外伝その375『扶桑の混乱2』
――『ズルして無敵モード』と言いたいプリキュア達だが、現実はそう甘くなかった。ダイ・アナザー・デイは見事にそれを体現した戦であった。敵側にもそれなりに異能が存在しており、それでプリキュアの防御を容赦なくぶち抜いてきたからで、仮面ライダーや宇宙刑事、スーパー戦隊ほどには『天下無双』とはいかなかった。一方、連合軍は海軍の修復を急いでいた。制海権を得たとは言え、所詮は一時的なものと日本が煽った事もあり、修理は急がれたが、通常、軍艦の修理には時間がかかるので、扶桑連合艦隊のみが稼働状態を保っていた。この頃になると、扶桑軍部は日本側から政治的に締め上げられるようになり、戦時猛獣処分が撤回される、検閲は事実上の廃止、実務実習担当の軍人の教育現場からの追放などが矢継ぎ早に決定されていた。北郷はその影響で前線部隊に配置転換された一人である。(校長を降ろされた)軍人教員は暫定的な移籍先と見込まれた教導部隊が当面の間は人員の固定がなされたので、前線部隊に送られるが、元は大物が引退後に務める進路の一つだったため、受け入れ先の部隊は限られ、結局は64Fがその大半を受け入れる事になった。軍と関係が深い学校は直ちに普通科の受け入れを中止し、軍のウィッチ訓練学校に転換が進められたが、当然、ダイ・アナザー・デイに間に合うはずもない。前線航空部隊は64Fのみが稼働状態であったため、熟練兵が根こそぎ動員されるのは仕方がないことであったが、中堅が使い物にならないという事実は軍部を相当に悩ませた。空の戦いではパイロットの経験値がよほどのことでもない限りは勝敗を左右するからで、20世紀中盤以降の戦争のお約束だ。電子戦機の支援はあれど、基本はミサイルがある以外、朝鮮戦争までとそれほど変化はない。制空権確保は戦の命題であり、64Fが前線隊を二つに分けるのも当然の流れであった。――
――連合軍統合参謀本部――
統合参謀本部では、ブリタニア艦隊の消耗が激しく、扶桑連合艦隊だけに制海権の維持をさせることに反対意見が生じたが、リベリオンとまともに砲撃戦を敢行できるだけの戦力を維持しているのが扶桑連合艦隊のみであること、また、欧州の大半の戦艦はモンタナはおろか、アイオワ級戦艦とすら撃ち合えるか不安が残る性能の艦が大半であった事、大和型戦艦は強化を重ねられていたために期待がかけられていたことから、扶桑連合艦隊がダイ・アナザー・デイが三週目を迎える頃には、単独で対峙するに至った。当然、新式戦艦の播磨型戦艦の増勢が急がれたが、『能登』は工事担当会社の設備入れ替えで工事が中断していた。当時、空母はジェット機への技術革新で既存艦の大半の戦力価値が低下し、信濃と甲斐が戦艦のままであることでの日本側の誤算もあり、優先度が下がった。リベリオンが戦艦をおもちゃ感覚で次々と繰り出すため、対抗上、戦艦の増勢が求められた。日本側も近代化されている事を条件に建造を承認したため、改大和型戦艦、後に海底軍艦ラ號の設計図を流用しての建艦に移行する。日本側がその詳細を知らされたのは、日本海軍が目論んでいたラ號の二番艦『豊葦原』を『海底軍艦轟天号』という触れ込みで『完成』させてからであった。幸い、空中戦艦の取り扱いは日本側にもわからないため、大型航空機扱いで64Fに配備し、試験をする事になったのは、日本側の横槍防止だった――
――参謀本部の廊下――
「日本のフェミニズムには困ったものだ」
「ああいう輩ほど、同性の仕事を却って奪ったり、権利を奪っているのだぞ?意味が分からん」
「連中は騒げばいいのさ。自己承認欲が満たせれば、な。その流れで、扶桑はウィッチを学校から引き抜けなくなったので、面接で集めるつもりだそうだが、そう上手くはいかんだろう。ウィッチ教官を前線に送り込むにしても、受け入れ先は64しかない」
「農村部が子供を高校まで行かす事を恐れているからな。変に知恵をつけられても困る、と。就職のハードル上げてどうするのだ。この時代では、プロのスポーツ選手もいなければ…」
「日本は女子の進学率を上げたいようだ。大日本帝国よりはマシなのだがな、扶桑は。農村部には中世以前の価値観が残っているし、高等教育を都市部のエリートの持つ権利と考えている老人も多い。とは言え、日本が求めるものは21世紀の男女共学が普及した後のものだ。ウィッチ教育は昭和初期までの風潮の流れを必要上、汲んでいる。それが理解されん…」
「農業高校を作るそうだが、それだけで進学率を確保できるのか?」
「理論上はな。普通の女子の居場所も確保せんことには、許可も出んそうだ。その一環で師範学校を廃止して、大学の教育学部で代替したいそうだが、そう上手くはいかんだろう」
「現在の生徒の受け入れ枠の準備や教員の再就職先を確保せんとならんからな。いきなり戦後の大学教育ができるわけでもない」
「それは上手くやるだろう。日本に軍へのネガティブイメージを流布されては今後の志願数の維持にも関わる。どうするのだ」
「ミーナ大尉の事で手を打っておいて正解だよ。彼女を中佐から降格させておいたから、その事で突っ込まれることはない」
「そのことだが、勲章の剥奪まで検討されたぞ」
「何?そこまでのことではないだろ?」
「人種差別を煽ったから、だそうだ。軍籍抹消には至らなかったのは、我々が降格させといたおかけだが、勲章の剥奪をするような素行ではないということでお流れになったそうだが、今後はあまり出世させられんな」
「退役時に名誉的に少将にするので精一杯だろうな。噂になったら、現場が萎縮するぞ」
「ある程度は既に流れてるだろうから、事実の公表はせざるをえないだろうな。とりあえず、処理の一環で、サボタージュしている部隊のNo.1に責任を負わせ、No.2とNo.3を64に送り込む。それくらいしか我々にはできんよ」
各国軍部の高官は日本が扶桑の教育そのものを大転換させようとする過程で、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケに処分を下そうとする事を読んでおり、予め、二階級降格の処分を下しておく事で手出しを封じ込んだ。士官への銃殺以外の罰としては、もっとも重いものである。勲章の剥奪はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケのケースでも検討されたが、現場が萎縮するという意見が生じ、このケースでも見送られた。ただし、始末書の提出と給与の自主返納は促されたため、ミーナはこの月は危険手当以外は受け取っていない。連合軍は同位国による横槍に悩んでおり、統合後の501を64Fに組み込んだのは、その防止を図る面もあった。また、カールスラントの人種差別・要職独占の批判を封じるため、武子が地すべり的に501への指揮権も有する事になり、要職の半数を日本(扶桑)人が占める事で落ち着いた。黒江たちは階級が上がったため、形式上、先任大隊長となり、本国で要職についたラルを除いた、ジーナやミーナは中隊長クラスの待遇で遇されている。必要上、通常装備の部隊も編入したため、未来兵器も含めれば、かなりの兵器を保有するに至った。戦闘機は各時代のものが平等にあるが、主に日本系と米軍系の航続距離が長いものが配備されている。訓練用にP-51と一式戦三型が使われており、プリキュア達もそれらで飛行訓練を受けていた――
「64Fに資源を集約させていいのか?」
「現時点で、あそこ以外に稼働状態の部隊はない。仕方あるまい。スーパーロボットのおかげで、人員が遊軍化した戦線もある。欧州が落ちれば、この世界秩序の存続にも関わる。前任者がGウィッチを冷遇した報いだよ」
「やれやれ。そのおかげで私は元帥への昇進がパーだ」
「下手すれば、人種差別と言って首を切られる可能性があったのだ。元帥になれなくとも、大将にはいずれなれるだろ、モンティは」
モントゴメリーは元帥への昇進が取り消され、中将のままで遇されていたが、実質は大将クラスの扱いであった。従って、参謀本部の重鎮扱いではあり、補給分野で顔が効く事から、兵站部門の責任者に押し込められていた。却ってそのほうがモンティの手腕を発揮させられたため、その功で元帥への昇進を勝ち取ったという。
――駐屯地――
「上は相当に困ってるみたいよ」
「万一に備えて、プリキュア達にも飛行訓練を課しといて正解だったぜ。キ43とP-51Dを確保しといたから、それで基礎的な訓練はさせてる。幸い、何人かはパイロット資格がある奴が覚醒してるから、そいつらはローテーションに組み込む」
「日本は航続距離を求めるのよね。欧州で2000キロの航続距離なんて、オーバーよ」
「史実ほど基地ねぇし、レシプロ機は空中給油で航続距離伸ばすのは基本的に想定されてねぇんだ、仕方ねぇだろ。本来、ウチは本土だけでも、広大な防空圏があるんだ。よく南洋と本土要地防空用にドラケンが採用されたもんだ」
武子は日本が自分達も使う事を想定しているのか、レシプロ機にも2000キロ近くの航続距離を要求することに不快感を顕にする。欧州ではむしろ重武装が求められてきたからだ。
「それに、戦前ならいざしらず、今じゃ、欧州の半分は怪異かティターンズの支配下だ。航続距離の長さは必須だ。32型程度でも欧州じゃ異常に飛べるんだから、紫電改や52型はバケモンだよ」
「どうするのよ。マウザーでも回してもらわないと、B公は落ちないわよ」
「マウザーはケイがロンメルに横流しを依頼してるから、ちょっと待て。本国のほうの60万発の備蓄は日本側が渋っててな」
日本側はこの頃、扶桑が購入済みのMG151/20の銃と弾丸の供給を露骨に渋っていた。800挺の銃が60万の弾丸ととも弾薬庫に保管されていたため、64Fはその放出を嘆願していた。黒江は予備として、リボルバーカノンである『ポンティアック M39』や『ADEN』などを確保していたが、ジェットストライカーでしか扱えないため、『コルト Mk12』などの従来の延長線上の機銃も用意はしていた。有力な代替装備と見込まれた『イスパノ・スイザ HS.404』の在庫がアメリカにはなかったからだ。ブリタニアは生産力をADENに振り向けており、そのルートも不確かになっていたため、レシプロストライカーの使用機会は減っていった。
「コルトのMK12なら軽いから、レシプロでなんとか使える。前田侯爵にも泣きつけと黒田に言ってある。お前のお気に入りのマウザーは使わせてやるから」
「頼んだわよ。国産は信用出来ないから」
「お前、ガキの頃の事を引きずってんな…」
「事変の頃に苦労したのは変わりないから。プリキュア達は自前で飛べるのは何人?」
「後から覚えたの入れても、ここにいるのは数人程度だ。魔力の応用で飛ばす訓練はさせてる」
この頃には、ドリームとピーチはブルームとイーグレットから受け継いだ能力で通常フォームでも飛行を可能としていたが、他のプリキュアが飛行するにはスーパー化が必須な事は変わりなかった。
「どうするの、サイコフレームでいちいちミラクルライトの代わりさせると、色々と批判されるわよ」
「ラブリーとハートを呼び寄せる。そのために宮藤を行かせた」
「芳佳をあの世界に?」
「戦車道世界にな。ハートは試合以外は暇そうだしな、黒森峰女学園だし」
キュアハート/相田マナは逸見エリカに転生していたため、その記憶の覚醒後は周囲に『角が取れた』と称されるほど温和になっている。また、みほがキュアロゼッタ/四葉ありすの記憶に覚醒めたためもあり、二人の関係は改善されている。今回は相田マナを呼び寄せるために芳佳を送り込んだわけだ。待ち合わせ場所は大洗市のどこか。無論、エリカは相田マナの姿で来ることが条件である。芳佳も星空みゆきの姿に変わって。
「あ、宮藤から報告だ」
黒江のタブレットに報告が入る。見てみると…。
――戦車道世界の大洗市のどこか――
「みゆきちゃ〜ん!」
「やあやあ、マナちゃん。久しぶりだね〜」
「うん。あれ、服は着替えてきたの?」
「久しぶりに昔の気分に浸りたくてさ」
芳佳(外見は星空みゆきにチェンジ済み)はかつての私服姿になっている。マナも同様に私服姿である。この日は金曜の午後。お互いに週休二日制であるらしく、そこを利用して学校を抜け出してきたと笑いあう。二人は外見をプリキュアの変身者としてのものに変えている事をいいことに、買い物などを楽しみながら、雑談する。
「そっちは黒森峰っしょ?あたしはもう引退した身だけどさ、そっちはこれから隊長じゃん。どーだい?」
「んー。ま、記憶が戻ってからは楽だよ。生徒会長してた経験あるから、人を束ねるのは慣れてるからね」
「ティーガーの整備はどうだい?」
「あれ、昔のドイツ人は何考えてさ、あんな転輪にしたのー!?。おかげで整備の授業はヘトヘトだよ〜…」
「当時のドイツ人は接地圧の事で悩んでたのさ。あれは接地圧を低くしようとしてのものさ。40年代のドイツの技術じゃ、軽量エンジンは出来なかったし、重装甲と火力を重視した代わりに重くなった代償だよ」
「あの転輪を外すのに偉い労力いるんだよー!千鳥配置とか知らないけどさー!」
「仕方ないさ。40年代序盤の時点で最強の火力を求めたらああなったんだ。実際、ファイアフライとか出るまでは無敵だったし、日本軍も欲しがった記録がある」
「え、あの時の日本に無理っしょ」
「満州で使うつもりだったみたい。もっとも、絵に描いた餅だったけど。当のドイツだって、新規に装甲回収車造る手間がかかったんだしさ。エンジンは重量に比べて非力、履帯は切れる、トランスミッションは壊れやすい。難点の方が目立つけど、エース戦車兵が乗れば、ヤーボ以外の敵には無敵だったのは事実さ。実際、シャーマン5両でやっと戦えるくらいのキルレートは叩き出してた。それに履帯でブーイングあるなら、戦線で運用部隊がやってる裏技でも教えるよ」
「え、どんなの」
「外側の第一転輪を外しな。そうすれば、なぜか履帯が外れにくくなる。部隊でもわかんないけど、裏技で通ってる。ティーガーはケーニッヒに切り替えが進んできてるけど、使ってる部隊はまだあるからね」
「あれ、まだケーニッヒなの?」
「パーシングが出てきたけど、レーヴェ戦車の開発に行き詰まったんだよ。ドイツがあれこれ吹き込むから」
レーヴェ戦車は70口径10.5cm戦車砲を搭載し、170mm装甲(傾斜)の前面装甲、100ミリの側面・後面装甲を有するというスペックが目指された。これは第二次世界大戦当時としては超強力な数値であり、完成させるつもりがないと揶揄されているが、ケーニッヒティーガーとの互換性を目指していた事、ケーニッヒの後継としての高性能を求めた中では、比較的に現実的と見込まれた数値である。1000馬力を超えるほどの強力なエンジンさえあれば、確かに強力な第二次世界大戦型重戦車となったのは事実だ。ドイツはレオパルト2の供与で事足りるとしたが、当時の戦車整備兵に高度なベトロニクスの整備などは不可能である。そのため、マーリン90エンジンを積んでの量産が前線の要請という形で強行されようとしている。レオパルト1は既に現存しておらず、供与も不可能。レオパルト2は高性能だが、ベトロニクスがあまりに高度化しすぎて手に負えない。この問題もあり、頓挫していたレーヴェはレオパルト1相当の車両の整備が可能になるまでの繋ぎという名目で暫定的に生産が許可され、対戦車火器対策が施された仕様で生産ラインに乗る。制式名は『Z号戦車レーヴェ』。戦中ドイツ式最後の制式化された重戦車。カールスラントが軍縮の流れの中で産み落とした戦中型重戦車最後の雄。コンカラーに口径で劣るが、装弾速度で勝っているとされた。試作品はダイ・アナザー・デイが二週目に入った日に完成したが、問題点が噴出。その改修と対戦車火器対策を施された上で制式採用された。ティーガーの血統を継ぐ最後のドイツ重戦車、ひいてはV号戦車以来の戦前・戦中ドイツ戦車の血を直接受け継ぐモノとしては最後の戦車となった。口径は戦後からすれば『1970年代の標準程度』だが、現代から見てもまれに見る長砲身であるため、戦後標準の105ミリ砲を上回る火力であった。
「あれこれって?」
「レオパルト売り込むからって言ってね。ところがベトロニクスがあんまりに高度すぎて、あたしがいる世界の第二次世界大戦中の戦車整備班の手に余るから、レーヴェ戦車の計画が通ったんだけど、その時にはもう作戦は始まってたってオチ。そのタイミングで量産しても、前線部隊に行き渡るのは数ヶ月先さ。設計変更が多かったし、パンツァーファウストとRPG対策が施されてね…。たぶん、帰っても10両あればいいほうだね」
「なんで、第二次世界大戦中にそんな対策が?史実より遅れてるんでしょ?」
「別の世界からの介入があるから、って理由だけど、MSとか使われたら、どんな戦車もおしまいだよ?戦車が相手にするのは装甲戦闘車両と歩兵だから、神経過敏だよ」
「確かに。あれなら天蓋撃っておしまい、ってできるし。でも、そもそもさ、MSはなんとか粒子さえない状態なら、いい的じゃん」
「そうさ。MSはM粒子で遠距離射撃を封じた上で真価を発揮する兵器。だから可変機とかが造られたわけ。マジンガーとかゲッターは戦略兵器どころか、世界滅ぼすレベルだから、そういう戦術の妙は打ち砕くけど」
「どうやって、そっちは均衡保ってたの?」
「ぶっちゃけ、米軍と地球連邦軍、自衛隊の有志の持ってきたメーサー殺獣光線車やらメカゴジラとかフルに使ってさ。イギリスとドイツ、日本もだけど、外征を自粛させようとする政治的動きが強くてね。日本に松代に隠してたメカゴジラとかメーサー殺獣光線車を引っ張り出させて、しかも事後承諾させないと使用許可も出ないんだよ?バカげてるよ。送ってくる装備は旧型中心のくせに、人は出さない、出血が出ると引き揚げの世論を煽るんだから、政治家」
黒江達も苦労しているが、日本の政治家の大半は『政治屋』と揶揄されており、それがシビリアンコントロールを傘にして、軍(自衛隊)へ強権を振るうため、扶桑軍人や政治家からは顰蹙を買っていた。ただし、彼らも連邦の恩恵で経済が奇跡的に回復の兆しを見せていることは理解しており、軍事的負担の必要性は痛感していた。その範囲内でできる最大限の派遣をGフォースという形で行っている。
「日本の政治家なんて、大半が政治屋だよ。昔、漠然と総理大臣になりたいなんて言ったけど、思うほど権力があるわけじゃないし、内閣の大臣の不祥事一つで断罪される。今となっちゃねぇ…」
マナは逸見エリカの立場になる事で、かつての自身の夢である『内閣総理大臣』に幻滅したらしく、それよりも『自衛官として、現場で働いたほうが気苦労が少ない』と考えている。これは逸見エリカの立場で、あれこれと実務で働いた経験によるもので、かつてより『現実的』になったとも取れる発言だった。
「内閣総理大臣になっても、いいことばかりでもないしね。自衛隊の幹部自衛官になったほうがまだ気が楽さ。軍人なら、給料と危険手当で稼げるし、公の場での素行さえ気をつければ、それ以外は楽なもんさ」
みゆき(芳佳)の言う通り、Gウィッチ達は一騎当千の戦果で『自由勤務権』を勝ち取っており、普段の勤務においての素行は不問に付されるようになった。その兼ね合いも『規律にうるさい』サーシャの追放に繋がった。(彼女がロシア人である事も不幸だった)64Fは公の場以外での隊員の勤務態度は、幹部も含めて、お世辞にも良好ではないため、『規律にうるさく、現場の判断の懲罰としての降格も辞さない』彼女の肌には合わず、隊からの追放は必然と言えた。(彼女はその後に暴漢に襲われ、目を負傷したこともあり、地上勤務に移行。空中勤務者として復帰したのは、少なくとも1950年代後半の事であった)『身内』で固めたとの批判は大きかったが、転生者は扱いにくいというのが上層部の認識である。黒江と智子の一件から、『転生者は好きにさせたほうがいい。下手に扱うと、功績があるから、同位国に敵視されている場合もある自分達が罷免される』という事が知れ渡った。そこに中堅層のサボタージュ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの無知からの冷遇行為も重なった結果、Gウィッチは『一箇所で集中管理する』運用が採択され、64Fへの一極集中が実現した。ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの降格は上層部の『分散配置で軍全体の練度向上を図る』ドクトリンの破綻と構想の頓挫への『懲罰』的意味合いもあり、一時は『少尉』への降格も検討されたが、ミーナの人格が『西住まほ』と化した事、まほとしての『政治に興味のない実直さ、基本的に冷静沈着な振る舞い』が好意的に評価されたため、現場の混乱を避けるためもあり、降格は『大尉』までで留められた。前線の纏め役向きの人材を優秀だからと高い地位に付けた弊害も取りざたされたため、ミーナは勲章の剥奪こそ免れたが、中将以上への出世は絶たれることになった。(当人は大尉のほうが気が楽との事)ダイ・アナザー・デイでは、ミーナやノイマンの降格人事がセンセーショナルに報じられた一方、黒江達の将官への昇格と叙爵が華々しく伝えられた。二代目レイブンズの時代では、この対照的な報道は『連合軍の軍事的主導権の入れ替わりの象徴』と後世には記録されている。カールスラントはダイ・アナザー・デイを境に軍縮の時代を迎え、日本連邦は来たるべき『太平洋戦争』を勝ち抜くために軍拡へひた走っていくからだ。カールスラントは46年からは大物ウィッチも出る事が無く、次第に軍事的衰退へ向かうが、日本連邦は太平洋戦争後に人材的意味で第二の『黄金期』を迎えていく。二代レイブンズはその次の『第三次黄金期』の筆頭格にあたる。(ちょうどその頃、イラク戦争相当の動乱が起こり、二代目レイブンズの代は大戦世代の孫世代が多く、その人材が華々しく活躍した経緯から、第三次黄金期とされる)二代レイブンズはのび太にとっては間接的な孫のような存在であり、青年期の時点で面識がある。ダイ・アナザー・デイでは、主にのび太の護衛や容姿を利用しての広報向けの影武者を勤めており、連合軍内部では三将軍と山本五十六、小沢治三郎、山口多聞、源田実しか詳細を知らされていない。彼女たちは本来は『いないはずの人間』なので当然だが、親たちの影武者を勤めている都合上、司令官級の軍人には存在が知らされている。彼女たちが三代目の501の幹部である事も。なお、クロ(ルッキーニ)の実孫『トリエラ』も祖母の影武者を勤めており、性格は似ていないと称されつつ、祖母がクロエ・フォン・アインツベルンとして活動する手助けをしている。シャーリーも孫娘の『クラリス』が影武者を勤めており、シャーリーが北条響としての容姿を取っていられる理由である。坂本は孫娘の百合香が父親似の大人しめの性格である事から、影武者は使っていない。ただし、海藤みなみとしての姿を取りたい竹井に代わり、多忙である。少なくとも、黒江、智子、ケイ、シャーリー、クロの五名は自身の血縁者を影武者に仕立て上げ、それぞれの活動をしている。それは芳佳も同様だ。
「あたしさ、娘に影武者頼んできたんだよね。孫は二人いるけど、イラク戦争以降の時代の子で、経験がね。ナムの経験者の娘を引っ張ってきて、影武者してもらった。下の子だけど。あたしさ、下の子に戦士としての才能が受け継がれてさー」
「え、ややこしくない?」
「仕方がないよ。下の娘も軍人でね。ベトナム戦争の時の生き残りだから、結婚も遅れて、孫ができたのも遅かったんだ。上の子はキャリアウーマンだから、子供への興味ないし」
「うーん。それ、いいの?」
「娘も引退した後は子育てが一段落して、暇そうにしてたしさ。暇つぶしにはちょーどいいだろって。娘、出世に興味なかったとは言え、中佐くらいで退役してるし」
「名前は?」
「宮藤剴子。二番目だったから、旦那と相談して、通字はいれなかったんだ」
「大変だねぇ」
「生まれ変わっても有名人だから、みゆきとしての姿は便利にしてるよ。キュアハッピーとしての姿しか知らないしね、みんな」
「あたしは覚醒してからというものの、言われるのが角が取れた、恐ろしいくらいに悟りを開いた、だよー!?逸見エリカちゃんってどんな子だったのー!?」
「うーん。一言で言うなら、『短気で、癇癪持ち』なんだよ、あの子。マナちゃんみたいな博愛精神無かったし、西住ちゃんのお姉ちゃんの信者すぎてドン引きもんなとこあるし」
「それで、あたしがあれこれすると『角が取れた』、『可愛い声出すのね』とか言われるわけだー」
「だって、あの子、ティーガーに乗った途端、はしゃいで転輪破損させてるくらい、荒いとこあるんだよー。西住ちゃんに嫉妬してるしさ」
マナが事実上成り代わった『逸見エリカ』は西住まほの後釜としての黒森峰女学園の隊長であり、就任期間は先々代と同程度と見込まれているため、黒森峰女学園内での評価は平凡とされる。だが、相田マナが『成り代わった』事で急速に評価が爆上げ状態(マナはオールマイティに事をこなせる天才肌で、ピンクプリキュアでは史上初の逸材)になっている。そのマナもティーガーの転輪の取り替え作業には参っているので、如何に同車の整備が大変かがわかる。
「ティーガー、か。一応、二種類乗ってみたけど、普通のティーガーのほうが人気なのはなんで?」
「そりゃ、ケーニッヒは末期の投入だったけど、ティーガーアインツはエース戦車兵を多く出したからね、ヴィットマン、バルクマン、カリウス…。東部戦線華やかりき頃の投入で、当初は本当に強かったからねー。それと重すぎたんだよ、ケーニッヒは。エンジンはパワー不足がより顕著、燃料は食うわ。戦闘で無敵でも、兵站が死にかけの時じゃ豚に真珠だよ」
「で、そっちはどうなのさ」
「普通のティーガーはドイツが持っていった。パーシングいるからってむちゃくちゃな理由で。抗議して、ケーニヒはラインを復活させられたけど、イギリスは青天井の予算でコンカラーを作っちゃってね」
「え、あのISの後期型をぶち抜けるイギリス最後の重戦車?」
「うん。足回りに改良加えた上で。日本も九五式重戦車やらの旧式戦車の代わりで、かなりの数を買ってる。多分、今頃はパーシングを血祭りだよ」
「センチュリオンは」
「最終型で登場したよ。日本最高の戦車の一つとして奮戦中さ。74式のコピーがライセンス生産になる過程で手違いがあって、遅れてるから、センチュリオンとコンカラーは便利にしてる」
「軍需産業がぶーたれない?」
「戦車閥の長老の原乙未生中将とかはぶーたれてるけど、官僚の手違いだし、日本側はテストを終えてから出すつもりだったから、扶桑と揉めてね」
扶桑と日本は戦車の調達で日本防衛装備庁の手違いもあり、肝心の作戦に間に合わなくなった事で揉め、日本側は窮した現地情勢を鑑み、16式機動戦闘車を場繋ぎも兼ねて送り込んだが、扶桑陸軍に運用要項が上手く伝わなかった結果、キュアスカーレットが見たような損害を被る羽目になっていた。損害の大きさから、16式機動戦闘車の有効性が疑問を呈され、2020年度の調達数が減らされる瀬戸際にもなった。(もっとも、ウィッチに攻撃されるという想定外もあったが…)
「で、自衛隊は代替に16式機動戦闘車を出したんだけど、運用要項が防衛装備庁の手違いで上手く伝わなかったんだよねー。現地部隊の勘違いでテケ車みたいに使われて大損害。危うく、2020年の調達数が0になるところでさ」
「それで10式を増やしたの?」
「74式は老朽化してるから、10式を出さないとならなくなったんだ。地球連邦軍いるから、スペックは把握されてるだろうって事で、防衛装備庁も折れた」
「ああ、なんとなくわかる」
「地球連邦軍もM1の強化型を長いこと使って、61式が行き渡ったあたりで一年戦争だからね。MSは高性能だけど高価だし、むしろ戦車のほうが地上じゃ多かったそうな」
「で、この前のメールでみたみたいなカオスってる状況に?メカゴジラって…」
「あれ?G型護衛艦。予算上は」
「機龍は?」
「あれは特殊邀撃機扱いで空自。メカゴジラは虚仮威しにも使えるから、敵のウィッチが怪異の新型と勘違いしてね。面白いから、スピーカーでゴジラの鳴き声で威嚇したら、敵前逃亡したって話」
「えー…」
「それと、ドラえもん君がそのうち、『架空人物たまご』で暴れん坊将軍出したいっていうから、部隊は爆笑の渦さ」
ドラえもんは多忙の身だが、架空人物たまごの最新バージョンを未来デパートから買ったところ、『暴れん坊将軍』があったといい、64F・新選組を爆笑の渦に巻き込んだ事が、みゆき(芳佳)の口からマナに語られる。
「暴れん坊将軍って、あの某大物俳優の?」
「そうそう。箱見たら『下手な仮面ライダーより強い!』って書いてあって、ヒーローたちも腹抱えて大笑いさ」
後にこれはのび太が『むしろ僕たちの過去から連れてきたほうが早くない?』との事で、本当に徳川吉宗を連れてきてしまう。ちょうどそこにティターンズの特殊部隊が来襲したのだが、ノリがいい人物達だったのか、ご丁寧に『う、上様…!』と、『ええい、上様がこのような所に来られるはずがない!!』をバッチリ再現するというお茶目なところを見せ、黒江達を爆笑の渦に巻き込んだという。隊長格が『ここで死ねば、ただの徳田新之助!』とお約束をして、全員が刀剣で斬りかかるというどういうわけか、お約束の展開になり、チャンバラ大好きな坂本を興奮させたとか。(更に後の調査によれば、ウィッチ世界でも、彼は後継者の不在に困った織田家の養子になり、本当に織田本家の当主になり、実際に将軍になっていたため、ウィッチ世界でも本当に『上様』であるとの事)
「あたし、そこに居合わせそうだよね」
「そうなると、あたしたちゃ御庭番衆だね」
笑いあう二人。これについてはのび太のアイデアで、後で本当に実現し、坂本が興奮のあまりに鼻血を吹き出して卒倒。黒江と智子が御庭番衆のような役目をその場で負い、居合わせたドリーム、メロディも参戦し、即興で御庭番衆のようになってしまう珍事が発生。その場で黒江はドリームに御庭番衆小太刀二刀流を伝授する(なのはに次いで、二例目)流れになり、黒江は苦笑いだが、それが後にドリームがデザリアム戦役を戦い抜く一助となるのである。
「確かに。荷造りは済ませたから、ありす(四葉ありす。西住みほのことでもある)に指定のところに送ってもらったよ。くるみちゃんはあたしとは別の機会に行くって」
「大洗はまだかーしまの事があるしね。でも、この間の大学選抜チームとの試合の時のカールの奪取の時は笑ったよ」
大学選抜チームとの試合の前準備の際、美々野くるみ/ミルキィローズは手引きがあったとは言え、カール自走臼砲の奪取の際にミルキィローズとしての姿を見せ、奪取に成功している。また、試合後の役人への脅しの際にもミルキィローズとしての姿で脅していたりする。その時はキュアベリー、キュアレモネード、キュアコスモ、キュアピース、キュアロゼッタ共々、ハートも脅しに参加している。
「くるみちゃん、ノリノリでミルキィローズになったんだもんねー。試合が終わったあとの方が盛り上がったけど」
「どうなったの?」
「大学選抜チームからサイン攻めだよ。ほら、大学選抜チーム、なぎささんとほのかさん、ひかりさんたちの戦いをリアルタイムで見てた世代だし」
大学選抜チームは挨拶しにきたところに、大洗連合チームの幹部の多くが本物のプリキュアになっているという珍事に遭遇。キュアハート、キュアロゼッタ、キュアベリーが代表で応対したところ、サイン攻めに逢い、戦車道世界にいるプリキュア勢は全員、もれなくサイン攻め。写真撮影まで付き合わされたという。また、愛里寿はハートとロゼッタに反応し、年相応の『ずるい…』とスネるような態度を見せ、ハートを萌えさせている。その時にキュアハートは『胸がキュンキュンする〜!』と往年の口癖を披露しているが、それを聞いた黒江は『プルの同類だ…』と納得したとか。
「さて、待機してる船がいるところへいくよ。ラ號が迎えに来てるしね」
「ラ號?」
「戦艦大和の五番艦で、日本海軍最後の大戦艦。地球連邦軍が宇宙戦艦に改造してるのさ」
みゆきは現地に駐在する地球連邦軍に連絡をとり、西住みほ(四葉ありす)の手引きで荷物を待機しているラ號に運んでもらい、自分達はラ號が待機している秘密基地にハイヤーを用意してもらって向かう。ラ號には既に愛乃めぐみ/キュアラブリーが乗艦しており、マナが乗ればラ號とみゆきの任務は完了する。数十分ほどハイヤーに乗っていると、地下の秘密基地に入る。そこには地球連邦軍の秘密基地があり、アンドロメダU級を五隻同時に整備可能な容量のドック設備が整えられていた。ラ號はそこに停泊していた。ラ號は特徴的な艦首ドリルと船体に収納可能なチェーンソーを除けば、もっとも色濃く、原型の大和型戦艦の特徴を残す。艦橋からマストまでが大和型戦艦そのままの外見である事もあり、日本海軍の遺産である事がわかる。また、艦尾に旧日本海軍の旭日旗が地球連邦軍の軍旗と共に翻っている事から、ラ號が日本海軍から地球連邦軍に所属を移した事の証明となっている。
「あれが…ラ號…」
「戦艦大和の忘れ形見のようなものさ。日本海軍が最後に計画した大戦艦。どうだい、この勇姿」
「本当に負けそうな時の日本海軍が…?」
「細かい説明は乗ってからにしよう。めぐみちゃんが待ってるからね」
ラ號に乗り込む二人。ラ號は気密構造になっていたため、宇宙戦艦への改造に大和ほどの労力は要しなかった。その証明であった。内部はヤマト型共通の作りになっており、居住区には平時はオートウォークの区間もある。もちろん、食堂はヤマト亭のラ號版であり、連邦軍随一の美味さを誇るという。ラ號の内部は宇宙戦艦への改造でヤマト型規格に変えられており、居住性は高い部類であり、艦上機と弾薬補充用の工場も備える。二人に宛てられたのは幹部用の個室で、将校待遇な事がわかる。それぞれ荷物を置くと、めぐみがいる休憩室に足を運んだ。
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