外伝その401『図上演習と戦闘13』


――カールスラントはドイツと連合を組んだが、カールスラントの軍備の縮小を強引にドイツが進め始めた結果、折角の大作戦に部隊規模で参加できたカールスラント部隊はごく少数であった。44戦闘団が部隊ごと予備役になり、人員と機材が日本連邦の管理下に置かれ、浮いた費用を軍縮に充てた結果、カールスラントの政情不安を煽ってしまった。ダイ・アナザー・デイでの主役は完全に日本連邦であり、大戦の労苦で得た軍事的主導権をカールスラントは明らかに手放していた。カールスラントが本土奪還のために蓄えていた軍備をドイツが縮小させたので、軍のモチベーションが失われたのだ。これに慌てたドイツは、レーヴェ戦車の生産に技術援助を行ったり、戦後型小銃などを生産させていくが、焼け石に水であった。連合軍はカールスラントの衰退に伴い、日本連邦に超大国としての責務を求めるようになる。日本はこれ幸いと、自分たちの持つ限りの先端技術を扶桑に与えまくったため、ダイ・アナザー・デイ作戦中には早くも『F-104J』、『F-8』の生産が準備段階に入っている。F-104の扶桑での邀撃機/制空戦闘機としての採用と生産には外国などから異論も出たが、日本に運用ノウハウの記録があるため、事故が頻発し、『未亡人製造機』と渾名されていた原因を作った欧州諸国よりも日本のほうが同機の本来の運用想定を『理解していた』と言えた――







――カールスラント技術陣は一気にモチベーションを失った。軍縮で需要が減る事が容易に予測された事、自分達が開発している『me262』の第二世代型である『HG3』(速度は遷音速を予定されていた)をすら超越する速度を誇るF-104が彗星のごとく現れ、『戦中水準の技術で設計されたHG3』を量産する意義が開発中に失われたからだ。ドイツが同機の開発に冷淡であった事もあり、プロジェクトは『凍結』された。シュワルベ系は重戦に分類される武装を誇っていたが、F-104には空対空ミサイルがあるという利点があり、それも含めての性能差があった。(数発しか積めないが、日本連邦にとっては邀撃機用途が主なので、これで良かった)もちろん、カールスラントは『世界初』とされる空対空ミサイル『ルールシュタール X-4』のジェット機とジェットストライカーへの搭載研究を行っていたが、当時の技術水準に起因する限界、名だたるエースパイロットらによる搭載実験への反対論もあり、折角の試作品が使用されずに埃を被る羽目に陥った。ところが、日本連邦が当時から見ての『次世代』技術を以てして、『サイドワインダー』、『AMRAAM』、『04式空対空誘導弾』などを持ち込み、時空管理局、地球連邦軍との共同で魔導技術も加え、サイズをストライカー用に縮小したダウンサイジング版の『魔導誘導弾』が必要性から、信じられないほど短時間で開発され、実地試験名目で64Fに配備されると、その状況は一変した。64Fはメンバーの子孫達が持ち込んだ誘導弾の補充が兎も角も叶った格好になり、さっそく実戦デビューを飾っていた――



「大先輩、F-15を使うとは」

「この世代ならば、今の時代のどの機種よりも行動自由度が高いからな。巡航形態もあるからのぉ」

赤松は海軍出身ながら、F-15ストライカーを好む。これは同世代機のF-14が初期型で顕著であったが、『F-4Eよりマシだが、F-15に比べて格闘に不向きである』とする欠点を持っていたからで、後輩の坂本が二代目レイブンズの時代から持ち込まれた最終型『F-14D』を使用したのと対照的であった。

「坂本、お前はB公にフェニックスを撃つことを考えておれば良い。護衛機とパラサイトウィッチは儂が殺る」

「ハッ」

赤松は簡単な作戦を伝え、64F基地を空襲せんとしたリベリオンの戦略航空軍団の一部隊を二人で邀撃した。二人にはGフォースのセイバーフィッシュ隊が護衛として随伴している。二人が邀撃する相手である、当時のリベリオン本国軍の主力は当時、総合的に世界最高峰と謳っていた『B-29 スーパーフォートレス』であるが、日本連邦の迎撃網が綿密・高度化する事で損害が増加。そこで、爆撃隊の最後尾にウィッチを積載し、戦闘空域で展開させる『パラサイトウィッチ』母機を控えさせる方向で爆撃隊の安全確保を行い始めており、ダイ・アナザー・デイが三週目を迎えた頃には普及していた。日本連邦側もスタンドオフ兵器の大量投入でB-29を叩き落す方法をとり始め、パラサイトウィッチは最初はこのように『ミサイルから爆撃隊を守るため』に使われるが、ウィッチには空中給油は有効ではない(第三世代ストライカーは別だが)事が続くのもあり、ウィッチ兵の戦域への輸送手段として、ウィッチに反対させないで、合法的に戦略爆撃機を調達する大義名分として、長く重宝される。時代が変わり、数世代先の理論でウィッチへの空中給油技術が生まれた後も慣例的に続けられるのである。

「B公には悪いが…」

坂本は戦闘形態に変形させたF-14DのフェニックスをB29に使うことに若干の後ろめたさを覗かせるが、史実で日本帝国を破滅に追い込んだ元凶である超重爆撃機相手に手心を加える必要はないと割りきり、自身が携行しているフェニックスミサイルを発射する。坂本も既にジェット時代の軍事関連の航空無線コードは知っているが、戦場で発することは、公的に空中勤務者であった時期には数える程度であった。これは坂本が昔気質のウィッチであると同時に、『近代兵士とは一線を画する武人』でありたいとする個人的願望が理由だった。そこも坂本が二代目レイブンズの時代に『最後の武士』の渾名で知られる理由だろう。

「先輩、護衛は任せます!」


坂本が先頭のB-29を仕留めたのを合図に、護衛戦闘機が現れ、パラサイトウィッチ(機種はP-51C)が放出される。


「各機、護衛戦闘機はたかがF-84だ!お前らの機体は一年戦争で名を馳せた名機だ!いくら作られた時代が違おうと、基本は変わらん。血祭りにあげてやれぃ!」

Gフォースに臨時で配備されたセイバーフィッシュ。黒江が緊急で調達した中古機だが、一年戦争で名を馳せた名機であるので、たかが草創期のジェットであるサンダージェット程度は敵ではない。お互いの性能差がモロに示され、サンダージェットは機敏なセイバーフィッシュの動きに追従すら出来ず、セイバーフィッシュ隊の23世紀型25ミリパルスレーザー(近代化で搭載)の前に落ちていく。また、当時はジェットの草創期であるため、自衛隊の熟練パイロットと、転向間もない素人パイロットにすぎないリベリオン兵とでは話にもならない。


『リーダー、これではクレー射撃の的ですよ』

『サンダージェットなどはセイバーよりも古い機体だ。この機体からすれば、中学生が欲しがるようなホビー品と本物ほどの差があるのだろうな』

草創期の機体としては悪くないはずのサンダージェットだが、実のところ、リベリオン内部でも『サンダーストリークまでの繋ぎ』扱いの機体という扱いの型落ち機であった。直線翼ジェットは後退翼ジェットまでの過渡的な、ものという位置づけなのだろうが、セイバーフィッシュからすれば、同情するほど落としやすい敵でしかない。

『各機、あまり手間取るなよ。それと侮るなよ。朝鮮戦争では新鋭機と言えど、落とされる時は落とされる事があったからな』

『わかってますよ。統括官がせっかく与えてくださった23世紀のジェットなんですから、あんな骨董品の何を恐れろっていうんですか』

若い自信家のパイロットが軽口を叩く。元は航空自衛隊第302飛行隊の35への機種変更通達の寸前に配属されたパイロットで、F-4EJの経験は僅かしかない若手である。そのため、2019年時点で老朽化しているF-4よりもF-2やF-35に乗りたいと言うなど、黒江も責任者として、動向を注視している問題児である。

『さて、こんなすげえ機体に乗れたんだ。日本に戻った後に35に乗れたとしても、古めかしく感じるぜ』

『骨董品だろうが、同じ空気の中を飛んでるし、銃弾は何世紀経とうが、大して変わらん、17世紀の火縄銃だって23世紀の人間を撃ち殺せるのと同じ、油断は禁物だ、バカモンめ!』

『わかっておりますよ、リーダー』

セイバーフィッシュ隊のパイロットは基本的に黒江が統括官権限で派遣させた302飛行隊から選ばれた。Gフォースに組み込まれたパイロットは他に302、303などからも推薦され、配属されている。第301飛行隊も組み込まれており、募集が公募された時は黒江と面識のある者が黒江に掛け合って配属を決めてもらうなどしている。Gフォース航空隊の中枢となったのは元はF-4の部隊だった部隊である。扶桑の要請という形で個別に派遣され、黒江が現地で糾合し、一つの部隊として運用している。他の部隊からの推薦枠も設けられているため、現在進行形で志願者は多く、圭子が書類上は募集担当者だが、多忙なので、実際の業務は黒田が担当となっている。組織として円熟した航空自衛隊の腕前を旧軍航空関係者に見せる絶好の好機なためか、黒江と面識のあるベテランが選ばれる傾向があるが、公平を期すため、若手にも門戸は開いており、彼はそのクチである。護衛戦闘機の掃討そのものは簡単なもので、ものの五分で護衛戦闘機は壊滅した。

『……スプラッシュ!赤松大尉、護衛戦闘機はいません、ウィッチは任せます』

『了解だ。伊達に白銀聖闘士はしとらん。もんでやるわい』

護衛戦闘機は彼ら自衛隊の活躍で、あっという間に壊滅した。セイバーフィッシュの近代化型という23世紀時点の現用機と草創期のジェットという差はあったものの、パイロットの腕の差が一番の勝因である。赤松は坂本に爆撃機を任し、自分はパラサイトウィッチを迎え撃った。

「ほう。17、8くらいの連中を載せたか。まぁ、そのくらいでないと張り合いがないが」

「アカマツ・サダコ。貴方ほどの古株がまだ現役とは」

「ふん。亡命で人材不足になっても、シャーマンの動員をせん時代遅れの考えの上層部を持つ者には言われたかぁないわ」

リベリオン本国側も教導部隊にいたウィッチを前線に動員していたのか、赤松の武勇を知っていた。若手では萎縮(扶桑はそうなって問題になった)し、戦闘参加をボイコットしかねないため、残された貴重なベテランを動員したのだろう。

「本格的軍隊じゃ十九、二十歳はヒヨっ子じゃ!骨身に染みとるからの、未来の軍隊でな!ん、そんな装備を持っとるのか?」

「ユニットを破壊された時のためのパラシュートですよ。空中で被弾で脱落すれば、死にますからね」

「難儀なもんじゃ」

「誰しも、セブン・サムライのようにはなれませんよ」

リベリオンでは、7人のサムライという事で『セブン・サムライ』という風に伝聞されていたようである。あれだけの伝説をミーナが知らなかったのは何故だと、バルクホルンが不思議がったが、伝聞で尾ヒレがついたのと、各国で個別に渾名がつけられたからだろうと、ガランドは呆れていたという。

「成れる成れない言っとるならそれまで、成れようが成れまいが、目指す気概が無いならばそれまでよ!」

赤松は九字護身法の印を取る。同時にオーラパワーのオーラが覆う。ややあって、湧き上がる気のオーラが赤松の右腕に一点集中し、黄金の輝きを発する。

『ゴッドハンド!!』

赤松の繰り出したゴッドハンドは装甲越しとは言え、魔力が通って強化されていたサバイバルナイフの刀身をへし折り、音速を超越した速度で当てられた。黄金聖闘士に匹敵する実力で鳴らす赤松のゴッドハンドの威力は素の能力差もあり、黒江を超える威力である。

「……!?」

「悪いのぉ。儂とて、老いぼれと言われんように鍛えておるのだ。誰しも鍛えれば、鍛えるほど、無限の可能性があるのだ」

ゴッドハンド。かつて、光戦隊マスクマンのレッドマスクが誇った最強の個人技である。黒江と赤松は既に習得している。隠れ特撮オタクのキュアピーチもレッドマスクに助けられてから、習得を目指している。なお、意外にも、実戦で使用した初のプリキュアは本人たちではなく、キュアドリームの姿になっている時の黒江であったという。オーラパワーの発現と九字護身法の印の特訓に手間取ったのが理由だ。パンチの練度は低めの黒江でも、その威力は本人たちのコラボレーションパンチを超えており、光戦隊マスクマンの名を辱めないだけの威力であると証明してみせた。

「さて、次の相手はどいつじゃ?次々とかかってこんか」

赤松は敢えて挑発する。更に背後に孔雀のオーラを敢えて見せて。赤松は女性聖闘士最強の者が代々継ぐとされる、孔雀座の聖闘士である。その派生世界で孔雀座の前任者が戦死し、空位であったものを継いだのだが、黄金聖闘士級の実力を持つため、黄金聖闘士への推薦もあったが、星矢たち用の枠が用意されている都合もあり、孔雀座を継いだ。

「かかってこんなら、まとめて流れ星にしてくれん!絢翼天舞翔――ッ!!」

孔雀の形の炎が衝撃波を伴って放たれる。鳳翼天翔と同系統の技だ。B-29と言えど、衝撃波でへし折れるほどのソニックブームが炎を纏うため、ウィッチは何人かが衝撃波をまともに受けて戦死する。

「なんだ、今のは…!?爆撃機がへし折れただと…!?」

「今のは小手調べじゃい。じゃが、笑止千万な事に、何人かはミンチになったようじゃな」

恒常的に極超音速が出せる上、全力で撃てば黄金聖闘士レベルの赤松の技は戦術単位ではオーバーキルもいいところであった。シールドで致命傷を避けた者もいれば、まともに食らって、眼球が飛び出るほどの凄惨な様相で即死した者もいた。また、当時の標準装備のM2重機関銃では、F-15のシールドを撃ち抜く事はできないのもあり、リベリオン側に勝ち目はない。更に赤松であるため、そもそも、オーラパワーと小宇宙の防壁効果もあり、当時の標準的な能力のウィッチの銃弾では、攻撃が届く前に弾かれるが。

「!?」

赤松に放たれた銃弾は赤松に届く前に弾かれ、フリーガーハマーのロケットは何かにぶつかるように赤松の近くに達しただけで爆発したり、ロケット自体が弾かれていく。

「隊長、武器が、武器が通じない!」

「バケモノが!」

「ほれ、お返しじゃ」

全弾発射のフリーガーハマーを回避しながら、両手で二〜三発ずつつまんで投げ返す。フリーガーハマーには近接信管が組み込まれているはずだが、赤松は近接信管すら作動させないでつまんでみせた。フリーガーハマーは投げ返されたウィッチのほうが直撃で吹き飛んだり、まだ発射されてない発射口にロケットを突き入れるという鬼畜な戦法で爆殺する。


「さあて、お前らには悪いが、やはり、真に流れ星になって故郷に帰ってもらおう。ライトニングフレイム!!」

その瞬間、ウィッチ達は目の前に光が広がることしか理解できなかった。次の瞬間には肉体が消え失せていたのだから。アーク放電のライトニングプラズマを食らって。B29もこれで多くが破壊されていく。まともな空戦どころではない。蹂躙だ。

「別の世界で皇土を焼いた貴様らには似合いの最後じゃ。せいぜい、閻魔さまに言い訳でも考えるのだな」

逃走するパラサイトウィッチの母機は見逃しつつ、爆撃機自体は坂本に狩らせる。爆撃機はフェニックスミサイルという銛に突き刺され、瞬く間に全滅する。ミサイルを銛に見立てて撃つ戦法は坂本らしい。

「シロナガスでも狩る気分ですよ」

「奴らは鯨のように大きいからのぉ。儂らはシャチかサメと思え」

扶桑全軍ではこの頃、B29の巨体を指して鯨と形容し、邀撃を捕鯨に例えるジョークが浸透し始めていた。元々は捕鯨をする漁師の出のウィッチが超大型怪異を狩る時に鯨に例えたのがきっかけで生まれたものだ。それが超重爆との戦いが起こるにつれ、あるウィッチが『私らは鰯だな、こりゃ…』と嘆息し、それを聞いた士官が『弱気になるな。連中が鯨なら、自分は鯱か鮫と思え』と返したという話が広まった事で浸透した認識とジョークだ。海軍の邀撃専門の局地戦闘機部隊が出処と思われるが、赤松もそれがいつ頃からあるのかは把握していないという。ただ、45年には新人でも知っている逸話なので、赤松は『月光が使われていた時期からだと思う』と言っており、黒江も大笑いしている。余談だが、扶桑の局地戦闘機部隊は月光から雷電に代わった後は紫電シリーズが対戦闘機用に使われ、F-104Jとドラケンにまとめて機種変更の予定である。扶桑での『宮菱鉛筆』との渾名が生まれるのも局地戦闘機を代々使う飛行隊が優先して使用したからである。急上昇しているF-104が当時の国民からは鉛筆のように見えたからとのことである。なお、テスト機は前線で自衛隊出身義勇兵らの手で飛ばされていて、前線では早くも広まっていたりする。また、数年後にハルトマンが自分の権限で同機の採用後のカールスラントでの運用用途を邀撃に限定させるように根回ししたのは、同機を採用したラルやガランドへの反発と、前史で死んだ教え子らのためであるが、それはこの場では語れない。

「坂本、鯨は狩ったな?帰投する」

「はい。お…あれは、義勇兵のマルヨンですな」

「あとで報道班に写真を取らせておけ。日本もあれなら、うるさく甲戦削減をいわなくなるじゃろう」

日本はB29を封殺する事に血道を上げているが、前線が求めているのは制空戦闘機である。義勇兵の内、空自出身者が担当しているジェット機の実戦は、扶桑が日本の背広組と世論を黙らせるための武器であり、F-104の事は防衛省が一番良く知っているはずだ。邀撃用途が主だが、熟練の義勇兵は空対空戦闘もこなすので、却って、本来の用途が啓蒙されていいと、ロッキード・マーティンは大喜びだったという。しかし、ハルトマンが前史で教え子を多く失ったことで、マルヨンの事にだけは反発を顕にし、ラルとガランドも手を焼くことになるのは、ドイツにとっては、ある種の皮肉な光景であったという。窮したラルが本気で日本連邦を頼り、同機が設計用途通りの使用なら、F-15とも渡り合える可能性があると教えられ、ハルトマンはようやく、振り上げた拳を下ろせたという。ラルもこの時ばかりは顔面蒼白で黒江に本気で泣きつき、黒江は熱り立つハルトマンを宥め、わざわざ自分が操縦して、カールスラント高官の前で空自流運用を見せるなどし、二人を仲直りさせたのであった。ハルトマンとラルが衝突したのはこの時だけであり、ハルトマンが公然とラルを『馬鹿野郎』と罵ったのも、この時だけだ。教え子の事を思い出し、前史で不興を買い、僻地に左遷されたことでの怒りをぶつけてしまったのだが、ラル側もあまりの衝撃に目の焦点が合わないほどに動揺し、黒江に泣きついたため、ハルトマンも悪いのである。黒江も、自分がハルトマンを叱責する流れになったのには信じられない思いであったが、ハルトマンも前史で殉職した教え子の無念を晴らしたい思いからの行動であったと必死に弁解する事になり、黒江も流石に自分一人では解決出来ないとし、最終的にY委員会委員長の山本五十六の裁可を仰いだという。山本は『感情的になるな、言い分を通したい時はな、と伝えたまえ』と助言し、自らハルトマンのもとを訪れ、慰めた上で、年の功で彼女を諭した。山本の作戦勝ちである。それ以後、山本はハルトマンの尊敬を得、『山本のおじちゃん』と呼ばれたという。



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