外伝その396『図上演習と戦闘8』


――引き続いて――

「エンペラーや真ドラゴンのことは置いといて、若い連中は暴発するか?」

「するだろ?私達が戦果を挙げてるのに、若い連中は年齢を理由に、現場に出さないんだからな。だが、若い連中に下手に出られても、待っているのはシェルショックだ。あれは若い連中の発症率が高い。ウィッチ兵科は特に耐性がないからな。腕や足の一本は平気で吹っ飛ぶし、下手すりゃ、目の前で友人が脳髄をぶちまけて死んでいく。そんな凄惨な戦場に子供らはおけんよ」

「確かにそうだな」

「それに、現実を知って、下手に反戦に転じられても、軍部としては困るそうだ。だから、私達だけでここは乗り切れとさ」

「政治の事情に振り回されるのか」

「仕方あるまい。その代わりに好き勝手できるんだ。大暴れするしかないだろ」

「大暴れ、なぁ」

「今回はノリ悪いぞ、お前」

「小学生のはなたれ小僧みたいに、素直に喜べる年でもないからな。昔は将校は楽だと思ったが…」

「これでも、事務を丸投げできてる分、楽なんだぞ。昼夜問わずに出動させられ、艦隊防空から護衛、近接航空支援までやらされるからな。子供らでは精神が持たんよ」

「言えてるな」

ラルはこの時代の高年齢層だが、実は迫水ハルカより年下である。そのため、黒江たちには敬語を使って接している。坂本とは同期にあたるため、仲はいい。ただし、下原を引き抜かれた事をラルは愚痴られており、『宮藤をスカウトする良い口実になっただろ』と応酬しているので、その愚痴を含めての関係である。ラルはカールスラントきっての悪童と言われたので、拘束するためもあり、総監の座につけた思惑が見え隠れするが、ラル本人は意に介さず、ガランド以上の現場主義である。古傷は表向きは直していない事にしているが、実は既に完治している。また、御坂美琴としての自我意識にも覚醒めたため、ラルとしての外見年齢にそぐわないほどに活動的になっている。

「お前、階級が将官になっても出るのか?」

「当たり前だ。前線指揮官は部下に模範を示さんとならんからな。何、いざとなれば、超電磁砲で吹き飛ばすのが私だ」

「お前、昔が嘘のように活動的だなぁ」

「いーだろ。中身が事実上は変わってるんだぞ」

「ゲコ太グッスを買いに行かせるなよな。ハルトマンに脅されるぞ」

「あいつには頭上がらんよ」

グンドュラは覚醒後は職権乱用と言われそうな命令をハルトマンに出し、買いに行かせている。その関係で頭が上がらない。ハルトマンはこれをいいことに、グンドュラにグッスを売りさばくのを小遣い稼ぎにしている。ハルトマンはのび太がストックしている(21世紀では、ゲコ太は環境省ともコラボしており、のび太はそのグッズの事務担当をした時期があるため、グッズを貰える)グッズを渡してるだけであり、買うのは限定品のみにしている。意外にセコイが、いちいち買いに行かせるのを忍びないということで、のび太が手を回しているのだ。

「北は網走、南は那覇まで行かすなよ。ハルトマンの給料も限りがあるんだぞ」

「ちゃんと旅費は払ってるぞ。」

「そういう問題じゃないと思うが…。で、どう思う?プリキュアを」

「女子の一つの理想の具象化だ。女子だって戦いたいというのが、多くの世界の女子の願いの一つだし、古くはセーラー戦士やキューティーハニーが通った道だ。セーラー戦士の作品としての後継者が彼女たちだ。セーラー戦士が先駆者だが、それを更に推し進めたのが、あの子たちだよ。代を経ると傾向が穏やかになってきてるから、戦闘向けの世代は限られるがな」

「確かに。キラキラプリキュアアラモードは戦闘向けではないし、本業がパティシエではな」

「そうだ。なので、戦闘メンバーはこちらで選抜する。基本的に古い代ほど、初代の血統を程よく継いでいるからな」

そもそも、なぎさとほのかに込められた願いは『女の子だって暴れたい!』であった。その正統な継承者といえる者の中でも、現状の最古参がのぞみ/キュアドリームなのだ。プリキュアという存在が生まれた時の原初の願いを受け継ぐ事が『なぎさとほのかがプリキュアとなった事』のメタ的な『存在意義』の真の意味での継承と言えるのなら、のぞみにはその資格があると言える。

「のぞみ君は初代とSplash Starの正統な継承者と言える。プレッシャーだろうが、三代目である以上、一定の責任は背負ってもらう。既に、仮面ライダーV3がしていることだ、あの子にもやってもらう」

ラルは『のぞみには、仮面ライダーV3同様に、自分の後輩をある程度は束ねる責任がある』と明言する。のぞみはリーダーシップを自然と取るが、チームリーダーを明確にする事を現役中は自分の考えもあり、最後まで決めなかった。だが、軍隊にいる以上は何らかの形でのリーダーは指揮系統の明確化のためにも必要である事から、戦闘指揮官(なぎさよりは素養はある)のポジションにはつかせるとする。

「しかし、奴には大局的な観点が欠けているぞ」

「若い頃は大局観と無縁な戦術指揮官だったお前がいうか?シャーリー君にでもそこはやらせればいい。人には得手不得手があるからな。全員が英雄にはなれんが、できることをすればいいさ」

坂本も若き日、戦術指揮官としては優秀だが、大局的な視点から考える事ができないと揶揄されていたため、それを全て備えるレイブンズが万能超人扱いされたのだ。もっとも、坂本も前史の失敗から学び、今回は隊の調和に務めているため、前史よりは人事評価は高めである。ただし、将官の器ではないと自分で認めているので、退役時に名誉的に少将になるので精一杯だと自覚している。ラルに言われ、苦笑いだ。

「言うなよ。私は退役する日に名誉的に少将になるのがせいぜいだろうからな。クロウズと一時は持て囃されたが、黒江達ほどの人外級の力は無いから、すぐに忘れ去られたしな」

「閣下らの後継と宣伝したかったんだろうな。世代的意味で。お前だって、今は前史より強力な力は奮えるだろう?」

「前史よりはマシだが、魔力量は多くないからな、私は。だから、引退に真実味を帯びせられているんだが。八咫烏に普通の烏の最強がどれ程のものだといえるんだ?後継者とか本人が元気すぎて精々が妹分で終わるさ」

「閣下らのように、魔力量はそこそこでも、それ以外の力を身につけて、伝説にまでのし上がった例もあるからな。お前は引退する事が禊なのか?」

「ああ。前史で罪を犯した以上、何らかの形で贖罪をせねばならない。私は後方で働き、政治的に改革するさ。飛ぶことができなくなる基本世界と違って、魔力は残しているからな。こちらは日本の圧力で五輪の開催を強行されるし、万国博覧会もやるそうだ。戦争してる時にそんな暇があるか?」

「戦争準備の時間稼ぎと思え。全てを戦争に費やしてもボロクソに負けた記憶が日本にはまだ色濃い。高官が言えば、その場で軍籍抹消にされるぞ。タブーだからな、文化イベントに軍部が物言うの」

「国民は納得するのか?」

「21世紀の選手団も相当に送り込まれるというが、プロ化してるからな、委員会も悩んでる。国威発揚を大義名分に、史実の件で軍部は首根っこ掴まれているから、閣下達が掛け持ちで出ることは決定事項だ。そういうイベントは日本に丸投げしてもいいさ」

扶桑の全てが日本の思惑通りになったわけではなく、連合国の指摘を受け、防衛功労章の授与を功績のある扶桑軍人へもする事になったり、金鵄勲章と従軍記章の廃止は見送られた。これは扶桑が他国軍人へも金鵄勲章を授与していた事、ミーナの起こした騒動で従軍記章の必要性が再認識されたからだ。古参は扶桑海従軍記章で(略して、扶桑海章)その軍歴に箔がつけられる事になり、当時の中堅の抜けた穴を埋めるべく、定年まで勤務することになった。当時は風雲急を告げる国際情勢であった事、旧日本軍/元・自衛隊義勇兵が戦線の実働部隊の主力を占める状況にいい加減に歯止めをかけたい思惑が働いていた。太平洋戦争が現実味を帯びてきていた事もあり、生え抜きの将兵を繋ぎ止めておきたい意向であったが、日本の市民団体の妨害工作もあって上手くいかず、実働部隊の多くが義勇兵である状況が継続する。軍隊のエリートを『頭でっかちのウスラバカ』と侮蔑する意識が21世紀の日本の高齢者の多くにあり、扶桑生え抜きの将兵の前線行きをあの手この手で妨害したため、Gウィッチが戦線の屋台骨である状況が固定化してしまった。中堅ウィッチの暴発はこの状況への反発も含んでいたが、当然ながら、その真意が理解されるはずはなかった。

「やれやれ。向こうの自己満足じゃないのか?」

「こっちも史実のことで首根っこ掴まれているんだ、お互い様さ。これ以上は引き延ばせんよ。怪異はスーパーロボットに抑えてもらった上で開くそうだ。戦争より文化イベントが優先されるのは、この時代の人間には理解されんだろうがな」

ラルの言う通り、五輪と万国博覧会は扶桑は1948年に延期されていた大会の権利を戦争を理由に放棄する方向だったが、日本の強烈な圧力で強行される事になった。各国も同位国の圧力で参加せざるを得なくなったことから、扶桑国民の世論は歓迎よりも『不謹慎だ』とする声が大きかった。だが、戦争一色に染まっていた世相を明るくしてくれるとする声が次第に逆転し、軍部も運動神経抜群の軍人やウィッチを供出する事を史実の禊とした。(何人かの高官は犠牲になり、クーデター派も反対派だったのが運の尽きの理由の一つだ)日本連邦としての初の五輪が1948年の東京というのは歴史の大いなる皮肉であり、文民が軍部を抑え込んだ点でも画期的とされた。ちなみに、渋る軍部への止めは、扶桑政治界で『翁』とされ、事実上の元老扱いの吉田茂の孫にあたる麻生タローの『やれるならやった方がいい、戦争相手も話が出来る機会と捉えて選手団と一緒に特使くらい送って来るかもしれん』であったという。

「戦争準備の時間稼ぎ、か」

「世相に明るいニュースを提供してやると思え。日本は戦争は片手間にやることと思ってるから、お前はいい気持ちはせんだろうが…」

「私もそれは理解してるよ。だが、複雑なんだよ、そのあたりは」

「表に出すな。政治屋に睨まれるぞ」

「なんでもかんでも、政治屋か」

坂本は事変当時の経験から、政治家を『水商売同然』とする認識があった。それは当時に黒江に殴られるほどに強く戒められているのだが、根本的に政治家を嫌う傾向は変わりがない。坂本は家が武士の家系であったのだが、けして裕福でなかった事もあり、政治に無知なところが多く、黒江によく怒られた理由の一つだ。

「子供の頃、黒江に殴られたよ。確かに史実の軍部は御心を無視して戦争に突き進んだが…世相がそうさせたとも言えるだろう?」

「史実で日本が敗者である以上、敗者の詭弁か、言い訳にしか聞こえんよ。奴らを刺激することは避けろと言われただろう、アホ」

グンドュラに咎められる坂本。さらにこうも言われる。

「軍人は現役中に政治に関わらないのは当然だが政治を理解せずに戦うのは政治が間違ってて作戦の根本が間違った作戦に駆り出されたりしかねない。だから、軍人は政治に無知なのは義務を果たしてない事になるんだ。史実の日本陸軍や海軍が悪しように言われるのは、政軍関係に無知、あるいは無関心だった上、正面決戦しか能がなかったからさ」

「……これからはそれが私の敵か?」

「お互い、裏方の地位に回れば、無知な政治家に監督される身だ。閣下らのような存在は例外だよ。好きにできるんだから。政治的にも、戦闘面でも」

黒江たちは政治力の高さで、戦闘では好き勝手に暴れられる権利を持ち、政治的にも昭和天皇の寵愛を受けている。坂本は好きに暴れられる黒江の奔放さに憧れているようだった。


「坂本、お前。まさか…」

「前史ではあいつの奔放さに眉を顰めた事も多かったが、今となっては憧れるよ。好きな事を勤務中にしてていいんだし」

黒江は現在、事務作業を数人の部下に丸投げしており、オフィスでプラモ作りやTVゲームに勤しんでいる。戦場で無敵の黒江も、地上では単に趣味人だ。元々、釣り人だったが、同位体の最期を鑑みて控えるようになった。代わりにツーリングやプラモ作りなどに傾倒している。

「黒江の給料は殆どが趣味に消えるからな。昔は何に使うのかと思ったものだが、謎が解けた。ゲーム、映像ソフト、コミック、ホビーだ。よくあそこまでつぎ込めるものだよ」

「先輩は儲けてるんだよ、副業で」

「黒田か。脅かすな」

「ごめんごめん。家のことで処理が大変でね」

「お前にタメ口を聞かれると、新鮮だよ」

「いいじゃん、今はこっちが先輩だし」

「再来年あたり、私の同位体に腰抜かされるぞ」

「そのときゃ、大いにからかうさ」

「ミーナにジェラシーされるぞ?」

「あの子はむしろ、自分の変わりように腰抜かすと思うよ」

「うーん。そうか?で、黒江が副業?」

「小遣い稼ぎのバイトだよ。先輩、最近は素の姿をあまり取らないだろ?それを使って、ブロマイドを売りさばいてるんだよ」

「見せてみろ」

「ほい」

「……うーん。黒江の奴、遊んでるな」

「だろ?綾波レイとかの姿を取ってブロマイド撮ってるんだよ。撮影はエーリカで」

「あいつ、色々噛んでるな…」

「これはサンプルだけど、最近はプリキュア連中にもさせてるそうな」

「ん?なんだ、もう片方の手のDVDは」

「今日は金曜だろ?慰問の映画会に使うソフトさ。番町皿屋敷にしたかったんだけど、ケイ先輩にどやされて、名探偵ポアロに」

「アガサ・クリスティか。なんでそうなった?」

「雨月物語と番町皿屋敷を持っていったら、慰問になんねーだろって怒られてね。直枝が持ってきた」

「あいつはガリア文学に傾倒していると聞いたが?」

「ガリア文学は三銃士とかしか有名じゃないし、それで芳佳のコレクションから拝借」

「オリエント急行殺人事件か。70年代の旧版じゃないか?」

「ケイ先輩曰く、2010年代のリメイクはダメだそうだから」

「あー、あ…」

「ドラマ版は慰問にならないくらい暗いから、オールスターキャストの70年代版になったんだ。芳佳曰く、話の種にするからだってさ」

「なるほど。来週は?」

「黒江先輩が太平洋の翼をチョイスしてる。親父さんのご機嫌取りも兼ねてるそうな」

「ああ、343空の映画か」

慰問映画会は時たま、高官の接待に用いられるため、責任者の源田実のご機嫌取りにも使われている。源田は基本的に部下に鷹揚なのだが、自分が映画でどう扱われているのかを気になっていると言い、映画を見たがっていた。意外と茶目っ気も大いらしい。

「ま、マタンゴをその次にねじ込んだぞ」

「バカ、お前、きのこが食えなくなる怪作をねじ込むやつがあるか!」

「なにか、HOUSEでいいのか?」

「お前という奴は……」

黒田は基本的にホラー映画ばかり選ぶため、周りがストッパーである。本人曰く、怖いもの見たさとのことで、同室のアルトリア曰く、ホラー映画はダメとのことで、黒田がホラー映画を持ってくると、柄にもなく怯えるという。

「アルトリアから苦情が出てるんだが…」

「円卓の騎士なのに、おばけがダメなんて〜」

「やたらめったら、聖剣振り回されても困るんだが…」

アルトリアはハインリーケと一体化した影響でおばけを怖がる特徴が生じ、そこで萌えポイントを作っていた。従って、ホラー映画はダメであり、生前にはない人間臭さを見せるため、モードレッドなどには大好評だ。とは言うもの、当人もまさか、おばけがダメになるとは思ってなかったのか、大いに愚痴っている。(生前はおばけという概念を知らなかったが…)これは生前とあまり嗜好が変わらず、むしろ、学がついて良かったとするジャンヌと対照的であった。

「まぁ、振り回されても、あたしなら止められるし」

「スカーレットニードルは止めとけ」

呆れ気味の坂本。聖闘士が副業である者ならばの発言だが、円卓の騎士を軽く止められるあたりは猛者の証と言える。黄金聖闘士の強さは円卓の騎士以上である事が明言された。そして。

「子供たちは先輩とあたしが鍛えてるけど、上々だよ」

「お前も、まだ15だろ」

「事変参戦組だからね、あたし」

黒田は古株として振る舞っているが、実は45年時点で、まだ15歳とずば抜けて若い。事変の時は7歳前後の子供で、当時の最年少記録保持者である。黒江で16歳、智子で13歳前後であった事を考えても、当時の最年少である。それでいて、七勇士に名を連ねる猛者である事、入隊年度が速いため、坂本や竹井より立場は上である。基本世界では坂本の後輩であるため、立場は入れ替わっており、坂本の年下の先輩という特殊な地位を確立している。もっとも正式入隊は9歳以後だが、幼年学校から引っ張り出されたため、軍属扱いで処理されていたが、黒田家の人間なので、スコアは正式なものと扱われている。(それが本家息女の風子が適齢期になった時に過度な期待がかけられ、彼女が当主の座を放棄する理由に繋がるのだが)それが『お家騒動』に繋がったのは皮肉な運命だ。華族の身分廃止に繋げられる事を恐れた昭和天皇の介入で、黒田は爵位と当主の座を受け継ぐ事となり、新華族になったレイブンズの華族社会での後ろ盾になっている。当時は爵位は半ば名誉的なものと成り果てていたが、かつての勲功名家の血族たる証としては機能していた。成り上がり者を嫌う傾向はあったが、戦役の度に名ウィッチを輩出した家系が子爵、男爵の地位を得る事も当たり前だったため、史実ほどは『西洋の真似事』ではない。それが日本の廃止論者の誤算であり、ノブリス・オブリージュが実践されていた事もあり、廃止論は立ち消えになっている。扶桑の爵位はちょっとしたきっかけで失いやすく、伊達家もこの時期、ウィッチが家におらず、また、史実の過去の行為を咎められ(キリスト教信者の事)、日本から伯爵位に降格させるべきとするハチャメチャな論理が振りかざされ、伊達家の必死の弁明も虚しく、伊達騒動になってしまう。一連の騒動は扶桑爵位の維持に血の献身を含めた功績を必要とするため、ウィッチ出身者が爵位を継ぐ事も珍しくない事が日本に認識され、ノブリス・オブリージュの意義が見直される理由になった。ウィッチは身分を問わず、出現確率が低めであるのが認識されたのも作戦中では、手遅れであった。旧日本軍が本土決戦に備え、各地からかき集めても、数百名が限界であったように、ウィッチはリソースが国土や人口比に比例しない。そこも日本連邦がウィッチを募集するのに年齢を問わなくなる理由であった。

「それと、専門家から、この時代の枢軸国の航空エンジンはレーサーのと変わらないから、ジェットに切り替えろって声が出てるよ」

「はぁ?この時代の航空エンジンは似たような傾向だろうが」

カールスラント、扶桑、ロマーニャの航空エンジンはこの時期、エアレーサーに似た傾向の設計でスペック値を確保する手法が流行っていたが、『出力重量比が良くなった米軍のエンジンに太刀打ちできないじゃないか』と」いうクレームがついている。しかし、当時はジェットエンジンの大量生産をする空気でもなく、陣風が量産されたという経緯がある。日本や独軍が米軍に劣っている事を誇張する逆プロパガンタが蔓延った事も戦線の士気が壊滅的な理由である。日本側からは『マスドライバーで、見せしめに都市の3個は消し飛ばせ』、『ワシントンをマクロスキャノンで蒸発させて恐怖を煽れ』という荒唐無稽な要求すら出る始末だ。アメリカ系国家と全面戦争して勝てるはずがないとする先入観がそうさせるのだろうが、如何に先進装備も、扱える人間やリソースがなければ、猫に小判も同然である。ティターンズがF-84後期型でF-86の代替をする方向になったのも、開発データが持ち去られた上、ティターンズのアーカイブは不完全であったからだ。

「日本は先入観があるんだよ。アメリカは既に何々を作ってるに違いないって。複葉機が去年まで現役張ってたような国がいきなりジェットに切り替えられるか?パイロット育成の観点からして、短期間に大人数は無理だよ」

「それに技術基盤がない。先進技術はメーカーがこっちに持ち去ったし、F-84の後期型を生産して、投入するにしても、飛行隊単位は年を跨ぐだろうし、それまでに、こっちはもっと高性能の第二世代機を整えてるよ」

「こっちはどうやって揃えてるんだ?」

「南洋や本土の地下に自動工場をこさえて、そこで先進装備は作ってる。従来装備のラインを閉じずにやるには、オーバーテクノロジーを使うしかない。チートだがな」

扶桑は日本側に明かしていないが、自動工場が地下に作られており、先進装備の多くはそこで生産されており、艦艇クラスでも、日数は空母は数ヶ月で、戦艦で一年で4隻は製造できる。この自動工場こそ、ゼントラーディやガトランティスが残した最高の遺産である。それを地球系兵器用に調整し、更に秘密道具で効率化したものがドラえもんズが完成させた自動工場である。工程を5分の1に短縮できるため、ウラガ級空母のコピーも数ヶ月で可能、ラ號のコピーでも5ヶ月から7ヶ月程度である。機動兵器は数時間で四桁は製造できるが、種類が多すぎて利点が薄れている。その点でも、64は自分で機動兵器などの予備パーツを用意せねばならぬところは変わらないので、工学知識のある黒江が能力で部品を製造する事も多い。建前は航空部隊であるため、陸戦機材は回されない事も当たり前であるため、あちらこちらからの供与で賄っている。のび太の私物の持ち込みすら黙認されている。扶桑制式の九九式小銃なども武器庫にあるが、埃をかぶっており、一番使われている小銃はM4カービンなどである。また、拳銃は個々の好みで決まっているため、統一感がないが、幹部はベレッタを使用している。圭子のおかげで一時、ベレッタの購入が流行ったためあり、45年現在でも、扶桑将校の何割かはベレッタの愛用者である。ちなみに、圭子は愛銃の制作をデイブ・マッカートニーに依頼したのだが、彼は『お嬢ちゃん、こいつはベレッタの米軍仕様の初期型じゃないだろうな?』と聞いており、ベレッタM92のロットを聞いている。圭子の愛銃は正確に言えば、トーラス社のクローン銃がベースであり、デイブ・マッカートニーが制作し、弾丸は敷島博士製造のスペシャル仕様だ。圭子は当初はロールプレイの小道具扱いで作ってもらったが、それが素になったので、実用に使いだし、今では扶桑でのカスタムガンの先駆者とされていた。デイブ・マッカートニー曰く、『製造に気を使った』そうである。デイブ・マッカートニーはデューク東郷よりは無茶を言わないのび太達を上客と認識しており、東郷との腐れ縁を話の種にしている。呼び方は黒江たちの事は『お嬢ちゃん』、のび太は『若いの』と呼んでおり、彼なりに呼び方を工夫している。なお、のび太が30代になってからは『N』と呼んでおり、一年後にプリキュアオールスターズに乱入したあしゅら男爵がMr.Nと呼ぶのは、デイブ・マッカートニーが由来なのだ。

「一年後の事だけど、黒江先輩たち、プリキュアオールスターズに乱入するよ」

「本当か?あいつら、またクレームきそうな事を…」

頭を抱える坂本。

「それで、黒江先輩はのぞみの姿で好きに暴れるそうだよ。ドラえもんズから写真が送られてきた」

「どれどれ……。うーん。ドリームの姿でエンペラーソードだと?やりすぎだぞ…」

坂本はそれ以上言えなくなる。のぞみは実は現役中は雷がダメだったはずなので、雷をバックに、地面に突き刺さったエンペラーソードを引き抜いて構えるのはやりすぎである。

「おお、見ろ、黒田。サンライズパースしてるぞ、閣下」

「あれ、先輩の得意技なんですよ、グンドュラさん」

何枚かの写真でわかる事は、一年後に起こる騒動で、黒江は『姿を借りているのに、好き勝手暴れること』、お得意のサンライズパースを決めてしまい、キュアブラックやキュアアクアの顎を外れさせた事が分かる。

「あれ、そっちは?」

「智子先輩だよ。ピーチの姿なのに、リボルクラッシュの決めポーズ決めてるとこ」

「あの二方は奔放だな」

「関心しとる場合か!」

全ての詳細は調査中だが、ディケイドが現れた後に始めたらしく、ディケイドと肩を並べて大暴れしている様子も写っていた。のび太が表立っては関係しない戦なので、クレームが入りそうだが、オールスターズの基本世界とは関係ない世界が破壊されただけである。

『関わっちまったからには全力で、がポリシーだからな。しかも、自分らの敵がやらかしてるからカタ付けねーとまずいだろうが』

これは流石にキュアブラックも正体に気づき、黒江に一言聞いた際の返しである。黒江なりにポリシーを持って戦いに臨んだ事がわかる。この際に、『時間軸的に生まれていないはずのプリキュア』も参戦しており、フェリーチェに至ってはストナーサンシャインを放っているし、キュアハートがゴッドフィンガーの放射タイプを放っている写真もあった。フェリーチェは魔法つかいといいつつも、攻撃魔法は覚えていないので、攻撃は必然的に後天的に身に着けたものになる。ミッドチルダ式、ベルカ式の双方なので、破壊力がミラクルやマジカルと桁が違ってくる。最後の一枚は。

「……スターライトブレーカーだよな、これ…」

「うん。智子先輩、ロッドを転用して撃ったのか…。ああ、ラブが見たら、泡吹くなぁ」

智子はなのはから覚えたのか、なのはの十八番である『スターライトブレーカー』をエンジェルピーチの姿で放っていた。しかもピーチロットを転用して。その凄まじさに、キュアベリーは失神し、キュアパッションも目が点になっている様子が僅かに確認できた。

「すみませーん。報告書を届けに…あれ?皆さん。何してるんですか」

「ピーチか…。ドラえもんズが送ってきた写真だが、見てみろ」

「写真ですか?……え」

一瞬の沈黙の後、キュアピーチは素っ頓狂な声をあげながら、盛大にコケる。ギャグ顔で。

「な、なんですか!?これーーっ!?」

「一年後、閣下らがお前とドリームの姿を借りて暴れてる様子だ」

「うっそぉ!?」

「大きな声出すな」

「だ、だって!ロッドからものすごいビーム撃ってるんですよ、アタシ!!?」

「一応は魔法だ。なのは達が撃っている類のだが。慌てなくても、やり方は教えるし、習える。お前も素養はついたから、できるぞ?」

「そ、そんな事言われても…」

ギャグ顔でタジタジのピーチだが、ドリームがドヤ顔で超電子稲妻キックを放ったり、斬艦刀を奮う写真もあるので、事のあらましを悟ったようだ。

「あの人達、今度はアタシ達の姿を!?困りますよぉ〜!」

「かと言って、自衛が入ってるし、キュアブロッサムとキュアマリンを守ってるのも事実だしなぁ」

百鬼帝国兵を相手に斬艦刀を振るい、敵をなぎ倒す黒江。キュアドリームの姿ながら、その荒々しい戦闘は微塵も手加減なしである。ドラえもんズが作った写真なので、音声入りである。

「関わりを持っちまった以上は全力でやるだけだ!アイツが関わってないで、ディケイドがいる戦場だから、ディケイドを免罪符にしてるって言われようが、仲間のダチがやられそうなのを黙ってろって?無理な相談だぜ!」

のぞみの声は戦闘時はイケボに分類されるので、黒江がポリシーを言う時も決まっている。その世界のブロッサムたちに誤解されそうなほどのかっこよさである。見かけがドリームになっていても、中身は黒江であるため、この後、普通に一刀両断するのは目に見えている。ピーチはこの時、写真を通してだが、黒江の高度な戦闘技能に舌を巻いた。斬艦刀という大仰な得物をブンブン振り回す腕力、荒々しいほどの剛剣。自分の姿を借りている智子が柔よく剛を制すを表す流れるような柔剣であるのに対し、黒江は荒々しい剛剣。ドリームの姿でありながら、瞳孔を大きく目開き、示現流独特の奇声からの一撃を決めるまでのワンショット、甲冑組打で相手をねじ伏せ、狂奔を見せる姿は黒江そのものだ。

「なんですか……この薩人マッスィーン」

「あいつは妖怪首おいてけになるんだよ。スイッチ入ると」

スイッチが入ると、黒江は日本一の戦闘向きの気質を持つ薩摩人の血が目覚める。歴戦の勇士たるキュアピーチが戦慄するほどの恐ろしさを、写真でさえ垣間見せる黒江。写真の隅っこには、あまりの狂奔ぶりに、味方が怯えている様子が写っていた。

「ああ、ブラックが顔面蒼白だし、アクアは顎が外れてる…」

「ま、仕方ないよ。先輩は狂奔になると、理性が薄れるタイプなんだ」

「かれんさんも可哀相に。つか、せつなになんてもの見せてるんですか、智子さぁ〜ん…」

しょげるピーチだが、衝撃度はかなりのものであった。スペック値が現役中と同じ程度の頃のオールスターズでは、百鬼帝国にねじ伏せられるのも事実だが、キュアパッションの事を気にするあたり、関係の深さを窺える。

「ふむ。東せつなのことが気になるか?」

「ち、違いますよ、グンドュラさん!せ、せつなはアタシの、アタシの、アタシの…家族なんですったら!!」

ラブはせつなを改心させ、キュアパッションに導いた経緯と、現役中は共に暮らしたため、せつなを家族と見ているようだ。ラルのからかいに赤面して否定するが、パニクっているので、どうにもしまらない。

「家族が気になるのは当然だし、気になってるのは事実だろう?」

ニヤニヤしてからかうラル。ピーチは図星なので、柄にもなくモジモジする。

「モジモジって、お前の柄か?」

「ひどいですー!」

黒田にも言われる始末だが、ピーチは基本的に戦闘中は勇ましさで鳴らしていたからか、女子らしい仕草はそう言われてしまう。先代のドリームがキスまでこぎつけたのとは対照的だが、ピーチは基本、切り込み隊長と見られているのがわかる。

「切り込み隊長だろ、お前」

「そりゃそーですけど〜!!」

「待て、黒田。ギャップ萌えで写真できるぞ」

「がってん!ケイ先輩直伝、居合撮り!」

圭子直伝の居合撮り。目にも留まらぬ疾さで写真を取る黒田。ピーチはシャッター音で事を悟り、ますます慌てる。

「今の撮ったんですか!?返してください〜!」

「やーなこった〜☆」

ピーチは大慌てで黒田のカメラを取ろうとするが、黒田の動きについていけない。それでますます慌てたピーチはパンチを乱打するが、黒田はその場から動かずに指一本で止めていく。

「嘘、変身した状態のパンチを…指一本で…」

「そんなへなちょこじゃ、このスコーピオンのクニカの薄皮一つ傷つけられん、ってね」

黒田は黄金聖闘士としての実力を垣間見せる。ピーチは仮にも慌てていたのに、歴代でも指折りの巧者と自負する自分の拳を事も無げに受け止められたのが信じられず、目が点になっている。

「黄金聖闘士だからね、あたし。お前のパンチは止まって見えるよ」

黒田は涼しい顔で言う。子供の頃の時点で、若本と坂本の喧嘩に割って入り、覚醒魔法を使った若本の拳を受け止めたこともある。そのため、ピーチの拳はスローモーション以下であると明言する。

「せめて、近代ベルカ式か、ドリームみたいに草薙流覚えな。そうでないと触れられないよ」

「反則ですよぉ!」

ドリームが必死に覚えた草薙流古武術を使うことでようやく触れられるレベルであるが、黒江と黒田ほどの黄金聖闘士は手刀で炎をかき消せるレベルである。実力差がありすぎる事を悟ったか、ズルいとも愚痴る。

「ズルいですよぉ!チートだよぉー!」

「なんなら、ドラえもんが用意したトレーニングルームでドリームと同じようにしごいてやるよ?」

「まずは私の超電磁砲を躱せる……」

「マッハ5じゃないですかー!うわぁーん!」

ニヤつくラルと黒田。それにため息の坂本。かつてのミーナの気持ちを理解できたような気分になったという。


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