外伝その332『混乱の顛末』


――ウィッチの社会的地位を守るために、『戦果』を絶対的に必要とされたGウィッチ達。その過程で回収されていたのが、ウィッチの武器の一つ『刀』である。家伝の刀が使用不能に陥ることに不満が多かったため、地球連邦軍のエネルギー転換装甲製の刀が代替品として配備されている。Gウィッチの携行する刀の大半はそれか、名刀のコピー品である。しかしながら、『霊験あらたかだから…』、『先祖が使ってたし…』という理由で、こっそりと使用し続ける者も多かった。これはGウィッチでなくても多く、長巻や大太刀は代替品が確保できないため、使用され続けるケースは多い。Gウィッチはコピー品を融通しあっているが、通常ウィッチはそうではなく、困った点であった。この頃になると、扶桑は近接格闘の意義をレイブンズの無双ぶりで見直し、カリキュラムを変更したが、それまでの世代が肩身の狭い思いをする羽目に陥っていた。これは数年後のB世界ウィッチらも同様で、戦闘任務に出れないと判断した事の一つの答えであった。A世界ではウィッチ同士の戦闘こそ稀であったが、超人との戦闘そのものは数多く発生しており、ダイ・アナザー・デイでは、歴代プリキュアの最強形態ですら、超人たちに抑え込まれるケースが続発している。プリキュア達もアニメのような『ちぎっては投げ…』な活躍は難しく、『最強形態になったからって、無条件で無敵になるわけではない』という事実が突きつけられていた――




――いずも型護衛艦――

黒江に続いて、いずも型護衛艦に着艦した二人のプリキュアは大歓迎を受けた。ピーチもリーダーであった事から、大尉(一尉)待遇で迎えられた。当然ながら、食堂は賑わい、黒江の鶴の一声で静かになった。当時の自衛隊は中途退職者も増えており、全体的に人手不足であったため、扶桑の職業軍人の兼職も歓迎するのが現況で、海自も2019年には扶桑軍人系の人材をかなり受け入れていた。そのため、扶桑の若手将校が日本海自の幹部自衛官を出向で受け入れる事も増えていた。また、海自の艦齢の高い護衛艦が緊急で扶桑の大戦型駆逐艦の代艦扱いで回されたりしたため、海自の護衛艦は新型の建造数が増えており、2019年の時点では新型の就役数が多めになっている。いずも型護衛艦も事実上の空母化内定と同時に、軽空母としての改良型の用意が決定されている。扶桑との交わりが自衛隊に膨大な人的資源と高水準の福利厚生を実質的に提供する事になり、扶桑での勤務を望む隊員も多い。これは日本の世論に押され、公職追放された佐官級の参謀や強硬派と目された将官の穴を埋めるための緊急対策で、少なからずの自衛官がダイ・アナザー・デイでの作戦指導に携わる事になる。


――食堂――

「変身したままで大丈夫なんですね……」

「いちいち解除する必要はないし、見ろ。お前らのおかげで食堂が混んでるんだ。ファンサービスしてやれ」

「うーん……」

いずも型護衛艦にいる自衛官の多くが集まり、シャイニングドリームとエンジェルピーチに注目していた。それぞれ、個人での最強形態であり、ヒロイックさが増しているフォームである事、もっと言えば、本来は映画限定フォームであるため、否応なしに注目されていた。

「と、統括官!あの、プリキュアと握手をしても良いでしょうか!」

「ほら来たぞ、お前ら。ズラリと並んどるぞ」

「握手会の会場にいる気分ですよ…これ」

「アイドルやってるのと同じだぞ。違うのは、お前らは変態に絡まれても、軽くぶちのせるだろ?」

「ま、まぁ…」

「昨今はアイドルを狙う変態も多いが、その点、お前らに喧嘩売る馬鹿はいない。むしろ、自衛隊に親衛隊出来る勢いだぞ」

「昭和のアイドルじゃあるまいし、そんなわけ…せ、先輩?」

「むしろ、作らせた方が楽だぞ。便宜を図ってくれるし、政治的に俺たちに横槍を入れてくる時に盾になってくれる。俺はそれを見越して、基地祭で歌ってたんだよ」

黒江は自分に心酔させた後輩達を多数、防衛省制服組に抱え、更に一部の背広組若手も黒江のシンパである。黒江は政治的に味方を作るのは得意中の得意であり、ドリームとピーチにもそれを薦める。

「アイドルはやっといて損はないぞ。ピーチは経験あるから、わかるだろ?俺なんてな。シンフォギア世界に行ってた時期はあいつらの学校の学園祭で注目されまくったぜ」

黒江がいうのは、転移した年の学園祭のカラオケ大会で歌いまくり、本来の歴史の流れでは雪音クリスが優勝するはずのその出来事で優勝をかっぱらったことで、そのことを今でもクリスに愚痴られるという。なにせ、黒江の歌唱力を以てすれば、ハードロック、グラムロック、ポップスも難なくこなせる。ブリタニア駐在経験もあるので、キングス・イングリッシュもOKという凄まじさである。

「FIRE BOMBERを歌ってやったが、ハ○ヒも一曲、気分直しにフェイトの声で『ETERNAL BLAZE』を歌ったっけ」

「チートしてません?」

「ま、クリスが頑張ってたから、遊んでやったのさ。ETERNAL BLAZEの時は風鳴翼が固まってな。自分の声を出された上、歌い方も似てたらしくな。フェイトの奴、演歌みたいにコブシ効かせることあるしな」

黒江はフェイトの歌い方を真似しただけだが、偶然にも風鳴翼のそれとも一致していたため、翼は瞠目し、『何のつもりでこんな当てつけを…挑発のつもりか…!』と苛つきを見せたという。

「どうせなら、BRAVE PHOENIXも歌っといたほうが良かったかもしれん。挑発になったし」

黒江は元々のスパルタ教育で声色を変えられるため、それが昇華して変声機無しでも自由自在に変えられる。そのため、調の容姿でフェイトの声を出すことも簡単であり、それを披露したわけだ。シンフォギア姿で衆目の前でロックからポップスを軽やかに歌いこなしてみせ、サウンドエナジーで風鳴翼の『天羽々斬』を強制起動させ、数日間は解除不能に追いやるなど、色々と爪痕を残した。これは当時のシンフォギア世界で知られる知識では解析すら困難であり、翼自身も強制起動に驚き、解除不能に困惑しつつも、事が済むまでは騒ぎを起こしていない。切歌は中途半端に終わったところで起こしたので、黒江の怒りを買い、ぶちのめされたわけだ。

「ま、その後に転入した後にシェリルの射手座を歌ってやって、学園の評判を釘付けにしてやったよ」

「射手座をですか?」

「おう。頭に浮かんだのがそれだったし、バックミュージックは自前で用意できたしな。だから、調が飛び出したのさ」

ピーチに握手の要望を処理させつつ、ドリームと話す黒江。自分はラーメンをすすっている。ドリームはカレーだ。

「先輩、どうせなら千本桜したほうが」

「あの世界にあるかわかんなかったし、インパクトあるかと思ってさ。お前の今の状況なら、某『月は出ているか?』なガンダムの初期主題歌が合ってるかも。名前といい、タイトルといいさ」

「ああ、あの人に声がそっくりな主人公のガンダム…」

「ブンビーだっけ?お前が現役時代に戦って、最後に和解したの」

黒江はここで、プリキュア5の活動初期から戦い、最後まで生き残った敵幹部かつ、和解した『ブンビー』のことを話題にする。ドリームも懐かしそうである。最も、のぞみとりんも妖精さんで言えば、世界的に有名な忍者の親子であるので、それはお互い様であるが。

「ええ。まさか和解するとは思ってなかったのが本音でして。まあ、中間管理職的な悲哀見せてたし、同情はしてましたよ」

「まあ、お前ら、俗にいうサ○エさん時空に突入してたクチがあるしなぁ。中二を二年してたろ」

「はーちゃんの力で起こったのかも。今になって思うけど。違和感はわたしたちだけしか感じてませんでしたから」

「かれんとこまちは中3を二年してたから、違和感は大きいはずだな。受験とかどうしてたんだ?」

「うちの学校、エレベーター式で…」

「エスカレーター式、だろ?」

「あ、アハハ…」

「お前、よく上がれたな…」

「なんとか上げたんですってばぁ。進学に必要な条件はクリアできるくらいに」

ドリームは二年の時間で成績を下の上から中の中に押し上げ、持ち上がり組に滑り込んだことを明言する。元々の素地は悪くないが、かつてののび太と同じような欠点があるために台無しにしていたと、りんは言っており、頭の回転はむしろいいほうである。プリキュアになってからは生きるか死ぬか。そのやり取りを続けていくうちに本来の素質が目覚め、プリキュアとしての現役時代が終わった時には中の中(要するに、持ち上がる分には問題なく、真ん中あたりをウロチョロする)にまで向上させたのである。

「愛の力は偉大だなぁ」

「わたしはココと結婚したかったけど、だめでした。そこがりんちゃんの知る歴史とは違う点です」

「今度は幸せになれよ。ガキが産まれたら、俺が面倒を見てやる。あ、HUGっとプリキュアのキュアエールは産んだんだよな、本当に」

「ええ。出産祝いを送りましたよ、その時」

後輩のキュアエールが成人後に実子(長女)を産んだ際に出産祝いを送った経験があるドリーム。だが、りんはHUGっとプリキュア以降のプリキュアの存在を知らなかった。ドリームはその点で、りんの知るプリキュアの歴史は2017年に何らかのオールスターズでの『大決戦』があり、そこでプリキュア達が最終的に勝利し、『役目を終えた』事を察していた。つまり、りんは2017年を境に力を失った世界にいたのだと言うことを。だが、自分は大人になってからも戦い続けた。それがのぞみ自身の運命を狂わせた面もある。

「お前は知ってるし、共闘の記憶があるが、りんはHUGっとやスタートゥインクルの事を知らない。察するに、いちかの時代に何かがあったんだろう」

「驚いてましたよ。その二つの存在。そしてそれ以降のプリキュアのことも……」

「大まかな流れはお前の世界のほうが合ってる。だが、次第にお前達の世代は召集がかからなくなった。それもお前を歪ませたのはな」

「はい…」

うつむくドリーム。軍人である事を選んだ理由の一つは『誰かに必要とされたい』からというものも含まれている。初期のプリキュアが戦いに召集されなくなった事で、ドリームの心に歪みが生じたのも皮肉なものである。

「ん…、なんだ武子か。どした?……嘘だろ?」

「どうしたんですか」

「番場さんがキューティーハニーを連れてきた」

「え、えぇ――ッ!?」

「で?……何ぃ…?わかった」

「先輩?」

「キューティーハニーの体に宿った魂なんだが、超ややこしーぞ。キュアミントがいるだろ?その姉貴だ」

「えぇ――ッ!?ま、まどかさんが!?」

「そうらしい。お前らが目ぇ回すから、裏付けを取ってから、俺に伝えたんだと」

「す、すると、なんですか?まどかさんが生まれ変わってて、キューティーハニーに?」

「ああ」

「なんですとー!?」

「こらこら、後輩のセリフだぞ。マジだ、マジ」

「しょんなー!?いったい何がどうなってんのー!?」

「俺のほうがききてーわい!」

ツボっているらしく、後輩のキュアホイップのセリフを使う事を好むドリーム。実際、キューティーハニーの事は衝撃そのものであるらしく、目を丸くしている。

「ん?……、やれやれ。零式二二型は義勇兵に回されて、扶桑生え抜きに回されたのは五二型だから、それに文句が出てきた。横方向にズブいとか。アホかっつーの」

「メールですか?」

「ああ。自衛隊の部下からな。生え抜きは二一型からいきなり五二型だから、文句も出るわ。五二は横方向の旋回性能は維持できなくなってたしな」

「改良型の五四型は?」

「本土防空に回されちまって、外征部隊には一機もない。つーか、零戦は艦上機だぞ?まったく。量産の暁には六四型になるはずが、五四のままになったそうだ。日本の都合だよ」

当時、日本側は旧式機の小手先の改良と見ていた零式五四型を量産するつもりはなかったが、扶桑では二号零戦世代の零戦すら満足に配備されていないという問題が起こり、五四型を名称変更はせずに量産させた。それがウィッチ世界での零式の最終型であった。当初は8月15日での零戦の『退役』が予定されたが、新鋭の紫電改や烈風は全空母へ行き渡るほどの数はまだなく、その更に次世代機であり、レシプロ戦闘機の集大成たる陣風に至っては、まとまった数の先行生産機が途中で輸送されてくる有様であった。零戦以前の『九九式』すら残置していた扶桑軍にとって、配備途上の零式艦上戦闘機の退役はとんでもない話であった。そのため、せめて二二型への改良や五二型以降の改良型の配備で場繋ぎを行うしか現場に選択肢はなく、陸上でキ100がジェット機の介在しない戦場での王者に君臨していた中、旧型機扱いされ、ベテランの駆る二二型がF8Fを撃墜することが『奇跡』と評されてしまう零戦。明暗が分かれたと言える。実際、キ100は速度面では45年の水準からは平均以下だが、火力は一定を確保し、運動性能は軽快の一言で。黒江が後押しして量産させる価値は充分にある。再設計が行われたキ100と違い、零戦は基本設計は1939年前後であり、45年においては、どう贔屓目に見ても『旧型機』であった。

「どうするんですか?」

「根本的な機種変更は時間がない。五四型の配備を要請するよ。陣風や紫電改への機種変更は時間がかかるから、零戦を退役させられなかったんだ」

「海軍はどうするんですかね」

「空軍に六〇一空を持ってかれて、不満が溜まってる。空母航空団の母体にする予定の部隊だったしな。仕方ないから、書類上の600番代部隊をウチの空母乗艦時の隠れ蓑にすることが決定された。海軍航空も統合するつもりだったって言われて、『はぁ?』って言いたくなったぜ」

黒江はドリームに重大な事を愚痴る。海軍は600番台の部隊は空母航空団と定めていたが、防衛省の警察系官僚の勘違いと無知に始まる事務処理ミスが原因で、601空は空軍に移籍割り当てにされ、空軍に移籍させられた。やがて、それに気づいた空自の幕僚の進言で事の次第が明らかになったが、背広組が自分達の保身を理由にしての面子論を振りかざし、問題が拗れてしまった。それに業を煮やした現場が64Fを載せたのが現状で、海軍航空隊の面子はほぼ丸つぶれだった。これは日本防衛省背広組の大多数の先入観からの失態である事は明らかであり、64Fが酷使される理由の一つであった。

「先輩、手は打ったんですか?」

「打ったが、一手遅れた。だから、601空は育成状況がリセットされたに等しくなって、義勇兵で穴埋めせざるを得なかった。予定は二割ほどだったはずが、艦上機部隊のみならず、陸の部隊も義勇兵を多くせざるを得なかった。海軍航空のメンツ丸つぶれだぜ。ウチの航空も111戦隊と112戦隊が機材ごと浮く羽目になったが、これでマシな損害だ」

「どうして、そんな事に」

「日本防衛省には一定数いるんだよ。無知なのに、シビリアンコントロールを理由に威張りくさる警察系系の内局連中。最近はだいぶ衰えたが、連中の人事的介入とお上への進言のおかげで、前線の参謀本部と軍令部の佐官級参謀が不足して、自衛隊の現場から引っ張るを得なくなったんだ」

日本防衛省の背広組はダイ・アナザー・デイで多大な支障が生じる失態をいくつか犯した。これは日本の政治家の意を受けてのものでもあったが、実際には作戦そのものに重大な影響が生じまくっていた。作戦の長期化、交代要員の不足、前線への人員補充の慢性的不足。こればかりはいくら超兵器を揃えても、とても補いきれるミスでは無かった。予定には無かったルシタニア攻略で打開を図るという泥縄的方向性になったのも、東條一派と史実で対米主戦派だった者達を現場から排除したおかげで、カールスラントに代わり、連合軍の中核を担うべき扶桑軍の深刻な『現場で将官を補佐すべき幕僚の人数不足』が顕著に表れ、それを然るべきカリキュラムを終えている幹部自衛官が補うしかない状況が慢性化し始めていた。それが、黒江が連合艦隊参謀のみならず、連合空軍・第一航空軍(欧州にいる連合軍の航空戦力を結集した航空軍の主力)の幕僚まで兼任せねばならない理由であった。ブリタニア空軍は欧州大陸に主力をほとんど出していなかったのを、イギリス方面からの圧力で出させたものの、小出しによる遅延戦術を取った。これは美遊・エーデルフェルトがウィンストン・チャーチルに直電して抗議し、ウィンストン・チャーチルが事の重大さを知った事で首相直々の指令が飛び、本土防空で鳴らすグローリアスウィッチーズの人員の供出がなされた。グローリアスは当時のブリタニア空軍では最高の平均練度の部隊であった。だが、既に世代交代の進展で、個々の練度そのものは64Fとの差は明らかであった。列強のトップエースをかき集めていた501を内部に取り込んだ上、事変からの百戦錬磨の古強者をかき集めた64Fはグローリアスウィッチーズなどは既に歯牙にもかけないほどの練度であった。その中核たる『新選組』は通常なら、統合戦闘航空団の幹部や隊員で然るべき逸材で固められ、個々が国家の英雄と讃えられるほどの実力を誇る。プリキュア出身者の存在もあり、まさしく『空の王者』を自認している。そのバックアップ部隊の『維新隊』も、大まかに同等の実力を持つ。本土で錬成中の『天誅組』は格落ちであるが、それでも他国精鋭級の実力は持つ。扶桑国内では、64の二つの戦闘部隊をウォーモンガーの巣窟たる『人外魔境』と呼んで恐れられ、天誅組も『キチガイの集まる場所だが、まだ可愛いほうだ』と早くも評され、移籍の潮流に乗らなかった古強者を根こそぎ集めた事が強調される報道がされていた。皮肉にも、この扶桑軍広報部のオーバー気味なほどの自画自賛の報道(手のひらを返したように、黒江達の『ご機嫌』を取ろうと躍起になっていたのもある)が『グローリアスウィッチーズ』の出征を促し、44戦闘団の人員的意味での衣替えを進めさせたのである。当時、ウィッチ世界の『空の王者』がカールスラント空軍から、間もなく勃興する扶桑空軍になろうとしている事は誰の目からも明らかであった。『カールスラントショック』(カールスラント軍の撃墜スコアの参考記録化)での前線の士気崩壊をどうにかしようと、高い質を保っていた扶桑航空を持ち上げようとする風潮、カールスラントをナチスと同列視し、でっち上げのスキャンダルを衆目の目に晒し、評判を凋落させようとする21世紀勢力の存在が絡んでいる。その最大勢力かつ、学園都市との戦争に負け、凋落していく最中、日独への復讐をあらゆる手で目論むロシア連邦の手で『疑惑の英雄』、『人種差別主義のファシストの集まり?』というレッテルを貼られたカールスラント軍のトップエース達に代わる『国際的な英雄』が新人の目指すべき指標を示す目的からも求められ、64Fは名実共に『連合軍航空で最大最強の部隊』たる事が政治的にも求められるようになったというわけだ。

「お前ら、ピーチをあまり疲れさすな。そろそろ当直任務に就く連中もいるだろ?」

黒江は時計を見ると、手を叩いてパァンと音を立て、ピーチと握手したがる自衛官達に注意を促す。ドリームは食事を済ませたが、ピーチはそれどころではないからだ。黒江に言われ、慌てて当直任務に向かう者が部署に向かったため、行列は解消される。ピーチはようやく、食事にありつけた。

「ふう。やっと食事にありつける…。仕事の時より行列出来てたし…、これが第三者から見たプリキュアかぁ…」

「ご苦労さん。ま、お前は歴代でも人気あるんだ。カレーを持ってきてやる」

「すみません〜…」

黒江がピーチの分の食事を取りに行く。ピーチはやや疲れ気味のギャグ顔を見せる。

「でも、2019年って、あたしたちの時代から10年経ってるはずだよね」

「うん。ありていに言えばさ、わたしたち、20半ばになっててもおかしくない時代だよ。10年もすればさ、プリキュアもずいぶん代替わりしたけど、覚えてくれてる人達いるんだ…」

「ほれ、ピーチ。カレーだ」

「ありがとうございます」

「あ、さっきの連絡だが、続きがあった。はーちゃんがストナーサンシャインを撃ったそうだ」

「……は…え?ストナーサンシャインって!?」

「たしか、真ゲッターの!?」

「ああ。真ゲッター1の技だ。それを撃ったそうだ。フェリーチェとしては、攻撃魔法をほとんど覚えてないそうだし、ゲッターエネルギーを制御して撃ったんだろう。ミッドやベルカ式を今度、覚えさすよ」

「そういう問題ですかね…」

「それにストナーサンシャインやカイザーノヴァは威力過剰な技だ。一撃で原水爆真っ青の威力だからな」

「確かに」

「俺も政治に手を回さないといかん職分になったしな。自衛隊はどこも人手不足だ。扶桑軍の補完も実質の任務になったから、猫の手も借りたい。お前らを戦わすにも相当に骨を折った」

「自衛隊に入りたがるのは少ないですからね」

「戦後の日本での軍事の扱いなんてのは、そんなもんだ。制約のほうが多いし、扶桑から相当に部隊を供出させたから、今後はこっちが人手不足になる始末だ。メーサー兵器やメカゴジラを出したところで、戦いは数だからな」

黒江はアムロから一年戦争のあらましを聞いていたので、数の重要性を理解しており、前線の人手不足を嘆いている。地球連邦軍に参戦してもらい、一定の数の不足を容認しつつ、質で補わなくてはならない状況に追い込まれているのが前線である。扶桑の窮状は日本には理解されがたく、第三国の将軍や提督、国家首脳に圧力をかけてもらわないと、議論すらままならないほどであった。20世紀後半から21世紀の日本特有の軍事への忌避現象であった。そのため、国際貢献とウィッチ世界の混乱への禊という題目を掲げないと、日本国内の議論すらままならなかった。当時、日本に『身勝手極まりない思い込みで革命を煽った左翼テロリストが、穏健かつ真っ当に国家運営に励んでいたロマノフ王朝を分裂させ、あわや滅亡の瀬戸際に追いやった』事実が伝えられ、日本国内ではロマノフ王朝の存続の是非や存在意義の理由付けに踏み込んだ議論が交わされた。ウィッチ世界は軍事力が高くなければ、怪異に立ち向かえず、国家の維持すらままならないという歴史があることから、史実のような小国の独立は地の利がない限りは起きえない。この事実が突きつけられると、日本国内では若者を中心に、『扶桑への償い論』が沸騰し、日本連邦での主導権争いにご執心であった老年層もやがて折れ、ロマノフ王朝の臓腑を『引き裂く』革命(未遂)が日本国を扶桑への償いへ動かすきっかけと大義名分を与える事になった。


「腹が減っては戦は出来ぬ。食っとけよ、お前ら。これから戦艦のみならず、戦闘機の大群ともやり合う事になる」

「敵はどれだけを?」

「補助空母入れれば、有に1500は超える。予備機をどんどん運んで来るから、キリがないって奴だ。ただの20ミリ砲じゃ、この先キツイから、あとで折りたたみ式のリボルバーカノンを受け取りにいくよ」

「アメリカの戦闘機は頑丈ですからねぇ」

「日本機は構造的にヤワなのが大半だが、アメリカはダンプカーを飛ばすようなものが多いんだ。おまけにシャワーみたいに、重機関銃を乱射してくる。リボルバーカノンやガトリング砲を使わんと割に合わんよ」

当時、64FはマウザーのMG151/20を使っていたが、飛躍的に構造が強化された米軍高性能機には威力不足が出始めた。20ミリ砲の直撃に耐えられる防弾装備を持つF8FとF6Fが洋上の敵の主力機であるからだ。特にF8Fは、二丁での射撃を好むバルクホルンの攻撃にも耐えきるほどの頑丈ぶりで鳴らし、航続距離の不評はともかくも、艦隊直掩機としては最上で、レシプロ戦闘機の中では強敵であった。(もっとも、64Fが手強いと評価した事で、F8Fの評価はかなり上がったが、実際はF2Gも相当に強敵であった)

「先輩、上はどういう考えなんです」

「主な応戦をゲリラ戦術に切り替えるように進言した。米軍は昔からゲリラ戦術に弱い」

「ベトナム戦争みたいですね」

「こっちは数がないんだ。ベトコンの真似事をしなけりゃ、戦線の維持は出来んよ」

「なんか世知辛いなぁ」

「ゲリラ戦をせざるを得ないんだよ。ドイツ領邦連邦は人的支援はしても、物的支援は出来ないと抜かしたし、キングス・ユニオンは金がない、ウチは日本側に振り回されるわ……、要するに、俺達ゃ政治屋があーだこーだ言うのに振り回されてんのさ」

当時の連合軍は陸上での主な戦術をゲリラ戦術に切り替えざるを得なくなった。ドリームとピーチは軍隊の裏事情にげんなりずるが、質で勝っても、量で劣るのなら、取り得る手段はゲリラ戦術しかないのは事実だ。

「ベトナム戦争の米軍みたいですね」

「ただし、大義名分はこっちにあるのが違いだ。それとピーチ、あの時のあの紋章は『アギトの紋章だろ」

「はい。場の勢いでやっちゃったけど、これって」

「世界が世界なら、アギトになれたかもな。ま、お前の場合、プリキュアの姿でアギトの武器とかが出せるようになるかもしれん」

「二重属性化ですか」

「ま、平たく言えばな。ドリームはゲッターエネルギーに見出されたっぽいし、お前はアギトの力に目覚め始めた。フェリーチェは光子力とゲッターエネルギーの双方だ。チートって言われんぞ〜、また」

「あ、あはは〜…」

二人は笑うしかない。だが、ここであることを思い出す。

「そう言えば、りんちゃんになんて言えばいいんですか?」

「あいつには武子に伝えさせる。二重属性なんて、スカーレットとミューズがそうだろ」

「た、確かに。でも、ミューズ、垢抜けたような…?」

「人格の基本が調辺アコじゃなくて、アストルフォだからな。精神的には大人だが、理性がミューズの姿じゃないと保てないそうでな。基本はミューズの姿でいるよ」

「なんか、ずるくないですかね…」

「お前らだって、シンフォギア装者からすれば、チートの部類だぞ、ドリーム、ピーチ。変身している分には消耗は無いし、パワーアップしても、そこは変化しないんだからな」

シンフォギア装者は高い適合率があれば、纏っている分には消耗しないが、フルポテンシャルを発揮するには『歌う』必要がある。その観点からすれば、プリキュアに劣る点である。(子供切歌やマリアはリンカーを必要とするため、戦闘可能時間に制限がある)また、シンフォギア装者はSONGから離脱した調を除き、シンフォギア世界の法に縛られるため、戦闘の合間はギアを解除する必要がある(最も、ギアのメンテナンスや体内洗浄が必要な者のケアも必要なのである)。その点も連続変身時間に制限がないプリキュアの優位点である。

「確かに」

「ガキ共のケアも大変なんだよ、なのはがいつものノリでやっちゃったから、子供の切歌はボイコットするわ、立花響は英霊因子が目覚めるわ…」

「そのなのはちゃんだけど、アムールじゃないんですね」

「今の性格的に、ルールーじゃないだろう。ガキの頃ならあり得たが、今のガサツさじゃなぁ。その逆に、アリシアがつぼみだったから、そっちのほうが驚きだぜ」

「これで5代のピンクが揃った事になりますね」

「お前から数えてな。だが、仮面ライダーより陣容がショボいのは否めん。インパクトが足りん」

「インパクトねぇ……」

「お前、ルルだったか?に『揃ってないルル…』ってショボーンされただろが」

「うぅ。痛いところを〜」

落ち込むピーチ。プリキュアピンクカルテットとして、ミラクルと共闘した際に、掛け声と必殺技が揃わなかったことを引き合いに出されたからだ。何気に気にしていたのが分かる。ただし、今回はドリームがいるので、その心配はないと思われる。

「今回はわたしがいるし、大丈夫だって、ピーチ」

「だといいんだけどなぁ〜…」

どよ〜んとした顔のピーチ。痛いところを突かれたらしい。

「も〜、先輩、ピーチ、気にしてるんですよ、その事」

「お前だって『出られない〜』とかやって、マリンに『アホか――ッ!!』って突っ込まれてたやん、その時」

「うぅ……さすが…」

黒江はキュアミラクルが現役の頃の戦いのことを口に出し、ドリームとピーチをタジタジにさせる。黒江の情報収集力の証明だが、情報提供者に目星がついた二人は、その提供者をバシッと『シメる』ことを心に決めるのだった。



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