外伝その331『夢見た明日』


――前線に到着したことは。彼女の口からストナーサンシャインを使った事が報告され、流石の武子も唖然としてしまった。以前と打って変わって、攻撃的な技に躊躇がないからだろう。――


「まさか、ストナーサンシャインとはね…。」

「場の勢いで撃っちゃって……」

「まぁ、それはそれとして、こっちは大変なのよ。軍票の発行と使用停止が正式に布告されて、軍民問わずに取り付け騒ぎよ。日本の紙幣は紙幣価値が違うから、扶桑の紙幣を擦りまくるしか選択肢がなくてね……」

当時、扶桑皇国は欧州でかなりの軍票を発行していたため、通常紙幣で代替せよというのはかなりの無茶で、いずれは切り替えるとの布告されていたとは言え、パニックはやはり起こってしまった。軍隊は特に兵、士官に軍属の月俸として使用していたため、強引な使用停止は大事であったからだ。64は予め、地球連邦軍の仲介で給金の支払いを切り替えていたが、これは稀なケースで、一般部隊などの他の部隊では備蓄していた軍票が紙くずになってしまうと困惑し、軍部がパニックになってしまった。この事態に困惑した扶桑軍の抗議を受けた日本政府は公式に『デマゴーグであり、日本政府としての公式見解ではない!』と発表するに至った。これは左翼思想に被れる官僚や市民運動家達が流したデマゴーグにすぎなかったが、各地のパニックを呼んでしまったため、緊急声明として、『流れている噂はデマであり、軍票の廃止はしない』とした。しかし、悪い噂ほど瞬時に広がるもので、駐屯地で取り付け騒ぎが起こっており、地球連邦軍が『国連軍』の名で介入するほどの事態になっている。この騒ぎも士気低下の一因であり、地球連邦軍の庇護下にあった、Y委員会の息がかかる精鋭部隊が駆り出されまくる事態になっていた。

「大変ですね…」

「ウチは切り替えてたから、まだいいけどね。他がね。地球連邦軍のコネがあって助かったわ。どうせ、一部の馬鹿の突っ走りよ。取り消されるのは分かってる。軍の信用問題よ、これ」

「殆ど出回ってないのなら、なんでパニックに?」

「軍の月給を軍票で払ってる部隊が多いからよ。ニコニコ現金払いはウチくらいよ」

「どういう仕組みで?」

「バックに地球連邦中央銀行があるからよ。ウチはロンド・ベルのウィッチ世界出張所だもの」

64Fが独立部隊に位置づけられた理由は、幹部級が地球連邦宇宙軍にも籍があり、ロンド・ベルに属していたからである。その関係で地球連邦中央銀行のバックアップを受けられている。どこの国の通貨でも両替可能という便利な仕組みが出来上がっていた。タイムマシンの応用でのATMだ。給料は駐屯地でのみ使える軍票で払う必要は無くなっていた。これは幹部が地球連邦の戦いに従軍していた者の多い64のみの特権であったので、例外的である。これは時空間技術のチートの一種だが、貨幣価値などは時代で変化する。そのため、然るべきところで回収はしている。例えば、21世紀のあたご型護衛艦二隻の建造費を1940年代に置き換えると、戦艦大和が造れるからである。それだけ貨幣価値は変化している。ちなみに、零戦は5万円で、現代人からすれば、リーズナブルに聞こえてしまう。だが、1940年代はまだ『銭』があり、1000円台で家が立つような時代だったため、九七式自動砲の6500円などは高額と言える。

「どうなったんです?」

「小切手を刷ってるわ。日本のノータリン連中のイメージと違って、連合国は互いを信用しきってないもの。軍票なんてタブーよ。それにウチは少尉以下は数える程度だもの。貴方入れても数人ね」

64Fは末端の隊員でない限りは少尉以下の人員はおらず、幹部級は将官、佐官、特務士官(当時)で固められていた。ウィッチは基本的に勤続年数による加算は望めなかったため、手当などで勤務階級に相応しい金額にしていた(能力給に近い)。地球連邦軍の技術でウィッチ寿命が延長されたり、転生で能力が永続化した者の出現はあれど、当時の風潮的に10代の終わりで退役する者が大多数であったため、前線の自前での航空優勢は64が一手に引き受ける羽目に陥っていた。空軍での編成が内定した事もあり、通常部隊も複数が配下に加わり、保有機材の数は航空軍規模にまで膨れ上がっていた。実質的に、欧州にいる扶桑陸軍航空部隊主力の指揮権は64Fの幹部に委ねられていた。武子は有に数千もの航空機、数十の精鋭ウィッチ、宇宙戦艦、未来兵器を手中に収めているのだ。

「幸い、キャッシュレス化の影響が及ばない時代だったし、23世紀もM粒子の影響でキャッシュレス社会が廃れてたし、軍票なんて、地球連邦は使ってない。日本の阿呆共はいい気味よ」

「まあ、21世紀で紙幣がきれいな状態で流通してるの、日本くらいですしね」

「23世紀の記録によると、日本は定期的な大地震やら、火山の噴火、特殊詐欺、タンス預金の問題でキャッシュレス社会化が進まないままで地球連邦時代に入ったらしいのよ。金銭感覚の麻痺を嫌う世論が強いまま22世紀まで来て、戦乱期に入った事でのスペースノイドの過度の自動化への反対論、M粒子の軍事利用での電子回路の防護策もあってね。それで21世紀の日本のような状態に落ち着いてるらしいのよね」

「地球連邦も、金があるとは言えませんからね」

「あと半年もあれば、デザリアム戦役が始まるし……はぁ」

「そう言えば」

「おまけにうちの国はクーデターが控えてるのよ?早期に鎮圧して、首謀者に極刑を与えて、関係者を網走にぶち込まないと日本の介入を招くし、官僚が勢いづく。青年将校の不満分子はウィッチであろうが、無かろうが網走にぶち込まないと…」

武子は日本が、過去の記録にあるクーデターの反省で、クーデターを起こす青年将校達の極刑を望むであろう事は明白であると読んでいた。武子はこの辺りで黒江に及ばない点があり、政治犯=網走という認識である。これを後で聞いた黒江が『各地にバラバラにしねぇと、大脱走されんぞ。南洋の渓谷地帯、アリューシャン、鹿児島、長崎に新刑務所を用意させているから、バラバラにしねぇとな』と助言する事になる。また、反乱ウィッチの助命嘆願は一切無視の予定だが、これが地方の農家の萎縮を招いたのが最大の誤算となる。青年将校の不満分子への見せしめを兼ねていたが、農家が怯えてしまうという思わぬ結果を生んだ。死刑の求刑そのものは少なかったが、それまでの慣例を無視しての求刑で農家が怯えてしまったのが実情である。この頃には、地球連邦も23世紀で半年もあれば、デザリアム戦役を控えている。その都合もあり、休暇が取れなさそうな事に落胆の武子。22世紀終盤からの戦乱は23世紀初頭には慢性化している状態であり、地球本星がピンポイントで狙われる星間戦争時代の到来もあり、キャッシュレス化が進展するどころか、現金の利便性や移民星社会の育成の意図、スペースノイドの反発もあって、むしろ退化した。戦乱でスラム化した北米・東海岸部など、治安が極度に悪化した地域もある。このように、23世紀初頭はまさに貧富の格差が大きいが、軍隊で名を挙げれば、一攫千金が約束された時代でもある。民間軍事会社の巨大化を危惧した議員達による法的規制が始まった事もあり、軍部の予備役部隊として実質的に維持される民間軍事会社の実行部隊。ケイオスやS.M.Sなど、既に一定規模の部隊を抱えていた民間軍事会社は強い法的規制の対象になり、それらの実行部隊はロンド・ベルに実質的に編入されていく。イサム・ダイソンなど、移籍を出向に変更させられ、『ロンド・ベルに籍を異動させたから、お前の剥奪された勲章は元に戻してやると言われたぜ』と愚痴っている。これは民間軍事会社に多数の人材を引き抜かれた事に強い不満を持つ地球連邦空軍の中枢部の高官の意向が働いたもので、独断専行であったため、該当企業から苦情が多数舞い込む結果を招いた。この不祥事は政府も巻き込んだ大事になり、レビル将軍も『多額の違約金を支払う羽目になったよ、ゴップ提督』と嘆いたという。ちなみに、軍からの引き抜きが政府により無効化されたパイロットは民間軍事会社で既に名を馳せていたトップ部隊の人員達であり、かつての軍人も数多い。民間軍事会社の巨大化を危惧する政府の意向もあり、法的規制がなされ、それら人員は形式上は予備役の召集と扱われ、練度がある事から、まとめてロンド・ベルに放り込まれた。従って、ロンド・ベルはケイオスのワルキューレ、S.M.S.のマクロスクォーターを抱え込む事になったのだ。

「23世紀も、空軍の高官が民間軍事会社の引き抜きを政府を動かせて、強引に規制したらしくて、人員を元に戻された民間軍事会社がガタガタになったのよ。その煽りを海援隊が受けたわ。迷惑な話よね。」

「どうなったんですか?」

「海援隊は国営にして、艦隊は実質的に海上護衛総隊に編入する運びにしたわ。実質的に予備役を集めてるようなものだから。おかげで初代三笠や準ド級を売り払うはめになったから、海保の大型巡視船を分捕ったらしいわ」

「戦艦はどうするんですか?巡視船は武器が弱いですよ」

「紀伊型を回すらしいわ。一隻は余剰になるから」

武子の言うように、この当時の時点で、紀伊型戦艦は一隻から二隻は海援隊に払い下げされる計画であったが、尾張と駿河は現場の要望で航空戦艦化が決定されており、艦齢も駿河の竣工から10年未満である事から、クーデターが起こっていなくても、海援隊に余剰の一隻は回されていく。日本が大和型に傾倒している事には扶桑艦政本部から批判もあるが、アイオワとモンタナの予想以上の高性能が大和型の量産に繋がったので、戦艦という兵器の持つ宿命が窺える。また、この頃には艦上戦闘機『烈風』の局地戦闘機型『烈風改』(斜銃搭載と30ミリ砲装備)の開発方針が転換され、新鋭の陣風とのエンジンの共通化と25ミリ砲の搭載に計画が切り替えられ、斜銃は取り外された。過渡的な兵器と見做されたからだ。また、迎撃ミサイルの登場で、戦略爆撃機の飛行高度が武器になり得なくなったと見做された(戦略爆撃機の配備数の半減はそのためであった)のも理由だった。そんな状況の中、武子は戦場を黒江達とミーナに任せ、自身はことはを出迎えていた。ことはは戦闘を行った後、イベリア半島につくと、自分で荷物を持って飛行し、空母に向かい、合流したのだ。

「基地に物資は運び込まれているだろうし、参謀本部に報告しておくわ」

「ありがとうございます」

ことはは変身を解除していたため、戦闘服姿である。ことはの服装からもわかるが、現在の64Fは343空を旧64Fが取り込んで出来た部隊であるため、幹部の多くは陸軍系の軍人である。それは海軍航空隊出身者の反発を呼んだが、レイブンズの栄光はこの頃には部隊に知れ渡っており、絶対的ヒエラルキーが確立されていた事で志賀の飛び出しを理由とする懸念は杞憂に終わった。事変世代を集めた理由は『天測航法』ができるからで、そこも海軍航空隊出身者達の肩身が狭い理由であった。また、当時の海軍航空隊ウィッチは世代交代が始まっていたため、64Fに集中した事変経験者達を馬鹿にする風潮もあった。だが、その年長者が戦線を支える現状では、そろそろ古参に入り始める菅野、下原、孝美も『青二才』扱いである。事変当時に10代後半であった世代が続々と復帰、戦場で中核を担う現状は、ウィッチ兵科を襲う新規の『なり手不足』を表していた。やがてこのなり手不足は『兵科の統合』という形で到達点を迎える。竹井退役少将の死を理由にしての兵科の消滅である。扶桑でウィッチが独立した兵科であった時代の終焉。ウィッチ組織が二分された事での結果と言える。その時代に軍に残っていたウィッチ達は以後、パイロット兼任と扱われ、ストライカーの開発は一時は『儀礼的』とまでいわれるほどにまで地位が落ちぶれる。その復興は45年から数十年後に訪れるベトナム戦争を待たねばならない。ただし、この時代(1945年)の世代間対立を教訓に、兵科の再建はなされないため、反Gウィッチ派は後世においては『国家への反逆者』、『自分らのエゴでウィッチの社会的地位を陥れた』と謗られる立場に落ちぶれていくのだ。

「おばさま、ことは姉さま。物資の補給は済ませて来ました」

「あ、翼。来てたんだ」

「ええ。母さんの様子を見に」

黒江の義娘『翼』が報告しにやってきた。黒江がダイ・アナザー・デイでの戦功のいくつかには、実は彼女の挙げたものが含まれている。なお、この頃には既に、ことはと面識があり、『姉さま』とことはを呼んでいる。容姿は黒江の素に髪型以外は瓜二つであるため、それも理由だ。

「貴方達のおかげでどうにか陸の戦線は安定したわ。麗子と澪は?」

「今はおばさまたちになりきって、陸でしょう。あの子達はノリが良いですから」

転生を重ね、ウィットに富んだ性格になった綾香と違い、元の綾香自身に近い生真面目な性格らしい翼。二代目レイブンズは腕試しも兼ねて、ダイ・アナザー・デイに紛れ込んでおり、相応に戦果を挙げていた。歴代プリキュア達から見ても、部隊の『後輩』であるため、ことはもタメ口である。

「さて、日本向けのラジオ番組の用意をしないと。しずかの従姉妹のファンレターへの回答をラジオ番組って形でやることになってね」

「アリシアさんへの連絡は済ませています。どうにか予定が取れたらしくて、数日は来れると」

「あの子にも無理させたわね。後で差し入れしてあげて」

「わかりました」

「ああ、綾香さんが言ってたのはこのこと…」

「そうなのよ。しずかの縁筋の子だから、定型文ってわけにもいかないでしょ?」

「確かに」

歴代プリキュアの広報業務にも精を出す武子。しかし、歴代でも指折りの戦闘力を誇るはずのドリームとピーチのコンビでさえ、戦場では苦闘の連続である。初代とスプラッシュスターの存在を意識している事を臭わせているドリーム。スプラッシュスターの二人の力も受け継いだドリームとピーチだが、それすら決定打にならない戦場の厳しさがある。

「プリキュアの力だけじゃ、この戦場を戦い抜けない事は覚悟して。敵も相応の超人を出してきてるから、力でのゴリ押しは通用しないわ。バダンも動いているから」

「ええ。分かってます。バダンは……みらいとリコの仇です」

バダンが裏で手を引いていることは、ことはも悟っており、仇と明言する。と、そこへ。

「やあ。君たちに客人を連れてきたよ」

「番場さん」

「番場さん、客人とは?」

「キューティーハニーさ」

「あの如月博士の?」

「そうだ。彼女たっての願いでね」

番場壮吉がやってきた。その彼が連れてきたのは、なんと如月ハニー/キューティーハニーその人であった。23世紀で生み出されたスーパーヒロインであり、電子頭脳技術が後退していたはずの23世紀時点では、紛れもなく最高の女性型アンドロイドでもある。ただし、その身に宿った『魂』は……。

「如月ハニーです。ことはちゃん、プリキュアだったウチの妹が生前には世話になったわね」

「妹……?プリキュアって…」

「ことはちゃん、私の魂の前世は貴方の知る『秋元こまち』の姉のまどかよ。妹がプリキュアだったのは、あの時に分かってたわ。妹の気遣いを無駄にしたくなかったから、黙ってたの。もちろん、今の私は如月ハニーだけどね」

Gウィッチの空中元素固定能力の大元と言える『空中元素固定装置』を持ち、ある意味では万能とも言える力を誇るキューティーハニー。その製造途中の体に偶然に宿った魂がキュアミント/秋元こまちの実姉『秋元まどか』であったのだと説明する如月ハニー。

「ど、ど、ど、どうして、まどかさんがキューティーハニーに!?」

「まあ、奇跡って言う他ないわ。『父』(如月博士)は人工知能学の権威だったけど、『ひみつ道具時代』のような人工知能は23世紀の技術では偶然に頼るしかないって言ったけど、その偶然が起こったのよ。若い時、いや、前世で、『あの子達』の戦いを見て見ぬふりしてた負い目もあるかもね。意識が完全に目覚めた後に番場さんに接触して、事情を話して、ここに来たの。のぞみちゃん達を助けるために。キューティーハニーになれたのは奇跡よ。こまちに負けないくらいのスーパーヒロインじゃない?」

「いや、十分に勝ってます…。日本の誇る元祖スーパーヒロインじゃないですか。メタいけど…」

「ハハハ、確かにそうだね」

ことはの一言にキザっぽく笑う番場。彼は風見志郎や新命明と双子のように似ているが、伊達男な振る舞いで、常に純白のタキシード姿である事が違いである。

「さぁて、お約束のあれ、していいですか?」

「いいわよ。この場には私達しかいないしね」

武子がうなずき、それを確認したハニーは戦闘形態への変身を敢行する。

『んじゃ…。ある時は如月ハニー、また、ある時は秋元まどか、だが、その実態は……ハニーフラァ――シュ!!』

本家大元の空中元素固定現象の光とともに、彼女の姿が変わる。名乗り口上はアニメで言うところの『初代』のそれとほぼ同じである。ことはは驚いてしまい、声も出なかった。

『愛の戦士、キューティーハニーさ!』

フルーレをバシッと構え、キューティーハニーに変身を完了する。23世紀の地球で『パンサークロー』と戦うスーパーヒロインへの転生を遂げたキュアミント/秋元こまちの実姉『まどか』。こまち/ミントが聞いたら、驚天動地はまず間違いなく、普段は冷静沈着なこまちの友人の水無月かれん/アクアでも、激しい動揺は間違い無しの事項だ。キューティーハニーの戦闘力は番場壮吉が認めるほどのものなので、歴代プリキュアに匹敵するか、あるいは凌駕するほどのものであるのが窺える。

「あの子達には妹が世話になったから、礼をしたいんですよ。驚かすつもりはないんですけど」

「のぞみとりんが聞いたら、腰抜かすわね。でも、空中元素固定の大元と言える貴方なら、応用の仕方は分かってるわね?」

「ええ。ただ、一から元素を造り出すわけじゃないから、マジンガーZEROには破られますけどね」

マジンガーZEROの強みは『因果律を操作し、空中元素固定の阻害ができる』点で、ゲッターエンペラーとZ神は神域に達しているので、一から元素を創り、万物を創造する『創造の力』を行使できるためにZEROを問題にしないが、空中元素固定装置はその場にある元素を望む形に固定する現象を起こすだけであるため、因果律操作には弱く、空中元素固定装置の唯一無二の弱点となっている。(ZEROはある平行世界で、空中元素固定による再生機能を備えたグレートマジンガーとグレートマジンカイザーを打ち破っている)

「私達の能力は貴方の物より若干優れていると言えるって事か…。ZEROの因果律操作を破れるから」

「私の空中元素固定は機械で引き起こすものですからね」

意外に冷静なハニー。自分がアンドロイドである事は自覚しているためだろう。通常時の容姿は如月博士が過去に亡くした愛娘の成長した姿を想定したものであるし、ハニーの代表的な七変化は娘が生前に目指していた職業を想定しているという。それを差し引いても、キューティーハニーとしての強さは本物であり、日本の誇る元祖バトルヒロインの面目躍如である。生まれた経緯やアンドロイドである事から、存在としては、アニメで言うところの『初代キューティーハニー』寄りだが、容姿や声色は『キューティーハニーF』(90年代のリメイク版)の要素が強いハイブリッドな存在であるらしい。

「彼女が私についてきた理由は、ティターンズ残党にパンサークローが資金援助していることが分かったからだ。バダンは過去に我々(ジャッカー電撃隊)の敵であった『クライム』を裏で操っていた。おそらく、ハニーの敵であるパンサークローも大首領の息がかかっている組織だろう」

「ジュドは悪の根源であると?」

「彼からすれば、児戯に等しいのだろうな。人をコントロールし、ZEROを操る事もね」

番場壮吉はクライム、黒十字軍などの非ショッカー系組織もバダンの息がかかっていただろうと目星をつけていた。息がかかっていないであろう組織はキカイダー兄弟の敵『ダーク』、『ハカイダー軍団』、『シャドウ』、イナズマンFの敵『デスパー軍団』くらいだろう。

「息がかかっていない地球の組織はキカイダーとイナズマンが過去に倒している。ハカイダーの残骸は誰かに回収されたらしいが…」

「ハカイダー?」

「キカイダーの宿敵だったロボットさ。人間の脳を頭部に入れる事でコンピュータを制御する。中々に刺激の強い構造のロボットだった。そのハカイダーと戦っていたキカイダー兄弟はハワイで隠棲生活を送っていたが、メカトピア戦争時に何処へと姿を晦ましたらしい。イナズマンも行き先を知らんらしい」

「私達だけじゃないんですね。世界のために戦ってた人たちは」

「そうだ。本郷猛から、すべては始まった…と言いたいが、過去には変身忍者嵐や仮面の忍者赤影がいたから、我々は彼らの系譜を受け継いでいると言える」

日本は戦国末期には仮面の忍者赤影が活動し、江戸期には変身忍者嵐、快傑ライオン丸、風雲ライオン丸などがいた。神話の時代にはヤマトタケルノミコトがツクヨミノミコトの命でヤマタノオロチを討っていたので、厳密に言えば、ヤマトタケルノミコトが日本のヒーローの元祖だろう。それを考えると、戦中にキャプテン・アメリカを生み出そうとしたアメリカを鼻で笑う資格が日本にはある。

「アメリカがある時点から我々に嫉妬しだしたのは、アメリカは歴史的にヒーロー好きなくせに、そのヒーローを生み出せない苦悩があって、それが爆発したからかもしれない」

「えぇ…」

「仕方がないが、英国にはケルト神話、ドイツにはジークフリート、フランスはシャルルマーニュ十二騎士にジャンヌ・ダルク…英雄がいる。アメリカはジョージ・ワシントンや南北戦争の英雄達くらいしか英霊になれそうな人材がいない」

「た、確かに」

「その代わりにキャプテン・アメリカを作ろうとして、計画が完遂する前に日本が降伏したって情報がある。日本のウィッチ計画をミュータントと解釈したんだろうな」

「あ、番場さん、ハニーさん、翼ちゃん。のび太が缶に入れたチリコンカルネを入れといてくれたんで…、開封して、私の魔法で温めます」

「のび太、いつ覚えたの、チリコンカルネなんて」

「響(北条響)さんが喜んでますよ。アメリカ人の国民食だって」

「はーちゃん、チリコンカルネって…アメリカだったの?」

「ハハハ、君でも知らないか。チリコンカルネはチリコンカーンとも言ってね。勘違いされやすいが、西部開拓時代の頃にカウボーイが考え出したのが発祥とされてるんだ」

流石に博識な番場壮吉。チリコンカルネ(チリコンカーン)の由来は西部開拓時代にあり、料理下手なのび太も、青年になる頃に、西部開拓時代で習得した。西部開拓時代は干し肉をその場で調理する事も多く、ことはも調ともども、のび太についていって食べている。のび太は青年時代以降は西部開拓時代黄昏の頃に行き、その時代が移り変わる頃の雰囲気を好んでいる。鉄道が人の手で作られ、荒野が町に変わっていく空気、その時代を馬車で行き、モニュメントバレーの雄大な景色を味わうのが、青年時代以降ののび太の息抜きであった。

「のび太って、西部開拓時代のどの辺りが好きなの?」

「昔は南北戦争前後の無法者やカウボーイ華やかりし頃が好きだったけど、子供できてからは西部開拓時代の黄昏の頃が好きになってるんです。鉄道が通って、町ができて…ってのが好みなんです」

のび太は少年(11歳頃から13歳頃)時代に映画『ウエスタン』(ワンス・アポン・ア・タイム・ウエストとも)を見てから、西部劇観が変わったと言っている。また、その時代に足を運び、鉄道敷設の様子を見たり、悪徳資本家の跳梁を邪魔したりもし初め、自分を『古い男さ』とし、資本家に担架を切るなど、その映画の主人公像に間接的に影響を与えた。

「のび太くんは大人になってから、チャールズ・ブロ○ソンにかぶれたようだね」

番場壮吉はのび太が何の西部劇に影響を受けたかを悟ったようだ。のび太が子供時代から西部劇に傾倒しているのは周知の事実で、しずかも結婚後は『ウチの旦那は西部劇に取り憑かれて…』と話題に出している。のび太は青年時代以降はテンガロン・ハットを被り、ポンチョを着るマカロニ・ウエスタンスタイル、あるいは正統派カウボーイスタイルを着こなすなど、本格的になった。のび太はマカロニ・ウエスタン、正統派西部劇の双方を愛し、のび太青年時代にはほとんど死に絶えたジャンルであるが、のび太は西部開拓時代に出向いて、わざわざ決闘をしてくるなど、青年期以降はカンを保つための実務的側面も持たせるようになっていた。しずかからは、ジャイアンのカラオケや野球と同列視されている。もっとも、ジャイアンはシニアリーグのコーチを趣味で行っており、のび太も西部開拓時代で自分の時代の映画の基になるような活躍を残している。ことはも付き合う内にガンプレイがうまくなり、カウガール伝説をいくつか残した。それを聞いた北条響は『あたしも連れて行ってくれー!』と懇願していたりする。

「でも、ハニーさん。どうするんですか、23世紀を空けちゃって。大丈夫なんですか」

「大丈夫。なのはちゃんやジャンヌ・ダルクさんに影武者頼んでるから」

「…え、本当に?」

キューティーハニー化は自分の専売特許ではないと明言し、なのはやジャンヌに影武者を頼んでいると告げたハニー。なのはは属性が増えたことになるが、プリキュアではないらしい。

「キュアアムールじゃないんだ…、なのはちゃん」

「なのはの今の気性的にアムールはないでしょう」

武子はこの反応だ。なのはは子供時代にゲッターエネルギーを高濃度に浴びており、気性がガサツになっているため、キューティーハニーにはなれても、プリキュアにはならないと考えているようだ。ただし、真にキューティーハニーになれるのは、この場にいる如月ハニーのみであるのは確実だろう。

「こまちに会ったら、なんて言おうかしらね。キューティーハニーに生まれ変わりましたー!とか?」


「いやいや、それ以前にのぞみさんとりんさんに言わないと…」

秋元こまちの姉のまどかはマイペースでおっとり気味の妹と違い、積極的かつ能動的で、リーネに対するウィルマのようなポジションにあった。キューティーハニーに転生したのも当然といえば当然である。ことはがツッコミ役に回るあたり、ただでさえ、ノリがいいのが如月ハニーへの転生で拍車がかかったらしい。

「日本の元祖バトルヒロインは伊達じゃない、あとでご挨拶に…」

「のぞみさんとりんさんが卒倒しますから、やめてくださ〜い!」

ことはの言う通り、キュアミント/秋元こまちの姉がどういうわけか、キューティーハニーに転生して、パンサークローと戦っていたという事実は二人を卒倒させるに値するニュースだ。黒江でも、茫然自失は間違い無しの報である。天真爛漫なはずのことはが終始、ツッコミ役に回っている事がハニーの素の性格を物語っており、変身後の姿でノリがいい姿を見せるのはギャグじみているが、ある意味では如月ハニー本来の性格を窺わせる。意外な事に、ハニーと最初に遭遇したのはキュアハッピーであり、ブロッサムとの打ち合わせが終わったのを報告しに来たところであった。

「隊長、ブロッサムとの打ち合わせが終わったんで、ほう…こくに……?」

「は、はぁい〜」

「き、キューティーハニーぃぃぃ!?どっひゃあああああ!?」

驚天動地のハッピー。その叫びを聞いたメロディも入ってきて……。

「おいおい、隊長の執務室で耳が痛くなるくらいの声を出してるんじゃないぞ、ハッピー……へ?」

その次の瞬間、キュアメロディも同じように素っ頓狂な声をあげる。本物のキューティーハニーなのだから、当然である。メロディはパニックに陥り、ことはに詰め寄る。

「ど、ど、どゆ事、はーちゃん!?な、なんで、キューティーハニーがここにいんだよぉ!?」

「落ち着いてください、メロディ。呂律が回ってませんって」

ハッピーとメロディはあまりのショックで呂律が回らないほどにパニックに陥った。見かねた武子がポコンして、落ち着かせる。

「あだー!?出席簿アタックはなしですよぉ、隊長〜!」


「いつまで喚いてないで、報告しなさい。それに子供と来客の前よ?」

「す、すんません…」

シュンとなるメロディ。さすがの二人も、部隊の総指揮権を持つ武子には恐れ畏まる。今や、武子はミーナよりも目上の立場なのだ。従って、隊長と呼ばれる人物はこの時点では、准将である武子であり、ミーナは中間管理職になったのである。二人の報告は簡潔で、ラジオ番組の用意が完了したというものだった。メロディが変身しているのは、キュアマーメイドがムキになって、艦内を大捜索しているからで、メロディも有無を言わさずに参加させられたという。

「隊長、マーメイドがムキになってて、手がつけられませんよ」

「坂本は自室を目指すでしょうし、わざわざ大捜索させなくても、一定の時間で自室に戻るでしょう。あの子もまだまだ青いわね」

「さすがは隊長…」

「あの子(マーメイド/竹井)は私を姉と仰いでるもの。あの子の事は坂本と私が一番よく知ってるわ」

「どうします?かなり大捕物に…」

「私が後で叱っておくわ。医務室から坂本の部屋はそう遠くない。裏ルートかつ回り道しても、そろそろ戻ってるはずね。区画清掃担当の下士官を向かわせるわ」

武子は伊達に黒江達の同期ではなく、竹井を青二才扱いできる。対応も簡潔かつ確実だ。腕時計を見ながら、置いてある艦内電話で、士官室付下士官控え室に電話をかけた。

「あとでマーメイドを呼ぶわ。あの子は昔から変に詮索して、空戦でもツメが甘いのよね」

「うへぇ…さすが年の功…」

「綾香達で慣れてるわ。こういう事。竹井は昔、前のリーネみたいに臆病で引っ込み思案でね」

現在は頼れるお姉さんタイプぶっている竹井だが、若手時代は臆病で引っ込み思案そのもの。転生しても、やはり若手時代は体に引っ張られ、絶頂期のような闘志あふれる空戦はできなかった。その点は坂本や黒江達と異なる点で、武子はその時を知っている。竹井に北郷以上の恩師と慕われているのは、悪い気はしないらしい。そのため、ミーナが覚醒前の時点で武子を侮る発言をした時、坂本が瞬時に青ざめたのは語り草だ。

「そう言えば、マーメイドはなんで、隊長を恩師っていってんだ?」

「子供の頃に面倒見たのよ。坂本と若本と違って、才能が開花したのは事変の後よ。転生しても肉体がついていかなくて、坂本に何度も愚痴っては、綾香が宥めててね」

「あれ、智子さんはどうしたの?いたんでしょ?」

「智子はそういうガラじゃないし、転生前の事もあって、あの子を叱れないらしくて、綾香に押し付けては大先輩が苦言を呈してたわ」

竹井にバツが悪い思いがある智子は、竹井を宥める役を黒江に押し付けていた。見かねた赤松が叱った逸話がある。竹井が転生前に事変時に基地を飛び出す原因を作ったことを気にしていたためで、その点は圭子と違い、意外にオドオドする面があると言えよう。圭子はキャラがまるっきり前とは違っているため、今回は黒江側についており、智子に苦言を呈するなど、面倒見がいい面が出ている。

「ケイさんは?」

「今回は綾香と一緒に苦労する側だったわ。あのキャラでしょ?覚醒前はあれが素だと思ってたわよ」

圭子は本来の温厚なキャラを封印し、今回は粗野で、超短気でガンクレイジーなキャラで通しているため、覚醒前の武子の圭子への印象は『兵隊やくざ』であった。当時の評判がそうであった事もあるが、口が当時の軍人で最高に悪かった事、喧嘩っ早く、部隊間の乱闘騒ぎの中心格、射撃訓練では嬉々として撃ちまくる事から、当時は圭子を『やくざ者』と見なしていた武子。(圭子はその振る舞いのせいで、家族からは『その時の振る舞いのせいで嫁の貰い手がいないのだ』とみなされている)覚醒後に『バカやるために、そう振る舞ってるだけだ』とタネを明かされているので、今は粗野な振る舞いを不問にしている。(最も、定着した面が強くなっているが)

「でも、まさか、ミントのお姉さんが…」

「キューティーハニーだなんて反則だぁ〜!」

メロディとハッピーは目の前の光景にそう言わざるを得ない。もし、今後、キュアミントと会ったら、なんと言うべきか。その問題もあるからだろう。

「…そろそろ、第二陣を発進させる時間ね。あなた達、そろそろ準備して。敵の増援を迎撃するわよ。ハニーは敵空母の制圧の準備を。ことはは変身を」

「わかりました」

「了解」

武子は時計を見、空母の艦内電話の連絡を受け、第二陣の準備をさせる。空母は戦艦の砲撃圏の外に出ている。かつてはウィッチ母艦として、艦隊の中心に陣取っていたが、空母が砲撃戦に巻き込まれる危険から、打撃艦隊の後方に退避させるドクトリンが(接近して刺し違えるというドクトリンは間違っても取れなくなったので、空母は砲撃戦が起こると、退避するようにされた)取られた。その位置は海自のさらに後方であり、黒江がガンポッドの弾丸補給をいずも型護衛艦でさせたのも当然であった。この時に日本連邦軍で取られたドクトリンは空母を後方にし、打撃艦隊を弾除け代わりにガンガン出すというもので、打撃艦隊であれば、空母と違って、『代わりはすぐに用意できる』というものだった。扶桑が戦艦や空母からだが、主力の動力源と燃料を移行させた真の理由は重油消費量の増加を日本が嫌うので、航空燃料以外の重油をタンカーや漁船、貨客船などに回すを得ないからで、その関係で扶桑海軍は船体構造が旧式の旧型戦艦を燃料が海軍と別管理の海援隊に回すを得なかったのだ。(扶桑型戦艦は既に全てが撃沈され、伊勢型戦艦は思ったよりは損傷が軽く、損傷の修復後に航空戦艦化される見込みであった)しかし、リベリオンと実質的に戦争状態となった以上は遠洋貨客船の出番はないに等しいのが現状だった。





――この頃、扶桑国内の法律『優秀船舶建造助成施設』、『大型優秀船建造助成施設』が廃止され、貨客船の買い上げが禁止され、既に空母化された船も日本の企業の主導で安く買い叩かれて、泣く泣く売却されたが、リベリオンと実質の戦争状態に突入した事で正規空母の新造が認められたため、45000トン級の予定が65000トン級に拡大される決定が下された。しかし、それは工期の拡大を意味する。雲龍型航空母艦が旧式化を理由に、多くが他用途に転用されたので、前線は空母不足に陥り、地球連邦軍が余剰のプロメテウス級空母を更に売却する羽目になった。その煽りで軍艦からの改装かつ、紫電改や烈風などの新型機運用に適さないとされた千歳型、瑞鳳型航空母艦の生き残り達が本土で死蔵されるという事態に陥った。ウィッチ母艦だと説明されても、防衛省背広組が『足が遅い』と判定したからだ。ダイ・アナザー・デイに連邦海軍が援軍で参戦する事になったが、前線の空母不足が予想以上に深刻だったからである。従って、連邦海軍のみならず、連邦宇宙軍も参戦する事になったため、戦場はまたも変容を始めていく。ティターンズ残党はネオ・ジオンやバダンの援助を受け、リベリオンを支配するに至っていた。キューティーハニーの登場により、パンサークローの存在が公になった事で、ウィッチ世界は日本のスーパーヒーロー、スーパーヒロイン達と組織の戦い、そして、21世紀の日本人の何%かが戦後から懐き続けた『自分達を否定し、辱めたアメリカとロシアへの復讐心』、23世紀人類の戦いの延長戦の舞台になっていたのだ…。



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