄せパンダにしようかって考えてんだ。こっちの皇室には若い男子がたんまりいるからな。日本に何人か送り込んで、日本の絶えた宮家の名跡を継がせる方法で日本の皇室を維持させてる。」

「良いんですか」

「臣籍降下が続けば、直に自然消滅しちまうのが日本の皇室の規模だ。扶桑からの養子縁組は最後の手段なんだよ」

「それでうちの国は?」

「財政と資源援助と引き換えに引き受けたよ。日本は市場が欲しいし、こっちは皇室の余ってる男子の処理に難儀してたしな」

「皇室の男子ねぇ。向こうで旧皇族だったりしても?」

「扶桑で現在進行系で皇族だから、問題ないだろ?日本は経済至上主義だから、こっちの軍隊を削らせて、その分を内地の再開発に回させようとしてるのが現状だ。でも、扶桑は日本と違って、軍人が世の中で一番に偉いって風潮だ。東條大将が『政治屋は水商売』なんて見下してたほどだしな。そこに水と油みたいな、戦後の『財界人やマスメディアが動くことで、政治家や組織の官僚の屠殺権を裏で行使する』常識を持ち込んでみろ。クーデターの一つや二つは起きる。そのためのY委員会だ。戦後の財界人やマスメディアは軍人を『戦争屋』と見下すしな。それに皇室のスキャンダルは日本側に知れ渡ってる。扶桑はその暴露を恐れてる。皇太后と皇后の不仲はもう有名だしな」

「ああ、今のお上(昭和天皇)のお母さんとの…」

「日本じゃ、子供でも調べられる逸話だしな。状況が違うから、史実ほどじゃないと思うがな。何人かは史実にいない内親王がいるし、その内の一人は軍籍を持ってるしな。有栖川宮の血筋を継いでるらしいし」

ちなみに、扶桑海事変時に調停に動いた内親王はウィッチ出身の皇室軍人であり、史実では絶えた有栖川宮系の血筋を継いでいる。史実と違う点が皇室に多く存在しているのは確実だろう。

「有栖川?」

「うろ覚えなんだが、大正期までに史実だと絶えてる宮家だそうだ。昭和のお上が息女を引き取ったって話がある。詳しくは分からんが、皇室も事情が違うって事だ。統合士官学校になるし、来年の改革はかなり出血を伴う事は確かだ」

「皇室軍人のおかげで大事にならなかった事も多かったですしね。皇室軍人の取り扱いも大変でしょうね。クーデターが起こったら、どうなるんです?」

「ウチの軍隊を50万単位で削減する大義名分を日本に与える。太平洋戦争に向けて、国内の世情不安はなんとしても避けたい。只でさえ、軍官僚が史実の罪で大量に罷免されたから、参謀本部や軍令部の官僚組織が機能不全に陥って、本国の補給すら滞ってるんだしな」

当時、軍令部と参謀本部は軍官僚組織が機能不全に陥っており、国内の備品配給の事務処理すらもままならない状態であった。統合参謀本部がその機能を代行する状態に陥っており、実質的に有名無実化していた。前線機材の補給が滞ってしまっていたのも、そのせいである。この時の補給の不備は本国の部隊の不満を煽っており、それがクーデターを促進させたのは確実である。皇室軍人を解役させる事が検討されていると流布されたのも要因だろう。

「えーと、調宮竜子内親王だったかなぁ。有栖川系の新し目の宮家の当主で、皇太子殿下の何番目かの姉だとか」

「そんな名前の宮様いたか?」

「事変の時に10代で軍人してた宮様は彼女だけです。日本と違って、養子縁組可能だし」

日本に存在しない宮家が数個は確実に存在し、女性当主も風土的に認められているため、扶桑の皇室は戦前日本以上に大規模であった。皇室典範も史実よりだいぶ柔軟なもので、イギリス王室に近めの風土が扶桑の皇室にあった。古くからブリタニアと同盟関係にあった所以である。


「日本への良い脅しに使えるネタだな。メモっとこ」

「先輩、政治的に動きますね」

「そうでないと、日本は抑えられん。お前らをプリキュアとして戦わすのだって、相当に苦心したからな」

日本を凌駕し、前線を円滑に動かす事。それが黒江に課せられし命題であり、のび太とドラえもんの力をかなり借りているものの、黒江が取り組むテーマであった。



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