外伝その397『図上演習と戦闘9』


――結局、21世紀の人間の身勝手に翻弄されたウィッチ兵科は方向性としては『発展的解消』、戦功昇進は尉官までで、佐官以降は幕僚課程の受講の上での年功序列的なものに決まる事になった。その代替的に『勤務権の拡大』が褒美という形で決まり、戦線では、佐官への昇進が確実視されていたが、軍規の改定で昇進が流れた大尉を宥める目的で優先的に与えられた。64Fは大尉の人口比が高いことでも知られ、バランス取りのために昇進させる事が特別に許された。戦時昇進を人事院が嫌ったため、いっそのこそ、正式に昇進させようという魂胆であった。シャーリーはその都合で少佐になった。(自由リベリオン軍の人事権は日本連邦にある)そのため、功ある大尉が軍規の改定で規制がかかる前に少佐になるケースが日本連邦で多く見られた。日本連邦では『指揮官先頭』の伝統から、士官であろうと最前線にいる事が尊ばれるため、将官になった黒江達が前線指揮を行うことは『好ましい事』と扱われた。士官の戦死率と後送率も高かったため、特務士官/准尉が大量発生したのもダイ・アナザー・デイの特徴だった――





――歴代プリキュアのリーダー戦士達はのぞみが錦を素体にして転生した事を基準に、一律で大尉に任ぜられた。特別待遇と揶揄する声もあったが、ドリームとメロディの素体となった人物の都合で、便宜的にそう扱われただけである。士官学校も出ており、既に大尉に任ぜられていた者の軍籍をそのまま充てがっただけだ。軍内で戦術指揮レベルの権限を持ち、下級将校の最上位に位置するため、軍隊では、そこそこの地位である。その事から、歴代プリキュアの中心戦士たちは初期階級が大尉なのである。背景として、ウィッチは本来、現役中に少佐以降に任ぜられる事は珍しい部類であり、大抵の場合は大尉で軍歴を終えていった。その事もあり、功ある佐官の『降格』は極めて重大な事と受け取られ、パニックを誘発した。また、『世界遺産』をないがしろにしていると判断され、あわや銃殺刑まで追い込まれたエディタ・ノイマンが鬱病に罹患し、今までのような職務をできなくなった事もパニックを大事にした理由であるし、フランコ政権がアルハンブラ宮殿を解体し、近代要塞に建て替える事を公表した途端に21世紀の米軍によって失脚させられ、政権そのものも見事に解体されてしまい、現地が無政府化し、ヒスパニア軍が有名無実化した事もパニックを連合軍全体の問題にまで大きくしてしまった。それを補うため、史実の通りにブルボン王朝を復古させるのは既定路線だったが、それまでの繋ぎとして、ヒスパニアを連合軍が暫定統治せねばならず、バスク地方問題が燃え上がる事も懸念された。連合軍はそのようなわけで兵力不足が顕著に表れ、イベリア半島という狭い範囲でさえ、陸戦の主導権が取れないという醜態を晒している。いくら兵器の質を上げようと、近代戦は数の論理が効く。米軍の二次大戦での勝利もそれが一因である。新兵器を行き渡らすまでに戦線が崩壊すれば、全ては無意味に終わる。連合軍は戦線を歴代ヒーロー、歴代ヒロイン、スーパーロボットに支えてもらっている内に、新兵器を行き渡らす選択を取った。幸い、制空権と制海権を取れたため、新兵器の配備の妨害要素は通り魔的に現れる怪異と、日本連邦の役人のみだ。また、加速度的に高度化する新兵器は従来式教育しか受けていない兵士にはとても扱いかねるものであるため、その育成に時間が割かれた。連合軍の攻勢計画に支障を来す要因の一つは間違いなしにそれだ。兵力不足を補うため、歴代プリキュアが軍内に現れたのもいいことに、中心戦士たちを大尉へ任じたのだ。




――引き続いて――


「うーん。また何か言われそうな」

「あいつらの癖と思え。だが、あいつらが介入しなければ、その世界は為す術もなく滅びている。ディケイドも言っているように、一つの平行世界の歴史を変えたところで、新しい世界線が生まれるだけだし、基本世界と呼ばれる世界には、何ら影響はない。次元世界というのは複雑なルールのもとに成り立っているわけだ」

オールスターズの世界への介入を非難される事を懸念するピーチだが、次元世界のルールがある事、世界線の分岐が起きるのみであるため、ディケイドが世界を破壊しようと、基本世界には影響が起きない事を坂本が教える。

「何にしろ、プリキュアが敗北した世界線を作るわけにはいかんよ。ZEROに完全に因果を捉えられるやもしれんからな。批判は承知の上だ。お前だって、友達が無残に殺される光景が現実になるのは嫌だろう?」

「それはそうですけど、2010年代には出てきてますからね、平行世界を取り上げたSFとか特撮」

「ディケイドやジオウが生まれて、その更に10年後に同じ傾向の仮面ライダーが生まれるだろう。平行世界と時間移動が主題の作品は古くはタイムトンネル、ミステリーゾーンなんてものが知られている。今どきの子供にはわからないだろうがな」

坂本は解説する。平行世界や時間を移動する話は1950年代以前から存在するベタな素材であり、タイムトンネルやミステリーゾーンなどの名作がある。2010年代には『古典』になっているので、逆に知られていないだろうと言う。

「1950年代には平行世界という概念は知られている。日本で取り上げられたのは割に新しい年代だが、ポピュラーな素材だよ、欧米じゃ」

「意外に古いんですね、その手のアイデア」

「世にも奇妙な物語の元ネタがミステリーゾーンだ。このように、平行世界に介入することは罪じゃないさ。ディケイドやジオウがやっている事だし、百鬼帝国やミケーネ帝国、マジンガーZEROもやっている。プリキュアを滅ぼすのが奴らの目標であるなら、それを阻止するのは自然な流れだろう?暴走だの、イキってるって批判は、物事の上っ面しか見てない証拠さ」

坂本は黒江達は基本的に真面目である故に、百鬼帝国やミケーネ帝国の行いを見過ごさないと明言する。それはいいのだが…。

「それはいい。今の問題はこの時代の倫理観を後世の倫理観に照らし合わせて、野蛮とかエタヒニン扱いすることだ。まずは同性愛だ。この世界は同性愛者に寛容だ。かつてのミーナもその傾向があったがな」

「知っていたのか?」

「ミーナが前史で死んだ後、遺族の厚意で遺品を受けとった時に気づいた。その頃はうちの娘が暴走する前だったしな。それをどうこう言うつもりはないよ。次は世界遺産だ。怪異との戦争では、そういったものは顧みられることは少なかったからな。だが、今ではそう言った事を言えば、良くて左遷と閑職、悪ければ重罪人扱いで銃殺刑だ。若い連中が怯えるのも無理はないよ。ノイマン大佐ほどの人が罷免されて、降格の末に左遷されて閑職じゃな」

ノイマンの最終的な処遇は『降格、半年の飛行禁止、編隊長資格停止』というものであった。マルセイユの必死の弁護で銃殺刑を免れたが、一時は重罪人扱いで収監された。そのショックで鬱病に罹患し、今では無気力状態だという。その衝撃が広がった事もサボタージュの大規模化に繋がった。世界遺産についても、壊すような事を言えば、たとえ、一国の権力者だろうが、テロリスト同然の扱いに落とされ、収監もあり得る。フランコ将軍の哀れな末路は、一様に各国のある一定の地位の者を怯えさせ、先祖伝来のモノを商売にできなくされるのを恐れ、さっさと売り払った下級華族も出た程である。

「下級華族、とりわけ公家系からは生活費の支給が嘆願されているからな。パニックは思わぬところにまで波及している」

「昔の公家ってビンボーなんですか?」

「天皇に支えているって名分で身分は高いが、財政的には困窮している者が大多数だ。だから、爵位を返上する家も大い。君のイメージ通りに裕福なのは、昔の大名だった武家の家系になる。武士でも中級以下は明治以降に困窮した事も多いしな」

華族は基本的に直近の旧・支配階級と言える武家は裕福、公家は一部を除いて財政的に困窮という構図が明治期からある。扶桑においては、織田家が公家に寛容であったため、史実ほど公家は困窮しなかったが、それでも華族の体面を保つための出費に耐えられず、複数が早い段階で返上した。そのため、功あるウィッチを輩出した家柄に爵位を与えることは明治の早い段階で決められたという。昭和期には子爵以下の多くはその家柄が占める。ただし、当主の軍歴の有無が爵位の維持に関わるため、黒田家のお家騒動が起こってしまった感がある。赤十字への奉仕が軍歴につけない場合の代替役と本格的に位置づけられたのは、この時代になる。華族軍人が『扱いにくい』と防衛省に嫌われたのもあるが、数百年に一回起こる、ウィッチ発現率が下がる『休眠期』に入りつつあったため、代替役の制度整備が脚光を浴びたのである。ただし、MATは自衛隊の外局ながら、軍部に被害意識があり、関係は険悪に近い。大戦世代が引退するまでそれは続く。MAT側も強気に接するという傲慢があり、双方の行き違いや誤解もあっての関係であった。ただし、90年代にMATが衰退期に入ると、関係がそれまでと一変するので、同組織がこの世の春を謳歌するのは、45年から89年までの44年間であったと言える。


「問題はここから44年ほどの月日だ。今から44年後は1989年。冷戦が終わった時にあたる。史実だとな。我々は今や、肉体的には老いないから、どうということはないが、それまでの間は軍を支えなくてはならん」

「44年かぁ……長いですね」

「何、君たちがスター☆トゥインクルプリキュアまで代替わりするまでに16年かかった事を考えれば、長くはないさ。ベトナム戦争が間に入るから、大戦級の戦はこれから二度は起きるな」

「なんか、学校で習ったのと同じみたいな流れですね」

「未来世界、その内の21世紀の連中が無自覚に自分らと同じ流れにしてるのさ。欧州列強の衰退は日米の台頭を意味するからな。中国の動きには注意だ。ロシアが衰退した今となっては、元東側諸国の盟主を気取っているからな」

「中国はロシアの失敗を学び、狡猾に振る舞ってるからな。この世界には局外者的なスタンスを装ってるが、日本系国家の覇権は気に入らんはずだ。裏で敵に援助しているだろう」

「なんですか、それ」

「それが国家というものさ」

ティターンズにロシアや中国、日本の左翼勢力の肩入れが存在することは暗黙の了解的に知られており、20世紀後半の『東西冷戦』体制がウィッチ世界でも生まれていくのは当然であった。違うのは、リベリオンが分断国家化した事により、民主主義諸国(立憲君主制国家含め)の盟主が日本連邦になった事だろう。ブリタニア連邦は1945年時には財政的に瀕死になりつつあり、キングス・ユニオン化というカンフル剤が打たれたものの、以前ほどの影響力は失われた。日本連邦はキングス・ユニオン以上に軍事的一体化が進み、往来も盛んであるため、日本は1992年以来の好景気の再来を謳歌する事になり、扶桑の豊富な資源と若い労働力を得られることで奇跡的に経済が息を吹き返す。また、日本が旧・極東ロシアの統治を引き継ぐ都合上、扶桑の兵力を用いなくては、治安維持にも間に合わないため、過剰な軍縮の論調は衰えていく。また、扶桑への禊が問題となっている事もあり、軍事的には自衛隊の戦力を一部でも供出し、扶桑を精神的に満足させる事が正式に日本国内で暗黙の了解となっていく。その象徴がGフォースである。軍事的には少数編成に入るが、メカゴジラ(機龍シリーズ含め)を有し、メーサー兵器を多数擁する点で、当時の他国軍の追随を許さなかった。また、体の良い不用品処分としていたら、飛行不能と判定されたF-4EJ改に代わり、F-35Aが配備される見通しとなった。現地調達が既に行われていたが、防衛装備庁が体面を気にしたため、当時の最新鋭機の配備を決めたが、現地調達機はそれよりも遥かに高性能機だったので、F-35Aは厄介がられた。怪異との誤認による同士討ちが連合軍のウィッチと米軍機の間で起こっていたからだ。皮肉な事に、低視認性が仇になっての同士討ちだった。思わぬ事態に米軍はステルス性の低下を承知で識別塗装を施す事を決定し、第四世代機を含めて、特例措置でウィッチ向けの白系の割合が増えた塗装が行われる事になった。本来、ステルス機が飛んでいるはずのない時代なので、仕方がない誤認だったので、ウィッチへの座学が重視されるきっかけにもなった。

「君の報告書だが、米軍機と怪異を間違った部隊がいたそうだが」

「はい。たぶん、ヨーロッパ系の部隊だと思います。あたしが説明して帰させましたけど、F-35に弾痕がありまして」

「ま、12.7ミリの数発で、あれは落ちんから、良かったというべきだな」

「意外に頑丈なんですね、ジェット機」

「基本的に防弾そのものは20ミリ砲の銃撃を想定してるから、12.7ミリや7.92ミリの銃撃くらいでは屁でもない。これがウチの20ミリなら大目玉を食らっているところさ」

基本的に当たりどころによるが、レシプロ機の機銃でもジェットに致命傷は与えられる。それはベトナム戦争や朝鮮戦争で証明されている。

「まあ、当たりどころ次第さ。日本側が旧式と嘲る99式20ミリでも、F-80くらいは落ちるしな」

「ああ、ゼロ戦の…」

「あれは私も使い勝手に文句は言ったが、黒江に言われて、考えを改めた。要は使い所なんだよ、どんな銃も」

「黒江さんの事、慕ってるんですか?」

「年齢差からすれば、そう見えるかもな。あいつとの付き合いも長くてな。昔に迷惑をかけた分、アイツの味方でいてやりたいだけさ」

坂本なりのけじめであった。智子もそうだが、黒江は純真な面が存在しており、前史の自分はそれに気づけなかったと後悔しており、坂本と智子はその償いという点で意気投合している。ラルは単にそれを見て楽しんでいるだけだが、御坂美琴の人格の覚醒で悪童度は下がっているので、好人物化している。

「ま、私も大変だがな」

「お前、覚醒したと言っても、学園都市には戻らんだろ?」

「お互いに別の存在として存在している以上はな。まぁ、干渉はしないつもりさ」

ラルはのび太の世界における御坂美琴とは別個体の生まれ変わりであるので、のび太の世界で平和に暮らす『その後の御坂美琴』とは共存できている。そのため、のび太の世界の御坂美琴には干渉せず、『グンドュラ・ラル』として生きると明言しつつ、美琴としての自分は否定しないポリシーを示す。

「能力は使うつもりだ。何せ、能力の使いどころがこれまで見つけられなくて困ってたんだ。コンピュータもない時代では、真価を発揮できんしな」

電気能力は人間発電所代わりにする以外の汎用性は20世紀後半以降のコンピュータ時代で初めて発揮できるため、その分野が黎明期の大戦期では使いどころがなさすぎるくらいのものである。攻撃用途は一定の応用性があるため、ラルは今回、能力でチートをすることでスコアを一定数稼いでいる。腰の負傷の問題がある時期からは多用している。(現在は治療で治癒した)美琴のそれを引き継いだため、雷撃の槍、超電磁砲、砂鉄の剣などは問題なく使用可であるが、坂本のつてでエレクトロファイヤーを覚えたため、最近はエレクトロファイヤーが主力である。電撃使いの都合上、若手〜中堅時代は『黒江綾香に次ぐ逸材』扱いもされた(黒江の得意攻撃が電撃であるため)と冗談めかして語る。

「中堅の頃までは閣下に次ぐ逸材とも言われた。電撃はウィッチでは希少だし、ペリーヌのトネールが羨望されるくらいだしな」

「フェイトちゃんも電撃ですけど?」

「あれとは比べられんさ。質が違うからな。ただ、プラズマザンバーブレイカーはこの世界の電撃使いが泣くレベルさ。笑えるのは、ペリーヌがプリキュアになると、鳳凰属性と炎属性なことだがな」

「綾香さんが鳳翼天翔撃てるんで、スカーレット、拗ねてますけどね」

「智子さんも撃てるぞ。二人共、フェニックス一輝と戦友で、その関係で会得してるからな。拗ねるのは仕方ない。鳳凰なら、何度でも蘇らないとな」

「そう言えば、プリキュア・フェニックス・ブレイズを鳳翼天翔で相殺した時、スカーレット、柄じゃない拗ねかたしたっけ」

「あいつらはノリがいいんだよ、若い頃から。プリキュア・フェニックス・ブレイズは炎の鳥が舞うが、あいつらも鳳翼天翔で同じような事はできるからな。しかも衝撃波を伴って」

ある日の模擬戦でスカーレットがプリキュア・フェニックス・ブレイズをお披露目した時、智子は鳳翼天翔で対抗し、火の鳥を火の鳥で相殺する芸当を見せたのだが、その際にスカーレットが現役中には想像だもできない拗ね方をしたのだ。智子がバックに鳳凰を背負ったインパクトもあり、スカーレットはペリーヌ成分の拗ね方をし、マーメイドが唖然としたという。

「あれくらいなら、私もシグナムから、ファルケンを習ったからできるんだが、言い出せなくてな…」

坂本は過去、シグナムからシュツルムファルケンを習い、Gウィッチ化した現在での秘奥義としている。そのため、スカーレットに言い出せなかったという。

「なんですか、それ…」

「ま、まぁ、その、なんだ…。昔にシグナムから習ったんだ。今では魔力に制限がないから、リバウの攻防戦で一回だけ撃った。それで私も伝説扱いさ」

坂本は現在では弓を覚え、シュツルムファルケンを秘奥義としているため、数年後に出会う同位体に驚かれる事になるのは言うまでもない。

「炎の鳥のバーゲンセールですね…」

「スカーレットには悪い気がするが、あいつもこれからは苦労する身だ。好きにさせるさ」

坂本の言う通り、ペリーヌとしては、今後、復興やアルジェリア戦争などに議員として向き合わなくてはならぬため、キュアスカーレットとしては好きにさせる方針らしい。もっとも、ペリーヌはアルジェリア戦争に『ペリーヌ・クロステルマン』としては参加せず、代わりにモードレッド/紅城トワとして『太平洋戦争』には参戦するつもりである。議会と戦線を行き交うのは彼女くらいだが、ペリーヌ・クロステルマンとしての姿はプロパガンダに使われるため、最近は紅城トワに主人格を渡している。ペリーヌは高飛車なところがあるが、トワは真の意味で高貴な振る舞いができるためだ。また、黒江の課す修行もこなしたいため、最近はスカーレットに変身している時間を伸ばしていっているとの事。

「ペリーヌちゃんとして、フランスの議会に出て、プロパガンダの兼ね合いで、時々、空中戦して、またある時はプリキュアかぁ。大変だなぁ、トワちゃん」

しかし、ペリーヌの献身でドゴーリストの横槍を防げているのも事実であり、後にガリア大統領にドゴールが就任しても、前職の『将軍』と呼び続けることが許される唯一のガリア人の地位を得る。

「あいつに伝えてくれ。私が黒江に頼んで、VF-19Fを調達したからと」

「ブレイザーバルキリーを自家用機ですか?」

「あれ、今、大安売り中なんだよ。軍の需要が最高グレード機になったから、一般部隊での需要が減ったんだそうでな」

19系統のバルキリーは太陽系連合艦隊(太陽系防衛艦隊)では最高グレードのエクスカリバーが求められているので、ブレイザーバルキリーは需要が減っている。使い道が微妙な上、スペック値もそれに並ぶ性能のVF-171(生産は縮小したが、マニュアル動作を受け付けるように調整された最終型が生まれた)の登場で価値が無くなったとされ、払下げが早期に行われた。黒江達が第一線で使っているのもA型の近代化改修機なので、ブレイザーバルキリーの需要が減っている表れであった。なのはもこの時期には、S型からA型の近代化改修機に乗り換えている。

「なんか贅沢だなぁ」

「まあ、今でも派生元のエクスカリバーは第一線機だし、29や25、31はフォールドクォーツの関係で従来のような大量生産はできんから、ブレイザーをあいつの自家用機に回したのさ。パーツはあるし」

「バルキリー、なんで自衛隊に旧式の1を?」

「ファントムが使えんからだ。熱核タービンは部外秘に指定させてある。21世紀の日本人は核アレルギーだからな」

「熱核タービンって、どう違うんです?」

「構造的には従来のターボファンのエネルギーをジェット燃料から反応物質に変えただけだ。新世代のバーストは手に負えないだろうから、自衛隊には使わせていないが。21世紀の戦闘機より小型だが、可変翼ってところで、アニメを見てない連中には、トムキャットのレプリカ扱いされてるよ。偶然だそうなんだがね。類似性は」

可変機構との兼ね合いなどで航空機形態がトムキャットに酷似したのは偶然の産物だが、可変翼は見栄えがいいため、自衛隊のオタク連中はすぐに正体を見抜き、見学者が後を絶えない。空自には緊急措置でVF-1EXが与えられ、使い勝手の良さと頑強さから、F-35を厄介がる声も出ている。F-35はステルス機だが、21世紀で墜落事故が起こったばかりであり、不時着にも耐える強度のVF-1と比して、当然ながら脆弱だからだ。だが、対外的に使う必要はあるので、配備が始められた機のうちの4機は実働状態であり、黒江も広報の撮影で搭乗姿を撮影されている。坂本は機動性がフォールドクォーツに頼らない在来テクノロジーでの到達点であるエクスカリバーを愛機にしているので、F-35を爆撃機同然にズブいと感じるとぼやく黒江に同情する。


「黒江に同情するよ。政治的都合で、35に乗らざるを得ないんだから。ライセンスは取ったというが、あの時代はファーストルック・ファースト・キルが第一だからな。爆撃機並の鈍さに感じるだろう」

通常戦闘機の第五世代機の中で、ドッグファイト能力は妥協したところがある機種がF-35であるため、ウィッチ世界では多用途という点はあまり評価されていない。レシプロ機とも乱戦になるため、F-22のほうが評価されているのである。アメリカが貴重なF-22を投入し、制空戦闘での真価を発揮させている中、F-35は数が多いながら、機動力はそこそこであり、熟練ウィッチであれば、オーバーシュートした瞬間に一撃を与えうるとされ、多用途性は第四世代機で充分と連合軍上層部の判断もあり、評価はあまり良くない。黒江と赤松、シャーリーは『要は使いようだよ。今は乱戦だから、評価されないだけだ』とし、それなりに使えるとしているが、墜落事故の影響もあり、支給先の部隊がピリピリしているのだ。実際、F-35自体の運動性は第四世代機に見劣りしない必要十分なもので、ファントムよりは遥かに小回りがきく。後世の技術で作られているVFに劣るのは当然だが、21世紀の水準では一線級のポテンシャルはあるのだ。

「機動性自体はいいが、反応速度が遅いらしい。まぁ、エクスカリバーに比べれば、コスモタイガーとゼロ以外はズブいってなるぞ、坂本」

加減速性能は最悪であるのもあり、F-35は配備先の部隊から厄介者扱いであった。Gフォースでもそうであった。これはレシプロ機ともドッグファイトを行う必要がある戦場という特殊性によるものだが、F8FやF2Gといった時代の徒花と揶揄されたレシプロ機がジェット機に一矢を報いる場面も多く、再評価に繋がるという面もある。F8Fは熟練者が乗れば、当時のレシプロ機最高水準の機動性を以てして、紫電改と烈風すら撃墜する。グラマン社の夢見た光景が現実になったのだ。ただし、熟練パイロットの駆る零式二二型には及ばずに撃墜されているので、機動力そのものは零式二二型よりは落ちるとの事。一連の空戦で示された事は『低速/低高度での機動性で日本機の右に出る者無し』、『ベアキャット侮りがたし』、『シコルスキー、恐れるに足らず』である。シコルスキーとは、コルセア系のことで、義勇兵達の間では『シコルスキー』で通じる。

「そうだなぁ。しかし、今度の連合軍の広報にコラム書き下ろすんだが、空戦の様子でも記すか?」

「義勇兵との融和を考えた文章にしとけ。若い連中は連中を怖がってるからな」

「連中はなんで、コルセアをシコルスキーと呼ぶ?」

「うーむ。それについては閣下に聞け。だが、新型グラマンは手強いぞ。」

「ストライカーについていく上、旋回率が上らしいからな。ベアは侮りがたい敵だ。少数で良かったよ」

航続距離の問題で、新鋭機のF8Fは少数しか出回っていないが、紫電改と烈風を撚るという。扶桑は暫定的な対抗手段として、陣風を用意したが、少なくとも紫電改をあらゆる面で上回ると見られていたベアキャットは脅威扱いだが、コルセアについては『恐れるに足らず』の評価であった。これは実戦でも同じで、ドッグファイトに対応できるベアキャットのほうが第一線のパイロットたちに脅威と見られていた証として、ノースロップ・グラマンの溜飲を下げたという。ただし、ダイブで紫電改に対して優位を見せる事があるコルセアのことを開発者側は脅威とし、紫電改のモデルチェンジたる陣風を完成させた。陣風はまさにレシプロの究極であり、紫電改をそのまま強化した特性から、究極の日本海軍系戦闘機とされた。その機動性も紫電改をあらゆる面で凌駕しており、烈風を抑え、暫定的に主力艦戦とされた。これはジェットの普及にあたり、その機種が定まらない問題があったためで、ラインの安定まで、紫電改のラインをある程度は流用できる陣風が暫定的に主力艦戦の座についた。エンジンは3000馬力にパワーアップし、動翼の拡大も施され、機銃は甲型で25ミリ砲六門、乙型で30ミリ砲四門の重武装である。エアレース機の技術でパワーアップが施された結果、無いかと思われた紫電改に伸びしろを与え、燃費改善もあり、実質は別機に等しいため、陣風の名を継いだのである。

「陣風だが、史実だと、モックアップの段階で中止ではなかったか?」

「ああ。だが、ここでは紫電改のモデルチェンジとして生まれた。烈風を抑えて主力になったのは、紫電系の鋭いロールが引き継がれていたからさ」

「戦中の流れをくむレシプロ機はこれで打ち止めか?」

「ああ、一応はな。レシプロ戦闘機は陣風で性能限界に達したからな」

「配備はどうなんだ?」

「消耗した艦上機部隊から優先して配備だそうだ。陸上仕様の30ミリ砲に不具合が見つかってな、当面は甲型のみが配備される」

「よくあるな、そういう事は」

「おまけに単座で電探付きだから、義勇兵の連中に扱いかたを仕込む必要もあると来てるからな。F-86と平行して生産とのことらしい」

「F-86か。F型か?」

「暫定的にな。フューリーと同型にしたいそうだが、インテグラルタンクが財務省を納得させられんみたいでな」

「ワンショットライターのことか」

「そうだ」


扶桑は艦上機としてFJ-4を採用したかったが、日本側は表向きは性能に拘り、(F-4EJ改の艦上機化までの繋ぎ的意味で)F-8を推した。しかし、F-8は当時の水準では大型機であり、新空母でなければ、効果的運用が難しいという意見もあり、この提案は採用される。ただし、原型通りではなく、幾分の改良が施されての採用であった。

「翼が燃料タンクなのが財務省に理解してもらえんそうだ。一式陸攻の悲劇だのいうが、翼に被弾することは滅多にないんだがなぁ」

「乱戦ではありえるからかもしれんが、日本は神経質だ。時速700キロを意識しすぎている」

ラルも苦笑いだが、空戦では常に時速700キロで戦うわけではない。ジェット機の時代でもない限りは。レシプロが主力の時代は400キロから500キロで旋回戦を行っていた。それと。

「F-15も主翼にタンクあるんだがなぁ。戦闘機は戦闘行動半径で駆け引きをするものだが、グンドュラ、お前らの国と違って、日本は1400キロあっても文句出るからな」

「嘘だろ」

「日本は縦に長いからな。それは仕方がない。そうだ、思い出したが、黒江のやつ、ある程度のサイコキネシスとか扱える様になったらしい」

「何?」

「ああ。なんでも、牡羊座になる可能性もあったから、修行は積んでいるらしくてな。サイキックウェーブは撃てるとか?」

「極めるなぁ」

「あいつは昔からそういうやつだからな」

「いや、牡羊座は真美だよ」

「なにィ!?どういうことだ、黒田!」

「あたしが訓練して、覚醒めさせた。ムウ亡き後の繋ぎで登板させるよ」

「なんだそれ」

「リリーフだよ」

牡羊座は前任者のムウが戦死し、黄鬼も幼齢である事から、板垣真美が適性を認められ、繋ぎで登板することになったと説明する黒田。既に闘技も伝承し終えており、聖衣も継承済みであるとのことである。(無論、修復術も)ムウが死亡した後は空位であったが、生き返ったシオンの判断もあり、真美を当座の牡羊座としての任につけるとされた。かなりアバウトである。

「先輩曰く、真実の固有魔法が重量軽減系の怪力だったから、遠隔で発動できるかやらせてみたら出来ちまったそうで、訓練させて聖闘士に仕上げた。前教皇の判断もあって、採用された。聖闘士は五人いることになるよ」

「えーと、大先輩とお前だろ、黒江だろ、黒江の弟子の月詠だろ、真美…。黄金と白銀だぞ、おい」

「ま、階級は目安だよ。ジャイアントキリングも珍しくない業界だしね」

黒田は現役の黄金聖闘士であるため、説得力のある台詞である。聖闘士は内紛が双子座や教皇の野心で起こされることが多く、下級聖闘士でもジャイアントキリングが求められるからで、そこが聖域の頭痛の種である。

「先輩はのぞみにパワーゲイザー覚えさせたからね。けっこう遊んでるよ」

「そういえば、メロディは不知火流忍法が普通に使えるって言ってたっけ」

「……チートだな」

「ただ、プリキュアの姿で、忍術を使うのは悩むとか言ってましたよ。あれ、忍法のコスチュームが普通に良い子向けじゃないし」

ピーチの口から、シャーリーは不知火流忍法を普通に会得済みであり、コスチュームも用意したらしいが、刺激が強すぎるとの事らしい。ただし、忍術を会得したため、キュアメロディとしての生前より強くなっているのは確実であろう。

「…ボインつながりか?」

「お前の口から、そんな単語が出るとはな」

「昔のミーナの前では言えんよ、こんな単語」

「確かに」

坂本、黒田、ラルの三者は顔を見合わせて苦笑いする。メロディ(シャーリー)自身も苦笑いだろうが、とにかく不知火流忍術は使える状態にあることが、ここで隊の中枢部にまで伝達された。キュアピーチはドリームの相方として重宝されている。彼女が美翔舞/キュアイーグレットから力を継承した関係もあるが、のぞみにとってのりんのように、彼女はキュアパッションこと、東せつなのことが気になっているのである。そのため、数年後のデザリアム戦役で、のぞみがりんのことで取り乱す時、一定範囲の抑え役を担う事になるのだ。

「君の報告書はミーナに回しておく。報告、ご苦労」

「わかりました、ありがとうございます」

軍隊式の挨拶も板についてきたキュアピーチ。変身した姿でいるが、式典の時は軍服を着なくてはならないのか。そこはまだ決まっておらず、気になるピーチ/ラブであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.