外伝その355『儚き流星』


――ドリームがぼやくように、プリキュア達も無敵というわけではなく、血まみれにされて、一矢も報えずに撤退に追い込まれる事も日常茶飯事であった。特に、世紀末系拳法の使い手相手では不利であり、『プリキュアといえども無敵ではない』事が印象づけられる事になった。M78星雲の事も気になるが、戦線は思った以上に混沌としていた。空母機動部隊は敵戦闘機の高性能化で九九式艦爆は愚か、彗星すら瞬く間に旧式化し、当時、空母運用の軽量化のため、試作段階ではあった防弾装備を省略しての生産が進んでいた流星も日本側の命令での防弾装備の再装備改修(尾張航空機の技術者が叱責される事態にもなった)で生産が伸びず、自由リベリオンで生産が進んでいた『A-1スカイレーダー』が実質の代替機と扱われた。そのため、瞬く間にスカイレーダーは自由リベリオンから大量に供与され、実質のダイ・アナザー・デイ作戦での主力艦上爆撃機とされた。つまり、艦爆の名門と名高い尾張航空機はこれ以上ない屈辱を味わったわけで、それが一部技術者らのクーデター軍への加担に繋がっていく――





――流星は防弾装備がある初期生産機が少数、試験的に使用されたが、複数が日本に回収されたために不都合が生じた。本格生産型が防弾装備の省略を理由に生産差止めを食らってしまったために天山の代替に配備することすら叶わなかった。見かねた防衛省制服組は初期型をドラえもんに増やしてもらう事を打診した。遥かに高性能なスカイレーダーの供与が正式に決まり、流星は活躍の場を奪われたに等しかったため、徒花と揶揄されようと、日本系では究極の艦上攻撃機であった流星に活躍の場を与えてやりたかったからだ。当時、梅花、橘花、桜花などの新型機プロジェクトが矢継ぎ早に中止・解散され、既存機も史実戦後型米軍機に淘汰されようとする現状に不満を持つ技術者はかなりおり、それに日本側は驚き、不満のはけ口としての震電系統の開発継続を認めていく。史実で国鉄に転じた者達が鉄道省から転ずる国鉄に引き抜かれていった事も、扶桑の自主開発意欲を削いだ。だが、ライセンス生産機の独自改良は罪滅ぼしの意図もあって認められた。その最初の産物が国内向け愛称を『竜騎』と定められたサーブ社のドラケンで、ダイ・アナザー・デイ中には優先生産されて配備が始まっており、64Fも保有していた――

「お前ら、お呼びだ。ここから20キロほどの平原で歩兵師団が潰走中だそうだ。お前らはその救出と追撃部隊の殲滅を行え。航空支援は私とミーナ、フーベルタ、ハルトマンで行う」

「了解!」

プリキュア達は陸戦に駆り出され、GフォースのC-2輸送機から空挺降下する事になった。戦場に輸送機で空輸し、空挺降下で戦線に参加する方法がここ最近のプリキュア達を戦場に空輸する方法であり、扶桑ライセンス生産のドラケンの実質的な初陣ともなった。プリキュアであれば、仮面ライダーばりの高度からの空挺降下にも耐えられるため、C-2は高度八千mで彼女たちを降下させ、基地に帰還。ドラケンを駆る四人はそのまま、一定時間の航空支援を担当する。当時、自衛隊は死傷者が生ずることを恐れており、表立ってのプリキュアの支援が控えられる事態になっており、Gフォースは連合軍の指揮下に入る事で問題を回避していた。これは日本左派政治家の想定を超えた状況であり、『連合軍』が各国の都合で形骸化しつつあった時期にあっては、日本連邦は血の献身を求められていた。要するに、やることは挺進連隊であり、ドリームは自らの器になった錦の肉体に刻まれている挺進連隊での訓練が頭によぎったか、苦笑いする。

「高度8000かぁ。ま、プリキュアになってるから大丈夫か」

「子供の頃、挺進連隊で訓練を受けて以来ね、空挺降下は。パラシュートを考えないで済む分、気は楽だけど」

「そう言えば、マーメイドは…」

「事変の頃に訓練受けてたのよ。辛うじて、ね」

「事変世代は受けてたのか、空挺降下訓練」

「あの頃はストライカーの故障率も高かったから、空戦部隊でも、帰還のための生存能力、要は陸戦力が想定されてた時代でね。私の代まではある程度の生存能力が要求されてたのよ」

「私はS.M.Sで日常茶飯事だから、慣れてるわ。武器持たないのは久しぶりだけど」

「現地調達ってところよ。どうせ、ガーランドでしょうけど」

「ガーランドはクリップのピーンって音が嫌いなんだよなー。敵にバレるし。BARがいいよ、BARが」

「戦闘の音で聞こえないわよ、あれ。智子さんから連絡よ。敵はM14を前倒し配備しだしたらしいわ。見つけたら優先的に鹵獲しろと」

「あれ、M14って戦後の銃だろ?戦中期に間に合うのか?」

「プロトタイプは戦中に間に合ってるわ。それを小改良すれば生産型になるわ。メロディ、貴方、前史で使ってなかったの?」

「前の時は復帰したときにゃM16だったんだよ、マーメイド」

「BAR愛好者なのは分かるけど、これからの敵の主力小銃くらい把握しておきなさい」

「ちぇ。M16なら慣れてるのに」

ぶーたれるメロディ。マーメイドは竹井として、M14の扱いにも慣れている。前史の記憶も持つからだ。

「いいじゃない。わたしなんてさ、覚醒前に『62式7.62mm機関銃』で苦労してさー。あれ使うくらいなら、92式重機使うよ」

ドリームは覚醒前の段階の研修で怒られたからか、62式7.62mm機関銃を嫌っているようだ。

「そう言えば、フェリーチェはどうしたの?」

「先についてるって。九七式自動砲ってのを使ってるみたいよ、ドリーム」

「ルージュ、それ。対戦車ライフル。みらいちゃんが見たら顎が外れるよ」

「た、対戦車ライフルぅ!?」

「20ミリ砲だし…。のび太君、どんな育て方したんだろう」

「ケイさん用のを使ったわね、フェリーチェは。あの人、今は60キロあるあれを片手で撃てるとか言ってるし」

97式自動砲は20ミリ砲の半自動式対戦車ライフルであり、本来は三脚で地面に据え付けて撃つものだが、圭子は手持ちに改造したものを事変時に使用していた。今回はストライカー無しでも、独自改造の手持ちでぶん回しており、それも『扶桑陸軍の狂気』の渾名がついた理由だ。その97式自動砲の改造は戦後、怪力持ちのウィッチの間で広まり、圭子は45年時には軽量化改造も施して確保していた。そのうちの一丁をフェリーチェが持ち出したのである。使用する弾薬は『20x124mm』弾。弾倉は独自のもので、圭子が用意した60発入りの大型弾倉だ。

「嘘ぉ…」

「あの人はガンクレイジーだもの。こういう事言うのもなんだけど、ベレッタを扶桑で最初に使った人よ」

「ああ、47にいた頃に聞いた覚えが〜…」

「あの人、もしかして?」

「察しが良いわね、ルージュ」

「弟が中学に入ったらハマっててね、それと、あのタトゥーでピーンときたのよ、マーメイド」

「分かってると思うけど、あの人も好きねぇ」

「ケイさんも楽しんでるのよ、ルージュ。扶桑のウィッチって、豪放磊落か淑女か。その両極しかないから」

「戦闘狂ってのを開拓ねぇ。ま、再現率100%も凄いけど」

「あの人、そのためにベレッタを改造したのよね。その点、手抜きしないから」

圭子は当初はロールプレイのつもりだったが、マルセイユや黒江の子守に飽き飽きしていたのもあり、演技が普段の態度に変質。今回においてはそのキャラを通している。マーメイド(竹井)はそのことを知っているため、ルージュにタネを教えたわけだ。

「ルージュ、この事は他言無用よ」

「わかってる。あの人、あそこまでなりきれるなんて、アカデミー賞最有力候補だって」

圭子は元々のキャラでも血気盛んな面が若い頃はあったため、そのことを強調するために粗野な振る舞いを始めたのだが、今ではそれが定着して、『戦闘狂の銃撃狂』扱いである。もっとも、圭子の本質が失われたわけではないし、『レベッカ・リー』も寂しがり屋かつ、仲間に甘えるところがあったため、本質は同じようなものである。圭子も振る舞いを切り替えたのは、そのほうが10代の頃の自分を思い出せるからとのこと。

「先輩もああ見えて、世話好きだから。ほら、ハッピーにくっついてる、あの子を世話してるじゃん?」

「ああ、菅野とかいう子。つか、あの子見てると、くるみを思い出すわー」

「懐かしいなー。くるみ、今はマナちゃんと一緒に戦車道してるけど」

菅野は背丈が小さいことを気にしているが、子供扱いされる率も高い。黒江達やのぞみに粋がって喧嘩を売り、ゲドゲドにボコボコにされて返り討ちにされる事を最初は繰り返していた。菅野は記憶の覚醒前はツンツンしていた事から、黒江や芳佳に遊ばれており、覚醒後は黒江に頭が上がらない。そして、のぞみに喧嘩を売ったものの、返り討ちにされた事がある。菅野の態度は、ミルキィローズになって間もない頃のミルキィローズこと、美々野くるみに似ているのぞみは思っていた。しかし、まさか、そのミルキィローズが転生後は生前とまったく違うオタク人生を満喫中とは、この時は想像だにしなかった。

「みんな、そろそろ降下準備に入るわよ」

一同は空挺降下の準備に入る。プリキュアに変身した状態であれば、高度8000mからのパラシュートなしでの降下にも耐えられる。そこがシンフォギア装者と並び、戦線で重宝される理由であった。戦場では、先にキュアフェリーチェが九七式自動砲を手持ち武器に奮戦中で、圭子のカスタマイズの方向性の正しさを証明中であった。(対戦車ライフルであるため、みらいとリコが見れば卒倒は間違いなし。この時期には対戦車ライフルの火力は陳腐化したとされているが、天蓋部であれば問題はない。特にキュアフェリーチェの膨大な魔力を弾丸の初速強化に用いれば…)

「みんな、行くよ!!」

『YES!』

各プリキュアはダイ・アナザー・デイの時点では各々のチームのリーダー格が不在の場合が多いため、実質的に最古参のキュアドリームが音頭を取る。これは『三代目』であるが故の宿命で、戦闘でのリーダー格は彼女が担う。ブラックとブルームがいない場合、全プリキュアの指揮権は自動的に彼女の手に渡る。こういう点は仮面ライダー達の一号とV3の関係によく似ているといえ、なんだかんだで彼女たちの意識しない形で『上下関係』は存在していた。この時にフェリーチェが持ち出した九七式自動砲はバレル交換の時に20×102mmのバルカン弾薬と共通化して補給対策、更に曳航焼夷弾などの特殊弾薬の使用が可能になったフルカスタマイズ仕様であり、プリキュアであれば、片手打ちも可能だ。そのため、手っ取り早く持ち出したのだ。フェリーチェは通常フォームで飛行可能。それが利点であり、のび太に随行して、西部劇の時代で銃器の扱いを覚えたのが役に立ったのだった。もちろん、のび太の入れ知恵であり、のび太が20年間でことはに授けた射撃は、ことはに受け継がれたのである。のび太に随行して、西部開拓時代のアウトロー暮らしもした事があり、のび太とチリコンカンを作る事も多かったため、コルトSAAの扱い、ウィンチェスターの扱いも手慣れている。

『ケイさんのロッカー漁らせて貰いなよ、テストで回って来てる試作の九七式自動砲改二がバルカンの弾薬だから、マガジン棄てなきゃ綾香さんか、米軍から分けて貰えるよ、ケイさん最近は自動砲使ってなくてVz61でジルバ鳴らしてるから貸してくれるでしょ?』

電話でそう入れ知恵され、黒江に相談すると、黒江は余っている弾薬をフェリーチェに持たせ、テストをさせる名目で使わせた。フェリーチェの膨大な魔力を弾速強化に用いた場合、その効果は往時のリーネや孝美を上回る。現代型MBTでも天蓋装甲が弱いのには変わりがないため、先行して戦っていたフェリーチェは攻撃魔法を使えない代わりに、銃火器戦闘を行い、垂直になった態勢で対戦車ライフルを撃つため、M4やM26の天蓋装甲を楽に貫通。第二次世界大戦レベルの野戦防空機材では迅速な対応は不可能なので、そこもフェリーチェが打って出た理由であった。当時の自走対空砲の主力であったM16対空自走砲、M15対空自走砲程度ではプリキュアの動きへの追従すら難しいからで、フェリーチェがそれらの注意を惹きつけておいたため、ドリーム達は安全に降下できるわけだ。ドリームが降下を終えると、九七式自動砲の面影が辛うじてある対戦車ライフルを片手打ちするフェリーチェの姿が見え、ドリームもこれには乾いた笑いが出たという。また、フェリーチェの護衛として、黒江の命で真美と下原がついており、三人で大口径砲(真美はボフォース・40ミリ砲)をぶっ放す様に、乾いた笑いが出たドリーム。降下していきなりの衝撃に固まるルージュであった。

「ドリーム、なにあれ…」

「四〇ミリ砲と三〇ミリ砲…。B-29だってへし折れる威力の機関砲だよ…。先輩、何使わせてるの〜。バルクホルンさんがいたら完璧な布陣だなぁ、これ…」

「お前たち、何をしている!」

「あ、やっぱり」

「私が援護するから、お前らは突っ込め!敵の迫撃砲は黙らせる!」

「は、はいっ!」

バルクホルンはストライカーで出ている。ハルトマンと違い、機械の操作が苦手なので、パワードスーツ以外の機動兵器での出撃はしないが、元からプリキュアに引けを取らない怪力を使えるため、能力面の遜色はない。愛機の『ドーラ』は快調なエンジン音を醸し出している。

「あれ、戦闘機で出なかったんですね」

「私は機械操作が苦手なのだ。カメラも四苦八苦するザマなのでな。妹に怒られて、ようやくカメラとケータイは覚えたが…」

「ど、どんまいです」

ルージュにバルクホルンは自嘲気味に言った。バルクホルンは転生しようと、機械操作が大の苦手なのは治らず、ハルトマンを呆れさせている。ハルトマンは転生後は剣豪として鳴らしつつ、予備役編入後のために医学を修めるなど、意外に芳佳と馬が合う。その事もバルクホルンがムキになっている点であった。戦闘者としては強者なのだが、コミカルな点を持つところはハルトマンと似た者同士であると言えよう。

「ルージュ、後でうらら達に笑わられないようにしなくちゃ」

「そのつもりよ。だけど、既成の技は知られてるから、変則で!」

「うんっ!」

『プリキュア・エメラルドソーサー!』

『プリキュア・サファイア・アロー!!』

変則というように、自分達と関連が薄い属性である二人の仲間(アクアとミント)の技を現役時代の関連とも逆にして放つ。ドリームは錦の技能を応用できる矢を、ルージュは切断技に分類されるエメラルドソーサーを放った。自分達は現役時代に一回のパワーアップをした後は個人技の更新がなく、ティターンズにも技の詳細を把握されている可能性が高いので、こうした変則的な運用が行われている。人気が高かったプリキュアなりの苦労だ。

「よ〜し、アタシも!」

次いで降り立ったピーチはイーグレットと同じ精霊の力を使い、擬似的にウェンディ化して突撃する。コスチュームもウェンディに近いものに変貌するため、バルクホルンは黒江の推測が正しいのを実感した。

「閣下の推測は正しいようだな」

「どういうことです、少佐」

「マーメイド、つまりだな。私の推測だが、スプラッシュスターの二人はドリームとピーチという、自分らと波長が近い後輩たちに力を託すしかないほど、遠くの世界にいるのだろう」

「それでは…」

「ああ。二人は本当に力を受け継いだのだろう。スプラッシュスターの二人が力を分け与えるほど過酷な戦場にいるという事も察しがつく。何かと戦っているのは確かだ」

「まさか…」

「フェリーチェの故郷はバダンとマジンガーZEROに滅ぼされた。それを考えると、奴らとどこかで戦っているはずだ。それに、パンサークローなる秘密結社も気になる。キューティーハニーの敵だがな」

「ご明答。さすがはゲルトルート・バルクホルン少佐」

「貴方も来ていたのですか、如月ハニー嬢」

「ドリームとピーチは私の前世での妹の恩人だもの。恩義があるって奴ね。あの子達には驚かれたわ」

「それはそうですよ、仲間の姉上が日本が誇る元祖変身ヒロインに転生なされたとあれば…」

ピーチ/ラブもプリキュア5と親しかったため、ミント/こまちの実姉『まどか』とは面識があった事が語られる。ハニーは前世は秋元まどかであったため、バルクホルンに『のぞみ達への恩義』を語り、如月ハニーとしての姿でハニーフラッシュを敢行した。

「お二人さんの先導はあたしがするわ」

「あー!まど…い、いえ、ハニーさん!」

「こまちが世話になったお礼がしたくてね。それに、日本の誇る元祖変身ヒロインは伊達じゃないところを見せたくて」

キューティーハニーは身体能力はプリキュアとそれほど差はない程度だが、アンドロイドであるため、反応速度でプリキュアと互角、あるいはやや上回る。

『ハニーブーメラン!!』

キューティーハニーお得意のハニーブーメラン。高低差を利用して隠れていた対戦車砲を破壊し、道を切り開く。

「いくわよー!」

「は、はいっ!」

空中でバルクホルン達が戦い、地上での戦いをキューティーハニーがいつの間にか仕切っていた。だが、ハニーはパンサークローとの最新の戦闘経験がある分、プリキュア5の二人より新しい戦闘経験を積んでいる。また、前世がこまちの姉であったため、のぞみやりん、ラブは妹分のような感覚である。いつの間にか仕切られていることに気がつく一同だが、こまちの姉であったことを知った以上、顔を立てないわけにもいかないため、ハニーに従うドリーム、ルージュ、ピーチの三人であった。もっとも、ミント/こまちは怒ると怖い事も覚えているため、事前対策の面もあったが…。プリキュアとキューティーハニーの共闘はすごく絵になるものであるため、味方の士気は立ち直ったが、敵が大慌てで、増援部隊を無線で喚き散らして集めることにも繋がる。

「敵に増援を呼ばれますね」

「そこは閣下も織り込み済みだ。Gフォースに出撃を要請しよう」

マーメイドとバルクホルンは同意する。黒江が事前に待機させていたメーサー殺獣光線車シリーズやメーサーヘリ、スーパーXVは号令を待つだけである。折角の超兵器は眠らしておくものではない。バルクホルンとマーメイドは共同でGフォースに連絡を入れ、出動を要請した。運用担当部隊を連合国軍に出向させ、黒江の配下として更に再編する事で日本の政治的な柵から開放されし部隊『Gフォース』。その出番が来たのだ…。









――その頃、戦車道世界では――

「嘘……」

島田愛里寿は追い詰められていた。大洗連合は全ての主力が健在であるのに対し、大学選抜は幹部しか生き残りがいない。いくら島田愛里寿と言えど、質で超える車両を含めた軍団が健在である以上、玉砕覚悟で戦うしか選択肢がない。いかなるテクニックを用いようとも、パーシングジャンボ、センチュリオン、IS-2を含めた軍団を四両で返り討ちにするのは無茶でしかない。数の優位をイレギュラーで覆され、しかも、予想外の攻勢で統制が崩壊し、残ったのは幹部のセンチュリオンのみである。いくら最精鋭と言えど、これでは玉砕は避けようがない。その様子を遠くから見つめるみほたち。



「あの子には可哀想ですが、全力で行きましょう」

「後で、お詫びに変身姿を見せましょう」

「ふむ。まぁ、役人を脅すついでにいいかもしれん」

カエサル(美々野くるみ/ミルキィローズの転生)が言う。彼女の場合はカエサルの度合いが強く、美々野くるみとしての割合は変身能力などに留まっている。実質、『美々野くるみの記憶と能力を引き継いだカエサル』というべきだろう。ミルキィローズにもなれるが、口調などはカエサルのものであるため、恐らくは生前と性格が離れている率が高いだろう。

「子供相手に全力を出すのは気が引けるけど、あの役人はいけ好かないし、やっちゃお、あり…じゃなくて、みほ」

相田マナはまた間違いそうになるが、今は四葉ありすではなく、西住みほなのだ。

「こっちは、いつでも射撃準備OKだよ〜」

「貴方。プリキュアとしては、そういうキャラなのね、ノンナ。いえ、キュアコスモ?」

「だって、アタシ、怪盗だったもんね〜」

ノンナはキュアコスモとしての記憶の覚醒後は艦娘・吹雪に近い声色と、飄々としたキャラになっていた。生前の事情が事情だったからだ。結果としては、プラウダ高校は最高幹部のほぼ全員がプリキュアであったため、美希(ダージリン)も驚きであった。

「えーと、私とノンナさんでアウトレンジします。向こうのセンチュリオンは最初期型、こっちのセンチュリオンはこっそり中期型にしてありますから、アウトレンジできます」

「うらら、貴方、105ミリに?」

「いえ、20ポンド砲です」

「規則違反じゃ?」

「大丈夫だ、カールの事でネタを掴んでいるから、20ポンド砲程度。105ミリ砲にしたかったんだぞ、本当は」

カエサル(くるみ)が言う。20ポンド砲搭載型は初期型と大差ない外見のため、素人目にはわからない。ましてや、砲を換装した程度では。その威力は戦後に使用されただけあり、パーシングや初期型センチュリオンの装甲を楽に貫通する。

「あの、いいんですか、これ」

「向こうはカールを持ち出して甚振ろうとしたのだ。要は1945年までに原型が完成してれば、車両に文句は言われんよ」

「そうだよ、ロゼッタ。私のジャンボも戦中にテストはされてたものだもん。向こうはパーシングとセンチュリオンで殲滅戦してきたんなら、刻んであげないと。圧倒的火力に蹂躙されるって奴を」

「最初の数回は当てないで様子見よう。向こうが動いたら各個撃破。いいね、ロゼッタ」

「はい」

ノンナ/コスモはすっかり現役時代同様の飄々とした態度を見せる。うらら(ナオミ)は何やら、黒い笑みを浮かべている。ストレスが溜まっていたらしい。

「では、みなさん」

「威嚇は私達にまかせて〜。奴さんを釣り上げてみせるよ〜」

「その姿で言うと、なんだか変な気持ちですよ、マナ?」

「お互いにね、ありす?」


微笑い合う二人。相田マナとしての記憶と自我に目覚めた逸見エリカ。四葉ありすとしての自我に目覚めた西住みほ。不思議なめぐり合わせだった。かくして、最終作戦は開始された。

『外すのは右へ、湿地帯に追い込んで!』

わざとらしく通信を入れるダージリン(美希)。一同は実際の砲撃を正反対の方向にいれ、森林地帯に追い込んでいく。ソ連式の指揮方法で、プリキュアとしての実戦経験を活かした大洗主力の作戦であった。愛里寿は持ち前の直感で行動を読むも、もはや幹部しかいなくなった現状を鑑み、単独行動を避ける。

「隊長、敵は我々を…!」

「今の状況では、どうあがいても負けは必定です。ですが、せめて一矢を報い、島田流戦車道の名誉を守り抜く。それが今の我々にできる唯一の手段です」

「大学生が高校生に一矢も報えずに負ければ、我々どころか、隊長の名誉にも関わるわよ!」

「分かってる!でも、連中はこちらの予測を超えてくる!まるで実戦の経験が…」

「まさか!」

「しかし、我々の動きを予測しきり、逆にねじ伏せるだけの戦術を、隊長が西住流とはいえ……!」

大学選抜は悲壮感に溢れていた。残存の四両ではパンツァーカイルも取れない。直前でセンチュリオンで幹部の車両を統一した事は幸いだが、敵は明らかにそれを上回る。そこで、彼女たちの最前列のセンチュリオンがIS-2の122ミリ砲とセンチュリオンの20ポンド砲を食らい、装甲が叩き割られながら、擱座した。

(……、す、スターリン重戦車…!)

擱座した車両を避ける形でとっさに変針するが、122ミリ砲の破壊力に内心で怯える愛里寿。ドイツの誇る虎と豹を狩るための存在としてのスターリン重戦車の存在意義を再確認したのだ。

「しまっ…!?」

森林地帯に追い込まれ、視界が効かないことに気がつく愛里寿だが、時すでに遅しであった。

『全射、一斉射撃です!!』

無慈悲なまでのみほの号令による鉄の暴風。そう表現したほうがいいだろう。見晴らしの効く小高い丘に陣取った大洗の主力車の全力射撃。122ミリ砲、20ポンド砲、90ミリ砲、アハトアハト、長砲身75ミリ砲。それらが暴風のように降り注ぐ。しかも驚くべき命中精度で。客席のVIP席で観戦していたしほはこの光景に内心はガッツポーズを取るほど大喜びしつつ、実際には口元を緩める程度に留めた。更にややあって、黒江経由で教わったカモフラージュを解いた予備軍も砲撃を行い、集中砲火を浴びせた。その中にはW号戦車、ティーガーTの姿もあった。実戦ではまま行われる二面攻撃。武道の試合ではやりすぎとも言われそうな十字砲火。爆炎が晴れた後、そこには愛里寿の車両を庇う位置で擱座する副官達の車両、あまりの十字砲火で中の乗員が気絶したか、目立つ傷はなかったが、弱点を抜かれて沈黙し、旗のあがるセンチュリオンがあった。

「これが貴方の娘さんのやり方なの…しほりん?」

「い、いえ…これは……」

それは当時の戦車道関係者が瞠目するような十字砲火による滅多打ち。流石の西住しほも息を呑むほどの無慈悲な鉄槌。青ざめる千代(愛里寿の母)の横で、末娘が取った作戦がなんと形容すればいいのかわからないほどの無慈悲さに恐怖するしほ。もっとも、みほ(キュアロゼッタ/四葉ありす)にしてみれば、『味方の損害は最小に、火力の投射は集中と順番』とする鉄則を実行したわけで、黒江がこっそりとグデーリアンなどを紹介したのが生きたのである。

「あの子は頑張った。だけど、あなたの娘さん達はそれを遥かに上をいっていた…」

「私も信じられないのよ、千代きち…。あの子達はどこで……」

お互いに学生時代の口調に戻るほどの衝撃であったらしい双方の母親。そこへ。

「すみませんが、お時間を頂けないでしょうか?」

そこで一人のトレンチコートを着たドイツ人紳士が二人に話しかける。その紳士の顔を見た二人は驚愕する。その紳士の顔は旧・ドイツ国防軍の上級大将であり、戦車の可能性を切り開いた張本人『ハインツ・グデーリアン』にあまりにもよく似ていたからだ。

「あ、貴方は?」

「私は…そうですな、西住しほ嬢、貴方のお嬢さん方に戦車戦術を仕込んだ張本人ですよ」

そうとだけ告げるハインツ・グデーリアン。黒江が必勝策として、事前に送り込んでいた特別講師。カールスラント陸軍上級大将の彼自身であった。

「おじさま、忘れ物ですよ」

「おお、すまんな。パイパー」

ハインツ・グデーリアンの傍らにやってくる一人の少女。彼の縁筋にあたり、扶桑人の血が入る陸戦ウィッチ『Y・陽子・パイパー』。ロリっ子だが、階級は大佐である。ちなみに声色はクロ時のルッキーニに似ており、いたずらっ子らしさを思わせつつ、知的さも混ざっている。

「私は事情もあって、名乗れませんが、この本を見ていただければ、おおよその見当はつくかと」

グデーリアンは自分の著作をちゃっかりと手渡す。『Achtung Panzer!!』。1937年に自身が出版した著作である。

「あと、監修した冊子ですが暇潰しにでも」

ティーガーフィーベルも手渡す。二人は当然ながら、戦車道の中枢に関わる人間として当然ながら、目を通した事のあったもの。既にこの世の人ではないはずのドイツ陸軍英雄が著した代物。

「貴方は…い、いえ、まさか…今は21世紀…」

しほが気づき、震え声を出す。現役時代、家元就任に至るまで冷静沈着さを崩さなかったはずの彼女が狼狽するほどの衝撃。目の前の紳士はドイツ陸軍の電撃戦の立役者、ハインツ・グデーリアン、またの名を韋駄天ハインツ。既に歴史上の人物になっているはずの人物である。

「信じられないでしょうが、私はそのような者です」

「い、韋駄天ハインツ……ゆ、ゆうれ…ではない…?」

「私は貴方方の知る『彼』の…いわば、別の可能性の一つと申し上げておきましょう。あ、この子は私の従兄弟の子供でして」

グデーリアンは微笑む。元の世界では軍縮でポストが無くなり、実質の予備役状態になったため、ロンメルを経由して、黒江の誘いに乗ったのだ。ドイツ領邦連邦内部には、ロンメルを含めて、多数のカールスラント系将官がいるが、軍縮で彼らに用意できるポストはない。50年代には確実に予備役入りしているからで、そこもドイツ主導の軍縮の影響で職にあぶれた高級将校がそこかしこに溢れてしまった原因である。日本連邦はそれを他山の石とし、ウィッチ教員であった女性将校をRウィッチ化させ、前線の補充要員として動員した。教員の職を失い、中央任務に向かない気質の元ウィッチの再活用であり、ウィッチの大量育成が政治的に求められなくなった時代、ウィッチ教員だった者は前線に再配置された。それはカールスラント軍人のパイパーも例外でなかった。しほと千代は私服姿のハインツ・グデーリアン、その再従姉妹とまさかの邂逅という、とんでもないイベントに言葉も無かった。この元・ウィッチ教員の再雇用問題はジュネーブ条約の批准によるウィッチの世代交代速度の鈍化と同期しており、これまでが嘘のように緩やかになり、既に育成が終わり、軍で一定の地位を持つ45年当時の高年齢層が使い倒されることになっていく。ウィッチ社会の変容はダイ・アナザー・デイの時点で既に始まっていたというべきであり、世代交代の停滞が起きる事は将官の誰もが認識していた。そのため、黒江の立案した『プリキュア・プロジェクト』に全軍が力を入れたわけである。先に現れていた『英霊たち』の列強による取り合いが起きたため、その反省でプリキュア達は当初から64Fに集める事になった。たとえ素体になった者がどの軍隊に属していようと。また、ウィッチたちの間では『純潔を失うと、シールド能力も失う』という『迷信』が古くからあり、それで揉め事が起こった事も、通常ウィッチ部隊運用の縮小と兵科解消、プリキュア、シンフォギア装者などを重宝する流れを決定づけた。これは単に、性的経験を経ると気脈が変化して魔力の流れが変化する事でコントロールが上手く出来なくなる事が多いだけだが、それを拡大解釈する事が常態化し、米軍や自衛隊と揉め事が起こった。それも日本側に面倒ぐさられた理由であった。ウィッチ達は雇用の継続すら、一気に怪しくなっていくわけで、それを悲観し、雇用が約束されている日本連邦の義勇兵に志願する例がこれから増加傾向になっていく。日本連邦が既存ウィッチの継続雇用を約束したのは、軍隊の雇用不安は経験上、クーデターになる事を知っているからである。日本側も、食い扶持を軍隊以外に知らない数千人を路頭に迷わせるわけにはいかないし、ウィッチの社会的地位が失墜すれば『魔女狩り』に発展しかねない(オラーシャでは実際にそうなった)。その危険を鑑み、日本側は扶桑軍良識派の要求を呑んだ。その流れで起こった『カールスラント44戦闘団の移籍は多大な衝撃』であり、各国のウィッチ部隊の縮小改編、人的資源の集約が図られていく。日本連邦は実質的に二強国のエース部隊をその手中に収めた事で、以後の時代での世界の軍事的な主導権を握っていく。これに大慌てだったのがブリタニア連邦で、グローリアスウィッチーズの世代交代も進行中であったため、本来は予備役になっていたり、退役将校に至るまでの人材をかき集める日本連邦の窮状に理解を示さなかったが、そうして出来上がった64Fに驚愕するに至った。彼女たちはあらゆる戦場に立つ事になったが、それと引き換えにあらゆる特権を有する事になった…。そして、彼女たち同様に空母機動部隊から引っ張りだこであった飛行機が『流星」であった。機体性能的にはスカイレーダーに劣るが、扱い慣れた尾張系の艦爆である事から、『防弾装備を持つ』点で天山の代替に望む声が増大。結局、スカイレーダーで統一する思惑は国産機を望む現場の声で成らず、最後の扶桑国産の艦上攻撃機としての意地を見せることになった。21世紀の素材技術によって防弾装備の軽量化が成功し、空母のカタパルトも第四世代ジェット戦闘機前提の高出力のものになった幸運もあり、流星改として、陣風と同型のエンジンに換装し、防弾装備ありの機体が一定数生産され、スカイレーダーを嫌う古参部隊向けに配備された。……ダイ・アナザー・デイには間に合わなかったが。その点を指して、後世に『儚き流星』とされる経歴として語られるのである。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.